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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1269002
審判番号 不服2012-7585  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-24 
確定日 2013-01-17 
事件の表示 特願2006-148975「モータ及び電動パワーステアリング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月 6日出願公開、特開2007-318972〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年5月29日の出願であって、平成23年7月19日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成23年9月20日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、平成23年10月13日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成23年12月15日に意見書が提出され、その後、平成24年1月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年4月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年9月20日付け手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「ステータコアの外周面を内周面で支持する有底円筒形状のモータケースと、出力軸側軸受を支持し、前記モータケースの開口部を塞ぐブラケットと、肉抜き部を有するロータとを備えるモータにおいて、
前記ステータコアは、前記開口部から前記モータケース内に一部を残して圧入されており、圧入されていない部分は、前記ブラケットと嵌め合う為のインローとしてあり、前記ブラケットにおける前記ステータコアとのインロー部の少なくとも一部が、モータ軸の方向で前記ロータの肉抜き部と重なるように設けられていることを特徴とするモータ。」


3.引用例
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-27355号公報(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0001】
本発明は、運転者が操作した手動操舵力を電動モータで補助(アシスト)する車両用の電動パワーステアリング(EPS)装置に関し、とくに、振動や騒音を低減させる機能を有した電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の殆どの車両には、運転者の操舵力を補助するパワーステアリング装置が装備されている。
このパワーステアリング装置の一つの形態として、電動パワーステアリング(EPS)装置が知られている。この電動パワーステアリング装置としては、例えば、転舵輪に加わる操舵トルクを検出するトルクセンサと、操作補助用の電動モータとを備え、トルクセンサで検出された操舵トルクに応じて電動モータを駆動させる構成のものが知られている。電動モータの回転出力は補助操舵トルクとなり、この回転出力が歯車機構により減速されて操舵機構の出力軸に伝達される。これにより、ステアリングホイールに印加された操舵力が補助されつつ、車両の操舵が行なわれる。
この電動パワーステアリング装置に用いる電動モータとしては、従来はブラシレス付きモータが主流であったが、近年、信頼性の向上と更なる効率の改善に拠って、ブラシレスモータを使用することが増えており、高出力化への要求も高まっている。
このような状況にあって、ステアリングコラム部に駆動用電動モータを取り付けるコラムタイプの電動パワーステアリング装置の場合、電動モータの位置がステアリングホイールに近いことから、電動モータから生じる騒音や振動を抑制・低減する必要がある。」

・「【0003】
しかしながら、従来のコラムタイプの電動パワーステアリング装置には、ロストルクの変動に伴う防振及び低騒音化の性能をアップさせたいとする要求がある。それは、コラムタイプであるが故に、電動モータの装備される位置が運転者に近いことから、電動モータのロストルクの変動に伴う振動や騒音が運手者(乗員)に伝わり易いことに因って、十分に満足できる静粛性が未だ得られていないからである。
そこで、本発明は、上述したブラシレスモータのコギングが運転者に振動や騒音の違和感をもたらすという電動パワーステアリング装置に固有の問題に鑑みてなされたもので、とくに、ステータの機械的な構造面について耐防振性、耐騒音性を向上させる構造を採り、かかる面から電動モータのロストルク変動に起因したコギングの発生を抑制しつつ、かかるコギングトルクによる振動や騒音の伝達を低減又は抑制して、高い静音性を得ることができる電動パワーステアリング装置を提供することを、その目的とする。」

・「【0006】
以下、図1?6を参照して、本発明に係る電動パワーステアリング装置の一つの実施形態を説明する。
この電動パワーステアリング装置は、図1に示すように、ステアリングホイール2と転舵輪3,3との間に介在するステアリング機構4と、このステアリング機構4による操舵力の発生を制御するコントローラ5とを備える。
ステアリング機構4は、ステアリングホイール2に結合されたコラムシャフト11と、インタミシャフト12と、コラムシャフト11とインタミシャフト12との間に介在するウォームギヤ13と、インタミシャフト12と転舵輪3,3との間に結合したギヤ14及びラック15とを備える。ウォームギヤ13には、電動モータとしてのブラシレスモータ16の出力軸16Aも噛合している。ブラシレスモータ16は、コントローラ5からの指令(駆動電流)を受けて回転駆動し、ステアリング機構4に補助操舵力を与える。
ステアリングホイール2に加えられた操舵力はコラムシャフト11を介してウォームギヤ13に伝えられる。ウォームギヤ13は図示しない減速機構を含む。このため、ウォームギヤ13は、図示していないが、ブラシレスモータ16の出力軸16Aからの出力を、その回転方向を当該方向に直交する方向に変え且つ減速させながら補助トルクを発生させる。この補助トルクは操舵トルクに加えられてインタミシャフト12に伝えられるので、ブラシレスモータ16に拠る補助トルクが転舵輪3に与えられる。これにより、ブラシレスモータ16による補助操舵力が得られる。
コントローラ5は、操舵力を検出するトルクセンサ(図示せず)からの信号のほか、操舵角や車両速度などの車両の走行状態を表す情報を受けて、それらの情報に基づいて所望の補助操舵力を一定タイミング毎に演算し、その補助操舵力に応じた回転方向及び回転トルクを与える駆動電流をブラシレスモータ16に供給する。これにより、ステアリングホイール2に与えられた運転者の手動操舵力がトルクの面で補助(アシスト)され、その補助された操舵力が転舵輪3,3に伝達されるので、電動パワーステアリング機能が発揮される。
図2に、ブラシレスモータ16の軸方向に沿った断面図を示す。このブラシレスモータ16は、全体が略筒状に形成されるモータカバー17と、このモータカバー17の内側に配設され且つ回転トルクを発生させるモータ部18と、モータカバー17の内側にモータ部18と同軸に配設され且つモータ部18のロータの回転位置を検出するレゾルバ19と、このレゾルバ19をモータカバー11内で支持するレゾルバ支持部材20とを備える。
モータカバー17は、図2から分かるように、その全体が所定径且つ所定長さの筒状のモータヨーク21と、このモータヨーク21の軸方向の両端部に位置するフロントフランジ22及びリアカバー23とを備える。つまり、モータカバー17は、モータヨーク21、フロントフランジ22、及びリアカバーの3ピース構造になっている。モータカバー17の軸方向はブラシレスモータ16の軸方向をも成すもので、以下、単に「軸方向」と呼ぶ。
モータヨーク21の軸方向の一端部(減速機側に位置する端部)には、軸方向に直交する方向に外向きに折れ曲げて一体形成されたフランジ17Aを有する。このフランジ17Aにフロントフランジ22がボルトBTにより固定されている。これにより、モータヨーク21の軸方向の一方の開口部は、フロントフランジ22により閉塞される。このフロントフランジ22は、電動パワーステアリング装置の一要素であるギヤハウジングに、図示しないボルト等の固着手段によって固定されている。フロントフランジ22の径方向の中心部には、転がり軸受の収容部が形成されている。
モータヨーク21の軸方向のもう一方の端部(リア側の端部)の開口部は、図示の如く、レゾルバ19を支持するレゾルバ支持部材20により閉塞されている。このレゾルバ支持部材20のリア側の側面を被うように、レゾルバ支持部材20にリアカバー19が取り付けられている。レゾルバ支持部材20の中心部には転がり軸受の収容部が形成されている。
モータ部18は、回動可能なモータ出力軸16A及び筒状のロータコア32を有するモータロータ(ロータ)33、及びモータステータ(ステータ)34を備える。ロータコア32は、モータ出力軸16Aを軸方向に沿って貫通させるように当該モータ出力軸16Aの周囲に固設され且つ当該モータ出力軸16Aと一体に回動する。モータステータ34は、モータヨーク21の内周面に固設され且つロータコア32に一定の空隙を介して対向するように配置されている。モータ出力軸16Aは、前述したフロントフランジ22及びレゾルバ支持部材20それぞれの中心部の収容部に固設した転がり軸受35、36により回動自在に軸支されている。これにより、モータ出力軸16A、すなわちモータロータ33がモータステータ34に対して回動自在に支持されている。
ロータコア32の径方向の外周面には、回転駆動用の永久磁石(モータマグネット)37が装着されている。
モータステータ34は、図3に示すように、ステータコア34Aを備える。このステータコア34Aは、後述するが、部分圧入という手法により、モータヨーク21(ヨーク)の内側に圧入・配設されている。
このステータコア34Aは、略円筒状を成すバックコアBYと、このバックコアBYから当該バックコアBYの径方向の中心に向かって突設された複数のティースTSを有し、隣り合うティースTS間に巻線用のスロットSLが形成されるようになっている。このスロットSLを用いて、コイル(モータコイル)38が巻装され(図2参照)、モータステータ34として形成される。バックコアBY及び複数のティースTSは、渦電流損を低減させるため、例えば薄い電磁鋼板を一体形状で打ち抜いた複数枚の板体を積層させた構造になっている。
・・・
なお、図5には、前述したステータの複数のスロットに樹脂モールドを充填しない従来型のブラシレスモータ16´の例を、図2の参照符号を用いて示している。この場合には、図2とは違って、ステータのスロット間に樹脂性材料は注入されず、その分が空間となっている。また、図6には、前述した部分圧入では無く、全周圧入の手法で形成したステータ34及びモータヨーク21の例(従来例)を、図3の参照符号を用いて示している。この場合には、図3,4とは違って、ステータコア34Aの外周面がその全域に渡ってモータヨーク21の内周面と当接された状態で(図4に示す凹溝50、突条体51、及びΔDの空隙Gは存在しない)、ステータコア34Aがモータヨーク21内に圧入・嵌合される。
図2に戻って説明すると、レゾルバ支持部材20は、非磁性体材料で形成された円盤状の部材である。このレゾルバ支持部材20は、モータヨーク21の軸方向のリア側開口部に位置させ、その開口部を閉塞するように取り付けられている。このレゾルバ支持部材20の径方向中央部に形成した軸受収容部に、前述した転がり軸受36が固設される。このため、ロータ33のモータ出力軸16Aの軸方向の一端部は、この軸受36に軸支されている。
レゾルバ19は、モータ出力軸16Aの円周面に固設されるロータ(レゾルバロータ)41と、このレゾルバロータ41に所定間隔の空隙を介して対向配置されるステータ(レゾルバステータ)42とを備える。
リアカバー23は、円形のディスク部材であって、その円周部分に折り曲げ部23Aが形成されている。この折り曲げ部23Aが、レゾルバ取り付け部材20のフランジ部の外周面に、モータヨーク21と同径となるように取り付けられている。
本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1は、以上のように構成されて手動操舵力に対する操舵トルクのアシストが可能になっている。」

・図1、2及び5の記載によれば、モータ出力軸16Aの軸方向においてウォームギヤ13に噛合する側を軸支する転がり軸受35を収容部に固設し、モータヨーク21の軸方向の一方の開口部を閉塞するフロントフランジ22が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「ステータコア34Aを内周面に固設した円筒形状のモータヨーク21と、モータ出力軸16Aの軸方向においてウォームギヤ13に噛合する側を軸支する転がり軸受35を収容部に固設し、前記モータヨーク21の軸方向の一方の開口部を閉塞するフロントフランジ22と、径方向の外周面に回転駆動用の永久磁石37が装着された筒状のロータコア32とを備える電動パワーステアリング装置1に用いるブラシレスモータ16において、
前記ステータコア34Aは、その外周面が前記モータヨーク21の内周面と当接された状態で、前記モータヨーク21内に圧入・嵌合されている電動パワーステアリング装置1に用いるブラシレスモータ16。」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-327332号公報(以下「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0002】
【従来の技術】小形インダクションモータは構造が簡単で信頼性が高く民生機器の駆動用として広く使用されている。しかしながらさらに高性能化,低騒音化への市場ニーズが強く例えば空調機器等に使用されるファンモータ等においては、とくに低騒音であることが要求されるが、近年位相制御による速度制御が行われるようになって騒音が大きな問題になることが多かった。
【0003】この様なニーズに応えるため従来はフレームを軽量で放熱性に優れ、また音の減衰が比較的大きくいアルミニウムダイカスト製にすることが行われてきた。しかしながら従来行われてきたアルミニウムダカトスト製フレームにおいてはステータとロータ間のエアーギャップを均一に保つことが難しく、このため騒音が大きいだけでなく、性能のバラツキが大きい欠点を有していた。
【0004】即ち従来のファンモータでは、図1に示すようにステータ1を固着支持したハウジング2に嵌合部3を設け、ロータ4を支承するエンドブラケット5に設けた嵌合部6を該嵌合部に勘合させる構成になっていた。一方ステータコアは普通その材料取り及び次の理由から、外周が完全な円形でなく四面をカットした形状のものが使用される。即ち、ハウジングとステータの固着は普通温嵌めの方法が行われるが両者の熱膨張係数の差が大きいため、完全な円形コアを使用した場合には使用温度範囲の最高温度において充分な締め代を得ようとすると、低温時にはハウジングは収縮しようとするがステータコアの収縮量が小さいため相対的に伸ばされて、弾性限界を超えてしまう問題があるためである。このようなコアを温嵌めした場合にはハウジングに設けた嵌合部は大きく変形させられ、これによってロータを支承するエンドブラケットの取付け精度が低下して、ステータとロータ間のエアギャップが不均一になり騒音が大きいだけでなく特性のバラツキも大きい問題を有していた。これは位相制御による変速を行う場合とくに大きな問題となっていた。」

・「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記した従来技術の欠点を取り除き、騒音が小さく性能のバラツキの少ない小形インダクションモータを提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題はステータを支持するハウジングの端部をステータコア端面より突出させてその間にリード線の口出部を設けると共に、ロータを支持するエンドブラケットにつばをもうけその先端部に嵌合部を設け、該嵌合部をステータコアの外周に勘合させるようにすることにより達成される。
【0008】
【作用】ハウジングにステータを温嵌めするとハウジングの端部側は変形するが、その影響を受けることなくロータを高精度に支承することができる。
【0009】
【実施例】以下図を用いて本発明の一実施例にいて説明する。図2は本発明を空調用ファンモータに適用した一実施例である。図において11は外周の一部を四角にカットした(図示せず)ステータコア12に一次巻線13を施し回転磁界を創成するステータで、アルミニウム等のダイカストで製作された本発明の特徴であるハウジング14に温嵌めにより固着されている。該ハウジング14にはステータコアを固着する円筒部15より大きい径をもち少なくともステータコアの端面より内側にまで達する円筒部16が設けられ、該円筒部16の内側に本発明の特徴であるエンドブラケット17に設けられたつば18が円筒部16の形状変化に対して影響を受けることがないよう隙間をもって入りその先端部に設けられた嵌合部19がステータコアの外周に勘合している。これによってボールベアリング20,21により回転自在に支承されたロータ22をステータコア12に対して同心的に支持している。 ・・・
【0010】図3は回路図で、主巻線29,補助巻線30およびコンデンサ31を有したコンデンサランインダクションモータの回路を示している。このモータはサイリスタ32により位相制御される。位相制御は図4に示すように電源の波形がカットされて通電される。低速時には図中の斜線の部分のみが通電されるので、多くの高調波成分を含んだ電源の電圧が印加される。この様な多くの高調波成分を含む位相制御はモータの電磁騒音を発生させやすいものである。とくにステータとロータの同心性のずれ等によってステータとロータ間のエアーギャップの均一性が損なわれた場合に顕著である。
【0011】上記した本発明になる実施例においては、ステータ11をハウジング14に温嵌めした時に生ずる避けることができないハウジングの変位にたいしても、その影響を受けるとなくロータ23をステータコアに対して同心的に高い精度で支持できる。 ・・・
【0012】以上述べたように、本実施例によれば騒音の発生に最も影響の大きい組付け精度が大幅に改善されるので、発生する騒音を低減できるだけでなく、そのバラツキおよび性能,品質のバラツキを小さくすることができる。
【0013】
【発明の効果】上記したように本発明によればコストの上昇をまねかずに、騒音を小さくできるとともにそのバラツキおよび性能,品質のバラツキを小さくすることができる。さらに従来は位相制御により変速を行った場合、騒音が大きいため用途範囲が限定されていたが、本発明によれば位相制御時においても騒音を大きく低減できるため、用途範囲を拡大できるなど大きな実用的効果を有する。」

これらの記載事項及び図示内容(特に、図2の内容)を総合すると、引用例2には、ステータとロータ間のエアギャップが不均一になることによるモータの騒音を低減するために、「ステータコア12は、開口部からハウジング14内に一部を残して嵌められており、嵌められていない部分の外周には、ロータ22を回転自在に支承するエンドブラケット17に設けたつば18の先端部に設けられた嵌合部19が嵌合することによって、ロータ22をステータコア12に対して同心的に支持する」ことが記載されている。
ここで、ステータコア12のハウジング14内に嵌められていない部分は、その外周にエンドブラケット17に設けたつば18の先端部19が嵌合することによって、エンドブラケット17との位置決めがなされることから、エンドブラケット17と嵌め合うためのインローとしてあるものと認められる。
よって、引用例2には、「ステータコア12は、開口部からハウジング14内に一部を残して嵌められており、嵌められていない部分は、エンドブラケット17と嵌め合う為のインローとしてある」との事項が開示されているものと認められる。


4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを、その機能・作用からみて対比する。

・後者の「ステータコア34A」は前者の「ステータコア」に相当し、以下同様に、「モータ出力軸16Aの軸方向においてウォームギヤ13に噛合する側を軸支する転がり軸受35」は「出力軸側軸受」に、「フロントフランジ22」は「ブラケット」に、「電動パワーステアリング装置1に用いるブラシレスモータ16」は「モータ」にそれぞれ相当する。

・後者の「ステータコア34Aを内周面に固設した円筒形状のモータヨーク21」は、ステータコア34Aの外周面がモータヨーク21の内周面と当接された状態にあり、ステータコア34Aの外周面をモータヨーク21の内周面で支持しているものと認められるから、前者の「ステータコアの外周面を内周面で支持する有底円筒形状のモータケース」とは、「ステータコアの外周面を内周面で支持する所定形状のモータケース」との概念で共通する。

・後者の「収容部に固設」する態様は、前者の「支持」する態様に相当し、後者の「モータ出力軸16Aの軸方向においてウォームギヤ13に噛合する側を軸支する転がり軸受35を収容部に固設」する態様は、前者の「出力軸側軸受を支持」する態様に相当する。

・後者の「モータヨーク21の軸方向の一方の開口部を閉塞する」態様は、前者の「モータケースの開口部を塞ぐ」態様に相当する。

・本願明細書の【0021】における「ロータヨーク9及び永久磁石11全体は、保護管10に収納されロータを構成している。ロータヨーク9は焼結成形され、軸方向の両側で肉抜き形状となっている。」との記載、【0029】における「このブラシレスモータは、ロータヨーク9aが、焼結成形され、軸方向の両側で肉抜き形状であり、また、軸方向で対称となるように形成されている。」との記載及び【0031】における「9,9a,9b,9c,9d ロータ(ヨーク)」との記載によれば、前者の「ロータ」は永久磁石が装着されたロータヨークを意味しているものと認められ、後者の「径方向の外周面に回転駆動用の永久磁石37が装着された筒状のロータコア32」と、前者の「肉抜き部を有するロータ」とは、「ロータ」との概念で共通する。

・後者の「ステータコア34Aは、その外周面がモータヨーク21の内周面と当接された状態で、モータヨーク21内に圧入・嵌合されている」態様と、前者の「ステータコアは、開口部からモータケース内に一部を残して圧入されており、圧入されていない部分は、ブラケットと嵌め合う為のインローとしてあり、前記ブラケットにおける前記ステータコアとのインロー部の少なくとも一部が、モータ軸の方向でロータの肉抜き部と重なるように設けられている」態様とは、「ステータコアは、モータケース内に圧入されている」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「ステータコアの外周面を内周面で支持する所定形状のモータケースと、出力軸側軸受を支持し、前記モータケースの開口部を塞ぐブラケットと、ロータとを備えるモータにおいて、
前記ステータコアは、前記モータケース内に圧入されているモータ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
モータケースに関し、本願発明では有底円筒形状であるのに対して、引用発明では円筒形状である点。

[相違点2]
ロータに関し、本願発明では肉抜き部を有するのに対して、引用発明ではそのような特定はされていない点。

[相違点3]
本願発明では、ステータコアは、開口部からモータケース内に一部を残して圧入されており、圧入されていない部分は、ブラケットと嵌め合う為のインローとしてあり、前記ブラケットにおける前記ステータコアとのインロー部の少なくとも一部が、モータ軸の方向でロータの肉抜き部と重なるように設けられているのに対して、引用発明では、ステータコアは、モータケース内に圧入されているものの、それ以上の特定はされていない点。


5.判断
上記相違点について検討する。
[相違点1について]
ロータの回転位置を検出する検出器を有するブラシレスモータにおいて、モータケースを有底円筒形状にすることは本願の出願前に慣用手段(必要であれば、国際公開第2005/101616号(特に、[0012]及び図2)、特開2003-32989号公報(特に、【0015】及び図1)及び特開2004-23841号公報(特に【0012】?【0013】及び図3)を参照。)であるから、これを同じくブラシレスモータである引用発明に適用し、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が適宜なし得たものと認められる。

[相違点2及び3について]
電動パワーステアリング装置に用いるモータにおいて、ロータに肉抜き部を設けることは、原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-168099号公報(特に、図1)及び特開2005-138670号公報(特に、図1)に記載があるように本願の出願前に周知の技術であるところ、これにより軽量化が図れることは技術常識として理解できることである。(必要であれば、特開平6-245472号公報(特に、【0025】及び図5)、特開平7-203645号公報(特に、【0027】、図1及び図4)及び特開2003-189516号公報(特に、【0003】、【0006】及び図1?3)を参照。)
そして、引用発明が「電動パワーステアリング装置1に用いるブラシレスモータ16」であるところ、パワーステアリング装置において、軽量化することは本願の出願前に周知の課題(必要であれば、特開2004-23841号公報(特に、【0009】)及び特開2004-208489号公報(特に、【0003】を参照。)であるから、引用発明において、上記周知の技術を採用し、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者にとって容易である。

また、引用例2には、ステータとロータ間のエアギャップが不均一になることによるモータの騒音を低減するために、「ステータコア12(本願発明の「ステータコア」に相当)は、開口部からハウジング14(「モータケース」に相当)内に一部を残して嵌められており、嵌められていない部分は、エンドブラケット17(「ブラケット」に相当)と嵌め合う為のインローとしてある」との事項(以下「引用例2に記載の事項」という。)が開示されているものと認められるところ、引用例1の【0002】及び【0003】に記載があるように、電動パワーステアリング装置に用いる電動モータから生じる騒音を低減することは従来から認識されている課題であるから、引用発明において、上記引用例2に記載の事項を採用し、ステータコア(「ステータコア34」が相当)は、開口部からモータケース(「モータヨーク21」が相当)内に一部を残して圧入されており、圧入されていない部分は、ブラケット(「フロントフランジ22」が相当)と嵌め合う為のインローとしてあるように構成することは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
ところで、引用発明に上記引用例2に記載の事項を採用したものにおいて、ステータコアのモータケース内に圧入されていない部分、すなわち、ステータコアのブラケットと嵌め合う為のインローとされる部分は、モータ軸(「モータ出力軸16A」が相当)の方向におけるステータコアの端部を必ず含むことから、ブラケットにおけるステータコアとのインロー部が、モータ軸の方向でステータコアの端部と重なる位置にあることは明らかである。(これについて、請求人は、平成23年12月15日付け意見書の3頁4?6行及び平成24年4月24日付け審判請求書の5頁20?22行において「インロー部はステータコアの端部に限定されない。」と主張しているが、上述のとおり、ブラケットにおけるステータコアとのインロー部が、モータ軸の方向でステータコアの端部と重なる位置にあることは明らかであるから、請求人の当該主張を採用することはできない。)
そして、請求人が、平成24年4月24日付け審判請求書の4頁末行?5頁2行において「モータの原理から言って、普通のモータなら、ステータコアの軸方向端部が、軸方向でロータと重なるように構成されることは当然のことであり」と述べているように、モータ軸の方向でステータコアの端部がロータと重なるのが普通であるから、ブラケットにおけるステータコアとのインロー部が、モータ軸の方向でロータと重なるものと認められる。
そうすると、引用発明において、上記周知の技術を採用して上記相違点2に係る本願発明の構成とすることで、ロータは肉抜き部を有するものとされるところ、上記引用例2に記載の事項を合わせて採用することにより、ブラケットにおけるステータコアとのインロー部の少なくとも一部が、モータ軸の方向でロータの肉抜き部と重なるように設けられているように構成することは当業者が適宜なし得たものと認められる。
なお、本願発明の「ブラケットにおけるステータコアとのインロー部の少なくとも一部が、モータ軸の方向でロータの肉抜き部と重なるように設けられている」こと(以下「発明特定事項」という。)については、本願の願書に添付された図2及び図7、並びに明細書の【0021】及び【0029】の各記載に基づいて、平成23年9月20日付け手続補正書による補正により限定された事項であるところ、請求人は、平成23年9月20日付け意見書において「本願の請求項1に係る発明は、上記発明特定事項により、モータの軸方向における更なる小型化が可能であるという作用、効果を奏するのに対して、引用文献1,2に記載された発明には、上記発明特定事項を欠くので、そのような作用、効果は望むべくもない。」(2頁1?3行)と主張する(平成23年12月15日付け意見書の3頁4?7行及び平成24年4月24日付け審判請求書の5頁20?24行においても同様の主張をしている。)。しかし、本願の願書に添付された明細書には、上記発明特定事項により、モータの軸方向における更なる小型化が可能であるという作用、効果を奏することについては何ら記載がなく、本願の願書に添付された明細書等のすべての記載を総合して考慮しても、上記発明特定事項により上記作用、効果を奏するとは認めることができないから、上記発明特定事項に格別な技術的意義を認めることはできない。
よって、引用発明において、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは当業者にとって容易である。

そして、本願発明の全体構成により奏される作用効果は、引用発明、上記慣用手段、上記周知の技術、上記技術常識、上記周知の課題、上記従来から認識されている課題及び上記引用例2に記載の事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって、本願発明は、引用発明、上記慣用手段、上記周知の技術、上記技術常識、上記周知の課題、上記従来から認識されている課題及び上記引用例2に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、同法第49条第2号の規定に該当し、拒絶をされるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-16 
結審通知日 2012-11-20 
審決日 2012-12-03 
出願番号 特願2006-148975(P2006-148975)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 櫻田 正紀  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 槙原 進
田村 嘉章
発明の名称 モータ及び電動パワーステアリング装置  
代理人 河野 登夫  

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