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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1268937
審判番号 不服2011-20658  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-26 
確定日 2013-01-16 
事件の表示 特願2006-521418「自動車における自動変速機の運転方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月 3日国際公開、WO2005/018978、平成19年 1月18日国内公表、特表2007-500824〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年7月6日(パリ条約による優先権主張2003年7月31日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成23年6月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年9月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?11に係る発明は、平成22年12月27日付け手続補正、及び平成23年9月26日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
惰走運転段階中、設定限界速度に到達するまで、変速機におけるダウンシフトが、車両駆動エンジンと変速機との間に配置されたクラッチの係合によって終了されるように実施される、自動車における自動変速機の運転方法において、
設定限界速度以下でもダウンシフトが行われるが、当該ダウンシフトはクラッチ解除状態で終了されるようになっている
ことを特徴とする自動車における自動変速機の運転方法。
【請求項2】
運転者がすぐに正の駆動トルクについての要望すなわち継続走行についての要望を持つ確率が、所定の値よりも高いときだけ、ダウンシフトが常にクラッチ解除状態で実施されるようになっている
ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
正の駆動トルクについての要望が指標によって検出されるようにした、ことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
正の駆動トルクについての要望に対する指標として、常用ブレーキの解除、方向指示器における操作レバーの振れ、並びに車両舵取り装置の舵取り角が利用されるようにした、
ことを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
正の駆動トルクについての運転者要望の存在が、設定舵取り角に対する測定舵取り角の超過によって検出されるようにした、ことを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
正の駆動トルクについての運転者要望の確率を確定するために、2つないしそれ以上の上述した指標ないし他の指標が一緒に利用されるようにした、ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
常用ブレーキが作動されているときには、惰走ダウンシフトが実施されないようにした、ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
自動車の出力調整要素が操作されたときにはじめて、クラッチが惰走運転を終了するために係合されるようにした、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
惰走運転段階の終わりにおける自動変速機の発進速度段の接続が、常にクラッチ解除状態で終了されるようにした、ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
惰走運転段階中における変速機ダウンシフト時にギヤステップが、車両減速度に関係して選択されるようにした、ことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
自動化マニュアルトランスミッションが当該方法で運転されるようにした、ことを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1つに記載の方法。」

3.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
実願昭62-180630号(実開平1-83631号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。なお、全角半角等の文字の大きさ、促音、拗音、句読点は記載内容を損なわない限りで適宜表記した。以下、同様。
(あ)「[産業上の利用分野]
本考案は車両の条件により自動的に適正な変速ギヤ位置を選択制御する機械式自動変速機の変速制御装置に関するものである。
[従来の技術]
従来、この種の変速制御装置では、アクセルペダルが踏込まれると初めて変速動作を行うようになっている。すなわち第3図に示すように、アクセルペダルの踏込み位置がエンジンのアイドル回転の状態にあるとき、換言すればアイドルストローク状態にあるときには変速動作は行われず、アクセルペダルが踏込まれてアイドルストロークでなくなると、適正なギヤ位置を定めた変速マップをルックアップし、現時のギヤ位置が適正なギヤ位置か否か比較し、適正なギヤ位置でない場合には変速動作を行っている。
このため、走行中に前方の信号が青信号から赤信号に変わったことに気付いた場合のように、アクセルペダルを戻して、しばらく走行するときにはエンジンブレーキを効かすため、アクセルペダルを戻した時点のギヤ位置で走行を続ける。そして車速が一定速度(例えば15km/h)まで低下すると、クラッチを遮断してギヤ位置を中立位置にし、アクセルペダルが再び踏まれるのを待つ。車速が更に低下して殆ど停止速度になると、ギヤ位置を発進ギヤに切換えるように制御される。
[考案が解決しようとする問題点]
上記従来の変速制御装置でアクセルペダルを戻し続けた後、一定速度に至る前に、例えば信号が赤信号から青信号に変わって、加速する場合には、上記変速制御装置はアクセルペダルが踏まれて初めて、中立のギヤ位置の状態から適正なギヤ位置を選択し変速動作を行うため、ギヤ入れに時間を要し、発進が遅れるという問題点があった。
本考案の目的は、アクセルペダルを戻して所定の車速まで減速した後、再加速するときの変速時間を短縮し、加速性能を向上させることができる機械式自動変速機の変速制御装置を提供することにある。」(明細書第2ページ第11行?第4ページ第9行)
(い)「本考案の特徴ある構成は、ブレーキペダルの作動状況を検出するブレーキセンサを備え、前記アクセルセンサがアイドルストロークを検出する状態で前記車速センサが所定の車速より低い車速を検出し、かつ前記ブレーキセンサがブレーキの解放を検出するとき、前記コントローラは現時の変速ギヤ位置を所定の低速ギヤ位置に変速するように前記クラッチアクチュエータ及び前記変速アクチュエータを制御するところにある。
[作用]
走行中にアクセルペダルを戻し、所定の車速まで低下すると、ブレーキペダルが踏まれてなければ、その時の車速に応じて低速ギヤが選択されるため、再び加速するときの変速時間が短縮される。」(明細書第5ページ第7行?第6ページ第1行)
(う)「このように構成された変速制御装置の特徴ある動作を第2図のフローチャートに基づいて説明する。
まずアクセルセンサ3がアイドルストロークを検出したときに車速センサ8が第1の所定の車速、例えば25km/hを越える車速を検出するときには、次にアクセルペダル12が踏まれるのを待つ。車速が25km/h以下であって、第2の所定の車速、例えば10km/hを越えていれば、ギヤ位置センサ7が検出する現時のギヤ位置が第1の低速ギヤ位置、例えば3速段以下であるか否か比較する。ここで4速段以上であれば、クラッチアクチュエータ18によりクラッチ14を遮断し、変速アクチュエータ19によりギヤ位置を中立にしておく。この状態でブレーキセンサ9がブレーキの解放を検出すれば、ギヤ位置を3速段に切換え、次のアクセルペダル12が踏まれるのを待つ。ブレーキセンサ9がブレーキの解放を検出しなければ、再度現時の車速が10km/h以下に低下していないか比較する。
アクセルペダル12が踏まれずに、車速が低下し10km/h以下になったときには、ギヤ位置センサ7が検出する現時のギヤ位置が第2の低速ギヤ位置である2速段以下であるか否か比較する。ここで3速段以上であれば、クラッチ14を遮断し、ギヤ位置を中立にしておく。この状態でブレーキ20が踏まれてなければ、ギヤ位置を2速段に切換え、車速が停止速度でなければ、次のアクセルペダル12が踏まれるのを待つ。車速が停止速度になれば、ギヤ位置を発進ギヤに切換える。
減速時に上記のようにアクセルペダル12が踏まれるのを待機する状態で、ペダル12が踏まれれば、既にギヤ位置はその時の車速に応じた3速段又は2速段に切換わっているため、速やかに加速される。
なお、上記説明では所定の車速として25km/h及び10km/hを示したが、これらの数値は一例であって、本考案の所定の車速はこれらに限るものではない。」(明細書第9ページ第1行?第10ページ末行)
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が示されている。
「走行中にアクセルペダルを戻してしばらく走行するとき、所定の車速に到達するまで、エンジンブレーキを効かすため、アクセルペダルを戻した時点のギヤ位置で走行を続け、
車速が所定の車速以下に低下し、かつブレーキが解放されているとき、ギヤ段が車速に応じたギヤ段でなければ、クラッチを遮断し、車速に応じた低速ギヤを選択するようにした車両の機械式自動変速機の変速制御方法。」
(3)対比
本願発明1と引用例1発明とを比較すると、後者の「走行中にアクセルペダルを戻してしばらく走行するとき」は前者の「惰走運転段階中」に相当し、以下同様に、「所定の車速」(引用例1の第2図では25km/h)は「設定限界速度」に、「車両の機械式自動変速機の変速制御方法」は「自動車における自動変速機の運転方法」に、それぞれ相当する。
引用例1発明の「エンジンブレーキを効かすため、アクセルペダルを戻した時点のギヤ位置で走行を続け、」と本願発明1の「設定限界速度に到達するまで、変速機におけるダウンシフトが、車両駆動エンジンと変速機との間に配置されたクラッチの係合によって終了されるように実施される、」とは、「エンジンブレーキを効かすため、所定のギヤ位置を設定する」という点で一致する。
引用例1発明の「車速が所定の車速以下に低下したとき、ギヤ段が車速に応じたギヤ段でなければ、クラッチを遮断し、車速に応じた低速ギヤを選択するようにした」と本願発明1の「設定限界速度以下でもダウンシフトが行われるが、当該ダウンシフトはクラッチ解除状態で終了されるようになっている」とは、「設定限界速度以下でもダウンシフトが行われ、クラッチは解除状態とされる」という点で一致する。
したがって、両者は、本願発明1の用語に倣って整理すると、
「惰走運転段階中、設定限界速度に到達するまで、エンジンブレーキを効かすため、所定のギヤ位置を設定する、自動車における自動変速機の運転方法において、
設定限界速度以下でもダウンシフトが行われ、クラッチは解除状態とされる
自動車における自動変速機の運転方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
本願発明1は「設定限界速度に到達するまで」、「変速機におけるダウンシフトが、車両駆動エンジンと変速機との間に配置されたクラッチの係合によって終了されるように実施される」のに対し、引用例1発明は、「所定の車速に到達するまで」、「エンジンブレーキを効かすため、アクセルペダルを戻した時点のギヤ位置で走行を続け」る点。
[相違点2]
本願発明1は、「設定限界速度以下でもダウンシフトが行われるが、当該ダウンシフトはクラッチ解除状態で終了されるようになっている」のに対し、引用例1発明は、「車速が所定の車速以下に低下し、かつブレーキが解放されているとき、ギヤ段が車速に応じたギヤ段でなければ、クラッチを遮断し、車速に応じた低速ギヤを選択するようにした」点。
(4)判断
(4-1)相違点1について
走行中にアクセルペダルを戻してしばらく走行するとき、ダウンシフトしてエンジンブレーキの効きを高めることは、例えば、特開昭61-103044号公報(特に第2ページ右上欄第1行?左下欄第9行、第4ページ右下欄第11、12行、第5ページ左下欄第13?15行)、特開昭62-246650号公報(特に第2ページ左上欄第14行?右上欄第17行)、特開平3-292464号公報(特に第1ページ右下欄第5?9行)に示されているように周知である。
引用例1発明は、「所定の車速に到達するまで、エンジンブレーキを効かすため、アクセルペダルを戻した時点のギヤ位置で走行を続け」るものであるが、アクセルペダルを戻した時点のギヤ位置ないし車速などの走行状況や登坂路ないし降坂路などの路面状態は種々さまざまな状態にあり得るから、例えば、アクセルペダルを戻した時点で比較的高速段のときや降坂路のときに、エンジンブレーキの効きを高めるため、上記の周知事項を適用することは適宜の設計的事項の程度であり、格別困難なことではない。
(4-2)相違点2について
引用例1発明は、「車速が所定の車速以下に低下し、かつブレーキが解放されているとき、」ダウンシフトが行われるが、本願明細書にも、「【0015】変速機部品並びにクラッチの摩耗を高める不必要なダウンシフトを防止するために、本発明の有利な実施態様において、上述の設定限界速度以下におけるダウンシフトは、継続走行、および従って、正の駆動トルクについての運転者要望が所定の時間にわたって比較的高い確率で予想されるときだけ実施される。【0016】本発明の方法の実施態様において、正の駆動トルクについての運転者要望の確率を求めるために、特に指標が利用される。【0017】その指標は、例えば常用ブレーキの作動を表示するセンサ信号である。運転者が常用ブレーキを作動している限りにおいて、快適ダウンシフトは開始されない。運転者が常用ブレーキを解除したときにはじめて、即ち、車両のブレーキぺダルが解放されたときにはじめて、上述の快適ダウンシフトが常にクラッチ解除状態において実施される。」と記載されており、本願発明1は、「運転者が常用ブレーキを作動している限りにおいて、快適ダウンシフトは開始されない。」という事項を内包している。したがって、引用例1発明が、「車速が所定の車速以下に低下し、」に加えて、「かつブレーキが解放されているとき、」ダウンシフトが行われるという点は、実質的な相違点には当たらない。
本願発明1は「設定限界速度以下でもダウンシフトが行われるが、当該ダウンシフトはクラッチ解除状態で終了されるようになっている」が、これに関して、本願明細書には、「【0013】 …(略)… 即ち、従来と異なって、惰走運転段階中、上述の設定限界速度以下でも、引き続きダウンシフトが実施される。しかし、このいわゆる快適ダウンシフトの際、新しい速度段の接続後、クラッチが再び係合されることなく、解除されたままにされる。これによって、従来公知の過大なエンジン制動作用による不利な影響が生じなくなる利点がある。そのギヤステップは、好適には、車両減速度に関係して選択され、その車両減速度は、例えば変速機出力軸回転数の変化の測定によって求められる。」と説明されているとともに、また、「【0014】運転者が継続走行することを希望し…(略)…たときには、クラッチが遅滞なく係合される。走行速度に関して正しい速度段が既に入れられているとき、運転者は時間的遅れを感ぜずに、所望の車両加速度を実感する。」、「【0019】運転者が続いて出力調整要素を操作したとき、…(略)…走行速度および/または走行状態に合った適切な速度段が入れられる。出力調整要素の操作時、ただクラッチが係合されるだけで済み、継続走行がすぐにできる。」と説明されており、本願発明1は、設定限界速度以下であれば、車両減速度などの走行状況に無関係にダウンシフトするというものではなく、走行中に運転者が出力調整要素(アクセル)を操作したとき、クラッチを係合するだけで、車速などの走行状態に合った適切な変速段に入れられるようにダウンシフトするものである。少なくともそのような発明を内包している。
一方、引用例1発明は、「車速が所定の車速以下に低下したとき、ギヤ段が車速に応じたギヤ段でなければ、クラッチを遮断し、車速に応じた低速ギヤを選択する」ものであり、それにより、減速時にアクセルペダル12が踏まれれば、既にギヤ位置はその時の車速に応じた3速段又は2速段に切換わっているため、速やかに加速されるのである。以上からすれば、引用例1発明の「車速が所定の車速以下に低下し、かつブレーキが解放されているとき、ギヤ段が車速に応じたギヤ段でなければ、クラッチを遮断し、車速に応じた低速ギヤを選択する」という事項は、実質的に、本願発明1の「設定限界速度以下でもダウンシフトが行われるが、当該ダウンシフトはクラッチ解除状態で終了されるようになっている」という事項に相当するといえる。
そして、本願発明1の効果も、引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が予測し得たものであって、格別のものではない。
(5)むすび
したがって、本願発明1は、引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、一般に、車両が減速し停止に至るときにクラッチ断とすることは、例えば、特開平4-87841号公報(特に第1ページ左下欄第5行?右下欄第16行)に示されているように周知であり、引用例1発明において、走行中にアクセルペダルを戻してしばらく走行するときにダウンシフトを行うようにした場合にも、ダウンシフトの過程を経た後は、通常、クラッチ断とされる。

4.結語
以上のとおり、本願発明1(本願の請求項1に係る発明)が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?11に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-13 
結審通知日 2012-08-14 
審決日 2012-08-31 
出願番号 特願2006-521418(P2006-521418)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 所村 陽一
島田 信一
発明の名称 自動車における自動変速機の運転方法  
代理人 坪内 伸  
代理人 杉村 憲司  
代理人 澤田 達也  
代理人 山崎 孝博  
代理人 大倉 昭人  
代理人 荒木 淳  
代理人 吉澤 雄郎  
代理人 上村 欣浩  
代理人 岡野 大和  
代理人 田中 達也  

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