• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1269893
審判番号 不服2011-16010  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-25 
確定日 2013-02-06 
事件の表示 特願2001- 74932「動脈瘤塞栓形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月 8日出願公開、特開2002-291903〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成13年3月15日の出願であって、平成22年7月21日付けで拒絶理由が通知され、それに対して平成22年9月30日付けで手続補正が意見書の提出とともになされ、平成23年3月25日に拒絶査定がなされ、これに対して平成23年7月25日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2.平成23年7月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年7月25日付けの手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1.補正後の本件発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「塞栓形成装置配備システムにおいて、
基端部、先端部、およびカテーテルの長さに沿って貫通する内孔部を有するカテーテルと、
複数の円弧状の支柱部により構成されている塞栓形成装置とから成り、当該複数の支柱部の先端部同士および基端部同士が互いに接続して、前記塞栓形成装置が前記カテーテルの先端部の中に配置されている状態で、前記複数の支柱部の先端部および基端部以外の部分が外側に膨らんで概ね楕円形状の構造体を形成し、さらに、前記塞栓形成装置が前記支柱部上に配置されてこれに取り付けられているメッシュ・スリーブを備えていて、当該塞栓形成装置が前記カテーテルの先端部における内孔部の中に摺動して配置され、さらに、貫通内孔部を有するハブから成り、当該ハブが前記カテーテルの基端部に取り付けられていて、ハブの内孔部がカテーテルの内孔部に連通しており、さらに、
前記ハブの内孔部および前記カテーテルの内孔部の中に配置されているプッシャー機構から成り、当該プッシャー機構がカテーテルの先端部における内孔部の中から前記塞栓形成装置を移動して当該塞栓形成装置を血管内に配備するために使用され、
前記複数の支柱部は、51%乃56%のニッケルおよび44%乃至49%のチタンから成るニチノールである超弾性合金により形成されており、
前記塞栓形成装置は、血管内に配備されている状態において、概ね球形である、塞栓形成装置配備システム。」(下線部は、補正箇所を示す。)と補正された。
(なお、上記の本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載における「51%乃56%」は、「51%乃至56%」の明らかな誤記と認めるので、以下、この箇所については「51%乃至56%」と記載する。)

上記の補正は、発明を特定するために必要な事項である「塞栓形成装置」について、「血管内に配備されている状態において、概ね球形である」ことを限定するものであり、かつ、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号において規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに相当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という)が、独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載内容
引用刊行物:国際公開第00/51500号

原査定の理由に引用され、本件出願前に頒布された引用刊行物には、「塞栓器具」に関して以下の記載がある。

ア.”1. Field of the Invention
The present invention relates generally to the field of occlusion of vessels and other tubular structures in the body. More particularly, it concerns a method and apparatus for repositionable, self-anchoring occlusion including vascular and ureter occlusion.”(明細書第1ページ第5?9行)
(1.発明の属する分野
この発明は、一般的に体内の脈管や、その他の管の閉塞に関するものである。さらに詳細に述べると、脈管や尿管を閉塞するものを含む、再配置可能であって、自己で位置決めしうるものに関する。)(当審による仮訳:下線は、当審にて加入。以下同様)

イ.”In one aspect, the invention is an occluder including a elastically deformable members, and a jacket. As used herein, by"elastically deformable"it is meant that deformation is non-permanent and an original shape may be substantially recovered, or regained, upon the release of a force (which may be mechanical, electromagnetic, or any other type of force). By"substantially recovered", it is meant that recovery need not be such that the exact original shape may be regained.”(明細書第5ページ第21?24行)
(一つの観点によると、この発明は、弾性変形可能なメンバーと、ジャケットを含む塞栓部材に関するものである。ここでいう、弾性変形可能とは、変形が永久的なものではなく、力(機械的な、電磁気的な、あるいは他の種類の力)がかからなくなると元の形を実質的に回復するものである。「実質的に回復する」については、元の形状に完全に戻らなくてもよいという意味である。)

ウ.”In other aspects. the plurality of elastically deformable members may be programmed with thermal memory. The plurality of elastically deformable members may be programmed with superelasticity. The plurality of elastically deformable members may be secured at their ends. The occluder may also include one or more anchors defined by one or more ends of the plurality of elastically deformable members. The occluder may also include a pair of clips in spaced relation for securing the plurality of elastically deformable members. At least one of the clips may be interdigitated. The occluder may also include an eye in operable relation to at least one of the clips. The jacket may include dacron. The jacket may include polyurethane. The plurality of elastically deformable members may include four or more nitinol wires. The occluder may also include an occluding agent enclosed within the jacket. The occluding agent may include one or more threads of polyester.”(明細書第6ページ第4?15行)
(他の観点によると、複数の弾性変形可能なメンバーは、温度による形状記憶を施されたものであってもよい。複数の弾性変形可能なメンバーは、超弾性のものであってもよい。複数の弾性変形可能なメンバーは、両端において結束されていてもよい。塞栓部材は、また、一つか、それ以上の複数の弾性変形可能なメンバーの端部からなるアンカーであってもよいし、塞栓部材は、複数の弾性変形可能なメンバーを結束するためのクリップを間隔を開けた状態で設けたものであってもよい。少なくとも一つのクリップは、互いにかみ合う形状のものであってもよい。塞栓部材は、クリップの一つに対して操作可能なように孔を有していてもよい。ジャケットは、ダクロンを含んでいてもよいし、ジャケットは、ポリウレタンを含んでいてもよい。複数の弾性変形可能なメンバーは、4つかそれ以上のニチノールの線材からなっていてもよい。塞栓部材は、ジャケット内に、塞栓するための要因を含んだものであってもよい。塞栓のための要因は、一つかそれ以上のポリエステルの繊維であってもよい。)

エ.”In another aspect, the invention is an occlusion system including an occluder and a delivery system. The occluder includes a pair of clips, a elastically deformable members, and a jacket. The pair of clips are configured in spaced relation. The plurality of elastically deformable wires are secured by the clips and extend in arcuate conformation therebetween. The plurality of elastically deformable wires are operable to become compressed upon application of a force and to recover the arcuate conformation upon removal of the force. The jacket is in operable relation to the plurality of elastically deformable wires and is configured to cover at least a portion of the plurality of elastically deformable wires. The delivery system includes a guiding catheter and a pushing catheter. The guiding catheter is configured to receive the occluder. The guiding catheter compresses and guides the plurality of elastically deformable wires. The pushing catheter is configured to engage at least one of the pair of clips to slide the occluder relative to the guiding catheter. ”(明細書第6ページ第17?29行)
(もう一つの観点によると、この発明は、塞栓部材と配送システムとを含む塞栓システムに関するものである。塞栓部材は、一対のクリップと、弾性変形可能なメンバーと、ジャケットを含むものである。一対のクリップは、間隔を開けて配置されている。複数の弾性変形しうるワイヤは、クリップにより束ねられ、それらの間で円弧状に延びる。複数の弾性変形し得るワイヤは、力が作用すると圧縮され、力が除去されると円弧状の形状を回復する。ジャケットは、複数の弾性変形可能なワイヤと関連して動作し、複数の弾性変形可能なワイヤの少なくとも一部を覆うように配置されている。配送システムは、ガイディングカテーテルとプッシングカテーテルを含むものである。ガイディングカテーテルは、塞栓部材を受け入れるものである。ガイディングカテーテルは、複数の弾性変形可能なワイヤを押してガイドするものである。プッシングカテーテルは、塞栓部材をガイディングカテーテルと相対してスライドするために、少なくとも一つのクリップと係合するものである。)

オ.”A delivery system including a guiding catheter configured to receive the occluder and a pushing catheter configured to engage at least one of the pair of clips is provided. The guiding catheter is positioned adjacent the occlusion site. The occluder is positioned within the guiding catheter. At least one of the pair of clips is engaged with the pushing catheter. The occluder is slide relative to the guiding catheter with the pushing catheter so as to deploy the occluder from the guiding catheter so as to recover the arcuate conformation to occlude the occlusion site. ”
(明細書第7ページ第23?30行)
(配送システムとして、塞栓部材を受け入れるガイディングカテーテルと、少なくとも一対のクリップのうち一つと係合するプッシングカテーテルを含むものが提供されている。ガイディングカテーテルは、塞栓を行う箇所に近接して配置される。塞栓部材は、ガイディングカテーテルの中に置かれる。少なくとも一つのクリップが、プッシングカテーテルに係合されている。塞栓部材は、プッシングカテーテルによって、ガイディングカテーテルに対してスライドし、塞栓部材をガイディングカテーテルから展開して、塞栓部材を塞栓箇所において、塞栓を行うために円弧状の形状に復帰するようにする。)

カ.”Turning first to FIG. 1. there is shown an occluder 10 according to one embodiment of the presently disclosed method and apparatus. Occluder 10 includes a pair of clips 14, a plurality of elastically deformable members 12. and a jacket 16. In operation. occluder 10 may be positioned at an occlusion site to mechanically block blood passage and to induce thrombosis.
Elastically deformable members 12 may be configured to assume an arc, or bowed shape, as shown in FIG. 1. Such a shape may facilitate occlusion, for an outer surface of elastically deformable members 12 may engage and press against an inner surface of an opening, firmly anchoring occluder 10 and creating a mechanical blockage of blood flow (see, e. g., FIG. 19).”(明細書第13ページ第1?11行)
(最初にFIG.1をみると、今、開示されている方法や装置の実施例によるものである塞栓部材10が図示されている。塞栓部材10は、一対のクリップ14と、弾性変形可能なメンバー12とジャケット16を含むものである。動作にあたって、塞栓部材10は塞栓箇所に配置され、血流を機械的に阻止し、血栓ができるのを誘導する。
弾性変形可能なメンバー12は、FIG.1に示されるように円弧か弓なり状の形状をしている。このような形状が、塞栓が形成されるのを助長する。というのは、弾性変形可能なメンバー12の外表面は、開口部の内面に向かって係合、押圧し、しっかりと、塞栓部材10を係留し、血流の機械的なブロックを生じさせる。(例えばFIG.19を参照))

キ.”To create different occluder shapes, the distance between clips 14 (or other securing mechanisms) holding the wires together and the arrangement of elastically deformable members 12 may be altered. If the distance between clips 14 is decreased as much as possible (see, e. g., FIG. 6). four elastically deformable members 12 may form a fourleaf clover shape. Such an arrangement of elastically deformable members 12 may result in a flat-disc design. If the distance between clips 14 is increased, elastically deformable members 12 may form an oval or spherical basket. Due to its ability to take on different sizes and shapes, occluders 10 disclosed herein may advantageously occlude a wide variety of differently sized and shaped occlusion sites.”(明細書第16ページ第30行?第17ページ第7行)
(異なる形状の塞栓部材を形成するために、ワイヤを束ねているクリップ14(又は他の固定機構)間の距離と弾性変形可能なメンバーの配置を変えることができる。もし、クリップ14間の距離が可能な限り狭められると(例えば、FIG.6を参照)、4つの弾性変形可能なメンバー12が、四つ葉のクローバーのような形となる。そのような弾性変形可能なメンバーの配置は、平坦なディスクのような形態となる。もし、クリップ14間の距離が拡がると、弾性変形可能なメンバー12は、楕円か、球形のバスケット状のものとなる。異なる大きさと形をとりうる能力によって、ここで開示される塞栓部材は、異なる大きさや形状の閉塞箇所を有利に閉塞することができる。)

ク.”Device Construction
Devices of varying size have been constructed from four 0.009 inch nitinol wires held together at each end by a stainless steel clip. Nitinol, an alloy composed of 55% nickel and 45% titanium with a titanium-oxide layer, has been used because of its shape memory properties and established biocompatibility (Liu and Stice, 1990;Castleman et al., 1976). ”(明細書第32ページ第25?30行)
(装置の構造
様々な大きさの装置が、4本の0.009インチのニチノールのワイヤであって、それぞれの端部をステンレスのクリップによって束ねることにより形成されている。ニチノールであって、酸化チタンの層を伴った55%のニッケルと45%のチタンよりなるものが、形状記憶の性質と、生体適合の性質を備えるために用いられてきた。(Liu and Stice, 1990年;Castleman ら., 1976年))

ケ.FIG.15には、塞栓部材であるメンバー12が、先端部、基端部以外の部分が外側に膨らんで、概ね楕円形状となっており、カテーテル40の先端部に配置されている点が図示されている。

コ.FIG.1には、メンバー12にジャケット16が取り付けられており、ジャケット16がメッシュ状のものである点が図示されている。

サ.FIG.15?16には、ガイディングカテーテル40に、その長さに沿って貫通する内孔が形成されており、内孔内にプッシングカテーテル32、複数の弾性変形可能なメンバー12からなる塞栓部材が配置されている点が図示されている。

シ.FIG.14には、プッシングカテーテル32が塞栓部材をガイディングカテーテル40の先端部における内孔部の中から外部に移動している点が図示されている。

以上の明細書の記載ア.?ク.及び図面に図示された事項ケ.?シ.、その他、図面に図示された事項を総合すると、引用刊行物には以下の発明(以下「引用発明」という)が記載されている。

「塞栓部材と配送システムとを含む塞栓システムにおいて、
その長さに沿って貫通する内孔部を有するガイディングカテーテル40と、
複数の円弧状の弾性変形可能なメンバー12によりなる塞栓部材とからなり、
複数のメンバー12の両端において結束され、塞栓部材のメンバー12がガイディングカテーテル40の先端部に配置されている状態で、先端部、基端部以外の部分が外側に膨らんで概ね楕円形状となっており、
さらに、塞栓部材がメンバー12に取り付けられているメッシュ状のジャケット16を備えており、
塞栓部材が、ガイディングカテーテル40先端部の内孔部の中においてガイディングカテーテル40に対してスライドし、
ガイディングカテーテル40の内孔部の中に配置されているプッシングカテーテル32からなり、当該プッシングカテーテル32が、ガイディングカテーテル40の先端における塞栓部材を脈管内の塞栓箇所に配置し、
複数のメンバー12は、55%のニッケルと45%のチタンからなるニチノールにより形成されており、
複数のメンバー12は、塞栓箇所を閉塞するにあたって楕円か、球形のバスケット状のものとなる、
塞栓部材と配送システムとを含む塞栓システム。」

3.発明の対比
本件補正発明と、引用発明とを対比すると、
引用発明の「塞栓部材と配送システムとを含む塞栓システム」は、本件補正発明の「塞栓形成装置配備システム」に、引用発明の「その長さに沿って貫通する内孔部を有する」、「ガイディングカテーテル40」は、カテーテルにおいて基端部、先端部を有することは技術常識であるから、本件補正発明の「基端部、先端部、およびカテーテルの長さに沿って貫通する内孔部を有する」、「カテーテル」に相当し、引用発明の「複数の円弧状の弾性変形可能な」、「メンバー12」は、本件補正発明の「複数の円弧状の」、「支柱部」に、引用発明の「塞栓部材」は、本件補正発明の「塞栓形成装置」に、引用発明の「複数のメンバー12の両端において結束され」ることは、本件補正発明の「複数の支柱部の先端部同士および基端部同士が互いに接続」することに相当し、引用発明の「塞栓部材のメンバー12」が「ガイディングカテーテル40の先端部に配置されている状態」で、「先端部、基端部以外の部分が外側に膨らんで概ね楕円形状」となっていることは、本件補正発明の「塞栓形成装置」が「カテーテルの先端部の中に配置されている状態」で、「複数の支柱部の先端部および基端部以外の部分が外側に膨らんで概ね楕円形状の構造体を形成」することに相当し、引用発明の「メンバー12に取り付けられている」、「メッシュ状のジャケット16」は、本件補正発明の「支柱部上に配置されてこれに取り付けられている」、「メッシュ・スリーブ」に相当し、引用発明の「塞栓部材が、ガイディングカテーテル40先端部の内孔部の中においてガイディングカテーテル40に対してスライド」することは、本件補正発明の「塞栓形成装置がカテーテルの先端部における内孔部の中に摺動して配置され」ることに相当し、引用発明の「ガイディングカテーテル40の内孔部の内に配置されている」、「プッシングカテーテル32」は、本件補正発明の「カテーテルの内孔部の中に配置されている」、「プッシャー機構」に相当し、引用発明の「プッシングカテーテル32が、ガイディングカテーテル40の先端における塞栓部材を脈管内の塞栓箇所に配置」することは、本件補正発明の「プッシャー機構がカテーテル先端部における内孔部の中から塞栓形成装置を移動して塞栓形成装置を血管内に配備」することに相当する。
そして、引用発明の「複数のメンバー12は、55%のニッケルと45%のチタンからなるニチノールにより形成されている」ことと、本件補正発明の「複数の支柱部は、51%乃至56%のニッケルおよび44%乃至49%のチタンから成るニチノールである超弾性合金により形成されて」いることとは、「複数の支柱部は、55%のニッケルおよび45%のチタンから成るニチノールにより形成されて」いることにおいて共通する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「塞栓形成装置配備システムにおいて、
基端部、先端部、およびカテーテルの長さに沿って貫通する内孔部を有するカテーテルと、
複数の円弧状の支柱部により構成されている塞栓形成装置とから成り、当該複数の支柱部の先端部同士および基端部同士が互いに接続して、前記塞栓形成装置が前記カテーテルの先端部の中に配置されている状態で、前記複数の支柱部の先端部および基端部以外の部分が外側に膨らんで概ね楕円形状の構造体を形成し、さらに、前記塞栓形成装置が前記支柱部上に配置されてこれに取り付けられているメッシュ・スリーブを備えていて、当該塞栓形成装置が前記カテーテルの先端部における内孔部の中に摺動して配置され、
前記カテーテルの内孔部の中に配置されているプッシャー機構から成り、当該プッシャー機構がカテーテルの先端部における内孔部の中から前記塞栓形成装置を移動して当該塞栓形成装置を血管内に配備するために使用され、
前記複数の支柱部は、55%のニッケルおよび45%のチタンから成るニチノールにより形成されている、塞栓形成装置配備システム。」

[相違点1]
本件補正発明においては、「貫通内孔部を有するハブから成り、当該ハブが前記カテーテルの基端部に取り付けられていて、ハブの内孔部がカテーテルの内孔部に連通しており、さらに、前記ハブの内孔部およびカテーテルの内孔部の中に配置されているプッシャー機構から成」るのに対して、引用発明においては、貫通内孔部を有するハブをガイディングカテーテル40の基端部に設けるものか不明である点。

[相違点2]
複数の支柱部に関して、本件補正発明においては、「51%乃至56%のニッケルおよび44%乃至49%のチタンから成るニチノールである超弾性合金により形成され」るのに対し、引用発明においては、「55%のニッケルと45%のチタンからなるニチノールにより形成されている」点。

[相違点3]
本件補正発明においては、「塞栓形成装置は、血管内に配備されている状態において、概ね球形である」のに対して、引用発明においては、閉塞部材が塞栓箇所を閉塞するにあたって、楕円か、球形のバスケット状の形状となるものの、それが、どの程度の球形となっているのか不明な点。

4.当審の判断
そこで、上記相違点について検討する。

[相違点1について]
貫通内孔部を有するハブをカテーテルの基端部に設け、互いの内孔部を連通させることは、周知の技術的事項(特開平11-313829号公報、【図1】、翼部を有するハブ114/特開2000-140120号公報、【図1】、ハブ14/特開2000-197704号公報、【図1】、【図2】ハブ11を参照)である。よって、引用発明に、この周知の技術的事項を適用して、引用発明のガイディングカテーテル40の基端部に貫通内孔部を有するハブを取り付けて互いの内孔部を連通させること、その際に、ガイディングカテーテル40の内孔部の中に配置されているプッシングカテーテル32を、ハブの貫通内孔部の中にも配置することにより、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。

[相違点2について]
引用発明のニッケルとチタンからなるニチノールが超弾性合金であることは技術常識である。さらに、本件補正発明のニチノールを構成するニッケルとチタンの割合を示す数値範囲(51%乃至56%のニッケルおよび44%乃至49%のチタン)にも格別、臨界的意義が認められず、当業者が適宜定め得るものである。
よって、引用発明における複数のメンバー12を、51%乃至56%のニッケルおよび44%乃至49%のチタンから成るニチノールである超弾性合金により形成し、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。

[相違点3について]
血管内に配備されている状態において、塞栓形成部材を概ね球形とすること、及びそれにより塞栓形成部材が傾いても血管内に安定して配置されることは、周知の技術的事項(特開平11-313830号公報、【図1】、【図2】、段落【0017】の記載/特開昭61-41444号公報、第3図、公報第3ページ、右下欄第13?16行の記載、公報第4ページ左上欄第14行?右上欄第9行、第18?19行/特開平11-56860号公報、図2Cを参照)である。よって、引用発明にこの周知の技術的事項を適用して、閉塞部材として概ね球形であるものを採用し、上記相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。

そして、本件補正発明の奏する効果についてみても、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者であれば予測できた範囲のものである。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができない。

5.結び
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本件発明について
1.本件発明
本件補正は、上述のように却下されたので、本件の請求項1に係る発明は、平成22年9月30日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下「本件発明」という)

「塞栓形成装置配備システムにおいて、
基端部、先端部、およびカテーテルの長さに沿って貫通する内孔部を有するカテーテルと、
複数の円弧状の支柱部により構成されている塞栓形成装置とから成り、当該複数の支柱部の先端部同士および基端部同士が互いに接続して、前記塞栓形成装置が前記カテーテルの先端部の中に配置されている状態で、前記複数の支柱部の先端部および基端部以外の部分が外側に膨らんで概ね楕円形状の構造体を形成し、さらに、前記塞栓形成装置が前記支柱部上に配置されてこれに取り付けられているメッシュ・スリーブを備えていて、当該塞栓形成装置が前記カテーテルの先端部における内孔部の中に摺動して配置され、さらに、貫通内孔部を有するハブから成り、当該ハブが前記カテーテルの基端部に取り付けられていて、ハブの内孔部がカテーテルの内孔部に連通しており、さらに、
前記ハブの内孔部および前記カテーテルの内孔部の中に配置されているプッシャー機構から成り、当該プッシャー機構がカテーテルの先端部における内孔部の中から前記塞栓形成装置を移動して当該塞栓形成装置を血管内に配備するために使用され、
前記複数の支柱部は、51%乃56%のニッケルおよび44%乃至49%のチタンから成るニチノールである超弾性合金により形成されている、塞栓形成装置配備システム。」

2.引用刊行物とその記載
引用刊行物とその記載内容は、上記「第2.2.」に記載したとおりのものである。

3.発明の対比・判断
本件発明は、上記「第2.」で検討した本件補正発明から、「塞栓形成装置」についての限定を省いたものである。そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2.4.」に記載したとおり、引用発明、周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.結び
以上のとおり、本件発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-05 
結審通知日 2012-09-11 
審決日 2012-09-25 
出願番号 特願2001-74932(P2001-74932)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
P 1 8・ 575- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 毛利 大輔  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 松下 聡
田合 弘幸
発明の名称 動脈瘤塞栓形成装置  
代理人 加藤 公延  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ