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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B43K
管理番号 1270210
審判番号 不服2012-12439  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-02 
確定日 2013-02-14 
事件の表示 特願2005-193045「ボールペンチップ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 1月18日出願公開、特開2007- 8062〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年6月30日の出願であって、平成22年3月4日付けで手続補正書が提出され、平成24年3月9日付けで拒絶の査定がなされ、これに対し、同年7月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、上記の平成22年3月4日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書、及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)
「直径が0.25mm以下のボールと、このボールを先端開口部より一部突出して回転自在に抱持するボールホルダーとから少なくともなる水性インキ用ボールペンチップであって、前記ボールの前後移動量が0.01mm以上0.035mm以下であり、かしめ加工においてボール抱持室の内壁の一部をボールに圧接して該部分をボールとほぼ同じ曲率の形状を有する帯状の部分として形成すると共に、ボールホルダーの、ボール抱持室と、このボール抱持室よりも小径の先端開口部とを結ぶ傾斜面が、中心線を通る縦断面にて対峙する傾斜面同士のなす角度が90°未満である水性インキ用ボールペンチップ。」

3.引用例
(3-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前である平成16年9月30日に頒布された「特開2004-268368号公報」(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下線は審決で付した。)
・「内方にかしめたチップ先端縁部と、ボールが当接するボール受け座とにより、ボールの一部をチップ先端縁部より突出させて回転自在にボールをボール抱持室内に抱持するとともに、チップ先端縁部からのボールの突出量をボール外径の26%?33%、チップ先端縁部の外縁部の外径をボール外径の112%以下、及びボール外径を0.29mm以下とし、
前記チップ先端縁部の最大肉厚と最小肉厚との差が、ボール外径の2.9%以下であることを特徴とするボールペンチップ。」(【請求項1】)
・「そこで、本発明はボールの突出量やチップ先端縁部の外縁部の外径を従来どおりとしたまま、インク吐出不良及び筆感を改善しつつ小径ボールを搭載したボールペンチップを提供することを課題とする。」(段落【0012】)
・「図1は、第1の実施の形態を示す縦断面図であり、ボール2の周辺を拡大して示している。図2は、第1の実施の形態を示す上面図である。尚、図2においては、見やすくするためチップ先端縁部1Bは濃色として示してある。
本ボールペンチップは、先端に向かい外径がテーパー状に縮径されたチップ本体1Aとバック孔(図示せず)と連通しかつバック孔の前方に形成されたインク孔1Dと、インク孔1Dの前方に形成されインク孔1Dと連通して形成されたボール抱持室1Fと、該ボール抱持室1Fに抱持されたボール2とからなる。バック孔は後方に設けられたインク収納室(図示せず)と連通し、インク収納室内のインクを前方に誘導する。インク孔1Dの周囲には、4方向に放射状のチャネル1Hが形成されている。このチャネル1Hは、バック孔からボール抱持室1Fに流れるインクの流路となる。そして、ボール抱持室1F内にはボール2が収納され、チップの先端縁部1Bが内方にかしめられることで、ボール2の一部を露出させつつボールの前方への飛び出しを防止している。尚、ボールとしては、例えば、タングステンカーバイト系超硬材ボール、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素等のセラミックボール等を用いることができる。」(段落【0014】)
・「そして、チップ先端縁部1Bからのボール2の突出量Hをボール外径Dの26%?33%、チップ先端縁部1Bの外縁部1Iの外径Jをボール外径Dの112%以下としてある。これらの寸法は従来から一般に用いられているものである。そして、ボール外径Dを0.29mm以下の小径ボールとしてある。」(段落【0015】)
・「実施例を説明し、その後比較例を説明する。
まず、実施例として図1に図示した態様のフェライト系ステンレス材料を用いたボールペンチップ1を用意した。ボール外径Dを0.28mm、チップ先端縁部1Bの外縁部1Iの外径Jを0.31mm、チップ先端縁部からのボールの突出量Hを0.08mmとした。この結果、チップ先端縁部1Bからのボールの突出量Hはボール外径の28%、チップ先端縁部1Bの外縁部1Iの外径Jはボール外径の111%となる。更に、かしめ角は85度としてある。尚、かしめ角は60度?100度が一般的であり、より好ましくは70度?90度である。」(段落【0017】)
これらの記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「ボール外径Dが0.29mm以下の小径ボール2と、ボール2の一部をチップ先端縁部1Bより突出させて回転自在にボール2をボール抱持室1B内に抱持するボールペンチップであって、ボールペンチップは、先端に向かい外径がテーパー状に縮径されたチップ本体1Aからなり、チップの先端縁部1Bが内方にかしめられることで、ボール2の一部を露出させつつボール2の前方への飛び出しを防止しているものであって、そのかしめ角を70度?90度としたボールペンチップ。」

(3-2)引用例2
同じく引用され、本願の出願前である平成9年12月9日に頒布された「特開平9-315075号公報」(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
・「図1から図4に本発明の実施形態である直液式中粘度ボールペンを図示しており、図に従って以下詳述する。インク収容管12の内部にはインク13とその後方に接するようにグリス状のフォロワー14と固体のフォロワー棒15を有している。ペン先2の先端には筆記ボール1が前端側はカシメ3、4によって、後端側には受け座16によって抜け止めされており、ボール1は前後に3μm以上(中性ボールペンでは望ましくは10から35μm)の縦ガタFを有した状態で回転可能に遊嵌されている。カシメ3は55゜以上140゜以下の鈍角のカシメ角でカシメられており、カシメ4はそれよりも鋭角な角度でのカシメであって一般的には金属の塑性変形によってまたは塑性変形と切削の組み合わせでこれらのカシメが加工される。これらのカシメの内面8にはボール1と略同等のRが形成されており、ボール1がこのシール面8に当接する事によって、ボールペン内部と外気とが遮断される所謂シール状態を形成することができる物である。」(段落【0009】)
・「2 ペン先ホルダー」(【符号の説明】)
これらの記載事項を総合すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「ペン先ホルダー2の先端には筆記ボール1がカシメ3、4によって、抜け止めされており、ボール1は前後に10から35μmの縦ガタFを有した状態で回転可能に遊嵌されており、これらのカシメ3、4の内面8にはボール1と略同等のRが形成されているペン先ホルダー2。」

4.対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、
後者における「ボール外径D」は、その構造、機能、作用等からみて、前者における「(ボールの)直径」に相当し、以下同様に、「チップ先端縁部1B」は「先端開口部」に、「チップ本体1A」は「ボールホルダー」に、それぞれ相当する。また、引用発明1は、「チップの先端縁部1Bが内方にかしめられることで、ボール2の一部を露出させつつボールの前方への飛び出しを防止している」から、かしめ加工においてボール抱持室の内壁の一部をボールに圧接しているといえる。
したがって、両者は、
「ボールと、このボールを先端開口部より一部突出して回転自在に抱持するボールホルダーとから少なくともなるボールペンチップであって、かしめ加工においてボール抱持室の内壁の一部をボールに圧接したボールペンチップ。」
の点で一致し、以下の点で一応相違している。
[相違点1]
本願発明は、ボールの直径が、「0.25mm以下」であるのに対し、引用発明1は、ボール外径Dが、「0.29mm以下」である点。
[相違点2]
本願発明は、ボールペンチップが、「水性インキ用」であるのに対し、引用発明1は、この点につき、明らかでない点。
[相違点3]
本願発明は、「ボールの前後移動量が0.01mm以上0.035mm以下であり、」かしめ加工においてボール抱持室の内壁の一部をボールに圧接して「該部分をボールとほぼ同じ曲率の形状を有する帯状の部分として形成する」であるのに対し、引用発明1は、ボールの前後移動量、及びボール抱持室の内壁の一部の形状につき、明らかでない点。
[相違点4]
本願発明は、「ボールホルダーの、ボール抱持室と、このボール抱持室よりも小径の先端開口部とを結ぶ傾斜面が、中心線を通る縦断面にて対峙する傾斜面同士のなす角度が90°未満である」としたのに対し、引用発明1は、この点につき、明らかでない点。

5.当審の判断
上記相違点について以下検討する。
(5-1)相違点1について
引用発明1のボール外径D(直径)は、「0.29mm以下」であるから、本願発明のボールの直径である「0.25mm以下」を包含する。また、本願発明において、ボールの直径を「0.25mm以下」することに、格別の技術的意義や臨界的意義はない。
したがって、引用発明1において、ボールの直径を0.25mm以下とすることは、設計事項に過ぎない。

(5-2)相違点2について
ボールペンにおいて、水性インキを用いることは、常套手段であり、また本願発明において、ボールペンチップを水性インキ用とした点に、格別の技術的意義はない。
したがって、引用発明1において、上記常套手段を適用して、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(5-3)相違点3について
上記3.(3-2)のとおり、引用発明2における「ペン先ホルダー2」は、その構造、機能、作用等からみて、本願発明における「ボールホルダー、ボールペンチップ」に相当し、以下同様に、「筆記ボール1」は「ボール」に、「縦ガタF」は「前後移動量」に、「カシメの内面8」は「ボール抱持室の内壁」に、それぞれ相当する。また、引用発明2は、「カシメの内面8にはボール1と略同等のRが形成されている」から、かしめ加工においてボール抱持室の内壁の一部をボールに圧接して該部分をボールとほぼ同じ曲率の形状を有する帯状の部分として形成しているといえる。
してみると、引用発明2は、「ボールの前後移動量が0.01mm(10μm)以上0.035(35μm)mm以下であり、かしめ加工においてボール抱持室の内壁の一部をボールに圧接して該部分をボールとほぼ同じ曲率の形状を有する帯状の部分として形成する」との事項が備えられている。
そして、引用発明1と引用発明2とは、共にボールホルダー、またはボールペンチップという技術分野に属し、また筆跡のかすれを防止するという共通の課題を有するものである。
したがって、引用発明1において、引用発明2を適用して、相違点3に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(5-4)相違点4について
引用発明1は、「ボールペンチップは、先端に向かい外径がテーパー状に縮径されたチップ本体1Aからなり、チップの先端縁部1Bが内方にかしめられることで、ボール2の一部を露出させつつボール2の前方への飛び出しを防止しているものであって、そのかしめ角を70度?90度とした」ものである。上記の「かしめ角」とは、チップ本体1A(ボールホルダー)の、ボール抱持室1F(ボール抱持室)の外側と、このボール抱持室1F(ボール抱持室)の外側よりも小径のチップの先端縁部1B(先端開口部)の外側とを結ぶ傾斜面が、中心線を通る縦断面にて対峙する傾斜面同士のなす角度といえる(図1参照)。
そして、チップ本体1A(ボールホルダー)は、チップの先端縁部1B(先端開口部)に向かい外径がテーパー状に縮径されると共にその肉厚も薄くなるもの(図1参照)であって、チップの先端縁部1B(先端開口部)を内方にかしめているから、チップ本体1A(ボールホルダー)の、ボール抱持室1F(ボール抱持室)と、このボール抱持室1F(ボール抱持室)よりも小径のチップの先端縁部1B(先端開口部)の内側とを結ぶ傾斜面が、中心線を通る縦断面にて対峙する傾斜面同士のなす角度(以下、「内側傾斜面の角度」という。)は、上記のかしめ角より、必然的に小さくなる。してみると、上記のかしめ角は、70度?90度であるから、上記の内側傾斜面の角度は、90度未満となる。
また、仮に、上記の内側傾斜面の角度が、90度であり、ボールは上記の内側傾斜面に接しており、その接した点における接線は、上記の内側傾斜面と同方向を向いているとすると、ボールの突出量Hは、以下のとおりに求められる。なお、Dは、ボール外形(直径)である。
H=(D/2)-(D/2)sin45°=(D/2)-(D/2√2)≒0.1464D
となるから、ボールの突出量Hは、ボール外形(直径)の約15%となる。
そして、引用例1には、「ボール2の突出量Hをボール外径Dの26%?33%・・・(中略)・・・とした。」(段落【0017】)と記載され、また、ボールの突出量が増加すると、上記の内側傾斜面の角度が減少することは明らかである。
してみると、引用例1のボールの突出量Hは、ボール外径Dの26%?33%であるから、上記の内側傾斜面の角度が、90度未満となると推認される。
したがって、本願発明と引用発明1とは、上記相違点4において、実質的な差異はない。

そして、本願発明の全体構成によって奏される効果も、引用発明1、引用発明2、及び上記常套手段から当業者が予測し得る範囲内のものである。

(5-3).むすび
したがって,本願発明は,引用発明1、引用発明2、及び上記常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-26 
結審通知日 2012-11-20 
審決日 2012-12-03 
出願番号 特願2005-193045(P2005-193045)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B43K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 洋允  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 東 治企
長島 和子
発明の名称 ボールペンチップ  

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