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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1270201
審判番号 不服2012-7742  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-26 
確定日 2013-02-14 
事件の表示 特願2008- 41846「燃料電池システム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月 3日出願公開,特開2009-199940〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は,平成20年2月22日の出願であって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成23年12月28日付の手続補正書により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「移動体に搭載される燃料電池システムにおいて,
燃料極に供給される燃料ガスと酸化剤極に供給される酸化剤ガスとを電気化学的に反応させて発電を行う燃料電池と,
前記燃料電池の燃料極に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と,
前記燃料電池の酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と,
前記燃料電池に冷媒を供給する冷媒供給手段と,
前記燃料電池の温度を検出する燃料電池温度検出手段と,
前記燃料電池から冷媒が受熱した熱を放出して冷媒温度を下げる熱交換手段と,
前記燃料電池から取り出した電力を前記移動体に供給する電力取出手段と,
前記移動体に電力供給可能な蓄電手段と,
前記移動体の速度,前記移動体への加速要求量,および前記蓄電手段の状態に基づいて,前記燃料電池が発電した電力を前記移動体へ供給する通常発電モードと,前記燃料電池の発電を休止して前記蓄電手段から前記移動体へ電力供給する発電休止モードとの2つの運転モード間を切り替えるモード切替手段と,
前記モード切替手段が前記通常発電モードから前記発電休止モードへ運転モードを切り替えた後に,検出または予測された前記熱交換手段内の冷媒温度と燃料電池温度との差が所定温度以上になったとき,前記差が小さくなるように前記冷媒供給手段を稼動させ,かつ,前記差が小さいほど,前記冷媒供給手段の稼動状態を抑制するように制御する冷却制御手段と,
を備えたことを特徴とする燃料電池システム。」

2.引用例
(1)これに対して,原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-309975号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0001】
本発明は,無負荷時または低負荷時の一時発電停止であるアイドルストップを行う燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は,水素ガスなどの燃料ガスと酸素を有する酸化ガスとを電解質を介して電気化学的に反応させ,電解質両面に設けた電極間から電気エネルギを直接取り出すものである。特に固体高分子電解質を用いた固体高分子型燃料電池は,動作温度が低く,取り扱いが容易なことから電動車両用の電源として注目されている。
【0003】
すなわち,燃料電池車両は,水素貯蔵装置や水素発生装置を車両に搭載し,そこから供給される水素と,酸素を含む空気とを燃料電池に送り込んで反応させ,燃料電池から取り出した電気エネルギで駆動輪につながるモータを駆動するものであり,排出物質は水だけであるという究極のクリーン車両である。
・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記従来技術にアイドルストップを適用して,アイドルストップ中(注:「アイドルトップ中」は誤記)に冷却ポンプを停止させると,冷却系の各構成要素と外気との熱抵抗や熱容量の相違から,冷媒の温度ムラが生じる。例えば,熱抵抗の小さな熱交換器中の冷媒は,燃料電池内の冷媒より温度低下が早くなる。このような温度ムラが大きくなった状態でアイドルストップを解除すると,冷却ファンの制御にハンチングが生じたり,再度暖気運転が必要となるという問題点があった。」

・「【0010】
図1は,本発明に係る燃料電池システムの実施例の全体構成を示する概略図である。燃料電池システム1は,例えばアノード3とカソード4との間に固体高分子電解質を挟持した燃料電池2,燃料改質装置や水素貯蔵装置等により水素をアノード3に供給する水素供給装置5,水素遮断弁6,水素圧力調整弁7,水素供給配管8,アノード圧力センサ9,水素循環流路10,水素循環ポンプ11,パージ弁12,水素排出配管13,フィルタ14,空気流量計15,空気を圧縮するコンプレッサ16,冷却器17,カソード4からの排気の水分によりカソード4へ供給する空気を加湿する加湿装置18,空気供給配管19,カソード圧力センサ20,空気排出配管21,空気圧力調整弁22,燃料電池2の出力電圧をバッテリ24の電圧に変換するDC/DCコンバータ23,DC/DCコンバータ23から充電されるとともに燃料電池2の出力が不足するとき放電するバッテリ24,バッテリ24の充電状態(SOC)を検出するSOC検出器25,DC/DCコンバータ23及び/又はバッテリ24からの直流を交流に変換するインバータ26,インバータ26の交流で動作する車両駆動用モータ27,燃料電池2の出力電圧を検出する電圧センサ28,燃料電池2の各セル電圧または所定数のセルが直列接続された各セル群の電圧を検出するセル電圧センサ29,燃料電池システム1全体を制御するとともにアイドルストップ中の燃料電池電圧を高める操作を行う制御手段を兼ねるコントローラ(ECU)40を備えている。
【0011】
水素供給装置5から供給される水素は,水素圧力調整弁7を経由して,アノード3に供給される。燃料電池2のアノード入口での水素の圧力は,アノード圧力センサ9で測定される。水素圧力調整弁7は,アノード圧力センサ9で測定される圧力が燃料電池2の要求出力に応じた圧力となるようにコントローラ40から制御される。通常はパージ弁12は閉じており,燃料電池2のアノード出口から排出される水素は,水素循環配管10及び水素循環ポンプ11によりアノード3の入口へ循環される。
【0012】
燃料電池2内に水溢れが発生した場合,水素循環路内に不純物が蓄積した場合,燃料電池2の運転圧を低下させる場合などには,パージ弁12を開けて水素排出配管13から図示しない水素希釈装置等へ水素を排出する。
【0013】
酸化剤ガスとなる空気は,フィルタ14により塵埃・有害化学物質が除去され,コンプレッサ9により圧縮される。コンプレッサ9が圧縮した空気は,冷却器17で冷却されて,加湿装置18へ供給される。加湿装置18は,例えば,高分子中空糸膜を用いた湿度交換装置であり,カソード4の排気が含む水蒸気を冷却器17からの空気に与えることで加湿する。加湿された空気は,空気供給配管19を介してカソード4へ供給される。カソード4の入口での空気圧力はカソード圧力センサ20で測定される。
【0014】
燃料電池2を冷却する冷却系として,冷媒流路33,冷媒の熱を外気へ放出するラジエータ35,ラジエータ35をバイパスするバイパス流路36,ラジエータ35とバイパス流路36とを切り替えまたは流量比を可変できる三方弁34,冷媒をラジエータ35と燃料電池2との間で循環させる冷媒ポンプ37を備えている。冷媒としては,純水に非導電性の融点降下剤を溶解した不凍液が好ましい。
【0015】
冷媒流路33の燃料電池2の入口側には,入口温度検出手段として入口温度センサ31,同出口側には,出口温度検出手段として出口温度センサ32が設けられている。また外気温度を検出する外気温度センサ30が設けられている。
【0016】
アノード圧力センサ9,空気流量センサ15,カソード圧力センサ20,電圧センサ28,セル電圧センサ29,外気温度センサ30,入口温度センサ31,及び出口温度センサ32は,それぞれコントローラ40の入力端子に接続され,各検出信号をコントローラ40へ入力する。
【0017】
また,水素遮断弁6,水素圧力調整弁7,水素循環ポンプ11,パージ弁12,コンプレッサ16,空気圧力調整弁22,三方弁34,及び冷媒ポンプ37は,それぞれコントローラ40の出力端子に接続され,コントローラ40が出力する制御信号により制御される。
【0018】
コントローラ40は,入力された各センサの信号から燃料電池2の運転状態を判断し,燃料電池システム1全体を制御する。またコントローラ40は,図示しない車両走行制御装置から入力された燃料電池システム1に対する要求負荷に基づいて,燃料電池2のアイドルストップを制御する。
【0019】
また,コントローラ40は,特に限定されないが本実施例では,CPUと,制御プログラムおよび制御マップ等の制御パラメータを予め記憶したROMと,作業用RAMと,入出力インタフェースとを備えたマイクロプロセッサで構成されている。
【0020】
また,燃料電池2から取り出す電力は,DC/DCコンバータ23によって制御される。このDC/DCコンバータ23は,例えば入力電圧を昇圧及び降圧できる昇降圧型のDC/DCコンバータであり,燃料電池2が発電した電力をバッテリ24へ充電するとともに,インバータ26を介して車両駆動用モータ27へ供給する。」

・「【0024】
S22では,入口温度センサ31から燃料電池2の冷媒入口温度Ti,出口温度センサ32から燃料電池2の冷媒出口温度Toを読み込む。S23では,燃料電池温度Tfc=(1/2)×(Ti+To)を算出する。このように燃料電池2の冷媒入口温度Tiと冷媒出口温度Toの平均を燃料電池温度とすることにより,センサの設置が困難な燃料電池2の内部に温度センサを設けること無く,燃料電池の温度を計測することができる。」

・「【0031】
図3(a)は,図2のS10であるアイドルストップ条件判定サブルーチンの一例を説明するフローチャートである。アイドルストップ条件判定が開始されると,まずS11で燃料電池システムに対する要求出力Prq〔W〕が検出または算出される。燃料電池車両の場合,例えば,車速とアクセルペダルの操作量(要求トルク)から要求出力Prqを算出する。次いでS12でSOC検出器25からバッテリ24のSOCを読み込み,S13でSOCに基づいて制御テーブルと参照してバッテリ24から取り出し可能な出力Pbt〔W〕を算出する。SOC検出器25は,例えばバッテリ24の最大容量に対する充電量の比率として,SOC〔%〕を検出するものとする。バッテリ24の取出可能出力Pbtは,使用するバッテリの特性によって限定されるが,例えば,SOCが30〔%〕を超えていれば,最大取り出し可能電力とし,それ以下であれば,SOCの低下量に応じて減じることが好ましい。」

・「【0035】
図4は,アイドルストップ継続中の冷媒ポンプ制御を説明するフローチャートであり,図2のS60の処理から呼び出されて実行される。まず,S61では,入口温度センサ31から燃料電池2の冷媒入口温度Ti,出口温度センサ32から燃料電池2の冷媒出口温度Toを読み込む。S62では,燃料電池温度Tfc=(1/2)×(Ti+To)を算出する。
【0036】
S63では,第3所定値T3との温度差(To-Ti)が第3所定値T3以上であるか否かを判定する。第3所定値T3は,燃料電池2の定格運転時における冷媒入口温度Tiと冷媒出口温度Toとの温度差(例えば,10?20〔℃〕)より小さい値であり,且つアイドルストップを解除してアイドル発電,または通常発電を再開したときに,アイドルストップ中の冷媒通路の放熱特性の差異により生じる冷媒の温度ムラにより,燃料電池2に悪影響を与えたり,図1には示されないラジエタファンの駆動制御にハンチング(所定温度以上で駆動,所定温度未満で停止の頻繁な繰り返し)が生じない温度差を実験的に求めた値であり,例えば燃料電池車両では,5〔℃〕である。
【0037】
S63の判定で,温度差(To-Ti)が第3所定値T3以上であれば,冷媒温度差を縮小させるために,S68へ進む。S63の判定で,温度差(To-Ti)が第3所定値T3未満であれば,S64へ進み,アイドルストップ開始時の燃料電池温度Tfc0 から,S62で算出した現在の燃料電池温度Tfcまでの温度低下幅(Tfc0 -Tfc)が所定値ΔTを超えているか否かを判定する。温度低下幅(Tfc0 -Tfc)が所定値ΔTを超えていれば,冷媒温度を均一化するためにS68へ進む。ここで,温度低下幅を判定するための所定値ΔTは,アイドルストップを解除してアイドル発電,または通常発電を再開したときに,アイドルストップ中の冷媒通路の放熱特性の差異により生じる冷媒の温度ムラにより,燃料電池2に悪影響を与えたり,図1には示されないラジエタファンの駆動制御にハンチング(所定温度以上で駆動,所定温度未満で停止の頻繁な繰り返し)が生じない温度を実験的に求めた値であり,例えば燃料電池車両では,5〔℃〕である。
【0038】
S64の判定で,温度低下幅(Tfc0 -Tfc)が所定値ΔTを超えていなければ,S65へ進み,アイドルストップ中の経過時間を計時するタイマのカウントが所定時間Δtを超えているか否かを判定する。この所定時間Δtは,アイドルストップを解除してアイドル発電,または通常発電を再開したときに,アイドルストップ中の冷媒通路の放熱特性の差異により生じる冷媒の温度ムラにより,燃料電池2に悪影響を与えたり,図1には示されないラジエタファンの駆動制御にハンチング(所定温度以上で駆動,所定温度未満で停止の頻繁な繰り返し)が生じない時間を実験的に求めた値であり,例えば燃料電池車両では,1〔min〕である。
【0039】
S65の判定で,タイマのカウントが所定時間Δtを超えていれば,冷媒温度を均一化するためにS68へ進む。タイマのカウントが所定時間Δtを超えていなければ,S66へ進み,冷媒ポンプ37が作動していればこれを停止,または停止状態を継続し,S67でタイマカウント(タイマの更新)を実行してリターンする。
【0040】
S68では,冷媒ポンプ37を作動させるとともに三方弁34をバイパス流路36側に切替,または冷媒ポンプ37の作動及び三方弁34の状態を継続し,S69でアイドルストップ経過時間を計測するタイマをクリアしてリターンする。」

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「車両に搭載される燃料電池システム1において,
アノード3に供給される水素とカソード4に供給される空気とを電気化学的に反応させて発電を行う燃料電池2と,
前記燃料電池2のアノード3に水素を供給する水素供給装置5と,
前記燃料電池2のカソード4に空気を供給するコンプレッサ16と,
前記燃料電池2に冷媒を供給する冷媒ポンプ37と,
前記燃料電池2の温度を検出する検出手段である入り口側の冷媒流路33に設けられた入口温度センサ31と出口側の冷媒流路33に設けられた出口温度センサ32と,
前記燃料電池2を冷却した冷媒の熱を外気へ放出するラジエータ35と,
前記燃料電池2の出力電圧を車両駆動用モータ27に供給するDC/DCコンバータ及びインバータ26と,
前記車両駆動用モータ27に電力供給可能なバッテリ24と,
車速とアクセルペダルの操作量,および前記バッテリ24のSOCに基づいて,前記燃料電池2が発電した電力を前記車両駆動用モータ27へ供給する通常発電と,発電を一時停止して前記バッテリ24から前記車両駆動用モータ27へ電力供給するアイドルストップとの2つの運転状態間を切り替える状態切替手段と,
前記状態切替手段による前記アイドルストップ継続中に,
検出された前記ラジエータ35の下流側の冷媒流路33に設けられた入口温度センサ31からの冷媒入口温度Tiと前記出口温度センサ32からの冷媒出口温度Toとの温度差To-Tiが所定値T3以上であるとき,冷媒温度差を縮小させるために,また,
アイドルストップ開始時の燃料電池温度Tfc0 から,現在の燃料電池温度Tfcまでの温度低下幅(Tfc0 -Tfc)が所定値ΔTを超えているとき,冷媒温度を均一化するために,さらに,
アイドルストップ中の経過時間を計時するタイマのカウントが所定時間Δtを超えているとき,冷媒温度を均一化するために,
前記冷媒ポンプ37を作動させるように制御するコントローラ40と,
を備えた燃料電池システム1。」

(2)同じく,引用された国際公開第2006/64955号(以下,「引用例2」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「特許文献1の燃料電池システムでは,燃料電池の始動時は,冷媒が低温であることを前提としている。このため,始動時には,低温の冷媒によりサーモスタットバルブがバイパス通路側に切替え動作する一方,このときにポンプを駆動するようにしている。そして,燃料電池の発電に伴い冷媒が比較的高温となると,サーモスタットバルブがラジエータ側に切替え動作する。
しかしながら,燃料電池の始動時であっても,冷媒の温度が高い場合がある。具体的には,燃料電池の停止から短時間後では,ケース内の燃料電池とケース外のラジエータとの間では冷媒の放熱量に差がある。このため,燃料電池側では比較的高温の冷媒が存在し,ラジエータ側では比較的低温の冷媒が存在する。
この両者の温度差が大きい状態で燃料電池を再始動すると,サーモスタットバルブには燃料電池側の比較的高温の冷媒が流入する。すると,サーモスタットバルブがラジエータ側に切替え動作してしまい,本来の仕様に反する事態となるおそれがあった。また,サーモスタッドバルブがラジエータ側に切替え動作してしまうと,ラジエータ側の比較的低温の冷媒が燃料電池に流入する。このため,燃料電池で急激な温度変化が生じる。この結果,燃料電池に熱衝撃を与え,燃料電池のセパレータに歪が生じるおそれがあった。」(2欄8?24行)

・「本発明は,冷媒に起因した燃料電池の温度変化を抑制できる燃料電池システムを提供することをその目的としている。」(3欄14?15行)

・「ここで,複数の温度センサは,燃料電池の冷媒流入口側およびその冷媒流出口側,並びに熱交換器の上流側およびその下流側などに設ければよい。燃料電池の冷媒流出口側の温度センサによれば,燃料電池内の冷媒の温度を好適に反映することができる。また,熱交換器の下流側の温度センサによれば,熱交換器内の冷媒の温度を好適に反映することができる。
好ましくは,燃料電池システムは,燃料電池における冷媒の温度を検出する第1の温度センサと,熱交換器における冷媒の温度を検出する第2の温度センサと,を更に備え,制御手段は,燃料電池の始動時に,第1の温度センサおよび第2の温度センサによる検出結果の温度差に基づいて,流体弁を所定開度に設定するとよい。
この構成によれば,燃料電池側の冷媒と熱交換器側の冷媒との温度差に応じて流体弁を所定開度に設定することができる。
ここで,第1の温度センサは,燃料電池における冷媒の温度を反映する温度を検出可能であればよい。このため,第1の温度センサを燃料電池内に設けずに,燃料電池の冷媒流出口側の循環通路に設ければよい。同様に,第2の温度センサは,熱交換器における冷媒の温度を反映する温度を検出可能であればよい。このため,第2の温度センサを熱交換器内に設けずに,熱交換器の下流側の循環通路に設ければよい。」(12欄4?21行)

(3)同じく,引用された特開2003-267065号公報(以下,「引用例3」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0006】・・・本発明の目的は,車両動力用の発熱源の冷え具合を的確に検知して,発熱源の停止後の冷却系動作時間を最短化してエネルギー利用効率を高めることができる車両用冷却システムの制御装置を提供することである。」

・「【0015】
【発明の実施の形態】次に,図面を参照して,本発明の実施の形態を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕図1,図2及び図3は,本発明に係る車両用冷却システムの制御装置の第1実施形態を説明したシステム構成図と,制御フロー図と,時間変数における各種状態を説明した図である。本実施形態では,車両動力用の発熱源として燃料電池スタックを備え,燃料電池スタックを車両用冷却システムで冷却している。
【0016】図1に示す様にこの車両は,車両動力用の発熱源としての燃料電池スタック4と,冷媒としての冷却水の熱を外部に放出する放熱器1と,冷却水を循環させる冷却水循環ポンプ2と,冷却水循環ポンプ2を駆動するポンプモータ3と,燃料電池スタック4への冷却水入口温度(Tin)を測定する入口側温度センサ5と,冷却水出口温度(Tout )を測定する出口側温度センサ6と,燃料電池スタック4及び放熱器1間で冷却水を循環させる冷却水循環経路7と,信号用ハーネス8と,送電用ハーネス9と,車両駆動用モータ等の電力消費負荷10と,ポンプモータ3の回転数を制御するモータ制御コントロールユニット11と,冷却システムの制御装置である冷却制御コンピュータ12と,を備えている。
【0017】モータ制御コントロールユニット11は,冷却制御コンピュータ12の指示により,燃料電池スタック4が作動中の冷却水流量より少ない流量を設定することができるようになっている。
【0018】冷却制御コンピュータ12は,燃料電池スタック4の発電停止時に,モータ制御コントロールユニット11を介して燃料電池スタック4が作動中の冷却水流量より少ない流量を設定し,出口側温度センサ6及び入口側温度センサ5で測定した出口温度(Tout )と入口温度(Tin)との温度差ΔT(以後,温度勾配ΔTと表記する)を冷却システムの作動停止のためのパラメータとしている。」

・「【0021】
【数1】ΔT=Tout -Tin …(1)」

・「【0038】〔第2実施形態〕次に,本発明に係る車両用冷却システムの制御装置の第2実施形態を説明する。第2実施形態の構成は,図1に示した第1実施形態の構成と同様である。第2実施形態は,冷却制御コンピュータ12による冷却制御の態様が第1実施形態と異なる。第2実施形態では,燃料電池スタック4の発電停止時に,温度勾配ΔTが所定値ΔT1以下になり,かつ冷却水の流量が下限値に達していれば冷却システムをストップさせ,温度勾配が所定値以下になり,かつ流量が下限値に達していなければ再度冷却水流量を低下させて再度温度勾配ΔTを判定する。
【0039】つまり,発電停止時に温度勾配ΔTが所定値ΔT1となるように冷却水流量を制御し,冷却水流量が所定の流量以下となったら冷却システムの作動をストップさせる。
【0040】次に,図5の制御フローチャートを参照して,第2実施形態における発電停止時に開始される冷却制御を説明する。
【0041】まずS10で,発電要求が出ているか否かを判定し,発電要求が出ていたら本停止制御から通常冷却制御へ復帰する。S10で発電停止要求が出ていなければ,S12へ移り,燃料電池スタック4の出口温度を出口側温度センサ6にて測り,入口側温度を入口側温度センサ5にて測定した値を読み込む。次いでS14で温度勾配ΔTを上記式(1)で算出する。次いでS16で,出口温度Tout が設定値Tout1以下か否かを判定し,以下でなければS10へ戻る。出口温度Toutが設定値Tout1以下であれば,S40で温度勾配ΔTが設定値ΔT1以下か否かを判定する。
【0042】ここでTout1とΔT1との設定値は,第1実施形態と同様に次に来る冷却水循環ポンプの低回転側運転における燃料電池スタック内部温度が停止時上限許容温度(Tu)を超えない値を予め実験等から導く方法とする。原理的には低回転側への移行ステップを無段階に設定するとTout1≒Tuと設定することができるが,実際は無段階に設定するのは大変困難であるのと,冷却水の制御に対する応答性が遅いためと,上限許容温度に対する安全率を取るためと,個体バラツキによる特性違い等も考慮しながらTout1はTuの温度から10℃程度低温度側に設定をする。
【0043】S40で温度勾配ΔTがΔT1以下になっていなければ,冷却水循環ポンプ2の回転数が現在の状態を維持するように,ポンプモータ3の回転数を変化させずにS10へ戻る。S40の判定で温度勾配ΔTがΔT1以下になっていれば,S42で冷却水循環ポンプ2の回転数が最小回転数か(すなわち流量が下限値に達しているか)否かを判定する。
【0044】S42の判定で,最小回転数でなければ,S44で冷却水循環ポンプ2の回転数を1段階低下させることにより,低流量にて循環させ,S10へ戻る。S42の判定で,冷却水循環ポンプ2の回転数が最小回転数であれば,S46で,出口温度Tout が設定値Tout2(Tout2<Tout1)以下か否かを判定し,以下でなければ,S10へ戻る。
【0045】S46の判定で,出口温度Tout が設定値Tout2以下であれば,S48で冷却水循環ポンプ2の回転を停止して,終了する。第2実施形態における温度変化の様子を図6に示す。
【0046】(第2実施形態の効果)第2実施形態によれば,小刻みに冷却水流量を落としていくことができ,効率的な冷却ができ,より早く冷却系をストップさせることができる。」

・図1には,放熱器1の下流側の冷却水循環経路7に入口側温度センサ5が設けられた構成が示され,図6には,温度勾配が小さいほど,ポンプ回転数が低下するように制御する態様が示されている。

3.対比
そこで,本願発明と引用発明とを対比する。

まず,後者の「車両」は前者の「移動体」に,後者の「アノード3」は前者の「燃料極」に,後者の「水素」は前者の「燃料ガス」に,後者の「カソード4」は前者の「酸化剤極」に,後者の「空気」は前者の「酸化剤ガス」に,後者の「水素供給装置5」は前者の「燃料ガス供給手段」に,後者の「コンプレッサ16」は前者の「酸化剤ガス供給手段」に,後者の「冷媒ポンプ37」は前者の「冷媒供給手段」に,後者の「燃料電池2の温度を検出する検出手段である入り口側の冷媒流路33に設けられた入口温度センサ31と出口側の冷媒流路33に設けられた出口温度センサ32」は前者の「燃料電池の温度を検出する燃料電池温度検出手段」に,後者の「燃料電池2を冷却した冷媒の熱を外気へ放出するラジエータ35」は前者の「燃料電池から冷媒が受熱した熱を放出して冷媒温度を下げる熱交換手段」に,後者の「燃料電池2の出力電圧を車両駆動用モータ27に供給するDC/DCコンバータ及びインバータ26」は前者の「燃料電池から取り出した電力を移動体に供給する電力取出手段」に,後者の「車両駆動用モータ27に電力供給可能なバッテリ24」は前者の「移動体に電力供給可能な蓄電手段」に,それぞれ相当している。

次に,後者の「車速」は前者の「移動体の速度」に,後者の「アクセルペダルの操作量」は前者の「移動体への加速要求量」に,後者の「バッテリ24のSOC」は前者の「蓄電手段の状態」に,後者の「燃料電池2が発電した電力を車両駆動用モータ27へ供給する通常発電」は前者の「燃料電池が発電した電力を移動体へ供給する通常発電モード」に,後者の「発電を一時停止してバッテリ24から車両駆動用モータ27へ電力供給するアイドルストップ」は前者の「燃料電池の発電を休止して蓄電手段から移動体へ電力供給する発電休止モード」に,後者の「2つの運転状態間を切り替える状態切替手段」は前者の「2つの運転モード間を切り替えるモード切替手段」に,それぞれ相当するから,結局,後者の「車速とアクセルペダルの操作量,およびバッテリ24のSOCに基づいて,燃料電池2が発電した電力を車両駆動用モータ27へ供給する通常発電と,発電を一時停止して前記バッテリ24から前記車両駆動用モータ27へ電力供給するアイドルストップとの2つの運転状態間を切り替える状態切替手段」は前者の「移動体の速度,前記移動体への加速要求量,および蓄電手段の状態に基づいて,燃料電池が発電した電力を前記移動体へ供給する通常発電モードと,前記燃料電池の発電を休止して前記蓄電手段から前記移動体へ電力供給する発電休止モードとの2つの運転モード間を切り替えるモード切替手段」に相当している。

さらに,後者の「状態切替手段によるアイドルストップ継続中」は前者の「モード切替手段が通常発電モードから発電休止モードへ運転モードを切り替えた後」に相当し,後者の「検出された前記ラジエータ35の下流側の冷媒流路33に設けられた入口温度センサ31からの冷媒入口温度Tiと前記出口温度センサ32からの冷媒出口温度Toとの温度差To-Tiが所定値T3以上であるとき,冷媒温度差を縮小させるために,また,アイドルストップ開始時の燃料電池温度Tfc0 から,現在の燃料電池温度Tfcまでの温度低下幅(Tfc0 -Tfc)が所定値ΔTを超えているとき,冷媒温度を均一化するために,さらに,アイドルストップ中の経過時間を計時するタイマのカウントが所定時間Δtを超えているとき,冷媒温度を均一化するために」と前者の「検出または予測された前記熱交換手段内の冷媒温度と燃料電池温度との差が所定温度以上になったとき,前記差が小さくなるように」とは,「所定の条件が成立するとき,冷媒の温度ムラが小さくなるように」との概念で共通し,後者の「冷媒ポンプ37を作動させる」態様は前者の「冷媒供給手段を稼動させ」る態様に相当し,後者の「コントローラ40」は前者の「冷却制御手段」に相当するから,結局,後者の「状態切替手段によるアイドルストップ継続中に,検出された前記ラジエータ35の下流側の冷媒流路33に設けられた入口温度センサ31からの冷媒入口温度Tiと前記出口温度センサ32からの冷媒出口温度Toとの温度差To-Tiが所定値T3以上であるとき,冷媒温度差を縮小させるために,また,アイドルストップ開始時の燃料電池温度Tfc0 から,現在の燃料電池温度Tfcまでの温度低下幅(Tfc0 -Tfc)が所定値ΔTを超えているとき,冷媒温度を均一化するために,さらに,アイドルストップ中の経過時間を計時するタイマのカウントが所定時間Δtを超えているとき,冷媒温度を均一化するために冷媒ポンプ37を作動させるように制御するコントローラ40」と前者の「モード切替手段が通常発電モードから発電休止モードへ運転モードを切り替えた後に,検出または予測された熱交換手段内の冷媒温度と燃料電池温度との差が所定温度以上になったとき,前記差が小さくなるように冷媒供給手段を稼動させ,かつ,前記差が小さいほど,前記冷媒供給手段の稼動状態を抑制するように制御する冷却制御手段」とは,「モード切替手段が通常発電モードから発電休止モードへ運転モードを切り替えた後に,所定の条件が成立するとき,冷媒の温度ムラが小さくなるように冷媒供給手段を稼動させるように制御する冷却制御手段」との概念で共通している。

したがって,両者は,
「移動体に搭載される燃料電池システムにおいて,
燃料極に供給される燃料ガスと酸化剤極に供給される酸化剤ガスとを電気化学的に反応させて発電を行う燃料電池と,
前記燃料電池の燃料極に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と,
前記燃料電池の酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と,
前記燃料電池に冷媒を供給する冷媒供給手段と,
前記燃料電池の温度を検出する燃料電池温度検出手段と,
前記燃料電池から冷媒が受熱した熱を放出して冷媒温度を下げる熱交換手段と,
前記燃料電池から取り出した電力を前記移動体に供給する電力取出手段と,
前記移動体に電力供給可能な蓄電手段と,
前記移動体の速度,前記移動体への加速要求量,および前記蓄電手段の状態に基づいて,前記燃料電池が発電した電力を前記移動体へ供給する通常発電モードと,前記燃料電池の発電を休止して前記蓄電手段から前記移動体へ電力供給する発電休止モードとの2つの運転モード間を切り替えるモード切替手段と,
前記モード切替手段が前記通常発電モードから前記発電休止モードへ運転モードを切り替えた後に,所定の条件が成立するとき,冷媒の温度ムラが小さくなるように前記冷媒供給手段を稼動させるように制御する冷却制御手段と,
を備えた燃料電池システム。」
である点で一致し,次の点で相違する。

[相違点]
所定の条件が成立するとき,冷媒の温度ムラが小さくなるように冷媒供給手段を稼動させる点に関し,本願発明は,「検出または予測された前記熱交換手段内の冷媒温度と燃料電池温度との差が所定温度以上になったとき,前記差が小さくなるように」冷媒供給手段を稼動させ,さらに「差が小さいほど,冷媒供給手段の稼動状態を抑制する」態様に特定されているのに対し,引用発明は,「検出された前記ラジエータ35の下流側の冷媒流路33に設けられた入口温度センサ31からの冷媒入口温度Tiと前記出口温度センサ32からの冷媒出口温度Toとの温度差To-Tiが所定値T3以上であるとき,冷媒温度差を縮小させるために,また,アイドルストップ開始時の燃料電池温度Tfc0 から,現在の燃料電池温度Tfcまでの温度低下幅(Tfc0 -Tfc)が所定値ΔTを超えているとき,冷媒温度を均一化するために,また,アイドルストップ中の経過時間を計時するタイマのカウントが所定時間Δtを超えているとき,冷媒温度を均一化するために」冷媒供給手段を稼動させるが,その制御態様を特定していない点。

4.判断
上記相違点について以下検討する。

引用例1の段落【0006】の「アイドルストップ中に冷却ポンプを停止させると,冷却系の各構成要素と外気との熱抵抗や熱容量の相違から,冷媒の温度ムラが生じる。例えば,熱抵抗の小さな熱交換器中の冷媒は,燃料電池内の冷媒より温度低下が早くなる。このような温度ムラが大きくなった状態でアイドルストップを解除すると,冷却ファンの制御にハンチングが生じたり,再度暖気運転が必要となるという問題点があった。」なる記載によれば,アイドルストップ中における燃料電池内の冷媒とそれより温度低下が早くなる熱交換器中の冷媒とを例示するとともに,引用発明は冷媒の温度ムラの解消を目的として,所定条件の下,冷媒供給手段を稼働させるものであると解するのが相当である。そうすると,引用例1には,例示された冷媒である燃料電池内の冷媒温度(即ち,燃料電池温度)と熱交換手段内の冷媒温度の温度差を小さくする燃料電池内の冷媒温度(即ち,燃料電池温度)と熱交換手段内の冷媒温度とを検知し,その冷媒の温度ムラを示す温度差を所定条件として,その冷媒の温度ムラの解消のためにその温度差が小さくなるように冷媒供給手段を稼動させるものとすることが示唆されているといえる。
そして,例えば引用例2には,燃料電池の停止から短時間後に,燃料電池側には比較的高温の冷媒が,ラジエータ側には比較的低温の冷媒が存在し,この両者の温度差が大きい状態で燃料電池を再始動すると,燃料電池に熱衝撃を与える(2欄8?24行参照)ため,冷媒に起因した燃料電池の温度変化を抑制できる燃料電池システムを提供する目的(3欄14?15行参照)のものにおいて,燃料電池における冷媒の温度を検出する第1の温度センサと,熱交換器(即ち,ラジエータ)における冷媒の温度を検出する第2の温度センサとを備え,燃料電池の始動時に,第1の温度センサおよび第2の温度センサによる検出結果の温度差に基づいて制御すると記載されており(12欄4行?13欄1行参照),該技術的事項は燃料電池システムの分野における周知技術であるから,引用発明において,上記引用例1の示唆に基づき,燃料電池内の冷媒温度(即ち,燃料電池温度)と熱交換手段内の冷媒温度とを検知し,その温度差を所定条件として,その差が小さくなるように冷媒供給手段を稼動させるものとすることは,当業者が容易に想到し得たものである。

次に,引用発明において,熱交換手段内の冷媒温度と燃料電池温度との差が所定温度以上になったとき,その差が小さくなるように冷媒供給手段を稼動させる際に,「差が小さいほど,冷媒供給手段の稼動状態を抑制する」こと,即ち,「差が大きいほど,冷媒供給手段の稼動状態を高める」ことは,冷媒の温度ムラによる燃料電池への悪影響を防止するとの課題を解決すべく,当業者が通常の創作活動の一環として適宜設定し得る設計的事項にすぎない。
また,例えば,引用例3にも開示されているように,発電停止時に,熱交換手段(「放熱器1」が相当)の下流側の冷媒温度(「入口温度Tin」が相当)と燃料電池温度(「出口温度Tout」が相当)との差(「温度勾配ΔT」が相当)が小さいほど,冷媒供給手段(「冷却水ポンプ2」が相当)の稼動状態を抑制する(「回転数を低下させる」態様が相当)ように制御することで,エネルギー利用効率を高めることは,燃料電池システムの分野における周知慣用技術であり,引用発明において,エネルギー利用効率を高めることは当然に要求されるべき課題であるといえるから,かかる課題の下で上記周知慣用技術に倣い,熱交換手段内の冷媒温度と燃料電池温度との差が小さいほど,冷媒供給手段の稼動状態を抑制するように改変することは,当業者が必要に応じて適宜改変し得る設計的事項にすぎないものというべきである。

一方,本願発明において,「(熱交換手段内の冷媒温度と燃料電池温度との)差が小さいほど,冷媒供給手段の稼動状態を抑制する」ことにより,如何なる格別の効果が奏されることになるのかは,本願の明細書中でも明らかにされていない。

そうすると,上記相違点は,格別のものとはいえない。

そして,本願発明の全体構成により奏される効果も,引用発明,引用例1に示唆された事項,上記周知技術及び上記周知慣用技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって,本願発明は,引用発明,引用例1に示唆された事項,上記周知技術及び上記周知慣用技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお,請求人は,審判請求書(5頁9?17行参照)において,引用発明では,アイドルストップ中に冷媒ポンプ37を稼動させる際,三方弁34をバイパス流路36側に制御していることを前提とした主張をしているが,引用例1の段落【0006】の「アイドルストップ中に冷却ポンプを停止させると,冷却系の各構成要素と外気との熱抵抗や熱容量の相違から,冷媒の温度ムラが生じる。例えば,熱抵抗の小さな熱交換器中の冷媒は,燃料電池内の冷媒より温度低下が早くなる。このような温度ムラが大きくなった状態でアイドルストップを解除すると,冷却ファンの制御にハンチングが生じたり,再度暖気運転が必要となるという問題点があった。」との【発明が解決しようとする課題】としての記載からして,熱交換器中の冷媒との間で温度ムラが大きくなるのであって,上記のとおり,引用発明を熱交換器中の冷媒の温度によって制御するものとすることに伴い,その制御が熱交換器中の冷媒の温度に反映されるように少なくとも熱交換器中の冷媒を循環させるものとすることは,当業者にとって当然の技術的事項であるから,請求人の上記主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,引用例1に示唆された事項,上記周知技術及び上記周知慣用技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため,本願は,同法第49条第2号の規定に該当し,拒絶をされるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-17 
結審通知日 2012-12-19 
審決日 2012-12-27 
出願番号 特願2008-41846(P2008-41846)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上野 力  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 川口 真一
大河原 裕
発明の名称 燃料電池システム  
代理人 三好 秀和  

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