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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1267735
審判番号 不服2012-2979  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-15 
確定日 2012-12-19 
事件の表示 特願2007- 31228「ゴルフクラブヘッド及びゴルフクラブヘッドの設計方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月17日出願公開、特開2008-161658〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成19年2月9日(パリ条約による優先権主張:2007年1月4日、米国)に出願したものであって、平成22年1月19日付けで手続補正書が提出され、平成23年9月15日付けの拒絶理由通知に対して、同年11月16日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年2月15日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成23年11月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「フェース面に複数の溝が形成されたゴルフクラブヘッドにおいて、
前記溝が、一対の側面と、底面とを有し、
前記溝の前記一対の側面が、それぞれ、
前記フェース面と連続する第1の面と、
前記溝の深さ方向に前記第1の面と連続する第2の面と、を有し、
前記一対の側面の各々の前記第1の面がなす第1角度が、前記一対の側面の各々の前記第2の面がなす第2角度よりも大きく、
前記溝の縁に丸みが形成され、
前記丸みを含めて測定した場合の前記溝の幅W(mm)、隣接する前記溝間の幅Ws(mm)、30度測定法により測定した場合の前記溝の幅Wr(mm)、及び、前記溝の断面積S(mm^(2))が、
W/Ws×100≧40(%)、
S/(Wr×0.5)×100≧70(%)
であり、
前記第2角度が15度以上26度以下であることを特徴とするゴルフクラブヘッド。」

3 引用刊行物とそれに記載された事項及び発明
原審の拒絶査定において引用され、本願の優先権主張日前に頒布された特開2002-224250号公報(以下「引用文献」という。)には、図面(特に図6参照)と共に、次の事項が記載されている。
以下、下線は審決において付すものである。
ア 【要約】の【課題】の項
「【課題】ゴルフボールに強力なスピンを与えるゴルフクラブを提供する。また、ゴルフボールへのダメージを低減させる。」
イ 段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本願発明は、アイアン、ドライバー、ウッド及びウェッジ等のゴルフクラブのクラブフェースに提供される溝及び溝形状に関する。本願発明は米国特許願第09/567498号及び米国仮特許願第60/258444号の継続出願に相当するものである。」
ウ 段落【0004】
「バックスピンを提供するためにゴルフクラブフェースには複数の溝が刻まれている。これらの溝はボールとのインパクト時にボールをグリップし、ボールにバックスピンがかけられる。一般的に最もポピュラーな溝形状はV形と方形のものである。これら通常の形状はバックスピンを提供するが、さらに大きな程度のボールコントロールを提供するゴルフフェースが望まれている。」
エ 段落【0009】
「【発明の実施の形態】以下の説明はウェッジに関するものであるが、その特徴はアイアン、ドライバー及びウッドを含んだ全てのゴルフクラブに適用できる。本願発明の溝デザインはクラブデザインに起因するボールへのダメージが少なく、ゴルフボールの使用寿命を引き延ばすことができる。このデザインはスピンを増加させ、ゴルフボールへのダメージを減少させる。ゴルフボールの製造業者はゴルフボールの寿命を延ばす手段を常に求めてきたが、ゴルフボールにダメージを与える主たる要因であるクラブフェース、特に溝のデザインには充分に注目してこなかった。」
オ 段落【0010】1?4行
「ゴルフクラブによるゴルフボールへのダメージを防止する1手段はクラブの性能を高めると同時に、ゴルフボールを打球する溝の角度をゴルフボールに対して減少させることである。」
カ 段落【0025】
「図6はY型スリット溝である本願発明の別実施例による“C”型溝を図示する。このY型スリット溝形状は少なくとも1つのY型スリットあるいは一連のY型スリットで提供され、それぞれ3面である第1面17、第3面19及び第2面21を有している。第1面17と第2面21はそれぞれ第1面取縁部66と第2面取縁部68を介してクラブフェース16に連結される。第1面17と第2面21は互いに平行であり、クラブフェース16に垂直である。第3面19は第1面17と第2面21との間に提供される。第3面19はクラブフェース16に平行であっても、非平行でも構わない。」
キ 段落【0026】
「第1面取縁部66が第1面17に連結し、第2面取縁部68が第2面21に連結する箇所はゴルフボールにバックスピンをかける効果的なグリップエッジであり、クラブフェース16から計って0.005から0.015インチ、好適には0.00625から0.1375インチ、さらに好適には0.0075から0.0125インチ離れている。さらに好適にはクラブフェース16から計って0.00875から0.01125インチ離れている。最も効果的にはクラブフェース16から約0.01インチのところである。」
ク 段落【0027】
「第1面17、第3面19及び第2面21はY型スリットの方形部を提供する。この方形部の幅は約0.01から0.026インチであり、好適には約0.018インチである。Y型スリットのクラブフェース16での幅は0.015から0.055インチであり、好適には0.035インチである。」
ケ 段落【0028】
「各溝のクラブフェース16からの最大深度は0.01から0.03インチであり、好適には0.02インチである。溝の形状の例示的決定方法は、第1面取縁部66が第1面17と連結し、第2面取縁部68が第2面21と連結する箇所の溝深度に対するパーセントを決定することである。この溝は理想的には深度の40%から70%であり、好適には45%から55%であり、さらに好適には50%である。この形状は通常の技術で提供できる。さらに、この溝は単独であっても、本願発明の他の溝や従来の溝と組み合わせて利用することもできる。」

上記記載事項等からみて、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認められる。
「ゴルフクラブのクラブフェースに提供される溝及び溝形状に関し、
ゴルフボールへのダメージを低減させるために溝の角度をゴルフボールに対して減少させ、ゴルフボールに強力なスピンを与える複数の溝がゴルフクラブフェースに刻まれる、ゴルフクラブであって、
前記溝は、第1面、第3面及び第2面を有するY型スリット溝形状であり、第1面と第2面はそれぞれ第1面取縁部と第2面取縁部を介してクラブフェースに連結され、第1面と第2面は互いに平行でクラブフェースに垂直であり、第3面は第1面と第2面との間に提供され、クラブフェースに平行であり、第1面、第3面及び第2面は、Y型スリットの方形部を提供し、
溝の形状は、第1面取縁部が第1面と連結し、第2面取縁部が第2面と連結する箇所の溝深度に対するパーセントにより決定され、好的には溝の深度の50%であり、
上記のようなデザインの溝により、スピンを増加させ、ゴルフボールへのダメージを減少させる、ゴルフクラブ。」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「クラブフェース」、「第3面」は、本願発明の「フェース面」、「底面」に、それぞれ相当する。
b 引用発明の「第1面取縁部」、「第2面取縁部」は、クラブフェースと第1面、第2面との間にあって両者を連結しているから、本願発明の「第1の面」に相当し、又、引用発明の「第1面」、「第2面」は、本願発明の「第2の面」に相当する。
なお、この点は、本願発明の第1の面と第2の面との連結点が溝の深さ方向の略中間位置(本願の図2等参照)にあり、他方、引用発明の第1、2面取部と第1、2面との連結点が、溝の深度の好的に50%の位置にあることからみても、首肯できる。
c 引用発明の「第1面取り部」と「第1面」、「第2面取り部」と「第2面」が、溝の「一対の側面」を構成していることはいうまでもない。
d 引用発明の、側面を構成する「第1面」、「第2面」のなす角度は、本願発明の「第2角度」に相当し、同様に、側面を構成する「第1面取り部」、「第2面取り部」のなす角度は、本願発明の「第1角度」に相当する。
そして、引用発明において、「第1面」、「第2面」は「クラブフェースに垂直」、即ち、「第1面」、「第2面」のなす角度(第2角度)は0度であるから、「第1面取り部」、「第2面取り部」のなす角度(第1角度)が、「第1面」、「第2面」のなす角度(第2角度)より大きいことはいうまでもない。
e 引用発明の「ゴルフクラブ」がゴルフクラブヘッドを有することは明らかであるから、「ゴルフクラブヘッド」ということができる。

以上の認定から、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する一方、次の点で相違している。
《一致点》
「フェース面に複数の溝が形成されたゴルフクラブヘッドにおいて、
前記溝が、一対の側面と、底面とを有し、
前記溝の前記一対の側面が、それぞれ、
前記フェース面と連続する第1の面と、
前記溝の深さ方向に前記第1の面と連続する第2の面と、を有し、
前記一対の側面の各々の前記第1の面がなす第1角度が、前記一対の側面の各々の前記第2の面がなす第2角度よりも大きい、
ゴルフクラブヘッド。」
《相違点1》
本願発明では、「溝の縁に丸みが形成され」ているのに対して、引用発明では、溝の縁に丸みが形成されているか否か定かでない点。
《相違点2》
本願発明では、「前記丸みを含めて測定した場合の前記溝の幅W(mm)、隣接する前記溝間の幅Ws(mm)、30度測定法により測定した場合の前記溝の幅Wr(mm)、及び、前記溝の断面積S(mm^(2))が、
W/Ws×100≧40(%)、
S/(Wr×0.5)×100≧70(%)」と特定されているのに対して、引用発明では、W/Ws、S/(Wr×0.5)について規定されていない点。
《相違点3》
第2角度が、本願発明では、「15度以上26度以下である」であるのに対して、引用発明では、0度である点。

5 判断
(1)相違点1について
溝の縁に丸みを設けて、ボールの損傷を抑制することは、例えば、特開2005-287534号公報(段落【0024】等参照)、特開平10-179824号公報(段落【0014】等参照)等に記載されるように、本願の優先権主張日前に周知の技術事項であり、引用発明は、ゴルフボールへのダメージを低減させるものであるから、引用発明に前記周知の技術事項を適用し、溝の縁に丸みを設けることに格別の困難性は認められない。

(2)相違点2について
まず、「W/Ws×100≧40(%)」について検討する。
本願明細書の段落【0024】、【0025】には以下の記載がある。
「次に、溝20の容積は溝20の断面積が大きければ大きい程、大きくなる。溝20の断面積の大きさ、換言すれば、溝20の容積の大きさを評価する指標として、本実施形態では以下に述べる断面積比率を提案する。上記の通り、競技用ゴルフクラブヘッドのルール上、深さDは0.5(mm)以下である。従って、溝20の縁に丸みがない場合であって、溝20のルール上の幅Wrの場合の溝20の最大断面積は、図3(B)の右に示すようにWr(mm)×0.5(mm)=0.5・Wr(mm^(2))である。
そこで、この最大断面積に対する溝20の断面積S(mm^(2):図3(B)の左参照)の断面積比率は溝20の容積の大きさを評価する指標となる。断面積比率は下式(1)で表される。
断面積比率(%)=S/(Wr×0.5)×100 ・・・式(1)
次に、フェース面10における溝20の面積比率はボールのスピン量に影響する。本実施形態では溝20の面積比率の指標として以下の式(2)から導かれる溝面積比率を提案する。
溝面積比率(%)=W/Ws×100 ・・・式(2)
本実施形態のゴルフクラブヘッド1では、溝20の縁24に丸みが形成されることで、ボールに傷がつくことを低減する。一方、上記式(2)により規定される溝20の溝面積比率と、上記式(1)により規定される溝20の断面積比率との兼ね合いにより雨天時やラフからのショットの場合にボールのスピン量が大きく低減することを防止できる。本実施形態では溝20の上記溝面積比率を40%以上とし、溝20の上記断面積比率を70%以上とする。」
上記記載から、W/Ws×100≧40(%)とする臨界的意義は見出せない。
引用発明は「ゴルフボールに強力なスピンを与える複数の溝がゴルフクラブフェースに刻まれる」ものであるから、十分にスピンを与えることができるように、フェース面において十分な溝を設けようとすることは当業者が容易になし得る程度のことである。
溝の縁に丸みを形成する点については既に相違点1で検討しており、そのような溝を有する引用発明において、溝を十分に設け、その結果、隣接する溝間の幅Wsに対する丸みを含めて測定した場合の溝の幅Wの割合を40%以上とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。

次に、「S/(Wr×0.5)×100≧70(%)」について検討する。
本願明細書の段落【0024】、【0025】の記載は上記のとおりである。
上記記載によると「Wr×0.5」は、断面が方形の溝のルール上設定可能な最大断面積であるから、上記特定事項は、溝の断面積を、断面が方形の溝のルール上設定可能な最大断面積に対して70%以上とする、というものであり、上記記載から、S/(Wr×0.5)×100≧70(%)とする臨界的意義は見出せない。
ところで、例えば、特開2005-287534号公報(拒絶査定において引用文献3として提示:段落【0004】?【0007】参照)等に記載されるように、芝やボール等が濡れている場合、フェース面とボールとの間に芝や水が介在して、フェースライン溝によるバックスピンの発生が阻害されるという問題があり、その問題を解決するために溝の容積を増すと良いことが記載されている。引用発明においても、引用文献3に記載の前記課題は自明のことであるから、該課題を解決するべく溝の容積を増す、即ち、溝の断面積を増加させることは当業者が容易になし得る程度のことであり、溝の断面積を断面が方形の溝のルール上設定可能な最大断面積に近づけようとすることは当業者が容易になし得る程度のことであり、その際、その程度を70%以上とすることは設計事項に過ぎない。
よって、本願発明の上記相違点2に係る構成となすことは、当業者が容易になし得る程度のことである。

(3)相違点3について
第2角度が「15度以上26度以下である」ことに関し、本願明細書には何ら記載はなく、ただ、本願図面の図5において、「実施例」の「角度θ2」として「26度」と「15度」の2つが記載されているだけである。
即ち、第2角度が「15度以上26度以下」であることの技術的或いは臨界的意義について、本願明細書及び図面には、何ら記載されていない。
審判請求人(以下「請求人」という。)は、審判請求書において「溝側面が平行ではなく、フェース面側に開いた形態となります。これは、溝に入り込んだ芝が抜けやすく、詰まりにくい、製造時に型や工具が抜けやすい、という効果があります。」(8頁18?20行)と主張する。
請求人の主張によれば、第2角度、即ち、側面が底面となす角度が15度以上26度以下であれば、溝に入り込んだ芝が抜けやすく、製造時に型や工具が抜けやすい、というものである。
そこで、検討する。
まず、第2角度を有していることにより、溝に入り込んだ芝が抜けやすいとの効果について検討する。
溝隅の角度が直角より鈍角の方が隅に溜まった芝等が抜けやすいことは、当該技術分野の技術常識であり、又、溝の形状を台形等にして溝隅を鈍角とすることは当たり前の手段でもあるから、側面と溝底面との間に第2角度を設けることに格別の困難性は認められない。
そして、上記のとおり、その角度に関する技術的意義等について記載はなく、出願当初の図面の図5において、「実施例」の「角度θ」として「26度」と「15度」の2つが記載されていたに過ぎず、その角度が選択された理由も不明であり、更に、図5?7における実施例を参酌しても、第2角度を「15度以上26度以下」とする臨界的意義は認められないから、第2角度に関する数値は、当業者が適宜設定し得るものと認められる。
次に、製造時に型や工具が抜けやすいとの効果について検討する。
本願明細書には、本願発明に係るゴルフクラブの製造に関して記載はなく、まして、型や工具について何ら記載されていない。
それにも拘わらず、製造時に型や工具から抜けやすいとの効果を主張することは、本願明細書の記載に基づかない主張であって、採用できない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、上記各相違点に係る特定事項は、当業者が適宜想到可能なものであり、それにより得られる作用効果も当業者であれば容易に推察可能なものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-22 
結審通知日 2012-10-26 
審決日 2012-11-06 
出願番号 特願2007-31228(P2007-31228)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 祐介  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 鈴木 秀幹
黒瀬 雅一
発明の名称 ゴルフクラブヘッド及びゴルフクラブヘッドの設計方法  
代理人 下山 治  
代理人 大塚 康弘  
代理人 高柳 司郎  
代理人 大塚 康徳  
代理人 木村 秀二  
代理人 永川 行光  

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