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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09C 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09C |
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管理番号 | 1270611 |
審判番号 | 不服2011-6831 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-04-01 |
確定日 | 2013-02-27 |
事件の表示 | 特願2009-89405「凝集体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年8月20日出願公開、特開2009-185295〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,1998年4月17日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 1997年4月18日 米国(US))を国際出願日とする特願平10-546145号の一部を,平成21年4月1日に新たな出願としたものであって,同年4月30日に上申書及び手続補正書が提出され,同年9月9日付けで拒絶理由が通知され,平成22年3月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年11月29日付けで拒絶査定がされ,平成23年4月1日に拒絶査定に対する審判が請求され,その後,当審において,同年9月1日付けで拒絶理由が通知され,平成24年1月23日に意見書が提出され,さらに同年2月21日付けで拒絶理由が通知され,同年8月28日に意見書が提出されたものである。 第2 本願の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載 1 特許請求の範囲の記載 本願の特許請求の範囲は,平成22年3月15日付けの手続補正により補正された以下のとおりのものである。 「【請求項1】 カーボン相および金属(但し、ケイ素は含まれない。以下同じ)含有種相を有する、又はこれらに加えて更にケイ素含有種相を有する凝集体の製造方法であって、 (a)第1供給原料を、多段反応器の第1の段階に導入し、 (b)前記第1の段階の下流の箇所で、少なくとも1種の第2供給原料を前記反応器に導入し、 ここで、少なくとも1つの供給原料がカーボンブラック用供給原料を含み、少なくとも1つの供給原料が少なくとも1種の分解可能な又は気化可能な金属含有化合物を含み、又は少なくとも1つの供給原料が分解可能な又は気化可能なケイ素含有化合物を更に含み、 (c)前記金属含有化合物を分解又は気化させ、前記カーボンブラック用供給原料を熱分解し、又は更に前記ケイ素含有化合物を分解又は気化させて、凝集体を作る温度で、前記反応器を操作し、そして (d)前記凝集体を回収すること、 を含み、前記凝集体が、前記凝集体の重量の0.1%?25%の金属元素を含有しているカーボン相および金属含有種相を有する、又はこれらに加えて更にケイ素含有種相を有する凝集体の製造方法。 【請求項2】 前記金属含有化合物が、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、チタン、バナジウム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、スズ、アンチモン、クロム、ネオジム、鉛、テルル、バリウム、セシウム、鉄、モリブデン、又はそれらの混合物を含有する化合物である、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記金属含有種相が、前記凝集体の表面に存在する、請求項1に記載の方法。 【請求項4】 前記金属含有種相が、前記凝集体中に分散している、請求項1に記載の方法。 【請求項5】 前記第1の供給原料と前記第2の供給原料の少なくとも1つが、ケイ素含有化合物を有し、更に前記凝集体が、前記凝集体の重量の0.1%?25%のケイ素を有する、請求項1に記載の方法。 【請求項6】 前記金属含有種相と前記ケイ素含有種相が合計で、前記凝集体の重量の0.1%?25%を有する、請求項1に記載の方法。」 2 本願の発明の詳細な説明の記載 平成22年3月15日付けの手続補正により補正された本願明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。 (a)「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 シリカがエラストマーに化学的に結合すると、得られるエラストマー組成物の特定の性能特性が向上する。車両タイヤに混入されると、このようなエラストマー配合物は、改良されたヒステリシスバランスを提供する。しかしながら、主たる強化材としてシリカを含むエラストマー配合物は、低い熱伝導率、高い電気抵抗率、高い密度、及び劣った加工性を呈する。 エラストマー組成物の強化材としてカーボンブラックを単独で使用すると、カーボンブラックはエラストマーと化学的に結合しないが、カーボンブラック表面がエラストマーと相互作用するための多くの箇所を提供する。カーボンブラックとカップリング剤を併用すると、エラストマー組成物にある程度の性能の改良を提供することがあるが、その改良は、カップリング剤をシリカに使用した場合のそれとは比較にならない。」 (b)「【0007】 また、本発明は、カーボン相と金属含有種相を含む凝集体の製造方法に関するものであり、ここでは、反応器に供給原料を導入するための少なくとも2つの段階を有する多段反応器が使用される。第2の段階と随意の付加的段階は、第1の段階の下流に位置する。各段階で導入される供給原料は、カーボンブラック生成用供給原料、金属含有化合物、又はこれらの混合物を含む。また、供給原料の1種以上は、所望により、ケイ素含有化合物を含む。少なくとも1つの段階は、カーボンブラック生成用供給原料を含み、少なくとも1つの段階は、金属含有化合物を含む。反応器は、金属含有化合物を分解し、カーボンブラック生成用供給原料を熱分解するのに十分な温度に維持される。 上記の方法から得られる凝集体は、エラストマー組成物に混和される。これらのエラストマー組成物は、カーボン相とケイ素含有種相が存在する凝集体を含まないエラストマー組成物に比較し、改良された湿りスキッド抵抗ところがり抵抗を提供することができる。」 (c)「【0009】 本発明の1つの態様は、カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体の製造方法に関する。カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体を製造することに加え、本発明の方法は、所望により、カーボンブラック及び/又はシリカを製造することもできる。 本発明の目的において、本発明の方法によって得られるカーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体は、ケイ素処理カーボンブラックと表示することができる。カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体において、ケイ素含有種相(限定されるものではないが、ケイ素の酸化物と炭化物を含む)は、凝集体の少なくとも一部に分布し、これは、カーボン相も含む凝集体の本質的部分である。言い換えると、ケイ素処理カーボンブラック又は凝集体は、別個なカーボンブラック凝集体と別個なシリカ凝集体の混合物ではない。むしろ、本発明のケイ素処理カーボンブラックは、ケイ素処理カーボンブラックの一部として、少なくとも1つのケイ素含有領域を含み、そのケイ素含有領域は、ケイ素処理カーボンブラックの表面及び/又は中に位置する。本発明の凝集体の一部であるケイ素含有種相は、シランカップリング剤のようにカーボンブラック凝集体に結合せず、事実上カーボン相と同じ凝集体の一部であり、米国特許第08/446141号(1995年5月22日出願、現在特許)、同第08/446142号(1995年5月22日出願)、同第08/750016号(1996年11月22日出願、PCT公開公報WO/96/37547の国内段階)に記載されている。 ケイ素処理カーボンブラックをSTEM-EDXで評価すると、ケイ素含有種に対応するケイ素のシグナルが個々のカーボンブラック凝集体の中に存在することが分かる。比較として、例えば、シリカとカーボンブラックの物理的混合物においては、STEM-EDX分析は、明確に異なるシリカとカーボンブラックの凝集体を示す。」 (d)「【0010】 本発明の方法に関し、本発明の凝集体又はケイ素処理カーボンブラックは、1種以上の気化可能及び/又は分解可能なケイ素含有化合物の存在下でカーボン相(即ち、炭素相)を製造又は生成させることによって得ることができる。図面に示したようなモジュール式又は「段階式」のファーネスカーボンブラック反応器が好適に使用される。このファーネス又はリアクターは、好ましくは、供給原料の、1を上回る段階又は注入箇所を有する。図面に示したように、反応器は、好ましくは、先細の直径のゾーン2を備えた燃焼ゾーン1、狭められた直径を有する供給原料注入ゾーン3、及び反応ゾーン4を有する。 上記の反応器によって本発明の凝集体又はケイ素処理カーボンブラックを製造するため、液体又は気体の燃料に適切な酸化剤流体の空気、酸素、又は空気と酸素の混合物を接触させることにより、燃焼ゾーン1の中に高温燃焼ガスを発生させる。高温燃焼ガスを発生させために燃焼ゾーン1で酸化剤の流れに接触させるのに適切な燃料には、任意の容易に燃焼する気体又は液体の流れが挙げられ、例えば、天然ガス、水素、メタン、アセチレン、アルコール、ケロシンである。ここで、一般に、炭素含有成分、とりわけ炭化水素の高含有率の燃料を使用することが好ましい。空気/燃料の比は、使用する燃料の種類によって異なる。本発明のカーボン相を製造するのに天然ガスが使用される場合、空気/燃料の比は約10:1?約1000:1でよい。高温燃焼ガスの発生を促進するため、酸化剤の流れを予熱することができる。米国特許第3952087号と同3725103号は、カーボンブラック生成用供給原料、反応器構成、及び条件を記載している。」 (e)「【0015】 反応器の反応ゾーンにおいて、カーボンブラック生成用原料供給原料を含む供給原料の一部は、熱分解してカーボンブラックになり、凝集体のカーボン相を形成する。ケイ素含有化合物を含む原料部分は、気化・熱分解を受け、好ましくは、反応ゾーンの他の種と反応してケイ素含有種相を生成する。反応器にカーボンブラック生成用供給原料とケイ素含有化合物が存在することは、カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体をもたらす。ケイ素含有種は、凝集体の本質的部分であり、カーボン相と同じ凝集体の一部である。ケイ素含有種の例はシリカである。」 (f)「【0017】 一般に、ケイ素含有化合物がカーボンブラック生成用供給原料と実質的に同時に導入されるならば、ケイ素含有種相は凝集体の全体にわたって分布する。ケイ素含有化合物が、カーボンブラックの生成が開始したが反応流れがクエンチに供される前(即ち、カーボン相の生成の間)の反応ゾーンに導入されるならば、ケイ素含有種相は、主として凝集体の表面又はその付近に存在するが、依然としてカーボン相と同じ凝集体の一部である。」 (g)「【0020】 本発明の別な態様において、カーボン相と金属含有種相を含む凝集体は、多段反応器を用いて製造することができ、その反応器は、供給原料を反応器に導入するための少なくとも2つの段階を有する。第2の段階及び付加的な随意の段階は、第1の段階の下流に位置する。各段階に導入される供給原料は、カーボンブラック生成用供給原料、金属含有化合物、又はこれらの混合物を含む。少なくとも1つの供給原料は、カーボンブラック生成用供給原料を含み、少なくとも1つの段階は(カーボンブラック生成用供給原料を有する同じ段階であることができる)、金属含有化合物を含む。また、供給原料の任意の1つは、ケイ素含有化合物及び/又はホウ素含有化合物を含む。反応器は、金属含有化合物を分解してカーボンブラック生成用供給原料を生成させる(即ち、カーボンブラック生成用供給原料の熱分解)のに十分な温度に維持される。何らかのケイ素含有化合物又はホウ素含有化合物が付加的に存在する場合、反応器は、ケイ素含有化合物又はホウ素含有化合物を分解させるのに十分な温度に維持されるべきである。この方法によって生成する凝集体は、金属処理カーボンブラック又は金属処理カーボンブラック凝集体と考えることができる。」 (h)「【0021】 金属処理カーボンブラックは、凝集体の表面又はその付近に又は凝集体の中に濃縮した1つの金属含有領域を含む(依然として凝集体の一部を構成する)。このように、金属処理カーボンブラックは、2つの相を有し、その1つはカーボンで、他方は金属含有種である。凝集体に含められた金属含有種相は、シリカカップリング剤のようにカーボンブラック凝集体に結合するのではなく、又は既に生成した凝集体の上をコーティングするのではなく、事実上、カーボン相と同じ凝集体の一部である。また、供給原料の中に2種類以上の金属含有化合物を使用することも本発明の範囲内である。2種類以上の金属含有化合物が供給原料として使用される場合、カーボン相と2種類以上の異なる金属含有種相が生成する。また、ケイ素含有化合物が供給原料の1つに含められる場合、ケイ素含有種もまた、カーボン相と金属含有種相(複数でもよい)を含む同じ凝集体の一部をなす。また、ホウ素含有化合物が供給原料に含められて存在するならば、ホウ素含有種は、カーボン相と金属含有種相を含む同じ凝集体の一部をなす。したがって、本発明の目的において製造された金属処理カーボンブラックは、2つ以上の異なるタイプの金属含有種相及び/又は付加的な非金属種相を有することができる。カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体を製造するのに使用される方法は、カーボン相と金属含有種相を含む凝集体を製造する方法と実質的に同じである。 カーボン相と金属含有種相を含む凝集体を製造する他、カーボンブラック及び/又は金属酸化物が本発明の方法によって得られる。本方法の共生成物として1種類以上の金属酸化物及び/又はカーボンブラックの随意の生成が考えられ、これは、カーボン相と金属含有種相を含む凝集体と共存することができ、エラストマー組成物に混和されたときに付加的な効果を提供することができる。」 (i)「【0022】 金属含有種には、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、チタン、バナジウム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、スズ、アンチモン、クロム、ネオジム、鉛、テルル、バリウム、セシウム、鉄、及びモリブデンを含む化合物が挙げられる。好ましくは、金属含有種相は、アルミニウム又は亜鉛を含む種の相である。金属含有種相は、限定されるものではないが、金属酸化物を含む。 有用な気化可能化合物(即ち、金属含有化合物)には、カーボンブラック反応器の温度で蒸発する任意の化合物が挙げられる。例として、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、チタン、バナジウム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、錫、アンチモン、クロム、ネオジム、鉛、テルル、バリウム、セシウム、鉄、又はモリブデンを含む気化可能又は分解可能な化合物が挙げられる。特定の例として、限定されるものではないが、ブトキシド、例えばアルミニウムIII n-ブトキシドとアルミニウムIII s-ブトキシド、プロポキシド、例えばアルミニウムIII イソプロポキシドがある。適切な亜鉛含有化合物の例には、限定されるものではないが、亜鉛ナフテネートと亜鉛オクトアートが挙げられる。別な例として、限定されるものではないが、マグネシウムエトキシド、マグネシウムイソプロポキシド、カルシウムプロポキシド、チタンイソプロポキシド、コバルトナフテネート、スズジエチルオキシド、ネオジムオキサレートなどが挙げられる。気化可能化合物の流量は、処理カーボンブラック中の金属の重量割合を決める。金属処理カーボンブラック中の元素金属の重量割合は、一般に、凝集体の重量を基準に約0.1%?25%であるが、凝集体の50重量%以下、50重量%以上、99重量%以下のように任意の所望のレベルに調節することができる。」 (j)「【0038】 実施例1 本発明のケイ素処理カーボンブラックを、さきに一般的に説明して図面に示したパイロットスケールの反応器を使用して製造した。なおその反応器の寸法は次のとおりである。 すなわちD_(1 )=7.25インチ、D_(2 )=4.5インチ、D_(3 )=5.3インチ、D_(4) =13.5インチ、L_(1) =24インチ、L_(2) =12インチ、L_(2) ′=45インチ(例えばOMTS-CB-A′)およびL_(2) ′=25インチ(例えば、OMTS-CB-B′,C′,D′、およびE′)、ならびにQ=8.583フィート(例えばOMTS-CB-A′、B′およびC′)、Q=6.5フィート(例えばOMTS-CB-D′およびE′)。以下の表1に記載の反応条件を採用した。 図に示すように、第一の供給原料をポイント6で導入しかつ第二の供給原料をポイント7で導入した。第一の供給原料は炭化水素(すなわちカーボンブラック用供給原料)を含有し、そして第二の供給原料は炭化水素、およびOMTS(すなわちケイ素含有化合物)具体名を述べるとオクタメチル-シクロテトラシロキサンを含有していた。この化合物は、米国ミシガン州ミッドランド所在のDow Corning Corporation が“D4”として販売している。得られたケイ素処理カーボンブラックは、本明細書ではOMTS-CBとして識別する。」 (k)「【0048】 実施例2 先に一般的に説明し図に示した以下の寸法のパイロットスケールの反応器を使用して、本発明の凝集体を製造した。D_(1) =7.25インチ、D_(2 )=4.5インチ、D_(3) =5.3インチ、D_(4 )=13.5インチ、L_(1) =24インチ、L_(2) =12インチ、L_(2) ′=29インチ、Q=6.5フィート。下記表6に記載の反応条件を採用した。 図に示すように、第1供給原料を、ポイント6で導入し、そして第2供給原料をポイント7で導入した。第1供給原料は炭化水素(すなわちカーボンブラック用供給原料)を含有し、そして第2供給原料はアルコールすなわちイソプロパノールおよびOMTS(つまりケイ素含有化合物)すなわちオクタメチル-シクロテトラシロキサンまたはオクタメチル-シクロテトラシロキサン単独を含有していた。この化合物は、「D4」として、米国ミシガン州ミッドランド所在のDow Corning Corporation が販売している。得られた多相凝集体はこの実施例ではMPCS1?4として挙げる。」 第3 当審における拒絶の理由の概要 平成24年2月21日付けで通知された拒絶の理由の概要は,以下のとおりである。 [理由1]本願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確ではなく,特許法第36条第6項第2号に適合しないから,本願は,特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 [理由2]本願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく,特許法第36条第6項第1号に適合しないから,本願は,特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 [理由3]本願の発明の詳細な説明には,当業者がその発明を実施できることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから,本願は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 第4 当審の判断 1 理由1について 特許請求の範囲の請求項1には,「カーボン相および金属(但し、ケイ素は含まれない。以下同じ。)含有種相を有する、又はこれらに加えて更にケイ素含有種相を有する凝集体」と記載されている。 しかしながら,この凝集体の構造,特に,「金属(但し、ケイ素は含まれない。以下同じ。)含有種相」(以下,単に「金属含有種相」という。)がどのようなものか明確でない。 その理由を以下に詳述する。 (1)「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」の定義について ア 発明の詳細な説明の記載の参酌 発明の詳細な説明には,「カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体において、ケイ素含有種相(限定されるものではないが、ケイ素の酸化物と炭化物を含む)は、凝集体の少なくとも一部に分布し、これは、カーボン相も含む凝集体の本質的部分である。」(摘記c参照),「本発明の凝集体又はケイ素処理カーボンブラックは、1種以上の気化可能及び/又は分解可能なケイ素含有化合物の存在下でカーボン相(即ち、炭素相)を製造又は生成させることによって得ることができる。」(摘記d参照),「カーボンブラック生成用供給原料を含む供給原料の一部は、熱分解してカーボンブラックになり、凝集体のカーボン相を形成する。ケイ素含有化合物を含む原料部分は、気化・熱分解を受け、好ましくは、反応ゾーンの他の種と反応してケイ素含有種相を生成する。」(摘記e参照)と記載されているから,「カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体」の「カーボン相」とは「カーボンブラック生成用供給原料を含む供給原料の一部」が「分解してカーボンブラック」となったものであり,「ケイ素含有種相」とは「ケイ素含有化合物を含む原料部分」が「気化・熱分解を受け、・・・生成する」ものであり,「カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体」とは,「ケイ素含有種相」が「カーボン相も含む凝集体」の「少なくとも一部に分布」しているものといえる。 そして,本願請求項1の「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」は,本願請求項1に記載されるように, 「(a)第1供給原料を、多段反応器の第1の段階に導入し、 (b)前記第1の段階の下流の箇所で、少なくとも1種の第2供給原料を前記反応器に導入し、 ここで、少なくとも1つの供給原料がカーボンブラック用供給原料を含み、少なくとも1つの供給原料が少なくとも1種の分解可能な又は気化可能な金属含有化合物を含み、又は少なくとも1つの供給原料が分解可能な又は気化可能なケイ素含有化合物を更に含み、 (c)前記金属含有化合物を分解又は気化させ、前記カーボンブラック用供給原料を熱分解し、又は更に前記ケイ素含有化合物を分解又は気化させて、凝集体を作る温度で、前記反応器を操作し、そして (d)前記凝集体を回収すること」によって製造されており,「カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体を製造するのに使用される方法は、カーボン相と金属含有種相を含む凝集体を製造する方法と実質的に同じである。」(摘記h参照)と記載されているから,第2供給原料がケイ素含有化合物か金属含有化合物かで異なるほかは,「カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体」の製造方法と同じである。 そうすると,上述の「カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体」に関する記載は,本願請求項1の「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」についても同様の意味として記載されているものと解され,「金属処理カーボンブラックは、凝集体の表面又はその付近に又は凝集体の中に濃縮した1つの金属含有領域を含む(依然として凝集体の一部を構成する)。このように、金属処理カーボンブラックは、2つの相を有し、その1つはカーボンで、他方は金属含有種である。」(摘記h参照)と記載されていることから,本願請求項1の「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」は,「カーボン相を含む凝集体の表面又はその付近に又は凝集体の中に濃縮した1つの金属含有領域を含む」ものであって,金属含有化合物が熱分解して生成する金属や金属化合物を「金属含有領域」あるいは「金属含有種相」と呼び,この金属や金属化合物(これが「金属含有種相」である)が「カーボン相」を含む凝集体の少なくとも一部に分布しているものを,「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」と称しているものと認められる。 イ 請求人の主張について 請求人は,平成24年1月23日付けの意見書において,「刊行物1(審決注:特開昭63-205369号公報,以下同じである。)に記載の方法は、本願発明において規定されるような「カーボン相及び金属含有種相を有する凝集体」を製造するものではなく、むしろそれは磁性微粒子がカーボンブラックの凝集体内部に捕捉された生成物を製造するような条件下で行われるものです。それゆえ、刊行物1に記載の方法では、磁性微粒子は凝集体中で相を形成することなく、単に粒子として凝集体中に捕捉されます。」と主張している。 また,請求人は,平成24年8月28日付けの意見書においても,「本願発明の方法では、刊行物1において記載されるように金属粒子がカーボンブラック中に捕捉されないからです。刊行物1に記載の方法では、粒子がカーボンブラック中に捕捉されるため、それは粒子の固定焼結混合物のようなものであるといえます。一方で、本願発明の方法によって製造された生成物では、「金属含有種相」は粒子としては見られず、それよりはむしろ気相反応において共溶融され、凝集体の一部として存在します。言い換えると、本願発明の方法によって製造された生成物において個々の金属粒子は見られませんが、その代わりに気相反応の際に形成されたカーボンブラック凝集体の内部又は表面上に金属含有種相が「領域」として見られます。これは、刊行物1に記載のカーボンブラックの凝集体内部に捕捉された磁性微粒子とは非常に対照的なものです。」とも主張している。 そうすると,請求人が主張するところの,「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」とは,「金属粒子がカーボンブラック中に捕捉され」るものではなく,「気相反応の際に形成されたカーボンブラック凝集体の内部又は表面上に金属含有種相が「領域」として見られ」るもの,すなわち,金属化合物が熱分解して生成する「金属含有種相」が「粒子」としては見られず、共溶融して「領域」となっているもの(以下,「金属含有種相」が「粒子」となっているものと区別するため,「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」という。)を意味するものと認められる。 ウ 請求人の主張の検討 請求人が述べている「領域」という用語は,通常は,ある所定の範囲を意味するものであって,金属含有化合物が熱分解して生じる磁性粒子のような「粒子」そのものや,粒子を含む凝集体内部の所定の範囲については,本願発明の詳細な説明に記載される「濃縮した1つの金属含有領域」(摘記h参照)ということができるから,請求人の主張するところの,粒子を含まない「領域」の概念がそもそも不明確である。 そうすると,本願の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,金属含有化合物が熱分解して生成する「金属含有種相」が「粒子」としては見られず、共溶融して「領域」となっていることを述べた記載はなく,本願請求項1の「金属含有種相」とは,カーボン相を含む凝集体内部に分布されている,金属含有化合物が熱分解して生成する金属や金属化合物であること以上の意味には理解できず,請求人が主張するところの,「粒子」としては見られず、共溶融して「領域」として存在する「領域型金属含有種相」とは,どのようなものかが理解できない。 (2)「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」の構造について 発明の詳細な説明には,そもそも,「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」を具体的に製造した実施例が記載されておらず,その構造がどのようなものであるかデータも一切記載されていない。 したがって,発明の詳細な説明に記載のある「カーボン相およびシリカ相を有する凝集体」に関連する記載等から,その構造を推定せざるを得ないが,それらの記載を考慮しても,以下に述べるとおり,「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」がどのような構造のものかが明確ではない。 ア STEM-EDX分析について (ア)請求人の主張 請求人は,平成24年1月23日付けの意見書で,「本願発明における「カーボン相及び金属含有種相を有する凝集体」は、カーボンブラックと金属粒子の物理混合物のようなものではなく、例えば、本願明細書の段落0009等に記載されるように、STEM-EDXで評価した場合に、金属含有種が個々のカーボンブラック凝集体の中に存在するようなものです。」と主張し,平成24年8月28日付けの意見書においても,「本願明細書の段落0009において、STEM-EDX分析の結果として、ケイ素含有種相が、本願発明による個々のカーボンブラック凝集体中には見出されるが、シリカとカーボンブラックの物理的混合物においては見出されないことが明確に記載されています。これは、本願発明による凝集体の「金属含有種相」にも同様に当てはまるものです。そして、本願明細書の段落0009における「シリカとカーボンブラックの物理的混合物」は、刊行物1において記載されるような物理的に捕捉された金属粒子を含有するカーボンブラックと対応しており、それゆえ本願明細書の段落0009の記載は、本願発明による凝集体の構造と刊行物1に記載の生成物の構造との相違を説明するものともいえます。」と主張している。 (イ)検討 発明の詳細な説明の段落番号0009には,「ケイ素処理カーボンブラックをSTEM-EDXで評価すると、ケイ素含有種に対応するケイ素のシグナルが個々のカーボンブラック凝集体の中に存在することが分かる。比較として、例えば、シリカとカーボンブラックの物理的混合物においては、STEM-EDX分析は、明確に異なるシリカとカーボンブラックの凝集体を示す。」(摘記c参照)と記載されている。 一方,発明の詳細な説明には,「言い換えると、ケイ素処理カーボンブラック又は凝集体は、別個なカーボンブラック凝集体と別個なシリカ凝集体の混合物ではない。」(摘記c参照)と記載され,さらに「凝集体に含められた金属含有種相は、シリカカップリング剤のようにカーボンブラック凝集体に結合するのではなく、又は既に生成した凝集体の上をコーティングするのではなく」(摘記h参照)と記載されていることからすれば,「シリカとカーボンブラックの物理的混合物」とは,別個なカーボンブラック凝集体と別個な金属含有種の凝集体や凝集体の外部にある金属含有種の微粒子との混合物を意味するものであって,STEM-EDXの評価の結果,シリカとカーボンブラックの凝集体と,シリカとカーボンブラックの物理的混合物が異なることを述べているにすぎない。 この点に関しては,請求人が提出した参考資料においても, 「In Fig.3 the silicon-counts obtained from STEM/EDX measurement are plotted against carabon-counts for two dual phase products along with N234 carbon black and its blend(4% silica/96% N234) as cotrols.」(参考資料の表紙を第1頁として,第5頁左欄下から第5行?中欄第2行) 「図3において,2つの二相生成物と対照としてのN234カーボンブラックとそれとのシリカ混合物(4%シリカ/96%N234)について,STEM/EDX測定で得られたSi数がC数に対してプロットされる。」(当審による仮訳) と記載されるように,シリカとカーボンブラックとが別個となった混合物と「二相生成物」(シリカ-カーボンブラック凝集体)とを比較し,また,STEM/EDXで測定しているのは,Si数とC数の比であって,シリカが粒子なのか領域なのかその形状を測定しているものとは認められない。 そして,刊行物1に記載される,カーボンブラック粒子凝集体の内部に磁性微粒子が捕捉された凝集体は,明らかに,カーボンブラックと金属酸化物とが別個になった物理的混合物ではないから,請求人の主張するように,「シリカとカーボンブラックの物理的混合物」は、刊行物1において記載されるような物理的に捕捉された金属粒子を含有するカーボンブラックと対応するということはできず,本願明細書の段落0009に記載されるSTEM-EDX分析の記載から,本願請求項1に記載される「カーボン相と金属含有種相を含む凝集体」が,「カーボン相と領域型金属含有種相を含む凝集体」であって,カーボンブラック粒子凝集体の内部に磁性微粒子が捕捉された凝集体との構造上の相違を説明できるとはいえない。 そうすると,請求人の主張するところの,「カーボン相と領域型金属含有種相を含む凝集体」とはどのようなものであるかが明確であるとはいえない。 イ 参考資料の記載について (ア)請求人の主張 請求人は,平成24年8月28日付けの意見書において,「本願発明におけるカーボン-金属の二相凝集体の構造は、例えば、参考資料として本意見書に添付するWangらの「Carbon-Silica Dual Phase Filler,a New Generation Reinforcing Agent for Rubber」,Reprint from“KGK Kautschuk Gummi Kunststoffe”5/98,Page 348-360(審決注:以下,「参考資料」という。)を参照することでさらに理解することができ」るとし,「この文献では「シリカと混合された従来のカーボンブラック」と「ケイ素含有領域又は相を含むカーボンブラック」との相違に関するデータ及び情報が記載されています。この文献では、ケイ素含有領域を含むカーボンブラックが「カーボン-シリカの二相フィラー(Carbon-Silica Dual Phase Filler)」又は「CSDPフィラー」と称され、この凝集体の二相の特徴が、例えば「カーボン-シリカの二相フィラーのシリカ形態(Silica morphology of carbon-silica dual phase filler)」と図5の言及を含む「カーボン-シリカの二相フィラーの一般的概念(General view of carbon-silica dual phase filler)」において記載されています。一方、本願発明による金属含有種相は、同様に本願で記載されるケイ素含有種相と類似の形態において存在します。というのも、それらは同じプロセスによって作られるからです。」と述べている。 (イ)検討 請求人が提出した参考資料が,いつ,どこから発行されたものか不明であるので,本出願時点における技術常識を示すものとして参酌し得るか疑念があるが,これが本出願時点において公知の技術常識を示すものであるとして,内容を検討する。 参考資料の「カーボン-シリカの二相フィラーのシリカ形態(Silica morphology of carbon-silica dual phase filler)」には,上記ア(イ)で述べたように,STEM-EDX分析の結果として,シリカとカーボンブラックとが別個となった混合物とケイ素含有種がカーボンブラック凝集体の中に存在するカーボン-シリカの二相フィラーとが異なることが記載されているにすぎない。 また,「カーボン-シリカの二相フィラーの一般的概念(General view of carbon-silica dual phase filler)」には, 「Morphologically, the aggreates consist of two phases or domains, a carbon phase with a silica phase distributed in it. Presented in Fig.5 is the general picture of this new filler.」(第6頁右欄第4?9行) 「構造的には,凝集体は二相あるいは2つの領域からなり,カーボン相中に分配されたシリカ相を伴うカーボン相である。図5に示されているのが,新しいフィラーの一般的な写真である。」(当審による仮訳) と記載されており,凝集体がカーボン相とシリカ相の二相からなること,凝集体がカーボン相中にシリカ相が分配されたカーボン相であることは理解できるが,シリカ相の形態が記載されているわけではなく,また,図5も不明瞭で,どこがシリカの領域で,それが粒子ではないのか明確ではなく,シリカ相が「領域」であって「粒子」ではない「領域型金属種相」とはどのようなものか,参考文献の記載を参酌しても理解することができない。 さらにいえば,参考資料は,あくまでも「カーボン-シリカの二相フィラー」について記載されているにすぎず,本願請求項1の「カーボン相と領域型金属含有種相を含む凝集体」が記載されているわけではない。たとえ,同じプロセスで作られたとしても,理由2,3で後述するように,ケイ素以外の金属を用いた場合に,「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」として,必ず「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」が得られるとの技術常識があるとも認められない。 (3)小括 以上のとおり,請求項1の「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」とは,発明の詳細な説明及び請求人が提出した参考資料を参酌しても,請求人が主張するところの「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」の意味が不明であり,また,その構造についても,発明の詳細な説明に具体的な記載がなく,同様に,どのようなものかが明確であるとはいえない。 よって,請求項1に記載される「カーボン相および金属(但し、ケイ素は含まれない。以下同じ。)含有種相を有する、又はこれらに加えて更にケイ素含有種相を有する凝集体」の技術的意味が明確であるとはいえず,特許請求の範囲の記載の請求項1に記載された特許を受けようとする発明が明確ではない。 2 理由2について 理由1で述べたように,本願請求項1の「カーボン相および金属(但し、ケイ素は含まれない。以下同じ。)含有種相を有する、又はこれらに加えて更にケイ素含有種相を有する凝集体」の意味するところが明確とはいえないが,理由2については,請求人の主張どおり,「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」が「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」(すなわち,刊行物1に記載された「カーボンブラック粒子凝集体の内部に磁性粒子が捕捉されたもの」とは異なる構造の凝集体)であるとして,以下論ずる。 この点は,理由3も同様である。 (1)明細書のサポート要件について 特許法第36条第6項は,「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は,明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで,以下,この観点に立って,本願の特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かについて検討する。 (2)判断 ア 本願発明の課題について 本願の発明の詳細な説明には,「シリカを含むエラストマー配合物は、低い熱伝導率、高い電気抵抗率、高い密度、及び劣った加工性を呈する」こと,「エラストマー組成物の強化材としてカーボンブラックを単独で使用すると、カーボンブラックはエラストマーと化学的に結合しない」し,「カーボンブラックとカップリング剤を併用すると、エラストマー組成物にある程度の性能の改良を提供することがあるが、その改良は、カップリング剤をシリカに使用した場合のそれとは比較にならない」といった問題があることが記載され(摘記a参照),「カーボン相と金属含有種相を含む凝集体」は,「エラストマー組成物に混和され」,「これらのエラストマー組成物は、カーボン相とケイ素含有種相が存在する凝集体を含まないエラストマー組成物に比較し、改良された湿りスキッド抵抗ところがり抵抗を提供することができる」と記載されている(摘記b参照)ことから,発明の詳細な説明に記載される本願請求項1の特許を受けようとする発明(以下,「本願発明」という。)が解決しようとする課題は,「エラストマーに混和して改良された湿りスキッド抵抗ところがり抵抗を提供することができるカーボン相と金属含有種相を含む凝集体の製造方法の提供」にあるものと認められる。 ここで,実際に得られる「カーボン相と金属含有種相を含む凝集体」がエラストラマーに混和して改良された湿りスキッド抵抗ところがり抵抗を提供できるかはさておき,「カーボン相と金属含有種相を含む凝集体」,それも請求人の主張する「カーボン相と領域型金属含有種相を含む凝集体」が製造できなければならないから,少なくとも本願発明が解決しようとする課題は,「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体を製造する方法の提供」にあるものと認められる。 イ 判断 (ア)発明の詳細な説明との対比 発明の詳細な説明には,「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」の製造方法については,具体的な実施例は記載されておらず,「カーボン相と金属含有種相を含む凝集体は、多段反応器を用いて製造することができ、その反応器は、供給原料を反応器に導入するための少なくとも2つの段階を有する。第2の段階及び付加的な随意の段階は、第1の段階の下流に位置する。各段階に導入される供給原料は、カーボンブラック生成用供給原料、金属含有化合物、又はこれらの混合物を含む。少なくとも1つの供給原料は、カーボンブラック生成用供給原料を含み、少なくとも1つの段階は(カーボンブラック生成用供給原料を有する同じ段階であることができる)、金属含有化合物を含む。」(摘記g参照)との一般的な製造方法の記載があるのみである。 また,「カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体を製造するのに使用される方法は、カーボン相と金属含有種相を含む凝集体を製造する方法と実質的に同じである。」(摘記h参照)と記載され,「カーボン相と金属(但し、ケイ素は含まれない。)含有種相を有する凝集体」の製造方法は,「カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体」の製造方法と金属をケイ素からケイ素以外の金属とする点を除けば,同じ方法であると認められる。 ここで,「カーボン相と金属含有種相を有する凝集体」とは,「カーボン相と領域型金属含有種相を有する凝集体」のことであるが,上記1(1),(2)で述べたように,発明の詳細な説明には,金属含有化合物が熱分解して得られた金属又は金属化合物がカーボンブラック粒子凝集体の一部として含まれる以上のことは記載されておらず,特に,凝集体の「領域型金属含有種相」の構造的な特徴については何ら記載されていない。 したがって,発明の詳細な説明には,そもそも,カーボンブラック(カーボン相)の凝集体の内部に熱分解して得られる金属や金属化合物(金属含有種相)が一部分布しているだけではなく,さらに,「金属含有種相」が,熱分解して得られる金属や金属化合物が「粒子」ではなく,カーボンと共溶融されて「領域」となっている「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」については記載されていない。 (イ)本願発明の課題の解決について 仮に,発明の詳細な説明には,請求人が主張する,「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」が発明の詳細な説明に形式的に記載されているとしても,以下に述べるように,請求項1に記載された特許を受けようとする発明は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 本願請求項1に記載された「カーボン相および金属(但し、ケイ素は含まれない。)含有種相を有する凝集体」の製造方法は, 「(a)第1供給原料を、多段反応器の第1の段階に導入し、 (b)前記第1の段階の下流の箇所で、第2供給原料を前記反応器に導入し、 ここで、第1供給原料がカーボンブラック用供給原料を含み、第2供給原料が分解可能な金属含有化合物を含み、 (c)前記金属含有化合物を分解させ、前記カーボンブラック用供給原料を熱分解し、凝集体を作る温度で、前記反応器を操作し、そして (d)前記凝集体を回収すること を含」むものであって,得られた「凝集体」が、「凝集体の重量の0.1%?25%の金属元素を含有している」ようにするものである。 そして,このような本願請求項1に記載される製造工程を実際に実施したとしても,請求人が主張する,「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」が製造できるとはいえないことを,刊行物1の記載に基づいて説明する。 刊行物1には,以下の事項が記載されている。 (1-a)「1.反応炉頭部の燃焼室で、燃料を燃焼させて高温燃焼ガス流を形成し、この高温燃焼ガス流中に炭化水素原料を噴射導入して熱分解反応によりカーボンブラックを生成させ、次いで水を噴霧して冷却した後カーボンブラックを分離捕集するカーボンブラックの製造方法において、磁性遷移金属化合物を炭化水素原料の噴射導入部の下流域に噴射注入し、かつ同時に水素ガスを供給することを特徴とする磁性カーボンブラックの製造方法。 2.磁性遷移金属化合物がFe、Co、Niから選ばれた少なくとも1種の金属のメタロセン、またはカルボニル錯化合物あるいは無機塩、もしくは有機酸塩である特許請求の範囲第1項記載の磁性カーボンブラックの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1,2) (1-b)「本発明においては、上記カーボンブラックの生成過程において、磁性遷移金属化合物を遊離酸素の存在しない雰囲気中に噴射注入して熱分解し、炭化水素原料の熱分解とくにカーボンブラック核粒子の生成直後に磁性遷移金属やその化合物である磁性微粒子を生成させるものである。この磁性微粒子は、カーボンブラック核粒子に凝集捕捉されて共存しつつ、次いで系内の炭素源からの気相炭化反応による粒子成長を経て、カーボンブラック粒子組織内にとり込まれ一体化する。このようにして磁性微粒子は、カーボンブラックの基本粒子内部および粒子凝集体(アゲリケート)内部にカーボン層におおわれて、安定に固定化される。」(第3頁左上欄第18?右上欄第10行) (1-c)「炉頭部に燃焼バーナーおよび原料噴射ノズル(第1の原料噴射ノズル)を装着した燃焼室(直径200mm、長さ500mm)、該燃焼室と同軸的に連結する狭径反応室(直径80mm、長さ150mm)および狭径反応室にひき続く広径反応室(直径120mm、長さ1800mm)とから構成され、広径反応室には反応停止用冷却水噴霧孔を所定の各位置に設けた反応炉を設置した。 狭径反応室には、その先端部から80mmの位置に、第2の原料噴射ノズルを挿着した。また、狭径反応室先端部から130mmの位置に、炉軸に向って磁性遷移金属化合物の噴射注入孔を設けた。 この反応炉を用いて炭化水素原料、燃料、空気供給量、冷却水噴霧位置および水量等を調節制御してカーボンブラックを製造した。」(第4頁左上欄第10?右上欄第5行) (1-d)「「実施例1」 炭化水素原料としてクレオソート油およびベンゼンを、燃料にはプロパンを用いた。また、磁性遷移金属化合物としては、フェロセン[Fe(C_(6)H_(6))_(2)]および塩化第一鉄を使用した。 炭化水素原料は、全量を燃焼室に装着した第1の原料噴射ノズルからアルゴンガスで噴射導入した。フェロセンはエタノールを溶媒として、少量の界面活性剤を添加して濃度10wt%の分散液を調製し、また塩化第一鉄は濃度20wt%の水溶液を調製して、夫々噴射注入孔に挿入した注入ノズルから反応炉にアルゴンガスを用いて噴射注入した。同時に水素ガスを注入ノズルの周囲から所定の割合で供給した。比較例として、フェロセンをクレオソート油に濃度1.5wt%に添加溶解した場合についても実施した。 得られた磁性カーボンブラックの緒特性を製造条件と対比して表-1に示した。また、Run No.1(本発明例)およびNo.3(比較例)で得られた磁性カーボンブラックの粒子構造を示す電子顕微鏡写真を第1図および第2図に示した。 表-1の結果から本発明の磁性カーボンブラックは、優れた磁気的特性を有していることが判明する。また、第1図、第2図の比較から、本発明の磁性カーボンブラックは鉄微粒子の大部分がカーボンブラック粒子内部に捕捉固定化されているのに対して、比較例においては鉄微粒子はカーボンブラック粒子と単に融着結合して表面に露出している傾向が顕著であることが分かる。 なお、鉄微粒子の組成は、X線回折による解析結果から、α-Feの他にFeO、Fe_(3)O_(4)等の組成より成るものであった。 」(第4頁右上欄第6行?右下欄下から第5行) そうすると,刊行物1には,「反応炉頭部の燃焼室で、燃料を燃焼させて高温燃焼ガス流を形成し、この高温燃焼ガス流中に炭化水素原料を噴射導入して熱分解反応によりカーボンブラックを生成させ、次いで水を噴霧して冷却した後カーボンブラックを分離捕集するカーボンブラックの製造方法において、磁性遷移金属化合物を炭化水素原料の噴射導入部の下流域に噴射注入し、かつ同時に水素ガスを供給することを特徴とする磁性カーボンブラックの製造方法。」(摘記1-a)が記載され, 反応炉は,「炉頭部に燃焼バーナーおよび原料噴射ノズル(第1の原料噴射ノズル)を装着した燃焼室」,・・・「該燃焼室と同軸的に連結する狭径反応室」,「および狭径反応室にひき続く広径反応室とから構成され、広径反応室には反応停止用冷却水噴霧孔を」・・・「設けた反応炉」であって,「狭径反応室先端部から130mmの位置に、炉軸に向って磁性遷移金属化合物の噴射注入孔を設けた」ものであり(摘記1-c参照),「炭化水素原料は、全量を燃焼室に装着した第1の原料噴射ノズルからアルゴンガスで噴射導入」している(摘記1-d参照)ことが記載され,さらに,「カーボンブラックの生成過程において、磁性遷移金属化合物を・・・熱分解し」、「炭化水素原料の熱分解」を行わせることも記載されている(摘記1-c参照)。 すると,刊行物1には, 「反応炉頭部の燃焼室に装着された、原料噴射ノズルから炭化水素原料を噴射導入し、その下流の狭径反応室に磁性遷移金属化合物を噴射注入し、磁性遷移金属化合物を熱分解し、炭化水素原料を熱分解してカーボンブラックを生成し、次いで水を噴霧して冷却した後カーボンブラックを分離捕集する、磁性カーボンブラックの製造方法」が記載されているといえる。 そこで,本願請求項1の製造方法と刊行物1記載の製造方法を対比すると,刊行物1の「磁性金属遷移化合物」は本願請求項1の「分解可能な」「金属含有化合物」で「第2の供給原料」に相当し,刊行物1の「炭化水素原料」は「熱分解してカーボンブラックにする」ものであるから,本願請求項1の「カーボンブラック用供給原料」で「第1供給原料」に相当し,刊行物1の「反応炉」は「燃焼室」と「狭径反応室」と「広径反応室」を有するものであるから,請求項1の「多段反応器」といえ,刊行物1の「燃焼室」,「狭径反応室」が,それぞれ本願請求項1の「第1の段階」,「第2の段階」に相当する。 したがって,刊行物1記載の製造方法は,本願請求項1の 「(a)第1供給原料を、多段反応器の第1の段階に導入し、 (b)前記第1の段階の下流の箇所で、第2供給原料を前記反応器に導入し、 ここで、第1供給原料がカーボンブラック用供給原料を含み、第2供給原料が分解可能な金属含有化合物を含み、 (c)前記金属含有化合物を分解させ、前記カーボンブラック用供給原料を熱分解し、凝集体を作る温度で、前記反応器を操作し、そして (d)前記凝集体を回収すること」との工程をすべて含むことになる。 また,得られた磁性粒子の重量は凝集体の0.5重量%又は1重量%(摘記1-d参照)であって,これには「α-Feの他にFeO、Fe_(3)O_(4)等」を含むものである(摘記1-d参照)が,酸素元素が鉄元素に対して最大の割合で含まれているFe_(3)O_(4)のみからなると仮定しても,金属元素である鉄は0.5×55.8×3/(55.8×3+16.0×4)=0.36重量%,又は0.72重量%含まれるように原料である金属化合物が導入されているといえ,0.1?25重量%の範囲内にあるから,刊行物1記載の方法と本願請求項1に記載される方法は,製造工程としては何ら異なるところがない。 そして,刊行物1に記載される「磁性カーボンブラック」は,「磁性微粒子は、カーボンブラック核粒子に凝集捕捉されて共存しつつ、次いで系内の炭素源からの気相炭化反応による粒子成長を経て、カーボンブラック粒子組織内にとり込まれ一体化する」(摘記1-b参照)ものであって,磁性微粒子となる磁性遷移金属は,Fe,Ni,Coである(摘記1-a参照)から,少なくとも,カーボンブラック(カーボン相)の凝集体の内部に熱分解して得られる金属や金属化合物(金属(但し、ケイ素は含まない。)含有種相)が一部分布している構造を有する凝集体であるが,請求人の主張する「カーボン相および領域型金属含有種相を含む凝集体」ではない(上記1(1)イ参照)。 そうすると,本願請求項1に記載された方法を実施しても,請求人の主張する「カーボン相および領域型金属含有種相を含む凝集体」を製造できないことがあるから,請求項1に記載された特許を受けようとする発明は,そのすべての範囲にわたって,「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」を得るとの本願発明の課題を解決することができるとは認められない。 さらに,本願請求項1の(a)?(d)に記載された工程,凝集体中の金属元素含有量の調整のほかに,どのような操作や条件設定等を行えば,請求人が主張するところの「カーボン相および領域型金属含有種相を含む凝集体」を製造することができるのか,実施例を含めて発明の詳細な説明に記載がなく,また,そのような説明がなくとも当業者がそのような操作や条件設定等を理解して目的物を得ることができるものとも認められない。 (ウ)請求人の主張について 請求人は,平成24年1月23日付けの意見書で,「刊行物1に記載の方法で用いられる反応炉の構成及びその操作条件は、本願の請求項1の方法を実行するために本願明細書で開示される多段反応器及びその操作条件には何ら対応してい」ないとし,「刊行物1の実施例1及び2では、磁性遷移金属化合物の導入と同時に水素ガスが導入されて」いるのに対して,「本願明細書には、このような水素ガスの導入を本願発明のカーボン相及び金属含有種相を有する凝集体の製造方法において使用又は許容できる」ものではない点並びに「刊行物1に記載の磁性カーボンブラックの製造に関する全体的な燃焼速度は」本願請求項1の「多相凝集体の製造と関連した全体的な燃焼速度に対応」しない点で異なると主張している。 しかしながら,請求項1には,「(a)第1供給原料を、多段反応器の第1の段階に導入し」,「(b)前記第1の段階の下流の箇所で、第2供給原料を前記反応器に導入し、 ここで、第1供給原料がカーボンブラック用供給原料を含み、第2供給原料が分解可能な金属含有化合物を含み」と記載されているのみであって,「水素ガスの導入を同時に行う」場合が,本願の請求項1の工程(a),(b)から除外されているとは認められないし,燃焼速度については,特許請求の範囲の請求項1に発明特定事項として何ら記載されていないのであるから,上記(イ)で述べたとおり,本願の特許請求の範囲請求項1に記載される発明特定事項に基づいて対比するかぎり,刊行物1記載の製造方法と何ら差はなく,特許請求の範囲請求項1に記載された発明によって,本願発明の課題が解決できるとは認められないことに変わりはない。 (3)小括 以上のとおりであるから,特許請求の範囲の記載の請求項1に記載された特許を受けようとする発明は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 3 理由3について (1)実施可能要件について 特許法第36条第4項は,「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その第1号において「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。同号は,明細書のいわゆる実施可能要件を規定したものであって,その物を製造する方法の発明の場合,その物を製造する方法についての具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか,そのような記載がない場合には,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき,当業者が過度の試行錯誤を行う必要なく,その物を製造することができなければならないと解される。 そこで,発明の詳細な説明に,「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」の製造方法が具体的に記載されているか,それがない場合には,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき,当業者が過度の試行錯誤を行う必要なく,このような「カーボン相および金属(但し、ケイ素は含まれない。)含有種相を有する凝集体」を製造できるか検討する。 (2)判断 ア 具体的な製造方法について 発明の詳細な説明には,上記2(2)イ(ア)に記載したように,そもそも「カーボン相と金属含有種相を含む凝集体」を具体的に製造した実施例は記載されていないし,当然のこととして,「カーボン相と領域型金属含有種相を含む凝集体」の製造方法についても記載されていない。 イ 実施にあたっての過度の試行錯誤の必要性 (ア)「カーボン相と領域型金属含有種相を含む凝集体」の確認 上記アで述べたように,具体的に「カーボン相と領域型金属含有種相を含む凝集体」は製造されておらず,その物理的なデータも一切記載されておらず,また,発明の詳細な説明の記載される製造方法によって得られたものが,単にカーボン凝集体の内部の金属酸化物が捕捉された凝集体ではなく,「カーボン相と領域型金属含有種相を有する凝集体」であることをどのように確認することができるのか発明の詳細な説明には記載がない。 また,上記1(2)で述べたように,STEM-EDX分析の結果や,参考資料の記載を参酌しても,カーボン凝集体の内部に金属酸化物が捕捉された凝集体と,「カーボン相と領域型金属含有種相を有する凝集体」を区別できるか不明であるから,本願明細書に記載された方法で製造されたものが「カーボン相と領域型金属含有種相を有する凝集体」であることを確認できるとはいえず,当業者が,「カーボン相と領域型金属含有種相を有する凝集体」を容易に製造できるということはできない。 (イ)発明の詳細な説明に記載された製造方法による実施可能性について 発明の詳細な説明には,「カーボン相と金属含有種相を含む凝集体は、多段反応器を用いて製造することができ、その反応器は、供給原料を反応器に導入するための少なくとも2つの段階を有する。第2の段階及び付加的な随意の段階は、第1の段階の下流に位置する。各段階に導入される供給原料は、カーボンブラック生成用供給原料、金属含有化合物、又はこれらの混合物を含む。少なくとも1つの供給原料は、カーボンブラック生成用供給原料を含み、少なくとも1つの段階は(カーボンブラック生成用供給原料を有する同じ段階であることができる)、金属含有化合物を含む。・・・反応器は、金属含有化合物を分解してカーボンブラック生成用供給原料を生成させる(即ち、カーボンブラック生成用供給原料の熱分解)のに十分な温度に維持される。」(摘記g参照)との一般的な製造方法が記載されており,この製造方法は,本願請求項1に記載される 「(a)第1供給原料を、多段反応器の第1の段階に導入し、 (b)前記第1の段階の下流の箇所で、第2供給原料を前記反応器に導入し、 ここで、第1供給原料がカーボンブラック用供給原料を含み、第2供給原料が分解可能な金属含有化合物を含み、 (c)前記金属含有化合物を分解させ、前記カーボンブラック用供給原料を熱分解し、凝集体を作る温度で、前記反応器を操作し、そして (d)前記凝集体を回収すること を含」む製造工程そのものであって,これが刊行物1記載のカーボンブラック凝集体の内部に磁性粒子が捕捉された凝集体の製造方法と何ら変わらないことは上記2(2)イ(イ)で述べたとおりである。 そうすると,発明の詳細な説明に記載された製造方法にしたがって,「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」を製造したとしても,「金属含有化合物が熱分解して得られた金属又は金属化合物がカーボンブラック粒子凝集体の一部として含まれるもの」しか得られず,必ずしも「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」を製造できないこととなるから,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき,当業者が過度の試行錯誤を行う必要なく,このような「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」を製造できるとはいえない。 (ウ)請求人の主張について 請求人は,平成24年1月23日付けの意見書で,「刊行物1に記載の方法で用いられる反応炉の構成及びその操作条件は、本願の請求項1の方法を実行するために本願明細書で開示される多段反応器及びその操作条件には何ら対応してい」ないとし,「刊行物1の実施例1及び2では、磁性遷移金属化合物の導入と同時に水素ガスが導入されて」いるのに対して,「本願明細書には、このような水素ガスの導入を本願発明のカーボン相及び金属含有種相を有する凝集体の製造方法において使用又は許容できる」ものではない点並びに「刊行物1に記載の磁性カーボンブラックの製造に関する全体的な燃焼速度は」本願の「多相凝集体の製造と関連した全体的な燃焼速度に対応」しない点で異なると主張している。 この主張を検討するに,「カーボン相および金属(但し、ケイ素は含まれない。)含有種相を有する凝集体」の具体的な製造方法は発明の詳細な説明に記載されていないから,その製造方法についての一般的な記載(摘記g参照)に基づいて対比せざるを得ず,この記載に基づくかぎり,本願の請求項1の方法を実行するために本願明細書で開示される多段反応器及びその操作条件は,刊行物1の具体的な製造方法である実施例1,2と変わらないことは上記2(1)イ(イ)で述べたとおりである。 確かに,本願の発明の詳細な説明に記載される「カーボン相およびケイ素含有種相を有する凝集体」の製造方法である実施例1,2においては,ケイ素含有化合物を添加するに際して水素を同時に導入することは記載されていない(摘記j,k参照)が,逆に,発明の詳細な説明には,「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」の製造において,熱分解する金属化合物の導入と同時に水素ガスを導入してはならないことを示唆する記載はなく,「高温燃焼ガスを発生させために燃焼ゾーン1で酸化剤の流れに接触させるのに適切な燃料には、任意の容易に燃焼する気体又は液体の流れが挙げられ、例えば、天然ガス、水素、メタン、アセチレン、アルコール、ケロシンである。」と記載されている(摘記d参照)ことからすると,燃焼ゾーンに導入した燃料の未燃成分が連結する供給原料注入ゾーンや反応ゾーンにも存在し得ると解されるから,発明の詳細な説明には,製造工程において「水素」を導入することを,むしろ許容する記載があるといえる。 さらに,発明の詳細な説明の「反応器にカーボンブラック生成用供給原料とケイ素含有化合物が存在することは、カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体をもたらす。」(摘記e参照),「一般に、ケイ素含有化合物がカーボンブラック生成用供給原料と実質的に同時に導入されるならば、ケイ素含有種相は凝集体の全体にわたって分布する。ケイ素含有化合物が、カーボンブラックの生成が開始したが反応流れがクエンチに供される前(即ち、カーボン相の生成の間)の反応ゾーンに導入されるならば、ケイ素含有種相は、主として凝集体の表面又はその付近に存在するが、依然としてカーボン相と同じ凝集体の一部である。」(摘記f参照)との記載からすれば,カーボンブラック生成用原料とケイ素含有化合物が同時に存在しさえすれば「カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体」が得られるものとして記載されているといえる。 そうすると,本願の発明の詳細な説明に記載される「カーボン相およびケイ素含有種相を有する凝集体」の製造方法である実施例1,2が,水素を金属化合物と同時に導入しないものであっても,ケイ素以外の金属を用いて,「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」を製造する際に,水素を金属化合物と同時に導入したからといって,「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」を製造することができないことの根拠とはならない。 この点は,平成21年9月9日付けの拒絶理由で通知した特開昭64-43569号公報(引用文献3)に,水素を磁性遷移金属化合物と同時に導入しなくても,磁性遷移金属化合物の熱分解物である磁性金属微粒子が炭化水素原料の熱分解で生じたカーボンブラック一次粒子中にミクロ的に均一に分散して融着固定される,すなわち,刊行物1と同様の金属含有化合物が熱分解して得られた金属又は金属化合物である磁性粒子がカーボンブラック粒子凝集体の内部に捕捉された凝集体が生成することが記載されている(公報第3頁左上欄第19行?第4頁左上欄第4行参照)ことからしても裏付けられているといえる。 また,本願の発明の詳細な説明には,「カーボン相および金属含有種相を有する凝集体」を製造するために,「全体的な燃焼速度」がどの程度が適切であるのか記載されておらず,「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」を製造するのに必要な全体的な燃焼速度をどのように設定すべきかも記載されていない。 そうすると,刊行物1の燃焼速度が本願明細書記載の製造条件における「多相凝集体の製造と関連した全体的な燃焼速度に対応」しないとの主張は,その根拠がないといわざるを得ない。 (3)小括 以上のとおりであるから,請求人が主張するところの,「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」を製造するための具体的な条件が発明の詳細な説明に記載されおらず,また,発明の詳細な説明の記載及び技術常識を参酌しても,当業者がこのような凝集体を過度の試行錯誤なく製造できるとはいえない。 したがって,発明の詳細な説明には,特許請求の範囲の記載の請求項1に記載された特許を受けようとする発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 第5 請求人の主張 1 請求人の主張の概要 請求人の主張について,すでに論じた点については省略する。 (1)理由2,3の拒絶理由の前提について 請求人は,上記の理由2,3に対して,平成24年8月28日付けの意見書において,「本願発明の方法又はそれによって製造される凝集体と刊行物1に記載の方法又はそれによって製造される生成物との間に差異がないことを前提として、本願がサポート要件及び実施可能要件を満たさない旨を指摘されていると考えます。 しかしながら、上記理由1において説明しました内容及び平成24年1月23日付け提出の意見書において述べました内容から、本願発明の方法によって製造される凝集体と刊行物1に記載の方法によって製造される生成物が異なるものであることは明らかであると思料いたします。」と主張している。 (2)本願のサポート要件及び実施可能要件について 平成24年8月28日付けの意見書においては,本願がサポート要件及び実施可能要件を満たす理由については審判請求書に記載されたとおりとし,審判請求書において, 「確かに、本願の実施例1及び2では、原審査官殿が指摘するとおり、ケイ素が含まれない金属含有化合物を用いた方法を具体的には示しておりません。しかしながら、一方で、本願明細書の段落0021には「カーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体を製造するのに使用される方法は、カーボン相と金属含有種相を含む凝集体を製造する方法と実質的に同じである。」ことが明確に記載されています。本願明細書のこの記載を参酌すれば、当業者であれば、本願の実施例1及び2に記載されるカーボン相とケイ素含有種相を含む凝集体の製造方法を、カーボン相と金属含有種相を含む凝集体を製造するのに実質的に使用できることを容易に理解するはずです。 加えて、本願明細書の段落0022には、本願発明の方法において使用することができる「分解可能な又は気化可能な金属含有化合物」について具体的に記載されています。したがって、本願明細書の開示を参照した当業者であれば、段落0022に記載されるこれらの金属含有化合物を、本願の実施例1及び2の方法で用いられるケイ素含有化合物(具体的にはオクタメチルシクロテトラシロキサン(OMTS))に代えて又はそれに加えて使用することで、カーボン相、金属含有種相及び任意選択でケイ素含有種相を含む凝集体を製造することができると容易に理解するはずです。」及び, 「付け加えるならば、参考として、例えば、米国特許第6,150,453号では、カーボン相と金属含有種相を含む凝集体をケイ素含有種相なしで製造できることが記載されています。具体的には、米国特許第6,150,453号では、このような凝集体を製造するための金属含有種相としてアルミニウムと亜鉛を用いた実施例が記載されています(対応する特表2001-520702号公報の例1及び2を参照)。これらの実施例に記載の方法は、本願発明のような原料の多段添加を用いるものではなく、単一の原料として全ての成分を添加するものではありますが、これらの実施例では、少なくともケイ素含有相の存在なしでカーボン相と金属含有種相を含む凝集体が製造可能であり、そしてこのような凝集体の有用性が具体的に示されています。 したがって、本願明細書の開示や技術常識等を考慮すれば、当業者は、金属含有種化合物の使用を伴う本願発明の方法が実施しうること、実施した際に所望の相が存在すること、また、その際に所望の作用効果を奏することを十分に推認できるものと思料いたします。」と主張している。 2 検討 (1)理由2,3の拒絶理由の前提について 請求人は,「本願発明の方法又はそれによって製造される凝集体と刊行物1に記載の方法又はそれによって製造される生成物との間に差異がないことを前提として、本願がサポート要件及び実施可能要件を満たさない旨を指摘されている」と述べているが,理由2,3は,上述のとおり,また,平成23年2月21日付けの拒絶理由にも記載したとおり,本願発明の方法によって製造される凝集体と刊行物1に記載の方法によって製造される生成物との間に,差異があることを前提として指摘したものであるから,請求人の主張はその前提において誤っており,採用することができない。 また,本願発明の製造方法と刊行物1に記載の製造方法とは,本願の特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項によって対比する限り差異がないことは,上記「第4 2(2)イ(イ)」で述べたとおりであり,また,発明の詳細な説明に記載された製造方法によって対比しても差異があるとはいえないことは,「第4 3(2)イ(ウ)」で述べたとおりであって,この主張も採用することができない。 (2)本願のサポート要件及び実施可能要件について 審判請求書で述べているサポート要件及び実施可能要件の充足性に関する請求人の主張については,上記「第4 2(2)イ」,「第4 3(2)イ」で述べたように,発明の詳細な説明の記載からは,特許請求の範囲の請求項1に記載された製造方法によって,「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」を製造することができるとはいえず,このような凝集体の製造方法が明確かつ十分に記載されているとはいえない。 請求人は,米国特許第6,150,453号では,このような凝集体を製造するための金属含有種相としてアルミニウムと亜鉛を用いた実施例が記載されていると主張している。しかしながら,サポート要件や実施可能要件は,明細書の記載と出願時の技術常識を基準として判断されるものであるから,明細書に記載されていないものについて後から実施例を提示することによって,記載不備が治癒するものではない。 また,この実施例を参酌したとしても,これらの実施例で得られた凝集体が,「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」であるかどうかは不明であるから,サポート要件及び実施可能要件を満たしているとはいえない。 さらにいえば,この実施例で得られた「カーボン相および金含有種相を有する凝集体」が,請求人の主張するところの「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」であるとしても,上記「第4 2(2)イ」,「第4 3(2)イ」で述べたように,本願の請求項1に記載される発明と同じ製造方法である刊行物1記載の方法で得られた凝集体は,「カーボン相および領域型金属含有種相を有する凝集体」とはならないことが示されているのであるから,本願請求項1に記載された特許を受けようとする発明は,そのすべての範囲において,サポート要件及び実施可能要件を満たしているわけではない。 よって,請求人の主張を採用することはできない。 第6 むすび 以上のとおり,本願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確とはいえず,また,発明の詳細な説明に記載したものではないから,特許法第36条第6項第1号又は同条第2号に適合せず,本願は,特許法第36条第6項の規定を満たしていない。 さらに,本願の発明の詳細な説明には,当業者がその発明を実施できることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから,本願は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-09-26 |
結審通知日 | 2012-10-02 |
審決日 | 2012-10-18 |
出願番号 | 特願2009-89405(P2009-89405) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(C09C)
P 1 8・ 536- WZ (C09C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 木村 敏康、大熊 幸治 |
特許庁審判長 |
井上 雅博 |
特許庁審判官 |
村守 宏文 齋藤 恵 |
発明の名称 | 凝集体の製造方法 |
代理人 | 小林 良博 |
代理人 | 永坂 友康 |
代理人 | 出野 知 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 石田 敬 |