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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L |
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管理番号 | 1267960 |
審判番号 | 不服2010-29048 |
総通号数 | 158 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-02-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-12-24 |
確定日 | 2012-12-27 |
事件の表示 | 特願2005-49777「エポキシ樹脂組成物及び半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年9月7日出願公開、特開2006-233016〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成17年2月24日の出願であって、平成22年6月17日付けで拒絶理由が通知され、同年8月20日に意見書が提出され、同年9月17日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年12月24日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正書が提出され、平成23年2月16日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年5月26日付けで前置報告がなされ、それに基づいて当審で平成24年5月29日付けで審尋がなされ、同年7月27日に回答書が提出されたものである。 第2 平成22年12月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [結論] 平成22年12月24日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 平成22年12月24日付けの手続補正(以下、「当審補正」という。)は、本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲について 「【請求項1】 結晶性エポキシ樹脂(A)、一般式(1)で表されるフェノール樹脂(B)、一般式(2)で表される硬化促進剤(C)、無機充填材(D)、シリコーンゴム粒子、シリコーン樹脂粒子及び表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子から選ばれる少なくとも1種であり、その平均粒径が0.3μm以上、5μm以下であり、最大粒径が10μm以下である低応力改質剤(E)を必須成分とし、前記低応力改質剤(E)を全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、5重量%以下の割合で含むことを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【化1】 (ただし、上記一般式(1)において、R1、R2は水素又は炭素数4以下のアルキル基で互いに同一でも異なっていても良い。aは0?4の整数、bは0?4の整数、cは0?3の整数。nは平均値で0?10の数。) 【化2】 (ただし、上記一般式(2)において、Xは水素又は炭素数1?3のアルキル基、Yは水素又はヒドロキシル基を表す。m、nは1?3の整数。) 【請求項2】 前記無機充填材(D)が全エポキシ樹脂組成物中に85重量%以上、95重量%以下の割合で含まれる請求項1に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【請求項3】 芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(F)が全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、0.5重量%以下の割合で含まれる請求項1又は2に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【請求項4】 請求項1ないし3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止してなることを特徴とする半導体装置。 【請求項5】 基板の片面に半導体素子が搭載され、この半導体素子が搭載された基板面側の実質的に片面のみの封止に用いるものであって、 結晶性エポキシ樹脂(A)、下記一般式(1)で表されるフェノール樹脂(B)、一般式(2)で表される硬化促進剤(C)、無機充填材(D)、シリコーンゴム粒子、シリコーン樹脂粒子及び表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子から選ばれる少なくとも1種であり、その平均粒径が0.3μm以上、5μm以下であり、最大粒径が10μm以下である低応力改質剤(E)を必須成分とし、前記低応力改質剤(E)を全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、5重量%以下の割合で含むことを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【化3】 (ただし、上記一般式(1)において、R1、R2は水素又は炭素数4以下のアルキル基で互いに同一でも異なっていても良い。aは0?4の整数、bは0?4の整数、cは0?3の整数。nは平均値で0?10の数。) 【化4】 (ただし、上記一般式(2)において、Xは水素又は炭素数1?3のアルキル基、Yは水素又はヒドロキシル基を表す。m、nは1?3の整数。) 【請求項6】 前記無機充填材(D)が全エポキシ樹脂組成物中に85%以上、95重量%以下の割合で含まれる請求項5に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【請求項7】 芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(F)が全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、0.5重量%以下の割合で含まれる請求項5又は6に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【請求項8】 基板の片面に半導体素子が搭載され、この半導体素子が搭載された基板面側の実質的に片面のみが請求項5ないし7のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を用いて封止されていることを特徴とするエリア実装型半導体装置。」 を、 「【請求項1】 結晶性エポキシ樹脂(A)、一般式(1)で表されるフェノール樹脂(B)、一般式(2)で表される硬化促進剤(C)、無機充填材(D)、及び、低応力改質剤(E)を必須成分とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、前記低応力改質剤(E)が、表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子であり、その平均粒径が0.3μm以上、5μm以下であり、最大粒径が10μm以下であり、全半導体封止用エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、5重量%以下の割合で含まれることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【化1】 (ただし、上記一般式(1)において、R1、R2は水素又は炭素数4以下のアルキル基で互いに同一でも異なっていても良い。aは0?4の整数、bは0?4の整数、cは0?3の整数。nは平均値で0?10の数。) 【化2】 (ただし、上記一般式(2)において、Xは水素又は炭素数1?3のアルキル基、Yは水素又はヒドロキシル基を表す。m、nは1?3の整数。) 【請求項2】 前記無機充填材(D)が全エポキシ樹脂組成物中に85重量%以上、95重量%以下の割合で含まれる請求項1に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【請求項3】 芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(F)が全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、0.5重量%以下の割合で含まれる請求項1又は2に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【請求項4】 請求項1ないし3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止してなることを特徴とする半導体装置。 【請求項5】 基板の片面に半導体素子が搭載され、この半導体素子が搭載された基板面側の実質的に片面のみの封止に用いるものであって、 結晶性エポキシ樹脂(A)、一般式(1)で表されるフェノール樹脂(B)、一般式(2)で表される硬化促進剤(C)、無機充填材(D)、及び、低応力改質剤(E)を必須成分とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、前記低応力改質剤(E)が、表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子であり、その平均粒径が0.3μm以上、5μm以下であり、最大粒径が10μm以下であり、全半導体封止用エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、5重量%以下の割合で含まれることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【化3】 (ただし、上記一般式(1)において、R1、R2は水素又は炭素数4以下のアルキル基で互いに同一でも異なっていても良い。aは0?4の整数、bは0?4の整数、cは0?3の整数。nは平均値で0?10の数。) 【化4】 (ただし、上記一般式(2)において、Xは水素又は炭素数1?3のアルキル基、Yは水素又はヒドロキシル基を表す。m、nは1?3の整数。) 【請求項6】 前記無機充填材(D)が全エポキシ樹脂組成物中に85%以上、95重量%以下の割合で含まれる請求項5に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【請求項7】 芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(F)が全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、0.5重量%以下の割合で含まれる請求項5又は6に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【請求項8】 基板の片面に半導体素子が搭載され、この半導体素子が搭載された基板面側の実質的に片面のみが請求項5ないし7のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を用いて封止されていることを特徴とするエリア実装型半導体装置。」 とするものを含むものである。 2.新規事項の有無及び補正の目的について 当審補正は、請求項1において、下記補正事項1の補正をするものを含むものである。 <補正事項1>低応力改質剤(E)として、「シリコーンゴム粒子、シリコーン樹脂粒子及び表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子から選ばれる少なくとも1種」から、「表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子」に変更する補正。 補正事項1は、当審補正前の請求項1において、発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「低応力改質剤(E)」について、その一部の選択肢を削除し、「表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子」のみに限定するものであって、これは願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の記載(段落0028、0037及び0045?0047等)に基づくものであり、補正事項1は、当初明細書に記載した事項の範囲内でしたものである。 そして、補正事項1により、この補正の前後で発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題に変更はない。 そうすると、補正事項1は、いわゆる限定的減縮を目的とするものと認められる。 3.独立特許要件について 上記第2 2.に記載したとおり、補正後の請求項1に係る当審補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、補正後の請求項1に係る当審補正が、同条第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものか否かについて以下検討する。 (1)請求項1に係る発明 請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、次のとおりのものである。 「結晶性エポキシ樹脂(A)、一般式(1)で表されるフェノール樹脂(B)、一般式(2)で表される硬化促進剤(C)、無機充填材(D)、及び、低応力改質剤(E)を必須成分とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、前記低応力改質剤(E)が、表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子であり、その平均粒径が0.3μm以上、5μm以下であり、最大粒径が10μm以下であり、全半導体封止用エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、5重量%以下の割合で含まれることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【化1】 (ただし、上記一般式(1)において、R1、R2は水素又は炭素数4以下のアルキル基で互いに同一でも異なっていても良い。aは0?4の整数、bは0?4の整数、cは0?3の整数。nは平均値で0?10の数。) 【化2】 (ただし、上記一般式(2)において、Xは水素又は炭素数1?3のアルキル基、Yは水素又はヒドロキシル基を表す。m、nは1?3の整数。)」 (2)引用刊行物 刊行物1:特開2001-233937号公報(平成22年6月17日付け拒絶理由通知書における引用文献1) (3)引用刊行物の記載事項 本願出願前に頒布された刊行物1には、以下のことが記載されている。 摘示ア 「【請求項1】 (A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化促進剤、及び(D)無機充填剤を必須成分とし、260℃における曲げ強度が0.8kg/mm^(2)以上で、かつ(D)無機充填剤の配合量が75重量%以上である封止用エポキシ樹脂成形材料。 【請求項2】 (D)無機充填剤の配合量が80?95重量%である請求項1記載の封止用エポキシ樹脂成形材料。 【請求項3】 260℃における曲げ強度が1.0?2.0kg/mm^(2)である請求項1又は請求項2記載の封止用エポキシ樹脂成形材料。 【請求項4】 260℃における曲げ弾性率が20?60kg/mm^(2)である請求項1?3のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂成形材料。 【請求項5】 (A)エポキシ樹脂が下記一般式(I)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂及び/又は下記一般式(II)で示されるビスフェノールF型エポキシ樹脂を含有してなる請求項1?4のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂成形材料。 【化1】 (ここで、R^(1)?R^(4)は水素原子及び炭素数1?10の置換又は非置換の一価の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよい。nは0?3の整数を示す。) 【化2】 (ここで、R^(1)?R^(8)は水素原子、炭素数1?10のアルキル基、炭素数1?10のアルコキシル基、炭素数6?10のアリール基、及び炭素数6?10のアラルキル基から選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよい。nは0?3の整数を示す。) 【請求項6】 (B)硬化剤が下記一般式(III)で示されるフェノール・アラルキル樹脂及び/又は下記一般式(IV)で示されるビフェニル型フェノール樹脂を含有してなる請求項1?5のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂成形材料。 【化3】 (ここで、Rは水素原子及び炭素数1?10の置換又は非置換の一価の炭化水素基から選ばれ、nは0?10の整数を示す。) 【化4】 (ここで、R^(1)?R^(9)は水素原子、炭素数1?10のアルキル基、炭素数1?10のアルコキシル基、炭素数6?10のアリール基、及び炭素数6?10のアラルキル基から選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよい。nは0?10の整数を示す。) 【請求項7】 (C)硬化促進剤が有機ホスフィンとキノン化合物との付加物である請求項1?6のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂成形材料。 【請求項8】 請求項1?7のいずれかに記載の封止用エポキシ樹脂成形材料により封止された素子を備えた電子部品装置。」(特許請求の範囲請求項1?8) 摘示イ 「【発明の属する技術分野】本発明は、耐リフロー性、耐湿性、高温放置特性等の厳しい信頼性を要求されるVLSIの封止用に特に好適な封止用エポキシ樹脂成形材料、及びこの成形材料で封止した素子を備えた電子部品装置に関する。」(段落0001) 摘示ウ 「さらに、本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料には、その他の添加剤として、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックス、ポリエチレン、酸化ポリエチレン等の離型剤、カーボンブラック等の着色剤、シリコーンオイルやシリコーンゴム粉末等の応力緩和剤などを必要に応じて配合することができる。」(段落0025) 摘示エ 「本発明で得られる封止用エポキシ樹脂成形材料により素子を封止して得られる電子部品装置としては、・・・本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料で素子を封止したBGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Size Package)などが挙げられる。」(段落0027) 摘示オ 「【実施例】 次に実施例により本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。 実施例1?8、比較例1?3 エポキシ樹脂としてエポキシ当量196、融点106℃のビフェニル型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製商品名エピコートYX-4000H)、エポキシ当量186、融点75℃のビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鉄化学株式会社製商品名ESLV-80XY)、エポキシ当量195、軟化点65℃のo-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(住友化学工業株式会社製商品名ESCN-190)及びエポキシ当量375、軟化点80℃、臭素含量48重量%のビスフェノールA型ブロム化エポキシ樹脂(住友化学工業株式会社製商品名ESB-400T)、硬化剤として軟化点70℃のフェノール・アラルキル樹脂(三井化学株式会社製商品名ミレックスXL-225)、水酸基当量199、軟化点80℃のビフェニル型フェノール樹脂(明和化成株式会社製商品名MEH-7851)、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンとp-ベンゾキノンとの付加物、無機充填剤として平均粒径17.5μm、比表面積3.8m^(2)/gの球状溶融シリカ、カップリング剤としてγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(エポキシシラン)、その他の添加剤として三酸化アンチモン、カルナバワックス(株式会社セラリカNODA製)、カーボンブラック(三菱化学株式会社製商品名MA-100)をそれぞれ表1に示す重量部で配合し、混練温度80℃、混練時間10分の条件でロール混練を行い、実施例1?8及び比較例1?3の封止用エポキシ樹脂成形材料を作製した。 【表1】 作製した合計11種類の実施例及び比較例の封止用エポキシ樹脂成形材料を、次の各試験により評価した。なお、封止用エポキシ樹脂成形材料は、トランスファ成形機により、金型温度180℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間90秒の条件で成形した。また、後硬化は175℃で5時間行った。 (1)曲げ強度、曲げ弾性率 JIS-K6911に準拠した3点支持型曲げ試験を行って測定した。なお、試験片は封止用エポキシ樹脂成形材料を上記の条件で幅5mm×長さ60mm×厚さ3mmの寸法に成形し、上記の条件で後硬化を行って作製した。 (2)スパイラルフロー(流動性の指標) EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型を用いて封止用エポキシ樹脂成形材料を上記の条件で成形し、流動距離(cm)を求めた。 (3)熱時硬度 封止用エポキシ樹脂成形材料を上記の条件で直径50mm×厚さ3mmの円板に成形し、成形後直ちにショアD型硬度計を用いて測定した。 (4)耐リフロー性 封止用エポキシ樹脂成形材料を上記の条件で成形、後硬化して、8mm×10mmのシリコーンチップを搭載した外形寸法20mm×14mm×2mmの80ピンフラットパッケージを作製し、85℃/85%RHの条件で加湿して所定時間毎に240℃/10秒の条件でリフロー処理を行い、クラックの有無を観察し、不良パッケージ数(クラックの発生)/測定パッケージ数で評価した。 (5)耐湿性 封止用エポキシ樹脂成形材料を上記条件で成形、後硬化して、線幅10μm、厚さ1μmのアルミ配線を施した6mm×6mm×0.4mmのテスト用シリコーンチップを搭載した外形寸法19mm×14mm×2.7mmの80ピンフラットパッケージを作製し、前処理を行った後、加湿して所定時間毎にアルミ配線腐食による断線不良を調べ、不良パッケージ数(断線あり)/測定パッケージ数で評価した。 なお、前処理は85℃、85%RH、72時間の条件でフラットパッケージを加湿し、215℃、90秒間ベーパーフェーズリフロー処理を行った。その後、加湿試験を0.2MPa、121℃の条件で行った。 (6)高温放置特性 外形サイズ5mm×9mmで5μmの酸化膜を有するシリコンサブストレート上にライン/スペースが10μmのアルミ配線を形成したテスト素子を、部分銀メッキを施した42アロイのリードフレームに銀ペーストで接続し、サーモニック型ワイヤボンダにより、200℃で素子のボンディングパッドとインナリードをAu線にて接続した。その後、封止用エポキシ樹脂成形材料を上記条件で成形、後硬化して、16ピン型DIP(Dual Inline Package)を作製し、得られた試験用ICを200℃の高温槽に保管し、所定時間毎に取り出して導通試験を行い、導通不良のパッケージ数を調べ、測定パッケージ数に占める割合で評価した。 評価結果を表2に示す。 【表2】 」(段落0029?0033) 摘示カ 「【発明の効果】本発明になる封止用エポキシ樹脂成形材料を用いてIC、LSI等の電子部品を封止すれば、実施例で示したように耐リフロー性が良好で、信頼性に優れる電子部品装置を得ることができるので、その工業的価値は大である。」(段落0035) (4)刊行物に記載された発明 刊行物1には、摘示アの請求項1から「(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化促進剤、及び(D)無機充填剤を必須成分とし、260℃における曲げ強度が0.8kg/mm^(2)以上で、かつ(D)無機充填剤の配合量が75重量%以上である封止用エポキシ樹脂成形材料。」であって、同じく請求項5から「(A)エポキシ樹脂が下記一般式(I)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂及び/又は下記一般式(II)で示されるビスフェノールF型エポキシ樹脂を含有してなる 【化1】 (ここで、R^(1)?R^(4)は水素原子及び炭素数1?10の置換又は非置換の一価の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよい。nは0?3の整数を示す。) 【化2】 (ここで、R^(1)?R^(8)は水素原子、炭素数1?10のアルキル基、炭素数1?10のアルコキシル基、炭素数6?10のアリール基、及び炭素数6?10のアラルキル基から選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよい。nは0?3の整数を示す。)」ものであって、同じく請求項6から「(B)硬化剤が下記一般式(III)で示されるフェノール・アラルキル樹脂及び/又は下記一般式(IV)で示されるビフェニル型フェノール樹脂を含有してなる 【化3】 (ここで、Rは水素原子及び炭素数1?10の置換又は非置換の一価の炭化水素基から選ばれ、nは0?10の整数を示す。) 【化4】 (ここで、R^(1)?R^(9)は水素原子、炭素数1?10のアルキル基、炭素数1?10のアルコキシル基、炭素数6?10のアリール基、及び炭素数6?10のアラルキル基から選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよい。nは0?10の整数を示す。)」ものであって、同じく請求項7から「(C)硬化促進剤が有機ホスフィンとキノン化合物との付加物である」ものが記載されている。そして、当該封止用エポキシ樹脂成形材料の封止対象としては「VLSIの封止用に特に好適な封止用エポキシ樹脂成形材料」(摘示イ)及び「本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料で素子を封止したBGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Size Package)などが挙げられる。」(摘示エ)と記載されている。 そうすると、刊行物1には、「(A)下記一般式(I)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂及び/又は下記一般式(II)で示されるビスフェノールF型エポキシ樹脂を含有してなるエポキシ樹脂、(B)下記一般式(III)で示されるフェノール・アラルキル樹脂及び/又は下記一般式(IV)で示されるビフェニル型フェノール樹脂を含有してなる硬化剤、(C)有機ホスフィンとキノン化合物との付加物である硬化促進剤、及び(D)無機充填剤を必須成分とし、260℃における曲げ強度が0.8kg/mm^(2)以上で、かつ(D)無機充填剤の配合量が75重量%以上であるBGAやCSPなどのVLSI封止用エポキシ樹脂成形材料。 【化1】 (ここで、R^(1)?R^(4)は水素原子及び炭素数1?10の置換又は非置換の一価の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよい。nは0?3の整数を示す。) 【化2】 (ここで、R^(1)?R^(8)は水素原子、炭素数1?10のアルキル基、炭素数1?10のアルコキシル基、炭素数6?10のアリール基、及び炭素数6?10のアラルキル基から選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよい。nは0?3の整数を示す。) 【化3】 (ここで、Rは水素原子及び炭素数1?10の置換又は非置換の一価の炭化水素基から選ばれ、nは0?10の整数を示す。) 【化4】 (ここで、R^(1)?R^(9)は水素原子、炭素数1?10のアルキル基、炭素数1?10のアルコキシル基、炭素数6?10のアリール基、及び炭素数6?10のアラルキル基から選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよい。nは0?10の整数を示す。)」の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているといえる。 (5)対比 補正発明と刊行物発明とを対比する。 刊行物発明における「VLSI封止用エポキシ樹脂成形材料」は、補正発明における「半導体封止用エポキシ樹脂組成物」に相当する。 そして、刊行物発明における「(A)下記一般式(I)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂 【化1】 (ここで、R^(1)?R^(4)は水素原子及び炭素数1?10の置換又は非置換の一価の炭化水素基から選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよい。nは0?3の整数を示す。)」は、当審補正により補正された明細書の「結晶性エポキシ樹脂(A)としては、・・・一般式(3)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂・・・等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。 【化9】 (ただし、上記一般式(3)において、R3?R10は水素又は炭素数4以下のアルキル基で互いに同一でも異なっていても良い。) ・・・ 一般式(3)のビフェニル型エポキシ樹脂の内では、作業性、実用性のバランスの取れた4,4’-ジグリシジルビフェニル、あるいは3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジグリシジルビフェニル及びこの両者の溶融混合物が好ましい。」との記載(段落0018?0021)と一致するし、例えば刊行物1の実施例3においても「エポキシ当量196、融点106℃のビフェニル型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製商品名エピコートYX-4000H)」を使用している(摘示オ)ことからみて、補正発明における「結晶性エポキシ樹脂(A)」に相当するということができるし、あるいは、刊行物発明における「(A)下記一般式(II)で示されるビスフェノールF型エポキシ樹脂 【化2】 (ここで、R^(1)?R^(8)は水素原子、炭素数1?10のアルキル基、炭素数1?10のアルコキシル基、炭素数6?10のアリール基、及び炭素数6?10のアラルキル基から選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよい。nは0?3の整数を示す。)」は、当審補正により補正された明細書の「結晶性エポキシ樹脂(A)としては、・・・ビスフェノールF型エポキシ樹脂・・・等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。」との記載(段落0018?0021)と一致するし、例えば刊行物1の実施例2においても「エポキシ当量186、融点75℃のビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鉄化学株式会社製商品名ESLV-80XY)」を使用している(摘示オ)ことからみて、補正発明における「結晶性エポキシ樹脂(A)」に相当するということができる。 そして、刊行物発明における「(B)下記一般式(IV)で示されるビフェニル型フェノール樹脂を含有してなる硬化剤 【化4】 (ここで、R^(1)?R^(9)は水素原子、炭素数1?10のアルキル基、炭素数1?10のアルコキシル基、炭素数6?10のアリール基、及び炭素数6?10のアラルキル基から選ばれ、全てが同一でも異なっていてもよい。nは0?10の整数を示す。)」は、補正発明における「一般式(1)で表されるフェノール樹脂(B) 【化1】 (ただし、上記一般式(1)において、R1、R2は水素又は炭素数4以下のアルキル基で互いに同一でも異なっていても良い。aは0?4の整数、bは0?4の整数、cは0?3の整数。nは平均値で0?10の数。)」に相当する。 そして、刊行物発明における「(C)有機ホスフィンとキノン化合物との付加物である硬化促進剤」は、補正発明における「一般式(2)で表される硬化促進剤(C) 【化2】 (ただし、上記一般式(2)において、Xは水素又は炭素数1?3のアルキル基、Yは水素又はヒドロキシル基を表す。m、nは1?3の整数。)」に相当するということができる。 そうすると、両者は、「結晶性エポキシ樹脂(A)、一般式(1)で表されるフェノール樹脂(B)、一般式(2)で表される硬化促進剤(C)、及び、無機充填材(D)を必須成分とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【化1】 (ただし、上記一般式(1)において、R1、R2は水素又は炭素数4以下のアルキル基で互いに同一でも異なっていても良い。aは0?4の整数、bは0?4の整数、cは0?3の整数。nは平均値で0?10の数。) 【化2】 (ただし、上記一般式(2)において、Xは水素又は炭素数1?3のアルキル基、Yは水素又はヒドロキシル基を表す。m、nは1?3の整数。)」である点で一致し、以下の相違点Aで相違する。 <相違点A> 補正発明では、「低応力改質剤(E)を必須成分とする」かつ「前記低応力改質剤(E)が、表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子であり、その平均粒径が0.3μm以上、5μm以下であり、最大粒径が10μm以下であり、全半導体封止用エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、5重量%以下の割合で含まれる」と規定されているのに対し、刊行物発明では、その点が明記されていない点 (6)相違点Aに対する判断 半導体封止用エポキシ樹脂組成物においては、温度サイクルによるひずみ応力を緩和することは周知の課題と認められ、低応力性を付与することを目的としてゴム粒子を添加することも広く知られた事項であると認められる(例えば、特開2003-206393号公報の段落0003?0004及び特開2004-18803号公報の段落0002を参照のこと)。 また、刊行物1には、「本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料には、その他の添加剤として、・・・シリコーンゴム粉末等の応力緩和剤などを必要に応じて配合することができる。」(摘示ウ)と記載されている。 そして、半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、低応力性付与剤として用いられるシリコーンゴム粉末として、シリコーンレジンで表面を被覆されている、平均粒径5μmのシリコーンゴムパウダーを、封止用樹脂組成物全体に対して0.3?5.0wt%程度配合することは公知のことであると認められる(例えば、特開2000-186183号公報の段落0019、0020、0027及び0033並びに特開2001-181479号公報の段落0023、0032及び0042を参照のこと)。 そうすると、刊行物発明において、温度サイクル性を改良することを目的として、摘示ウの教示に基づき、さらにシリコーンゴム粉末を配合し、その際、当該シリコーンゴム粉末として、シリコーンレジンで表面を被覆されている、平均粒径5μmのシリコーンゴムパウダーを用い、さらにその配合量を封止用樹脂組成物全体に対して0.3?5.0重量%程度とすることは、この発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば容易になし得る程度のことであるということができる。そして、当該平均粒径5μmのシリコーンゴムパウダーは最大粒径が10μm以下であるものと認められるし、たとえそうでないとしても当業者が最大粒径を10μm以下と設定することに格別の困難性を見いだすことはできない。 してみると、相違点Aは当業者が容易になし得ることにすぎない。 そして、補正発明における効果について検討しても、当業者にとり予測できない程度の格別顕著なものであるとすることもできない。 (7)請求人の主張の検討 ア.平成22年12月24日に提出した審判請求書の主張について 請求人は、「本願発明で用いられる低応力改質剤(E)は、「表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子」であり、シリコーンゴムとシリコーン樹脂とが有する双方の利点を両立させることができます。すなわち、粒径を小さくしても凝集しにくいため、樹脂組成物の流動性を低下させることなく、硬化物に充分かつ均一性の高い応力緩和能力を付与することができます。このような低応力改質剤を上記エポキシ樹脂(A)、フェノール樹脂(B)、硬化促進剤(C)、無機充填剤(D)と組み合せて用いることにより、本発明の樹脂組成物で封止した半導体装置は、優れた耐温度サイクル性と耐半田性とを両立させることができたものであります。」と主張している。 しかしながら、上記(6)で述べたとおり、本願と同じ粒径範囲内の「表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子」を低応力性付与剤として用いることは公知のことであり、当該シリコーンゴム粒子自体の有する特性も公知のことであり、低応力改質剤を配合することにより耐温度サイクル性と耐半田性が向上することも当業者であれば当然に予測されることにすぎないといえるから、請求人の主張を参酌したとしても補正発明の奏する効果が格別のものであるとすることはできない。 また、請求人は、「(ト)さらに、本願発明の形態と、本願発明と異なる形態とを比較検討した場合において、本願発明の効果が、引用文献1-3に記載の発明から当業者が予測できる範囲を超えたものであることを示すため、下記に示す追加実験A1?A2を実施いたしました。 追加実験の内容は下記の通りです。 1)追加実験A1:補正後の本願明細書の実施例1に相当するエポキシ樹脂組成物を評価 2)追加実験A2:補正後の本願明細書の参考例1に相当するエポキシ樹脂組成物を評価 上記追加実験A1、A2について、当初明細書に記載された評価項目を追試するとともに、金線変形率、耐半田性について、より厳しい条件下での評価を追加して行いました。 これらの評価条件は下記の通りです。 ・金線変形率(追加):当初明細書に記載された「金線変形率」の評価は、金線径1.0milsφのものを用いて実施しているが、これをより細い、0.6milsφのものを用いて評価を実施した。 ・耐半田性(追加):本願当初明細書の段落[0041]に記載された「パッケージ反り量」の評価に用いられたものと同様にして成形した352ピンBGAパッケージを175℃、2時間で後硬化し、得られたパッケージ各10個を、85℃、相対湿度85%の環境下で168時間処理した後、ピーク温度260℃のIRリフロー処理(255℃以上が10秒間)を行った。処理後の内部の剥離及びクラックの有無を超音波探傷機で観察し、不良パッケージの個数を数えた。不良パッケージの個数がn個であるとき、n/10と表示した。 さらに、「耐温度サイクル性」については、得られたデータの実値を記載いたしました。 これら追加実験の結果を下記表Aに示します。 【表A】 (チ)表Aからも明らかな通り、補正後の本願明細書の実施例1に相当するエポキシ樹脂組成物を評価した追加実験A1と、補正後の本願明細書の参考例1に相当するエポキシ樹脂組成物を評価した追加実験A2とは、より厳しい条件下での評価項目である「金線変形率(追加)」、「耐半田性(追加)」において、追加実験A1のほうが明確に優れ、また、実値で表記した「耐温度サイクル性」においても、同様に追加実験A1のほうが明確に優れた結果となり、本願発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、高流動性、低反り、耐半田特性、耐温度サイクル性において優れたものであることが実証できました。」と主張している。 しかしながら、当初明細書では、実施例1(当審補正後の実施例1)と実施例13(当審補正後の参考例1)において、耐半田性及び耐温度サイクル性の点で、両者において特に差異がある旨の記載はなされていないから、かかる追加実験により両者に差異があるとする主張は、当初明細書の記載に基づかないものであって、受け入れられるものではない。 イ.平成24年7月27日に提出した回答書の主張に対して 請求人は、「本願発明の表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子は、エポキシ樹脂組成物の流動性が低下したりすることがなく、充分な低応力性を発現することができるように、平均粒径が0.3μm以上、5μm以下であり、最大粒径が10μm以下であることを特徴としており(本願明細書の段落番号0027参照)、粒径に関して平均粒径と最大粒径の2種を重要な特性として請求項1に規定しています。また、最大粒径を10μm以下に規定する技術的意義としては、『最大粒径が上記範囲内であると、低応力性の低下を抑えることができる。』(本願明細書の段落番号0027参照)と記載されており、下記対比実験1にて、平均粒径4μm、最大粒径20μmの低応力改質剤4を配合した対比実験1は、平均粒径4μmと最大粒径9μmの低応力改質剤1を配合した実施例1に比べ、耐半田性と耐温度サイクル性が劣る結果を示しました。 【表4】 ・・・ 引用文献1には、表面をシリコーン樹脂で被覆した特定の平均粒子径、特定の最大粒径を有するシリコーンゴム粒子に関しては記載されていません。 ・・・ 更に、引用文献3の実施例で用いられているシリコーンレジンで表面を被覆されているシリコーンゴムパウダー品番KMP-600(信越化学工業(株)製、平均粒径5μm)のメーカーカタログデータには下記粒度分布グラフが記載されていますが、このグラフからはKMP-600が平均粒径5μmではありますが、最大粒径として10μm以上の粒子を含んでいることが示されています。また、カタログには最大粒径に関する規格も保証も記載されていません。 (http://www.silicone.jp/j/products/notice/powder/powder_composit.shtml の、メーカーホームページの製品紹介参照) 【図1】 上記のように、シリコーン樹脂で表面を被覆されているシリコーンゴム粒子の平均粒径と最大粒径の両特性が、流動性と低応力性に影響するものであり、粒子の最大粒径を規定する場合。当業者においては、粒子を篩にかける等の工程を以って保証とするが通常で有り、シリコーン樹脂で表面を被覆されているシリコーンゴム粒子の平均粒径と最大粒径を選択的に用いることは、過度の試行錯誤を要するものであり、当業者が容易になし得たことではないものと思料致します。」と主張している。 しかしながら、請求人が提示したKMP-600の粒度分布グラフをみれば、請求人が含まれていると主張する最大粒径が10μmを超える粒子はごくわずかの量にすぎないと認められるから、KMP-600は実質的に最大粒径が10μm以下のものであるということができる。そうすると、この点は相違点ではないから、上記対比実験も意味がない。 (8)まとめ したがって、補正発明は刊行物1に記載された発明及び公知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、当審補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法126条第5項の規定に違反しており、同法159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 原査定の妥当性についての判断 1.本願発明 上記のとおり、当審補正は却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「結晶性エポキシ樹脂(A)、一般式(1)で表されるフェノール樹脂(B)、一般式(2)で表される硬化促進剤(C)、無機充填材(D)、シリコーンゴム粒子、シリコーン樹脂粒子及び表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子から選ばれる少なくとも1種であり、その平均粒径が0.3μm以上、5μm以下であり、最大粒径が10μm以下である低応力改質剤(E)を必須成分とし、前記低応力改質剤(E)を全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、5重量%以下の割合で含むことを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【化1】 (ただし、上記一般式(1)において、R1、R2は水素又は炭素数4以下のアルキル基で互いに同一でも異なっていても良い。aは0?4の整数、bは0?4の整数、cは0?3の整数。nは平均値で0?10の数。) 【化2】 (ただし、上記一般式(2)において、Xは水素又は炭素数1?3のアルキル基、Yは水素又はヒドロキシル基を表す。m、nは1?3の整数。)」 2.原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由の概要は、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1(特開2001-233937号公報)及び引用文献2(特開2003-64154号公報)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものを含むものである。 3.引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明 引用文献1は、上記第2 3.(2)の刊行物1と同じであるから、引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明は、上記第2 3.(3)及び(4)に記載したとおりである。 以下、引用文献1に記載された発明を刊行物発明ともいう。 4.対比 本願発明と刊行物発明とを対比する。 本願発明は、上記第2 2.で述べたとおり、補正発明における、「低応力改質剤(E)」について、「表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子」に限定することなく、「シリコーンゴム粒子、シリコーン樹脂粒子及び表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子から選ばれる少なくとも1種であり」としたものに相当する。 そうすると、上記第2 3.(5)で述べたとおり、両者は、「結晶性エポキシ樹脂(A)、一般式(1)で表されるフェノール樹脂(B)、一般式(2)で表される硬化促進剤(C)、及び、無機充填材(D)を必須成分とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。 【化1】 (ただし、上記一般式(1)において、R1、R2は水素又は炭素数4以下のアルキル基で互いに同一でも異なっていても良い。aは0?4の整数、bは0?4の整数、cは0?3の整数。nは平均値で0?10の数。) 【化2】 (ただし、上記一般式(2)において、Xは水素又は炭素数1?3のアルキル基、Yは水素又はヒドロキシル基を表す。m、nは1?3の整数。)」である点で一致し、以下の相違点1で相違する。 <相違点1> 本願発明では、「シリコーンゴム粒子、シリコーン樹脂粒子及び表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子から選ばれる少なくとも1種であり、その平均粒径が0.3μm以上、5μm以下であり、最大粒径が10μm以下である低応力改質剤(E)を必須成分とし、前記低応力改質剤(E)を全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、5重量%以下の割合で含む」と規定されているのに対し、刊行物発明では、その点が明記されていない点 5.相違点1に対する判断 上記第2 3.(6)でも述べたとおり、半導体封止用エポキシ樹脂組成物においては、温度サイクルによるひずみ応力を緩和することは周知の課題と認められ、低応力性を付与することを目的としてゴム粒子を添加することも広く知られた事項であると認められる。 また、刊行物1には、「本発明の封止用エポキシ樹脂成形材料には、その他の添加剤として、・・・シリコーンゴム粉末等の応力緩和剤などを必要に応じて配合することができる。」(摘示ウ)と記載されている。 そして、引用文献2には、エリア実装型半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、弾性率低減を目的として、最大粒径10μm、平均粒径5μmのシリコーンゴム粒子を全エポキシ樹脂組成物中に0.1?5重量%含有させることが記載されている(段落0021、0023、0025及び0028を参照のこと)。 そうすると、刊行物発明において、温度サイクル性を改良することを目的として、摘示ウの教示に基づき、さらにシリコーンゴム粉末を配合し、その際、当該シリコーンゴム粉末として、引用文献2に記載された、エリア実装型半導体封止用エポキシ樹脂組成物において弾性率低減を目的として用いられる、最大粒径10μm、平均粒径5μmのシリコーンゴム粒子を用い、さらにその配合量を封止用樹脂組成物全体に対して0.1?5重量%程度とすることは、当業者であれば容易になし得る程度のことであるということができる。 してみると、相違点1は当業者が容易になし得ることにすぎない。 そして、本願発明における効果について検討しても、当業者にとり予測できない程度の格別顕著なものであるとすることもできない。 6.まとめ したがって、本願発明は、刊行物発明及び引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 請求人の主張の検討 ○平成22年8月20日に提出した意見書の主張について 請求人は、「(2)本願発明と引用文献との対比」において、「引用文献2に記載されたエポキシ樹脂組成物で用いられるゴム粒子は、常に樹脂成分に予め均一混合して使用されるものであり、本願発明のように、シリコーンゴム粒子、シリコーン樹脂粒子及び表面をシリコーン樹脂で被覆したシリコーンゴム粒子から選ばれる少なくとも1種であり、その平均粒径が0.3μm以上、5μm以下であり、最大粒径が10μm以下である低応力改質剤(E)を、全エポキシ樹脂組成物中に0.01重量%以上、5重量%以下の割合で、単独で配合して用いるものではありません。」と主張している。 しかしながら、本願発明においては、シリコーンゴム粒子をあらかじめ樹脂成分と混合するものを除外するものではなく、この主張は特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって受け入れられるものではない。 また、同じく、請求人は、「本願発明は、成形後や半田処理後の低そり、耐半田特性とともに、良好な流動性、耐温度サイクル特性を発現させており、このことは、当業者の予測を超えた顕著な作用効果であります。」と主張している。 しかしながら、シリコーンゴム粒子を配合することにより耐温度サイクル性が改善されていることは、上記第2 3.(6)で述べたとおり、当業者にとり予測し得る事項にすぎないといわざるを得ないから、この主張は受け入れられるものではない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明、すなわち、本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとする原査定の理由は妥当なものであり、本願発明は、この理由により拒絶すべきものである。 したがって、他の請求項に係る発明について更に検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-10-26 |
結審通知日 | 2012-10-30 |
審決日 | 2012-11-12 |
出願番号 | 特願2005-49777(P2005-49777) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08L)
P 1 8・ 575- Z (C08L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 久保 道弘 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
加賀 直人 小野寺 務 |
発明の名称 | エポキシ樹脂組成物及び半導体装置 |