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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
管理番号 1270635
審判番号 不服2012-16647  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-27 
確定日 2013-02-27 
事件の表示 特願2007- 29976「成形体およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月28日出願公開、特開2008-194864〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年 2月 9日の出願であって、平成24年 5月22日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成24年 8月27日付けで拒絶査定不服審判が請求がされ、平成24年10月 5日付けで当審によって拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の通知がなされ、平成24年12月 3日付けで意見書及び補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成24年12月 3日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。
「光重合性樹脂組成物による成形体の製造方法であって、
光重合性樹脂組成物を成形型に充填する工程と、
前記成形型に充填された光重合性樹脂組成物に、インテグレーターレンズを含む光学系を経由した平行光を照射して前記光重合性樹脂組成物を重合硬化させ、光重合性樹脂組成物からなるマトリックスと、該マトリックス内に所定パターンで配設され該マトリックスと屈折率が異なる複数の柱状構造体とからなる相分離構造を有する成形体を形成する工程と、を備え、
前記インテグレーターレンズが、複数個のレンズ部が正方格子状に配置されることによって構成され、
前記平行光がフォトマスクを経ることなく、前記成形型に充填された光重合性樹脂組成物に照射され、
前記柱状構造体が、マトリックス中で正方格子状に配置されている、
ことを特徴とする成形体の製造方法」

3.引用刊行物及び周知例の記載
(1)引用刊行物について
当審拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2005-265915号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、「異方性拡散媒体及びその製造方法」(発明の名称)が記載され、図面とともに次の記載がある。
(引1ア)「【0001】
本発明は、入射光の入射角度に応じて直線透過光量が大きく変化する異方性拡散媒体およびその製造方法に関する。」

(引1イ)「【0019】
本発明の異方性拡散媒体について、以下詳細に説明を行う。
図6に、本発明の一実施形態である異方性拡散媒体の模式図を示す。光硬化性化合物を含む組成物の硬化物からなるシート状の異方性拡散媒体1の内部には、微小な棒状硬化領域2が多数形成されている。これら棒状硬化領域2は、異方性拡散媒体1の法線S方向に配された点状光源から互いに平行な紫外線を照射して形成されており、これら棒状硬化領域は全て法線S方向と平行に形成されている。このような本発明の異方性拡散媒体の一例における断面の電子顕微鏡写真を、図7(a)および図7(b)に示す。これらは図6におけるA-A線断面図およびB-B線断面図である。すなわち、本発明で言う棒状硬化領域の集合体とは、図6に模式的に表したが、図7に示す電子顕微鏡写真に基づくものであって、このような断面形状を有するように形成されたものを意味するものである。また、棒状とは照射光源から推定して図6では円柱状に模式的に記載したが、厚さ方向に棒状に形成された状態を意味するもので、その形状は円状、多角形状、不定形状など、特に限定されるものではない。」

(引1ウ)「【0030】
次に、本発明の異方性拡散媒体は、光硬化性化合物を含む組成物を硬化した異方性拡散層を含むものであるが、この組成物としては次のような組み合わせが使用可能である。
(1)後述する単独の光重合性化合物を使用するもの
(2)後述する複数の光重合性化合物を混合使用するもの
(3)単独又は複数の光重合性化合物と、光重合性を有しない高分子化合物とを混合して使用するもの
【0031】
いずれの組み合わせにおいても、光照射により異方性拡散層中に、屈折率の異なるミクロンオーダーの微細な構造が形成されるようであり、これにより本発明に示される特異な異方性拡散特性が発現できるものと思われる。従って、上記(1)では光重合の前後における屈折率変化が大きい方が好ましく、また(2)(3)では屈折率の異なる複数の材料を組み合わせることが好ましい。なお、ここで屈折率変化や、屈折率の差とは、具体的に0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上の変化や差を示すものである。
【0032】
本発明の異方性拡散層を形成するのに必須な材料である光硬化性化合物は、ラジカル重合性またはカチオン重合性の官能基を有するポリマー、オリゴマー、モノマーから選択される光重合性化合物と光開始剤とから構成され、紫外線及び可視光線を照射することにより重合・固化する材料である。」

(引1エ)「【0041】
本発明では、上記の光硬化性化合物を単独で、または複数を混合した組成物を硬化させて、異方性拡散層を形成することが出来る。また、光硬化性化合物と光硬化性を有しない高分子樹脂の混合物を硬化させることによっても本発明の異方性拡散層を形成可能である。ここで使用できる高分子樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン-アクリル共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、セルロース系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩ビ-酢ビ共重合体、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。」

(引1オ)「【0042】
本発明の異方性拡散媒体は、上述の光硬化性化合物を含む組成物をシート状に設け、これに直線Pの方向から平行光線を照射して、該組成物を硬化させることにより製造されるものである。・・・(略)・・・また、組成物が低粘度の場合は、基体の周囲に一定の高さの堰を設けて、この堰で囲まれた中に組成物をキャストすることも出来る。」

(引1カ)「【0043】
シート状に設けた光硬化性化合物を含む組成物に光照射を行うための光源としては、通常はショートアークの紫外線発生光源が使用され、具体的には高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタハライドランプ、キセノンランプ等が使用可能である。なお、棒状の発光面を有する光源は、本発明では不適当である。このような棒状光源を使用すると、板状の硬化領域が形成され、図1、図2、および図12に示す従来の光拡散媒体となってしまう。本発明では、シート状に形成された光硬化性化合物を含む組成物に対して、所定の方向(直線P)から平行光線を照射させる必要があり、レジストの露光に使用される露光装置を使用することが好ましい。また、サイズが小さいものを作製する場合は、紫外線スポット光源を用いて十分離れた距離から照射することも可能である。」

これらの記載によれば、引用刊行物には、「アクリル樹脂を含む光硬化性化合物である光重合性樹脂組成物による異方性拡散媒体の製造方法であって、レジストの露光に使用される露光装置を使用して、シート状に形成された光重合性樹脂組成物に対して、平行光を照射して、前記光重合性樹脂組成物を重合硬化させることで、屈折率の異なるミクロンオーダーの微細な円柱状の棒状硬化領域を、異方性拡散媒体内に多数形成する工程を備えた異方性拡散媒体の製造方法」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(2)周知例1について
当審拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である「特集 ウシオの露光装置」、ライトエッジ No.23、ウシオ電機株式会社、2001年11月発行、45?49頁(以下、「周知例1」という。)には、図とともに次の記載がある。
(周1ア)「4.2.1 露光照明系とは
露光照明系とは、露光装置において、マスク(原画)を通じてワーク上のレジストに必要な光を照射するためのものである。露光照明系には、レジストや加工パターンの精度に適した、明るく均一な光が求められる。露光方式には、大別して以下の3方式があり、照明系もそれに対応したものが必要とされる。
q コンタクト/プロキシミティ方式
w レンズプロジェクション方式
e ミラープロジェクション方式
各方式の光学系の例を図4-16に示す。」(45頁左欄)

(周1イ)図4-16には、次の図が記載されている。


(周1ウ)「(2)インテグレータ部
インテグレータ部は、集光鏡で集光した光を効率よく照射部へ導くとともに、照射面での均一性を得るための部位である。インテグレータ部は、インプットレンズ、インテグレータ(別称フライアイレンズ、ミキサー)、アウトプットレンズ、波長選択のためのフィルタ、アパーチャなどで構成される。
インテグレータは、複眼レンズ構造をした石英レンズ集合体であり、入射側レンズ素子群と出射側レンズ素子群が対向して配置されている。なお、1枚のレンズ(ロッドレンズ)素子群で構成することもある。インテグレータの機能は、集光鏡によって入射側レンズ面上に集光された光を、対向する出射側レンズによって照射面上に投影するものである。投影された各々の光は照射面上で積分されるため、放射照度の分布は均一となる。また、照射面の形状はレンズ素子の形状と一致することになる。」(48頁左欄下から9行?右欄8行)

(3)周知例2について
当審拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2000-353418号公報(以下、「周知例2」という。)には、「照明装置およびそれを用いた投影露光装置」(発明の名称)が記載され、図面とともに次の記載がある。
(周2ア)「【0003】図29の事例においては、オプティカルインテグレーターを用いたケーラー照明を行って、均一な照明を実現している。・・・(略)・・・
【0004】なお、照明領域の形状に合わせて照明するためには、ケーラー照明であることから、オプティカル・インテグレーターからの射出角が照明位置に対応するように、オプティカル・インテグレーター4であるハエノ目レンズを設計し、採用すればよい。例えば、照明領域が正方形であれば、断面が正方形である棒レンズを並べた、図30に示すような、ハエノ目レンズを用いればよく、また、照明領域が矩形であれば、断面が照明領域と縦横比が同一な矩形である棒レンズを並べた、図31の(a)のような矩形ハエノ目レンズを用いればよい。」

(周2イ)図30からは、断面が正方形である棒レンズが、全体として正方形状となるように、並べられることが看取される。

4.対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「異方性拡散媒体」は、本願発明の「成形体」及び「マトリックス」に相当し、引用発明の「円柱状の棒状硬化領域」は、本願発明の「柱状構造体」に相当する。
また、上記「円柱状の棒状硬化領域」は、光硬化性化合物を含む組成物の硬化物の異方性拡散媒体の他の部分とは屈折率が異なっている。
一方、上記「異方性拡散媒体」は、「光重合の前後における屈折率変化が大きい」(段落【0031】)ものであるから、上記「円柱状の棒状硬化領域」は、光重合の程度が他の部分よりは進んでいない構造、すなわち、相分離構造を有していることは明らかである。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「光重合性樹脂組成物による成形体の製造方法であって、
前記光重合性樹脂組成物に、平行光を照射して前記光重合性樹脂組成物を重合硬化させ、光重合性樹脂組成物からなるマトリックスと、該マトリックスと屈折率が異なる複数の柱状構造体とからなる相分離構造を有する成形体を形成する工程と、を備えた成形体の製造方法。」である点で一致し、次の相違点1及び2で相違する。

(相違点1)
本願発明は、「光重合性樹脂組成物を成形型に充填する工程」を有しているのに対し、引用発明では、光硬化性化合物である光重合性樹脂組成物をシート状に設けているものの、そのような特定はない点。

(相違点2)
平行光の照射について、本願発明は、「インテグレーターレンズを含む光学系を経由した平行光を照射して」、「前記平行光がフォトマスクを経ることなく、前記成形型に充填された光重合性樹脂組成物に照射され」ていて、「インテグレーターレンズが、複数個のレンズ部が正方格子状に配置され」ており、柱状構造体が、「マトリックス内に所定パターンで配設され」、「マトリックス中で正方格子状に配置されている」のに対し、引用発明では、レジストの露光に使用される露光装置を使用していて、本願発明の「柱状構造体」に相当する「円柱状の棒状硬化領域」の配置については、本願発明のような特定はない点。

5.当審の判断
(相違点1について)
引用刊行物には、組成物をシート状に設けるために、「基体の周囲に一定の高さの堰を設けて、この堰で囲まれた中に組成物をキャストすること」(引1オ)が記載されている。
この基体と堰とが、本願発明の「成形型」に相当するものである。
したがって、本願発明の相違点1に係る構成は、引用刊行物の記載に基いて、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
引用発明では、平行光の照射に、レジストの露光に使用される露光装置を用いている。
ここで、レジストの露光に使用される一般的な露光装置では、フォトマスク(フォトマスクは、周知例1に記載されたように「マスク」、周知例2に記載されたように「レチクル」と呼ばれることがあることは明らかである。)が使用されることがあるとしても、フォトマスクとは、「パターンを切り抜いた,金属または他の物質の薄いシート.集積回路の製作にさいして,半導体または他の表面に塗布した感光剤に適切な露光を与えるのに用いる.」(「マグローヒル科学技術用語大辞典改訂第3版」、株式会社日刊工業社、2001年5月31日、1560頁)ものであって、所定のパターンの露光を行うために用いられるものである。
これに対し、引用発明では、レジストの露光に使用される露光装置を用いているといっても、パターンを用いて集積回路等の製作をするものではなく、単に、当該装置によって形成される平行光を用いるものであるから、引用発明で使用される露光装置では、フォトマスクのようなパターンを用いないで、平行光を照射していることは明らかである。
すなわち、相違点2において、「前記平行光がフォトマスクを経ることなく、前記成形型に充填された光重合性樹脂組成物に照射され」ている点は、実質的な相違点ではない。

また、レジストの露光に使用される露光装置に、インテグレータレンズを用いることは周知である(周知例1、2を参照。)。
そして、レジストの露光に使用される一般的な露光装置においては、レジストが設けられるウエハ(ワーク)が円形であり、ワークに形成される複数の半導体素子の形状が矩形であることから、複数の半導体素子の領域のレジストに対して、効率的に露光を行うこと等を考慮して、照射領域を正方形状とすることは、ごく一般的に行われている。
しかも、照射領域を正方形状とするものに用いられるインテグレータレンズである、複数個のレンズ部が正方格子状に配置されているものは周知である(周知例2の図30に示すような、ハエノ目レンズを参照。)。

そして、引用刊行物には、シート状の光重合性樹脂組成物に対して照射される平行光線の照射領域については何ら特定はされておらず、引用刊行物の図6には、ウエハの形状と類似した形状のシート状の光重合性樹脂組成物が示されていることから、引用発明のレジストの露光に使用される露光装置において、ウエハに対するものと同様に、平行光線の照射領域を正方形状とすることは、当業者が普通に採用する設計的事項であって、引用発明において、「インテグレーターレンズを含む光学系を経由した平行光を照射して」、「インテグレーターレンズが、複数個のレンズ部が正方格子状に配置され」たものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、引用発明において、複数個のレンズ部が正方格子状に配置されているインテグレータレンズを採用したものでは、平行光が正方形状に照射されるのであるから、光重合の前後における屈折率変化が大きい部分が正方形状内に特定のパターンで形成されることが予測されることから、柱状構造体が、「マトリックス内に所定パターンで配設され」、「マトリックス中で正方格子状に配置されている」ことは、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に予測し得ることである。
よって、本願発明の相違点2に係る構成は、当業者が容易に想到し得たことである。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-19 
結審通知日 2012-12-25 
審決日 2013-01-10 
出願番号 特願2007-29976(P2007-29976)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大村 博一  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 藤原 敬士
川端 修
発明の名称 成形体およびその製造方法  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 井野 砂里  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 弟子丸 健  

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