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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B62M
管理番号 1267910
審判番号 無効2012-800027  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-03-14 
確定日 2012-12-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第4330080号発明「鞍乗り型車両の変速制御装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成17年 7月25日 国際出願
(優先日 平成16年 7月26日(JP))
平成21年 6月26日 設定登録
(特許第4330080号、請求項の数13)
平成24年 3月14日 無効審判請求(2012-800027号)
平成24年 6月11日 被請求人 答弁書の提出
平成24年 7月 5日付け審理事項通知書
平成24年 9月 6日 請求人 口頭審理陳述要領書
平成24年 9月 6日 被請求人 口頭審理陳述要領書
平成24年 9月20日 口頭審理
平成24年10月 4日 請求人 上申書の提出
平成24年10月 4日 被請求人 上申書の提出
平成24年10月18日 請求人 上申書の提出

第2 本件特許
本件特許第4330080号の請求項1?13に係る発明(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明13」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
鞍乗り型車両に設けられる変速制御装置であって、
運転者による変速のための動作を検出するための検出機構と、
その検出機構で検出された前記変速動作に基づき該検出機構から出力される検知信号に基づいて電動でシフト操作を行う変速機構とを備え、
前記検出機構は、
足の操作に基づいて前記車両に対して動く可動部を含む操作部と、
前記可動部が所定量以上移動したことを検出し、前記検知信号を出力する検出部と、
を含み、
前記操作部及び前記検出部は、いずれも前記鞍乗り型車両の車体フレーム又はエンジンケースに着脱自在に取り付けられる基部に取り付けられている、鞍乗り型車両の変速制御装置。」
「【請求項2】
前記可動部は、異なる2方向に揺動可能に前記基部に支持されており、
前記検出部は、前記可動部の揺動方向を検出し、且つ、その方向によってシフトアップとシフトダウンを判別する、請求項1に記載の変速制御装置。」
「【請求項3】
前記検出部は、前記可動部が所定の回転軸を中心に所定の角度だけ移動したことを検出する回転センサを含む、請求項1に記載の変速制御装置。」
「【請求項4】
前記検出部は、前記可動部が所定の基準位置から異なる2方向それぞれの方向に所定量以上揺動したことを検出するセンサを該2方向のそれぞれに少なくとも一つずつ含む、請求項1に記載の変速制御装置。」
「【請求項5】
前記可動部は、足による操作によって既定の中立位置を挟んで異なる2方向へ移動可能に構成されており、
前記操作部は、足による操作によって前記いずれかの方向に移動した可動部を該中立位置へ自動的に復帰させるリターン機構を前記基部に取り付けられた状態で備える、請求項1?4のいずれかに記載の変速制御装置。」
「【請求項6】
前記可動部は、足による操作によって既定の中立位置を挟んで異なる2方向へ移動可能に構成されており、
前記操作部は、足による操作によって前記いずれかの方向に移動する可動部の移動範囲を制限するストッパーを前記基部に取り付けられた状態で備える、請求項1?5のいずれかに記載の変速制御装置。」
「【請求項7】
前記検出機構は、
前記可動部の移動操作に必要なトルクを変化させる操作力可変機構であって前記基部に設けられた操作力可変機構を含み、
前記操作力可変機構は、前記検出部が前記可動部の所定量以上の移動を検出するとき又は検出した後に前記可動部を移動させるために必要なトルクを変化させる、請求項1?6のいずれかに記載の変速制御装置。」
「【請求項8】
前記操作力可変機構は、少なくとも一部分が弾性により変形可能である抵抗部と、少なくとも足による操作によって前記可動部が前記検出部によって検出され得る直前において該抵抗部と接触可能な位置に形成された当接部とを備えており、
足による操作によって前記可動部が前記検出部によって検出され得る直前まで移動した際に前記抵抗部の少なくとも一部が前記当接部によって押圧されることによって前記トルクの増大が実現され、且つ、該当接部は前記可動部が前記検出部によって検出され得る所定量移動した際には前記当接部による抵抗部の押圧が解消又はその押圧力が小さくなるように形成されている、請求項7に記載の変速制御装置。」
「【請求項9】
前記抵抗部は、前記当接部に接する表面部と該表面部に接続するバネ部とを含み、
前記当接部は、少なくとも足による操作によって前記可動部が前記検出部によって検出され得る直前まで移動した際に前記表面部を押圧する凸状部を含む、請求項8に記載の変速制御装置。」
「【請求項10】
前記抵抗部及び当接部のうちの何れか一方が前記可動部に付設されており、
該可動部と共に該抵抗部又は当接部が移動する、請求項8に記載の変速制御装置。」
「【請求項11】
鞍乗り型車両に設けられる変速制御装置であって、
運転者による変速のための動作を検出するための検出機構と、
その検出機構で検出された前記変速動作に基づき該検出機構から出力される検知信号に基づいて電動でシフト操作を行う変速機構とを備え、
前記検出機構は、
足による操作で荷重が掛けられる被荷重部を含む操作部と、
前記操作部に掛かる前記荷重を検出し、前記検知信号を出力する検出部と、
を含み、
前記操作部及び前記検出部は、いずれも前記鞍乗り車両の車体フレーム又はエンジンケースに着脱自在に取り付けられる基部に取り付けられている、鞍乗り型車両の変速制御装置。」
「【請求項12】
前記操作部は足で直接操作される部分の車両に対する位置を変更可能な可変機構を含む、請求項1?11のいずれかに記載の変速制御装置。」
「【請求項13】
請求項1?12のいずれかに記載の変速制御装置を備える鞍乗り型車両。」

第3 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、審判請求書において、「特許第4330080号発明のうち特許請求の範囲の請求項1?13にそれぞれ記載された発明についての特許は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めている。そして、下記証拠方法を提出し、次のとおり主張している。

請求項1?6、12、13に係る発明は、甲第1号証に記載されたものと、甲第2号証又は甲第3号証に記載されたものとに基づいて出願前に当業者が容易に発明ができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、
請求項7?10に係る発明は、甲第1号証に記載されたものと、甲第2号証又は甲第3号証に記載されたものとに基づいて出願前に当業者が容易に発明ができたものであるか、或いは、甲第1号証に記載されたものと、甲第2号証又は甲第3号証に記載されたものと、甲第5号証に記載されたものとに基づいて当業者が容易に発明ができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、
請求項11に係る発明は、甲第1号証に記載されたものと、甲第2号証又は甲第3号証に記載されたものと、甲第11号証に記載されたものとに基づいて出願前に当業者が容易に発明ができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、
したがって、請求項1?13に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開平2-21057号公報
甲第2号証:特開平5-88605号公報
甲第3号証:特開2002-87348号公報
甲第5号証:特開平7-301310号公報
甲第6号証:実願平5-11154号(実開平6-68953号)
のCD-ROM
甲第7号証:特開平3-3932号公報
甲第8号証:特表平10-510500号公報
甲第9号証:実願昭58-128192号(実開昭60-35949号)
のマイクロフィルム
甲第10号証:特開平11-13882号公報
甲第11号証:特開平4-27722号公報
甲第12号証:特開平6-66359号公報

また、平成24年9月6日付け口頭審理陳述要領書において下記の参考資料1及び参考資料2を提出し、平成24年10月4日付け上申書において下記の参考資料3及び参考資料4を提出し、平成24年10月18日付け上申書において下記の参考資料5を提出している。
参考資料1:特開2003-341489号公報
参考資料2:特開2002-173008号公報
参考資料3:特開平1-153862号公報
参考資料4:特開平11-34967号公報
参考資料5:特開昭60-175740号公報

なお、請求人は甲第4号証(特表2006-520286号公報)については、平成24年9月20日の口頭審理において、取下げている。

2.被請求人の主張
被請求人は、答弁書において、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めている。
また、平成24年9月6日付け口頭審理陳述要領書とともに乙第1号証を提出している。

<証拠方法>
乙第1号証:特開2007-118829号公報

第4 無効理由についての当審の判断
1.刊行物に記載された事項
(1)甲第1号証
請求人が甲第1号証として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である特開平2-21057号公報には、図面とともに次の事項が記載されている。

1a) 「「産業上の利用分野」
本発明は自動二輪車等の動力伝達系に用いられる無段変速機の制御装置に関するものである。」(第1ページ右下欄第2?4行)

1b) 「この機械的な構成部は、切換弁51のスプール53がサーボモータ57によって移動調整されることにより、無段変速機lの変速比を調整動作する。サーボモータ57自体は、後述する電気的な構成部によって制御される。」(第5ページ右上欄第20行?左下欄第4行)

1c) 「また、クラッチレバ-を操作して、クラッチ切換弁61のアーム66を上下に回動させることにより、無段変速機1の変速状態の如何に拘わらず、クラッチ16が切れたりつながったりする。」(第5ページ右下欄第5?9行)

1d) 「なお、レシオ設定手段110の一例について第6図(a),(b)を参照して説明すると、図中符号130はシフトドラムで、このシフトドラム130の内方には複数のマイクロスイッチ131が、シフトドラム130の回転中心から同距離離れた同一円周上所定角度置きに配置されている。該マイクロスイッチ131に対向するシフトドラム130の端面にはピン132が突出して設けられ、このピン132がシフトドラム130とともに回転することによって、マイクロスイッチ131の一つが択一的に押圧されて「オン」状態となる。各マイクロスイッチ131は前記目標レシオ設定部112に電気的に接続されている。
この例においてシフトドラム130を回転操作する構造は従来周知のものと同様である。すなわち、チェンジ操作子133が軸7を中心に上下方向に揺動操作されると、セクタギヤ134,135を介してシフトレバ136が軸8を中心に揺動され、これに伴いシフトアーム137が前後動してシフトドラム130が刻み送りが行なえるようになっている。
以上説明したレシオ設定手段110において、運転者は、チェンジ操作子133を操作することによって任意のレシオが選べるのである。
上記無断変速機lの制御装置によれば、切換手段120によって前記第1の制御部101と第2の制御部111とのいずれかを、制御系に接続させることによって、無段変速機1の変速比制御をオートとマニアルに切り換えることができる。」(第7ページ右下欄第17行?第8ページ右上欄第5行)

1e) 「一方、マニアルに設定した場合には、無段変速機1の変速比が、レシオ設定手段110によって選択された変速比に合致するように制御される。」(第8ページ右上欄第12?14行)

1f) 第6図(a)のレシオ設定手段の説明図には、レシオ設定手段の多数の構成部品の配列形態が示されており、また、一部を省略したり或いは一部を表現するために用いられる破断線が記載されている。

上記記載事項1a)?1f)及び図面の記載によれば、甲第1号証には次の発明が記載されているといえる。(以下「甲1発明」という。)
「自動二輪車等の動力伝達系に用いられる無段変速機の制御装置であって、
チェンジ操作子133が軸7を中心に上下方向に揺動操作されると、セクタギヤ134、135を介してシフトレバ136が軸8を中心に揺動され、これに伴いシフトアーム137が前後動してシフトドラム130が刻み送りが行え、
ピン132がシフトドラム130とともに回転することによって、マイクロスイッチ131の一つが択一的に押圧されて「オン」状態となり、各マイクロスイッチ131は目標レシオ設定部112に電気的に接続されており、
運転者はチェンジ操作子133を操作することによって任意のレシオが選べ、
マニアルに設定した場合には、無段変速機1の変速比が、レシオ設定手段110によって選択された変速比に合致するように制御され、
サーボモーター57自体は電気的な構成部によって制御され、サーボモーター57によって無段変速機1の変速比を調整動作する、
無段変速機の制御装置。」

(2)甲第2号証
請求人が甲第2号証として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である特開平5-88605号公報には、図面とともに次の事項が記載されている。

2a) 「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、人が搭乗可能な模擬二輪車を用い、運転者の操縦操作に従って走行状態をシミュレートするライディングシミュレーション装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、模擬車両とCRTディスプレイとを組み合わせ、操縦操作に合わせてこのディスプレイ手段を変化させ、ライディング感覚でゲームを楽しめるようにした遊戯用のシミュレーション装置が知られている。
・・・(後略)・・・ 」

2b) 「【0009】
【実施例】以下、図面を参照してこの発明の実施例について説明する。
A.実施例の機械的構成
図1?図3は、この発明の一実施例によるライディングシミュレーション装置の機械的構成を示す側面図、背面図および平面図である。まず、図1を参照し、この実施例の概略構造を説明する。この図において、1は基台、2はこの基台1に配設される可動機構部である。3は実際の二輪車を模倣した模擬二輪車である。この模擬二輪車3は、車体フレーム20、ハンドル機構21、これら覆うカウリング/シート、および車体該フレーム20に配備されて運転者の運転操作を検出する各種センサ等から構成されている。なお、この各種センサの詳細については後述する。」

2c) 「【0021】車体フレーム20には、クラッチ操作を検出するクラッチセンサ25、スロットル操作を検出するスロットルセンサ26、ギアチェンジ操作を検出するギアチェンジスイッチ27aおよびコーナリング時における運転者の体重移動を検出するリーントルクセンサ28等が取付けられている。また、この車体フレーム20の前部および後部には、走行音あるいはエンジン音等の運転状況を再現するフロントスピーカFSP、リアスピーカRSPが配備されている。さらに、この車体フレーム20の底部には、ギアチェンジ機構27およびステップを取付けるステーが形成されている。」

2d) 「【0023】次に、図10?図17を参照し、上記構成による模擬二輪車3の各部構造について順次説明する。
(1)車体フレーム20の構造
図10および図11は、それぞれ車体フレーム20の要部を示す側面図、分解斜視図である。これらの図に示すように車体フレーム20は、可動機構部2によってロール動、ピッチ動およびヨー動を与えられるボディフレーム50と、該ボディフレーム50に対し後述するようにロール方向に揺動自在に取り付けられるとともに運転者が着座するシート(図示略)を支持するシートレール(シート部)とから構成されている。41はフロントスピーカFSPが取付けられるフロントスピーカステーである。42はリアスピーカRSPが取付けられるリアスピーカステーである。43は前述したハンドル可動モータ21aを取付けるハンドルモータ取付け部、44はスロットルセンサ26を取付けるスロットルセンサ取付け部である。45はギアチェンジ機構取付け部であり、前述したギアチェンジスイッチ27aおよびチェンジペダル27bが取付けられる。46はステップを装着するためのステップホルダステー、51はカウルステーである。これらの部材41,42,43,…51はボディフレーム50に固定的に取り付けられている。」

2e) 「【0028】
(3)チェンジペダルおよびギアチェンジ機構の構造
次に、図14は模擬二輪車3の左側面に配設されるチェンジペダルおよびギアチェンジ機構の構造を示す図である。図において、70はステップホルダステー46(図9参照)に固定的に取付けられるステップホルダ、71はチェンジアーム、タイロッドおよびチェンジペダル27bから構成されるチェンジペダル機構である。72はこのチェンジペダル機構71と連動するギアチェンジ機構である。このギアチェンジ機構72は、ギアチェンジスイッチプレート72aと、該プレート72aに取付けられ、前記チェンジペダル機構71と連動するペダルシャフト72bと、このシャフト72によって操作されるチェンジスイッチ72cとから構成されている。このような構成によれば、実際の二輪車のギアチェンジ操作感が得られると共に、該操作に応じたギアチェンジ信号が形成される。」

2f) 「【0056】こうしたライディングシミュレーション動作が例えば、二輪車の運転教習に用いられる場合、教官は送信器により運転者へ走行指示を与える。 ・・・(後略)・・・ 」

(3)甲第3号証
請求人が甲第3号証として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-87348公報には、図面とともに次の事項が記載されている。

3a) 「【0002】
【従来の技術】従来、自動二輪車には、車体フレームの下部にサイドスタンドを設けておき、たとえば一時的な駐車を行う際に、前記サイドスタンドを斜め下方へ突出させて、その先端を接地させることにより、前記自動二輪車を起立状態に保持する構成がとられている。一方、このサイドスタンドは、走行開始に先立ち、上方へ回動させて収納位置に保持する必要があり、この収納状態を乗車状態で確認可能にするために、従来においては、実公平7ー11018号公報に示されるように、車体フレームに、サイドスタンドが取り付けられるブラケットを一体に取り付けておき、このブラケットに、前記サイドスタンドの位置検出をなすスタンドセンサを取り付け、前記サイドスタンドが突出位置に位置させられていることを、前記スタンドセンサによって検出するとともに、その情報をたとえば自動二輪車の計器盤上に表示するようにした技術が開示されている。」

3b) 「【0008】ついで、本実施形態に係わるサイドスタンド支持装置について図2および図3を参照して説明する。このサイドスタンド支持装置は、前記車体フレーム2に取り付けられて、前記サイドスタンド12が回動可能に装着されるとともに、所定角度に設定された2位置(A・B)に選択的に係止されるブラケット13と、このブラケット13に装着されて、前記サイドスタンド12の係止位置を検出するスタンドスイッチ14と、このスタンドスイッチ14に接続された信号線15とを備え、前記ブラケット13に、前記スタンドスイッチ14が設けられた部位から略上方へ向かう平行な一対のガイド壁16・17を設け、これらのガイド壁16・17間に前記信号線15を配設した構成となっている。」

3c) 「【0014】このように構成された本実施形態に係わるサイドスタンド支持装置は、駐車時において、サイドスタンド12を、図2にBで示すように、下方に回動させると、このサイドスタンド12が、段部13bに当接させられてその回動位置が拘束されるとともに、前記ばね19の作用によって、前記サイドスタンド12が、前述した位置に保持される。これと同時に、前記サイドスタンド12によって、スイッチ24が作動させられることにより、その位置検出がなされ、この検出信号に基づいて、警告灯等が点灯させられる。
【0015】また、前記サイドスタンド12が収納位置へ回動させられると、このサイドスタンド12が、他方の段部13aへ当接させられてその回動位置が規制されるとともに、前記ばね19の作用によって前記サイドスタンド12が、収納位置に保持される。これと同時に、前記サイドスタンド12によって他方のスイッチ25が作動させられることにより、サイドスタンド12が収納位置にあることが検出される。」

(4)甲第11号証
請求人が甲第11号証として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である特開平4-27722号公報には、図面とともに次の事項が記載されている。

4a) 「シフト操作荷重を検出する荷重センサ(S_(M))と;車両搭載エンジン(1)の出力を制御可能な出力制御手段(7)と;前記荷重センサ(S_(M))の検出値に基づき、シフト操作荷重が設定荷重以上となるのに応じてシフト操作荷重の増加速度に応じた時間だけ前記エンジン(1)の出力を変化させるべく出力制御手段(7)を制御する制御ユニット(36)と;を備えることを特徴とする車両の変速装置。」(第1ページ左下欄第5?13行)

4b) 「ところが、そのような提案技術では、運転者のシフト操作速度にかかわらずシフト操作荷重が所定値を超えるのに応じてエンジン出力を一時的に変化させるようにしているので、シフト操作速度によっては変速機におけるシフトアップ作動が完了しないうちにエンジン出力制御が終了してしまうおそれがある。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、シフト操作速度に応じてエンジン出力制御時間を定めて、変速機での確実なシフト作動を可能とした車両の変速装置を提供することを目的とする。
B.発明の構成
(1)課題を解決するための手段
上記目的を達成するための本発明装置は、シフト操作荷重を検出する荷重センサと;車両搭載エンジンの出力を制御可能な出力制御手段と;前記荷重センサの検出値に基づき、シフト操作荷重が設定荷重以上となるのに応じてシフト操作荷重の増加速度に応じた時間だけ前記エンジンの出力を変化させるべく出力制御手段を制御する制御ユニットと;を備える。」(第2ページ左上欄第5行?右上欄第9行)

4c) 「また変速機10には、変速操作を行なうためのシフトペダル12を含むシフト装置13が連結されており、このシフト装置13にはシフト操作荷重Mを検出するための荷重センサS_(M)が配設される。」(第2ページ左下欄第14行?右上欄第1行)

4d) 「再び第1図において、シフト装置13は、シフトペダル12を矢印30で示す方向に踏込むことによりシフトアップし、また矢印30とは逆方向に回動操作することによりシフトダウンする構造となっており、一端に足載せ部12aを有しなから略L字状に形成されるとともにその屈曲部が自動二輪車の車体に軸31を介して支承されるシフトペダル12と、ミッションケース15に軸支されたシフト軸32に基端が固定された回動アーム33と、シフトペダル12および回動アーム33間を連結するリンク34とを備え、該リンク34の中間部に荷重センサS_(M)が介設される。而してシフト軸32および前記シフトドラム18は、従来周知の連動、連結機構35を介して連結されており、シフトペダル12の操作に応じた連動、連結機構35の作動によりシフトドラム18が間歇的に回動駆動される。しかもシフトアップ操作時に前記荷重センサS_(M)には引張荷重が作用することになり、荷重センサS_(M)はその引張荷重に応じた電気信号をシフトアップ操作荷重Mとして出力することになり、またシフトダウン操作時に荷重センサS_(M)は圧縮荷重に応じた電気信号をシフトダウン操作荷重として出力することになる。
ところで、スロットルセンサS_(TH)で検出されるスロットル開度θ_(TH)、回転数センサS_(NE)で検出されるエンジン回転数N_(E)、ならびに荷重センサS_(M)で検出されるシフト操作荷重Mは、マイクロコンピュータから成る制御ユニット36にそれぞれ入力される。而して該制御ユニット36は、スロットル開度θ_(TH)、エンジン回転数N_(E)およびシフト操作荷重Mに基づいて、スロットル弁4を開いた状態でのシフトペダル12によるシフトアップ操作に応じてクラッチを切ることなく変速機10のシフトアップ作動を可能とするために、またスロットル弁4を全閉または全閉付近に保持した状態でのシフトペダル12によるシフトダウン操作に応じてクラッチを切ることなく変速機10のシフトダウン作動を可能とするために、点火制御装置7を制御する」(第3ページ左上欄第10行?左下欄第14行)

2.対比・判断
(1)本件特許発明1について
a)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「自動二輪車」は、本件特許発明1の「鞍乗り型車両」に相当する。
以下、同様に「無段変速機の制御装置」及び「マイクロスイッチ」は、「変速制御装置」及び「検知信号を出力する検出部」に相当する。
甲1発明の、チェンジ操作子、シフトレバ、シフトアーム、シフトドラム及びピンは、運転者の操作に基づいて動くものであるから、本件特許発明1の「操作部」に相当する。
甲1発明におけるマイクロスイッチすなわち「検知信号を出力する検出部」は、シフトドラム130及びピン132が刻み送り分だけ、すなわち「所定量」回転したことを検出するので、甲1発明の「シフトドラム」及び「ピン132」は、本件特許発明1の「可動部」に相当し、したがって、甲1発明は本願特許発明1の「検出機構は、車両に対して動く可動部を含む操作部と、前記可動部が所定量以上移動したことを検出し、前記検知信号を出力する検出部」に相当する構成を備えているといえる。
甲1発明では、運転者がチェンジ操作子を操作することによって、シフトレバが揺動し、シフトアームが前後動し、シフトドラム及びピンが回転し、マイクロスイッチの一つが択一的に押圧されてオン状態となり、任意のレシオが選べ、このレシオ設定手段によって選択された変速比に合致するように無段変速機が制御されるところ、この制御には電気的な構成部によって制御されるサーボモーター57が用いられているから、甲1発明は、本件特許発明1の「運転者による変速のための動作を検出するための検出機構と、その検出機構で検出された前記変速動作に基づき該検出機構から出力される検知信号に基づいて電動でシフト操作を行う変速機構」に相当する構成を備えているといえる。

以上のことから、本件特許発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。
「鞍乗り型車両に設けられる変速制御装置であって、
運転者による変速のための動作を検出するための検出機構と、
その検出機構で検出された前記変速動作に基づき該検出機構から出力される検知信号に基づいて電動でシフト操作を行う変速機構とを備え、
前記検出機構は、
前記車両に対して動く可動部を含む操作部と、
前記可動部が所定量以上移動したことを検出し、前記検知信号を出力する検出部と、を含む、鞍乗り型車両の変速制御装置。」

一方で、両者は次の点で一応相違する。
[相違点1]
電動でシフト操作を行う変速機構の操作部の操作に関して、本件特許発明1では「足の操作に基づいて」動くのに対して、甲1発明では、チェンジ操作子を運転者の手又は足の何れで操作するのか必ずしも明らかでない点。

[相違点2]
電動でシフト操作を行う変速機構の操作部及び検出部の取り付けに関して、本件特許発明1では「いずれも前記鞍乗り型車両の車体フレーム又はエンジンケースに着脱自在に取り付けられる基部」に取り付けられているのに対して、甲1発明では、チェンジ操作子、シフトレバ、シフトアーム、シフトドラム及びマイクロスイッチが、どのように設けられているか明確には記載されていない点。

b) 判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
一般的な自動二輪車では、変速操作は足で、クラッチは手でそれぞれ操作するのが通常である。
ところで、甲第1号証には「この例においてシフトドラム130を回転操作する構造は従来周知のものと同様である」(甲第1号証の前記記載事項1d)を参照。)と記載されており、他に甲第1号証に特殊な自動二輪車である旨の記載があるものでもないから、甲第1号証の上記記載中における「従来周知のもの」とは、周知の一般的な自動二輪車を指すものと解され、したがって、甲1発明は、周知の一般的な自動二輪車、すなわち変速操作が足で操作されるものと解するのが妥当である。

また、自動二輪車における技術常識を勘案すれば、引用例1の第6図において、チェンジ操作子133、シフトレバ136、シフトアーム137、シフトドラム130及びマイクロスイッチ131が設けられている場所は、エンジンに連なる変速機構が取付けられるケースであって、このケースの図6での具体的断面形状(特にレシオ設定手段110の多数の構成部品の、該ケースにおける横並び配列形態)や、上側が途中で破断された(即ち、更に上方に延出するケース部分が存することが明らかな)図示形態からして、このケースが上下方向にも水平方向にも嵩のある大物部品であることは明らかである。
このようなケースの下端部に変速機構のチェンジ操作子133の軸7が配設されていることから、このチェンジ操作子133が、自動二輪車のフレーム上方のシートに座る運転手の手からは届かない位置にあることは明らかであり、このため、そのチェンジ操作子133を運転手が走行中、手でチェンジ操作することは実質的に不可能であるから、このチェンジ操作子133が足で操作されることは明らかである。

以上のことから、甲1発明のチェンジ操作子(本件特許発明1の操作部の一つに相当。)は、足で操作されるもの、すなわち足の操作に基づいて動くものであるから、上記相違点1は、相違点として挙げたものの、甲1発明も備えているものであるので、実質的な相違点ではない。

[相違点2]について
・ 甲第2号証に関して
甲第2号証記載のものでは、ギアチェンジスイッチプレート72a、ペダルシャフト72b及びチェンジスイッチ72c(本件特許発明1の「検出部」に相当。)からなるギアチェンジ機構72は、ギアチェンジスイッチプレート72a(本件特許発明1の「着脱自在に取り付けられる基部」に相当。)によって、車体フレーム20に設けられたギアチェンジ機構取付け部45に取付けられていると解される。(甲第2号証の前記記載事項2a)?2f)及び甲第2号証の図9、10、14を参照。)
しかし、甲第2号証に記載されたギアチェンジ機構は、飽くまでも模擬的な装置であって、実際の自動二輪車のギアチェンジ操作感が得られるようにしたものに過ぎず、チェンジスイッチ72cは、「電動でシフト操作を行う変速機構」に対して実際のシフト操作を行わせるための検出信号を出力するものではない。
そして、甲第2号証記載のものは、「エンジン」と実際に変速される「電動でシフト操作を行う変速機構」を備えておらず、単なるシミュレーション装置に過ぎないため、甲第2号証記載のものと甲1発明の自動二輪車等の変速機の制御装置とは、「変速制御装置」に関して同一の技術分野であるとはいえない。

甲第2号証記載のライディングシミュレーション装置は、遊技用又は二輪車の運転教習用に用いられ、実際の二輪車のギアチェンジ操作感が得られるように一般的な自動二輪車を模倣したものであるところ、この模倣する対象として想定している一般的な自動二輪車では、ギアチェンジの機構(甲第2号証記載のものの「ギアチェンジ機構72」に対応するもの。)はエンジンに連なる変速機構が取付けられるケース内に設けられるのが通常のことである。
しかし、甲第2号証のライディングシミュレーション装置では、実際のエンジン及び変速機構を備えず、ギアチェンジ機構72は変速機を模擬した機構であるから、一般的な自動二輪車のようにギアチェンジの機構をエンジンに連なる変速機構内に取付けることができず、前述のように、ギアチェンジ機構72を、ギアチェンジスイッチプレート72aによって本体フレーム20に取付けているに過ぎないと解される。
そして、甲第2号証に、ギアチェンジ機構72をギアチェンジスイッチプレート72aによってフレームに取付ける事項に関して、甲1発明のようなエンジン及び変速機構を備えた自動二輪車の「変速制御装置」でも同様に生じるような、技術的課題、作用又は機能が記載されているものではなく、また、上記事項を甲1発明のようなエンジン及び変速機構を備えた自動二輪車の「変速制御装置」に適用することについての示唆が記載されているものでもない。

・ 甲第3号証に関して
甲第3号証記載のものでは、車体フレームにブラケット13(本件特許発明1の「基部」に対応するもの。)が取付けられており、このブラケット13にサイドスタンド12及びスタンドスイッチ14(本件特許発明1の「検出部」に対応するもの。)が取付けられている。(甲第3号証の前記記載事項3a)?3c)を参照。)
しかし、甲第3号証記載のものはサイドスタンドに関する発明であって、甲1発明の変速制御装置と直接関係があるものではないから、甲第3号証記載の事項を甲1発明に適用する動機付けがあるとはいえない。

審判請求人は審判請求書第20ページ第9?14行において、甲1発明と甲第3号証記載のものとが、「運転者の足の操作を検出して得た検知信号を車両の運転に関わる特定の制御に用いる自動二輪車等の小型車両に関係した技術であり、且つ足により操作される操作部とその操作部の移動を検出して検知信号を出力する検出部とを有する点」で共通する旨を主張している。
しかし、足で操作する対象が、甲1発明は変速操作のためのチェンジ操作子であるのに対して、甲第3号証記載のものは駐車のためのサイドスタンドである点で、両者は異なっており、且つ、検出部の検出する対象及びその検出値の使用目的も、甲1発明は変速機の目標となるレシオを検出する対象とし、変速機の変速比制御をマニアルで行うためのものであるのに対して、甲第3号証記載のものはサイドスタンドが収納位置か突出位置かを検知する対象とし、それを自動二輪車の計器盤上に表示するものである点で、両者は異なっており、操作部及び検知部の取付けに関して技術的課題に共通性があるものとは認められず、また、甲第3号証に、サイドスタンド支持装置の技術を甲1発明のような自動二輪車の変速操作のための操作部に適用することの示唆が記載されているものでもないから、甲第3号証記載の事項を甲1発明に適用する動機付けがあるとはいえない。

・ その他の証拠及び参考資料に関して
甲第7号証には、車輌の運転席の壁に取り付けるような構造の取付けベース(本件特許発明1の「基板」に相当。)に、足踏みペダル及びポテンショメータを取付けることが記載されている。(特に、第1ページ左下欄第2行?右下欄第12行及び図1?4を参照。)
しかし、甲第7号証記載のベースは車輌の運転席の壁に取付けるアクセルペダルに関するものであって、本件特許発明1及び甲1発明のように、鞍乗り型車両又は自動二輪車の電動でシフト操作を行う変速機構に対して、シフト操作を行わせるためのシフト信号を出力するものではなく、甲1発明と甲第7号証記載のものとは、足で操作する対象、検出部の検出する対象及びその検出値の使用目的の何れもが異なっている。

甲第8号証には、自動車のシャーシー12に取り付けられている保持構造体2(本件特許発明1の「基板」に相当。)に、ペダルレバー3及びセンサ5を取り付けることが記載されている。(特に、第9ページ第8行?第10ページ第4行を参照。)
しかし、甲第8号証記載の保持構造体は自動車の出力の制御のためのペダルレバーに関するものであって、本件特許発明1及び甲1発明のように、鞍乗り型車両又は自動二輪車の電動でシフト操作を行う変速機構に対して、シフト操作を行わせるためのシフト信号を出力するものではなく、甲1発明と甲第8号証記載のものとは、足で操作する対象、検出部の検出する対象及びその検出値の使用目的の何れもが異なっている。

参考資料1には、支持金具66(本件特許発明1の「基板」に相当。)に、ブレーキペダル又はアクセルペダルと、位置センサ178を取付けることが記載されている。(特に、段落【0027】、【0038】及び図5を参照。)
しかし、参考資料1記載のものはゴルフカー又は多目的車のブレーキペダル及びアクセルペダルに関するものであって、本件特許発明1及び甲1発明のように、鞍乗り型車両又は自動二輪車の電動でシフト操作を行う変速機構に対して、シフト操作を行わせるためのシフト信号を出力するものではなく、甲1発明と参考資料1記載のものとは、足で操作する対象、検出部の検出する対象及びその検出値の使用目的の何れもが異なっている。

参考資料2には、ペダルブラケット1(本件特許発明1の「基板」に相当。)に、ペダルレバー3及びスイッチ部材10を取付けることが記載されている。(特に、段落【0007】?【0009】及び図1?4を参照。)
しかし、参考資料2記載のものは自動車のブレーキペダル又はクラッチペダルに関するものであって、本件特許発明1及び甲1発明のように、鞍乗り型車両又は自動二輪車の電動でシフト操作を行う変速機構に対して、シフト操作を行わせるためのシフト信号を出力するものではなく、甲1発明と参考資料2記載のものとは、足で操作する対象、検出部の検出する対象及びその検出値の使用目的の何れもが異なっている。

審判請求人は平成24年9月6日付け口頭審理陳述要領書第5ページ第11行?第6ページ第10行において、「運転者の足の操作に基づいて動く可動部を有する操作部と、その可動部が所定量以上移動したことを検出して検知信号を出力する検出部とを有する車両一般において、その操作部及び検出部を「車体フレームに着脱可能に取付けた基部」に取付けて、足の操作部及び検出部をユニット化するようなこと」が、甲第3号証、甲第7号証、甲第8号証、参考資料1及び参考資料2に開示されていて周知技術であり、甲第1発明に甲第3号証記載の技術を適用する際に「斯かる周知技術を勘案」する旨を主張している。
しかし、甲1発明と、甲第3、7、8号証及び参考資料1、2記載の事項との間では、前述のように足で操作する対象、検出部の検出する対象及びその検出値の使用目的の何れもが異なっており、操作部及び検知部の取付けに関して技術的課題に共通性があるものとは認められず、且つ、甲第3、7、8号証又は参考資料1、2に、これらのうちの何れかに記載の技術を甲1発明のような自動二輪車の変速操作のための操作部に適用することの示唆があるものでもない。
したがって、甲1発明に甲第3号証記載の事項を適用する動機付けが、甲第3、7、8号証又は参考資料1、2にあるとはいえない。

甲第1号証では、第6図(a)のエンジンに連なる変速機構が取付けられるケース部分には、上側が途中で破断された破断線が記載されていることから、甲1発明において、チェンジ操作子133のセクタギヤ134の部分、シフトレバ136、シフトアーム137、シフトドラム130及びマイクロスイッチ131はエンジンに連なる変速機構が取付けられるケースの内部に設けられるのに対して、チェンジ操作子133の操作される部分は、同じくケースの外部に設けられていると解される。
ところで、チェンジ操作子133、シフトレバ136、シフトアーム137、シフトドラム130及びマイクロスイッチ131を本件特許発明1でいうところの「いずれも前記鞍乗り型車両の車体フレーム又はエンジンケースに着脱自在に取り付けられる基部」に設けるためには、着脱自在な「基部」自体がエンジンケースの外部に設けられており、且つ、チェンジ操作子133、シフトレバ136、シフトアーム137、シフトドラム130及びマイクロスイッチ131もケースの外部に配置する必要がある。
しかし、甲1発明では、チェンジ操作子133のセクタギヤ134の部分、シフトレバ136、シフトアーム137、シフトドラム130及びマイクロスイッチ131は、「シフトドラム130を回転操作する構造は従来周知のものと同様」(甲第1号証の前記記載事項1d)を参照。)となるようにされ、何れもケースの内部に設けられているから、これらケースの内部に設けられたものを、着脱自在とするためにケースの外部に配置し、ケースの外部に設けられる基部に設けることに、必然性があるとはいえないし、その動機付けとなるような証拠があるものでもない。

このように、電動でシフト操作を行う変速機構の操作部及び検出部を、「いずれも前記鞍乗り型車両の車体フレーム又はエンジンケースに着脱自在に取り付けられる基部」に取付けること(上記相違点2に係る構成)は、甲第1?3、7、8号及び参考資料1、2に記載又は示唆されていない。
また、電動でシフト操作を行う変速機構の操作部及び検出部を、「いずれも前記鞍乗り型車両の車体フレーム又はエンジンケースに着脱自在に取り付けられる基部」に取付けることは、甲第5、6、9?12号証及び参考資料3?5に記載又は示唆されているとは認められない。

・ 小括
以上のことから、本件特許発明1の上記相違点2に係る構成は、甲第1?3、5?12号証及び参考資料1?5の記載から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲第1?3、5?12号証及び参考資料1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2?10について
本件特許発明2?10は、本件特許発明1に更に限定を加えたものであるから、同様に、甲第1?3、5?12号証及び参考資料1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明11について
a) 対比
上記「[相違点1]について」で述べたごとく、甲1発明では、本件特許発明1の操作部の一つに相当するチェンジ操作子が足の操作に基づいて動くものであることを考慮の上で、本件特許発明11と甲1発明とを対比すると、上記相違点2に加えて、次の点で相違する。

[相違点3]
電動でシフト操作を行う変速機構の「運転者による変速のための動作を検出するための検出機構」に関して、本件特許発明11では、「足による操作で荷重が掛けられる被荷重部を含む操作部と、前記操作部に掛かる前記荷重を検出し、前記検知信号を出力する検出部」であるのに対して、甲1発明では、足の操作に基づいて動くチェンジ操作子を操作することによって、シフトレバが揺動し、シフトアームが前後動し、シフトドラム及びピンが回転し、マイクロスイッチの一つが択一的に押圧されてオン状態となる点。

b) 判断
上記相違点について検討する。
[相違点2]について
相違点2についての判断は、本件特許発明1についての「[相違点2]について」の判断と同様である。

[相違点3]について
・ 甲第11号証に関して
甲第11号証記載のものは、シフト操作速度によっては変速機におけるシフトアップ作動が完了しないうちにエンジン出力制御が終了してしまうおそれがあることに鑑み、荷重センサの検出値に基づき、シフト操作荷重が設定荷重以上となるのに応じてシフト操作荷重の増加速度に応じた時間だけエンジン出力を変化させるようにしたものであって、シフトペダル12を含むシフト装置にはシフト操作荷重Mを検出するための荷重センサが配置されているから、「足による操作で荷重が掛けられる被荷重部を含む操作部と、前記操作部に掛かる前記荷重を検出し、前記検知信号を出力する検出部」に相当する構成を備えているといえる。(甲第11号証の前記記載事項4a)?4d)を参照。)
しかし、本件特許発明11では「電動でシフト操作される変速機構」であるのに対して、甲第11号証記載のものは、運転者のシフトペダル操作によって直接変速される変速機(変速機構)である点で、両者は変速機構の操作方法が異なる。
また、「足による操作で荷重が掛けられる被荷重部を含む操作部と、前記操作部に掛かる前記荷重を検出し、前記検知信号を出力する検出部」は、本件特許発明11では「運転者による変速のための動作を検出するための検出機構」として用いられ、該検知信号に基づいて変速機構がシフト操作されるのに対して、甲第11号証記載のものでは、変速に伴って実行されるエンジン出力制御に用いられる点で、両者は検出部の検知信号の使用目的が異なる。
このように、甲第11号証には、電動でシフト操作される変速機構の「運転者による変速のための動作を検出するための検出機構」として「足による操作で荷重が掛けられる被荷重部を含む操作部と、前記操作部に掛かる前記荷重を検出し、前記検知信号を出力する検出部」を用いることについては、記載又は示唆はされていないから、甲第11号証記載の上記技術を、甲1発明のシフト操作のための構成に適用する動機付けが有るとは認められず、また、仮に適用したとしても、それによって得られる構成は、検出部の検知信号を変速に伴って実行されるエンジン出力制御に用いるという、本件特許発明の上記相違点3とは異なったものしか構成されない。

・ その他の証拠及び参考資料に関して
電動でシフト操作を行う変速機構の「運転者による変速のための動作を検出するための検出機構」に関して、「足による操作で荷重が掛けられる被荷重部を含む操作部と、前記操作部に掛かる前記荷重を検出し、前記検知信号を出力する検出部」とすることは、甲第2?3、5?10、12号証及び参考資料1?5に記載又は示唆されているとは認められない。

審判請求人は平成24年9月6日付け口頭審理陳述要領書第7ページ第2?6行において「車両用操作部材の操作を検出する計測技術分野において、その操作を、操作部材の「移動量」で検出することも、或いは「操作荷重」で検出することも ・・・(中略)・・・ 技術常識」である旨を主張している。
しかし、電動でシフト操作を行う変速機構の「運転者による変速のための動作を検出するための検出機構」に関して、「足による操作で荷重が掛けられる被荷重部を含む操作部と、前記操作部に掛かる前記荷重を検出し、前記検知信号を出力する検出部」とすることについて、技術常識であったことを裏付けるような証拠があるものではない。

・ 小括
以上のことから、本件特許発明11の上記相違点2及び3に係る構成は、甲第1?3、5?12号証及び参考資料1?5の記載から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件特許発明11は、甲第1?3、5?12号証及び参考資料1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明12?13について
本件特許発明12?13は、本件特許発明1又は11に更に限定を加えたものであるから、同様に、甲第1?3、5?12号証及び参考資料1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5) まとめ
以上のとおり、本件特許発明1?13は、甲第1?3、5?12号証及び参考資料1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1?13の特許(本件特許の請求項1?13に係る発明の特許)を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-30 
結審通知日 2012-11-01 
審決日 2012-11-14 
出願番号 特願2006-529314(P2006-529314)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B62M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 出口 昌哉  
特許庁審判長 千馬 隆之
特許庁審判官 杉浦 貴之
小関 峰夫
登録日 2009-06-26 
登録番号 特許第4330080号(P4330080)
発明の名称 鞍乗り型車両の変速制御装置  
代理人 仁木 一明  
代理人 後藤 高志  
代理人 ▲ぬで▼島 愼二  
代理人 落合 健  

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