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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K |
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管理番号 | 1270146 |
審判番号 | 不服2010-14985 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-07-06 |
確定日 | 2013-02-14 |
事件の表示 | 特願2004-248405「蛍光体及びその製造方法並びに光源」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月 9日出願公開、特開2006- 63214〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は, 平成16年8月27日に出願され, 平成17年8月29日に手続補正書が提出され, 平成21年11月26日に手続補正書及び上申書が提出され, 平成21年12月4日付けで通知された拒絶理由に対して, 平成22年2月12日に意見書が提出されたが, 同年4月2日付けで拒絶査定され,これに対して, 同年7月6日に拒絶査定不服審判が請求され, 平成24年6月1日付けで当審による拒絶理由が通知され, 同年8月3日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1?9に係る発明は,平成24年8月3日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであり,このうち請求項1は以下のとおりである。 「【請求項1】 組成式MmAaBbOoNn:Z(但し,M元素はII価の価数をとるMg,Ca,Sr,Ba,Znから選択される1種以上の元素であり,A元素はIII価のAl又はAlの一部をGaで置換したものであり,B元素はIV価のSi又はSiの一部をGeで置換したものであり,Oは酸素であり,Nは窒素であり,Z元素はEuであり,m=a=b=1,n=2/3m+a+4/3b-2/3o,0<o≦0.3で表記され, 更にホウ素を0.063重量%以上,3.0重量%以下含有することを特徴とする蛍光体。」 第3.当審の拒絶理由 当審において通知した平成24年6月1日付け拒絶理由通知書の理由2及び3は, 「2.本願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 3.本願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものであって,その概要は, 「本願実施例に係る蛍光体は,請求項1に係る蛍光体に対応するものとすることができないし,また,明細書の他の記載を見ても,請求項1に係る蛍光体が現実に得られるということが発明の詳細な説明において示されているとすることができないから,本願請求項1?9に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものであるとすることも,また,これら発明について,当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されているものともすることができない。」ことを趣旨とするものである。 第4.当審の判断 (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について まず,請求項1の組成式「MmAaBbOoNn:Z」について次のように解釈する。 請求項1に記載の組成式「MmAaBbOoNn:Z」は,「:」の前に記載された組成で示される結晶母体に対して,賦活剤であるZ原子が不特定量(M原子と)置換された蛍光体を意味するものと解し,以下これを前提として検討する。 なお,このような解釈は,平成24年8月3日付け意見書において,請求人が添付資料1として「蛍光体ハンドブック」を提示しつつ主張した内容に沿うものであって,その主張は当合議体としても首肯できるものと判断する。 請求項1では,結晶母体の組成式「MmAaBbOoNn」中の各原子の種類や組成比に関し特定がなされており,請求項1で特定される蛍光体は,少なくとも,次の3つの条件を満たすものである。 (a)『MmAaBbOoNn』(M,A及びBに関する特定は省略)なる組成の結晶母体をもつこと。 (b)「m=a=b=1」(以下,「式(b)」ともいう。)を満たすこと。 (c)「n=2/3m+a+4/3b-2/3o」(以下,「式(c)」ともいう。)を満たすこと。 そこで,このような結晶母体をもつ蛍光体について,本願明細書において記載されているといえるか否か,特に実施例において製造された蛍光体が,請求項1に係る蛍光体に対応するものなのか否かを検討する。 まず,本願明細書の実施例では,「組成式中の酸素の記載を省いて行う」(明細書【0062】)としていることもあって,O原子をも含めた,製造された蛍光体の各原子についての組成比率を測定し,その結果式(b)の充足性を確認したというものではない。 ところで,「m=a=b=1」であって,かつ,「n=2/3m+a+4/3b-2/3o」を満たすことが示す技術的な意味を分析すると次のようになる。 MABN_(3)という結晶において結晶格子として存在するN原子がO原子と置き換わる際に,陽電荷の総数が変更せず(「m=a=b=1」とされていることは陽電荷総数がMABN_(3)から変わらないことを意味する),したがって,陰電荷の総数も変更されずに,N原子1個対O原子1.5個の割合で置換することを意味するものと解される。このことは,結晶格子として存在する窒素原子の1.5倍の量で酸素原子が置き換わることを意味するものであり,換言すると,結晶格子として存在するO原子の1/2の量のO原子が結晶格子以外のところに存在することを意味するものである。以下、これを「第1のケース」と記す。 そうすると,結晶母体の各構成原子の全ての組成を確認しなくとも,例えば, (i)「一定数のO原子が格子間に存在することを確認した」,又は, (ii)「m=a=b=1」であること(特に,A原子(例えばAl)及びB原子(例えばSi)がともに組成比1であること)を確認した」, といったことが示されていれば,本願実施例で製造された蛍光体が請求項1で特定される蛍光体であることが,当業者にとっても妥当性あることとして理解され得るものといえるが,上記2つのいずれかの事項を確認したとする記載が本願明細書においてなされているものではない。なお,(ii)に関しては,実施例において,陽性の各原子の組成比は,原料における各配合比をそのまま製造された蛍光体に対しても同じであるとするものであって,現に測定された結果に基づくものとは解されないことから,m(又はm+z)=a=b=1であることが,得られた蛍光体において確認されたとする根拠たり得ないものである。 これに対して,本願明細書の実施例などにおいて,結晶母体へのO原子の取り込みに伴う組成の変化についてその詳細が測定・確認されていないというのであれば,例えば,次のようなケースも技術的には可能性のあることとして考えられるものである。以下、この場合を「第2のケース」と記す。 すなわち,陽・陰それぞれの電荷総数のバランスという単純な算術的見地からすると,N原子がO原子と置き換わることに伴って電荷総数が変化する,すなわちN原子が-III価であってO原子が-II価であることから結晶母体に取り込まれたO原子数の分だけ陰電荷総数が減少すると考えるならば,陽電荷総数もその分だけ減少すれば陽・陰双方の電荷総数はバランスするので,例えば,+IV価のB原子(例えばSi)の数がO原子数「o」分だけ減少し,それと同数分だけ+III価のA原子(例えばAl)の数が増加する(換言すると,N原子がO原子に置き換わることに伴う陰電荷の減少分を相殺するように,陽性原子であるA原子(例えばAl)とB原子(例えばSi)の間で置換が起きる),ということも想定できるものである。この場合には,結晶格子間のスペースには,基本的にはO原子は存在せず,また,m,a,b及びoの関係を式で表すと「m(又はm+z)=(a-o)=(b+o)=1」となる。 上記したように,本願明細書,殊に実施例の記載によると, (ア)蛍光体を構成する全原子の組成を測定し,式(b)及び(c)の充足性を確認したものでもなく, (イ)さらに,O原子が結晶格子間に存在することを確認したものでもないし, (ウ)そして,陽電荷総数が変化しないこと,すなわち「m=a=b=1」であることを確認したというものでもない。 そうすると,上記した「第2のケース」であるところの置き換え,すなわち,「陽・陰双方の電荷総数の変更が伴う,O原子が結晶格子間には基本的には存在しない置き換え」が起きていることを否定し得る根拠は何ら示されていないこととなる。 以上のように,本願明細書の実施例で製造された蛍光体に関しては,請求項1で特定されるが如き蛍光体であることを積極的に支持するデータが提示されているものではない一方で,技術的に可能性のある,他の組成に関して,これを否定しうる根拠が示されているとすることもできないことから,本願明細書の実施例で製造された蛍光体が,請求項1に係る蛍光体であると,当業者が理解し得るものとはいえない。 また,それゆえ本願明細書の,例えば,【0057】の 「本実施の形態における蛍光体の製造に際して,M元素(+II価),A元素(+III価),B元素(+IV価)の原料として,それぞれの窒化物,酸化物,いずれの化合物を用いても良い。例えば,M元素の窒化物(M_(3)N_(2))・酸化物(MO),A元素,B元素の窒化物(AN,B_(3)N_(4))を用いて混合してもよい。そして,この窒化物,酸化物,両者の配合比を制御することで,mの値を変えることなく蛍光体中の酸素量,窒素量の制御をおこなうことができる。」 といった記載や【0059】の 「例えば,酸素のモル比o=0,m=a=b=1の条件で秤量する場合であれば,各原料をモル比でM_(3)N_(2):AN:B_(3)N_(4)=1:3:1で秤量すれば良い。更に,このとき,付活剤のZ元素が例えばII価の元素の場合は,Z元素はM元素の一部を置換するため,この置換を考慮して当該蛍光体をMmAaBbOoNn:Zzと表記した際,(m+z)=a=b=1とすることが好ましい。これにより,当該蛍光体の組成は化学的に安定な組成をとることができる。また酸素のモル比o=0.25,m=a=b=1の条件で秤量する場合であれば,各原料をモル比でM_(3)N_(2) :MO:AN:B_(3)N_(4)=0.75:0.75:3:1で秤量すれば良い。」 といった記載は,当業者にとって何れも技術的な裏付けのある記載とは理解し得ず,したがって,このような方法に基づいて,請求項1に係る蛍光体が現に製造されると解することは,たとえ当業者といえども到底あり得るものとはいえない。 また,本願請求項1に係る蛍光体やその結晶母体の製造方法が,本願出願時に当業者に周知であったものとすることもできない。 よって,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願請求項1に係る蛍光体が記載されているとはいえないことから,少なくとも本願請求項1に係る発明については,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないので,その余の点について検討するまでもなく,本出願は,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものとはいえない。 (2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について 請求項1に特定される蛍光体が,発明の詳細な説明の実施例に記載されたものとはいえず,しかも,発明の詳細な説明の記載の方法や技術常識に基づいて製造されるものとも当業者が理解し得ないことは,上記(1)に記載したとおりである。 したがって,請求項1に係る蛍光体について,発明の詳細な説明の記載に基づいて製造又は入手しうるものとはいえないから,本願発明の詳細な説明の記載は,少なくとも請求項1に係る発明について,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとすることができない。 よって,その余の点について検討するまでもなく,本出願は,明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているものとはいえない。 第5.請求人の主張 請求人は,平成24年8月3日付け意見書において, (1)例えば,明細書の【0057】や【0059】に示された方法により,請求項1に係る蛍光体が製造される旨主張し, (2)また,添付資料2の結晶構造モデル図が示すとおり,結晶内には窒素がもともと占めていたサイト以外にもある程度の置換量の酸素原子が安定に入ることのできるサイトが存在する旨主張する。 しかしながら,(1)の主張については,【0057】や【0059】の記載は,何れも技術的な裏付けのある記載であるとは理解され得ないことは,上記「第4.(1)」において記載したとおりであり,これらの記載を根拠に請求項1に係る蛍光体の製造方法が示されているとすることができない。 また,(2)の主張についても,添付資料2は,O原子が結晶格子間に存在する空間があることが示されているに止まり,例えば,実施例で製造された蛍光体において,O原子が現に結晶格子間に存在することを確認したものとは解されないものであるから,「実施例で製造された蛍光体が請求項1に係る蛍光体に対応するものとはいえない」とする上記「第4.(1)」で示した判断を覆すに足るものとはいえない。 なお,そもそも,実際に得られた蛍光体の結晶母体に含まれるO原子の存在や量に関して,「組成式中の酸素の記載を省いて行う」(明細書【0062】)として,明細書(実施例等)において酸素に関連するデータ等を何ら明らかとすることなく,さらには拒絶理由通知に対する意見書等においても,依然としてそのデータ等の詳細を明らかにすることなく,O原子の量に関連する関係式を特定した蛍光体について特許請求することは,技術の公開の代償として一定期間の独占権が認められるという特許制度の趣旨からしても到底認められるべきものとはいえない。 第6.むすび 以上のとおり,本願は,その特許請求の範囲の記載が不備であるから特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているものとすることもできないし,また,明細書の記載が不備であるから同条第4項第1号に規定する要件を満たしているものとすることができないので,特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 以上 |
審理終結日 | 2012-11-01 |
結審通知日 | 2012-11-06 |
審決日 | 2012-12-28 |
出願番号 | 特願2004-248405(P2004-248405) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(C09K)
P 1 8・ 536- WZ (C09K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中西 祐子 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
磯貝 香苗 松浦 新司 |
発明の名称 | 蛍光体及びその製造方法並びに光源 |
代理人 | 鮫島 睦 |
代理人 | 田村 啓 |
代理人 | 鮫島 睦 |
代理人 | 田村 啓 |