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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05C
管理番号 1270080
審判番号 不服2011-7466  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-08 
確定日 2013-02-13 
事件の表示 特願2006-509044「分配及び混合用チップ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月23日国際公開、WO2004/080611、平成18年 8月31日国内公表、特表2006-519699〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本件出願は、2004年3月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年3月6日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成17年9月6日付けで国内書面が提出され、平成17年11月4日付けで明細書、特許請求の範囲、図面及び要約の日本語による翻訳文が提出され、平成22年4月2日付けで拒絶理由が通知され、平成22年12月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成23年4月8日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで特許請求の範囲について手続補正がなされ、平成23年8月18日付けで審判請求書の請求の理由についての手続補正がなされ、その後、当審において平成24年2月6日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成24年8月8日付けで回答書が提出されたものである。

2.本件発明

本件出願の特許請求の範囲の請求項1は、上記平成23年4月8日付けの手続補正によっても補正されておらず、上記平成17年11月4日付けで提出された特許請求の範囲の日本語による翻訳文のままであって、以下のとおりである。なお、この請求項1に係る発明を、以下、「本件発明」という。

「【請求項1】
複数の出口流路を有する形式のバルク貯蔵装置からの複数の成分を混合し分配するためのチップであって、
長さ寸法を有するハウジングと該ハウジング内に配置されたステータ部材からなり、該ハウジングが、前記バルク貯蔵装置に着脱自在に取り付ける手段と、該チップが前記バルク貯蔵装置に取り付けられるとき前記出口流路と流体接続する複数の給送流路とを有し、該複数の給送流路が前記ハウジングに対して並置されており、該給送流路の少なくとも1つが前記ハウジングの前記長さ寸法の約1/4?約3/4の長さ寸法を有することを特徴とするチップ。」

3.刊行物に記載された発明

(1)刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された米国特許第6523992号明細書(以下、「刊行物」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「BACKGROUND OF THE INVENTION
The instant invention relates to a device for mixing two pasty substances, particularly for mixing a dental impression substance (basic substance) and a catalyst substance for initiating and/or accelerating the polymerization of the dental impression substance.
A device of the above type is mounted onto the outlet connector of a dispensing device by which, through application of pressure onto the pasty substances contained either in cartridges or in film hose packs, these substances are introduced into the mixing device and after mixing in the mixing device are issued therefrom as a mixture. 」(明細書第1欄第6ないし17行)

(当審仮訳:「発明の背景
本発明は、2種類のペースト状材料を混合するための装置、特に歯科印象材(基材)および触媒材を混合し、歯科印象材の重合を開始および/または促進するための装置に関する。
上の種類の装置は、分注装置の流出口連結器に装着されるところ、カートリッジまたは薄膜ホースパックのいずれかに入ったペースト状材料を加圧することによって、これらの材料が流出口連結器を経て混合装置へと導入され、混合装置内で混合された後、そこから混合物として出てくる。」)

b)「Known from EP-A-0 885 651 ・・・・・中略・・・・・This causes a danger of backward contamination, i.e. a contamination spreading in reverse flow direction, with the possible result that at least one of the two pasty substances is hardened up into the outlet connector of the dispenser device so that, from this point of time, no pasty material can be discharged from the respective film hose bag or the respective cartridge and the pasty substances still remaining in the cartridge or the film bag hose cannot be used anymore. 」(明細書第1欄第41ないし60行)

(当審仮訳:「EP-A-0885651で知られているのは、縦一列に固定位置で配置される複数の撹拌部材を含むスタティックミキサーである。混合される2種類のペースト状材料が、別個の流入口を経て撹拌室に流入する。これらの流入口は、ミキサーハウジングの正反対の位置に配置される。2種類のペースト状材料の一方が、屈曲した流路に沿った、他のペースト状材料のための流入口に到達し、内部に撹拌部材を有するこの装置の撹拌室の中へと他の材料とともに流入する。その結果、2種類のペースト状材料は、どちらも同じ流入口を経て、ミキサーハウジングの撹拌室に流入することになる。これが原因となって、逆汚染、換言すれば、逆流方向に広がる汚染のために、2種類のペースト状材料のうち少なくとも一方が分注装置の流出口連結器の中で硬化する可能性があり、結果として、この時点以降、各々の薄膜ホースバッグまたは各々のカートリッジからペースト状材料を排出することができなくなり、ペースト状材料がカートリッジまたは薄膜ホースバッグの中に残ったまま使用できなくなるという危険を生じさせる。」)

c)「The improved mixing is achieved without a mutual contact of the two pasty substances occurring already prior to entry into the mixer chamber. This is advantageous if it is desired to prevent backward contamination. 」(明細書第2欄第61ないし65行)

(当審仮訳:「混合の改善は、2種類のペースト状材料が、撹拌室に入る前の段階ですでに相互に接触しているという事態を生じさせることなく達成される。」)

d)「DETAILED DESCRIPTION OF PREFERRED EMBODIMENTS
FIG. 1 shows a lateral general view of a dispensing device 10 for two pasty components to be mixed with each other. Device 10 comprises a press-out member 12 and a mixing member 14 , the press-out member 12 comprising two pressure containers 16 , 18 designed to accommodate two hose bags 20 , 22 containing the pasty substances. Pressure containers 16 , 18 have their front ends 24 , 26 provided with outlet connectors 28 , 30 defining outlet openings. Upon application of pressure onto the rear end of the hose bags 20 , 22 , the content of the bags will be discharged via said outlet connectors 28 , 30 . Pressurization of the hose bags 20 , 22 is performed by means of pressure stamps 32 , 34 driven by motors (not shown).
Outlet connectors 28 , 30 have a dynamic mixer 36 mounted thereon which shall still be described in greater detail with reference to FIGS. 2 to 7 . It is a general feature of this dynamic mixer 36 that its mixer shaft 28 (当審注:「28」は、「38」の誤記と認める。) is motor-driven. For this purpose, mixer shaft 38 is arranged to be coupled to a drive rod 40 which is rotated by a motor (not shown).
The details of the dynamic mixer 36 are evident particularly from FIG. 2 , showing a longitudinal sectional view of mixer 36 . Mixer 36 has a housing 42 comprising a substantially cylindrical or tubular portion 44 with a conically widened coupling portion 46 arranged on the rear end 48 facing the press-out member 12 , and a tapered front end 50 . The tapered front end 50 is designed as an outlet stud and defines the outlet opening 52 for the material mixture, while the rear end 48 of housing 42 is provided with two inlet connectors 54 , 56 defining coupling openings 55 and 57 and provided to be mounted on the outlet connectors 28 , 30 of press-out member 12 .」(明細書第6欄第63行ないし第7欄第30行)

(当審仮訳:「発明を実施するための最良の形態
図1は、相互に混合される2種類のペースト状成分のための分注装置10の側方全体図を示す。装置10は、押出部12および混合部14を含み、押出部12は、ペースト状材料を入れる2個のホースバッグ20,22を収容する圧力容器16,18を含む。圧力容器16,18は、流出口を画定する流出口連結器28,30を備えた前端部24,26を有する。ホースバッグ20,22の後端部に圧力を加えると、バッグの内容物が、前記流出口連結器28,30を経て排出される。ホースバッグ20,22の加圧は、モータ(図示せず)で駆動される押出器32,34を用いて実行される。
流出口連結器28,30には、図2から7を参照しつつ一層詳細に説明される動的ミキサー36が取り付けられる。撹拌軸38がモータ駆動であることが、動的ミキサー36の一般的特徴である。そのため、撹拌軸38は、モータ(図示せず)で駆動される駆動ロッド40と連結するように配置される。
動的ミキサー36の詳細は、特にミキサー36の縦断面図を示す図2から明らかである。ミキサー36は、押出部12に面した後端部48に配置される円錐状に広がる連結部46および先細りの前端部50を有する、実質的な円筒または管状部44を含む。先細りの前端部50は、流出口スタッドとして設計されており、混合物の流出口52を画定する一方、ハウジング42の後端部48は、連結口55および57を画定し、押出部12の流出口連結器28,30に取り付けられる、2カ所の流入口連結器54,56を備えている。」)

e)「This supporting and thus intensifying removal effect acting on the pasty substances in the axial direction reduces the danger of contamination of the two pasty substances, i.e. an undesired mixing or backward contamination of the two pasty substances spreading via the inlet openings 68 , 70 into the channels 64 , 66 and possibly farther until reaching the outlet connectors 28 , 30 . Notably, if a contamination and thus polymerization were to occur in these regions, the resulting clogging of the outlet connectors 28 , 30 would make it impossible to remove the rest of the material possibly remaining in the hose bags 20 , 22 .」(明細書第9欄第30ないし41行)

(当審仮訳:「ペースト状材料に対して軸方向に働く除去効果を支持し、結果的に強化することによって、2種類のペースト状材料の汚染、換言すれば、流入口68、70を経て流路64,66に流入し、流出口連結器28,30にまで達する恐れのある、2種類のペースト状材料の望ましくない混合または逆汚染の危険が減少する。特に、汚染とその結果としての重合がこれらの領域に生じた場合、流出口連結器28、30の目詰まりが発生し、ホースバッグ20,22内に残留する可能性のある残りの材料を除去できなくなるであろう。」)

(2)上記(1)a)ないしe)及び図面の記載から分かること

イ)上記(1)d)並びに図1及び2の記載によれば、流出口連結器28,30と流入口連結器54,55とは流体接続されることが分かる。

ロ)上記(1)d)並びに図1及び2の記載によれば、複数の流入口連結器54,55が長さ寸法を有するハウジング42に対して並置されていることが分かる。

ハ)上記(1)d)並びに図1及び2の記載を技術常識に照らしてみると、圧力容器16,18が有する流出口連結器28,30とハウジング42が有する流入口連結器54,55とは、ハウジング42が圧力容器16,18に着脱自在に取り付けられる手段として機能していることが分かる。

(3)刊行物に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物には次の発明が記載されているものと認められる(以下、「刊行物に記載された発明」という。)。

<刊行物に記載された発明>
「複数の流出口連結器28,30を有する形式の圧力容器16,18からの複数の成分を混合し分配するための動的ミキサー36であって、
長さ寸法を有するハウジング42とハウジング42内に配置された撹拌軸38からなり、ハウジング42が、圧力容器16,18に着脱自在に取り付ける手段と、動的ミキサー36が圧力容器16,18に取り付けられるとき流出口連結器28,30と流体接続する複数の流入口連結器54,55とを有し、複数の流入口連結器54,55がハウジング42に対して並置されている動的ミキサー36。」

4.対比・判断

本件発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、刊行物に記載された発明における「流出口連結器28,30」、「圧力容器16,18」、「動的ミキサー36」、「ハウジング42」、「撹拌軸38」、及び「流入口連結器54,55」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、それぞれ、本件発明における「出口流路」、「バルク貯蔵装置」、「チップ」、「ハウジング」、「ステータ部材」及び「給送流路」に相当する。

してみると、本件発明と刊行物に記載された発明とは、
「複数の出口流路を有する形式のバルク貯蔵装置からの複数の成分を混合し分配するためのチップであって、
長さ寸法を有するハウジングとハウジング内に配置されたステータ部材からなり、ハウジングが、バルク貯蔵装置に着脱自在に取り付ける手段と、チップがバルク貯蔵装置に取り付けられるとき出口流路と流体接続する複数の給送流路とを有し、複数の給送流路がハウジングに対して並置されているチップ。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
「給送流路」と「ハウジング」の長さ寸法の割合に関し、
本件発明においては、「給送流路の少なくとも1つがハウジングの長さ寸法の約1/4?約3/4の長さ寸法を有する」のに対し、
刊行物に記載された発明においては、流入口連結器54,56(本件発明における「給送流路」に相当する。)の少なくとも1つがハウジング42(本件発明における「ハウジング」に相当する。)の長さ寸法の約1/4?約3/4の長さ寸法を有するか否か不明である点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について検討する。

一般に、実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮というべきであるから、公知技術に対して数値限定を加えることにより、特許を受けようとする発明が進歩性を有するというためには、当該数値範囲を選択することが当業者に容易であったとはいえないことが必要であり、これを基礎付ける事情として、当該数値範囲に臨界的意義があることが明細書に記載され、当該数値限定の技術的意義が明細書上明確にされていなければならないものと解するのが相当である。
一方、本願明細書及び図面を検討しても、本件発明のように「給送流路の少なくとも1つがハウジングの長さ寸法の約1/4?約3/4の長さ寸法を有する」と、「給送流路」と「ハウジング」の長さ寸法の割合を数値限定したことの臨界的意義が明らかにされているとは認められない。
ところで、刊行物に記載された発明は、逆流方向に広がる汚染のような逆汚染(backward contamination)が生じて、カートリッジに残っているペースト状材料が使用できなくなることを従来技術の問題点とした上(上記3.(1)b)参照)で、逆汚染(backward contamination)を防ぐことを目的としており(上記3.(1)c)参照)、さらには、逆汚染(backward contamination)によって流出口連結器28,30の目詰まりの発生の防止をも目的としている(上記3.(1)e)参照)のであるから、刊行物に記載された発明は、交差汚染の防止という本件発明と共通する目的を有しているといえる。
そして、刊行物に記載された発明における「流入口連結器54,56(本件発明における「給送流路」に相当する。)」は、「ハウジング42(本件発明における「ハウジング」に相当する。)」が長さ方向寸法を有しているの同様に、長さ寸法を有していることは、上記(1)d)並びに図1及び2の記載からみて明らかである。
一方、貯蔵装置からの複数の成分を混合し分配するための装置において、「貯蔵装置と混合及び分配機能を備えたチップとの間の給送通路(以下、「前者」という。)」と「混合及び分配機能を備えたチップのハウジング(以下、「後者」という。)」の長さ寸法の割合については、従来から種々のものが知られている(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された実願昭62-197198号(実開平1-101667号)のマイクロフィルム[特に、第1図には、前者と後者の長さ寸法がほぼ等しいものが記載されている。]及び特開平2-71868号公報[特に、第4図には、前者の長さ寸法が後者の長さ寸法よりも長いものが記載されている。]等参照。以下、「周知技術」という。)。
してみると、刊行物に記載された発明における「流入口連結器54,56(本件発明における「給送流路」に相当する。)」と「ハウジング42(本件発明における「ハウジング」に相当する。)」の長さ寸法の割合については、前述の目的及び周知技術を考慮して、当業者が適宜設定し得るものであるといえる。
したがって、刊行物に記載された発明において、前述の目的の下、周知技術を考慮して、上記相違点に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば、容易に想到できたことである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物に記載された発明及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

5.むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-14 
結審通知日 2012-09-18 
審決日 2012-10-02 
出願番号 特願2006-509044(P2006-509044)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B05C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阿部 利英和田 雄二加藤 昌人  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 中川 隆司
藤原 直欣
発明の名称 分配及び混合用チップ  
代理人 岡部 正夫  
代理人 高梨 憲通  
代理人 小林 恒夫  
代理人 臼井 伸一  
代理人 木村 克彦  
代理人 齋藤 正巳  
代理人 岡部 讓  

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