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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K
管理番号 1270075
審判番号 不服2010-22230  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-04 
確定日 2013-02-13 
事件の表示 特願2006-507326「レーザを照射して建造物表面から材料を取り除くための気体格納容器」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月30日国際公開、WO2004/082884、平成18年 9月28日国内公表、特表2006-521931〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、優先権主張を伴う平成16年3月18日(第一国アメリカ合衆国、優先日:平成15年3月18日、出願番号60/456043号)の国際出願であって、平成22年5月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正書が提出され、当審から平成23年12月14日付けの拒絶理由通知がなされ、これに対して平成24年3月16日付けで意見書、手続補正書とともに上申書が提出されたものである。

第2.本件発明
本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成24年3月16日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、請求項1の記載は以下のとおりである。

「居住可能な建造物から材料を取り除くために、前記建造物の相互作用領域にレーザ光を供給するように適合させた気体格納容器であって、当該気体格納容器は、
レーザ光供給源に連結されるように適合させた気体格納ハウジングと、
レーザ光に透明な窓であって、下流方向にレーザ光を伝達するように、かつレーザ光と前記建造物との相互作用により生成される粒子状物質の上流への移動に対するバリヤを提供するように、前記気体格納ハウジング内に装着された窓と、
圧縮ガス供給源に流体連結されたノズルであって、前記窓の下流に装着され、それにより、レーザ光と圧縮ガスとが、建造物の相互作用領域に下流方向にノズルを通って伝達される前記ノズルと、
気体格納ハウジングに連結された弾性インターフェースであって、前記建造物と弾性的に接触しかつ前記相互作用領域を囲むように適合されて、それによって、前記材料を閉じ込めて前記相互作用領域から前記材料を取り除く前記弾性インターフェースと、
を備え、
前記ノズルは、レーザ光が当該ノズルと目に見えるほどに相互作用しないよう、充分に大きい開口部を有し、
前記ノズル及び気体格納ハウジングは、空気または水で冷却される、気体格納容器。」(以下、請求項1に記載の発明を「本件発明」という。)

第3.引用刊行物
○引用刊行物1
当審で通知した拒絶の理由に引用された特開平9-271980号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、「レーザ加工機におけるスパッタ等吸引方法及びその装置」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア.【特許請求の範囲】の【請求項2】、【請求項3】
「【請求項2】加工ヘッドに設けられたノズルからレーザビームを照射してワークの加工を行うレーザ加工機であって、前記加工ヘッドの全周におけるワーク上面近傍から上側を所定間隔で少なくとも二重に囲う遮蔽物と、この遮蔽物に囲まれた各部分におけるスパッタ等の飛散物を吸引すべく設けられた集塵ダクトと、を備えてなることを特徴とするレーザ加工機におけるスパッタ等吸引装置。
【請求項3】前記遮蔽物のうち最も加工ヘッド寄りに設けられているものの少なくとも下端部が柔軟材で構成されていることを特徴とする請求項2記載のレーザ加工機におけるスパッタ等吸引装置。」

イ.段落【0002】
「【従来の技術】図6を参照するに、レーザ加工機のノズル1から照射されるレーザビームLBによりピアス加工を行う際に発生するスパッタ3は、ワークW上面の四方に飛び散リ、作業環境を悪化している。」

ウ.段落【0005】
「そこで、図8を参照するに、加工ヘッド7の周囲をカーテン9等で囲い、スパッタ11及びヒューム等の飛散を防止することが行なわれている。」

エ.段落【0010】
「【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、請求項1による発明のレーザ加工機におけるスパッタ等吸引方法は、加工ヘッドに設けられたノズルからレーザビームを照射してワークの加工を行うレーザ加工機であって、前記加工ヘッドの全周におけるワーク上面近傍から上側を囲う遮蔽物を所定間隔をおいて少なくとも二重に設け、前記遮蔽物により囲まれた部分にあるスパッタ等の飛散物を集塵ダクトにより吸引することを特徴とするものである。」

オ.段落【0022】?【0027】
「図1および図2を参照するに、前記加工ヘッド29の周囲には、加工ヘッド29の全周を覆う遮蔽物としての第一のカーテン35が設けられており、この第一のカーテン35から一定の間隔をおいて外側に全周にわたって遮蔽物としての第二のカーテン37が設けられている。また、第一のカーテン35の内側及び第一のカーテン35と第二のカーテン37の間には集塵ダクトDが各々設けられている。
前記第一のカーテン35には、やわらかい材質あるいは下部が容易にめくれるような柔軟材39が用いられており、加工ヘッド29の近傍に設けられている。この第一のカーテン35は飛散するスパッタSやヒューム等を遮ると共に集塵ダクトDによりこれを吸引するものであるが、ワークWの表面に沿って飛散するスパッタSやヒュームの一部はこの第一のカーテン35の下側をくぐってさらに外部に飛散する。
前記第一のカーテン35の下部は容易にめくれるためワークWの表面近くまで設けることができるが、下側をくぐって外に飛散するスパッタSやヒュームに対しては、速度を低下させ、さらにワークWの表面に沿って飛散するスパッタSやヒュームをワークW表面から引き離す役目もある。
前記第一のカーテン35の外側に設けられている第二のカーテン37は、第一のカーテン35の下側をくぐって飛散してきたスパッタSやヒュームを遮って外部に飛散するのを防止すると共に集塵ダクトDによりこれを吸引している。
以上の結果から、レーザ加工における加工部からのスパッタSやヒューム等の飛散物を第一のカーテン35及び第二のカーテン37で確実に遮蔽すると共に、集塵ダクトDがこれを吸引して回収するので、外部に漏らさないようにすることができる。
なお、この発明は前述の実施の形態に限定されることなく、適宜な変更を行なうことにより、その他の態様で実施し得るものである。例えば、前述の実施の形態においては、第一のカーテン35及び第二のカーテン37を用いたが、これに限らず、図4に示されるように第一のカバー41及び第二のカバー43を用いるようにしても同様の作用効果を得ることができる。但し、この場合においても第一のカバー41の下端部は柔軟材39を用いて容易にめくれるようにしておくのがよい。」

また、図4によれば、第一のカバー41及び第二のカバー43を加工ヘッド29に取り付ける点が示されている。
そして、図4は図1,2の別実施例であることから、第1のカバー41、第2のカバー43で囲まれた各部分におけるスパッタ等の飛散物を吸引すべく、集塵ダクトが設けられていることが明らかである。

以上によれば、引用刊行物1には、
「加工ヘッド29に設けられたノズル27からレーザビームを照射してワークWの加工を行うレーザ加工機であって、前記加工ヘッドの全周におけるワーク上面近傍から上側を所定間隔で囲う第1のカバー41、第2のカバー43を加工ヘッド29に取り付け、この両カバー41,43に囲まれた各部分におけるスパッタ等の飛散物を吸引すべく設けられた集塵ダクトを備えてなるレーザ加工機におけるスパッタ等吸引装置。」
との発明(以下、「引用刊行物発明1」という。)が開示されていると認められる。

○引用刊行物2
同じく、当審で通知した拒絶の理由に引用された特開平9-242453号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、「掘削方法」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

カ.【特許請求の範囲】の【請求項1】
「レーザ光線発生装置より大出力のレーザ光線を発生させ、該レーザ光線を光ファイバーを介して掘削現場へ導き、掘削対象物へ照射して、掘削対象物を溶解させて掘削することを特徴とする掘削方法。」

キ.段落【0001】?【0003】
「【発明の属する技術分野】この発明は、大地、構築物、建築物などを掘削する掘削方法に関し、特に、大出力の光エネルギーを利用した掘削方法に関する。
【従来の技術】大地を掘削する場合や、鉄筋コンクリートの構築物や建築物に穴をあけたり解体する場合には、削岩機などによって機械的に破壊する掘削方法や、ダイナマイトによって破壊して運び出す方法などが実施されている。
【発明が解決しようとする課題】このような従来の掘削方法によると、大型の機械が必要であり、また、作業者にかかる負担が大きく、多くのエネルギーを必要とし、振動や騒音を発生することは周知の事実である。」

ク.段落【0004】?【0005】
「そこで、この発明は、このような従来の掘削方法が有する問題点を解決して、省力化および振動の発生を抑制するために考えられたものである。
【課題を解決するための手段】この発明の掘削方法は、レーザ光線発生装置より大出力のレーザ光線を発生させ、このレーザ光線を光ファイバーを介して掘削現場へ導き、掘削対象物へ照射して、掘削対象物を溶解させて掘削を行なう。」

ケ.段落【0007】?【0011】
「【発明の実施の形態】この発明の掘削方法は、図1に示すように、大出力のレーザ光線を発生するレーザ光線発生装置1と、このレーザ光線発生装置1より放射されるレーザ光線を掘削現場へ導く光ファイバー2と、この光ファイバー2の先端に取り付けられてレーザ光線を対象物へ指向させるレーザ光線指向装置3とにより構成されている。レーザ光線発生装置1は、自動車などの移動体4に搭載し、光ファイバー2は使用しないときにリールに巻いてレーザ光線指向装置3とともに格納して同じ移動体4に積載しておくと便利である。
光ファイバー2の先端に取り付けられたレーザ光線指向装置3は、図2に示すように、光ファイバー2より出射したレーザ光線を平行にする凸レンズ31と、レーザ光線を透過させるが可視光線を反射させるダイクロイック・ミラー32と、平行にされたレーザ光線を集束する凸レンズ33と、電池で動作して可視光線を発生する光源34と、この光源34から放射された可視光線を平行にする凸レンズ35と、平行にされた可視光線をダイクロイック・ミラー32へ反射するミラー36とを備え、光ファイバー2を介して導かれたレーザ光線と同じ光路に可視光線を照射させるように構成されている。
レーザ光線発生装置1より放射されたレーザ光線は、レンズで集束されて光ファイバー2の後端へ入射させて掘削現場へ導く。
掘削現場においては、光ファイバー2の先端に取り付けられたレーザ光線指向装置3の光源34を動作させて可視光線を発生し、この可視光線によって掘削すべき部位の狙いを定めたのち、レーザ光線発生装置1を動作させ、大出力のレーザ光線を発生させるとともに、ボンベ等から空気または窒素ガスを吹き付けて掘削動作を行なう。
したがって、この発明の掘削方法によると、岩石や鉄筋コンクリートの掘削を極めて容易に実施することができる。しかも、掘削後の表面は、熔融物が固まって堅い壁面を形成するので、掘削後の壁面処理に要する労力と費用を軽減することができる。」

コ.段落【0022】
「【発明の効果】以上の実施の形態に基づく説明より明らかなように、この発明の掘削方法によると、掘削作業に衝撃や振動をともなうことなく、作業者にかかる負担が少なく、所望の範囲を正確に掘削することができる。また、大型の掘削機械を使用して掘削できない小径の穴などを容易に掘削することができる。」

以上によれば、引用刊行物2には、
「レーザ光線発生装置より大出力のレーザ光線を発生させ、該レーザ光線を光ファイバー2を介して掘削現場へ導き、この光ファイバー2の先端に取り付けられてレーザ光線を対象物へ指向させるレーザ光線指向装置3によりレーザ光線を建築物などの掘削対象物へ照射して、掘削対象物を溶解させて掘削する掘削方法。」
との発明(以下、「引用刊行物発明2」という。)が開示されていると認められる。

○引用刊行物3
同じく、当審で通知した拒絶の理由に引用された特開平11-239889号公報(以下、「引用刊行物3」という。)には、「レーザ加工装置のレーザ溶接ヘッド」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

サ.【特許請求の範囲】の【請求項1】
「レーザビームを集光して被加工材を加工するレーザ加工装置のレーザ溶接ヘッドにおいて、該レーザ溶接ヘッドに備えた集光レンズの集光側にレーザビームとアシストガスが通過可能なノズルを設け、該ノズルを固定するノズルホルダーを前記レーザ溶接ヘッドから垂設し、該ノズルと前記集光レンズとの間のノズルホルダー内部空間に前記レーザビームの光軸にほぼ垂直な平面を有し、前記被加工材に近づくほど内径が小さくなる複数のリング状の整流板を設け、該複数の整流板に沿って気体を噴出する気体噴射ノズルを設け、該気体噴射ノズルから噴射された気体を前記ノズルホルダー内部空間からノズルホルダー外部空間へ排出可能にしたことを特徴とするレーザ加工装置のレーザ溶接ヘッド。」

シ.段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明はレーザ加工装置のレーザ溶接ヘッドに関する。」

ス.段落【0005】
「本発明は上述の如き課題を解決するために成されたものであり、本発明の課題は、スパッターを完全に遮断して集光レンズ保護ウインドの汚染を防止できるレーザ加工装置のレーザ溶接ヘッドを提供することである。」

セ.段落【0013】?【0016】
「さて、図1を参照するに、レーザ溶接ヘッド1は、関節ロボット(図示省略)のアーム3の先端部のA軸およびB軸とに回動可能に軸支されている。前記レーザ溶接ヘッド1には、レーザ溶接ヘッド本体5の一側(図1において上側)にレーザ発振器(図示省略)からのレーザビームLBを導く光ファイバー7の出射端部が接続してあり、このレーザ溶接ヘッド本体5の他側(図1において下側)には、下端部に後述のノズル25を備えたノズルホルダー部11が設けてある。
図2、図3を参照するに、前記ノズルホルダー部11の上部には集光レンズ13を内臓したレンズ筒15が前記レーザ溶接ヘッド本体5に着脱可能に設けてある。
前記レンズ筒15には、集光レンズ13の高さ位置を調節するための内筒16が設けてある。そして、この内筒16の内径部には雌ねじが切ってあり、前記集光レンズ13は、この雌ねじに螺合する2個のレンズリング17によって狭持する様にして内筒16に固定してある。
前記レンズ筒15の下面には、アダプターリング19が着脱可能に装着してあり、このアダプターリング19と集光レンズ13との間には集光レンズ13を保護すると共に集光レンズ上部の空間への塵埃の侵入を防ぐ保護ガラス23が設けてある。」

ソ.段落【0018】
「前記ノズルホルダー21(a,b)の下端部には、ノズル25が取り付けてある。このノズル25は集光したレーザビームLBが通過するインナーノズル27と前記アシストガスを噴射するアウターノズル29との2重ノズルとして構成してあり、アウターノズル29をインナーノズル27より突出させてアウターノズル内部にアシストガス貯溜室31が形成してある。」

タ.段落【0020】?【0021】
「前記ノズル25のインナーノズル27とアウターノズル29との間には環状のアシストガス出口37が形成してあり、このアシストガス出口37に連通するアシストガス供給路39が前記ノズルホルダー21(a,b)に設けてある。また、アシストガス供給路39は、さらに前記アダプターリング19と、レンズ筒15に設けた流路41(a,b)および流路43(a,b)に連通しており、そして、この流路43(a,b)には、図示省略のアシストガス(またはシールドガス)源に管路45(a,b)を介して接続してある。
したがって、適宜に調圧したアシストガス(またはシールドガス)を、流路43(a,b)および流路41(a,b)を介してノズル25のアシストガス出口37に供給することができる。」

また、図2の記載を参照すれば、ノズル25、及びインナーノズル27の開口部が、レーザビームLBがあたらないような大きさであることは明らかである。

以上によれば、引用刊行物3には、
「レーザビームを集光して被加工材を加工するレーザ加工装置のレーザ溶接ヘッドにおいて、該レーザ溶接ヘッドに備えた集光レンズの集光側にレーザビームとアシストガスが通過可能なノズルを設け、ノズルの開口部はレーザビームがあたらない大きさであり、集光レンズを内蔵したレンズ筒の下面にアダプターリングを装着し、アダプターリングと集光レンズの間には集光レンズを保護すると共に集光レンズ上部の空間への塵埃の侵入を防ぐ保護ガラスが設けてある、レーザ加工装置のレーザ溶接ヘッド。」
との発明(以下、「引用刊行物発明3」という。)が開示されていると認められる。

○引用刊行物4
同じく、当審で通知した拒絶の理由に引用された特開平8-103882号公報(以下、「引用刊行物4」という。)には、「水中レーザ加工装置及びその装置を用いた水中施工方法」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

チ.【特許請求の範囲】の【請求項1】
「レーザトーチ,該レーザトーチの照射位置を変えるためのレーザトーチ駆動機構及び該レーザトーチを収容する、一端が外部環境に対し開放されている室を有する水中レーザ加工装置であって、
該室の自由端と前記レーザトーチの間に水の侵入を阻止する仕切壁を備えたことを特徴とする水中レーザ加工装置。」

ツ.段落【0033】?【0034】
「図1あるいは図5は本発明の2室を有する施工装置の断面図である。断面形状は円形でも多角形でも良い。チャンバ2内は、外部環境の水に対し密閉され常時気体雰囲気となっているレーザトーチを有する室4と、水環境50に対し開放的に、すなわち水環境下の構造物1(この場合構造物1の表面は原子炉炉内側壁のように地面に対して垂直である)の表面がなければ水が侵入できるような構造を有する構造物に接する室3の2室より構成されている。この場合、一体のチャンバ2の中に仕切板があると考えてもらうとわかりやすい。常時気体雰囲気となっている室4には、レーザ照射光学系を含むレーザトーチ6,レーザトーチの駆動機構11,シールドガス供給機構15,光ファイバー10および各種伝送系の伝送管25が具備されており、かつレーザトーチ6には構造物との距離を検出する距離監視機構18,レーザ光の照射位置を検出し、レーザ照射部を監視するモニター19,レーザ照射部照明機構20,センタガスシールド供給機構26が具備されている。また、構造物表面に接する室3には、室内の温度,湿度,圧力,ガス流量等を検出する各種監視機構21?24,排水機構16,排ガスあるいは排塵機構17,シールドガス供給機構15が具備されている。さらに、仕切板にはレーザ光の波長を透過する窓35が取り付けられている。
水中に位置する構造物1に上記チャンバ2をアクセスする場合、レーザトーチを有する室4はシールドガス供給機構15によって常時気体雰囲気となっており、レーザトーチ6は常時気体雰囲気で保護され、同図に示すように横向き姿勢を始めいかなる姿勢でアクセスする場合も、アクセス時の水の混入は無い。室3は水環境に対し開放されているため、アクセスする時点では水が侵入している。次に構造物1の補修予定部に上記チャンバ2を図1に示すように構造物1の表面に密着するように設置した後、水環境下の構造物表面に接する室3内の水は、真空ポンプのような水排除機構16とガス注入機構15により、不活性ガスを注入しつつ水を排除して同室内は不活性ガス雰囲気となる。さらに注入されるガスを高温かつ乾燥したドライガスとすることによって、同室内および構造物表面の水分を除去し、乾燥した状態とすることができる。ここで、構造物表面に接するチャンバ底部5は図2に示すように、ゴム状あるいはスポンジ状のパッキン機構29,真空機構30,高圧エア(カーテン)シールド機構31,高圧のウオーターシールド機構34,ワイヤーブラシによるカーテン機構32,カーボンファイバー等の炭素系素材によるスカート機構33のうちの少なくとも一つの機構をもつことによって水の浸入が防止される。さらに同室内は、ガス流量監視機構24,圧力監視機構23,温度監視機構21,湿度監視機構22によってガス流量,圧力,温度,湿度がそれぞれ監視され、レーザ加工が施されるのに適正な状態に制御される。室3が上記のような適正な雰囲気になったことを確認後、レーザトーチよりレーザ光を照射して所定の補修作業を行う。図4の場合、レーザ光は仕切板に取り付けられているレーザ光の波長を透過する窓35を通して構造物1の表面に照射される。 以上のようにすることにより、レーザトーチの照射系には曇り、結露が生ぜず能率の良い加工ができる。」

以上によれば、引用刊行物4には、
「レーザトーチを収容する、一端が外部環境に対し開放されている室4を有する水中レーザ加工装置であって、
該室4は、チャンバ2とチャンバ底部5によって気体雰囲気とされ、被加工物である構造物表面に接するチャンバ底部5はゴム状あるいはスポンジ状のパッキン機構29をもっている水中レーザ加工装置。」
との発明(以下、「引用刊行物発明4」という。)が開示されていると認められる。

○引用刊行物5
同じく、当審で通知した拒絶の理由に引用された特開2002-273591号公報(以下、「引用刊行物5」という。)には、「レーザ加工ノズル機構」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

テ.【特許請求の範囲】
「【請求項1】 レーザ加工機におけるセンサコーン、ノズルヘッド及びキャップからなるレーザ加工ノズル機構であって、前記センサコーン及びノズルヘッドを冷却する為の冷却構造部を備え、前記センサコーンに螺着して着脱可能な前記ノズルヘッドの形状を流線形の曲面形状とし、前記ノズルヘッド等へのレーザ加工操作時のスパッタの付着抑制、または付着防止、更にノズルの昇温を防止してZ軸の歪みによる変位を回避可能とする構成としたことを特徴とするレーザ加工ノズル機構。
【請求項2】 前記ノズルヘッドは、截頭円錐状の基部側外周断面形状を湾曲状凹部にて形成し、前記ノズルヘッド外形を流線形の曲面形状としたことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工ノズル機構。
【請求項3】 前記冷却構造部は、前記センサコーンの外周面と前記キャップの内周面とで形成される断面截頭円錐環状を呈する冷却用の空気通路及び空気室から成る構成としたことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工ノズル機構。
【請求項4】 前記冷却構造部は、上方より冷却用空気を導入し、前記断面截頭円錐環状の先端部、且つノズルヘッドの上面周囲から横方向に放射状に空気が吹き出す吹き出し口と、ピアス加工部位に吹き出し空気が吹き当たるように吹き出し口を設けたことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工ノズル機構。」

ト.段落【0001】
「【発明の属する技術分野】この発明は、レーザ加工機等の板材加工機に用いられるレーザ加工ノズル機構に関する。」

ナ.段落【0006】
「この発明は、上述の状況に鑑みて成されたもので、構成要素であるセンサコーン及びノズルヘッドを冷却してZ軸等の加工軸の歪みによる変位を無くし、更にスパッタの付着を抑制、または防止でき、延いては製品の加工精度を高品質に維持可能とするレーザ加工ノズル機構を提供することを目的とする。」

ニ.段落【0013】
「図1は、本発明に係るレーザ加工ノズル機構の実施例における縦断側面説明図、図2は、本発明に係るレーザ加工ノズル機構のノズルヘッドの形状例を示す説明図、(a)はノズルヘッドの縦断側面図、(b)はA-A矢視、図3は、ノズルヘッド外形とスパッタの付着・堆積状況説明図、(a)は従来形状のノズルヘッドの場合、(b)は実施例における曲面形状のノズルヘッドの場合、図4は、冷却構造部を備えたレーザ加工ノズル機構の有効性を示す説明図、(a)は冷却構造部が無い場合、(b)は冷却構造部を備えた場合、図5は、ピアス加工から切断加工への動作を示すフローチャートである。」

ヌ.段落【0015】
「本体を形成するセンサコーン1、ノズルヘッド2、キャップ3、前記センサコーン1及びノズルヘッド2を冷却する為の冷却構造部Kcを備え、前記センサコーン1に螺着して着脱可能な前記ノズルヘッド2の形状を流線形の曲面形状とし、詳細にはノズルヘッド2の基部側面を湾曲状凹部と成し、サイドブローによって飛翔してくるスパッタを渦流に乗せてノズル側面への衝突を回避可能な形状としてあるので(図2(a)、(b)参照)、前記ノズルヘッド2等へのレーザ加工操作時のスパッタの付着抑制、または付着防止が可能であり、また冷却構造部Kcによりノズルヘッド2及び周囲の昇温を防止でき、Z軸の歪みによる変位を解消することが出来る。」

以上によれば、引用刊行物5には、
「レーザ加工機におけるセンサコーン、ノズルヘッド及びキャップからなるレーザ加工ノズル機構であって、前記センサコーン及びノズルヘッドを冷却する為の冷却構造部を備え、冷却構造部は、冷却用空気を吹き出すものであるレーザ加工ノズル機構。」
との発明(以下、「引用刊行物発明5」という。)が開示されていると認められる。

第4.対比・判断

本件発明と引用刊行物発明1を比較すると、引用刊行物発明1はレーザ加工機に関するであって、加工ヘッド29に設けられたノズル27からレーザビームを照射してワークWの加工を行うものであるから、この点で、本件発明の「相互作用領域にレーザ光を供給するように適合させ」る点に相当しており、また、引用刊行物発明1のカバー41,43は、それが囲む部分の部分におけるスパッタ等の飛散物を防止するためのものであるから、気体格納容器であるとみることができるものであり、カバー41,43が加工ヘッド29に取り付けられる点は、本件発明の「レーザ光供給源に連結されるように適合させた」点に相当する。

してみれば、両者の一致点は以下のとおりである。
<一致点>
「相互作用領域にレーザ光を供給するように適合させた気体格納容器であって、当該気体格納容器は、レーザ光供給源に連結されるように適合させた気体格納ハウジング」を備える点。

そして、以下の各点で相違している。

<相違点1>
本件発明の気体格納容器は、「居住可能な建造物から材料を取り除くように前記建造物の相互作用領域にレーザ光を照射する」ものであるのに対して、そのようなものであるか不明な点。

<相違点2>
本件発明の気体格納容器は、「レーザ光に透明な窓であって、下流方向にレーザ光を伝達するように、かつレーザ光と前記建造物との相互作用により生成される粒子状物質の上流への移動に対するバリヤを提供するように、前記気体格納ハウジング内に装着された窓と、圧縮ガス供給源に流体連結されたノズルであって、前記窓の下流に装着され、それにより、レーザ光と圧縮ガスとが、建造物の相互作用領域に下流方向にノズルを通って伝達される前記ノズル」を備え、さらに、「前記ノズルは、レーザ光が当該ノズルと目に見えるほどに相互作用しないよう、充分に大きい開口部を有し」ているのに対して、引用刊行物発明1は、そのような手段を備えたものではない点。

<相違点3>
本件発明の気体格納容器は、「気体格納ハウジングに連結された弾性インターフェースであって、前記建造物と弾性的に接触しかつ前記相互作用領域を囲むように適合されて、それによって、前記材料を閉じ込めて前記相互作用領域から前記材料を取り除く前記弾性インターフェース」を備えているのに対して、引用刊行物発明1は、そのような手段を備えたものであるかは不明な点。

<相違点4>
本件発明は、「前記ノズル及び気体格納ハウジングは、空気または水で冷却される」ものであるのに対して、引用刊行物発明1は、そのような冷却をするものではない点。

<相違点1>について検討する。
相違点1の検討にあたって、本件発明の相違点1に係る「居住可能な建造物から材料を取り除くために、前記建造物の相互作用領域にレーザ光を供給する」点について、請求人は、平成24年3月16日付けの意見書において、「本願の特許請求の範囲等における『材料』とは、居住可能な建造物を構成する材料のことを意味しています。そして、『居住可能な建造物から材料を取り除く』とは、レーザ光が照射され建造物の一部が例えば破壊されることにより、居住可能な建造物を構成する材料の一部が離れることを意味しています。」と述べ、さらに、同日付の上申書において、「本件発明の気体格納容は、例えば地震時の安全性を改善するための病院の耐震改修のように、人がいる建造物において材料加工(レーザ加工)をするためのシステムにおいて使用されます。このような材料加工は、人が使用しあるいは働いている建造物内で行われることが多いため、本件発明に関するシステムは、例えば騒音、振動、粉塵、蒸気、噴煙といったものから建造物内の人を保護し、また、建造物内の限られたスペースで容易に運搬したり操作したりすることができるように設計されます。」と述べている。
上記内容を踏まえると、「居住可能な建造物」とは、例えば病院のような人が使用する建造物のことであり、「材料を取り除く」とは、建造物の一部が例えば破壊され、建造物を構成する材料の一部が離れることを意味するものである。
そこで、相違点1に関して引用刊行物発明2を検討すると、後者は、「建築物などの掘削対象物を溶解させて掘削する」ものであり、「掘削する」とは、対象物を破壊し、それを構成する材料の一部が離すものということができるから、この点で相違点1の「建造物から材料を取り除く」ものと一致しており、さらに、後者が「レーザ光線」を照射する点は、本件発明の「レーザ光を供給する」ものと一致し、後者の作用として衝撃や振動をともなうことがない点は、相違点1に係るの「居住可能な建造物」に適用することと共通している。
以上のとおりであるから、相違点1に係る本件発明の発明特定事項は引用刊行物発明2に示されているということができ、技術分野に関しても、引用刊行物発明1と引用刊行物発明2は共通しているから、これらを組み合わせるにあたっての阻害要因があるとすることもできない。
してみれば、相違点1に係る発明特定事項の違いは、引用刊行物発明1に引用刊行物発明2を組み合わせたにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点2>について検討する。
引用刊行物発明3は、レーザ加工装置のレーザ溶接ヘッドに関するものであって、その保護ガラスについてみると、保護ガラスは、レーザビームを通過させているのであるから、レーザ光に透明な窓であって、下流方向にレーザ光を伝達するものであり、また、集光レンズ上部の空間への塵埃の侵入を防ぐ点は、粒子状物質の上流への移動に対するバリヤを提供するものであるといえる。
また、引用刊行物発明3のノズルは、レーザビームとアシストガスを通すものであるから、アシストガス供給源に流体連結されていることは明らかであり、開口部の大きさはレーザビームがあたらないものであるから、レーザ光が当該ノズルと目に見えるほどに相互作用しないよう、充分大きな開口部を有するものであるといえる。

以上のとおりであるから、相違点2に係る本件発明の発明特定事項は引用刊行物発明3に示されているということができ、技術分野に関しても、引用刊行物発明1と引用刊行物発明3は共通しているから、これらを組み合わせるにあたっての阻害要因があるとすることもできない。
してみれば、相違点2に係る発明特定事項の違いは、引用刊行物発明1に引用刊行物発明3を組み合わせたにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点3>について検討する。
引用刊行物発明4は、レーザ加工機に関するものであって、その「被加工物である構造物表面に接する」点は、相違点3に係る「前記気体格納器は、前記建造物に接触し且つ前記相互作用領域を取り囲むように適合され」る点に相当し、「チャンバ底部5はゴム状あるいはスポンジ状のパッキン機構29をもっている」点は、相違点3に係る「弾力性インターフェース」を備える点に相当するものといえる。

以上のとおり、相違点3に係る本件発明の発明特定事項は引用刊行物発明4に示されているということができ、技術分野に関しても、引用刊行物発明1と引用刊行物発明4は共通しているから、これらを組み合わせるにあたっての阻害要因があるとすることもできない。
してみれば、相違点3に係る発明特定事項の違いは、引用刊行物発明1に引用刊行物発明4を組み合わせたにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点4>について検討する。
引用刊行物発明5は、レーザ加工機のノズル機構に関するものであって、空気によりノズルのノズルヘッドを冷却するものであるから、相違点4に係る発明特定事項のうち、「ノズルは空気で冷却される」点は、引用刊行物発明5に示されている。
そして、残りの、「気体格納ハウジング」が空気または水で冷却される点についてみると、レーザ加工機においても、ノズルのみならず、加熱されことが好ましくない部分を冷却するのは周知事項である。これは、例えば、特開昭57-128311号公報に記載の冷却用気体を噴出する噴出ノズル8、15、29、42、あるいは、特開2000-280086号公報に記載のカバー13を冷却する冷却水通路16、エアノズル30、等にみられる。

以上のとおり、相違点4に係る本件発明の発明特定事項は引用刊行物発明5に示さた事項、及び、当該技術分野において周知事項であるということができる。
してみれば、相違点4に係る発明特定事項の違いは、引用刊行物発明1に引用刊行物発明5、及び、周知事項を適用したにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

作用ないし効果について
本件発明の作用ないし効果も引用刊行物発明1、引用刊行物発明2、引用刊行物発明3、引用刊行物発明4、引用刊行物発明5、及び、周知事項から当業者が予想できる範囲のものである。

第5.むすび

以上のとおり、本件発明は、引用刊行物発明1、引用刊行物発明2、引用刊行物発明3、引用刊行物発明4、引用刊行物発明5、及び、周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は、その余の請求項に係る発明について見るまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
審理終結日 2012-09-14 
結審通知日 2012-09-18 
審決日 2012-10-01 
出願番号 特願2006-507326(P2006-507326)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 正博  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 藤井 眞吾
菅澤 洋二
発明の名称 レーザを照射して建造物表面から材料を取り除くための気体格納容器  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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