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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A62C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A62C
管理番号 1270644
審判番号 不服2011-11095  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-26 
確定日 2013-03-21 
事件の表示 特願2005- 89864「遮煙エレベータ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月 5日出願公開、特開2006-263374〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年3月25日の出願であって、平成23年4月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に特許請求の範囲を対象とする手続補正がなされたものである。

第2 原査定
原査定における拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
「この出願の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.特開2002-97806号公報」

上記刊行物の特開2002-97806号公報を、以下「引用例1」という。

第3 平成23年5月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年5月26日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正後の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
吹き抜け構造を有し、火災発生の際、エレベータ近辺の煙がエレベータ付近に設けたスリットを通じ、減圧された吹き抜け内に流れることを特徴とする防炎エレベータ装置。」
と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明におけるエレベータ扉前の空気の流動除去について「吹き抜け構造を有し、火災発生の際、エレベータ近辺の煙がエレベータ付近に設けたスリットを通じ、減圧された吹き抜け内に流れる」と限定するものということが一応可能であり(「エレベータ近辺」は必ずしも「エレベータ扉前」を含まないと解する余地もある)、産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではないことは明らかである。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物
(1)本願の出願日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用例1には、高層集合住宅及び加圧防排煙方法に関し、図面とともに次の事項が記載されている。
(1a)「【0002】
【従来の技術】高層集合住宅には、火災時の安全性、すなわち、万一の火災にも安全に避難できる建物であることが要求される。
【0003】そして、避難時の安全性を確保するには、廊下、附室、エレベータシャフト等が、以下に挙げる条件を具備していることが必要である。
・・・
【0006】3.エレベータシャフト:他階への漏煙を防ぐために煙がエレベータシャフトへ流入しないこと。」
(1b)「【0034】また、回廊14の天井には、排煙口32が設けられている。排煙口32には排煙ダクト34が接続されており、屋上に配置された排煙ファン36を稼動させることで、排煙口32を通じて回廊14内の煙が外界へ排煙される。」
(1c)図2及び図3の記載より、建物内のエレベータ装置EVが看取できる。また、エレベータホールEHに近接して排煙口32が設けられ、さらにその先の空間に排煙ファン36が設けられていることが看取でき、上記1bの記載事項も合わせれば、火災発生の際、エレベータ近辺の煙がエレベータ付近に設けた排煙口を通じ、減圧された空間内に流れるものといえる。

記載事項1a?1c及び図面の記載を総合すると、引用例1には次の発明が記載されているといえる(以下「引用発明」という。)。

「火災発生の際、エレベータ近辺の煙がエレベータ付近に設けた排煙口を通じ、減圧された空間内に流れる、万一の火災にも安全に避難できる建物内のエレベータ装置EV。」

(2)本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平8-38636号公報(以下「引用例2」という。)には、放射型防煙区画システムに関し、図面とともに次の事項が記載されている。
(2a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、火災時等の排煙処理に使用される防煙区画システムに関する。」
(2b)「【0009】
【実施例】本実施例は、本発明の防煙区画システムを複数階の建物(例えば、デパート等)に適用したものである。各階の天井部分を幾つかの所定面積のブロックに分け、図1(図1(a)には、一つのブロックのみを示してある。)に示すように、そのブロックの所定範囲の中心部分に角筒管状の排煙筒10が、屋上部分まで複数階貫通して設けられている。屋上の排煙筒10の先端部分には、規定容量の排煙ファンFAが設けられ、各階の防煙区画20の排煙口30から吸引した煙を排煙筒10から排煙できるようになっている。
【0010】また、各階の上記所定面積を有するブロックの天井A部分には、上記複数階を吹き抜けて設けられた排煙筒10を中心として、・・・
【0011】各防煙壁40に囲まれた略扇面形状の個々の防煙区画20は、建築基準法に従ってその面積が500m^(2) になるように柱21の規定間隔のスパンを目安に区分けされ、ブロック全体では、図1(a)に示すように、平面的には排煙筒10を中心として全体が放射状になるように防煙区画20が形成されている。・・・
【0012】また、前記扇面形状の個々の防煙区画20内の排煙筒10に近い部分では、天井A面に排煙口30が開口されている。排煙口30は、天井A部分と上層階のフロアーFL部分との間の天井裏空間に敷設された排煙用のダクト50に連通されている。さらに、ダクト50は排煙筒10に連通され、火災時等の発煙時には、防煙区画20内に上ってきた煙が排煙口30からダクト50内を通って排煙筒10に送られるようになっている。」

(3)本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平6-15011号公報(以下「引用例3」という。)には、通路における煙の遮断・排煙方法および装置に関し、図面とともに次の事項が記載されている。
(3a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、地下街等の火災の際に発生する煙を遮断・排煙する通路の遮断・排煙方法および装置に係り、特に、給気口から送られた空気が排煙口へ吸引されることにより生じる気流によって、通路付近の煙を一緒に該排煙口に誘い込んで吸収・排気するものに関する。」
(3b)「【0013】
【実施例】図1および図2は、本発明に係る通路における煙の遮断・排煙装置の一実施例を示すもので、図1は平面図を、図2は断面図をそれぞれ示している。なお、これらの図において、従来例として示した図3ないし図5と共通する部分については、同一符号を付してある。同実施例では、通路4対して直交する方向に小通路11が設けてある。該小通路11の各突き当たり面には、水平方向に細長く給気スリット6…と排煙口8…がそれぞれ対面する形で設けられている。ただし、該排煙口8…は、上記給気口6…ほど極端に幅狭にする必要はない。・・・
【0015】一方、前記排煙口8…の奥には、排煙ファン9などの排気装置を設けておき、該排煙ファン9によって、上記給気スリット6…から噴出する空気とあわせて煙を吸収して、排気ダクト10により、ダクトスペース(図示せず)内を通して、排気煙突(図示せず)等によって、大気中に放出するように構成しておく。
【0016】もちろん、前記排気装置としては、排煙口8…の奥に設けた排煙ファン9に限らず、前記排煙ダクト10の末端の排気煙突等の付近に設けた大型の排気ポンプによって排気する構成にしてもよい。」

3 対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「排煙口」と本願補正発明の「スリット」は、「排煙口」として機能する部材である点で共通する。
引用発明の「万一の火災にも安全に避難できる建物内のエレベータ装置EV」は、本願補正発明の「防炎エレベータ装置」に相当するものといえる。
引用発明の「エレベータ装置EV」は、煙が「空間内に流れる」ものであるから、何らかの空間構造を有しているといえる。そして、その何らかの空間構造を有する点と、本願補正発明の「吹き抜け構造を有」する点とは、空間構造を有する点で共通する。

したがって、本願補正発明と引用発明は、本願補正発明の表記にできるだけしたがえば、
「空間構造を有し、火災発生の際、エレベータ近辺の煙がエレベータ付近に設けた排煙口を通じ、減圧された空間内に流れる防炎エレベータ装置。」
である点で一致し、以下の各点で相違する。

[相違点1]
空間構造を有する点について、本願補正発明は、空間構造が「吹き抜け構造」であり、煙が「吹き抜け内に流れる」構成であるのに対し、引用発明は、煙が空間構造の空間内に流れる構成となっているものの、空間構造の具体的形態が明らかでない点。

[相違点2]
「排煙口」について、本願補正発明は、その形態が「スリット」であるのに対し、引用発明は、単に「排煙口」とされていてその具体的形態が明らかでない点。

相違点1について検討する。
引用例2には、防煙区画のブロックの所定範囲の中心部分に排煙筒が、屋上部分まで複数階貫通して、すなわち吹き抜けて設けられており、屋上の排煙筒の先端部分に設けた排煙ファンにより防煙区画の排煙口から煙を吸引して排煙筒から排煙する建物の火災時等の排煙処理構造が記載されており(記載事項2a及び2b参照)、排煙のルートとなる排煙口の先の空間構造として吹き抜け構造を使用することが開示されている。そうすると、引用発明において、排煙のために煙を導いていく空間構造としてこのような吹き抜け構造を採用し、上記相違点1に係る構成とすることは、引用例2の記載事項を参酌することにより、当業者であれば容易になし得たことといえる。

相違点2について検討する。
引用例3には、火災の際に発生する煙を遮断・排煙する通路の遮断・排煙装置であって、空気が排煙口へ吸引されることにより生じる気流によって、通路付近の煙を一緒に該排煙口に誘い込んで吸収・排気する装置が記載されており、さらに、その排煙口の形態として、排煙口に対向して設けられる給気スリットほど極端に幅狭とはされていない開口である点が開示されている(記載事項3a及び3b参照)。このことから、排煙口も、給気口ほど極端な幅狭ではないものの、所定の幅の隙間を有するスリットとして構成されているものと解される。そうすると、引用発明において、排煙口の具体的形態としてスリットを採用し、上記相違点2に係る構成とすることは、引用例3の記載事項を参酌することにより、当業者であれば容易になし得たことといえる。

そして、本願補正発明により得られる作用効果も、引用発明及び引用例2、3の記載事項から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用例2、3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

以上のとおりであるから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。すなわち、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものである。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第4 本願発明について
1 本願発明
平成23年5月26日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、出願時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

「【請求項1】
エレベータ扉前の空気を流動除去することによりエレベータ内に煙が入らないようにしたことを特徴とする防炎エレベータ装置。」

2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記第3の2に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「エレベータ近辺の煙がエレベータ付近に設けた排煙口を通じ、減圧された空間内に流れる」構成と、本願発明の「エレベータ扉前の空気を流動除去する」構成とは、「エレベータ近辺の空気を流動除去する」点で共通する。そして、引用例1の記載事項1aを参照すれば、両者は、エレベータ近辺の空気を流動除去することによって「エレベータ内に煙が入らないようにした」点でも共通しているといえる。
引用発明の「万一の火災にも安全に避難できる建物内のエレベータ装置EV」は、本願発明の「防炎エレベータ装置」に相当するものといえる。

したがって、本願発明と引用発明は、本願発明の表記にできるだけしたがえば、
「エレベータ近辺の空気を流動除去することによりエレベータ内に煙が入らないようにした防炎エレベータ装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
「エレベータ近辺の空気を流動除去する」点について、本願発明では、流動除去の対象となるのがエレベータ扉前の空気であるのに対し、引用発明では、エレベータ装置EVの扉の前の空気を流動除去の対象としているかどうか、明らかでない点。

上記相違点について検討する。
引用例1の記載事項1aを参照すれば、引用発明は、煙がエレベータシャフトへ流入しないことを目的としたものといえるから、この目的の達成のためにエレベータ近辺の空気を流動除去する際に、流動除去しないと煙がエレベータシャフトへ流入してしまう可能性のあるエレベータ扉前の空気についても流動除去の対象とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることと考えられる。すなわち、引用発明において上記相違点に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことというべきである。

そして、本願発明により得られる作用効果も、引用発明から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-13 
結審通知日 2012-03-27 
審決日 2012-04-10 
出願番号 特願2005-89864(P2005-89864)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A62C)
P 1 8・ 575- Z (A62C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大山 健倉橋 紀夫  
特許庁審判長 千馬 隆之
特許庁審判官 栗山 卓也
小関 峰夫
発明の名称 遮煙エレベータ装置  

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