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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1270598
審判番号 不服2010-7449  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-08 
確定日 2013-02-27 
事件の表示 特願2004-551863「肺炎球菌感染を治療または予防するための組成物および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月27日国際公開、WO2004/043376、平成18年 3月 2日国内公表、特表2006-506989〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年(2003年)11月6日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年11月7日 米国)とする国際出願であって、その請求項1に係る発明は、平成22年4月8日付手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲請求項1に記載された、以下のとおりのものである。

「肺炎連鎖球菌の莢膜多糖類に共役したポリペプチドを含み、前記ポリペプチドが肺炎連鎖球菌のニューモリシンタンパク質の少なくとも400個の連続したアミノ酸のフラグメントを含み、前記ポリペプチドがアミノ酸配列KVEND(配列番号22)を欠失しており、前記ポリペプチドが溶血作用を示さず、哺乳動物へ投与されると肺炎連鎖球菌に対する免疫応答を誘発する、組成物。」(以下、「本願発明」という。)

第2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された、本願優先日前の2001年(平成13年)7月31日に頒布された刊行物である特表2001-510031号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】 溶血活性を弱毒化した修飾ニューモリシンポリペプチドであって、
a)野生型ニューモリシンをコードする核酸分子をランダムに変異させて、修飾ニューモリシンポリペプチドをコードする変異核酸分子を生成させ、これらの変異核酸分子を宿主細胞中で発現させ;
b)宿主細胞が発現した修飾ポリペプチドの溶血活性をアッセイし;
c)野生型ニューモリシンと実質的に類似の分子量を有するリフォールディング可能な修飾ニューモリシンポリペプチドを同定する
ことにより得られる修飾ニューモリシンポリペプチド。
(省略)
【請求項26】 ポリペプチドが細菌性多糖類と結合した、請求項1?15のいずれか1項記載の修飾ニューモリシンポリペプチド。
【請求項27】 細菌性多糖類がヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)b型;髄膜炎菌A、BまたはC群;B群連鎖球菌Ia、Ib、II、III、VまたはVIII型、および肺炎球菌よりなる群から選択される細菌に由来する、請求項26記載の修飾ニューモリシン複合体。
【請求項28】 請求項1?15のいずれか1項記載の少なくとも1種類のポリペプチドおよび医薬的に許容しうるキャリヤーを含むワクチン。」(特許請求の範囲)

(2)「スルフヒドリル活性化された細胞溶解毒素であるニューモリシン(PLY)はあらゆるタイプの肺炎連鎖球菌が産生し(Kanclerskiら,J.Clin.Microbiol.,1987,25,222-225)、肺炎球菌感染症の主な病原因子であると考えられている(Boulnois,Journal of General Microbiology,1992,138,249-259)。」(段落【0003】)

(3)「発明の概要:
本発明は、ランダムPCR変異形成法を用いて、安定な、遺伝子修飾による実質的に無毒性の免疫原性ニューモリシンポリペプチドを生成および同定するための新規方法を提供する。肺炎連鎖球菌その他の細菌による感染症に対するワクチン中に免疫原として使用でき、または多糖類複合体ワクチンの免疫原キャリヤーポリペプチドとして使用できる修飾ニューモリシン(ニューモリソイド(pneumolysoid))も提供される。本発明の修飾ニューモリシンポリペプチドは毒素の毒性が実質的に低下するか、または毒性を全く示さないが、天然毒素が誘発するものと交差反応性の抗体を誘発する。」(段落【0013】)

(4)「ニューモリシン(pneumolysin)は、実質的にすべての既知の肺炎連鎖球菌(S. pneumoniae)株に見られる。その広い分布は、異なる肺炎連鎖球菌血清型間の実質的な交差防御(cross-protection)を得る能力を提供する。」(段落【0021】)

(5)「スクリーニング過程は実質的に全長である修飾ニューモリシンポリペプチドを同定することに基づくが、本発明はまた、成熟ニューモリシンに結合する抗体により認識される、少なくとも1つのエピトープを保持するならば、修飾ニューモリシンポリペプチドの断片または一部切除(truncated)型も含む。さらに、こうした断片または一部切除型が、T細胞依存性免疫反応を生じる多糖・ポリペプチド複合体を産生するために十分な大きさであることが好ましい。」(段落【0060】)(下線は、合議体が付与した。)

(6)「2. 複合体分子
本発明の修飾ニューモリシンポリペプチドを用い、単独でまたは多糖などの他の免疫原性分子に結合している際、個体において肺炎連鎖球菌に対する抗体反応を誘発してもよい。他の免疫原性分子は、肺炎連鎖球菌から、またはそれに対し免疫反応を生成するのが望ましい異なる感染病原体から由来してもよい。好ましくは、修飾ニューモリシンが結合する他の免疫原性分子は、病原性細菌由来の莢膜または非莢膜多糖である。こうした細菌には、好ましくは1-23型の肺炎連鎖球菌の多様な血清型と共に、例えば:インフルエンザ菌b型;髄膜炎菌A、BまたはC群;B群型Ia、Ib、II、III、V、およびVIIIを含む多様な血清型のBまたはA群連鎖球菌;が含まれる。肺炎連鎖球菌血清型3、4、6b、9v、14、18c、19fおよび23が最も好ましい。」(段落【0082】)(下線は、合議体が付与した。)

(7)「実施例8
結合用多糖のニューモリソイド(Pneumolysoid)
複合体調製品の調製
PnC14型多糖(ATCCロット#2016107)(390mg)を16mlの0.5N NaOHに溶解し、その溶液を70℃で3時間加熱した。溶液を冷却した後、1.93mlの氷酢酸を添加してpHを4にした。3mlの5%(w/v)NaNO2を添加した後、その反応混合液を4℃で2時間攪拌したままにした。次に、その試料を脱イオン水で50mlに希釈し、0.5N NaOHでpHを7に調整した。過剰の試薬を、DI水を用いるダイアフィルトレーションによりSpectra/Por分子多孔性(molecularporous)膜管(MWCOL:3、500)を通して透析し、保持されたものを凍結乾燥した。次いで、この脱アミノ化14型多糖を、Superdex G-200(Pharmacia)カラムでPBSを溶離液として用いて分子ふるい処理した。Superose 12カラム(Pharmacia)を用いるクロマトグラフィー/マルチアングル・レーザ光散乱による決定で5000ないし15,000の分子量を有する、カラムから溶出する画分をプールし、Spectra/Por分子多孔性膜管(MWCOL 3、500)を通してDI水に対して透析し、凍結乾燥した。
複合体の調製
まず各々のPnCPSを脱重合し、メタ過ヨウ素酸ナトリウムを用いる酸化により官能性アルデヒドを分画CPSに導入した。この酸化プロセスの後、過剰の過ヨウ素酸塩をエチレングリコールで破壊し、酸化多糖をDI水に対して透析して凍結乾燥した。
0.2Mリン酸バッファ(pH8)中に5mg/mlの濃度の修飾ニューモリシンポリペプチドを2.5当量(重量基準)のPnC14多糖断片と、2当量(重量基準)の再結晶化水素化シアノホウ素ナトリウムと共に混合した。反応混合物を37℃で24時間インキュベートした。次に、0.01%チメロサールを含むPBSを溶離液として用いてSuperdex G200(Pharmacia)を通すことにより、複合体を遊離成分から精製した。カラムから溶出する画分をWaters R403示差屈折計で、及びUV分光法により280nmで監視した。複合体を含む画分をプールし、0.22μm Millipore膜を通して無菌濾過した後、4℃で保存した。ポリペプチド及び炭水化物含量を、それぞれ、Bradford及びDuboisの方法によって測定した。得られた複合体における多糖含量は約30%であった。」(段落【0121】?【0122】)

(8)「実施例9
修飾ニューモリシン複合体での免疫
Charles River Laboratoriesからの20匹のCD1雌マウス(年齢6-8週)の群を、皮下(S.C.)投与により、アルミニウム(水酸化アルミニウム、Superfos、デンマーク)に吸着させた実施例8の複合体化多糖2μgを用いて、0.01%チメロサールを含むPBSのml当たり元素アルミニウム1mgの濃度で免役した。第0日、28日、及び49日に、マウスにワクチンを投与した。第0日、42日、及び59日に血清を集め、-70℃で保存した。
(省略)
表11のデータからわかるように、全ての修飾ニューモリシン複合体は補体の存在下においてオプソノ食作用能を有する抗体を誘発した。上記複合体の全てで免疫したマウスは、強力なIgG抗PS応答に加えて、ニューモリソイド担体に対する非常に強力なIgG応答を複合野生型ニューモリシンに対して生じるものと同程度まで高める。」(段落【0125】?【0128】)


原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願優先日前の1994年(平成6年)に頒布された刊行物であるFEMS Microbiology Letters,1994,Vol.121,p.217-222(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が記載されている。
(9)「ニューモリシンの、6つの短縮型及び全長がpGEX2Tシステムを用いて作製された。」(219頁左欄「Results and Discussion」の項1?2行)

(10)「Table 1
組換えニューモリシンの細胞結合及び溶血活性、並びに、pGEX2Tを用いて調製されたコンストラクト
コンストラクト 分子の部分a 結合活性b 溶血活性b
ニューモリシン 1-470 100 100
RO471 1-471 100 100
RO419 1-419 0 0
RO430 1-430 0 0
RO441 1-441 0 0
RO450 1-450 0 0
RO460 1-460 2 0
RO465 1-465 2 0.2
a 数字はネイティブな分子の短縮型に存在するアミノ酸を表す。
b 短縮型の結合及び溶血活性は、全長のコンストラクト(R471)のパーセンテージとして表している。」(Table 1)

(11)「ニューモリシンのC末端からの52アミノ酸を欠く短縮型(RO419)は、結合活性及び溶血活性を有していなかった(Table.1)。」(219頁右欄23?26行)

(12)「短縮型はより少ないC末端の欠損により作製された。C末端を52?21残基欠く短縮型 (RO419、RO430、RO441、RO450)は、検出可能な細胞結合及び溶血活性が存在しなかった(Table 1)。」(219頁右欄29?34行)


第3.対比・判断
(1)本願発明について
本願明細書の段落【0058】には、「発明の詳細な説明 本発明は、肺炎球菌感染を治療または予防するための組成物および方法を提供する。本明細書に記載のポリペプチド、多糖類-ポリペプチド共役体、および発現ベクターは、哺乳動物に対して投与されると、当該哺乳動物において抗肺炎球菌免疫応答を誘導する。これらの組成物は、個体に予防接種するために予防的に、および/または、感染した個体における治療的な免疫応答を誘導するために、用いられうる。」と記載され、また、段落【0093】?【0094】には、「肺炎連鎖球菌の血清型19Aのニューモリシンポリペプチドのアミノ酸配列は、以下の通りである:
【化3】

」と記載されている。
よって、本願発明に係る組成物は、ニューモリシンポリペプチドのC末端に存在する5アミノ酸配列「KVEND」を欠失した少なくとも400個の連続したアミノ酸のフラグメントを含むポリペプチドと、肺炎連鎖球菌の莢膜多糖類との共役体を、哺乳動物において抗肺炎球菌免疫応答を誘導するために用いることを目的とするものである。

(2)対比
本願明細書において、本願発明の「共役」について、
「ポリペプチド(例えば、シュードニューモリシンポリペプチド)を精製するための方法は実施例に記載されており、ポリペプチドへの多糖類の共役は実施例4に記載されている。ポリペプチドまたは多糖類の精製および共役プロセスに関するさらなる詳細は、例えば、米国特許第4,242,501号、米国特許第4,686,102号、米国特許第5,623,057号、および米国特許第5,565,204号に記載されている。」(段落【0067】)と記載され(下線は、合議体が付与した。)、また、実施例4には、
「実施例4:多糖類-タンパク質共役体の調製
A.多糖類の酸化
肺炎球菌の莢膜多糖類(例えば、4、6B、9V、14、18、19F、および23F)を、アメリカンタイプカルチャーコレクション(マナッサス、ヴァージニア州)から購入した。10mgの多糖類を、4℃にて一晩、1mLの蒸留水に溶解させた。次の日に、1mLの0.2M PBS(pH7.2)を添加した。室温にて10分間、暗室で2mM過ヨウ素酸ナトリウム(MW:213.9、シグマ)と反応させることにより、多糖類を酸化させた。最終濃度25mMのエチレングリコール(MW:62.07)との反応により、過剰な過ヨウ素酸ナトリウムを分解させた。多糖類を含有する反応混合物を、1000mLの0.1M PBS(pH7.2)中で3回、充分に透析した。
(省略)
D.多糖類-タンパク質共役体の調製
2μgの肺炎連鎖球菌の多糖類18Cを、還元アミノ化アッセイを用いた直接共役により、シュードニューモリシンタンパク質(上記の項Cに記載)に共役させた。酸化された
多糖類反応混合物に、0.1M PBS中の10mgのシュードニューモリシンを添加し、緩やかに撹拌しながら室温にて30分間インキュベートした。シアノボロヒドリドナトリウムを、20mMの最終濃度で添加した(例えば、750μLの100mMシアノボロヒドリドを、3mLの酸化された多糖類とシュードニューモリシンとの混合物に添加した)。この混合物を緩やかに撹拌しながら室温にて5日間インキュベートした。この共役体を9,000rpmにて10分間沈殿させ、次いで1?2mLの0.1M PBS(pH7.2)に溶解させた。1×PBS(pH7.2)で平衡化したセファロースCL-4Bカラム(1.5×100cm)を用い、この混合物をクロマトグラフにかけた。タンパク質および多糖類の双方を含む画分をプールし、アミコン セントリコン-30(Amicon Centricon-30)(分子量カットオフ30,000)により濃縮し、次いでタンパク質および多糖類の含量をアッセイした。」(段落【0146】?【0158】)と記載されている。
したがって、引用例2の記載事項(7)より、引用例2の、細菌性多糖類と修飾ニューモリシンポリペプチドとの「結合」は、本願発明の「共役」と同等の化学反応によるものである。

そこで、まず本願発明と引用例2記載の事項とを対比すると、両者は、「肺炎連鎖球菌の莢膜多糖類に共役したポリペプチドを含み、前記ポリペプチドが肺炎連鎖球菌のニューモリシンタンパク質の修飾体であり、前記ポリペプチドが溶血作用が低減されたものであり、哺乳動物へ投与されると肺炎連鎖球菌に対する免疫応答を誘発する、組成物」という点で一致する。また、本願発明は、肺炎連鎖球菌の莢膜多糖類に共役したポリペプチドが、肺炎連鎖球菌のニューモリシンタンパク質の少なくとも400個の連続したアミノ酸のフラグメントを含み、前記ポリペプチドがアミノ酸配列KVEND(配列番号22)を欠失しており、溶血作用を示さないものであるのに対し、引用例2記載の発明においては、「溶血活性を弱毒化した修飾ニューモリシンポリペプチドであって、 a)野生型ニューモリシンをコードする核酸分子をランダムに変異させて、修飾ニューモリシンポリペプチドをコードする変異核酸分子を生成させ、これらの変異核酸分子を宿主細胞中で発現させ; b)宿主細胞が発現した修飾ポリペプチドの溶血活性をアッセイし;c)野生型ニューモリシンと実質的に類似の分子量を有するリフォールディング可能な修飾ニューモリシンポリペプチドを同定することにより得られる修飾ニューモリシンポリペプチド」である点で相違する。

(3)当審の判断
引用例2の記載事項(2)にあるように、肺炎連鎖球菌が原因となる疾患において、ニューモリシンが病原因子となることが知られており、これを多糖類複合体ワクチンの免疫原キャリアーポリペプチドとして使用するために、ニューモリシンの溶血活性を減少させた修飾体を用いるという技術思想も引用例2にあるように知られている。そして、引用例1には、ニューモリシンの溶血活性がネイティブのものに比べて、0%にまで顕著に減少されたC末端の欠失体(RO419、RO430、RO441、RO450、及び、RO460)が開示されている。
そして、引用例2の記載事項(5)には、成熟ニューモリシンに結合する抗体により認識される、少なくとも1つのエピトープを保持するような、修飾ニューモリシンのポリペプチドの一部切除(truncated)型も引用例2に記載の発明の範囲に含まれることが記載され、さらには、当該一部切除型が、T細胞依存性免疫反応を生じる多糖・ポリペプチド複合体を産生するために十分な大きさであることが好ましいと、一部切除型のニューモリシンと、多糖との複合体も用いることができることの示唆があるのだから、引用例2に記載される溶血活性を低減した修飾ニューモリシンにかえて、より溶血活性が低いニューモリシンを用いようと考え、引用例1において、溶血活性が「0」と評価され、エピトープを有するに十分な領域を含むと推認される(必要であれば、Infection and Immunity,1995,Vol.63,No.3,p.961-968等参照)C末端の欠失型を用いることは、当業者であれば、容易に想到する事項である。
そして、本願発明が、引用例2、1より、予測し得ない有利な効果を奏するとも認められない。

よって、本願発明は、引用例2、1に記載される事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)請求人の主張
審判請求人は、平成22年4月8日付審判請求書の請求の理由において、以下の主張をしている。

「しかしながら、本願出願人は、以下の理由から、当業者が二つの参考文献を参酌し、二つの発明を組み合わせることはないと思料いたします。
引用文献2の出願人は引用文献1の存在に気づいております(引用文献2の第28頁第13?14行目を参照)。このように気づいているにも関わらず、引用文献2の出願人は細胞結合領域を欠く変異体を用いることを選択してはおりません。このことに関して、引用文献2の出願人は、段落0061の19?22行目に「突然変異型における細胞結合ドメインの保存は、特にpNV103およびpNV207の場合、ELISA阻害アッセイで立証されるように、これらの突然変異体がまた野生型分子の免疫学的特性を示すため、重要である」と説明しております。このように引用文献1が細胞結合サイトを欠損したニューモリシン変異体を教え、および引用文献2が同じく細胞結合サイトの保存の重要性を強調しており、当業者が引用文献1のニューモリシン変異体を使用するのを拒絶しております。つまり、引用文献2は引用文献1から見て阻害要因となり、当業者は審査官殿が指摘されているようにこれらの2つの引用文献を組み合わせるということはしないものと思料いたします。したがって、現請求項1?55は引用文献1および2から進歩性を有するものと思料いたします。 」(主張1)

また、審判請求人は、平成24年5月17日付回答書において、以下の主張をしている。
「審判請求の理由でも申し述べましたように、引用文献2の段落「0061」の19?22行目には「突然変異型における細胞結合ドメインの保存は、特にpNV103およびpNV207の場合、ELISA阻害アッセイで立証されるように、これらの突然変異体がまた野生型分子の免疫学的特性を示すため、重要である」との説明がなされており、引用文献1に開示された細胞結合サイトを欠損したニューモリシン変異体の使用を明確に否定しております。言い換えれば、引用文献2は、同文献が主たる目的とする免疫応答の発現のためには、細胞結合ドメインを欠くニューモリシン変異体の使用は望ましくないことをはっきりと述べているのであります。」(主張2)

「また、本願発明に係るポリペプチド共役体によれば、先行技術の記載に接した当業者であっても予測することができない顕著な効果が奏されます。すなわち、本願明細書の実施例8(および図19?25)に示されるように、血清型14多糖類-シュードニューモリシン(-7アミノ酸)共役体をマウスに投与すると、種々の血清型(すなわち、6B、7、14、18Cおよび23F)の肺炎球菌への感染に対して交差耐性を付与できるのであります。このような効果について検討しますと、引用文献2には、ある種の血清型に共役したニューモリシン変異体が上述したような交差耐性を付与できることについて、明示の開示はおろかその示唆すらございません。引用文献2には種々の一価ワクチン(肺炎球菌の特定の血清型に共役したニューモリシン変異体を含む)の製造について具体的に開示されておりますが、これらの一価ワクチンが上述したような交差耐性を付与できることについては、開示も示唆もなされていないのであります(引用文献2の実施例11および図8?11)。また、引用文献2には四価ワクチン(肺炎球菌の複数の血清型に共役したニューモリシン変異体の混合物を含む)を製造し、当該四価ワクチンによれば複数の血清型に対する抗体を誘導できる旨開示されていることから、引用文献2の出願人は、上述したような交差免疫を付与するためにはかような四価ワクチンを使用することが必要であると認識していたことが推認されます(引用文献2の実施例11)。このことからも、本願発明により奏される交差免疫の付与に関する効果は、先行技術の記載に接した当業者であっても予測することができなかった顕著なものであることがご理解いただけたものと思料いたします。」(主張3)

(4-1)主張1、2について
確かに、審判請求人の指摘する引用例2の段落0061には、「突然変異型における細胞結合ドメインの保存は、特にpNV103およびpNV207の場合、ELISA阻害アッセイで立証されるように、これらの突然変異体がまた野生型分子の免疫学的特性を示すため、重要である。」と記載されているものの、第3(3)で述べたように、引用例2の段落【0060】には、修飾ニューモリシンの一部切除型も、多糖類と結合させて用いるものの対象に含まれることが記載されているのであるから、請求人が主張するように、引用例2において、C末端を欠くニューモリシン変異体の使用を否定しているとは認められない。

(4-2)主張3について
引用例2には、ニューモリシンが肺炎連鎖球菌に広く分布し、異なる肺炎連鎖球菌血清型間の交差防御を得る能力を提供することが記載されているから(記載事項(4)参照)、特定の血清型の多糖類とニューモリシンとの共役体を免疫原として用いた場合に、ニューモリシンに対する免疫応答により、種々の血清型の肺炎連鎖球菌の感染に対する耐性を獲得することは、当業者が予期できたものである。

したがって、請求人の主張は採用できない。

(5)小括
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-26 
結審通知日 2012-10-02 
審決日 2012-10-17 
出願番号 特願2004-551863(P2004-551863)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小倉 梢高堀 栄二  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 鈴木 恵理子
田中 晴絵
発明の名称 肺炎球菌感染を治療または予防するための組成物および方法  
代理人 八田 幹雄  

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