• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1270130
審判番号 不服2011-16655  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-03 
確定日 2013-02-12 
事件の表示 特願2005-348080「物体識別のための量子ドットを備えた性能測定システム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月29日出願公開、特開2006-167449〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成17年12月1日(パリ条約による優先権主張:2004年12月1日、米国)に出願したものであって、平成21年10月27日付け、平成22年7月26日付け及び平成23年2月22日付けで手続補正がなされたが、同年3月29日付けで同年2月22日付け手続補正が補正却下されるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月3日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
その後、同年12月7日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、平成24年6月7日に回答書が提出された。

2 平成23年8月3日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年8月3日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲について補正するものであり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、以下のように補正された。
<補正前>(平成22年7月26日付け手続補正書参照。)
「少なくとも1つの物体の運動力学的特性を測定する携帯用モニタシステムであって、
少なくとも1つの運動中の物体の像を収集できる画像化システムと、
前記少なくとも1つの物体の表面上に選択的に位置決めされた少なくとも1つの蛍光マーカとを有し、前記少なくとも1つの蛍光マーカは、実質的に幅の狭い放出スペクトルを放出でき、
前記実質的に幅の狭い放出スペクトルは、約50nm以下の全幅半値を有する、モニタシステム。」
<補正後>
「少なくとも1つの物体の運動力学的特性を測定する携帯用モニタシステムであって、
少なくとも1つの運動中の物体の像を収集できる画像化システムと、
前記少なくとも1つの物体の表面上に選択的に位置決めされた少なくとも1つの蛍光マーカとを有し、前記少なくとも1つの蛍光マーカは、実質的に幅の狭い放出スペクトルを放出でき、
前記実質的に幅の狭い放出スペクトルは、約50nm以下の全幅半値を有し、
前記少なくとも1つの蛍光マーカは、熱硬化エポキシ中に分散配置された量子ドットを含む、モニタシステム。」
(下線は審決で付した。以下同様。)
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「少なくとも1つの蛍光マーカ」について、「熱硬化エポキシ中に分散配置された量子ドットを含む」と限定したものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用刊行物
(a)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された特開2003-214819号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載が図とともにある。
ア 【請求項2】光源と、
第1のカメラと、
第2のカメラとを含む少なくとも2つの対象物の運動を測定する携帯可能なモニターシステムであって、
少なくとも1つの対象物が少なくとも1個の蛍光マーカーを有し、且つ、少なくとも1つの他の対象物が少なくとも1個のマーカーを有することを特徴とする、携帯可能なモニターシステム。
イ 【請求項4】前記第1及び第2のカメラが、各々少なくとも1つのフィルタを備えることを特徴とする、請求項2に記載のモニターシステム。
ウ 【0030】カメラフィルタ
カメラは、フィルタを装着して、所定の視野内で照らされたマーカーと他の対象物とのより大きいコントラストを生み出すことができる。本発明で使用されたフィルタは、好適には、選択領域における光の波長を阻止するのに使用されたバンドパスフィルタである。本発明で使用されたフィルタは、好適には、中心周波数または中心波長約600nm前後を有する。使用されたフィルタの帯域幅、フィルタ精度とも呼ばれるが、例えば、2nm、10nm、20nm、40nmによって、約560nm乃至約640nmの光の波長がフィルタを通過することができる。
【0031】例えば、図1は、BPと表示されたバンドパスフィルタの透過曲線を示す。グラフの水平軸は、ナノメートル(nm)単位の光の発光波長であり、グラフの垂直軸は、光の総量に占める透過の値の比率(例えば、100パーセントの透過率は、フィルタによる光の損失と吸収が無いことを意味する)である。最大透過率約65パーセントは、発光波長約605nm、即ち、表示点CW、または中心波長で生じる。フィルタの帯域幅は、最大透過率を50パーセント低減したところで判定される。曲線BPに関して、最大透過率を50パーセント低減したところは、透過率約32パーセント、または約588nm、即ち、点BW1という表示と、約622nm、即ち、点BW2という表示とで生じる。点BW1から点BW2までの最大幅は、約34nm、即ち、表示BWである。従って、約588nm未満で且つ約622nmを超える全ての光の波長が、バンドパスフィルタにより著しく減衰される。狭い帯域幅は、屋外使用等の明るい光を利用するには好適である。
エ 【0040】照明フィルタ
照明システムに使用されたフィルタは、任意の適当な方法により照明ユニットの前に取り付けられて第1のフィルタ補正した光を創出する。励起波長は、マーカーの発光波長と異なるのが好適である。当業者は、このことを達成する幾つかの方法があることを簡単に理解するであろうが、1例は、カメラフィルタの中心波長未満のカットオフ波長を有するように選んだ照明フィルタを使用することである。これにより、発光波長と励起波長との決定的なコントラストが可能となり、従って、発光した光、即ち、マーカーのみがカメラにより映されることになる。励起光、即ち、ストロボの光は、波長がフィルタの通過基準を満たさないのでカメラフィルタを通過することができない。
オ 【0044】マーカー
蛍光マーカーは、顔料または染料を含み、斯かる顔料または染料は、別のエネルギーの形態を吸収すると電磁放射を放つが、エネルギーの入力が停止すると直ちに放射を発するのを止める。例えば、本発明に使用可能な蛍光マーカーは、照明ユニットから励起エネルギーを得ることができるが、照明ユニットが機能しなくなり次第、蛍光を発するのを止める。この特徴は本発明において有益である。例えば、この現象により、デュアルストロボが、微小のぶれのある1コマの画像フレーム上の2つの別個のグループのマーカーを捉えることを可能にし、斯かるぶれはゆっくりとした蛍光の退色から生じるものであろう。
【0045】蛍光マーカーは、スペクトル発光テストにより識別される。スペクトル発光テストは、例えば、MacBeth Color-Eye 7000Aを使用して、鏡面反射成分を含まず、且つ、UVを含んだモードで実施することが可能である。蛍光マーカーは、可視スペクトル内で100を超える反射率の値を有するのが典型的である。
【0046】蛍光マーカーが本発明に使用される時、マーカーは、好適には、オレンジ蛍光顔料から作られるが、他の顔料を使用することもできる。オレンジ蛍光顔料は、様々な原料、例えば、オハイオ州クリーブランドのデイグロ社(DaygloCorporation)、ペンシルベニア州イーストンのビニー・アンド・スミス社(Binney & Smith)(LIQUITEX(登録商標))、及び日本国の株式会社呉竹精昇堂により製造された材料から作製することが可能である。
【0047】図3は、2つのオレンジ蛍光顔料の反射曲線を示す。図3は、表示Dのデイグロ顔料の反射曲線と、表示Kのクレタケ(呉竹)顔料の反射曲線とを有する。グラフの水平軸はナノメートル(nm)単位の波長であり、グラフの垂直軸は任意の波長の反射する光の比率を示す反射率である。反射率は、任意のマーカーで反射する光の量である。クレタケ顔料(曲線K)に関して、最高反射率または一次反射率約200パーセントは、波長約600nmの点C3で生じる。デイグロ顔料(曲線D)に関して、最高反射率または一次反射率約160パーセントは、波長約600nmの点C4で生じる。従って、クレタケ顔料は、デイグロ顔料よりも良好な反射率を有するが、いずれも本発明のシステムに使用することが可能である。曲線K及びDは、約560nm乃至約640nmの範囲を超える最大反射率を有すると共に、一次波長約600nmを中心とする。
【0048】マーカーを、当業者に公知の任意の適当な方法、例えば、パッド印刷、フォイル転写、マーキングペン及びスプレー塗装を使用して、ゴルフボールまたはゴルフクラブに塗布することができる。
【0049】ゴルフクラブとゴルフボールとを同時にモニターする場合、クラブとボール用のマーカーはお互いに識別可能であることが望ましい。異なるサイズ、形状、方位、最高光反射波長またはそれらの任意の組み合わせのマーカーを使用することにより、このことを達成することができる。更に、異なるタイプのマーカーをクラブとボールとに用いることができる。例えば、クラブは蛍光マーカーを用いてマークすることができ、ボールは逆反射マーカーを用いてマークすることができる。別の実施例は、ボール上に円形の拡散反射マーカーを使用し、クラブ上に三角形の蛍光マーカーを使用するようにする。
【0050】1実施例では、クラブのマーカーは第1の反射スペクトルを有し、ボールのマーカーは第2の反射スペクトルを有する。別の実施例では、斯かる第1の反射スペクトルは第1の一次応答波長を有し、斯かる第2の反射スペクトルは第2の一次応答波長を有する。別の実施例では、第1及び第2の一次応答波長は約50nm以上毎で区切られる。更に別の実施例では、第1及び第2の一次応答波長は約100nm以上毎で区切られる。1実施例では、第1の一次応答波長は500nm以上で、且つ、第2の一次応答波長は約600nm以上である。

上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。
「光源と、
第1のカメラと、
第2のカメラとを含む少なくとも2つの対象物の運動を測定し、
少なくとも1つの対象物が少なくとも1個の蛍光マーカーを有し、且つ、少なくとも1つの他の対象物が少なくとも1個のマーカーを有する、携帯可能なモニターシステムであって、
前記第1及び第2のカメラが、各々少なくとも1つのフィルタを備え、
前記カメラフィルタは、バンドパスフィルタの透過曲線において、最大透過率を50パーセント低減したところの最大幅が約34nmであり、屋外使用等の明るい光を利用するには好適なものであり、
照明フィルタは、カメラフィルタの中心波長未満のカットオフ波長を有することにより、発光波長と励起波長との決定的なコントラストが可能となり、従って、発光した光、即ち、マーカーのみがカメラにより映されることになるものであり、
前記蛍光マーカーは、別のエネルギーの形態を吸収すると電磁放射を放つが、エネルギーの入力が停止すると直ちに放射を発するのを止める顔料または染料を含み、パッド印刷、フォイル転写、マーキングペン及びスプレー塗装を使用して、ゴルフボールまたはゴルフクラブに塗布することができ、
クラブのマーカーは第1の反射スペクトルを有し、ボールのマーカーは第2の反射スペクトルを有し、斯かる第1の反射スペクトルは第1の一次応答波長を有し、斯かる第2の反射スペクトルは第2の一次応答波長を有する携帯可能なモニターシステム。」(以下「引用発明」という。)

(b)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された特開2001-83088号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載が図とともにある。
ア 【0005】量子ドットの発光特性は、図4に示すように、従来の蛍光色素に比較して次のような特徴がある。一つは、発光スペクトルの半値幅が中心波長の1/20ぐらいであり、蛍光色素の約1/3程度に狭いということ、発光スペクトルのピーク波長は量子ドットの大きさ及び材質を選択することにより、およそ400nm?2000nmぐらいの範囲で比較的自由に設定することが可能であるということ、さらには、励起スペクトルは、発光スペクトルの中心波長の位置に関わらず、可視光?紫外光領域では短波長側程その強度が強くなるということである。図4には、CdSe及びInPからなる粒径の異なる量子ドットの励起・発光スペクトル分布を示してある。
【0006】量子ドットは、一分子検出に用いる場合、従来の有機物よりなる蛍光色素と比較して、次のような利点がある。その一つは、大きさが非常に小さく、目標の分子の運動をほとんど妨げないということ、もう一つは、発光効率が従来の蛍光式それぞれより格段に高く、高感度に一分子を検出できるということ、もう一つは、毒性が非常に少なく、生体内部を生きたまま観察できるということ、さらにもう一つは、褪色が非常に少ないということである。このような利点から、今後の一分子検出を用いた分析解析には、従来の蛍光色素に代わって量子ドットが広く使われるようになることが期待される。
【0007】さらに、複数種類の分子の同定を同時に行おうとする場合、量子ドットは、従来の蛍光色素に比べて以下の利点がある。すなわち、量子ドットにおいては、上に記した通り粒径や材質を選ぶことにより複数の発光中心波長を比較的自由に設定することができ、しかも、発光スペクトルの半値幅が狭いので、使用可能な波長域において、蛍光色素を用いる従来の方法より数多くの種類の分子の同定が可能になるということである。さらに、量子ドットは、励起スペクトルが、発光スペクトルの中心波長に関わらず、可視域ならば短波長程励起強度が強いため、単一の波長帯域で全ての量子ドットを効率良く励起することが可能である。
イ 【0009】通常の落射型蛍光顕微鏡の特徴としては、使用する蛍光色素を励起する波長域を選択する励起フィルタと、励起フィルタの透過波長帯域を阻止し、蛍光の波長帯域を透過する阻止フィルタと、励起フィルタの透過波長帯域を反射し、蛍光の波長帯域を透過するダイクロイックミラーとを備えることである。光源からの光は、励起フィルタを透過することによりある定められた波長帯域に制限された励起光となり、その励起光はダイクロイックミラーによって観察光路と同軸に標本に向かって反射されて標本を照射し、それによって発生した蛍光は観察光路を励起光と逆向きに進み、ダイクロイックミラーを透過し、阻止フィルタはダイクロイックミラーを透過した光から励起光の残存成分を阻止し、蛍光を透過する。これら3つの光学素子を用いることにより、蛍光を励起光により発光させ、かつ、励起光と比較して微弱な蛍光をコントラスト良く検出することが可能になる。
ウ 【0011】さて、この落射蛍光顕微鏡を用いて、大きさ又は材質が異なる複数種類の量子ドットで標識された標本を観察する場合、これら3つの光学素子の波長特性は、図5に示すように、励起フィルタは使用する量子ドットの発光帯域の最小値λ0より長い波長の光を阻止すると共に、それより短い波長の光を透過し、阻止フィルタはλ0 より短い波長の光を阻止すると共に、それより長い波長の光を透過し、ダイクロイックミラーはλ0 より短い波長の光を反射し、それより長い波長の光を透過するように設定すればよい。このようにすることによって、微弱な量子ドットの発光は、強力な励起光と重なることなく、コントラスト良く観察することができる。

(3)対比
ア 本願補正発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「『少なくとも2つの対象物』、『少なくとも1つの対象物』あるいは『ゴルフボールまたはゴルフクラブ』」、「運動を測定し」、「携帯可能なモニターシステム」、「第1のカメラと、第2のカメラ」、「蛍光マーカ」及び「『第1の反射スペクトル』あるいは『第2の反射スペクトル』」は、それぞれ本願補正発明の「少なくとも1つの物体」、「運動力学的特性を測定する」、「携帯用モニタシステム」、「物体の像を収集できる画像化システム」、「蛍光マーカ」及び「放出スペクトル」に相当する。
イ 引用発明の「蛍光マーカー」は「パッド印刷、フォイル転写、マーキングペン及びスプレー塗装を使用して、ゴルフボールまたはゴルフクラブに塗布」されるから、物体の表面上に選択的に位置決めされたものといえる。
ウ 引用発明の「別のエネルギーの形態を吸収すると電磁放射を放つが、エネルギーの入力が停止すると直ちに放射を発するのを止める顔料または染料」と本願補正発明の「量子ドット」とは、蛍光体の点で共通する。
エ 上記アないしウから、本願補正発明と引用発明は、
「少なくとも1つの物体の運動力学的特性を測定する携帯用モニタシステムであって、
少なくとも1つの運動中の物体の像を収集できる画像化システムと、
前記少なくとも1つの物体の表面上に選択的に位置決めされた少なくとも1つの蛍光マーカとを有し、前記少なくとも1つの蛍光マーカは、放出スペクトルを放出でき、
前記少なくとも1つの蛍光マーカは、蛍光体を含む、モニタシステム。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]蛍光体に関し、本願補正発明は「量子ドット」であり、「熱硬化エポキシ中に分散配置された」のに対し、引用発明は、顔料または染料であり、熱硬化エポキシ中に分散配置されたとはいえない点。
[相違点2]放出スペクトルに関し、本願補正発明は「実質的に幅の狭い」放出スペクトルを放出でき、「前記実質的に幅の狭い放出スペクトルは、約50nm以下の全幅半値を有し」と特定されているのに対し、引用発明は、放出スペクトルを放出するものの、約50nm以下の全幅半値の実質的に幅の狭いものとはいえない点。

(4)判断
ア 上記相違点1について検討する。
(ア) 本願明細書の段落【0053】に「一実施形態では、幅の狭い放出スペクトルを放出することにより広い励起スペクトルに応答できる蛍光マーカは、量子ドットを含む。量子ドット(これらの光学的及び物理的特性を含む)及び製造方法は、当業者には周知である。量子ドットは、任意所望の方法で製造できる。例えば、本発明の一特徴によれば、量子ドットは、半導体から成る。半導体から成る量子ドットの一例は、EviDots(登録商標)と呼ばれている半導体ナノ結晶であり、エビデント・テクノロジーズ・インコーポレイテッドによって製造されている。好ましくは、半導体ナノ結晶は、実質的に幅が狭く実質的に対称な光のスペクトルを上述したように放出することにより幅の広い励起スペクトルに応答することができる。」と記載されているように、請求人は、量子ドット並びに量子ドットの光学的及び物理的特性が当業者に周知であることを自認している。
(イ) 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2、国際公開2004/023118号、国際公開2004/050046号公報及び国際公開2004/003558号公報に記載のように、量子ドットは、本願優先権主張日前に周知の技術である。
c 刊行物2には、「使用する蛍光色素を励起する波長域を選択する励起フィルタと、励起フィルタの透過波長帯域を阻止し、蛍光の波長帯域を透過する阻止フィルタを有する落射蛍光顕微鏡を用いて、大きさ又は材質が異なる複数種類の量子ドットで標識された標本を観察し、微弱な量子ドットの発光は、強力な励起光と重なることなく、コントラスト良く観察すること」(以下「刊行物2に記載の事項」という。)が記載されており、引用発明と刊行物2記載の事項は、いずれも通過波長領域が異なる2種のフィルタを利用し、対象物が担持する蛍光体の励起光のみを得ようとする技術で共通するものであるから、引用発明の蛍光体である顔料または染料に代え、刊行物2等に記載の量子ドットを採用することは当業者が容易になし得る程度のことである。
(ウ) また、引用発明の「カメラフィルタ」は、「バンドパスフィルタの透過曲線において、最大透過率を50パーセント低減したところの最大幅が約34nmであり、屋外使用等の明るい光を利用するには好適なものであ」る、即ち、屋外の光の余分な波長領域をカットするために通過波長領域が狭いものである。その狭い通過波長領域を効率よく通過できるように、刊行物2に記載のように「発光スペクトルの半値幅が中心波長の1/20ぐらいであり、蛍光色素の約1/3程度に狭い」、「発光効率が従来の蛍光式それぞれより格段に高」いという性質が知られている量子ドットを引用発明の顔料または染料に代えて採用することは当業者が容易になし得る程度のことである。
(エ) 更に、引用発明は「クラブのマーカーは第1の反射スペクトルを有し、ボールのマーカーは第2の反射スペクトルを有し、斯かる第1の反射スペクトルは第1の一次応答波長を有し、斯かる第2の反射スペクトルは第2の一次応答波長を有する」ものであり、クラブのマーカーの反射スペクトルとボールのマーカーの反射スペクトルが単一の光源でも区別しやすいように、刊行物2に記載のように「発光スペクトルのピーク波長は量子ドットの大きさ及び材質を選択することにより、およそ400nm?2000nmぐらいの範囲で比較的自由に設定することが可能であ」り、「励起スペクトルは、発光スペクトルの中心波長の位置に関わらず、可視光?紫外光領域では短波長側程その強度が強くな」り、「量子ドットは、励起スペクトルが、発光スペクトルの中心波長に関わらず、可視域ならば短波長程励起強度が強いため、単一の波長帯域で全ての量子ドットを効率良く励起することが可能である」という性質が知られている量子ドットを引用発明の顔料または染料に代えて採用することは当業者が容易になし得る程度のことである。
(オ) 引用発明の「蛍光マーカー」は、「別のエネルギーの形態を吸収すると電磁放射を放つが、エネルギーの入力が停止すると直ちに放射を発するのを止める顔料または染料を含み、パッド印刷、フォイル転写、マーキングペン及びスプレー塗装を使用して、ゴルフボールまたはゴルフクラブに塗布する」ものであるから、蛍光体である顔料または染料を含むものが存在していることは明らかである。
(カ) 蛍光体を含むものとして熱硬化エポキシを用い、熱硬化エポキシ中に蛍光体を分散配置することは、本願優先権主張日前に周知の技術(特開2003-163376号公報、【請求項1】、【請求項2】及び段落【0008】参照、特開2003-161896号公報、段落【0111】参照、特開平11-291674号公報、段落【0019】参照、特開2004-235579号公報、段落【0056】参照。)であるから、引用発明の蛍光体である顔料または染料を含むものとして、上記周知技術の熱硬化エポキシを採用し、熱硬化エポキシ中に蛍光体を分散配置することは、当業者が容易になし得る程度のことである。
(キ) よって、本願補正発明の上記相違点1に係る構成となすことは、当業者が容易になし得る程度のことである。

イ 上記相違点2について検討する。
(ア) 刊行物2には、「発光スペクトルの半値幅が中心波長の1/20ぐらいであり、・・・発光スペクトルのピーク波長は量子ドットの大きさ及び材質を選択することにより、およそ400nm?2000nmぐらいの範囲で比較的自由に設定することが可能である」と記載されており、この記載から、ピーク波長が400nm?1000nmの範囲の量子ドットであれば、発光スペクトルの半値幅が20nm?50nm程度となることは明らかである。上記ア(ウ)で述べたように、引用発明の「カメラフィルタ」は、通過波長領域が狭いものであるから、その狭い通過波長領域を効率よく通過できるように、ピーク波長が400nm?1000nmの範囲の量子ドット、即ち、発光スペクトルの半値幅が20nm?50nm程度となる量子ドットを採用することは、当業者が容易になし得る程度のことである。
(イ) よって、本願補正発明の上記相違点2に係る構成となすことは、当業者が容易になし得る程度のことである。

ウ 以上のとおりであるから、本願補正発明の相違点1及び2に係る構成は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものであり、それにより得られる効果も当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載の事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願発明について
平成23年8月3日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?47に係る発明は、平成22年7月26日付け手続補正後の明細書及び図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1?47に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「少なくとも1つの物体の運動力学的特性を測定する携帯用モニタシステムであって、
少なくとも1つの運動中の物体の像を収集できる画像化システムと、
前記少なくとも1つの物体の表面上に選択的に位置決めされた少なくとも1つの蛍光マーカとを有し、前記少なくとも1つの蛍光マーカは、実質的に幅の狭い放出スペクトルを放出でき、
前記実質的に幅の狭い放出スペクトルは、約50nm以下の全幅半値を有する、モニタシステム。」

(1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記「2(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2で検討した本願補正発明から「少なくとも1つの蛍光マーカ」についての限定事項である「熱硬化エポキシ中に分散配置された量子ドットを含む」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明を特定する事項を全て含み、さらなる限定を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2(4)」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載の事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載の事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載の事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-13 
結審通知日 2012-09-18 
審決日 2012-10-01 
出願番号 特願2005-348080(P2005-348080)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63B)
P 1 8・ 575- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清藤 弘晃後藤 昌夫  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
東 治企
発明の名称 物体識別のための量子ドットを備えた性能測定システム  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 井野 砂里  
代理人 弟子丸 健  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ