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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1267938
審判番号 不服2011-19108  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-05 
確定日 2012-12-26 
事件の表示 特願2005-106801「撮像装置、及びその制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月19日出願公開、特開2006-287749〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成17年4月1日の出願であって、平成23年6月2日付けで拒絶査定されたところ、これを不服として平成23年9月5日付けで本件審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成23年9月5日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年9月5日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)本件補正
平成23年9月5日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についての補正を含み、当該補正は、補正前の特許請求の範囲(平成22年7月6日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲)の請求項1ないし6の各請求項および 請求項8を削除し、その余の請求項7および請求項9をそれぞれ補正するものであるところ、請求項7についての補正は、当該請求項7を補正前は、
「撮像装置であって、
撮像対象人物から得られる音声情報を認識する音声認識手段と、
認識された前記音声情報が予め設定された音声である場合に、前記撮像装置を撮影準備状態に設定する制御手段と、
前記撮影準備状態において前記撮像装置から得られる動画像の各フレームにおける撮像対象人物の外観を認識する動画像認識手段と、
前記動画像認識手段によって認識された前記撮像対象人物の外観が予め設定された条件を満たした場合に、当該撮像対象人物の外観が得られたフレームの画像を記録する撮像手段と
を備えることを特徴とする撮像装置。」
としていたのを、
「【請求項1】
撮像装置であって、
撮像対象人物から得られる音声情報を認識する音声認識手段と、
認識された前記音声情報が予め設定された文章を意味する音声である場合に、前記撮像装置を撮影準備状態にする制御手段と、
前記撮影準備状態において前記撮像装置から得られる動画像の各フレームにおける撮像対象人物の外観を認識する動画像認識手段と、
前記動画像認識手段によって認識された前記撮像対象人物の表情が予め設定された表情である場合に、当該表情が得られたフレームの画像を撮像された画像として記録する撮像手段と
を備えることを特徴とする撮像装置。」
と補正するものである。(補正部分をアンダーラインで示す。)
なお、上記補正前の請求項7は、上記請求項1ないし6の各請求項の削除に伴い、項番号が7から1に繰り上げられている。

(2)補正の適法性
ア.補正の目的
上記請求項7の補正では、補正前の請求項7について次の補正がなされている。
a.予め設定された音声を「文章を意味する」音声に補正。
b.対象人物の「外観」を「表情」に補正。
c.予め設定された「条件を満たした」場合を、予め設定された「表情である」場合に補正。
d.「当該撮像対象人物の外観」が得られたフレームの画像を、「当該表情」が得られたフレームの画像に補正。
e.フレームの画像を記録する上で、「撮像された画像として」記録すると補正。
上記各補正は、いずれも、補正前の請求項7に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する(限定事項を付加する、あるいは下位概念に限定する)ものであって、補正の前後において当該請求項7に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認め得る。
よって、当該請求項7の補正は、特許法第17条の2第4項第2号で規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

イ.独立特許要件
そこで、上記補正がなされた請求項7(上記項番号の繰り上げによる補正後の請求項1)に係る発明(以下「補正後発明」という。)が独立特許要件(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定)を満たすか否かについて以下に検討する。
(ア)補正後発明
補正後発明は、上記補正後の請求項1の前記記載事項より特定されるものである。

(イ)引用例1
a.引用例1の記載
原査定の拒絶理由に引用された特開2002-290799号公報(以下「引用例1」という。)には、図面(図1?図6,図10等)と共に次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、画像処理システム、プリント受付装置、撮像装置及び撮像トリガー装置に関し、詳しくは、テーマパーク等でユーザが満足する撮像とプリントの入手が可能となり、ユーザにとっても、システム提供者にとっても無駄のない、画像処理システム、プリント受付装置、撮像装置及び撮像トリガー装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、テーマパークや景勝地に設置された撮像システムにおいては、一定の場所で一定のタイミングでしか撮像されない、撮像内容が大ざっぱで満足の行く映像が得られない等の問題があった。」

「【0026】上記課題を解決する請求項20に記載の発明は、撮像トリガー装置から送信される撮像トリガー信号に基づいて被写体を撮像して画像データを得る撮像装置であって、前記撮像トリガー装置のトリガー装置識別IDを検知するトリガー装置識別ID検知手段と、被写体を撮像して画像データを得る撮像手段と、前記画像データと前記トリガー装置識別IDとを対応付けるデータ結合手段と、前記データ結合手段で対応付けされた画像データ及びトリガー装置識別IDを伝送する伝送手段と、前記被写体が保持する前記撮像トリガー装置が撮像可能範囲に入ったことを検知する被写体検知手段と、前記撮像可能範囲に入った前記撮像トリガー装置から発信される撮像意思表示信号検知する撮像意思表示信号検知手段と、前記撮像意思表示信号に対応して、前記伝送手段による画像データの伝送を許可する画像データ伝送許可手段とを有することを特徴とする撮像装置である。」

「【0095】次に本発明において請求項34?36に記載の撮像トリガー装置の一例として採用されるリモコン装置について図3?図4に基づいて説明する。図3はリモコン装置の一例を示す図であり、図4はリモコン装置の機能ブロック図である。
【0097】図3に例示されるリモコン装置100は方形状の筐体の上面にLCD(液晶ディスプレイ)モニタ101を有し、該モニタ101の下方にスピーカ102と撮像ボタン103が併設されている。該モニタ101の上方にマイク104が設けられている。また筐体の下方側面にはコネクタ105が設けられている。筐体の上方側面には図示しないが、ICカードスロットが設けられている。
【0098】またリモコン装置100は、その他、アンテナ106、受発信部107(受信手段)、発信器108(発信手段)、制御部109、電源110、CCD112、LED113を有している。」

「【0131】図5に示す形態の撮像装置200は、一般的なデジタルカメラが備える撮像部202、ストロボ203、RAM204、ROM205、制御部206を有する。
【0132】撮像部202としては、例えばCCD、C-MOS等が用いられる。
【0133】本態様では、図示のように、センサ部207、スポットライト208、スピーカ209、モニタ201、駆動部210、I/F(インターフェース)211、送受信部213を有している。」

「【0139】I/F211はインプットチェーン300に接続しており、主にメインフレームAへの画像データ送信に用いられる。
【0140】送受信部213はリモコン装置100と直接に情報の授受を行うときに使用する。送受信の方式としては、IrDA(赤外線データ通信協会が制定する無線規格)、ブルートゥース(Bluetooth)、CDMA(発信者の信号には符号が付けられ、他の発信者の信号と合成されて受信者側に送る方式)等公知の無線通信方式が使用できる。」

「【0163】1.リモコン装置の起動
例えば、テーマパーク内の売店や自販機900等で、貸し出しされているリモコン装置100をICカードと共に購入する。
【0164】ICカードにはリモコン識別用IDデータが書き込まれており、当該ICカードをリモコン装置100に装着することで、リモコン装置100に内蔵の発信機は特定周波数の発信を開始し、撮像装置200による追尾が可能となる。」

「【0170】3.撮像例1
次に、撮像例1として、主として図10に基づき、以下に説明する。」

「【0175】ユーザが、リモコン装置100に対して撮像の意思表示(例えばマイクに対して「stand by」、「準備」等の発声、撮像ボタンの半押し等)を行う(S4)と、リモコン装置100から撮像装置200に対して、撮像意思表示が送信される(S5)。
【0176】撮像意思表示を受けた撮像装置200は、ストロボの発光準備、リモコン装置100を持つユーザに対するオートフォーカス、オートズーム、露光調整などの撮影の準備を行うとともに、インプットチェーン300を介してメインフレームAに対するパケットコール(データ受信要求)を行う(S6)。
【0177】パケットコールを受けたメーンフレームAは、撮像装置200からのデータ送信を受付可能な状態になる(S7)。
【0178】またこのとき、撮像装置200はリモコン装置100に対してトリガの要請を行い(S8)、かかる要請を受けたリモコン装置100はユーザに対してスピーカ等の各種ユーザインタフェースを用いてトリガの要請を行う(S9)。
【0179】ユーザが、リモコン装置100に対して撮像の指示(例えば、マイクに対して「shooting」、「撮像」等の発声、撮像ボタンの全押し等)を行う(S10)と、リモコン装置100から撮像装置200に対して、トリガ指示が送信される(S11)。」

「【0181】トリガ指示を受けた撮像装置200は、視線認識、オートズーム、オートフォーカス、オートズーム、オートポートレート等を実行する(S12)。前記動作は、「撮像準備」の段階でおおよその動作を行い、撮像トリガが出された時点で条件を確定する態様がベストモードである。ユーザがポーズを決めるのは、撮像トリガを出した瞬間であるためである。
【0182】撮像装置200はユーザに対して撮像タイミング通知(撮像までのカウントダウン等)等を行い、ユーザが撮像に備えることを促す(S13)。
【0183】または、撮像装置200から撮像タイミング情報を受けたリモコン装置は、撮像タイミング情報をユーザにスピーカ等の各種ユーザインターフェースに通知する(S14)。
【0184】撮像指示を受けた撮像装置200は、ユーザの撮像を行った(S15)後、画像データと関連データとの結合を行う(S16)。画像データと結合するデータは、少なくともリモコン識別ID、撮像時刻が含まれ、必要に応じてカメラ識別ID、撮像条件(カメラ仰角度、回転角度、撮像距離)等が付加される。結合の形態は、画像データのヘッド部に付加したり、画像データのファイル名に上記情報を付加することが可能である。
【0185】撮像装置200は結合済み画像データをメインフレームAに送信する(S17)。」

「【0188】画像データを受信したメインフレームAは、画像データをファイリングシステム720に転送する。」

b.引用例1記載の発明
引用例1には、上記のとおり撮像装置に関する発明が記載され、当該撮像装置は、テーマパークや景勝地に設置された撮像システムでの使用を前提とする(【0001】,【0002】)ものではあるが、一般的なデジタルカメラが備える撮像部202、ストロボ203、RAM204、ROM205、制御部206を有するもので(【0131】)、「撮像トリガー装置から送信される撮像トリガー信号に基づいて被写体を撮像して画像データを得る」(【0026】)ものである。
そして、引用例1記載の発明では、上記撮像装置により次のようにして撮像を行うようにしている。
1)上記撮像トリガー装置は、一例としてリモコン装置であって(【0095】)、当該リモコン装置には、LCD(液晶ディスプレイ)モニタ101,スピーカ102,撮像ボタン103,マイク104等が設けられている。(【0097】)
2)当該撮像装置による撮像例1(図10参照)では、「ユーザが、リモコン装置100に対して撮像の意思表示(例えばマイクに対して『stand by』、『準備』等の発声、撮像ボタンの半押し等)を行う(S4)と、リモコン装置100から撮像装置200に対して、撮像意思表示が送信される(S5)。」(【0175】)
3)「撮像意思表示を受けた撮像装置200は、ストロボの発光準備、リモコン装置100を持つユーザに対するオートフォーカス、オートズーム、露光調整などの撮影の準備を行う」(【0176】)
4)「またこのとき、撮像装置200はリモコン装置100に対してトリガの要請を行い(S8)、かかる要請を受けたリモコン装置100はユーザに対してスピーカ等の各種ユーザインタフェースを用いてトリガの要請を行う(S9)。」(【0178】)
5)「ユーザがリモコン装置100に対して撮像の指示(例えば、マイクに対して『shooting』、『撮像』等の発声、撮像ボタンの全押し等)を行う(S10)と、リモコン装置100から撮像装置200に対して、トリガ指示が送信される(S11)。」(【0179】)
6)「撮像指示を受けた撮像装置200は、ユーザの撮像を行った後、画像データと関連データとの結合を行う。(S16)」【0184】
「撮像装置200は結合済み画像データをメインフレームAに送信する(S17)。」(【0185】)
7)「画像データを受信したメインフレームAは、画像データをファイリングシステム720に転送する」(【0188】)

(ウ)対比
以下、補正後発明の各要件について上記引用例1に記載された発明(以下「引用発明」ともいう)と対比する。
a.撮像装置(発明の対象)について
補正後発明と引用発明とは、いずれも撮像装置を対象とするものある。

b.音声認識手段、制御手段について
補正後発明の撮像装置は、「 撮像対象人物から得られる音声情報を認識する音声認識手段と、認識された前記音声情報が予め設定された文章を意味する音声である場合に、前記撮像装置を撮影準備状態にする制御手段と」を備えているが、これら手段は、基本的には、“撮像対象人物から得られる特定の音声情報に応答して撮像装置を撮影準備状態にする制御手段”といえるものである。
これに対し、引用発明では、上記のとおり、
「ユーザが、リモコン装置100に対して撮像の意思表示(例えばマイクに対して『stand by』、『準備』等の発声、撮像ボタンの半押し等)を行う(S4)と、リモコン装置100から撮像装置200に対して、撮像意思表示が送信される(S5)。」(【0175】)
「撮像意思表示を受けた撮像装置200は、ストロボの発光準備、リモコン装置100を持つユーザに対するオートフォーカス、オートズーム、露光調整などの撮影の準備を行う」(【0176】)
ようにしており、このような引用発明での撮影の準備は、当該準備を上記ユーザの発声により行う場合についてみると、“ユーザから得られる特定の音声情報に応答して撮像装置を撮影準備状態にする”ものといえ、また引用発明はそのようにする上での適宜の制御手段を有しているといえる。
ここで、引用発明の上記撮像装置200は、「ユーザの撮像」を行う(【0184】)ものである(したがって上記撮影の準備も「ユーザに対する」オートフォーカスなどの撮影準備を行うものである)から、上記ユーザは、ユーザ自身が「撮像対象人物」であり、したがって上記「ユーザから得られる音声情報」は、「撮像対象人物から得られる音声情報」に他ならない。
そうすると、補正後発明と引用発明の各撮像装置は、いずれも、“撮像対象人物から得られる特定の音声情報に応答して撮像装置を撮影準備状態にする制御手段”を備えているといえ、よってこの点では一致している。
しかしながら、補正後発明では、撮像装置を上記のように特定の音声情報に応答して撮影準備状態にする上で、撮像装置に「音声情報を認識する音声認識手段」を設け、「認識された前記音声情報が予め設定された文章を意味する音声である場合に」撮像装置を撮影準備状態にしており、この点では引用発明と相違する。すなわち、引用発明では、上記音声情報を特に音声認識手段で認識するとはしていないし、また引用発明での上記音声情報は、上記のように「stand by」、「準備」等の音声情報であって、特に「文章を意味する」ものであるとはいえない。

c.動画像認識手段、撮像手段について
補正後発明の撮像装置は、
「前記撮影準備状態において前記撮像装置から得られる動画像の各フレームにおける撮像対象人物の外観を認識する動画像認識手段と、
前記動画像認識手段によって認識された前記撮像対象人物の表情が予め設定された表情である場合に、当該表情が得られたフレームの画像を撮像された画像として記録する撮像手段」
を備えている。
これに対し、引用発明の撮像装置は、上記のような動画像認識手段を備えるものではなく、したがって上記のような表情の認識に応じて得たフレームの画像を撮像された画像として記録するものではない。
すなわち、引用発明の撮像装置は、上記のとおり、撮影の準備がなされるのに続いて、「ユーザがリモコン装置100に対して撮像の指示(例えば、マイクに対して『shooting』、『撮像』等の発声、撮像ボタンの全押し等)を行う(S10)と、リモコン装置100から撮像装置200に対して、トリガ指示が送信される(S11)。」(【0179】)
「撮像指示を受けた撮像装置200は、ユーザの撮像を行った(S15)後、画像データと関連データとの結合を行う。(S16)」【0184】
「撮像装置200は結合済み画像データをメインフレームAに送信する(S17)。」(【0185】)
「画像データを受信したメインフレームAは、画像データをファイリングシステム720に転送する」(【0188】)
ようにしたもの、つまり、撮影準備状態においてユーザによる撮像の指示を受けて撮像を行い、撮像した画像データをメインフレームA経由でファイリングシステム720に転送する(当該ファイリングシステム720で記録する)ようにしたものである。
よって、引用発明は、補正後発明における上記動画像認識手段、撮像手段についての各要件を有するものではなく、この点で補正後発明と相違する。
しかしながら、補正後発明と引用発明の各撮像装置は、いずれも、撮影準備状態において所要のタイミングで撮像を行う撮像手段を備えているといえ、この点では一致している。

(エ)一致点、相違点
上記(ウ)での対比結果をまとめると、補正後発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。
[一致点]
両者はいずれも、
「撮像装置であって、
撮像対象人物から得られる特定の音声情報に応答して撮像装置を撮影準備状態にする制御手段と、
前記撮影準備状態において所要のタイミングで撮像を行う撮像手段と
を備えることを特徴とする撮像装置」
であるといえる点。

[相違点]
相違点(1)
補正後発明では、「撮像対象人物から得られる音声情報を認識する音声認識手段」を設け、上記制御手段を「認識された前記音声情報が予め設定された文章を意味する音声である場合に、」撮像装置を撮影準備状態にするものとしているのに対し、引用発明では上記制御手段を特にそのようなものとはしていない点。
相違点(2)
補正後発明では、「前記撮影準備状態において前記撮像装置から得られる動画像の各フレームにおける撮像対象人物の外観を認識する動画像認識手段」を設け、上記撮像手段を「前記動画像認識手段によって認識された前記撮像対象人物の表情が予め設定された表情である場合に、当該表情が得られたフレームの画像を撮像された画像として記録する」ものとしているのに対し、引用発明では、上記のような動画像認識手段は設けられておらず、上記撮像手段は、撮影準備状態においてユーザによる撮像の指示を受けて撮像を行い、撮像した画像データをメインフレームA経由でファイリングシステムに転送する(当該ファイリングシステムで記録する)ようにしたものである点。

(オ)判断
a.相違点(1)について
撮像対象人物から得られる特定の音声情報に応答して撮像装置を撮影準備状態にする上で、引用発明でも上記特定の音声情報を判別する何らかの手段が必要なことは明らかである。特に引用発明では、上記のとおり、「stand by」、「準備」等の音声情報によって撮像装置を撮影準備状態にする他、「shooting」、「撮像」等の音声情報によって撮像の指示をも行い得るようにしているのであるから、上記特定の音声情報の判別は、音声情報の意味内容が識別可能な精度で行うのが望ましいことは当業者には容易に理解できることである。
一方、音声情報を認識する音声認識手段は、いうまでもなく周知の技術であって、一般に単語や文章等を意味する音声情報をその意味内容が識別可能な精度で認識し判別するするために広く用いられているものである。
そうすると、引用発明において、上記特定の音声情報を判別するための手段として、補正後発明のように上記周知の音声認識手段を用い、「認識された前記音声情報が予め設定された文章を意味する音声である場合に、」撮像装置を撮影準備状態にするようにすることは当業者が容易に想到し得たというべき事項である。
また、上記音声認識手段を用いるに際し、補正後発明では、当該音声認識手段を撮像装置自体に設けている点について、引用発明においては、上記音声認識手段を撮像装置自体には設けずに上記リモコン装置100に設けることも考えられる。しかしながら、引用発明の撮像装置は、前記のとおり、テーマパーク等に設置された撮像システムでの使用を前提とする(【0002】)ものであり、上記リモコン装置100は、引用例1の前記【0163】に記載されるように、例えばテーマパーク内の売店や自販機等で貸し出される(多数の来客に個々に貸し出される)ものであるから、当該リモコン装置100のそれぞれに、上記のような音声情報の意味内容が識別可能な精度の音声認識手段を設けるとコスト面で不利であること、引用発明の撮像装置は、もともとリモコン装置100との間で種々の無線通信方式で通信可能なものであり(【0140】)、したがって、リモコン装置100から送信された音声情報を撮像装置で受信して、撮像装置側に設けた音声認識手段で認識するようにもできることは当業者に容易に理解できることであるから、これらの点を考慮すると、上記音声認識手段を撮像装置側に設けるようにすることは当業者が設計上の選択事項として適宜なし得たというべき事項である。
したがって、引用発明に対する補正後発明の上記相違点(1)は、当業者が容易に想到し得たものである。

b.相違点(2)について
(a)引用例2記載の技術
原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-294498号公報(以下「引用例2」という。)には、自動撮影システムに関し、被写体が望ましい表情になったときに自動的に撮影できるようにすることを課題として、カメラにより撮影された画像から人物の被写体の表情を表す形状を繰り返し抽出し、抽出された被写体の形状と所定の形状との一致度を算出して、算出された一致度が所定の値を越えたときに被写体を撮影するようにした技術が記載されている。(【要約】の項等参照)
(b)相違点(2)の想到容易性
(b-1)基本的要件について
補正後発明の上記相違点(2)に係る要件は、基本的には、撮像対象人物の表情が予め設定された表情(望ましい表情)であるときに自動的に撮像がなされるようにしたといえるものであるが、そのような基本的要件は、上記引用例2記載の技術により既に開示されている。
そして当該引用例2記載の技術(以下「引用例2の撮影手法」ともいう)を上記引用発明に適用し、引用発明の上記撮像手段において、ユーザの指示を受けて撮像を行うのに代えて、上記設定された表情での自動撮像がなされるようにすることは、次のとおり当業者が容易に想到し得たというべき事項である。
すなわち、一般に撮像装置(スチルカメラ)で人物を撮像する場合、引用発明のようにユーザの指示によって撮像すると、必ずしも望ましい表情(例えば笑顔)で撮像できないことは日常的に経験されるところであるが、引用例2の撮影手法では、被写体(人物)が望ましい表情になったときに自動的に撮影を行うようにするというのであるから、当該撮影手法の上記ユーザ指示による撮影に比した利点は明らかである。特に、引用例2の撮影手法は、引用例2(段落【0001】,【0002】,【0006】等)の記載によると、自動撮影システムとして例えばテーマパーク等に設置した撮影装置による撮影を前提とするもので、来場者のより生き生きとした自然な笑顔での撮影を可能としたものともいえるところ、引用発明の撮像装置も、前記のとおり、テーマパーク等に設置することを前提とするものであり、この点からも当該撮像装置への引用例2の撮影手法の適用は容易に予測されることといえる。
よって、引用発明に引用例2の撮影手法を適用し、引用発明の撮像手段において、ユーザの指示を受けて撮像を行うのに代えて、撮像対象人物の表情が予め設定された表情であるときに自動的に撮影がなされるようにすることは、当業者が容易に想到し得たというべき事項である。
(b-2)表情判定の対象とする画像フレームについて
補正後発明の上記相違点(2)に係る要件は、上記撮像対象人物の表情判定の対象とする画像フレームについて、「前記撮影準備状態において前記撮像装置から得られる動画像の各フレーム」としているところ、この点は、明細書(段落【0036】,【0045】,【0046】等)の記載に照らし、上記「撮影準備状態」が一般のカメラ(デジタルスチルカメラ)においてシャッタを半押しした状態と同じ状態であって、この状態でAEやAFの制御が行われるとともに撮像された動画像(その各フレームの画像)がバッファメモリへ順次取り込まれることを前提に、当該撮影準備状態において撮像される(撮像装置で得られる)動画像の各フレーム毎に上記の表情判定を行うというものである。
一方、上記引用例2の撮影手法で撮影を行うカメラは、引用例2の段落【0024】の記載によると、デジタルスチルカメラや静止画が撮影可能なデジタルビデオカメラであって、「撮像部30は制御部20から撮影信号を受け取ると、レンズ31のフォーカスやシャッター32の速度や絞り33等を調整して撮像した画像400をメモリ40に一旦記録し、さらに、画像400をメモリ40から画像記録部50に移して順次蓄積していく。」というものである。ここで、上記段落【0024】の記載中、「撮像部30は制御部20から撮影信号を受け取ると、レンズ31のフォーカスやシャッター32の速度や絞り33等を調整して撮像した画像400をメモリ40に一旦記録し、」とは、上記カメラがデジタルスチルカメラである場合、その一般的な撮像動作に照らし、撮影信号(撮影準備の指示信号)に応じて、当該カメラを、AF、AE等の制御(フォーカス、シャッタ速度、絞り等の調整)や、撮像した動画像(画像400)のバッファメモリ(メモリ400)への取り込みを行う撮影準備状態とすることをいうものと理解される。
そして、そのような前提の下に、上記引用例2の撮影手法では、上記表情判定のために、上記撮像対象人物の表情を表す形状を撮影画像から「繰り返し抽出」するというのであるから、この繰り返しの抽出は、上記撮影準備状態において撮影される(バッファメモリに取り込まれる)動画像の各フレーム画像から上記表情を表す形状(形状部分)を順次抽出していると解され、したがってまた、当該抽出された形状に基づく上記表情判定は、上記動画像の各フレーム画像毎になされていると解される。
そうすると、補正後発明において、上記撮像対象人物の表情判定の対象とする画像フレームにつき、上記のように「前記撮影準備状態において前記撮像装置から得られる動画像の各フレーム」としている点は、上記引用例2の撮影手法でも同様になされているといえ格別のものではない。
(b-3)表情の判定手法について
補正後発明の上記相違点(2)に係る要件は、撮像対象人物の表情が予め設定された表情であるかどうかの判定手法についてみると、動画像認識手段により撮像対象人物の外観を認識し、認識された撮像対象人物の表情が予め設定された表情であるかどうかを判定しているものであるところ、上記撮像対象人物の「外観」を認識するとは、明細書(段落【0028】、【0032】等)の記載に照らし、実質的には「表情」を認識するものであるから、上記表情の判定手法は、まず撮像対象人物の表情を認識し、認識した表情が予め設定された表情であるかどうかを判定しているものといえる。
これに対し、上記引用例2の撮影手法での撮像対象人物の表情の判定手法は、上記したように、撮影画像から抽出した被写体人物(撮像対象人物)の表情を表す形状と所定の形状との一致度を算出し、算出された一致度が所定の値を越えたかどうかを判定しているものであるから、補正後発明の上記表情の判定手法とは異なるものである。
しかしながら、両者の表情判定手法は、いずれも撮像対象人物の表情が予め設定された表情であるかどうかを判定する手法として同等のものである。
そして、人物の表情の判定手法として、人物の表情自体を認識する表情認識技術は、本願明細書でも技術文献を掲げて説明しているように、それ自体は周知の技術であって、上記撮像対象人物の表情の判定も人物の表情を判定するのであるから、その判定に適宜上記周知の表情認識技術が利用可能であることは当業者に明らかというべき事項である。
よって、引用例2の上記判定手法に代え、補正後発明のように、上記周知の表情認識技術を用い、まず撮像対象人物の表情を認識し、認識した表情が予め設定された表情であるかどうかを判定するようにすることは、上記撮像対象人物の表情を判定する上での一実施態様として当業者が適宜なし得たというべき事項である。
また、補正後発明では、上記表情の認識を行う手段を「動画像認識手段」としているが、この点は、上記表情の認識が上記(b-2)に記したように撮像された動画像の各フレーム毎に行われることから、当該表情の認識を行う手段を「動画像認識手段」と称しているものと解されところ、引用例2の撮影手法でも、上記(b-2)で認定したとおり、撮像した動画像の各フレーム毎に上記表情の判定がなされており、当該判定を表情の認識によって行うようにした場合(そのようにすることは、上記(b-2)に記したように当業者が適宜なし得たことである。)、当該表情の認識を行う手段は、補正後発明でいうのと同様、「動画像認識手段」といえるものである。
よって、補正後発明における上記「動画像認識手段」が格別のものであるとは認められない。
(b-4)撮像された画像とするフレーム画像とその記録について
補正後発明の前記相違点(2)に係る要件では、上記撮像対象人物の表情判定、すなわち撮像対象人物の表情が予め設定された表情であるかどうかの判定が、上記のとおり、撮影準備状態において撮像される動画像の各フレーム毎に行われることを前提に、「前記撮像対象人物の表情が予め設定された表情である場合に、当該表情が得られたフレームの画像を撮像された画像として」いるところ、一般にデジタルスチルカメラでは、撮影準備状態において撮像される動画像の一連のフレーム(上記のようにバッファメモリに取り込まれてる)から所要のフレームの画像を撮像画像として抽出しており、上記表情判定による撮像を行う場合には、所要のフレームの画像は上記予め設定された表情が得られたフレームの画像であるから、当該フレームの画像を撮像画像として抽出することは、上記表情判定による撮像を行う場合の当然の事項にすぎず、上記引用例2の撮影手法でも、上記のとおり、例えばデジタルスチルカメラによって上記表情判定による撮像を行っているのであるから、当然、予め設定された表情が得られたフレームの画像を撮像画像として抽出していると認められる。
また、補正後発明の上記相違点(2)に係る要件では、上記抽出したフレームの画像を撮像された画像として記録する、つまり当該画像を撮像装置で記録するようにしているが、引用例2の上記段落【0024】の記載、特に当該記載中の「撮像した画像400をメモリ40に一旦記録し、さらに、画像400をメモリ40から画像記録部50に移して順次蓄積していく。」との記載によると、引用例2の上記デジタルスチルカメラでも、上記抽出したフレームの画像を撮像された画像として記録していることが明らかである。
ここで、引用発明では、上記のとおり、撮像された画像を撮像装置では記録せずに、メインフレームA経由でファイリングシステムに転送する(当該ファイリングシステムで記録する)ようにしており、この点は、引用発明の撮像装置が、前記のとおり、テーマパークや景勝地に設置された撮像システムでの使用を前提としていることから、各所に設置された撮像装置で撮像された画像を上記ファイリングシステムに集約して効率よく記録できるようにしているともいえる。
しかしながら、引用例2の撮影手法も、前記のとおり、自動撮影システムとして例えばテーマパーク等に設置した撮影装置による撮影を前提とするものであり、そのような撮影を行う場合でも、撮影された画像を撮影装置自体で記録するようにもなし得ることを開示するものである。
よって、引用発明の撮像装置において、撮像された画像を上記ファイリングシステムに転送する(当該ファイリングシステムで記録する)のに代え、補正後発明のように、撮像装置自体で記録するようにすることは、上記引用例2の開示から当業者が容易に想到し得たことである。

c.まとめ(補正後発明の容易性)
以上のように、補正後発明の上記相違点(1)、(2)に係る要件は、いずれも当業者が容易に想到し得たといえるものであり、また、補正後発明の効果についてみても、上記(1)、(2)の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず格別顕著なものがあるとは認められない。
したがって、補正後発明は、上記引用例1に記載された発明、引用例2記載の技術および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

ウ.むすび(補正却下の決定)
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成23年9月5日付けの手続補正は上記のとおり却下したので、本件出願に係る発明は、平成22年7月6日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1ないし9の各請求項に係る発明であるところ、これらの発明のうち、請求項7(上記補正後の請求項1に対応)に係る発明(以下、これを「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「撮像装置であって、
撮像対象人物から得られる音声情報を認識する音声認識手段と、
認識された前記音声情報が予め設定された音声である場合に、前記撮像装置を撮影準備状態に設定する制御手段と、
前記撮影準備状態において前記撮像装置から得られる動画像の各フレームにおける撮像対象人物の外観を認識する動画像認識手段と、
前記動画像認識手段によって認識された前記撮像対象人物の外観が予め設定された条件を満たした場合に、当該撮像対象人物の外観が得られたフレームの画像を記録する撮像手段と
を備えることを特徴とする撮像装置。」

(2)原査定の理由
原査定の理由は、平成22年8月31日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって本願を拒絶するというものであって、当該理由は、概要、本願発明は下記の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

刊行物1:特開2002-290799号公報
刊行物2:特開2005-027002号公報
刊行物3:特開2004-294498号公報

(3)刊行物1の記載、刊行物1記載の発明、刊行物3記載の技術
上記刊行物1は、前記2.(2)イ.(イ)で引用した引用例1であって、その記載は前記2.(2)イ.(イ)a.に示したとおりであり、また、この記載から把握される引用例1記載の発明は同b.で認定したとおりである。また、上記刊行物3は、前記2.(2)イ.(オ)b.(a)で引用した引用例2であり、当該引用例2に記載された技術は同(a)で認定したとおりである。

(4)判断
本願発明を前記補正後発明との対応でみると、本願発明では、その要件において補正後発明における次の各限定がない。〔前記2.(2)の「ア.補正の目的」の項参照〕
a.予め設定された音声が「文章を意味する」音声であるとの限定。
b.対象人物の「外観」が「表情」であるとの限定。
c.予め設定された「条件を満たした」場合が、予め設定された「表情である」場合であるとの限定。
d.「当該撮像対象人物の外観」が得られたフレームの画像が、「当該表情」が得られたフレームの画像であるとの限定。
e.フレーム画像を記録する上で「撮像された画像として」記録するとの限定。
しかしながら、本願発明がその要件として上記の各限定を特に排除しているわけではなく、これら限定があるものを含むことは明細書の記載に照らし明らかである。
また、本願発明はその余の点では前記補正後発明と同じである。
よって、本願発明は、前記補正後発明について前記2.(2)イ.の(ウ)ないし(オ)で認定、判断したとおり、上記引用例1に記載された発明、引用例2記載の技術および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである

4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項7に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、本願の他の請求項1ないし6および8、9に係る各発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-30 
結審通知日 2012-11-02 
審決日 2012-11-13 
出願番号 特願2005-106801(P2005-106801)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
P 1 8・ 575- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 誠治  
特許庁審判長 藤内 光武
特許庁審判官 涌井 智則
小池 正彦
発明の名称 撮像装置、及びその制御方法  
代理人 永川 行光  
代理人 大塚 康徳  
代理人 木村 秀二  
代理人 下山 治  
代理人 高柳 司郎  
代理人 大塚 康弘  

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