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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G03H |
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管理番号 | 1270165 |
審判番号 | 不服2011-16501 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-08-01 |
確定日 | 2013-02-14 |
事件の表示 | 特願2006-552318「複素点描マルチカラー印刷」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月25日国際公開,WO2005/076983,平成19年 8月 9日国内公表,特表2007-522503〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は2005年2月7日(パリ条約による優先権主張2004年2月6日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成22年7月14日付け拒絶理由通知書により通知された拒絶の理由に基づいて平成23年3月29日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成23年8月1日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。 なお,請求人は,当審における平成24年1月11日付けの審尋に対して,同年7月12日に回答書を提出している。 2.本願発明 本願の請求項1ないし18に係る発明は,平成23年8月1日付け手続補正書(以下,当該手続補正書による補正を「本件補正」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載されたとおりのものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである。(以下,本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。) 「 以下の段階を含む,3次元物体の画像を印刷する方法: カラーインクの多重ドットを印刷して,物体の画像を形成する段階;および 画像内部で1より大きい屈折率をもつ透明インクのドットを印刷する段階であって,透明インクのドットが画像から発出される光の経路長を局所的に改変して画像上の位相変動を作り出す段階。」 便宜上,当該請求項1の記載を次のとおりの発明特定事項に分説し,各発明特定事項を「構成A」ないし「構成C」ということとする。 「A 以下の段階を含む,3次元物体の画像を印刷する方法: B カラーインクの多重ドットを印刷して,物体の画像を形成する段階;および C 画像内部で1より大きい屈折率をもつ透明インクのドットを印刷する段階であって,透明インクのドットが画像から発出される光の経路長を局所的に改変して画像上の位相変動を作り出す段階。」 3.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の一つは,本願発明が,本願優先日前に頒布された刊行物である特開2003-280497号公報(以下「引用例」という。)に記載の方法と特段相違しないから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない,または,引用例に記載の方法より容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 4.引用例 引用例には,次の記載がある。 ア:「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,立体画像を再生するための立体画像プリントを製造する立体画像プリントの製造方法,及び立体画像プリンタに関する。」 イ:「【0002】 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】・・・(中略)・・・このため,立体静止画像を表示する手法としてホログラフィが広く使用されている。 【0003】しかしながら,ホログラフィは撮影工程が煩雑であり,一般人が所望の三次元画像を簡単に手にすることができない,という問題がある。このため,個人的に撮影した映像や個人的に作成した画像を立体画像として提供する仕組みが必要とされていた。また,ホログラフィには,高画質で違和感の無いフルカラー画像を得ることが難しい,という問題がある。 ・・・(中略)・・・ 【0014】以上の通り,従来のホログラフィの手法では,所望の三次元画像(立体画像プリント)を簡単に手にすることはできず,高画質で違和感の無いフルカラーの立体画像を得ることはできなかった。 【0015】本発明は上記事情に鑑み成されたものであり,本発明の目的は,高画質で違和感の無いフルカラーの立体画像を再生する立体画像プリントを簡便に製造することができる立体画像プリントの製造方法,及び立体画像プリンタを提供することにある。」 ウ:「【0031】 【発明の実施の形態】以下,図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。 (第1の実施の形態)・・・(中略)・・・ 【0043】立体写真用の画像データは,立体画像を再生するための位相情報及びRGB各色毎の振幅情報が後述する小領域毎に分割されて表された画像データである。このような画像データは,例えば,3次元CAD等で設計された3次元データを含む画像情報や,2次元画像からコンピュータによって3次元画像に再構築された3次元データから,フィルム面に対する物体の位置,再生照明光源の位置,視点の位置,フィルムの形状等を考慮して計算により求められる。 ・・・(中略)・・・ 【0052】・・・(中略)・・・透明インクは,屈折率が1.01以上で且つ可視域で透明なインクである。また,インクとは,色材(染料又は顔料)を溶剤に溶解又は分散したものである。立体画像プリンタはコンピュータ28により制御されており,図10に示す処理ルーチンに従い透明インクが塗布される。 ・・・(中略)・・・ 【0055】次に,ステップ206で,図4(B)に示すように,インク塗布部19に供給された銀塩フィルム10上に,書き込みヘッド53を用いて格子状の小領域50毎に透明インクが塗布される。このとき,インク塗り厚さを一定にして,小領域毎に塗布するインクの濃度,即ち,インク中の色材濃度を変えることにより,小領域毎にインク濃度が変化した透明インク層44が形成される。インク塗り厚さを一定にするので,透明インク層44の表面が平滑になって,凹凸形状による余計な光の散乱が減少し,鮮明なホログラムが再生される。インク濃度は,例えば,濃度の異なる2種類のインクを用意し,2種類のインクの混合比を変えることにより調整することができる。 ・・・(中略)・・・ 【0065】また,本実施の形態では,インク塗り厚さが一定で小領域毎にインク濃度が変化した位相変調層を形成したが,位相変調層は光路長変化により位相を変調することができればよく,屈折率及び厚みの少なくとも一方が変化すればよい。従って,インク濃度が一定で小領域毎にインク塗り厚さが変化した位相変調層を形成してもよい。インク塗り厚さを変化させる場合には,インク濃度を変化させる場合のように,インクジェットヘッドにインク濃度調整機構を設ける必要がなく,装置構成が簡単になるという利点がある。例えば,インク噴射量を制御して,小領域毎に塗布するインク量を変えることにより,小領域毎にインク塗り厚さが変化したインク層を形成することができる。インク塗り厚さに応じて光路長が変化するので,このインク層は透過光の位相を変調する位相変調層となる。 【0066】また,小領域毎にインク濃度とインク塗り厚さの両方が変化する位相変調層を形成してもよい。・・・(以下略)」 エ:「【0081】(第3の実施の形態)第3の実施の形態では,インクジェット記録方式により,フィルタ層及び位相変調層の両方を形成する例について説明する。図11に,本実施の形態に係る立体画像プリンタのシステム構成を示す。この立体画像プリンタには,ロール状に巻回された透明フィルム60を収納する収納部62が設けられている。また,収納部62から供給された透明フィルム60を搬送する搬送ローラ64が,搬送経路に沿って複数配置されている。複数の搬送ローラ64は,図示しない搬送駆動部により駆動される。 【0082】収納部62の搬送方向下流側には,透明フィルム60に画像データに応じてインクを塗布するインク塗布部66,及びフィルムを画像形成領域毎に切断するカッタ67がこの順に配置されている。 【0083】インク塗布部66は,シアン(C),マゼンタ(M),及びイエロー(Y)のカラーインク(CMYインク)を各色毎に対応するノズルから噴射して書き込みを行う書き込みヘッド68と,透明インクを噴射して書き込みを行う書き込みヘッド70とを備えている。これら書き込みヘッド68,70は,コンピュータ72から入力される書き込み命令信号に基づいて図示しない駆動装置により駆動される。 【0084】透明フィルム60としては,例えば,ポリエチレン・テレフタレート(PET)フィルム等の透明樹脂フィルムを用いることができる。 【0085】次に,図11に示す立体画像プリンタを用いて,立体画像プリントを製造する方法について説明する。立体画像プリンタはコンピュータ72により制御されており,図12に示す処理ルーチンに従い透明フィルム60にCMYインク及び透明インクが塗布される。まず,ステップ300で,コンピュータ72のメモリから予め用意された立体写真用の画像データが読み込まれる。立体写真用の画像データは,1画素のRGB各色について,立体画像を再生するための位相情報及び振幅情報が小領域毎に分割されて構成されている。 【0086】次に,ステップ302で,CMYインクのインク濃度及び塗り厚さに応じて屈折率及び厚みが変化し光路長が変化することを考慮し,CMYインクによる光路長変化と透明インクによる光路長変化とにより目的の位相変調量が得られるように,塗布する透明インクのインク濃度を算出する。 【0087】次に,ステップ304で,透明フィルム60の搬送を開始する。即ち,透明フィルム60は収納部62から引き出され,所定速度で搬送されてインク塗布部66に供給される。次に,ステップ306で,インク塗布部66に供給された透明フィルム60上に,図13に示すように,書き込みヘッド68を用いて小領域毎にCMYインクを塗布すると共に,CMYインクが塗布された小領域に透明インクを塗布するように配置された書き込みヘッド70から透明インクを塗布する。 【0088】書き込みヘッド68により格子状に配列された小領域毎にCMYいずれか1色のインクが塗布されて,所定の色分布を有するCMYインク層74が形成される。即ち,R色の振幅情報に基づいてインク噴射量を制御して透明フィルム60の表面にドット状にC色インクを塗布し,同様にG色の振幅情報に基づいてM色インクを塗布し,B色の振幅情報に基づいてY色インクを塗布する。例えば,C色インクが塗布されるC色領域,M色インクが塗布されるM色領域,及びY色インクが塗布されるY色領域をCMYの順に繰り返し配列し,隣接するCMY3色の領域を1画素としてフルカラー記録することができる。 【0089】このとき,インク塗り厚さを一定にして小領域毎に塗布するインク濃度(インクの色材濃度)を変えることにより,小領域毎に色材濃度が変化したCMYインク層74が形成される。色材濃度に応じて光透過率が変化するので,CMYインク層74は,透過光の振幅を各色毎に変調するフィルタ層となる。なお,CMY各色のインク濃度を一定にして小領域毎にインク塗り厚さを変え,インク塗り厚さに応じて光透過率を変化させてもよい。 【0090】書き込みヘッド70により透明インクが塗布されて,小領域毎にインク濃度が変化した透明インク層76が形成される。インク濃度に応じて屈折率が変化し,屈折率に応じて光路長が変化するので,透明インク層76は,透過光の位相変調量の空間分布を有し,透過光の位相を変調する位相変調層となる。 【0091】書き込みヘッド68,70は,各々,図示しないキャリッジに保持され,図示しないガイドにより矢印C方向に往復移動されているので,透明フィルム60表面は矢印C方向(フィルム幅方向)に主走査される。また,透明フィルム60は,複数の搬送ローラ64により所定方向に搬送され,搬送方向とは逆方向に副走査される。このようにして透明フィルム60が書き込みヘッド68,70により走査され,画像データに応じてインクが塗布される。 【0092】次に,ステップ308で,入力された画像データに応じた書き込みが終了したか否かを判断する。書き込みが終了している場合には,処理ルーチンを終了してフィルムの搬送を停止し,書き込みが終了していない場合には,ステップ202に戻って次の領域の書き込みを開始する。インク塗布部66でインクが塗布された透明フィルム60は,カッタ67により画像形成領域毎に切断される。 【0093】インク塗布後の透明フィルム60(立体画像プリント)にフィルム側から白色光を照射すると,フィルタ層であるCMYインク層74により小領域毎にRGB光が各々異なる割合で吸収されて透過波長が選択されると共に振幅が変調され,位相変調層である透明インク層76により位相が変調されて,透過光が射出される。これによりフルカラーの立体画像が再生される。 【0094】以上説明した通り,本実施の形態では,インクジェット記録ヘッドを用いて画像データを書き込むので,インクジェット・プリンタと同様の方法,装置を用いて簡便に計算機ホログラムを記録することができる。また,干渉縞を書き込むのではなく,インクジェット記録ヘッドにより位相情報,振幅情報をドット状に書き込むので,書き込み装置が簡単になり安定に波面を再生することができると共に,ゴースト画像の無いカラーホログラムが再生される。特に,位相情報に応じて濃度の異なる透明インクを塗布し,インク濃度に応じて屈折率を変化させて位相変調層を形成するので,露光・現像処理を行う場合と比較して位相変調量の調整が容易となり,高画質な立体画像を得ることができる。 【0095】なお,第1の実施の形態と同様,小領域毎にインク塗り厚さが変化する位相変調層や,小領域毎にインク濃度とインク塗り厚さの両方が変化する位相変調層を形成してもよい。・・・(以下略)」 オ:図11ないし図13は,次のとおりである。 前記記載事項アないしオを含む引用例の全記載からは,当該引用例に,第3の実施の形態に対応する発明として,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「 シアン(C),マゼンタ(M),及びイエロー(Y)のカラーインク(CMYインク)を各色毎に対応するノズルから噴射して書き込みを行うインクジェット記録方式の書き込みヘッド68と,屈折率が1.01以上で且つ可視域で透明なインクである透明インクを噴射して書き込みを行うインクジェット記録方式の書き込みヘッド70とを有する立体画像プリンタを用いて, 立体画像を再生するための位相情報及びRGB各色毎の振幅情報で構成された立体写真用の画像データに基づいて, 透過光の振幅を各色毎に変調するフィルタ層となるCMYインク層74が透明フィルム60上に形成され,透過光の位相を変調する位相変調層となる透明インク層76が前記CMYインク層74上に形成されてなる立体画像プリントを製造する方法であって, 当該立体画像プリントを製造する方法が,前記CMYインク層74と前記透明インク層76とを形成するステップ306を有しており, 当該ステップ306が, 前記書き込みヘッド68により,前記立体写真用の画像データの振幅情報に基づいて,透明フィルム60上の格子状に配列された小領域毎に,インク塗り厚さを一定にして塗布するインク濃度(インクの色材濃度)を変えるか,または,インク濃度を一定にしてインク塗り厚さを変えて,CMYのいずれか1色のインクを塗布することで,小領域毎に光透過率を変化させたCMYインク層74を形成するとともに, 前記書き込みヘッド70により,前記立体写真用の画像データの位相情報に基づいて,前記CMYインクが塗布された小領域毎にCMYインクによる光路長変化と透明インクによる光路長変化とにより目的の位相変調量が得られるように,インク塗り厚さを一定にしてインク濃度を変化させるか,インク濃度を一定にしてインク塗り厚さを変化させるか,または,インク濃度とインク塗り厚さの両方を変化させて,透明インクを塗布することで,小領域毎に屈折率及び厚みの少なくとも一方を変化させた透明インク層76を形成するというステップであり, 前記CMYインク層74が,C色インクが塗布されるC色領域,M色インクが塗布されるM色領域,及びY色インクが塗布されるY色領域をCMYの順に繰り返し配列し,隣接するCMY3色の領域を1画素としてフルカラー記録したものであり, 立体画像プリントは,透明フィルム60側から白色光を照射すると,フィルタ層であるCMYインク層74により小領域毎にRGB光が各々異なる割合で吸収されて透過波長が選択されると共に振幅が変調され,位相変調層である透明インク層76により位相が変調されて,透過光が射出され,これによりフルカラーの立体画像が再生されるものである 立体画像プリントを製造する方法。」 5.対比,判断 本願発明と引用発明を対比する。 (1)構成Aについて 引用発明によって製造された「立体画像プリント」は,「透過光の振幅を各色毎に変調するフィルタ層となるCMYインク層74が透明フィルム60上に形成され,透過光の位相を変調する位相変調層となる透明インク層76が前記CMYインク層74上に形成されてなる」ものであって,「透明フィルム60側から白色光を照射すると,フィルタ層であるCMYインク層74により小領域毎にRGB光が各々異なる割合で吸収されて透過波長が選択されると共に振幅が変調され,位相変調層である透明インク層76により位相が変調されて,透過光が射出され,これによりフルカラーの立体画像が再生される」のだから,当該「立体画像プリント」上でCMYインク層74と透明インク層76とにより表現された画像が,本願発明における「3次元物体の画像」に相当する。 そして,引用発明は,「シアン(C),マゼンタ(M),及びイエロー(Y)のカラーインク(CMYインク)を各色毎に対応するノズルから噴射して書き込みを行うインクジェット記録方式の書き込みヘッド68と,屈折率が1.01以上で且つ可視域で透明なインクである透明インクを噴射して書き込みを行うインクジェット記録方式の書き込みヘッド70とを有する立体画像プリンタ」を用いて,前記CMYインク層74及び前記透明インク層76を形成しているところ,本願明細書の【0021】の「カラー領域106a,106bおよび106cは,インクジェットプリンタによりフィルム104上に被着されたインクドッド(審決注:「インクドット」の誤記)であり得,」という記載からみて,引用発明においてインクジェット記録方式の書き込みヘッド68,70によって各インク層を形成していることが「印刷」という概念に包含されることは明らかであるから,引用発明の「立体画像プリントを製造する方法」は本願発明の「3次元物体の画像を印刷する方法」に相当する。 また,本願発明の構成Aのうち「以下の段階を含む」とは,本願発明が構成B及び構成Cを有していることを意味していると解されるところ,後記(2)及び(3)のとおり,引用発明は,本願発明の構成B及び構成Cに対応する構成を具備しているから,「以下の段階を含む」という本願発明の構成を具備している。 したがって,引用発明は,本願発明の構成Aに対応する構成を具備している。 (2)構成Bについて 引用発明における「シアン(C),マゼンタ(M),及びイエロー(Y)のカラーインク(CMYインク)」が,本願発明の「カラーインク」に相当し,引用発明におけるCMYインク層74により表現された画像が,本願発明の「物体の画像」に相当する。 したがって,引用発明における「書き込みヘッド68により,前記立体写真用の画像データの振幅情報に基づいて,透明フィルム60上の格子状に配列された小領域毎に,インク塗り厚さを一定にして塗布するインク濃度(インクの色材濃度)を変えるか,または,インク濃度を一定にしてインク塗り厚さを変えて,CMYのいずれか1色のインクを塗布することで,小領域毎に光透過率を変化させたCMYインク層74を形成する」というステップ306中の工程が,本願発明の「物体の画像を形成する段階」に相当する。 また,引用発明におけるインクジェット記録方式の書き込みヘッド68が,CMYインクの液滴を吐出することは,技術常識からみて明らかであるところ,吐出された液滴が透明フィルム60に着弾してできる各液滴毎のインクの点を「ドット」ということができるから,引用発明において,インクジェット記録方式の書き込みヘッド68によってC色領域,M色領域,及びY色領域を形成することは,「カラーインクのドットを印刷」することということができる。 構成Bにおける「多重ドット」(原文では「multiple dots」)という概念がどのようなドットを意味しているのかは,本願明細書に定義が記載されていないため必ずしも明らかでないが,本願明細書及び図面の記載からみて,本願の図1に示されているものは本願発明の実施形態の一つであると認められるから,少なくとも,当該図1のような形態でドットを印刷することは,「多重ドットを印刷」するという概念に包含されるものと解される。 しかるに,本願明細書の【0021】に,「図1を参照すると,多数の点で画像を表現することによって3D物体の2D画像内で,位相,振幅およびカラー情報を符号化することができる。・・・(中略)・・・画像の各々の点は,画像のその部分についてのカラー,強度および位相情報を含む「コンプレクセル」102を内含する。例えば,画像が透明フィルム104上に印刷された時点で,各コンプレクセル102はその画像の一部分の赤,緑および青色についての情報を符号化する3つの領域106a,106b,および106cを内含する。・・・(中略)・・・例えば,カラー領域106a,106bおよび106cはコンプレクセルの赤,緑および青色値を符号化することができ,・・・(中略)・・・カラー領域106a,106bおよび106cは,インクジェットプリンタによりフィルム104上に被着されたインクドッド(審決注:「インクドット」の誤記)であり得,」と説明されており,かつ,図1には,隣接配置されたカラー領域106a,106bおよび106cを有するコンプレクセル102が,繰り返し隣接配置された形態が示されていることを考え合わせると,引用発明における,インクジェット記録方式の書き込みヘッド68によって「C色インクが塗布されるC色領域,M色インクが塗布されるM色領域,及びY色インクが塗布されるY色領域をCMYの順に繰り返し配列し,隣接するCMY3色の領域を1画素としてフルカラー記録」するというCMYインク層74の形成手法は,本願の図1のような形態でドットを印刷することに該当しているから,本願発明の構成Bの「カラーインクの多重ドットを印刷して」という概念に包含されると認められる。 以上のとおりであって,引用発明における「書き込みヘッド68により,前記立体写真用の画像データの振幅情報に基づいて,透明フィルム60上の格子状に配列された小領域毎に,インク塗り厚さを一定にして塗布するインク濃度(インクの色材濃度)を変えるか,または,インク濃度を一定にしてインク塗り厚さを変えて,CMYのいずれか1色のインクを塗布することで,小領域毎に光透過率を変化させたCMYインク層74を形成する」という工程であって,当該工程によって形成されるCMYインク層74が,「C色インクが塗布されるC色領域,M色インクが塗布されるM色領域,及びY色インクが塗布されるY色領域をCMYの順に繰り返し配列し,隣接するCMY3色の領域を1画素としてフルカラー記録したもの」であることは,本願発明の「カラーインクの多重ドットを印刷して,物体の画像を形成する段階」に該当するのであって,引用発明は本願発明の構成Bに対応する構成を具備している。 (3)構成Cについて 引用発明の「屈折率が1.01以上で且つ可視域で透明なインクである透明インク」が,本願発明の「1より大きい屈折率をもつ透明インク」に相当する。 また,構成Cの「画像」とは,構成Bにおける「物体の画像」を指していると解されるところ,引用発明におけるインクジェット記録方式の書き込みヘッド70により吐出された液滴が,CMYインク層74上に着弾してできる各液滴毎の透明インクの点を「ドット」ということができるから,引用発明において,インクジェット記録方式の書き込みヘッド70によって「CMYインクが塗布された小領域毎」に「屈折率及び厚みの少なくとも一方を変化させた透明インク層76を形成」するというステップ306中の工程は,「画像内部で1より大きい屈折率をもつ透明インクのドットを印刷する段階」に相当する。 さらに,形成した透明インク層76によって,「CMYインクが塗布された小領域毎にCMYインクによる光路長変化と透明インクによる光路長変化とにより目的の位相変調量が得られる」ことは,当該透明インク層76が「画像から発出される光の経路長を局所的に改変して画像上の位相変動を作り出す」ことに相当するのであって,当該透明インク層76は,透明インクのドットにより構成されたものであるのだから,引用発明の「画像内部で1より大きい屈折率をもつ透明インクのドットを印刷する段階」により形成された透明インクのドットは,「画像から発出される光の経路長を局所的に改変して画像上の位相変動を作り出す」ものであるということができる。 したがって,引用発明の「前記書き込みヘッド70により,前記立体写真用の画像データの位相情報に基づいて,前記CMYインクが塗布された小領域毎にCMYインクによる光路長変化と透明インクによる光路長変化とにより目的の位相変調量が得られるように,インク塗り厚さを一定にしてインク濃度を変化させるか,インク濃度を一定にしてインク塗り厚さを変化させるか,または,インク濃度とインク塗り厚さの両方を変化させて,透明インクを塗布することで,小領域毎に屈折率及び厚みの少なくとも一方を変化させた透明インク層76を形成する」というステップ306中の工程は,「画像内部で1より大きい屈折率をもつ透明インクのドットを印刷する段階であって,透明インクのドットが画像から発出される光の経路長を局所的に改変して画像上の位相変動を作り出す段階」に該当するのであって,引用発明は本願発明の構成Cに対応する構成を具備している。 なお,請求人は,審判請求書の【請求の理由】の欄において, 「この出願の請求項1に係る発明と引用文献1に記載されたものとを対比すると, この出願の請求項1に係る発明では,「透明インクのドットが画像から発出される光の経路長を局所的に改変して画像上の位相変動を作り出す」であるのに対し,引用文献1に記載されたものでは,小領域毎に形成された透明インクが塗布されることによって,小領域単位で,位相を変調している点で,両者は明確に相違致します(以下,「相違点1」と呼ぶ。)。 すなわち,「局所的」ではなく「小領域」単位で透明インクが塗布される引用文献1に記載されたものは,この出願の請求項1に係る発明のように,「隣接」などの形式に配置された,実部と虚部からの光を同時に観測することはないため,この出願の請求項1に係る発明と比べ立体感は大幅に減じられるとともに,立体視可能な観測位置も大幅に制限されるはずです。」 などと主張し,また,審尋に対する回答書においても同じ主張を繰り返している。 当該主張中の,本願発明が「「隣接」などの形式に配置され」て,「実部と虚部からの光を同時に観測する」ことができるという構成を有するとは,光波面を, ψ(r)=A(r)cosθ(r)+iA(r)sinθ(r) という複素波面関数で表した場合の,実部であるA(r)cosθ(r)と,虚部であるiA(r)sinθ(r)とが,印刷媒体上の異なる位置に形成されるドットにより再現されることを意味しているものと解される。 すなわち,前記請求人の主張は,本願発明が,本願明細書の【0029】ないし【0033】に記載され,本願の図5に示された実施形態のような構成を有していることを前提とし,このような構成を引用発明が有していないという主張であると解される。 しかしながら,「実部であるA(r)cosθ(r)と,虚部であるiA(r)sinθ(r)とが,印刷媒体上の異なる位置に形成されるドットにより再現される」ことは,請求項1を引用する形式で記載された請求項5の 「カラーインクのドットを印刷して,コンプレクセルの実部を表わす段階; コンプレクセルの実部全体にわたり透明インクのドットを印刷して,・・・位相板を作り出す段階; カラーインクのドットを印刷して,コンプレクセルの虚部を表わす段階; コンプレクセルの虚部部分にわたり透明インクのドットを印刷して,・・・位相板を作り出す段階」 という発明特定事項に対応しているのであって,本願の請求項1においては,「実部であるA(r)cosθ(r)と,虚部であるiA(r)sinθ(r)とが,異なる位置において再現される」に対応する発明特定事項は記載されていない。 現に,発明の詳細な説明には,実部であるA(r)cosθ(r)と虚部であるiA(r)sinθ(r)とを同一位置において再現する形態である,【0021】ないし【0022】に記載され図1に示された形態,【0023】に記載され図2に示された形態,【0024】に記載され図3に示された形態,【0025】ないし【0028】に記載され図4及び5に示された形態が記載されているのであって,本願明細書及び図面の記載からみて,これらの形態はいずれも本願発明の実施形態であると認められる。(なお,引用発明は,前記実施形態のうち,【0021】ないし【0022】に記載され図1に示された実施形態に対応するものである。) したがって,本願発明が「実部であるA(r)cosθ(r)と,虚部であるiA(r)sinθ(r)とが,印刷媒体上の異なる位置に形成されるドットにより再現される」形態に限定されるとは認めることができないから,当該形態に限定されることを前提とした前記請求人の主張には理由がなく,これを採用することはできない。 6.むすび 以上のとおり,引用発明は本願発明の全構成(構成AないしC)を具備しているのであって,本願発明は引用発明と同一の発明であるから,本願発明が,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない,または,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,とした原査定の拒絶の理由に誤りはない。 よって,結論のとおり,審決する。 |
審理終結日 | 2012-09-21 |
結審通知日 | 2012-09-24 |
審決日 | 2012-10-05 |
出願番号 | 特願2006-552318(P2006-552318) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(G03H)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大橋 憲、本田 博幸、大隈 俊哉 |
特許庁審判長 |
西村 仁志 |
特許庁審判官 |
清水 康司 立澤 正樹 |
発明の名称 | 複素点描マルチカラー印刷 |
代理人 | 大関 雅人 |
代理人 | 新見 浩一 |
代理人 | 井上 隆一 |
代理人 | 春名 雅夫 |
代理人 | 佐藤 利光 |
代理人 | 渡邉 伸一 |
代理人 | 川本 和弥 |
代理人 | 小林 智彦 |
代理人 | 刑部 俊 |
代理人 | 清水 初志 |
代理人 | 五十嵐 義弘 |
代理人 | 山口 裕孝 |