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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61L
管理番号 1269987
審判番号 不服2011-13854  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-29 
確定日 2013-02-08 
事件の表示 特願2004-150062「プラズマ滅菌用インジケーターシートおよび滅菌用包装袋」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月2日出願公開、特開2005-329019〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成16年5月20日の出願であって、平成22年2月17日付けの拒絶理由が通知され、同年4月22日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年3月28日付けで拒絶査定がなされたので、同年6月29日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けで手続補正書により特許請求の範囲が補正され、平成24年3月16日付けで特許法第164条3項に基づく報告書を引用した審尋がなされ、同年5月18日付けで回答書が提出され、その後、当審における同年9月21日付けの拒絶理由が通知され、同年11月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願発明は、平成24年11月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に記載された発明は次のとおりのものである(以下「本願発明1」という。)
「支持体上に、過酸化水素雰囲気のみで変色する着色層と、過酸化水素との接触のみでは変色せず、プラズマ状態の過酸化水素雰囲気のみで変色する着色層の少なくとも2つの層が形成されたことを特徴とするプラズマ滅菌用インジケーターシート。」

第3 刊行物に記載された発明
1 引用例1について
(1)引用例1の記載事項
本願出願日前に頒布され、当審で通知した拒絶の理由で引用された特開2004-101488号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「過酸化水素プラズマ滅菌において発生するラジカルにより変色する染料を用いることを特徴とする過酸化水素プラズマ滅菌検知用インキ組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)
(イ)「請求項1又は請求項2に記載する過酸化水素プラズマ滅菌検知用インキ組成物を用いる過酸化水素プラズマ滅菌検知用インジケータ。」(特許請求の範囲の請求項3)
(ウ)「印刷基材に塗布する請求項3に記載する過酸化水素プラズマ滅菌検知用インジケータ。」(特許請求の範囲の請求項4)
(エ)「しかしながら、過酸化水素プラズマ滅菌は、過酸化水素による殺菌の他、過酸化水素から発生するOH・等のラジカルにより滅菌を行うものであるため、正確な滅菌終了を確認するには、ラジカルの作用程度を検知する必要があった。」(【0006】段落)
(オ)「(1)過酸化水素プラズマ滅菌検知用インキ組成物
本発明の過酸化水素プラズマ滅菌検知用インキ組成物は、過酸化水素プラズマ滅菌において発生するラジカルにより変色する染料を用いる。具体的には、・・・がラジカルによる変色の顕著性の点から好ましく使用できる。」(【0011】段落)
(カ)「試験例1
実施例1で得られたインキ組成物の変色性を調べた。
インキ組成物を用いてシルクスクリーン印刷(150メッシュ)によりポリエチレンテレフタレートフィルムに印刷した。得られた印刷物を過酸化水素プラズマ滅菌器・・・に入れ、標準的条件で滅菌処理を施したところ、明瞭な変色が認められた。・・・一方、同滅菌器において、プラズマを発生させず過酸化水素のみにて処理したものは変色しなかった。」(【0042】【0043】段落)

(2)引用例1に記載された発明
記載事項(ア)(イ)より、引用例1には、過酸化水素プラズマ滅菌において発生するラジカルにより変色する染料からなるインキ組成物を用いてなる過酸化水素プラズマ滅菌検知用インジケータが記載されており、同(ウ)によれば、当該インジケータは印刷基材上に該インキ組成物を塗布することで形成されている。
また、該インキ組成物は、同(オ)によれば、過酸化水素プラズマ滅菌において発生するラジカルにより変色する染料からなるが、同(カ)によれば、これは過酸化水素雰囲気によっては変色しないものである。なぜなら、実施例1で得られたインキ組成物は、プラズマを発生させず過酸化水素のみで処理した場合には変色しなかったからである。このため、引用例1のインジケータは、過酸化水素との接触のみでは変色せず、該ラジカルのみで変色するものである。
したがって、引用例1には次の発明(以下「引用例1発明」という。)が記載されていると認める。
「過酸化水素プラズマ滅菌において、過酸化水素との接触のみでは変色せず、発生するラジカルのみにより変色する染料からなるインキ組成物が、印刷基材上に塗布された過酸化水素プラズマ滅菌検知用インジケータ。」

2 引用例2について
(1)引用例2の記載事項
同じく、特開平11-178904号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(サ)「本発明は、低温ガスプラズマ滅菌法によって、色調を変化させ、滅菌が効果的に行われたか否かを確認するための化学的インジケーターの改良に関する発明である。」(【0001】段落】)
(シ)「本出願の発明のプラズマ滅菌用インジケーターは、酸化性を有する過酸化水素や過酢酸を用いるプラズマ滅菌法の滅菌工程で、インジケーター中に配合した特定の色素が、酸化性を有するガスの酸化力により褪色(消色)することを原理とした、滅菌用インジケーターに関するものであるから、・・・過酸化水素などを用いるプラズマ滅菌法に対しても広く適用できるものである。」(【0009】段落)
(ス)「酸化性のガスである過酸化水素には強い酸化力があり、従来からその酸化力を利用して漂白剤としても用いられるものであるが、過酸化水素プラズマ滅菌に用いる過酸化水素の濃度(滅菌器内の濃度)はかなり低く(数mg/l程度)、各種の色素を含むインキを基材上に塗布して作成したインジケーターの脱色性(褪色)について調べたが1サイクルの滅菌工程中で完全に褪色するものは見当たらなかった。
そこで、色素とバインダーの他に添加剤(変色助剤)を加え、その組み合わせを変えてインジケーターを試作し、そのプラズマ滅菌法による変色試験を行った。その変色試験結果、・・・シアニン系塩基性色素のいずれかと、・・・ジチオカルバミル基を有する化合物を添加剤(変色助剤)として含むインキを基材上に塗布したインジケ-タ-がプラズマ滅菌工程中に明瞭に褪色することを見出した。」(【0012】【0013】段落)

(2)引用例2に記載された発明
記載事項(サ)によれば、引用例2には、低温ガスプラズマ滅菌法において滅菌が効果的に行われたか否かを確認するための化学的インジケーターが記載されている。
そして、同(シ)によれば、該化学的インジケータは、過酸化水素等の酸化性ガスの酸化力により変色する色素を用いており、過酸化水素の充填過程が正常に行われたを検出することを目的とするものである。このことは、同(ス)の記載からも明らかである。すなわち、過酸化水素プラズマ滅菌に用いる過酸化水素の濃度はかなり低いので、1サイクルの滅菌工程中で完全に褪色させることはできない点が従来技術の問題点であったが、引用例2発明は、過酸化水素の酸化力で褪色する色素に加えて変色助剤を添加することにより、過酸化水素プラズマ滅菌における過酸化水素の検出を可能としたものである。
このため、引用例2に記載された化学的インジケータは、過酸化水素プラズマ滅菌工程のうち、特に過酸化水素雰囲気で変色することを目的とするインジケータである。
したがって、引用例2には、次の発明(以下「引用例2発明」という。)が記載されている。
「低温ガスプラズマ滅菌法において、過酸化水素雰囲気で変色する化学的インジケータ。」

第4 対比と判断
1 対比
本願発明1と引用例1発明とを比較する。
引用例1発明における「印刷基材」、「過酸化水素プラズマ滅菌検知用インジケータ」は、それぞれ、本願発明1における「支持体」、「プラズマ滅菌用インジケーターシート」に相当する。
また、引用例1発明における「過酸化水素との接触のみでは変色せず、発生するラジカルのみにより変色する染料からなるインキ組成物」を塗布した層は、本願発明1における「過酸化水素との接触のみでは変色せず、プラズマ状態の過酸化水素雰囲気のみで変色する着色層」に相当する。
したがって、本願発明1と引用例1発明の一致点と相違点は次のとおりとなる。
(1)一致点
「支持体上に、過酸化水素との接触のみでは変色せず、プラズマ状態の過酸化水素雰囲気のみで変色する着色層が形成されたプラズマ滅菌用インジケーターシート。」
(2)相違点
本願発明1では、さらに「過酸化水素雰囲気のみで変色する着色層」が形成されているのに対し、引用例1発明では、この点が記載されていない点。

2 判断
(1)引用例1発明に接した当業者が、上記相違点の特徴事項を容易に想到することができるかについて、以下で検討する。
これに関し、引用例1発明の過酸化水素プラズマ滅菌検知用インジケータは、過酸化水素との接触のみでは変色せず、プラズマ状態の過酸化水素雰囲気のみで変色するものであるので、その目的は、高周波エネルギー等の照射によって薬剤がプラズマ化する段階、すなわち、プラズマ化ステップの処理を検知することにあることは明らかである。
一方、引用例2発明の化学的インジケータは、上記したとおり、過酸化水素プラズマ滅菌処理では、過酸化水素の濃度が低いため、通常の色素を含むインキではこれを検知することができなかったところ、このような低濃度の過酸化水素でも検知できるように変色助剤を添加したものである。このため、引用例2発明の化学的インジケータは、過酸化水素滅菌処理において使用する低濃度の過酸化水素雰囲気で変色するように、特に調整されているので、薬剤である過酸化水素の充填過程が正常に行われたこと、すなわち、薬剤充填ステップを検知することを目的としている。
したがって、過酸化水素プラズマ滅菌処理の完了を確認するにあたり、プラズマ化ステップを検出すること(引用例1)、および、薬剤充填ステップを検出すること(引用例2)は、ともに公知の技術である。
そして、引用例1発明では、「過酸化水素プラズマ滅菌は、過酸化水素による殺菌の他、過酸化水素から発生するOH・等のラジカルにより滅菌を行うものである」(記載事項(エ))としていることからも明らかなように、過酸化水素プラズマ滅菌では、殺菌処理は薬剤充填ステップとプラズマ化ステップによりおこなわれることは、引用例1に記載されている事項である。
このため、過酸化水素プラズマ滅菌処理において、殺菌処理が完全に行われたことを確認するためには、プラズマ化ステップを検出する引用例1発明に加えて、さらに、薬液充填ステップを検出しなければならないことは、当業者であれば当然に考慮するところである。
したがって、引用例1発明に接した当業者であれば、過酸化水素プラズマ滅菌処理の完了を確認するにあたり、引用例2に記載された発明を参酌して、引用例1発明が目的とするプラズマ化ステップを検知することに加え、薬剤充填ステップを検知しようとすることは、当然に考慮するところである。
よって、引用例1発明における「過酸化水素との接触のみでは変色せず、プラズマ状態の過酸化水素雰囲気のみで変色する着色層着色層が形成されたインジケータ」と、引用例2発明における「過酸化水素雰囲気で変色する化学的インジケータ」を組み合わせることは、当業者であれば容易に想到するところであり、その効果も、従来は二つのインジケータで別個に検出していた機能を、一つのインジケータで行えるようにしたものに過ぎず、これにより単に視認効果を高めた程度にとどまるので、技術的に格別のものとすることはできない。
(2)次に、引用例2発明の化学的インジケータは、「過酸化水素雰囲気で変色する」ものであるが、本願発明1における「過酸化水素雰囲気のみで変色する着色層」とは、技術的・実質的に相違するものであるかについて検討する。
これに関しては、次の理由から、「過酸化水素雰囲気で変色する」ことと「過酸化水素雰囲気のみで変色する」こととは、技術的に格別の相違があるとすることはできない。
すなわち、薬剤(過酸化水素)充填ステップを検出するための化学的インジケータあるいは着色層は、過酸化水素が正常に充填されたことを検出すればその目的を達するものであり、その後にプラズマ化された過酸化水素により変色するか否かは問題とはならない。なぜなら、過酸化水素により変色した後にプラズマ化された過酸化水素により変色したとしても、後者の変色は前者の変色を前提とするものであるので、引用例2発明の「過酸化水素雰囲気で変色する」化学的インジケータは、プラズマ化された過酸化水素による変色の有無にかかわりなく、薬剤充填ステップの検出を行うことができるからである。この点で、本願発明1の「過酸化水素雰囲気のみで変色する着色層」とは同等の機能を有する。
このため、「過酸化水素雰囲気で変色する」ことは、「過酸化水素雰囲気のみで変色する」ことと、技術的・実質的に相違するものではない。
したがって、本願発明1は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであり、その効果も格別のものとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-14 
結審通知日 2012-12-18 
審決日 2012-12-25 
出願番号 特願2004-150062(P2004-150062)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三崎 仁▲高▼岡 裕美  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 豊永 茂弘
斉藤 信人

発明の名称 プラズマ滅菌用インジケーターシートおよび滅菌用包装袋  

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