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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G08C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G08C
管理番号 1267803
審判番号 不服2010-21998  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-30 
確定日 2013-01-04 
事件の表示 特願2004-165790「電気機器受電状態監視装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月15日出願公開、特開2005-346442〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯

平成16年 6月 3日 特許出願
平成22年 3月15日 拒絶理由通知(同年3月18日発送)
平成22年 5月14日 上申書・手続補正書
平成22年 5月14日 意見書・手続補正書
平成22年 6月29日 拒絶査定(同年7月1日送達)
平成22年 9月30日 本件審判請求・手続補正書
平成23年 7月22日 審尋(同年7月26日発送)
平成23年 9月26日 回答書

2 平成22年9月30日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成22年9月30日付け手続補正を却下する。

[理由]独立特許要件違反

平成22年9月30日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により、本件補正前の請求項1は、
「検出手段と無線による通信手段とを具備した受電状態検出器と、無線による通信手段を具備した受電状態検出器制御部とを備え、前記受電状態検出器制御部は前記受電状態検出器に対して命令を送信し、前記受電状態検出器は該命令に従った応答を返信する、電気機器の受電の状態を監視する電気機器受電状態監視装置において、
前記受電状態検出器に電源を供給する電源部に充電により電力を蓄電する蓄電手段を備え、前記電気機器へ電力を供給する電力供給線に該供給線に流れている電流値を電気的に非接触で抽出するピックアップコイルを取り付け、前記ピックアップコイルの出力信号を、一方では前記検出手段の入力信号とし、他方では前記蓄電手段の充電用パワー供給源とし、しかも前記ピックアップコイルは、始終端間に空隙を形成した断面略円形の可撓性を有するチューブに導電線の一方を巻回しチューブの終端で折り返して環状に屈曲させたロゴスキーコイルであることを特徴とする電気機器受電状態監視装置。」から、
「電気機器の電力供給線からの電力の受電状態を検出する検出手段と無線による通信手段とを具備した受電状態検出器と、同受電状態検出器と無線で通信できる無線による通信手段を具備した受電状態検出器制御部とを備え、前記受電状態検出器制御部は前記受電状態検出器に対して命令を送信し、前記受電状態検出器は該命令に従った応答を返信する、電気機器の受電の状態を監視する電気機器受電状態監視装置において、
前記受電状態検出器に電源を供給する電源部に充電により電力を蓄電する蓄電手段を備え、前記電気機器へ電力を供給する電力供給線に該供給線に流れている電流値を電気的に非接触で抽出するピックアップコイルを取り付け、前記ピックアップコイルの出力信号を、一方では前記検出手段の入力信号とし、他方では前記蓄電手段の充電用パワー供給源とし、しかも前記ピックアップコイルは、始終端間に空隙を形成した断面略円形の可撓性を有するチューブに導電線の一方を巻回しチューブの終端で折り返して環状に屈曲させたロゴスキーコイルであることを特徴とする電気機器受電状態監視装置。」に補正された。 (下線は、補正箇所を明示するために請求人が付した。)

したがって、この補正は、受電状態検出器が具備する検出手段に関して、「電気機器の電力供給線からの電力の受電状態を検出する」ものであること、及び、受電状態検出器制御部が具備する無線による通信手段に関して、「同受電状態検出器と無線で通信できる」ものであることを限定するものである。

以上のことから、この補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(1)本件補正後の本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された以下のものと認める。

「電気機器の電力供給線からの電力の受電状態を検出する検出手段と無線による通信手段とを具備した受電状態検出器と、同受電状態検出器と無線で通信できる無線による通信手段を具備した受電状態検出器制御部とを備え、前記受電状態検出器制御部は前記受電状態検出器に対して命令を送信し、前記受電状態検出器は該命令に従った応答を返信する、電気機器の受電の状態を監視する電気機器受電状態監視装置において、
前記受電状態検出器に電源を供給する電源部に充電により電力を蓄電する蓄電手段を備え、前記電気機器へ電力を供給する電力供給線に該供給線に流れている電流値を電気的に非接触で抽出するピックアップコイルを取り付け、前記ピックアップコイルの出力信号を、一方では前記検出手段の入力信号とし、他方では前記蓄電手段の充電用パワー供給源とし、しかも前記ピックアップコイルは、始終端間に空隙を形成した断面略円形の可撓性を有するチューブに導電線の一方を巻回しチューブの終端で折り返して環状に屈曲させたロゴスキーコイルであることを特徴とする電気機器受電状態監視装置。」

(2)引用発明
(2-1)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-131344号公報(以下「引用刊行物」という。)には、「電流計測装置」(発明の名称)の発明に関して、以下の事項が記載されている。

<記載事項1>
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、送電線・配電線・機器の電源線等の電力線を流れる電流の計測手段及びその電源供給手段に特徴を有する電流計測装置に関するものである。」

<記載事項2>
「【0003】なお、電力系統の電力線から電源を供給するシステムとしては、U-RD社の電流センサ応用機器カタログのp.75に記載された電流源からの電源供給回路例である直流電圧変換回路、単電源直流出力増幅回路や、「電気協同研究」第46巻第4号のp.35に記載された米国ナイテック社のパワードーナツ(送電線にドーナツ状のセンサを直接取り付け、送電線の電圧、電流等を計測するとともに電磁誘導により電源をとるようにしたもの)や、同じく「電気協同研究」第53巻第2号のp.112?114に記載された光ファイバジャイロへのCTによる電源供給回路等がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】送配電線の電流計測については、系統事故現象や系統負荷の状況による負荷潮流の変動、あるいは停電状態など広範囲の電流値の計測が可能でなければならない。送配電線の電流情報を多地点で計測しようとした場合、その計測情報の伝達手段や計測装置への電源供給方法などが問題となる。送配電線から電圧入力によって電源を供給する場合、系統の電圧階級やサージ電圧を考慮した絶縁対策の問題などがあるため、装置のコンパクト化が困難となる。
【0005】このような観点から、送配電線に設置したCTによる電流源から装置の電源を供給し、装置自体も電力線に直接設置することで、装置の絶縁の問題がなくなり、装置のコンパクト化も可能となる。更に、電流計測用のCTと電源供給用のCTとを同一のもので共用すれば、それだけコストも下がり、システム全体の構成も簡素化できると共に小型化も可能になる。
【0006】しかし、計測情報の伝達方法として無線を利用したり、計測に際してGPS(Global Positioning System)による同期計測を行ったり、あるいは、計測データの記録用メモリ、高性能演算用CPUなどが必要となると、装置全体に求められる消費電流も大きくなってしまう。つまり、それだけ電源CTの二次側の負担が大きくなり、CTを飽和させたりして安定出力が得られない原因となり、CTの選定も困難となる。その一方で、広範囲の電流入力に対しても安定した電源を供給でき、しかも過電流入力時(CT定格の40倍程度)でも電源回路及び計測回路が壊れずに正常に計測できることが要求されるが、現状では、これらの要求を満足するような電流計測装置は未だ提供されていない。
【0007】そこで本発明は、単一のCTにより電流計測と電源供給とを兼用して装置の小型化、低コスト化を図り、広範囲の電流入力に対する計測及び安定した電源供給を可能にするとともに、回路の保護機能も兼ね備えた電流計測装置を提供しようとするものである。」

<記載事項3>
「【0014】
【発明の実施の形態】以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。まず、図1は本発明の第1実施形態を示す機能ブロック図であり、請求項1記載の発明の実施形態に相当する。この電流計測装置は、電力線10に取り付けられた計測・電源用CT20と、その二次側に接続された電源部30と、CT20からの計測入力及び電源部30からの直流電源が加えられる電流計測演算・監視部40と、電源部30からの直流電源及び電流計測演算・監視部40の出力信号が加えられる無線伝送部50と、この無線伝送部50に接続された無線アンテナ51と、必要に応じて設置されるGPSアンテナ42及び計測用CT45とから構成されている。
【0015】この実施形態は、電力線10に接続された計測・電源用CT20から装置の電源を供給し、かつ、このCT20により検出した電力線10の電流を計測するものであり、これによって系統の電流情報(大きさ、位相、周波数など)の計測と電源供給とを同時に行うものである。但し、計測条件によっては別途、計測用CT45を設置してもよい。
【0016】電源部30は、CT20の二次側に接続された整流回路31と、自励チョッパ制御による定電圧DC出力回路32と、その出力側に接続されたバックアップ電源回路33と、定電圧DC出力回路32及びバックアップ電源回路33の出力側に接続された一対のダイオードからなるダイオード回路34と、そのカソード側に接続されて所定レベルの直流電源電圧を得るレベル変換回路35とから構成されている。また、バックアップ電源回路33の出力は電流計測演算・監視部40に入力されており、バックアップ電源の状態(電圧)を監視可能となっている。
【0017】計測・電源用CT20の二次側に接続された電流計測演算・監視部40は、必要に応じて設けられるGPS同期部41と、A/D変換器を有する計測入力回路43と、計測入力回路43の出力信号が加えられて系統電流を演算し、かつ入力電流のレベルやバックアップ電源の状態を監視するとともに、計測電流値や監視結果を遠隔の中央装置に無線伝送するための伝送制御を行うCPU44とを備えている。
【0018】系統の電流計測は、GPSを用いた多地点同期計測を可能とし、その計測演算データは無線伝送部50及び無線アンテナ51を介して中継無線局(図示せず)に送られ、更に中央装置へ伝送される。この中央装置では、計測情報や電源を含めた装置状態の表示確認が可能である。なお、本装置は、例えば系統の電流計測情報から送配電線の故障点を標定するシステム(特願2000-179400「故障点標定方法」)にも適用可能である。」

<記載事項4>
「【0019】図2は図1における電源部30の回路構成図であり、図3はその動作説明図である。電源部30では、一次側を系統電流I1が流れるCT20の二次電流I2aが整流回路31によって整流され、その出力電流I2bがコンパレータ32aとスイッチング素子としてのFET32bとを備えた自励チョッパ制御回路からなる定電圧DC出力回路32に入力されて一定の直流電圧Vaに変換される。
【0020】定電圧DC出力回路32は、CT20からの入力電流を抑制し、過電流入力時にはコンパレータ32aの出力信号でFET32bをオンすることにより出力側への電流供給を過渡的に停止し、これによって直流電圧Vaを低下させるように動作する。すなわち、FET32bのオンオフ制御を繰り返すことによって一定の出力電圧Vaを維持するものであり、通常は、ダイオード回路34の上側のダイオード34aを流れる電流I2cにより電流計測演算・監視部40や無線伝送部50に対する電源を供給することになる。
【0021】また、バックアップ電源回路33には、定電圧DC出力回路32の出力電流の分流電流が抵抗及びダイオードを介して流れ込む大容量のバックアップコンデンサ33aが設けられており、このコンデンサ33aが常時、充電されている。上記コンデンサ33aが十分に充電されている状態において、系統の停電によってCT20からの供給電圧が低下したり不安定になった場合、ダイオード34bのアノード-カソード間に電位差が生じるとダイオード34bがオンして電流I2dが流れ、バックアップ電源回路33による電源供給へ自動的に切り替わる。つまり、電流I2cによる電源供給から電流I2dによる電源供給へと切り替わる。この電源回路33によるバックアップ状態は、図1の計測入力回路43に伝達される。
【0022】更に、バックアップ電源回路33は、単にCT20からの電源供給が不可能な場合のバックアップ機能だけでなく、前記定電圧DC出力回路32の出力電圧が何らかの理由により不安定になった場合の補償機能も兼ね備えており、総じて電源部30により各部へ安定した直流電源電圧を供給することに寄与している。」

<記載事項5>
「【0024】なお、この装置を送配電線へ適用した場合、そのバックアップ電源回路の仕様としては、系統事故時再閉路時間(特に配電系)を考慮して、数分程度のバックアップが可能であれば充分と考える。再閉路失敗時などの停電継続の場合を考えても、事故発生時の計測データをバックアップ電源回路が生きている間に無線伝送により中央装置へ伝送できればよい。つまり、数分のバックアップ時間で計測データの収集は充分可能であるから、停電継続時にも特に支障はないものである。」

(2-2)引用刊行物に記載された発明
(2-2-1)
上記記載事項1には、「【0001】・・・本発明は、送電線・配電線・機器の電源線等の電力線を流れる電流の計測手段及びその電源供給手段に特徴を有する電流計測装置に関するものである。」と記載され、また、上記記載事項3には、「【0014】・・・この電流計測装置は、電力線10に取り付けられた計測・電源用CT20と、その二次側に接続された電源部30と、CT20からの計測入力及び電源部30からの直流電源が加えられる電流計測演算・監視部40と、電源部30からの直流電源及び電流計測演算・監視部40の出力信号が加えられる無線伝送部50と、この無線伝送部50に接続された無線アンテナ51と、必要に応じて設置されるGPSアンテナ42及び計測用CT45とから構成されている。・・・【0017】計測・電源用CT20の二次側に接続された電流計測演算・監視部40は、必要に応じて設けられるGPS同期部41と、A/D変換器を有する計測入力回路43と、計測入力回路43の出力信号が加えられて系統電流を演算し、かつ入力電流のレベルやバックアップ電源の状態を監視するとともに、計測電流値や監視結果を遠隔の中央装置に無線伝送するための伝送制御を行うCPU44とを備えている。【0018】系統の電流計測は、GPSを用いた多地点同期計測を可能とし、その計測演算データは無線伝送部50及び無線アンテナ51を介して中継無線局(図示せず)に送られ、更に中央装置へ伝送される。・・・」と記載されている。

上記記載事項によれば、引用刊行物に記載された「電流計測装置」は、機器の電源線等の電力線を流れる電流を計測するものであって、該「電流計測装置」により計測された計測電流値や監視結果などの計測演算データは、「中継無線局」に送られ、更に中央装置へ伝送されるものである。
したがって、引用刊行物に記載された「電流計測装置」及び「中継無線局」は、機器の電源線等の電力線を流れる電流を計測する「電流計測システム」を構成するものと言える。

(2-2-2)
(2-2-1)で指摘した上記記載事項によれば、引用刊行物に記載された上記「電流計測システム」は、「電力線10に取り付けられた計測・電源用CT20」と、「前記計測・電源用CT20の二次側に接続され、前記電力線10を流れる電流を計測する計測入力回路43と無線伝送部50とを具備した電流計測装置」と、「前記電流計測装置の無線伝送部50からの計測演算データを受信し、中央装置へ無線伝送する中継無線局」とを備え、「前記電力線10を流れる電流のレベルやバックアップ電源の状態を監視するとともに、計測電流値や監視結果を中央装置に無線伝送する」ものである。
また、引用刊行物に記載された上記「電流計測システム」が備える「中継無線局」は、前記電流計測装置の無線伝送部50からの計測演算データを受信し、中央装置へ無線伝送するものであるから、引用刊行物には明示されていないが、該「中継無線局」は、「前記電流計測装置の無線伝送部50と無線で通信できる通信部」を具備するものと認められる。

(2-2-3)
上記記載事項3には、「【0014】・・・この電流計測装置は、電力線10に取り付けられた計測・電源用CT20と、その二次側に接続された電源部30と、CT20からの計測入力及び電源部30からの直流電源が加えられる電流計測演算・監視部40と、電源部30からの直流電源及び電流計測演算・監視部40の出力信号が加えられる無線伝送部50と、この無線伝送部50に接続された無線アンテナ51と、必要に応じて設置されるGPSアンテナ42及び計測用CT45とから構成されている。」と記載され、また、上記記載事項4には、「【0021】また、バックアップ電源回路33には、定電圧DC出力回路32の出力電流の分流電流が抵抗及びダイオードを介して流れ込む大容量のバックアップコンデンサ33aが設けられており、このコンデンサ33aが常時、充電されている。上記コンデンサ33aが十分に充電されている状態において、系統の停電によってCT20からの供給電圧が低下したり不安定になった場合、ダイオード34bのアノード-カソード間に電位差が生じるとダイオード34bがオンして電流I2dが流れ、バックアップ電源回路33による電源供給へ自動的に切り替わる。つまり、電流I2cによる電源供給から電流I2dによる電源供給へと切り替わる。この電源回路33によるバックアップ状態は、図1の計測入力回路43に伝達される。」と記載されている。

これらの記載によれば、引用刊行物に記載された上記「電流計測システム」は、「前記電流計測装置へ直流電源を供給する電源部30に充電によりバックアップの電源供給を可能とするバックアップ電源回路33」を備えている。

(2-2-4)
上記記載事項3には、「【発明の実施の形態】・・・この電流計測装置は、電力線10に取り付けられた計測・電源用CT20と、その二次側に接続された電源部30と、CT20からの計測入力及び電源部30からの直流電源が加えられる電流計測演算・監視部40と、・・・から構成されている。【0015】この実施形態は、電力線10に接続された計測・電源用CT20から装置の電源を供給し、かつ、このCT20により検出した電力線10の電流を計測するものであり、これによって系統の電流情報(大きさ、位相、周波数など)の計測と電源供給とを同時に行うものである。・・・【0016】電源部30は、CT20の二次側に接続された整流回路31と、自励チョッパ制御による定電圧DC出力回路32と、その出力側に接続されたバックアップ電源回路33と、・・・とから構成されている。・・・【0017】計測・電源用CT20の二次側に接続された電流計測演算・監視部40は、必要に応じて設けられるGPS同期部41と、A/D変換器を有する計測入力回路43と、計測入力回路43の出力信号が加えられて系統電流を演算し、かつ入力電流のレベルやバックアップ電源の状態を監視するとともに、計測電流値や監視結果を遠隔の中央装置に無線伝送するための伝送制御を行うCPU44とを備えている。」と記載され、また、上記記載事項4には、「【0021】また、バックアップ電源回路33には、定電圧DC出力回路32の出力電流の分流電流が抵抗及びダイオードを介して流れ込む大容量のバックアップコンデンサ33aが設けられており、このコンデンサ33aが常時、充電されている。」と記載されている。
また、図1及び図2の記載から、計測・電源用CT20は、電力線10を一次側、コイルを二次側として、両者の磁気的結合を利用して、電磁誘導による電流を出力するものであることが見て取れる。

これらの記載及び上記事項によれば、引用刊行物に記載された上記「電流計測システム」は、「前記機器へ電力を供給する前記電力線10に、該電力線10に流れている電流を電磁誘導により計測する前記計測・電源用CT20を接続し、一方では、前記計測・電源用CT20からの計測入力を前記計測入力回路43に入力し、他方では、前記計測・電源用CT20の二次側に整流回路31を設けることにより、前記バックアップ電源回路33の充電のための電流を生成する」ものである。

(2-2-5)
上記(2-2-1)?(2-2-4)によれば、引用刊行物には、以下の発明が記載されている。
「機器の電源線等の電力線を流れる電流を計測する電流計測システムであって、
電力線10に取り付けられた計測・電源用CT20と、
前記計測・電源用CT20の二次側に接続され、前記電力線10を流れる電流を計測する計測入力回路43と無線伝送部50とを具備した電流計測装置と、
前記電流計測装置の無線伝送部50からの計測演算データを受信し、中央装置へ無線伝送し、前記電流計測装置の無線伝送部50と無線で通信できる通信部を具備する中継無線局とを備え、
前記電力線10を流れる電流のレベルやバックアップ電源の状態を監視するとともに、計測電流値や監視結果を中央装置に無線伝送するものであって、
前記電流計測装置へ直流電源を供給する電源部30に充電によりバックアップの電源供給を可能とするバックアップ電源回路33を備え、
前記機器へ電力を供給する前記電力線10に、該電力線10に流れている電流を電磁誘導により計測する前記計測・電源用CT20を接続し、一方では、前記計測・電源用CT20からの計測入力を前記計測入力回路43に入力し、他方では、前記計測・電源用CT20の二次側に整流回路31を設けることにより、前記バックアップ電源回路33の充電のための電流を生成する
電流計測システム。」(以下、「引用発明」という。)

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを比較する。

(3-1)
引用発明の「電流計測システム」は、機器へ電力を供給する電力線10を流れる電流のレベルやバックアップ電源の状態を監視するとともに、計測電流値や監視結果を中央装置に無線伝送するものである。
一方、本願補正発明の「電気機器受電状態監視装置」は、電気機器の電力供給線からの電力の受電状態を検出し、電気機器の受電の状態を監視するものであって、かかる受電状態を検出する検出手段への入力信号は、電力供給線に流れている電流値を抽出するピックアップコイルからの出力信号であるから、つまるところ、本願補正発明の「電力の受電状態」を示す信号は、電力供給線に流れている電流値を示す信号である。

よって、引用発明の「機器」は、本願補正発明の「電気機器」に相当し、以下同様に、「電力線10」は「電力供給線」に、「電力線10を流れる電流」を示す信号は、電力供給線に流れている電流値を示す信号である「電力供給線からの電力の受電状態」を示す信号に、「電流計測システム」は「電気機器受電状態監視装置」に相当する。

(3-2)
引用発明の「計測入力回路43」は、前記計測・電源用CT20の二次側に接続され、前記機器の前記電力線10を流れる電流を計測するものである一方、本願補正発明の「検出手段」は、電気機器の電力供給線に流れている電流値である「電力供給線からの電力の受電状態」を検出するものである。

よって、引用発明の「前記計測・電源用CT20の二次側に接続され、前記電力線10を流れる電流を計測する計測入力回路43」は、本願補正発明の「電気機器の電力供給線からの電力の受電状態を検出する検出手段」に相当する。

また、引用発明の「無線伝送部50」は、本願補正発明の「無線による通信手段」に相当する。

したがって、引用発明の「前記計測・電源用CT20の二次側に接続され、前記電力線10を流れる電流を計測する計測入力回路43と無線伝送部50とを具備した電流計測装置」は、本願補正発明の「電気機器の電力供給線からの電力の受電状態を検出する検出手段と無線による通信手段とを具備した受電状態検出器」に相当する。

(3-3)
引用発明の「前記電流計測装置の無線伝送部50と無線で通信できる通信部」は、本願補正発明の「同受電状態検出器と無線で通信できる無線による通信手段」に相当する。

よって、引用発明の「前記電流計測装置の無線伝送部50からの計測演算データを受信し、中央装置へ無線伝送し、前記電流計測装置の無線伝送部50と無線で通信できる通信部を具備する中継無線局」は、本願補正発明の「同受電状態検出器と無線で通信できる無線による通信手段を具備した受電状態検出器制御部」に相当する。

なお、本願補正発明の「受電状態検出器制御部」は、本願の発明の詳細な説明における「受電状態検出器制御部30」に相当するものであるが、「受電状態検出器制御部30」内の「通信制御手段33」に関して、段落【0021】に「通信制御手段33は所内温度管理システム装置50からの命令に従って、通信手段31を介して受電状態検出器10に命令を送り、受電状態検出器10から応答を受信して、所内温度管理システム装置50へ受電状態監視データを返信する。」と記載されているように、本願の発明の詳細な説明における「受電状態検出器制御部30」は、所内温度管理システム装置50と受電状態検出器10の間のデータの中継を行っているに過ぎないものである。
したがって、本願の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、本願補正発明の「受電状態検出器制御部」と、引用発明の「中継無線局」とは、中央の管理装置(本願補正発明の「所内温度管理システム装置50」及び引用発明の「中央装置」)と末端の計測器(本願補正発明の「受電状態検出器」及び引用発明の「電流計測装置」)間のデータの中継を行う機能の点でも一致しているものである。
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、引用発明の「中継無線局」は、本願補正発明の「受電状態検出器制御部」に相当するものである。

(3-4)
引用発明の「入力電流のレベルやバックアップ電源の状態を監視するとともに、計測電流値や監視結果を中央装置に無線伝送する」ことは、本願補正発明の「電気機器の受電の状態を監視する」ことに相当する。

(3-5)
引用発明の「前記電流計測装置へ直流電源を供給する電源部30」は、本願補正発明の「前記受電状態検出器に電源を供給する電源部」に相当する。
また、引用発明において、「充電によりバックアップの電源供給を可能とする」ことは、充電により電力を蓄電しておくことを意味しているから、引用発明の「充電によりバックアップの電源供給を可能とする」ことは、本願補正発明の「充電により電力を蓄電する」ことに相当する。

よって、引用発明の「前記電流計測装置へ直流電源を供給する電源部30に充電によりバックアップの電源供給を可能とするバックアップ電源回路33」は、本願補正発明の「前記受電状態検出器に電源を供給する電源部に充電により電力を蓄電する蓄電手段」に相当する。

(3-6)
引用発明の「電流を電磁誘導により計測する」ことは、本願補正発明の「電流値を電気的に非接触で抽出する」ことに相当する。
また、本願補正発明の「ピックアップコイル」と、引用発明の「計測・電源用CT20」とは共に、「電磁誘導を利用した電流検出器」である点で共通する。

よって、本願補正発明の「前記電気機器へ電力を供給する電力供給線に該供給線に流れている電流値を電気的に非接触で抽出するピックアップコイルを取り付け」と、引用発明の「前記機器へ電力を供給する前記電力線10に、該電力線10に流れている電流を電磁誘導により計測する前記計測・電源用CT20を接続し」とは共に、「前記電気機器へ電力を供給する電力供給線に該供給線に流れている電流値を電気的に非接触で抽出する、電磁誘導を利用した電流検出器を取り付け」の点で共通する。

(3-7)
本願補正発明の「ピックアップコイルの出力信号」と、引用発明の「前記計測・電源用CT20からの計測入力」信号とは共に、「電磁誘導を利用した電流検出器の出力信号」である点で共通する。
また、本願補正発明の「ピックアップコイルの出力信号」を「充電用パワー供給源」とすることと、引用発明の「前記計測・電源用CT20」の二次側から出力される「計測入力」信号から「充電のための電流を生成する」こととは共に、「電磁誘導を利用した電流検出器の出力信号を充電用パワー供給源とすること」である点で共通する。

よって、本願補正発明の「前記ピックアップコイルの出力信号を、一方では前記検出手段の入力信号とし、他方では前記蓄電手段の充電用パワー供給源とし」と、引用発明の「一方では、前記計測・電源用CT20からの計測入力を前記計測入力回路43に入力し、他方では、前記計測・電源用CT20の二次側に整流回路31を設けることにより、前記バックアップ電源回路33の充電のための電流を生成する」とは共に、「前記電磁誘導を利用した電流検出器の出力信号を、一方では前記検出手段の入力信号とし、他方では前記蓄電手段の充電用パワー供給源とし」の点で共通する。

(3-8)
したがって、本願補正発明と引用発明の両者は、
「電気機器の電力供給線からの電力の受電状態を検出する検出手段と無線による通信手段とを具備した受電状態検出器と、同受電状態検出器と無線で通信できる無線による通信手段を具備した受電状態検出器制御部とを備えた、電気機器の受電の状態を監視する電気機器受電状態監視装置において、
前記受電状態検出器に電源を供給する電源部に充電により電力を蓄電する蓄電手段を備え、前記電気機器へ電力を供給する電力供給線に該供給線に流れている電流値を電気的に非接触で抽出する、電磁誘導を利用した電流検出器を取り付け、前記電磁誘導を利用した電流検出器の出力信号を、一方では前記検出手段の入力信号とし、他方では前記蓄電手段の充電用パワー供給源とする電気機器受電状態監視装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
受電状態検出器と受電状態検出器制御部間の信号の流れに関して、本願補正発明は「前記受電状態検出器制御部は前記受電状態検出器に対して命令を送信し、前記受電状態検出器は該命令に従った応答を返信する」のに対し、引用発明ではそのような発明特定事項が限定されていない点。

[相違点2]
電磁誘導を利用した電流検出器に関して、本願補正発明では「ピックアップコイル」であって、具体的には、「始終端間に空隙を形成した断面略円形の可撓性を有するチューブに導電線の一方を巻回しチューブの終端で折り返して環状に屈曲させたロゴスキーコイルである」のに対し、引用発明では、単に、計測・電源用CT20にとどまる点。

(4)当審の判断
相違点1について
「配電監視システム」の技術分野において、末端側の監視装置と管理装置側の装置間の信号の流れに関して、「管理装置側の装置から末端側の監視装置に対して命令を送信し、該末端側の監視装置は、該命令に従った応答を返信する」ことは、
例えば、特開昭64-43041号公報(以下、「周知文献1」という。)の、特に、第1ページ左欄第20行?右欄第7行、第4図に、従来の技術として、親局40から子局41?45に対して順次呼び出しを行い、呼び出しを受けた当該子局が、当該子局の状態を親局40に返送する配電線監視システムが記載されているように、
また、特開2002-369412号公報(以下、「周知文献2」という。)の、特に、段落【0012】、図3に、親機12から中継子局T1・・・を呼び出して、中継子局T1・・・が属する各区間の過電流検出装置の表示が白色か橙色かを問い合わせて、過電流検出装置→中継子局T1・・・→親機12へと回答を送る事故点情報収集システムが記載されているように、周知技術(以下、「周知技術1」という。)である。

よって、引用発明において、電流計測装置と、中継無線局を介して、中央装置へ、計測電流値や監視結果を伝送しているところ、信号の流れの一形態として、周知技術1を適用して、管理装置側の装置である中継無線局(本願補正発明の「受電状態検出器制御部」に相当する。以下同様。)から末端側の監視装置である電流計測装置(受電状態検出器)に対して命令を送信し、該電流計測装置(受電状態検出器)は、該命令に従った応答を返信することは、当業者が容易になし得たことである。

したがって、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項は、当業者が引用発明及び周知技術1に基づいて容易に想到し得たことである。

相違点2について
「電流検出器」の技術分野において、電流検出器として、「始終端間に空隙を形成した断面略円形の可撓性を有するチューブに導電線の一方を巻回しチューブの終端で折り返して環状に屈曲させたロゴスキーコイル」は、
例えば、原査定の拒絶の理由に引用された実願平3-22094号(実開平4-118667号)のマイクロフィルムの、特に、段落【0004】、図3に、従来の技術として、円環状のコイル支持体51と、該コイル支持体51に一様なピッチで巻いたコイル52と、その終端の線を折り返した帰路線53とを有するロゴスキーコイルが記載されているように、
また、同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-181850号公報の、特に、段落【0006】?【0011】、図1、図2に、保持部6に嵌合係止され、環状に曲げられるチューブ2と、その外周面に一定な間隔で巻回された導電線3と、前記チューブ2の先端からその中空部内を貫通してその基端から導出される導電線3とからなるロゴスキーコイルが記載されているように、
周知技術(以下、「周知技術2」という。)である。

よって、引用発明において、電磁誘導を利用した電流検出器として、計測・電源用CT20に代えて、周知技術2を適用して、始終端間に空隙を形成した断面略円形の可撓性を有するチューブに導電線の一方を巻回しチューブの終端で折り返して環状に屈曲させたロゴスキーコイルであるピックアップコイルを使用することは、当業者が容易になし得たことである。ここで、ロゴスキーコイルであるピックアップコイルは、計測・電源用CT20の二次側と同様に、電磁誘導による電流を生成するものであるから、ロゴスキーコイルから出力される電流を、計測・電源用CT20からの電流と同様、バックアップ電源回路33の充電にも使用し得ることは明らかである。

したがって、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項は、当業者が引用発明及び周知技術2に基づいて容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明によってもたらされる効果に関し、給電用の配線を要しないとの効果は、引用刊行物の段落【0004】、【0005】に記載されている。また、設置工事の手間・時間がかからないことは、周知技術2から想定し得るものである。さらに、受電状態検出器と受電状態検出器制御部とを別体としたことによって生じる効果は、引用発明自体が、電流計測装置(受電状態検出器)と中継無線局(受電状態検出器制御部)とが別体のものであるから、引用発明も当然に有する効果に過ぎない。(なお、上記した周知文献2には、過電流検出回路2と無線ユニット5を具備する過電流検出装置R、Sと、前記過電流検出装置R、Sの近くに配設され、前記無線ユニット5と通信する無線ユニット8を具備する中継子局Tを備え、中継子局Tが営業所の監視装置と通信を行うシステムも、段落【0007】、【0008】、図1に、公知の技術として記載されている。)
よって、本願補正発明によってもたらされる効果も、引用発明、周知技術1及び周知技術2から想定することができない格別のものと認めることもできない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 本願発明について

平成22年9月30日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年5月14日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。(前記「2」の項参照。)

4 引用刊行物

引用刊行物に記載された引用発明は、前記「2 (2-2-5)」に記載されたとおりである。

5 対比・判断

本願発明は、前記「2」で検討した本願補正発明から、受電状態検出器が具備する検出手段に関して、「電気機器の電力供給線からの電力の受電状態を検出する」ものとの発明特定事項、及び、受電状態検出器制御部が具備する無線による通信手段に関して、「同受電状態検出器と無線で通信できる」ものとの発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2 (4)当審の判断」に記載したとおり引用発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-18 
結審通知日 2012-01-19 
審決日 2012-01-31 
出願番号 特願2004-165790(P2004-165790)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G08C)
P 1 8・ 121- Z (G08C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関根 洋之  
特許庁審判長 下中 義之
特許庁審判官 森 雅之
後藤 亮治
発明の名称 電気機器受電状態監視装置  
代理人 戸島 省四郎  
代理人 戸島 省四郎  

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