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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01G
管理番号 1268200
審判番号 不服2011-21339  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-04 
確定日 2013-01-04 
事件の表示 特願2008-257000「断熱性水耕栽培ボックス」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月15日出願公開、特開2010- 81904〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成20年10月2日の出願であって,平成23年6月30日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年10月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。
その後,平成24年3月2日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,平成24年4月25日付けの回答書が提出されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年10月4日になされた手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
平成23年10月4日になされた手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の請求項1を,次のように補正しようとする補正事項を含むものである。
「【請求項1】
軽量,断熱性の材料からなるボックスであって,
上端が開口した箱状の下板と,前記下板に嵌合支持されるよう前記下板の上端を密閉し少なくとも一部が前記下板から着脱自在である上板と,を備え,
上記上板下のボックス内部に,植物の根の展延を可能にすべく上下に狭いが平面積の広い根収納室を形成し,
上記上板に,外部から上記根収納室内に開通する複数の植物植えつけ孔を設け,
上記ボックスに,外部から上記根収納室の一側に開通する培養液供給流路,及び上記根収納室の他側から外部に開通する培養液排出流路をそれぞれ設けた,
断熱性水耕栽培ボックス。」

上記補正は,請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「下板の上端を密閉し少なくとも一部が前記下板から着脱自在である上板」について,「下板に嵌合支持される」ものであることを限定するものであると認められるから,本件補正は,少なくとも,平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。

そこで,本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,したがって,本件補正は,平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定にする要件を満たしているか,について以下に検討する。

2 独立特許要件違反(特許法第29条第2項違反)
2-1 引用刊行物
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である,実願昭60-124667号(実開昭62-33262号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」という。)には,図面とともに以下の記載がある(下線は当審にて付与。)。
(1-a)「【実用新案登録請求の範囲】
上面に作付植物を植付ける栽培植板を取外し自在に載置するようにしてなる,浅い深さで且つ培養液を一側より供給され,他側より培養液槽中に流下するよう形成された栽培枠槽を,培養液槽上部に一体となるよう組み込ませるとともに,培養液槽より栽培枠槽に対して培養液を吸上げ供給するポンプを,培養液槽と栽培枠槽との間に形成した間隙に設けて,培養液が栽培枠槽と培養液槽との間を循環するよう構成したことを特徴とする養液栽培装置。」

(1-b)「しかし,従来発表されている養液栽培装置は,構造が複雑で,かつ,装置として大型のものが多く,しかも取扱いが簡単でないため,家庭用として使用に適した装置が見当らなかった。
考案が解決しようとする問題点
本考案は,構成,取扱が簡単でしかも小型で場所もとらず,家庭で使用するのに適した養液栽培装置を得ようとするものである。」(明細書第2頁第6行?同頁第13行)

(1-c)「さらに説明するに,栽培植板2,栽培枠槽3,培養液槽4は軽量化と断熱効果を持たせるために発泡スチロールのような材料で作成するとよく・・・」(明細書第4頁第16行?同頁第18行)

(1-d)「栽培枠槽3は,培養液槽4内に嵌め込まれて支持板4aで支承される大きさで,枠槽の深さは約2cm程度とされ,作付植物の根に対する培養液の流通を案内する案内隔壁板3aとポンプ6を設ける間隙部7を形成されている。なお,3bは案内隔壁板3aに設けた培養液流通切欠部であり,また,3cは栽培枠槽3に設けた流出孔であり,ポンプ6により栽培枠槽3に供給された培養液は,案内隔壁板3a,流通切欠部3bに案内され,最後に流通孔3cを通って培養液槽4に戻される。」(明細書第5頁第11行?同頁第20行)

(1-e)「栽培植板2は,栽培枠槽3上に置かれ,丁度培養液槽4にほぼ同一平面となるよう嵌め込まれる大きさとなっており,栽培枠槽3の案内隔壁板3aにより分割形成された培養液通路に沿った位置に,作付植物1を植付けるための植付穴2aが適宜数設けられている。この植付穴2aは植物の葉や根が相互に干渉しない間隔に設けられるもので,栽培植板2は,その根の生長経過が持上げて裏面が見られ易いように,分割して構成させた方がよい。なお,この栽培植板2にも,ポンプ6よりの培養液が栽培枠槽3に注流できるだけの切欠部が設けられてある。」(明細書第6頁第1行?同頁第12行)

(1-f)「栽培枠槽の深さを浅く形成したので,植付植物の根が横方向に伸び,培養液の根に対する供給,および,根の空気に対する曝露が均一に行えるので,植物栽培環境の制御が簡単に自由に行うことができる。」(明細書第7頁第10行?同頁第14行)

(1-g)図1?3には,栽培枠槽3の上端が開口し,箱状であり,栽培植板2の下方で,栽培枠槽3と栽培植板2で形成される空間の内部に植付植物の根が位置し,当該空間は,上下に狭いが平面積の広い空間を形成し,植付穴2aは栽培植板2を貫通している様子が図示されている。

以上を総合すると,上記記載事項(1-a)?(1-g)からみて,刊行物1には,以下の発明が記載されていると認められる(以下,「刊行物1記載の発明」という。)。
「上面に作付植物を植付ける栽培植板を取外し自在に載置するようにしてなる,浅い深さで且つ培養液を一側より供給され,他側より培養液槽中に流下するよう形成され,栽培枠槽の上端が開口し,箱状である栽培枠槽を,培養液槽上部に一体となるよう組み込ませるとともに,培養液槽より栽培枠槽に対して培養液を吸上げ供給するポンプを,培養液槽と栽培枠槽との間に形成した間隙に設けて,培養液が栽培枠槽と培養液槽との間を循環するよう構成し,
栽培植板,栽培枠槽は軽量化と断熱効果を持たせるために発泡スチロールのような材料で作成され,
栽培植板の下方で,栽培枠槽と栽培植板で形成される空間の内部に植付植物の根が位置し,当該空間は,上下に狭いが平面積の広い空間を形成し,
栽培枠槽の深さを浅く形成したので,植付植物の根が横方向に伸び,培養液の根に対する供給,および,根の空気に対する曝露が均一に行え,
栽培植板は,作付植物を植付けるための植付穴が適宜数設けられ,植付穴は栽培植板を貫通しており,
栽培植板にも,ポンプよりの培養液が栽培枠槽に注流できるだけの切欠部が設けられ,
ポンプにより栽培枠槽に供給された培養液は,案内隔壁板,流通切欠部に案内され,最後に流通孔を通って培養液槽に戻される養液栽培装置。」

2-2 補正発明と刊行物1記載の発明との対比
<一致点>
補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,
刊行物1記載の発明の軽量化と断熱効果を持たせるための「発泡スチロールのような材料」は,補正発明の「軽量,断熱性の材料」に相当し,以下同様に,
「栽培枠槽」は,「下板」に,
「栽培植板」は,「上板」に,
「取外し自在」は,「着脱自在」に,
「植付穴」は,「植物植えつけ孔」に,
「流通孔」は,「培養液排出流路」に,
それぞれ相当する。

刊行物1記載の発明の「軽量化と断熱効果を持たせるために発泡スチロールのような材料で作成され」た「栽培植板,栽培枠槽」と,補正発明の「箱状の下板」と「上板」を備えた「軽量,断熱性の材料からなるボックス」とは,「軽量,断熱性の材料からなる箱状の下板と上板をあわせたもの」である点で共通している。

刊行物1記載の発明の「上面に作付植物を植付ける栽培植板を取外し自在に載置するようにしてなる,浅い深さで且つ培養液を一側より供給され,他側より培養液槽中に流下するよう形成され,栽培枠槽の上端が開口し,箱状である栽培枠槽」と,補正発明の「上端が開口した箱状の下板と,前記下板に嵌合支持されるよう前記下板の上端を密閉し少なくとも一部が前記下板から着脱自在である上板」とは,「上端が開口した箱状の下板と,前記下板に支持され,少なくとも一部が前記下板から着脱自在である上板」である点で共通している。

刊行物1記載の発明の「栽培植板の下方で,栽培枠槽と栽培植板で形成される空間の内部に植付植物の根が位置し,当該空間は,上下に狭いが平面積の広い空間を形成し,栽培枠槽の深さを浅く形成したので,植付植物の根が横方向に伸び,培養液の根に対する,および,根の空気に対する曝露が均一に行え」ていることと,補正発明の「上記上板下のボックス内部に,植物の根の展延を可能にすべく上下に狭いが平面積の広い根収納室を形成し」ていることとは,「上記上板下の下板と上板をあわせたものの内部に,植物の根の展延を可能にすべく上下に狭いが平面積の広い根収納室を形成し」ている点で共通している。

刊行物1記載の発明の「栽培植板の下方で,栽培枠槽と栽培植板で形成される空間の内部に植付植物の根が位置し,当該空間は,上下に狭いが平面積の広い空間を形成し,栽培枠槽の深さを浅く形成したので,植付植物の根が横方向に伸び,培養液の根に対する,および,根の空気に対する曝露が均一に行え,栽培植板は,作付植物を植付けるための植付穴が適宜数設けられ,植付穴は栽培植板を貫通して」いることは,補正発明の「上記上板に,外部から上記根収納室内に開通する複数の植物植えつけ孔を設け」ていることに相当する。

刊行物1記載の発明の「浅い深さで且つ培養液を一側より供給され,他側より培養液槽中に流下するよう形成され,栽培枠槽の上端が開口し,箱状である栽培枠槽を,培養液槽上部に一体となるよう組み込ませるとともに,培養液槽より栽培枠槽に対して培養液を吸上げ供給するポンプを,培養液槽と栽培枠槽との間に形成した間隙に設けて,培養液が栽培枠槽と培養液槽との間を循環するよう構成し」,「栽培植板の下方で,栽培枠槽と栽培植板で形成される空間の内部に植付植物の根が位置し,当該空間は,上下に狭いが平面積の広い空間を形成し」,「栽培植板にも,ポンプよりの培養液が栽培枠槽に注流できるだけの切欠部が設けられ,ポンプにより栽培枠槽に供給された培養液は,案内隔壁板,流通切欠部に案内され,最後に流通孔を通って培養液槽に戻される」ことと,補正発明の「上記ボックスに,外部から上記根収納室の一側に開通する培養液供給流路,及び上記根収納室の他側から外部に開通する培養液排出流路をそれぞれ設けた」こととは,「上記下板と上板をあわせたものに,外部から上記根収納室の一側に開通する培養液供給部,及び上記根収納室の他側から外部に開通する培養液排出流路をそれぞれ設けた」で共通している。

刊行物1記載の発明の「上面に作付植物を植付ける栽培植板を取外し自在に載置するようにしてなる,浅い深さで且つ培養液を一側より供給され,他側より培養液槽中に流下するよう形成され,栽培枠槽の上端が開口し,箱状である栽培枠槽」を備え,「栽培植板,栽培枠槽は軽量化と断熱効果を持たせるために発泡スチロールのような材料で作成され」た「養液栽培装置」と,補正発明の「断熱性水耕栽培ボックス」とは,「断熱性水耕栽培用の下板と上板をあわせたもの」である点で共通している。

したがって,両者は以下の点で一致している。
「軽量,断熱性の材料からなる下板と上板をあわせたものであって,
上端が開口した箱状の下板と,少なくとも一部が前記下板から着脱自在である上板と,を備え,
上記上板下の下板と上板をあわせたものの内部に,植物の根の展延を可能にすべく上下に狭いが平面積の広い根収納室を形成し,
上記上板に,外部から上記根収納室内に開通する複数の植物植えつけ孔を設け,
上記下板と上板をあわせたものに,外部から上記根収納室の一側に開通する培養液供給部,及び上記根収納室の他側から外部に開通する培養液排出流路をそれぞれ設けた,
断熱性水耕栽培用の下板と上板をあわせたもの。」

そして,以下に示す点で相違している。
<相違点>
[相違点1]
下板と上板について,
補正発明では,上板で,下板に嵌合支持されるよう前記下板の上端を密閉してボックスとしているのに対して,
刊行物1記載の発明には,上板が下板に支持されているものの,嵌合支持はされておらず,上板で下板の上端を密閉してボックスとしているかについては明らかでない点。

[相違点2]
根収納室の一側に開通する「培養液供給部」について,
補正発明は,「培養液供給流路」であるのに対して,
刊行物1記載の発明は,ポンプよりの培養液が栽培枠槽に注流できるだけの切欠部である点。

2-3 各相違点についての判断
[相違点1について]
まず,「嵌合」とは,通常嵌め合いを意味するものと解され,本願の出願当初の明細書の段落[0018]には「該下板(3)の突縁(4)・・・内側段部(5)に,上板(2)の四周縁部を嵌合支持させ」等の記載からみて,補正発明における「下板に嵌合支持される」ことは,下板に嵌め合った状態で支持されることを意味するものと認められる。

これを前提に検討する。

水耕栽培装置において,アオコ等の藻類の発生を防止するために遮光性を有する材料であって,さらに断熱性も有する材料からなる上側の部材と下側の部材を用意し,上側の部材を下側の部材に嵌め合った状態で支持される用に構成してボックスとすることは周知の技術(以下,「周知技術1」という。)である(例えば,特開平6-189641号公報の段落[0013],特開平7-227162号公報の段落[0022],[0035]の記載参照。)。

刊行物1記載の発明と周知技術1とは水耕栽培に関する技術である点で共通しており,刊行物1記載の発明もアオコ等の藻類の発生を防止したいとの課題を有していることは明らかであることから,当該課題を解決するために,刊行物1記載の発明のいずれも断熱性の材料からなる下板とそれに支持される上板に,周知技術1を適用して,上板と下板を遮光性の材料からなるものとし,上板を下板に嵌め合った状態で支持されるように構成してボックスとする,すなわち上板で下板に嵌合支持されるように構成してボックスとすることは,当業者が容易になし得ることである。

また,水耕栽培装置において,下側の部材を,当該下側の部材に支持される上側の部材で密閉して,根の生育環境を改善する技術は周知の技術(以下「周知技術2」という。)であり(例えば,特開平6-189641号公報の段落[0013],特開平7-227162号公報の段落[0022],[0035],特開平8-294335号公報の段落[0024],特開平8-9806号公報の段落[0044]の記載参照),刊行物1記載の発明を上板で下板に嵌合支持されるように構成してボックスとする際に,周知技術2のように下板を上板で密閉するように構成することも当業者が適宜行う設計的事項である。

してみると,刊行物1記載の発明に周知技術1を適用すると共に,当業者が適宜行いうる設計変更を行い,相違点1に係る発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

なお,審判請求書において,「上板を下板に嵌めておけば,水耕栽培ボックスを反転及び搬送した場合でも上板が下板から外れるのを抑制することができるため,安定して水耕栽培ボックスを反転及び搬送することが可能となります。」と主張しているが,本願の出願当初明細書の段落[0018]の「図1(ロ)において,本例の栽培ボックス(1)は,発泡スチロール製の軽量,断熱性の長方形上板(2)と,同材料からなり,四周に突縁(4)・・・を有する扁平箱形の下板(3)とからなり,該下板(3)の突縁(4)・・・内側段部(5)に,上板(2)の四周縁部を嵌合支持させ,これら上,下板(2),(3)の四周部分に,横断面コ字状の弾性を有する合成樹脂製枠材(6)・・・を外側から着脱自在に弾着被嵌して接合してある。」との記載等からみて,水耕栽培ボックスを反転した場合に上板が下板から外れるのを防止しているのは,外側から着脱自在に弾着被嵌して接合してある「横断面コ字状の弾性を有する合成樹脂製枠材(6)」であると解するのが自然であって,上板を下板に嵌合させるだけで水耕栽培ボックスを反転した場合に上板が下板から外れるのを防止する点については開示も示唆もされていないものと認められる。よって,請求人の当該主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。

また,平成22年12月22日付けの意見書において,「本願発明1の水耕栽培ボックスは,断熱性材料からなり,箱状の下板を上板で密閉するよう構成されているため,内部において光が完全に遮断されるとともに温度が一定に保たれます。このような本願発明1の水耕栽培ボックスにおいて,植物植えつけ孔に植物を植えつけて内部に植物の根を配置すると,背光性で温度変化を嫌う植物の根を十分に発育させることができ,この結果,植物を健全且つ旺盛に生長させることができます。」と主張しているが,光を遮断することや温度を一定に保つことや,上板や下板を遮光性の材料で構成することについて,出願当初の明細書,特許請求の範囲及び図面に直接的な記載や示唆は存在していないものの,仮にそのようなものであるとしても,周知技術1が,アオコ等の藻類の発生を防止するために遮光性を有する材料を採用していることからみて,遮光性をできるだけ高めるために,下板の上端を概ね隙間のないように閉めることは当業者が適宜行う設計的事項であり,ボックスは断熱性の材料で形成されていることから,上板で下板の上端を密閉することにより,ボックス内の温度を一定に保つことができることは明らかである。

さらに,請求人は平成24年10月23日の面接審理において,刊行物1記載の発明は「栽培植板2は,その根の生長経過が持上げて裏面が見られ易いように」したとの記載からみて,上板を下板に嵌合させることを阻害する事情がある旨主張しているが,当該記載は上板を下板から外せないものとすることを阻害する可能性はあるものの,上板を下板に嵌合することを阻害するものとまでは認められない。

[相違点2について]
刊行物1記載の発明の「培養液排出流路」は,「根収納室の他側から外部に開通する培養液排出流路」であることからみて,刊行物1には,培養液の通すために開通した部分を流路として用いる技術についても開示されている。
ここで,根収納室の一側に開通する「培養液供給部」に,当該刊行物1に記載の培養液の通すために開通した部分を流路として用いる技術を適用して,「培養液供給流路」とし,相違点2に係る発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,補正発明の作用効果は,刊行物1記載の発明,及び,周知の技術から予測できる程度のものである。

したがって,補正発明は,刊行物1記載の発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

以上より,本件補正が限定的減縮を目的とするものとしても,本件補正は,平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
平成23年10月4日付けの手続補正書による手続補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成22年12月22日付けの手続補正書で手続補正された請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
軽量,断熱性の材料からなるボックスであって,
上端が開口した箱状の下板と,前記下板の上端を密閉し少なくとも一部が前記下板から着脱自在である上板と,を備え,
上記上板下のボックス内部に,植物の根の展延を可能にすべく上下に狭いが平面積の広い根収納室を形成し,
上記上板に,外部から上記根収納室内に開通する複数の植物植えつけ孔を設け,
上記ボックスに,外部から上記根収納室の一側に開通する培養液供給流路,及び上記根収納室の他側から外部に開通する培養液排出流路をそれぞれ設けた,
断熱性水耕栽培ボックス。」
(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された,刊行物1とその記載事項は,前記「第2 2 2-1」の「(1)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は,前記「第2 2」で検討した補正発明から「下板の上端を密閉し少なくとも一部が前記下板から着脱自在である上板」が,「下板に嵌合支持される」ものであることに関する構成を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正発明が,前記「第2 2」の「2-2」,「2-3」に記載したとおり,刊行物1記載の発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1記載の発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は特許を受けることができないものであることから,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-31 
結審通知日 2012-11-06 
審決日 2012-11-22 
出願番号 特願2008-257000(P2008-257000)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 理紗小島 寛史  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 横井 巨人
中川 真一
発明の名称 断熱性水耕栽培ボックス  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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