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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録(定型) C08G 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録(定型) C08G |
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管理番号 | 1270871 |
審判番号 | 不服2011-12465 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-06-10 |
確定日 | 2013-03-27 |
事件の表示 | 特願2004-378709「ステレオコンプレックスポリ乳酸、その製造方法、組成物および成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月13日出願公開、特開2006-182926、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
1 主な手続の経緯 本願は,平成16年12月28日を出願日とする特許出願であって,平成22年4月19日付けで拒絶理由が通知され,同年6月22日に意見書が提出され,同年9月24日付けで拒絶理由が通知され,同年11月18日に意見書が提出され,平成23年3月14日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,同年6月10日に拒絶査定不服審判が請求された(なお,同日付け手続補正書により,審判請求書の請求の理由が補正されている。)ものである。 2 本願についての拒絶の理由の有無など 本願の請求項1?8に係る発明は,出願時の願書に添付された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。 そして,本願については,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 3 平成24年2月20日付け刊行物等提出書による情報提供(以下「本件情報提供」という。)について なお,本件情報提供の提出者は,本願の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下,特に請求項1に係る発明を「本願発明」という。)が特許法29条の規定により特許をすることができない旨を,Hideto Tsuji and Yoshito Ikada, Macromolecules 1992, vol.25, p5719-5723(以下「刊行物1」という。)及び特開2002-30208号公報(以下「刊行物2」という。)を提出しつつ申し述べるところ,本件情報提供が本件審判請求の後にされたものであることに鑑み,以下,特に当合議体が本願発明は刊行物1及び2に対していわゆる新規性ならびに進歩性を有するものであると考えるところについて,付言する(因みに,刊行物2は,原査定の拒絶理由で提示された刊行物である。)。 (1) 提出者は,本願発明は刊行物2に記載された発明であるから,いわゆる新規性を有していないと述べる。 そこで検討するに,刊行物2には, 「ポリL-乳酸とポリD-乳酸とのブレンド物からなり,該ポリL-乳酸および/またはポリD-乳酸のカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されていることを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。」(【請求項1】) の発明(以下,「刊行物2発明」という。)が記載されており,当該刊行物2発明の特定事項であるポリL-乳酸及びポリD-乳酸について, 「本発明に用いるポリL-乳酸はL-乳酸を主たるモノマー成分とする重合体であり,L-乳酸のほかにD-乳酸成分を15モル%以下含有する共重合ポリL-乳酸であっても良いが,ステレオコンプレックス結晶の形成性を高める観点から,ポリL-乳酸中のD-乳酸成分は少ないほど好ましく,ホモポリL-乳酸を用いることがさらに好ましい。 同様に,本発明に用いるポリD-乳酸はD-乳酸を主たるモノマー成分とする重合体であり,D-乳酸のほかにL-乳酸成分を15モル%以下含有する共重合ポリD-乳酸であっても良いが,ステレオコンプレックス結晶の形成性を高める観点から,ポリD-乳酸中のL-乳酸成分は少ないほど好ましく,ホモポリD-乳酸を用いることがさらに好ましい。」(【0027】?【0028】) との記載があり,さらに,重量平均分子量について, 「上述したポリL-乳酸およびポリD-乳酸の重量平均分子量は好ましくは5万以上,さらに好ましくは10万以上,より好ましくは15万以上とするものである。重量平均分子量が10万に満たない場合には繊維の強度物性を優れたものとすることができにくくなるので好ましくない。なお,一般にポリL-乳酸あるいはポリD-乳酸の平均分子量を50万以上とすることは困難である。」(【0030】) との記載がある。 ところで,刊行物2発明のポリ乳酸樹脂組成物は,例えば,ポリL-乳酸について,L-乳酸単位が99モル%を超え100モル%以下であり,D-乳酸単位が0モル%以上1モル%未満であるポリL-乳酸と,ポリD-乳酸について,D?乳酸単位が90モル%以上99モル%以下であり,L-乳酸単位が1モル%以上10モル%以下であるポリD-乳酸とからなるブレンド物である場合を採りうるかもしれない。 しかし,本願の明細書の記載(特に実施例と比較例2との対比に係る記載),ならびに平成23年6月10日付け手続補正書に添付された実験成績証明書の比較実験1及び2からすると,ポリL-乳酸及びポリD-乳酸の両者の純度が99モル%を超えるものによるブレンド物からなるポリ乳酸樹脂組成物や,ポリL-乳酸及びポリD-乳酸の両者の純度が90?99モル%であるものによるブレンド物からなるポリ乳酸樹脂組成物は,205℃以上の融解ピークの割合が80%以上とはならないこと,換言すれば,ポリL-乳酸及びポリD-乳酸のどちらか一方の純度を99モル%を超えるものとし,他方の純度を90?99モル%とすることで,205℃以上の融解ピークの割合が80%以上となるといった顕著な効果を奏するものと理解される。 そして,刊行物2には,刊行物2発明について,ポリL-乳酸及びポリD-乳酸のどちらか一方の純度を99モル%を超えるものとすると同時に,他方の純度を90?99モル%とするとの技術思想は開示されておらず,他方,本願発明はそのような技術思想を解決手段とすることで,発明の課題解決を図るものであるといえる。刊行物2発明において,上記技術思想を採用することは,後知恵といわざるを得ない。 よって,本願発明は,新規性を有するものである。 (2) さらに提出者は,本願発明は刊行物1に記載された発明及び刊行物2発明から,いわゆる進歩性を有していないと述べる。 ア そこで検討するに(審決の便宜上,本願発明が刊行物1に対していわゆる新規性を有していることについても言及する。),刊行物1には,光学純度100%のPDLA(C-1: 5720頁の表1においてX_(D)=1.000のもの)と光学純度98%のPLLA(C-19: 同X_(D)=0.010のもの)とを1:1でブレンドしたステレオコンプレックスポリ乳酸の例についての5721頁の図5の記載などから,次のとおりの発明が記載されていると認める。 「D-乳酸単位のみからなるポリ乳酸(C-1)とL?乳酸単位が主成分,その他の共重合成分がD-乳酸単位からなる光学純度98%のポリ乳酸(C-19)とからなり,C-1とC-19との重量比が50:50にあり,示差走査熱量計(DSC)測定において,昇温過程における融解ピークのうち,205℃以上の融解ピークの割合が80%以上であるステレオコンプレックスポリ乳酸」(以下「刊行物1発明」という。) しかし,刊行物1の5720頁の表1によれば,C-1及びC-19はいずれも数平均分子量Mnが25000のポリ乳酸であるから,5719頁の右欄に分子量分布Mw/Mnが2乃至4である旨の記載があることを考慮しても,刊行物1発明の重量平均分子量Mwが10万?50万の範囲にあるということはできない(10万に満たないものと判断される。)。 よって,本願発明は,新規性を有するものであるといえる。 イ また,仮に刊行物1における一実施形態から認定されたにすぎない(重量平均分子量Mwが10万に満たない)刊行物1発明において,その重量平均分子量Mwを10万?50万とすることは,重量平均分子量Mwが10万?50万のステレオコンプレックスポリ乳酸が出願時に公知であったとしても,当該公知技術を刊行物1発明に適用する動機付けはみあたらない。刊行物1発明を主たる引用発明として本願発明の進歩性を否定することはできない。 ウ さらに,刊行物2発明を主たる引用発明として本願発明の進歩性が否定できるかについてみるに,上記(1)で述べたように,刊行物2発明において,ポリL-乳酸及びポリD-乳酸のどちらか一方の純度を99モル%を超えるものとすると同時に,他方の純度を90?99モル%とするとの技術思想を採用しようとすることは後知恵といわざるを得ない。 また,当業者が刊行物1に接したとしても,ポリL-乳酸およびポリD-乳酸の重量平均分子量が10万以上であることを好例とする刊行物2発明において(刊行物2の【0030】),重量平均分子量Mwが10万に満たないステレオコンプレックスポリ乳酸についての技術に係る刊行物1のうち,C-1とC-19とのステレオコンプレックスポリ乳酸という一実施形態のみに着目し,その技術事項を採用することには無理がある。(因みに,本願の明細書によれば,本願発明は,高分子量のステレオコンプレックスポリ乳酸を製造する際の課題を解決するものである(【0006】?【0009】)。) 4 むすび よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2013-03-12 |
出願番号 | 特願2004-378709(P2004-378709) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WYF
(C08G)
P 1 8・ 113- WYF (C08G) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 米村 耕一 |
特許庁審判長 |
田口 昌浩 |
特許庁審判官 |
富永 久子 須藤 康洋 |
発明の名称 | ステレオコンプレックスポリ乳酸、その製造方法、組成物および成形品 |
代理人 | 大島 正孝 |
代理人 | 大島 正孝 |
代理人 | 大島 正孝 |