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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B25F
管理番号 1268224
審判番号 不服2011-26292  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-05 
確定日 2013-01-04 
事件の表示 特願2005- 70655「圧縮空気工具のスロットル操作機構」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月21日出願公開、特開2006-247809〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本件出願の発明
本件出願は、平成17年3月14日の特許出願であって、同22年12月16日付けで拒絶の理由が通知され、同23年2月21日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、同23年8月31日付けで拒絶の査定がなされたものである。
その後、平成23年12月5日に拒絶査定を不服とする審判請求がなされるとともに、同日付けで特許請求の範囲及び明細書を補正対象書類とする手続補正書が提出され、その後、同24年6月11日付けで当審より拒絶の理由が通知され、同24年8月3日に意見書及び手続補正書が提出された。
本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成24年8月3日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲、明細書、及び図面の記載からみて、上記特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「高圧域の圧力の圧縮空気によって駆動されるエアモータを備え、圧縮空気供給源から供給される高圧域の圧縮空気をスロットルバルブを介して前記エアモータに供給するとともに、前記エアモータに供給される圧縮空気の量を前記スロットルバルブによってコントロールして前記エアモータの出力を可変調整するようにした圧縮空気工具において、前記スロットルバルブを、圧縮空気源から供給される前記エアモータに圧縮空気を貯留するエアチャンバと、当該エアチャンバと並列して形成され、かつ前記エアモータを駆動した後の排気を貯留させる排気チャンバとを貫通して配置するとともに、一端側に工具を把持している手指によって操作される操作部が形成されたスロットルレバーを他端側の枢支部において回動自在に枢支して設け、前記スロットルバルブには、前記エアモータとエアチャンバとの間に一端が狭く他端が広いテーパー状のエア流路を形成し、該エア流路の上記一端に、前記スロットルバルブから一端が外部に突出したバルブステムの他端に係合可能なボール弁が密着するように押圧付勢し、前記スロットルレバーの前記操作部と前記枢支部の間を前記スロットルバルブから突出されたバルブステムと対向させて配置するとともに、前記バルブステムの外周にスリーブバルブを摺動可能に配置し、前記スロットルレバーによって前記バルブステムをスライド作動させて前記ボール弁を前記テーパー状エア流路の端部から離反させることによりエア流路をエアチャンバからエアモータに開放させ、ボール弁が離反するにしたがって、前記テーパー状エア流路の内周面とボール弁の外周面との間に形成されたエア流通面積が大きくなるようにし、前記スロットルレバーによって前記バルブステムが更にスライド作動すると、前記バルブステムと連動して前記スリーブバルブが摺動し、前記スリーブバルブが開放されることを特徴とする圧縮空気工具のスロットル操作機構。」

2 各引用刊行物記載の発明・事項
これに対して、当審での平成24年6月11日付けの拒絶の理由に引用された、本件出願前である平成2年5月14日に頒布された実願昭63-144714号(実開平2-63985号)のマイクロフィルム(以下「引用刊行物1」という。)、同じく本件出願前である平成10年11月5日に頒布された特許第2821921号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、それぞれ、以下の発明が記載されている。
(1) 引用刊行物1
ア 明細書第2ページ第1行-第4行
「<産業上の利用分野>
この考案は、空気工具における出力軸の高低速回転の切り換えを容易に行えるようにした二段切換式のスロットバルブに関する。」
イ 明細書第7ページ第3行-第8ページ第19行
「<実施例>
以下、この考案を図示の実施例により詳細に説明する。
第1,2,3図はこの考案のスロットバルブの一実施例を備えた空気工具のハンドル部の部分断面図であり、それぞれ停止時、低速回転時および高速回転時におけるスロットバルブの動作状態を示している。
これらの図において、1は空気工具本体、2は上記本体1に嵌合された給気接続口である。
上記本体1には、上記給気接続口2から供給された空気を本体内の図示しないエアモータに導くための給気通路3を備えると共に、下端部と中央部外周壁にそれぞれ上記給気通路3に連なる通気孔5a,5bを有する筒状のバルブブッシュ5を嵌挿固定している。そして、上記バルブブッシュ5の上端部にバルブロッド6を摺動自在に嵌挿し、本体1に揺動自在に突設したバルブレバー7の操作でこのバルブロッド6を摺動させるようにしている。また、このバルブブッシュ5の下端面に形成された第1弁座5cには、下方からバネ8によって付勢された第1バルブ10の上端外周部に装着されたO-リング10aが当接するようになっている。上記第1バルブ10は、外周と本体1との間に高速用給気通路を形成し、内側に第2弁座10bを形成する小径孔10cと大径孔10dとからなる段付孔を有している。そして、この大径孔10d内には第2弁座10bに接離するボール状の第2バルブ11を配置している。また、上記バルブロッド6は、下端部6aが上記第1バルブ10の小径孔内に低速用給気通路を形成する所定間隙を有して摺動自在に嵌合すると共に、バルブレバー7の揺動によりバルブブッシュ5を摺動して、先端が上記第2バルブ11を第2弁座10bから離間させた後につば部6bで第1バルブ10を押圧して第1弁座5cから離間させるようになっている。」
ウ 明細書第8ページ末行-第10ページ第7行
「いま、バルブレバー7を操作しない停止時においては、第1図に示すように第1バルブ10がバネ8によって付勢されO-リング10aが第1弁座5cに押圧されると共に、第2バルブ11が供給された空気圧によって第2弁座10bに押圧され通気が停止される。
この状態でバルブレバー7を少し押すと、第2図に示すようにバルブロッド6が少し下がって第2バルブ11を第2弁座10bから離間させる。そうすると、供給空気が矢印で示すように、バルブロッド6の下端部6aと第1バルブ10との間の低速用給気通路を通って流入し、エアモータを低速回転させる。
そして、更にバルブレバー7を押して、バルブロッド6をバネ8に打ち勝つ力で押し下げると、第3図に示すように第1バルブ10がバルブロッド6のつば部6bで押されて第1弁座5cから離間する。そうすると、供給空気が矢印で示すように、第1バルブ10の外周と本体1との間の高速用給気通路を通って流入し、エアモータを高速回転させる。
このように、第1バルブ10の外周と本体1との間のスペースをすべて高速用給気通路に使用しているので、従来例のようにバルブブッシュの下端外周壁に縦溝を設けてこの縦溝を高速用給気通路に使用する場合に比べて空気の流量を多くすることができ、従って回転数を高くすることができ、またバルブブッシュや本体の構造が簡単となる。」
エ 明細書第10ページ第8行-第12行
「<考案の効果>
以上より明らかなように、この考案の空気工具におけるスロットバルブによれば、空気工具の高速回転時の空気の流量を多くすることができ、従って回転数を高く出来、また構造が簡単となる。」
オ 第2ページ第5行-第3ページ第12行
「<従来の技術>
従来、この種のスロットバルブとしては第4,5,6図に示すようなものがある。
第4図において、41は空気工具の本体、42はこの本体41に連続して設けられたハンドル、43は本体41の端面に突出され、各種のアタッチメントを装脱着せしめて所望の動作を行わしめる出力軸、44は給気接続口である。
上記出力軸43は本体内に設けられた図示しないエアモータによって回動されるようになっており、このエアモータへの空気の供給停止はハンドル内に設けられたスロットバルブ装置Vの操作にて行うようになっている。
上記スロットバルブ装置Vは第5,6図に詳示する如くハンドル内に設けられた給気通路内に筒状のバルブブッシュ45を嵌挿固定している。このバルブブッシュ45は下端外周壁に複数の縦溝45aを刻設し、中央部外周壁には通気孔45bを穿孔し、上端内部にはバルブロッド47を摺動自在に嵌挿している。このバルブロッド47は、ハンドル42に揺動自在にして突設されたバルブレバー46の操作により摺動するようになっている。また、上記バルブブッシュ45内の内周面には上記縦溝45aと通気孔45bとの間にリング状の弁座45cを形成し、上記バルブロッド47と対向して上記弁座45cと当接するボール48を嵌挿したバルブ49を、バネSで上記弁座45cに当接させるように付勢している。」
カ ここで、引用刊行物1に記載された空気工具のエアモータが、供給空気によって駆動されるものであり、供給空気が圧縮空気供給源から供給されるものであることは技術的に明らかである。
摘記事項オに記載されているように、図面の第4図ないし第6図は従来の技術として記載されているものであるところ、その第4図を参照すると、空気工具の全体図が記載されている。そして、42がハンドルであるから、このハンドル42を手で把持し、操作の際には、他端側が枢支部において回動自在に設けられたバルブレバー46の一端側を、ハンドル42を把持している手指で操作する操作部となっているものであることは明らかである。
また、図面の第1図ないし第3図を参照すると、給気接続口2と図示されていないエアモータとの間には、内側に第2弁座10bを形成する小径孔10cと大径孔10dとからなる段付孔を有する第1バルブ10が設けられていることが見て取れる。そして、小径孔10cと大径孔10dが空気の流路であることは明らかである。
さらに、バルブロッド6に着目すると、バルブロッド6の一端はスロットバルブから外部に突出してバルブレバー7の中間部に係合しているのが見て取れる。そして、バルブロッド6の他端である下端部6aの外周が、第1バルブ10の小径孔10c内に低速用給気通路を形成する所定間隙を有して摺動自在に嵌合し、その他端部においてボール状の第2バルブ11に係合可能になっていること、及び、バルブレバー7には、スロットバルブから突出されたバルブロッド6と対向した突起部が設けられているのが見て取れる。
第2バルブ11が第2弁座10bから離間すると第1バルブ10の段付孔からなる空気の流路が給気接続口2とエアモータとの間で開放すること、及び第1バルブ10が第1弁座5cから離間すると第1バルブ10が開放されることは明らかである。
以上アないしオの記載事項、及びカの認定事項から、引用刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「供給空気によって駆動されるエアモータを備え、圧縮空気供給源から供給される供給空気をスロットバルブを介してエアモータに導くとともに、前記エアモータに供給される供給空気の流量を前記スロットバルブにより低速回転時よりも高速回転時多くするようにした空気工具において、一端側に空気工具を把持している手指によって操作される操作部が形成されたバルブレバー7を他端側の枢支部において回動自在に枢支して設け、前記スロットバルブには、前記エアモータと給気接続口2との間に空気の流路となる小径孔10cと大径孔10dとからなる段付孔を形成し、該段付孔の大径孔10d内に、前記スロットバルブから一端が外部に突出したバルブロッド6の他端に係合可能なボール状の第2バルブ11が押圧付勢し、前記バルブレバー7の突起部を前記スロットバルブから突出されたバルブロッド6と対向させて配置するとともに、前記バルブロッド6の下端部6aの外周に第1バルブ10の前記小径孔10cを摺動可能に配置し、前記バルブレバー7によって前記バルブロッド6を少し下げて第2バルブ11を第2弁座10bから離間させることにより空気の流路を前記給気接続口2からエアモータに開放させ、前記バルブレバー7によって更に前記バルブロッド6をバネ8に打ち勝つ力で押し下げると、前記バルブロッド6のつば部6bで前記第1バルブ10が押され、前記第1バルブ10が第1弁座5cから離間し、前記第1バルブ10が開放される空気工具のスロットバルブ。」(以下「引用発明1」という。)
(2) 引用刊行物2
キ 第1欄第11行-第14行
「〔産業上の利用分野〕
この発明は、スロットル機構及びリバース機構を有した、インパルスレンチ、インパクトレンチ、ドライバー、タッパー等のエアーツールに関するものである。」
ク 第3欄第41行-第4欄第14行
「〔実施例〕
以下、この発明のエアーツールの構成を、実施例として示した図面に基づいて説明する。
この実施例は二段式スロットルとしたエアーツールを示しており、本体(1)はハンマケース部(2)、ハンドル部(3)、及びモータケース部(4)から構成されている。
ハンマケース部(2)には、打撃機構(図示せず)等が装備されている。そして、このハンマケース部(2)の前方には、ビット(5)のチャック(6)が設けられている。
ハンドル部(3)の上部には、スロットル機構(7)とリバース機構(8)を一体として設けている。また、ハンドル部(3)には、給入通路(9)及び排出通路(10)が設けられ、さらにハンドル部(3)の下端には、給入通路(9)側にエアー供給口(11)、排出通路(10)側にサイレンサー(12)が設けられている。
モータケース部(4)には、シリンダ(13)内にペイン(14)及びロータ(15)等を有したエアーモータ(16)が装備されている。そして、このモータケース部(4)には、ハンドル部(3)の給入通路(9)に通気する左回転側給気路(17)及び右回転側給気路(18)、及びハンドル部(3)の排出通路(10)に通気する排気通路(19)が設けられている。」
ケ ここで、図面の第1図を参照すると、エアーツールのハンドル部3には、給入通路9と排出通路10とが並列して形成されているのが見て取れる。そして、給入通路9に供給されたエアーは、スロットル機構7を介してエアーモータ16に供給され、排出通路10を通って排出されるものであるから、スロットル機構7が給入通路9と排出通路10とを貫通して設けられていることは明らかである。また、給入通路9が圧縮空気源に接続され、エアーは圧縮空気源から給入通路9に導かれることも明らかである。
以上キないしクの記載事項、及びケの認定事項から、引用刊行物2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「エアーツールにおいて、スロットル機構7を、圧縮空気源から供給されるエアーモータ16にエアーを導く給入通路9と、当該給入通路9と並列して形成され、かつ前記エアーモータ16を駆動した後の排気を導く排出通路10とを貫通して配置したエアーツール。」(以下「引用発明2」という。)

3 対比
本願発明と引用発明1を対比すると、引用発明1の「供給空気」、「スロットバルブ」、「バルブレバー7」、「バルブロッド6」、「ボール状の第2バルブ11」は、それぞれ、本願発明の「圧縮空気」、「スロットルバルブ」、「スロットルレバー」、「バルブステム」、「ボール弁」に相当する。
引用発明1の「給気接続口2」は、当該給気接続口2に隣接して空気溜まり、すなわち、エアチャンバが設けられていることは明らかなので、それらを含めることにより、本願発明の「エアチャンバ」に相当する。
引用発明1の「空気工具」は、本願発明の「圧縮空気工具」、又は、「工具」に相当する。
引用発明1の「導く」ことは「供給する」とも言えるものである。
引用発明1の「エアモータに供給される供給空気の流量をスロットバルブにより低速回転時よりも高速回転時多くするようにした」ことは、本願発明の「エアモータに供給される圧縮空気の量をスロットルバルブによってコントロールして前記エアモータの出力を可変調整するようにした」ことに相当する。
引用発明1の「空気の流路となる小径孔10cと大径孔10dとからなる段付孔」は、本願発明の「一端が狭く他端が広い」、「エア流路」に相当する。
引用発明1の「段付孔の大径孔10d内に、スロットバルブから一端が外部に突出したバルブロッド6の他端に係合可能なボール状の第2バルブ11が押圧付勢」することは、本願発明の「エア流路の一端に、スロットルバルブから一端が外部に突出したバルブステムの他端に係合可能なボール弁が」、「押圧付勢」することに相当する。
引用発明1の「バルブレバー7の突起部をスロットバルブから突出されたバルブロッド6と対向させて配置する」ことは、「スロットルレバーの一部をスロットルバルブから突出されたバルブステムと対向させて配置する」という限りで、本願発明の「スロットルレバーの操作部と枢支部の間をスロットルバルブから突出されたバルブステムと対向させて配置する」ことと共通する。
バルブロッド6の下端部もバルブロッドであることは明らかなので、引用発明1の「バルブロッド6の下端部6aの外周」が、本願発明の「バルブステムの外周」に相当する。
引用発明1の「第1バルブ10」は、本願発明の「スリーブバルブ」に相当する。したがって、引用発明1の「第1バルブ10の小径孔10cを摺動可能に配置」することは、本願発明の「スリーブバルブを摺動可能に配置」することに相当する。
引用発明1の「バルブレバー7によってバルブロッド6を少し下げて第2バルブ11を第2弁座10bから離間させることにより空気の流路を給気接続口2からエアモータに開放させ」ることは、本願発明の「スロットルレバーによってバルブステムをスライド作動させてボール弁を」、「エア流路の端部から離反させることによりエア流路をエアチャンバからエアモータに開放させ」ることに相当する。
引用発明1の「バルブレバー7によって更にバルブロッド6をバネ8に打ち勝つ力で押し下げる」ことは、本願発明の「スロットルレバーによってバルブステムが更にスライド作動する」ことに相当する。
引用発明1の「バルブロッド6のつば部6bで第1バルブ10が押され、前記第1バルブ10が第1弁座5cから離間し、前記第1バルブ10が開放される」ことは、「バルブステムと連動してスリーブバルブが移動し、前記スリーブバルブが開放される」という限りで、本願発明の「バルブステムと連動してスリーブバルブが摺動し、前記スリーブバルブが開放される」と共通する。
引用発明1の「スロットバルブ」は、空気工具の操作機構に係るものであるから、「圧縮空気工具のスロットル操作機構」と言えるものであることは明らかである。
以上の点から、両者は以下の点で一致し、また、以下の点で相違している。
<一致点>
「圧縮空気によって駆動されるエアモータを備え、圧縮空気供給源から供給される圧縮空気をスロットルバルブを介して前記エアモータに供給するとともに、前記エアモータに供給される圧縮空気の量を前記スロットルバルブによってコントロールして前記エアモータの出力を可変調整するようにした圧縮空気工具において、一端側に工具を把持している手指によって操作される操作部が形成されたスロットルレバーを他端側の枢支部において回動自在に枢支して設け、前記スロットルバルブには、前記エアモータとエアチャンバとの間に一端が狭く他端が広いエア流路を形成し、該エア流路の上記一端に、前記スロットルバルブから一端が外部に突出したバルブステムの他端に係合可能なボール弁が押圧付勢し、前記スロットルレバーの一部を前記スロットルバルブから突出されたバルブステムと対向させて配置するとともに、前記バルブステムの外周にスリーブバルブを摺動可能に配置し、前記スロットルレバーによって前記バルブステムをスライド作動させて前記ボール弁を前記エア流路の端部から離反させることによりエア流路をエアチャンバからエアモータに開放させ、前記スロットルレバーによって前記バルブステムが更にスライド作動すると、前記バルブステムと連動して前記スリーブバルブが移動し、前記スリーブバルブが開放される圧縮空気工具のスロットル操作機構。」
<相違点1>
圧縮空気に関して、本願発明では、「高圧域の圧力」と特定しているのに対して、引用発明1では、圧縮空気である供給空気の圧力について不明な点。
<相違点2>
エアチャンバと排気チャンバ及びスロットルバルブの配置に関して、本願発明では、「スロットルバルブを、圧縮空気源から供給されるエアモータに圧縮空気を貯留するエアチャンバと、当該エアチャンバと並列して形成され、かつ前記エアモータを駆動した後の排気を貯留させる排気チャンバとを貫通して配置する」と特定しているのに対して、引用発明1では、エアチャンバと排気チャンバの配置は有していない点。
<相違点3>
エア流路に関して、本願発明では、「テーパー状」と特定し、「ボール弁が離反するにしたがって、テーパー状エア流路の内周面とボール弁の外周面との間に形成されたエア流通面積が大きくなるようにし」ているのに対して、引用発明1では、段付孔であってテーパー状ではない点。
<相違点4>
ボール弁をバルブステムに押圧付勢するに際して、本願発明では、「密着するように」と特定しているのに対して、引用発明1では、ボール弁に相当するボール状の第2バルブ11はそのようになっていない点。
<相違点5>
スロットルバルブから突出されたバルブステムと対向させて配置するスロットルレバーの部分に関して、本願発明では、「操作部と枢支部の間」と特定しているのに対して、引用発明1では、バルブレバー7の突起部が、バルブロッド6と対向しているものである点。
<相違点6>
バルブステムとスリーブバルブとの連動に関して、本願発明では、スリーブバルブが「摺動」するものであると特定しているのに対して、引用発明1では、第1バルブ10が第1弁座5cから離間するものであって、摺動するのかどうかは不明な点。

4 当審の判断
上記相違点について検討する。
ア <相違点1>について
圧縮空気工具として高圧域の圧力の圧縮空気を用いることは、本願明細書の段落【0006】に「従来から使用されている0.98MPa(10kg/cm2)以下の常圧域の圧縮空気で駆動させるようにした常圧用工具に加えて、従来の常圧域の圧力よりも高い高圧域の圧力の圧縮空気で駆動させるようにした高圧専用の工具が近年使用されるようになっている。」と記載されているように、あるいは、例えば、特開2003-322104号公報(段落【0003】参照。)や特開2003-236771号公報(段落【0005】参照。)に記載されているように従来周知の事項であり、また、引用発明1の空気工具において供給空気として高圧域の圧力のものに対応するように設計変更することを妨げる阻害要因も格別見当たらないことからすれば、引用発明1における空気工具に高圧域の圧力の供給空気を用いるように設計変更することは、当業者にとって格別の困難性を有するものではない。
イ <相違点2>について
引用発明2は、「エアーツールにおいて、スロットル機構7を、圧縮空気源から供給されるエアーモータ16にエアーを導く給入通路9と、当該給入通路9と並列して形成され、かつ前記エアーモータ16を駆動した後の排気を導く排出通路10とを貫通して配置したエアーツール。」である。ここで、引用発明2の「エアーツール」、「スロットル機構7」、「エアーモータ16」、「エアー」、「給入通路9」、「排出通路10」は、それぞれ、本願発明の「圧縮空気工具」、「スロットルバルブ」、「エアモータ」、「圧縮空気」、「エアチャンバ」、「排気チャンバ」に相当し、引用発明2の「エアーを導く」こと、「排気を導く」ことは、本願発明の「圧縮空気を貯留する」こと、「排気を貯留させる」ことに相当するから、引用発明2は、「圧縮空気工具において、スロットルバルブを、圧縮空気源から供給されるエアモータに圧縮空気を貯留するエアチャンバと、当該エアチャンバと並列して形成され、かつ前記エアモータを駆動した後の排気を貯留させる排気チャンバとを貫通して配置する圧縮空気工具。」と言い換えることができる。すなわち、相違点2に係る構成は引用発明2が有しており、この引用発明2を引用発明1に適用することは、引用発明1も引用発明2もともに圧縮空気を用いる圧縮空気工具に関する技術であることからすれば、格別の困難性を有するものではない。
ウ <相違点3>について
ボール弁のエア流路をテーパー状とすることは、平成24年6月11日付けの拒絶理由において周知例として例示しているように、例えば特開2004-3649号公報(図面の図6?図9参照。)、実願昭60-22754号(実開昭61-140273号)のマイクロフィルム(図面の第3図参照。)、実願昭53-5630号(実開昭54-109927号)のマイクロフィルム(図面の第2図参照。)に示されているように従来周知の事項であることから、引用発明1におけるボール弁のエア流路である段付孔についても、段付孔に代えてテーパー状の孔とし、その結果として、ボール弁が離反するにしたがって、テーパー状エア流路の内周面とボール弁の外周面との間に形成されたエア流通面積が大きくなるようにすることは、当業者にとって格別の困難性を有するものではない。
エ <相違点4>について
ボール弁をバネにより弁座に密着するように押し付けることは、平成24年6月11日付けの拒絶理由において周知例として例示しているように、例えば例えば特開2004-3649号公報(図面の図6?図7参照。)、実願昭53-5630号(実開昭54-109927号)のマイクロフィルム(図面の第2図参照。)に示されているように従来周知の事項であることから、引用発明1におけるボール弁に相当するボール状の第2バルブ11をバネにより弁座に密着するように押圧付勢することは、当業者にとって格別困難なことではない。
オ <相違点5>について
引用発明1においても、図面の第1図ないし第3図を参照する限り、バルブレバー7に設けられたバルブロッド6に対向する突起部とバルブレバー7の枢支部との距離は、バルブレバー7の操作部と枢支部との間の距離よりも短いものとなっている。したがって、引用発明1においても、スロットルバルブから突出されたバルブステムと対向させて配置するスロットルレバーの部分は、操作部と枢支部の間と言えるものである。したがって、この点は、
実質的な相違点ではない。
なお、一般に、枢支されているレバーによって動かしたい部分、すなわち作用点、で被操作部を動かす場合、操作部と枢支部の間に作用点を設け、操作部の操作力を軽減することは、例示するまでもなく従来周知の事項である。
カ <相違点6>について
引用発明1においては、スリーブバルブに相当する第1バルブ10が摺動することにより開放されるものであるのかどうかは不明である。
しかしながら、スリーブバルブが開放する際の移動を摺動によるものとすることは、例えば、実公昭48-21065号公報(「中介管5」を参照。)、実開昭60-164180号公報(「シャフト11」を参照。)に記載されているように従来周知の事項であることからすれば、引用発明1においても、第1バルブ10が開放する際の移動を摺動することにより行うものとすることは、当業者にとって格別困難なことではない。
キ <作用ないし効果>について
引用発明1においても、バルブレバー7の少しの操作によってボール状の第2バルブ11がまず開放し、バルブレバー7の更なる操作によって第1バルブ10が開放するものであることからすれば、本願発明によってもたらされる作用ないし効果についても、引用発明1ないし引用発明2、及び従来周知の事項から予想し得る範囲のものでしかない。

5 むすび
したがって、本願発明は、引用刊行物1ないし2に記載された各発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-29 
結審通知日 2012-11-06 
審決日 2012-11-20 
出願番号 特願2005-70655(P2005-70655)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B25F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金本 誠夫  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 長屋 陽二郎
刈間 宏信
発明の名称 圧縮空気工具のスロットル操作機構  
代理人 瀬川 幹夫  

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