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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B09B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B09B
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B09B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B09B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B09B
管理番号 1269194
審判番号 不服2010-27459  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-03 
確定日 2013-01-22 
事件の表示 特願2007-501179「液晶ディスプレイの使用およびそれらのリサイクル方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月15日国際公開、WO2005/084836、平成19年 9月20日国内公表、特表2007-526826〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年2月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2004年3月5日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成18年9月4日付けで国内書面が提出され、同年11月2日付けで国際出願翻訳文が提出され、平成21年11月13日付けで拒絶理由が通知され(発送日は同年11月24日)、平成22年2月24日付けで意見書及び特許請求の範囲に係る手続補正書が提出され、平成22年3月17日付けで拒絶理由が通知され(発送日は同年3月30日)、同年6月30日付けで意見書及び特許請求の範囲に係る手続補正書が提出され、同年7月22日付けで補正の却下の決定がなされるとともに同日付で拒絶査定され(発送日は同年8月3日)、同年12月3日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付けで特許請求の範囲に係る手続補正書及び明細書に係る誤訳訂正書が提出され、平成23年2月1日付けで請求の理由にかかる補正書が提出されたものであり、その後、平成24年2月29日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋を通知し(発送日は同年3月6日)、期間を指定して請求人の意見を求めたところ、同年7月9日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成22年12月3日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年12月3日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
平成22年12月3日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、本件補正前の平成22年2月24日付けの手続補正により補正された請求項1?11から次の請求項1?11に補正された。
「 【請求項1】
LCDの材料リサイクル方法であって、
細かく砕かれることなく、破壊され、および/または切り刻まれた状態で用いられるLCDを、貴金属および卑金属の混合物を含む組成物に混合し、
混合物を融解し、
融解物を冷却し、
冷却された融解物を破壊し、そして
冷却された融解物の一部は、卑金属を含む冷却された融解物の残りの部分から分離された貴金属を含む、前記材料リサイクル方法。
【請求項2】
LCD含有混合物を、900?1700℃の温度範囲で融解することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
LCD含有混合物を、1200?1400℃の温度範囲で融解することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
LCDが少なくとも電子部品の一部を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
LCDが、該方法で通常用いられる炉用砂の少なくともいくらかと置き換わることを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
LCD中に存在するプラスチックフィルムが、金属含有製品を還元するための還元剤として用いられることを特徴とする、請求項1?5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
LCD中に存在するプラスチックフィルムが、該方法で還元剤として通常添加される炭素含有製品の少なくともいくらかと置き換わることを特徴とする、請求項1?6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
貴金属および卑金属の混合物を含有する組成物からの貴金属の回収における炉用砂および/または炭素含有製品の置換物としてのLCDの使用。
【請求項9】
LCDがエネルギーサプライヤーとして用いられることを特徴とする、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
LCDが、鉱石からの貴金属の回収に用いられることを特徴とする、請求項8または9に記載の使用。
【請求項11】
LCDが、触媒、電気もしくは電子機器スクラップ、および/または金属含有スラッジからの貴金属の回収に用いられることを特徴とする、請求項8または9に記載の使用。」

本件補正後の請求項1?11と本件補正前の請求項1?11との関係を検討すると、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1において、「LCDを、貴金属および卑金属の混合物を含む組成物に混合し」を「細かく砕かれることなく、破壊され、および/または切り刻まれた状態で用いられるLCDを、貴金属および卑金属の混合物を含む組成物に混合し」とし、「分離された貴金属を本質的に含む」を「分離された貴金属を含む」とするものである。
そこでまず、「分離された貴金属を本質的に含む」を「分離された貴金属を含む」と補正する事項について検討すると、当該補正事項は、平成22年3月17日付けで通知された拒絶理由において「理由2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」とし、「(理由2について)
請求項1には、「本質的」と記載されているが、「本質的」の示す範囲が不明確である。」と指摘されていたことに対応して「本質的に」を削除して記載を明確化するものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号に規定する「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」に該当するといえる。
次に、「細かく砕かれることなく、破壊され、および/または切り刻まれた状態で用いられるLCDを、貴金属および卑金属の混合物を含む組成物に混合し」とする補正事項について検討すると、本件補正前の請求項1には組成物に混合する前の「LCD」に関する機械的な予備的処理については特定されていないので、請求項1に上記の事項を付加する補正事項が本件補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであるとは認められず、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正であるとすることはできない。
さらに、当該補正事項が、同項第1号、第3号及び第4号に規定する、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明らかである。

してみると、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に掲げるいずれの事項を目的とするものでもない補正事項を含むものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記のとおり決定する。

なお、仮に、本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとして、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか、以下に検討する。

(2)明確性要件違反について
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1には、「細かく砕かれることなく、破壊され、および/または切り刻まれた状態で用いられる」と記載されているが、「細かく砕かれることなく」、「破壊され」、および/または「切り刻まれた状態」については、LCDが「細かく砕かれることなく」「破壊され」、および/または「切り刻まれた状態」で組成物に混合されるという断片のサイズがどの程度のものかについては同請求項1には記載がなく、誤訳訂正書により訂正された明細書には、段落【0011】に「第一の好ましい態様では、LCDは、細かく砕かれることなく用いられる。該態様は、さらなる技術的な複雑さおよび追加のコストに関連するLCDを細かく砕くことを省略できる点で有利である。」とあるだけで、第一の好ましい態様に該当する場合、除かれる「細かく砕かれる」断片のサイズについての記載はなく、断片のサイズは明確であるとすることはできず、また、同段落【0011】では「第二の好ましい態様では、LCDは細かく砕かれる。しかし細かく砕く種類およびサイズは個々では重要でない。したがって、LCDは破壊されるか、切り刻まれるかまたは粉砕されうる。細かく砕く種類によって、断片の平均サイズは、(破壊の場合)デシメーターの範囲であり、(切り刻まれる場合)センチメーターの範囲であり、(粉砕される場合)ミリメーターの範囲である。」としており、この記載では、「細かく砕く」を「破壊」、「切り刻む」及び「粉砕」の上位概念としており、細かく砕く種類による断片の平均サイズを範囲として記載するだけで、結局、上位概念である「細かく砕かれることなく」によれば、「破壊」、「切り刻む」及び「粉砕」がすべて除かれることになり、本願補正発明は、第二の好ましい態様にも該当せず、結局、本願補正発明は、どのようなサイズの断片が混合の対象として残るのか不明で、このことについて明細書を参照しても明確に定義されておらず、判然としないとせざるを得ない。
そうすると、本願補正発明は、本件補正により追加された不明確な「細かく砕かれることなく、破壊され、および/または切り刻まれた状態」を含んでおり、本願が特許法第36条第6条第2項に規定する要件を満たしているということはできない。

(3)新規性進歩性要件違反について
(3-1)刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特開2000-84531号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【課題を解決するための手段】請求項1の発明に係る液晶パネルの廃棄処理方法は、上記の課題を解決するために、不要になった液晶パネルを廃棄処理する液晶パネルの廃棄処理方法において、少なくとも液晶が入った状態で液晶パネルを破砕し、破砕屑をリサイクル処理することを特徴としている。
・・・
請求項2の発明に係る液晶パネルの廃棄処理方法は、上記の課題を解決するために、請求項1の構成において、上記のリサイクル処理は、破砕した液晶パネルを非鉄製錬炉に投入する処理であることを特徴としている。
液晶パネルは、液晶層を2枚のガラス基板で挟持した構造であり、上記ガラス基板は多量のSiO_(2)を含んでいる。したがって、破砕した液晶パネルを非鉄製錬炉に投入することにより、上記のSiO_(2)が非鉄製錬炉内での化学反応により例えば鉄と結合する。したがって、このような処理を行うことにより、非鉄製錬炉内に存在する不純物(例えば鉄)を取り除くことができる。」(段落【0011】?【0015】)

(イ)「このような構造により、破砕屑の大きさが容易にかつ任意に揃えられ、刃先に無理な力をかけてその寿命を短くすることなく、最大粒径を例えば5mm程度となるまで薄く、小さく破砕することができる。これにより、破砕屑を2次粉砕することなしにフレコンバック(フレキシブル・コンテナ・バックの略)に入れて輸送することが可能となる。
また、1軸剪断式破砕機では、破砕屑の最大粒径を例えば5?10mm程度で安定させることができる。これにより、破砕屑が後述の非鉄製錬炉に投入しやすい寸法および形状となり、破砕屑を大量に非鉄製錬炉に投入して、大量にリサイクル処理することが可能となる。」(段落【0038】?【0039】)

(ウ)「図1に示すように、液晶工場等から出てくる廃液晶パネル、あるいは、情報表示装置や映像表示装置等から出てくる廃液晶パネルを上記の1軸剪断式破砕機によって剪断破砕し、ガラスカレットとする。このとき、上記の廃液晶パネルとしては、液晶、偏光板4a・4b、液晶ドライバICを含んだ状態のものである。つまり、液晶層3(図2参照)が4?6μm厚と極めて薄く、少量で、かつ、非常に蒸発しにくい材料であることを活かして、少なくとも液晶を含んだ状態で破砕処理する。その後、上記の破砕によって得られたガラスカレット(破砕屑)を約1200℃の非鉄製錬炉に投入する。
このとき、1軸剪断式破砕機での破砕によって得られる破砕屑はSiO_(2) を50?70%含んでいるので、非鉄製錬炉内では破砕屑と例えば鉄とが化学反応により結合し、不純物である鉄が取り除かれる。この場合、破砕屑は、物質的な状態で他の処理(鉄の除去)に利用される、いわゆるマテリアルリサイクルされたことになる。一方、破砕屑における偏光板4a・4bや液晶等の有機物は、非鉄製錬炉内での燃焼を促す燃焼材となり、サーマルリサイクルされたことになる。実際に、上記一連の処理の結果としては良好なものが得られた。」(段落【0061】?【0062】)

(エ)「請求項2の発明に係る液晶パネルの廃棄処理方法は、以上のように、請求項1の構成において、上記のリサイクル処理は、破砕した液晶パネルを非鉄製錬炉に投入する処理である構成である。
それゆえ、請求項1の構成による効果に加えて、液晶パネルはSiO_(2)をある程度含んでいるので、これを破砕後、非鉄製錬炉に投入することにより、非鉄製錬炉内に存在する不純物(例えば鉄)を取り除くことができるという効果を奏する。
また、破砕した液晶パネルには偏光板や液晶等の有機物が含まれているが、このような有機物は燃焼材となるので、非鉄製錬炉の加熱を省エネルギーで行うことができるという効果を併せて奏する。」(段落【0081】?【0083】)

(3-2)対比、判断
(3-2-1)刊行物1には、記載事項(ア)には「請求項1の発明に係る液晶パネルの廃棄処理方法は、上記の課題を解決するために、不要になった液晶パネルを廃棄処理する液晶パネルの廃棄処理方法において、少なくとも液晶が入った状態で液晶パネルを破砕し、破砕屑をリサイクル処理すること」、「液晶パネルの廃棄処理方法は、上記の課題を解決するために、請求項1の構成において、上記のリサイクル処理は、破砕した液晶パネルを非鉄製錬炉に投入する処理であること」及び「破砕した液晶パネルを非鉄製錬炉に投入することにより、上記のSiO_(2)が非鉄製錬炉内での化学反応により例えば鉄と結合する。したがって、このような処理を行うことにより、非鉄製錬炉内に存在する不純物(例えば鉄)を取り除くことができる」と記載されている。
そして、記載事項(イ)には「破砕屑の最大粒径を例えば5?10mm程度で安定させることができる。これにより、破砕屑が後述の非鉄製錬炉に投入しやすい寸法および形状となり、破砕屑を大量に非鉄製錬炉に投入して、大量にリサイクル処理することが可能となる」と記載されているとともに、記載事項(ウ)には「(破砕屑)を約1200℃の非鉄製錬炉に投入する。」及び「非鉄製錬炉内では破砕屑と例えば鉄とが化学反応により結合し、不純物である鉄が取り除かれる。この場合、破砕屑は、物質的な状態で他の処理(鉄の除去)に利用される、いわゆるマテリアルリサイクルされたことになる。」と記載されている。

これらの記載を本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、
「液晶パネルの廃棄処理方法において、液晶パネルを破砕し、破砕した液晶パネルを約1200℃の非鉄製錬炉に投入することにより、非鉄製錬炉内では破砕屑と例えば鉄とが化学反応により結合し、不純物である鉄が取り除かれる、いわゆるマテリアルリサイクルする方法」の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3-2-2)本願補正発明と刊行1発明とを対比する。
刊行1発明における「液晶パネル」は、本願補正発明の「LCD」に、刊行1発明における「マテリアルリサイクルする方法」は、本願補正発明の「材料リサイクル方法」に、それぞれ該当することは明らかである。
また、本願明細書の段落【0016】に記載されているように「本発明中の貴金属は、より狭い意味での貴金属、たとえば金、銀プラチナ、水銀、レニウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウムおよびイリジウム、および半貴金属(seminoble metal)のニッケル、同およびコバルトもまた含む。混合物は、融解るつぼ、溶練炉または回転管炉で融解され、その後るつぼに注入される。冷却後、融解物を破壊する。より低い部分が金属を含有し、本質的に貴金属を含むのに対し、より高い部分が卑金属を有するスラグを含む。貴金属を含む部分は、金属回収に回され、卑金属を含むスラグは、たとえば道路建設に使用される。」のであるから、刊行1発明における「非鉄精錬炉」は、鉄を不純物としてそれより貴な金属を分離するので、本願補正発明の「貴金属」を含むことは当然であり、本願明細書の段落【0014】に記載されているように「LCDは、900?1400℃の温度範囲、好ましくは1200?1400℃で選択的に融解される。」から、刊行1発明で「液晶パネルを約1200℃の非鉄製錬炉に投入すること」は、本願補正発明の「LCDを、貴金属および卑金属の混合物を含む組成物に混合し、混合物を融解」することに相当する。そして、融解された被精錬物は、精錬後に冷却され、機械的な処理を経ることは必然であるから、刊行1発明において「融解物を冷却し、冷却された融解物を破壊」することは記載されているに等しい事項である。
さらに、不純物がスラグに含まれ残りの部分に貴金属が分離されることは技術常識であるから、刊行1発明における「非鉄製錬炉内では破砕屑と例えば鉄とが化学反応により結合し、不純物である鉄が取り除かれる」ことは、本願補正発明の「冷却された融解物の一部は、卑金属を含む冷却された融解物の残りの部分から分離された貴金属を含む」ことに他ならないことも、技術的に明らかである。
そうすると、本願補正発明と刊行1発明とは、
「LCDの材料リサイクル方法であって、
LCDを、貴金属および卑金属の混合物を含む組成物に混合し、
混合物を融解し、
融解物を冷却し、
冷却された融解物を破壊し、そして
冷却された融解物の一部は、卑金属を含む冷却された融解物の残りの部分から分離された貴金属を含む、前記材料リサイクル方法。」
で一致し、次の点で一応相違する。

(相違点a)
本願補正発明では、LCDが「細かく砕かれることなく、破壊され、および/または切り刻まれた状態で用いられる」のに対し、刊行1発明では「液晶パネルを破砕」する点。

(3-2-3)この相違点aについて検討する。
本願補正発明においてLCDが「細かく砕かれることなく、破壊され、および/または切り刻まれた状態で用いられる」については、第2(2)で記載したように不明確な特定事項であるが、「ミリメーターの範囲で粉砕されていない状態」と解釈する。
刊行物1では、破砕屑の最大粒径については、記載事項(イ)に「このような構造により、破砕屑の大きさが容易にかつ任意に揃えられ、刃先に無理な力をかけてその寿命を短くすることなく、最大粒径を例えば5mm程度となるまで薄く、小さく破砕することができる。これにより、破砕屑を2次粉砕することなしにフレコンバック(フレキシブル・コンテナ・バックの略)に入れて輸送することが可能となる。
また、1軸剪断式破砕機では、破砕屑の最大粒径を例えば5?10mm程度で安定させることができる。これにより、破砕屑が後述の非鉄製錬炉に投入しやすい寸法および形状となり、破砕屑を大量に非鉄製錬炉に投入して、大量にリサイクル処理することが可能となる。」とあり、輸送のために刃先に無理をすることなく、最大粒径を5mm程度となるまで薄く、小さくでき、非鉄精錬炉に投入しやすい寸法および形状として最大粒径を例えば5?10mm程度としている。この記載からは、最大粒径の10mmは、破砕機の安定した操業からくる数値であって、しかも、例示にすぎないことは明らかである。さらに、刊行1発明においてそれ以上の最大粒径の破砕屑が使用できないと解すべき事由は存在しない。したがって、刊行1発明の破砕は10mm以上のものも含むということができる。
よって、相違点aにかかる特定事項は、刊行物1に記載されているに等しい事項であるから、結局、本願補正発明は、刊行1発明と実質的に区別できないので、刊行1発明に該当するものであるか、仮に相違点aにかかる特定事項が刊行物1に記載されているに等しい事項とまでは言えないとしても、刊行物1に教示されている事項を勘案すれば、刊行1発明においてミリメーターの範囲を超えて粉砕されたものを使用することは、刊行1発明に基づいて当業者が適宜なし得る範囲内の事項である。

そうすると、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1条第3項に該当し、特許を受けることができないものであるか、または刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
(1)本願発明
平成22年12月3日付けの手続補正は前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成22年2月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「LCDの材料リサイクル方法であって、
LCDを、貴金属および卑金属の混合物を含む組成物に混合し、
混合物を融解し、
融解物を冷却し、
冷却された融解物を破壊し、そして
冷却された融解物の一部は、卑金属を含む冷却された融解物の残りの部分から分離された貴金属を本質的に含む、前記材料リサイクル方法。」

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1及びその記載事項は、前記第2の(3)(3-1)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明における本願の請求項1に係る「LCDを、貴金属および卑金属の混合物を含む組成物に混合し」を特定する事項である「細かく砕かれることなく、破壊され、および/または切り刻まれた状態で用いられる」という限定がなく、「分離された貴金属を含む」ことについて「分離された貴金属を本質的に含む」と特定するものである。
してみると、本願発明を特定するために必要な事項である「LCDを、貴金属および卑金属の混合物を含む組成物に混合し」を「細かく砕かれることなく、破壊され、および/または切り刻まれた状態で用いられる」と限定するとともに、さらに「本質的」を削除し「分離された貴金属を含む」として明確化された本願補正発明が、前記第2(3)に記載したとおり、刊行物1に記載された発明であるから特許法第29条第1条第3項に該当し、特許を受けることができないものであるか、または刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願補正発明と同様の理由により、本願発明も、刊行物1に記載された発明と区別できないものであるか、または刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)回答書の主張について
請求人は、回答書において刊行物1からは「LCDを用いて貴金属と卑金属とを分離することは当業者といえども想起できないことであ」る旨主張し、補正案として「〔請求項1〕
LCDの材料リサイクル方法であって、
LCDを、貴金属および卑金属の混合物を含む組成物に混合し、ここでLCDが、砕かれていない状態、またはデシメーターの範囲に破壊された状態、またはセンチメーターの範囲に切り刻まれた状態で用いられ、
混合物を融解し、
融解物を冷却し、
冷却された融解物を破壊し、そして
貴金属を含む冷却された融解物の一部を、卑金属を含む冷却された融解物の残りの部分から分離する、前記材料リサイクル方法。」を提示している。
しかしながら、例えば、平成21年11月13日付けで拒絶理由で先行技術文献として提示した特開2002-239833号公報には、「【0105】次に、上記した処理装置から排出される廃液晶パネルの粉砕片を非鉄精錬炉に投入するリサイクル処理について説明する。
【0106】非鉄精錬でのリサイクル処理方法は、液晶パネルに使われるガラスがSiO_(2)を多く含むことに着目してなされたものであり、非鉄製錬炉では、ガラスはフラックス剤である珪石の代替材料として融点を下げ、流動性を増す働きと、不純物である鉄と化合して鉄を除去する働きをする。この結果、珪石の使用量を削減することができ、また、炉の設定温度を低くすること、つまり、エネルギー投入量を少なくすることができ、コストを削減することも可能となる。
【0107】鉄と化合したガラスはスラグとして排出されるが、このスラグは更にセメント原料として有効活用(マテリアルリサイクル)される。また、偏光板、液晶材料、プラスチック、エポキシ樹脂等の有機物は石炭代替材料として還元剤並びに熱源として有効活用される。更に、微少量ではあるが、廃液晶パネルに含まれるインジウム、タンタル、チタン等の金属材料や液晶ドライバーICや駆動回路基板等の周辺回路に含まれる金、銀、パラジウム、銅等の金属材料も回収される。このように、非鉄製錬でのリサイクル処理方法は、非常に効率的なリサイクル処理方法である。」と記載しているように、廃液晶パネルを非鉄精錬炉に投入して金、銀、パラジウム、銅等の金属材料も回収されることは、一般に知られていることにすぎないし、提示された補正案についても、単に用いられるLCDがセンチメーター以上で以上で切り刻まれたものに特定しているだけにすぎないので、上記先行技術文献に「【0114】こうして得られた上記の粉砕片を、実際に非鉄製錬炉の工程に入れて評価をした。つまり、非鉄製錬の原料や還元剤と混錬・成型して、その強度を調べた。結果は、大きさ10mm以下の粉砕片を用いたものと較べて表面に偏光板と思われる毛羽立ちがやや見られたものの、充分な強度があり、実使用上全く問題のないものであった。つまり、20mm以下の大きさにすれば、非鉄精錬炉にて処理が可能ということである。」と記載されている以上、進歩性を見出せず、採用することはできない。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるか、または刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1条第3項に該当し、特許を受けることができないものであるか、または第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-10 
結審通知日 2012-08-21 
審決日 2012-09-03 
出願番号 特願2007-501179(P2007-501179)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (B09B)
P 1 8・ 113- Z (B09B)
P 1 8・ 121- Z (B09B)
P 1 8・ 57- Z (B09B)
P 1 8・ 575- Z (B09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 龍平  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 斉藤 信人
田中 則充
発明の名称 液晶ディスプレイの使用およびそれらのリサイクル方法  
代理人 葛和 清司  

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