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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B44C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B44C
管理番号 1269229
審判番号 不服2012-3110  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-17 
確定日 2013-01-22 
事件の表示 特願2008-107779「布のラベル付けに適した熱転写ラベル」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月11日出願公開、特開2008-207558〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2003年12月2日(パリ条約による優先権主張2002年12月2日及び2003年3月11日、米国)を国際出願日とする特願2004-570992号の一部を平成20年4月17日に新たな特許出願としたものであって、平成23年5月16日付けで手続補正がなされ、同年10月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成24年2月17日付で拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成24年2月17日付け手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成24年2月17日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成24年2月17日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであって、特許請求の範囲については、本件補正前の請求項1に、
「布のラベル付けに適した熱転写ラベルであって、
(a)キャリヤーを含む支持部と、
(b)転写部とを備え、
前記転写部は、熱及び圧力の条件下で支持部から布製品に転写部を転写するために、前記支持部上に配置されており、
且つ、前記転写部は、
(i)第一のインキデザイン層と、
(ii)10ミクロンから200ミクロンの厚みを有し、且つ10ミクロン以下の表面粗さを有する熱活性接着剤層とを含み、
前記転写部では、前記第一のインキデザイン層が前記熱活性接着剤層の上に配置されている、
ことを特徴とする熱転写ラベル。」とあったものを、

「布のラベル付けに適した熱転写ラベルであって、
(a)キャリヤーおよび剥離層を含む支持部と、
(b)転写部とを備え、
前記剥離層は、前記キャリヤーの上に塗布されており、
前記転写部は、熱及び圧力の条件下で支持部から布製品に転写部を転写するために、前記支持部の上に配置されており、
且つ、前記転写部は、
(i)第一のインキデザイン層と、
(ii)10ミクロンから200ミクロンの厚みを有し、且つ10ミクロン以下の表面粗さを有する熱活性接着剤層とを含み、
前記転写部では、前記第一のインキデザイン層が前記熱活性接着剤層の上に配置されている、
ことを特徴とする熱転写ラベル。」とする補正を含むものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)上記(1)の本件補正後の請求項1に係る補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「キャリヤーを含む支持部」について、「『前記キャリヤーの上に塗布されて』いる『剥離層』も含む」ものであると限定するとともに、「支持部上」を「支持部の上」と表現を変えるものである。

2 本件補正の目的
上記1(2)の本件補正後の請求項1に係る本件補正は、全体として、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 引用例の記載
原査定の拒絶の理由において引用された「本願優先日前に配布された刊行物である特開昭56-167490号公報(以下「引用例」という。)」には、図とともに以下の事項が記載されている。
(1)「(2)ポリエステル等の箔状支持体上に剥離剤層を塗設し、その上にインキ層または該インキ層上に金属蒸着した層あるいは金属蒸着層のみよりなる層を設け、次いでホットメルト層の接着剤を全面塗布した上に、更に昇華性染料を含有する非タック性のインキと、染料を含有しない非タック性の樹脂ワニスを非転写部に絵柄状に印刷塗布してなる加熱転写シート。」(1頁左下欄12?19行)

(2)「本発明は加熱転写シート、とくに織物等への加熱転写シートに関するものである。」(1頁右下欄2?3行)

(3)「従来ホットスタンプ型の転写箔があり支持体に全面ホットメルトタイプの接着剤を塗布しておき、全面を転写する場合にはそのままの状態で、また文字、線模様の場合には加熱された凸版の型によって加圧転写するか、あるいはホットメルトタイプの接着剤を基材にはコートせず、被転写材の方に感熱接着剤を全面または柄状にプリントしておいて転写するようにするものである。しかし転写箔の方に柄状に接着剤をプリントして成るものは未だに見出すことができない。
このようなタイプのものは被転写材が織物や編み物の生地への転写の場合には被転写材に繊細な柄状に接着剤をプリントすることは極めて困難であり、仮りにプリント出来ても転写時に生地の歪がみが起り忠実な柄を表現することはむずかしい。
第1図は一般的なホットスタンプ型の転写シートの構成を示す説明図であって、支持体1’(主として材質はポリエステルフィルム)の上に剥離剤層2’、その上にインキ層または蒸着層3’を置き、その上にホットメルトタイプの接着剤層4’をコートして構成される。これを布に転写した場合には第2図の様な構成となる。aは被転写材(布)である。そして従来の方法では絵柄を転写する場合にはインキ層で所望の絵柄を印刷により形成するものであり、剥離層、接着剤層は絵柄のない部分まで全面コートするか、あるいは絵柄よりやや大き目に印刷により塗布するかのいずれかの方法が採られている。しかしこの場合はインキ層からはみ出た接着剤、剥離層が転写されてしまうので外観上好ましくないところから、以前からインキ層のみが転写できるような転写シートが要望されていた。
本発明はこのような事情の下に改善された方法であって、その要旨とするところはポリエステル等の箔状支持体上に剥離剤層を塗設し、…(略)…上記剥離剤層上にインキ層…(略)…を設け、次いでホットメルト型の接着剤を全面塗布した上に、更に昇華性染料を含有する非タック性のインキと、染料を含有しない非タック性の樹脂ワニスを非転写部に絵柄状に印刷して加熱転写シートとしたものである。すなわち…(略)…第4図は本発明の加熱転写シートの断面的説明図である。」(1頁右下欄4行?2頁右上欄10行)

(4)「第3図において1はポリエステル、ポリプロピレン、セロハン等の箔状支持体であり、2は剥離剤層であり、支持体に対しては基本的には接着しない剥離性のあるアクリル、ポリアミド等の合成樹脂やセルロース系高分子物の塗層であり全面的に施されている。3はインキ層・・・。4はホットメルト(感熱)型の接着剤を絵柄状に印刷した層である。5は昇華性染料を含有する非タック性インキにて絵柄状に印刷した層である。金属蒸着層を剥離剤層の上に設けるにはアンカーコートするのが望ましい。このアンカーコート剤に種々の着色染料または顔料で着色することによりアルミニウム蒸着した場合これに所望の色の着色蒸着膜とすることができる(例えば黄色染料を用いた場合はアルミニウム蒸着層は金色を呈する)。…(略)…また、柄状に感熱性(ホットメルト型)の接着剤を絵柄状に印刷する場合、その接着剤は熱を加えることによりタック性が出て、被転写材と接着することが必要で多くの接着剤中で被転写材の生地がフィルムであるか、その他であるかはその材質を充分に熟知した上で接着剤を選ぶべきものである。通常、アクリル系、ポリアミド系合成樹脂や合成ゴム等が好都合であり、しかもその塗布量は大きく接着力に影響するものである。」(2頁右上欄11行?同頁右下欄2行)

(5)「実施例1
25μのポリエステルフィルムにアクリル系の剥離ワニスを40μ深度のグラビア版にて全面にコートし、次いでニトロセルローズ系のビヒクルにオイル染料(黄)を溶解して同様40μ深度のグラビア版にて全面コートする。更にその上にアルミニウムを真空蒸着し、剥離性の転写原箔が得られた。この蒸着面に45μ深度の版深で小絞の絵柄を彫刻してなるグラビア版にて、ホットメルト型の感熱接着剤としてポリアミド系の塗料を印刷し、かつまた45μ深度の版深でハートの絵柄を彫刻してなるグラビア版にて、ニトロセルローズ系のビヒクルにダイヤセリトンピンクBを溶解させた非タック性のインキにて印刷して、小絞の絵柄とハートの絵柄が転写できる転写シートができた。
転写にあたってはポリエステルデシンに接着剤が印刷してある面と合せ160℃に加熱されている2本ロール(一方は鉄製、他方がゴム、紙、プラスチック等で作られたクッション性のあるロール)間に挟み、3m/分の速度で線圧15kg/cmで通過させたところ、小絞り柄の部分が金色に転写され、かつ、ハートの絵柄の部分の染料のみが転写され、豪華な転写捺染布を得ることができた。」(2頁右下欄16行?3頁左上欄19行)

(6)「実施例3
実施例1におけるようにアルミニウムを蒸着した後、その上に全面感熱接着剤を塗布して、更にその上に実施例1にて使用した昇華性染料を含有する非タック性のインキと、染料を含有しない非タック性の、ワニスで非転写部のみを柄状にプリントし、実施例1と同様の方法で転写した。…(略)…。
この転写シートは第4図の断面説明図のように構成されている。6は非タック性ワニス層である。」(3頁右上欄18行?左下欄8行)

(7)第3図における絵柄状に印刷されたホットメルト型接着剤層に代えて感熱性接着剤を全面塗布し、更にその上に昇華性染料を含有する非タック性のインキと非タック性ワニスをそれぞれ絵柄状に印刷した層を設けた場合の転写シートの構成を示す説明図である第4図の記載から、25μのポリエステルフィルムである箔状支持体1、箔状支持体1にアクリル系の剥離ワニスを40μ深度のグラビア版にて全面にコートした剥離層2、剥離層2にニトロセルローズ系のビヒクルにオイル染料(黄)を溶解して40μ深度のグラビア版にて全面コートし、更にその上にアルミニウムを真空蒸着した層3、層3の上に全面感熱接着剤を塗布したホットメルト型の接着剤層4、接着剤層4上に柄状にプリントした昇華性染料を含有する非タック性のインキ層5、及び、接着剤層4上に非転写部のみを柄状にプリントした染料を含有しない非タック性ワニス層6からなる実施例3の転写シートが見て取れる。

(8)上記(1)ないし(7)からみて、第3図の構造の実施例1では小絞り柄の部分(4)は金色に転写され、第4図の実施例3で上面に接着剤層4が露わになっている個所の層構造は第3図の小絞り柄の部分(4)と同じ層構造であるから同様に金色に転写されることが明らかであり、第3図の構造の実施例1のハートの絵柄の部分5は染料のみが転写され、第4図で上面に非タック性インキ層5が印刷されている部分でも同様に染料のみが転写されることが明らかであり、実施例3での感熱接着剤の塗布も実施例1と同様に45μ深度のグラビア版にてされているものと解されるから、引用例には実施例3のものとして次の発明が記載されているものと認められる。
「織物等への加熱転写シートに関し、
支持体に全面ホットメルトタイプの接着剤を塗布しておき、全面を転写する場合にはそのままの状態で、また文字、線模様の場合には加熱された凸版の型によって加圧転写するか、あるいはホットメルトタイプの接着剤を基材にはコートせず、被転写材の方に感熱接着剤を全面または柄状にプリントしておいて転写するようにする従来ホットスタンプ型の転写箔では、剥離層、接着剤層は絵柄のない部分まで全面コートするか、あるいは絵柄よりやや大き目に印刷により塗布するかのいずれかの方法が採られており、織物や編み物の生地である被転写材への転写の場合には、インキ層からはみ出た接着剤、剥離層が転写されてしまうので、外観上好ましくなく、被転写材に繊細な柄状に接着剤をプリントすることは極めて困難であり、仮りにプリント出来ても転写時に生地の歪みが起り忠実な柄を表現することはむずかしく、以前からインキ層のみが転写できるような転写シートが要望されていたという事情の下にこれを改善した織物等への加熱転写シートであって、
25μのポリエステルフィルムである箔状支持体1、箔状支持体1にアクリル系の剥離ワニスを40μ深度のグラビア版にて全面にコートした剥離層2、剥離層2に40μ深度のグラビア版にて全面コートしたニトロセルローズ系のビヒクルにオイル染料(黄)を溶解し更にその上にアルミニウムを真空蒸着した層3、層3の上にポリアミド系の塗料を45μ深度のグラビア版にて全面塗布したホットメルト型の接着剤層4、接着剤層4上に45μ深度の版深でハートの絵柄を彫刻してなるグラビア版にて、ニトロセルローズ系のビヒクルにダイヤセリトンピンクBを溶解させた非タック性のインキを柄状にプリントした昇華性染料を含有する非タック性のインキ層5、及び、接着剤層4上に非転写部のみを柄状にプリントした染料を含有しない非タック性ワニス層6からなり、
ポリエステルデシンに接着剤層4が印刷してある面を合わせ160℃に加熱されている2本ロール(一方は鉄製、他方がゴム、紙、プラスチックなどで作られたクッション性のあるロール)間に挟み、3m/分の速度で線圧15kg/cmで通過させて転写して、非タック性ワニス層6が柄状にプリントされている部分は転写されず、接着剤層4が露わになっている部分が金色に転写され、かつ、非タック性のインキ層5が柄状にプリントされている部分は染料のみが転写され、豪華な転写捺染布を得ることができ、インキ層のみが転写できるようにした、織物等への加熱転写シート。」(以下「引用発明」という。)

4 対比
(1)引用発明の「織物等への加熱転写シート」、「25μのポリエステルフィルムである箔状支持体1」、「箔状支持体1にアクリル系の剥離ワニスを40μ深度のグラビア版にて全面にコートした剥離層2」、「『箔状支持体1』及び『剥離層2』」、「『ニトロセルローズ系のビヒクルにオイル染料(黄)を溶解した層』、『アルミニウムを真空蒸着した層3』、『ホットメルト型の接着剤層4』及び『非タック性のインキ層5』」、「160℃に加熱されている2本ロール(一方は鉄製、他方がゴム、紙、プラスチックなどで作られたクッション性のあるロール)間に挟み、3m/分の速度で線圧15kg/cmで」、「ポリエステルデシン」、「45μ深度の版深でハートの絵柄を彫刻してなるグラビア版にて、ニトロセルローズ系のビヒクルにダイヤセリトンピンクBを溶解させた非タック性のインキを柄状にプリントした昇華性染料を含有する非タック性のインキ層5」及び「全面感熱接着剤を塗布したホットメルト型の接着剤層4」は、それぞれ、本願補正発明の「布のラベル付けに適した熱転写ラベル」、「キャリヤー」、「剥離層」、「支持部」、「転写部」、「熱及び圧力の条件下で」、「布製品」、「第一のインキデザイン層」及び「熱活性接着剤層」に相当する。

(2)引用発明の「剥離層(剥離層2)」は、「キャリヤー(箔状支持体1)」にアクリル系の剥離ワニスを40μ深度のグラビア版にて全面にコートしたものであるから、本願補正発明の「剥離層」と、「前記キャリヤーの上に塗布されて」いる点で一致する。

(3)引用発明の「熱転写ラベル(加熱転写シート)」は、「布製品(ポリエステルデシン)」に「熱及び圧力の条件下で(160℃に加熱されている2本ロール(一方は鉄製、他方がゴム、紙、プラスチックなどで作られたクッション性のあるロール)間に挟み、3m/分の速度で線圧15kg/cmで)」接着剤層4が露わになっている部分が金色に転写されるものであり、この金色に転写される部分は、ニトロセルローズ系のビヒクルにオイル染料(黄)を溶解した層、アルミニウムを真空蒸着した層3、ホットメルト型の接着剤層4及び非タック性のインキ層5であることが当業者に自明であり、かつ、ニトロセルローズ系のビヒクルにオイル染料(黄)を溶解した層、アルミニウムを真空蒸着した層3、「熱活性接着剤層(ホットメルト型の接着剤層4)」及び「第一のインキデザイン層(非タック性のインキ層5)」は、「支持部(箔状支持体1に剥離層2をコートしたもの)」上に順にコート、塗布又はプリントされたものであり、この「第一のインキデザイン層」は「熱活性接着剤層」上に柄状にプリントしたものであり、引用発明の「転写部」は、ニトロセルローズ系のビヒクルにオイル染料(黄)を溶解した層、アルミニウムを真空蒸着した層3、「熱活性接着剤層(ホットメルト型の接着剤層4)」及び「第一のインキデザイン層(非タック性のインキ層5)」を含み、引用発明の「熱活性接着剤層」は、層3の上にポリアミド系の塗料を45μ深度のグラビア版にて全面塗布したものであるから、引用発明の「転写部」と本願補正発明の「第一のインキデザイン層と、10ミクロンから200ミクロンの厚みを有し、且つ10ミクロン以下の表面粗さを有する熱活性接着剤層とを含む転写部」とは、「熱及び圧力の条件下で支持部から布製品に転写部を転写するために、前記支持部の上に配置されて」いる点及び「第一のインキデザイン層と、10ミクロンから200ミクロンの厚みをする熱活性接着剤層とを含む」で一致する。

(4)上記(1)ないし(3)からみて、本願補正発明と引用発明とは、
「布のラベル付けに適した熱転写ラベルであって、
(a)キャリヤーおよび剥離層を含む支持部と、
(b)転写部とを備え、
前記剥離層は、前記キャリヤーの上に塗布されており、
前記転写部は、熱及び圧力の条件下で支持部から布製品に転写部を転写するために、前記支持部の上に配置されており、
且つ、前記転写部は、
(i)第一のインキデザイン層と、
(ii)10ミクロンから200ミクロンの厚みを有する熱活性接着剤層とを含み、
前記転写部では、前記第一のインキデザイン層が前記熱活性接着剤層の上に配置されている、
熱転写ラベル。」である点一致し、次の点で相違する。

相違点:
前記熱活性接着剤層の表面粗さが、本願発明では「10ミクロン以下」であるのに対して、引用発明では明らかでない点

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)本願明細書には、「【0110】…(略)…加えて、接着層323は、十分に平滑な表面をもち、その上にインキデザイン層325の読みやすい印刷を可能にする。本発明者は、望ましい平滑表面を得るためには、好ましくは、接着剤層323の表面粗さは、約15ミクロンを超えるべきではないことを確認した。…(略)…したがって、適切な接着組成物の例は、接着剤として450部のHMP 5184 Vポリエステル粉末樹脂(Bostik-Findley、ミドルトン、マサチューセッツ州)、結合剤として150部のPKHW 35フェノキシ分散液(InChem社、ロックヒル、サウスカリライナ州)、110部のTafigel PUR 61シックナー(Ultra Additives社、クローバー、サウスカロライナ州)、・・・を含む。このようなポリエステル含有接着剤組成物は、約6から10ミクロンの表面粗さをもつ接着剤層をもたらす。適切な接着剤組成物の別の例は、100部のGeon 137(PolyOne社、エイボンレイク、オハイオ州)、55部のSanticizer 160可塑剤(Ferro社、クリーブランド、オハイオ州)及び55部のジオクチルフタレート可塑剤(ChemCentral社、ベッドフォードパーク、イリノイ州)を含む。このようなPVC含有接着組成物は、1ミクロンより小さい表面粗さを有する接着剤層をもたらすことが判明した。後者の組成物により作成されたPVC含有接着層は、前者の組成物により作成されたポリエステル含有接着剤層に比べてより平滑な表面をもたらす故、このPVC含有接着層は、画像印刷及び小さい文字印刷により適し、又は高解像の要求に適している。…(略)…」との記載がある。
この記載からみて、本願補正発明では、印刷されるインキデザイン層の高解像度を確保するために「熱活性接着剤層」が「10ミクロン以下の表面粗さを有」しているものと解される。

(2)熱転写に使用される転写層の表面粗さに関し、印刷される画像の高解像度を確保するために適切な表面粗さが必要であり、その適切な表面粗さ(中心線平均粗さ)は5μm未満、0.1?2.5μm程度であることが、本願の優先日前に周知である(以下「周知事項」という。例.特開平4-187495号公報(「産業上の利用分野・・・感熱転写方式のプリンタ、コピーマシン、ワードプロセッサ等を用いて該転写可能な層上にまず感熱転写して得られた転写像を、さらに加熱により最終的な被転写体(布)上へ転写することのできる転写シート」についての「中心線・平均粗さが0.5μm以上であると、転写層(2)とインク(6)が十分に密着しないため画像にカケなどが発生し、画像再現性が低下する。」(3頁12?15行)との記載参照。)、特開平05-162469号公報(「【0001】・・・感熱転写方式のプリンタ、タイプライタ、ワードプロセッサ等を用い転写可能な層上に感熱転写して得られた転写像を、さらに加熱により最終的な布などの被転写体上に転写することのできる転写シート」についての「【0020】従来の転写シートでは、転写層表面の粗度のみが配慮され・・・【0021】【作用】基体と接しない側の転写層面、すなわち画像形成面側の中心線平均粗さを0.1?2.5μm・・・の基体を用いることにより溶融型熱転写インクリボンからインクを転写層の画像形成面に転写する場合、基体のうねりなどによる凹部の転写ヌケが少なくなり極めて良好な画像再現性が得られる。」との記載参照。))。

(3)引用発明は、従来ホットスタンプ型の転写箔では、被転写材に繊細な柄状に接着剤をプリントすることは極めて困難であり、仮りにプリント出来ても転写時に生地の歪みが起り忠実な柄を表現することはむずかしといった事情の下にこれを改善した織物等への加熱転写シートであるところ、上記(2)からみて、引用発明において、前記熱活性接着剤層の表面粗さを、印刷される画像の高解像度を確保するために適切な表面粗さである、5μm未満、0.1?2.5μm程度となすこと、すなわち、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知事項に基づいて容易になし得た程度のことである。

(4)本願発明が奏する作用効果は、上記(1)及び(2)からみて、引用発明の奏する効果及び周知事項から、当業者が予測できた程度のものである。

(5)まとめ
本願補正発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成23年5月16日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年5月16日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2〔理由〕3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2〔理由〕2」で述べたとおり、本願補正発明は、本願発明を特定するために必要な事項を限定したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含みさらに限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕5」に記載したとおり、当業者が引用例に記載された発明及び周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用例に記載された発明及び周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-21 
結審通知日 2012-08-27 
審決日 2012-09-10 
出願番号 特願2008-107779(P2008-107779)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B44C)
P 1 8・ 575- Z (B44C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神尾 寧  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 西村 仁志
住田 秀弘
発明の名称 布のラベル付けに適した熱転写ラベル  
代理人 松下 満  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 井野 砂里  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 北村 博  

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