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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A63B
管理番号 1271040
判定請求番号 判定2012-600044  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2013-04-26 
種別 判定 
判定請求日 2012-11-08 
確定日 2013-03-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第3826313号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号写真、イ号図面及びイ号説明書に示す「テニスラケットのエンドキャップ」は、特許第3826313号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号写真、イ号図面及びイ号説明書に示す「テニスラケットのエンドキャップ」(以下「イ号物件」という。)が、特許第3826313号の請求項1及び請求項8に係る発明(以下「特許発明1」及び「特許発明8」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

第2 特許発明
特許発明1及び特許発明8は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載のとおりのものであって、分説して構成要件毎にA?Oの符号を付して示せば、次のとおりのものと認める。
特許発明1:
「A. 打球用具のグリップエンド底部から突出して設けられるグリップエンド底部加重用錘において、
B.高比重物質からなる荷重材を複合的に一体化した衝撃振動吸収性を有する軟質素材が、
C.軸対称の素材断面肉厚を有し、
D.かつ、グリップエンド底部に形成した装着孔に対して体部を弾性変形することにより装着可能に造形され、
E.少なくとも体半部又は重量配分の大半をグリップエンド底部から突出させて装着してなることを特徴とする
F.グリップエンド底部加重用錘。」

特許発明8:
「G.打球用具のグリップエンド底部から突出して設けられるグリップエンド底部加重構造において、
H.面央部に装着孔を形成したエンドキャップ又はエンドラバーを含むグリップエンド構成材と、
I.高比重物質からなる荷重材と、前記荷重材を複合的に一体化した軟質素材を具備するとともに、
J.前記軟質素材が軸対称の素材断面肉厚を有し、
K.かつ、前記装着孔に対してその体部を弾性変形することにより装着可能に造形され、
L.少なくとも体半部又は重量配分の大半を打球用具のグリップエンド底部から突出させて装着固定し、
M.前記グリップエンド構成材との間で、軟質素材領域を介在させて前記荷重材を離隔配置してなり、
N.打球時における重心まわりの慣性モーメントを増大し、かつ、インパクトによる衝撃振動を抑制又は吸収ないしは減衰するようにしたことを特徴とする
O.グリップエンド底部加重構造。」

第3 イ号物品
請求人 岡本幸士 が提出した、平成24年11月8日付け判定請求書に添付の「イ号写真」、「イ号図面」及び「イ号説明書」、並びに、被請求人 ブリジストンスポーツ株式会社 が提出した、平成24年12月28日付け判定請求答弁書の第9頁第18行目ないし第10頁第6行目の記載からみて、イ号物件は、次のものからなると認められる。

エンドキャップ10は、筒状部材20と蓋部材30とから構成され、テニスラケットのグリップエンドに取り付けられるものであり、
筒状部材20は、ナイロン11を主材として着色剤、添加剤含有したものからなり、底面21の中央部に八角形の蓋取付孔22と、蓋取付孔22の外周に内面が八角形の段部を有する段差部23とが形成されており、
蓋部材30は、段差部23の八角形の段部と略合同の八角形であり平板状の基板部31と、基板部31と略合同の八角形であり基板部31の外面に貼着された表示体32と、基板部31と略合同の八角形であり表示体31の外面に貼着された保護カバー33とから構成されるものであり、
基板部31の内面には、蓋取付孔22より小径の八角形の環状筒部34が突設され、環状筒部34が蓋取付孔22に挿入されるようになっており、環状筒部34の端縁には、外周側に向かって延出された環状の係止用フランジ部35が形成されており、係止用フランジ部35を筒状部材20の蓋取付孔22に対向させて押し込むことにより、蓋取付孔22を通過させて筒状部材20の底面21に係止させるようになっており、
基板部31は、ナイロン11を主材として着色剤、添加剤含有したものにより形成され、表示体32は、厚さが0.5mm程度のアルミニウム板からなる薄板により形成され、保護カバー33は、透明な樹脂により形成されており、
蓋部材30の重量は約3gであって、蓋部材30のうち、基板部31の重量が約1gであり、表示体32及び保護カバー33を合わせた重量が約2gである、エンドキャップ10。

第4 対比及び判断(特許発明1について)
特許発明1とイ号物件とを対比する。
1.イ号物件の「テニスラケット」は特許発明1の「打球用具」に相当し、以下同様に、「蓋取付孔22」は「装着孔」に、それぞれ相当する。

2.構成要件Eについて
(1)構成要件Eの「グリップエンド底部から突出」に関し、本件特許の特許請求の範囲には、
「【請求項1】
打球用具のグリップエンド底部から突出して設けられるグリップエンド底部加重用錘において、
高比重物質からなる荷重材を複合的に一体化した衝撃振動吸収性を有する軟質素材が、軸対称の素材断面肉厚を有し、かつ、グリップエンド底部に形成した装着孔に対して体部を弾性変形することにより装着可能に造形され、少なくとも体半部又は重量配分の大半をグリップエンド底部から突出させて装着してなることを特徴とするグリップエンド底部加重用錘。
【請求項2】
複合的な一体化が軟質素材を母材として荷重材を内蔵、包埋、囲繞ないしは接合又は複合ないしは分散複合するものであり、装着孔がエンドキャップ又はエンドラバーを含むグリップエンド構成材の底面をくり抜いて孔形成したものであり、前記軟質素材の装着が弾性エネルギーを蓄積することにより前記装着孔に着脱可能な嵌着、圧着ないしは挟着又は螺着によるものである請求の範囲第1項記載のグリップエンド底部加重用錘。
【請求項3】
軟質素材が装着孔に回動不自由に拘束され、かつ、該装着孔の壁面を介してその体部の一方をグリップ内に収納し、他方をグリップエンド底部から突出させてバランス装着されるものである請求の範囲第1項又は第2項記載のグリップエンド底部加重用錘。
【請求項4】
軟質素材を概略洋樽型に造形し、中央の大径部に周溝又は周フランジを形設してなり、装着孔の周縁との間で嵌着することにより着脱自在に装着するようにした請求の範囲第1項乃至第3項のいずれか1項記載のグリップエンド底部加重用錘。
【請求項5】
荷重材を軟質素材の端部二方向に偏在させて、装着における内部加重要素と外部加重要素とに重量配分した請求の範囲第1項乃至第4項のいずれか1項記載のグリップエンド底部加重用錘。
【請求項6】
グリップ上の打撃の中心(振動の節)を掌握部(グリップ支点)に移動するために、請求の範囲第1項乃至第5項のいずれか1項記載のグリップエンド底部加重用錘が10?120g範囲の重量を有するものであるグリップエンド底部加重用錘。
【請求項7】
請求の範囲第1項乃至第6項のいずれか1項記載のグリップエンド底部加重用錘を、打球用具のグリップエンドに着脱自在に装着し、かつ、打球時における重心まわりの慣性モーメントを増大し、かつ、インパクトによる衝撃振動を抑制又は吸収ないしは減衰するようにしたことを特徴とするグリップエンド底部加重構造。
【請求項8】
打球用具のグリップエンド底部から突出して設けられるグリップエンド底部加重構造において、
面央部に装着孔を形成したエンドキャップ又はエンドラバーを含むグリップエンド構成材と、高比重物質からなる荷重材と、前記荷重材を複合的に一体化した軟質素材を具備するとともに、
前記軟質素材が軸対称の素材断面肉厚を有し、かつ、前記装着孔に対してその体部を弾性変形することにより装着可能に造形され、少なくとも体半部又は重量配分の大半を打球用具のグリップエンド底部から突出させて装着固定し、前記グリップエンド構成材との間で、軟質素材領域を介在させて前記荷重材を離隔配置してなり、
打球時における重心まわりの慣性モーメントを増大し、かつ、インパクトによる衝撃振動を抑制又は吸収ないしは減衰するようにしたことを特徴とするグリップエンド底部加重構造。
【請求項9】
複合的な一体化が軟質素材を母材として荷重材を内蔵、包埋、囲繞ないしは接合又は複合ないしは分散複合するものであり、装着孔がエンドキャップ又はエンドラバーを含むグリップエンド構成材の底面をくり抜いて孔形成したものであり、前記軟質素材の装着が弾性エネルギーを蓄積することにより前記装着孔に着脱可能な嵌着、圧着ないしは挟着又は螺着によるものであり、
軟質素材を装着孔に回動不自由に拘束し、かつ、該装着孔の壁面を介してその体部の一方をグリップ内に収納し、他方をグリップエンド底部から突出させてバランス装着するようにした請求の範囲第8項記載のグリップエンド底部加重構造。
【請求項10】
軟質素材を概略洋樽型に造形し、中央の大径部に周溝又は周フランジを形設してなり、装着孔の周縁との間で嵌着することにより着脱自在に装着するようにした請求の範囲第8項又は第9項記載のグリップエンド底部加重構造。
【請求項11】
荷重材を軟質素材の端部二方向に偏在させて、打球用具への装着における内部加重要素と外部加重要素とに重量配分した請求の範囲第8項乃至第10項のいずれか1項記載のグリップエンド底部加重構造。
【請求項12】
打球用具のエンドキャップ又はエンドラバーを重合するか、又は肉厚に形成して装着孔を二重又は二段に設け、装着位置を可変構成した請求の範囲第8項乃至第11項のいずれか1項記載のグリップエンド底部加重構造。
【請求項13】
グリップ上の打撃の中心(振動の節)を掌握部(グリップ支点)に移動するために、打球用具のグリップエンド底部に10?120gの重量範囲の加重を付加するものである請求の範囲第8項乃至第12項のいずれか1項記載のグリップエンド底部加重構造。
【請求項14】
請求の範囲第7項乃至第13項のいずれか1項記載の打球用具が、テニスラケット、ソフトテニスラケット、スカッシュラケット、バドミントンラケットその他のラケット群、野球・ソフトボール用バット、ゴルフクラブ、及びホッケースティックから選択されるものであるグリップエンド底部加重構造。」
と記載されている。
本件特許の特許請求の範囲の上記記載によれば、「グリップエンド底部から突出」は、「グリップ内に収容」と対照的な意味で用いられている。また、底に関する用語として、「底部」の他に、「底面」が、「底部」とは区別して用いられている。したがって、「グリップエンド底部」には、その底面に装着孔が形成されているものといえる。
特許明細書においても、同様である。

(2)特許明細書及び特許図面における「グリップエンド構成材4」は、その名称からみて、グリップエンドを構成する部材であると認められる。
ラケットを、ラケットの打撃点(範囲)Bを天側、ラケットのグリップを地側として配置した場合、グリップエンドはラケットの底の部分にあたる。
特許図面の図1?8、図9の実線の装着位置のいずれにおいても、加重用錘は、打撃点(範囲)Bとは反対方向にグリップエンド構成材4から外側に突き出るように設けられている。また、特許図面の図3?9のいずれにおいても、加重用錘は、一方が、グリップエンド構成材4の内側に設けられているとともに、他方が、打撃点(範囲)Bとは反対方向にグリップエンド構成材4から外側に突き出るように設けられている。
また、「グリップエンド底部」についての具体的な構造や意義については、記載されていない。

(3)一般に、「底部」との用語は、「底の部分。下の方の部分。「船の-」」(広辞苑第六版(株式会社岩波書店発行))を意味するものとして用いられており、上記(1)及び(2)からみて、「グリップエンド底部」とは、装着孔が形成された底面を含むグリップエンドの底、つまり下の方の部分といえる。
そして、「グリップエンド底部から突出」とは、「グリップ内に収容」と対照的なものであって、構成要件Eの「グリップエンド底部から突出」とは、ラケットのグリップエンドの下の部分から外側(打撃点(範囲)Bとは反対方向)に突き出していることである、と解するのが相当である。

(4)ここで、イ号物件について検討する。
イ号物件のエンドキャップ10が、グリップエンドを構成していると認められ、グリップエンド底部とは、上記(3)のとおりであるから、蓋取付孔22が形成された底面2111及び段差部23を包含するものである。
そして、蓋部材30の係止用フランジ部35を筒状部材20の底面に係止させて、蓋部材30を筒状部材20に取り付けた場合において、イ号写真の写真1、イ号図面の図1からみて、蓋部材30が筒状部材20の段差部22よりも外側に突き出している、とは認められない。
よって、イ号物件は、構成要件Eを充足しない。

3.構成要件Fについて
(1)構成要件Fの「グリップエンド底部加重用錘」に関し、特許明細書には、以下の記載がある。
ア 「第一の発明は、グリップエンド底部加重用錘(以下、加重用錘。)であって、高比重物質からなる荷重材を複合的に一体化した衝撃振動吸収性を有する軟質素材が、軸対称の素材断面肉厚を有し、かつ、グリップエンド底部に形成した装着孔に対して体部を弾性変形することにより装着可能に造形され、少なくとも体半部をグリップエンド底部から突出させて装着してなることを特徴とするものである。ここで、加重用錘は、グリップ上の打撃の中心(振動の節)を掌握部(グリップ支点)に移動すべく重量設計される。」(特許公報第4頁第19?24行。)
イ 「また、装着孔はエンドキャップ又はエンドラバーを含むグリップエンド構成材の底面をくり抜いて孔形成したものである。」(特許公報第4頁第41?42行。)
ウ 「したがって、打球用具に上記構成の加重用錘を装着することにより、打球時に重心まわりの慣性モーメントが増大するので反発力が向上し、かつ、インパクトによる衝撃振動を吸収(減衰)する。同時に、グリップ上の打撃の中心(振動の節)を掌握部(グリップ支点)に移動すべく重量設計されているので、打球感の向上が図れる。」(特許公報第4頁下から4行?最下行。)
エ 「実験的事実に基づいて、加重用錘の重量設計を検証しておく。
300gのラケットのグリップエンド底部に50gの加重用錘を装着した場合、振動の節は、グリップエンドから12cm〔加重錘装着前〕の位置から7cmの位置に移動する。概略、加重用錘の重量が10g増減すると、グリップ上の振動の節は1cm移動する。
このように、加重用錘をグリップエンド底部に装着すると、グリップ上の振動の節はグリップエンド方向に移動するのである。因みに、反発力の向上を主眼にフレーム先端を加重すると振動の節は逆方向に移動するので、本発明の目的効果とは異なるものとなる。
したがって、軽量トップヘビーのラケットに対して、グリップ上の振動の節(グリップエンドから90?180mm範囲)を標準的な掌握部(シングルハンドの場合、グリップエンドから60?80mm位置)に移動させるには、10?120gの加重用錘をグリップエンド底部に装着することになる。なお、ダブルハンドの場合は、グリップエンドから70?140mm位置、好ましくは80?120mm位置に振動の節が移動するように重量設計する。」(特許公報第5頁第27?38行。)
オ 「加重範囲は、プレイに支障が生じない範囲で個々に選択すればよいが、実用上は10?120g、好適には10?80gである。なお、製品化に関し、重量別に等級(クラス又はグレード)分けした加重用錘Wを市場提供することになる。」(特許公報第5頁第50行目?第6頁2行。)

(2)上記(1)ア乃至オからみて、「グリップエンド底部加重用錘」は、装着孔に装着することにより、重心まわりの慣性モーメントを増大させると同時に、グリップ上の打撃の中心(振動の節)を掌握部(グリップ支点)に移動させるものであるから、構成要件Fの「グリップエンド底部加重用錘」とは、重心まわりの慣性モーメントを増大させると同時に、グリップ上の打撃の中心(振動の節)を掌握部(グリップ支点)に移動させる効果として、有意義な効果を奏するように、グリップエンド底部に重みを加える錘、と解するのが相当であって、実用上は10?120g、好適には10?80g程度の錘である。

(3)ここで、イ号物件について検討する。
イ号物件の蓋部材30は、重量が約3gであって、テニスラケットに取り付けられるものであるところ、上記(1)の特許明細書の記載からみて、イ号物件の蓋部材30は、実用上として示されている重量範囲10?120gからみて大幅に小さい上に、下限の10gの1/3程度でしかなく、グリップ上の振動の節は大きくは移動しないものと推認される。
よって、上記(2)に照らして、イ号物件の蓋部材30は、特許発明1が有するような重心まわりの慣性モーメントを増大させる効果、及び、打撃の中心(振動の節)を掌握部(グリップ支点)に移動させる効果を奏するものではないから、イ号物件の蓋部材30がグリップエンド底部に重みを加える錘であるということはできない。
なお、請求人がイ号物件に関連する被請求人の実用新案公報として提出した甲第2号証(実用新案登録第3129938号公報)の記載からみて、イ号物件の蓋部材30は、むしろ装飾用のキャップであるといえる。
したがって、イ号物件は、構成要件Fを充足しない。

4.構成要件Aについて
上記2.構成要件Eの「グリップエンド底部から突出」、及び、上記3.構成要件Fの「グリップエンド底部加重用錘」について述べたのと同様に、イ号物件は、構成要件Aを充足しない。

5.構成要件Bについて
(1)構成要件Bに関し、特許明細書には、以下の記載がある。
ア 「また、球を打った瞬間の衝撃振動を抑制又は吸収(減衰)して、身体への負荷やしびれ等の不快感を軽減しようとする提案があった。
例えば、グリップエンドについてこの種の手段を講じたものに、特許第2853926号及び特開平4-263876号が知られている。
ここでは、衝撃振動吸収部材を介して振動子としての荷重材(重り)を装着することが提案されている。この提案の効果は、従来的な重りをグリップエンドに直接装着すると衝撃を増大させてしまうという難点を解消する点にあると考察される。
しかしながら、上記従来例は、衝撃振動吸収部材及び荷重材をグリップ内に収納するか、外付けする構成を採用しており、バランス調整(重量配分)、とりわけ本発明に関する加重構造による錘の重要性(重心まわりの慣性モーメントの増大)と、打撃時にラケットに生じる2節曲げ振動のグリップ上の無衝撃位置(振動の節)が掌握部(グリップ支点)に移動することにより打球感が良好となるというような作用効果の記載はない。
一方、主に衝撃振動を吸収するためのバランス調整手段(スタビライザーを含む。)を概観するとき、グリップエンドではなくラケットヘッド(フレーム)や中間部(スロート)に設けたものがあるが、本発明構成に対する示唆とはならないので、このような提案は先行技術から除外される。」(特許公報第3頁第19?34行。)
イ 「加重用錘Wは、第2図に示すように、高比重物質からなる荷重材1(例えば、鉛。)を内蔵、包埋、囲繞ないしは接合又は複合ないしは分散複合を含みコンポジット化した衝撃振動吸収性を有する軟質素材2(例えば、天然ゴムやシリコン系その他の合成ゴム。)からなり、軸対称の素材断面肉厚を有するように概略洋樽型に造形され、中央の大径部には周溝21を形設している。」(特許公報第5頁第39?43行。)
ウ 「また、エンドキャップを含むグリップエンド構成材との間で、軟質素材領域を介在させて荷重材を離隔配置するようにしているので、打球(ヒッティング)時に生じる衝撃振動を効果的に抑制又は吸収(減衰)でき、打球感が良好となる。」(特許公報第7頁第7?9行。)
のように記載されている。

(2)上記(1)からみて、構成要件Bの「高比重物質からなる荷重材を複合的に一体化した衝撃振動吸収性を有する軟質素材」は、高比重物質からなる荷重材を、外部衝撃に対し振動を励起する振動子として作用させて、励起した振動によって振動エネルギーを減衰(吸収低減)させるものであると認められる。

(3)ここで、イ号物件について検討する。
イ号物件の蓋部材30において、厚さが0.5mm程度のアルミニウム板からなる表示体32が、ナイロン11を主材とする基板部31と複合的に一体化したものであるといえる。
しかし、アルミニウムは、その比重が2.7程度であって、特許明細書において「高比重物質からなる荷重材」の例として示されている鉛の比重(11.3程度)と比べて非常に小さく、ナイロン11は、特許明細書において「衝撃振動吸収性を有する軟質素材」の例として示されている、天然ゴムやシリコン系その他の合成ゴムと比べて、非常に硬い。蓋部材30の重量は約3gであり、表示体32及び保護カバー33を合わせた重量が約2gに過ぎない。更に、該アルミニウム板が基板部31に対して全面的に貼着される構造とされており、アルミニウム板が基板部31に対して、振動しにくい構造となっている。
上記(2)に照らし、これらからみて、イ号物件の蓋部材30が、厚さが0.5mm程度のアルミニウム板を、外部衝撃に対し振動を励起する振動子として作用させて、励起した振動によって振動エネルギーを減衰(吸収低減)させるものである、ということはできない。
よって、イ号物件は、構成要件Bを充足しない。

6.構成要件Cについて
(1)構成要件Cの「軸対称」に関し、明確な定義がなされてはいないが、特許明細書には、以下の記載がある。
「加重用錘Wは、第2図に示すように、高比重物質からなる荷重材1(例えば、鉛。)を内蔵、包埋、囲繞ないしは接合又は複合ないしは分散複合を含みコンポジット化した衝撃振動吸収性を有する軟質素材2(例えば、天然ゴムやシリコン系その他の合成ゴム。)からなり、軸対称の素材断面肉厚を有するように概略洋樽型に造形され、中央の大径部には周溝21を形設している。」(特許公報第5頁第39?43行。)

(2)一般に、「軸対称」との用語は、「軸対称 axial symmetry 〔数〕与えられた直線周りの回転によって,幾何学的配置が不変である性質。」(マグローヒル科学技術用語大辞典第3版(株式会社日刊工業新聞社発行))を意味する。
一方で、一般に、「回転対称」との用語は、「一つの図形を一定軸のまわりに一定の角度だけ回転移動しても変わらない性質。この一定軸を対称軸といい、回転の際の一定角度が180度・120度・90度等の場合をそれぞれ2回軸・3回軸・3回軸などと呼ぶ。」(広辞苑第六版(株式会社岩波書店発行))を意味する。

(3)上記(1)及び(2)からみて、構成要件Cの「軸対称」とは、与えられた直線周りの回転によって、幾何学的配置が不変である、ことを意味すると認められる。
この解釈は、該略洋樽型として示される第2図(a)及び(b)における加重用錘Wの形状からも裏付けられる。

(4)ここで、イ号物件について検討する。
イ号物件の蓋部材30は、八角形であり平板状の基板部31と、基板部31と略合同の八角形の表示体32とから構成されており、基板部31の中心を通り、該基板部31に垂直な軸周りの回転であっても、回転角によって素材断面肉厚の幾何学的配置は変動し、素材断面肉厚の幾何学的配置が変動しない回転軸は他になく、上記(3)に照らして、蓋部材30が、軸対称の素材断面肉厚を有するとはいえない。
よって、イ号物件は、構成要件Cを充足しない。

7.構成要件D
イ号物件の蓋部材30は、筒状部材20の底面21に形成された蓋取付孔22に対向させて係止用フランジ部35を押し込むことにより、蓋取付孔22を通過させて筒状部材20の底面21に係止させるようになっているから、グリップエンド底部に形成した装着孔に対して体部を弾性変形することにより装着可能に造形されているといえる。
よって、イ号物件は、構成要件Dを充足する。

8.まとめ
上記1乃至7によれば、イ号物件は、特許発明1の構成要件A、B、C、E及びFを充足しない。
したがって、イ号物件は、特許発明1の技術的範囲に属しない。

第5 対比及び判断(特許発明8について)
1.構成要件Lについて
上記[第4 2.構成要件E]の「グリップエンド底部から突出」について述べたのと同様に、イ号物件の蓋部材30は、構成要件Lを充足しない。

2.構成要件Oについて
上記[第4 3.構成要件F]の「グリップエンド底部加重用錘」について述べたのと同様に、イ号物件の蓋部材30は、構成要件Oを充足しない。

3.構成要件Gについて
上記[第4 2.構成要件E]の「グリップエンド底部から突出」及び上記[第4 3.構成要件F]の「グリップエンド底部加重用錘」で述べたのと同様に、イ号物件の蓋部材30は、構成要件Gを充足しない。

4.構成要件I及びNについて
上記[第4 5.構成要件B]の「高比重物質からなる荷重材を複合的に一体化した衝撃振動吸収性を有する軟質素材」について述べたのと同様に、イ号物件の蓋部材30が、「高比重物質からなる荷重材と、前記荷重材を複合的に一体化した軟質素材」であって、「インパクトによる衝撃振動を抑制又は吸収ないしは減衰するようにした」ものであるとは、認めることができない。
よって、イ号物件は、構成要件I及びNを充足しない。

5.構成要件Mについて
(1)構成要件Mの「グリップエンド構成材との間で、軟質素材領域を介在させて荷重材を離隔配置」に関し、上記[第4 5.(1)ウ]で摘記した特許明細書の記載から見て、この配置は、衝撃振動を効果的に抑制又は吸収(減衰)するための配置であると認められる。

(2)ここで、イ号物件について検討する。
イ号物件の蓋部材30は、筒状部材20との間で、ナイロン11を主材とする基板部31を介在させてアルミニウム板からなる表示体32を配置したものといえる。
しかし、上記[第4 5.(3)]で検討したように、イ号物件の蓋部材30は、厚さが0.5mm程度のアルミニウム板を、外部衝撃に対し振動を励起する振動子として作用させて、励起した振動によって振動エネルギーを減衰(吸収低減)させるものである、ということはできず、上記(1)に照らし、衝撃振動を効果的に抑制又は吸収(減衰)するための配置とはいえない。してみると、イ号物件の蓋部材30は、軟質素材領域を介在させて荷重材を隔離配置しているとはいえない。
よって、イ号物件は、構成要件Mを充足しない。

6.構成要件Hについて
イ号物件のエンドキャップ10は、筒状部材20と蓋部材30とから構成され、該筒状部材20には、底面21の中央部に八角形の蓋取付孔22が形成されているから、面央部に装着孔を形成したエンドキャップを含むグリップエンド構成材といえる。
よって、イ号物件は、構成要件Hを充足する。

7.構成要件Jについて
上記[第4 6.構成要件C]について述べたのと同様に、イ号物件は、構成要件Jを充足しない。

8.構成要件Kについて
上記[第4 6.構成要件D]について述べたのと同様に、イ号物件は、構成要件Kを充足する。

9.まとめ
上記1乃至8によれば、イ号物件は、特許発明1の構成要件G、I、J、L、M、N及びOを充足しない。
したがって、イ号物件は、特許発明8の技術的範囲に属しない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、イ号物品は、特許第3826313号発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2013-02-25 
出願番号 特願2002-554182(P2002-554182)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (A63B)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 東 治企
黒瀬 雅一
登録日 2006-07-14 
登録番号 特許第3826313号(P3826313)
発明の名称 グリップエンド底部加重用錘及びグリップエンド底部加重構造  
代理人 木村 秀二  
代理人 大塚 康徳  
代理人 信末 孝之  
代理人 大塚 康弘  
代理人 三原 靖雄  

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