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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04D
管理番号 1271392
審判番号 不服2011-26795  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-12 
確定日 2013-03-14 
事件の表示 特願2004-209377「排水ポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月 2日出願公開,特開2006- 29214〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は,平成16年7月16日の出願であって,平成22年7月23日付けで拒絶理由が通知され,これに対し,同年9月22日に意見書及び手続補正書が提出され,平成23年1月19日付けで拒絶理由が通知され,これに対し,同年3月18日に意見書及び手続補正書が提出されたところ,平成23年9月26日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年12月12日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けで手続補正書が提出され,さらに,当審で平成24年8月7日付けの拒絶理由が通知され,これに対し,同年10月17日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願の発明
平成24年10月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明(以下,「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は,特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
モータと,該モータの出力軸に連結される回転羽根と,該回転羽根を収容するハウジングとを有し,前記ハウジングは下部に設けられる吸込口及び側部に設けられる吐出口を備える排水ポンプであって,
前記回転羽根は,前記モータの出力軸に連結される軸部と,該軸部から放射方向に延びる板状の大径羽根と,該大径羽根と連結される板状の小径羽根と,前記大径羽根の外周部を連結するリング部材と,該リング部材の下端部に連結される皿状部材とを有し,
前記リング部材は,前記出力軸の軸方向と直交する方向にとった肉厚に対して前記大径羽根の上端面と接する点の肉厚が薄く形成されている薄肉部を上端部に備えるとともに該薄肉部の上端面が前記大径羽根の上端面とほぼ面一であり,前記薄肉部よりも下方の部分の少なくとも一部が下方に向かうに従って肉厚が内側に増加するテーパ部とされていることを特徴とする排水ポンプ。
【請求項2】
モータと,該モータの出力軸に連結される回転羽根と,該回転羽根を収容するハウジングとを有し,前記ハウジングは下部に設けられる吸込口及び側部に設けられる吐出口を備える排水ポンプであって,
前記回転羽根は,前記モータの出力軸に連結される軸部と,該軸部から放射方向に延びる板状の大径羽根と,該大径羽根と連結される板状の小径羽根と,前記大径羽根の外周部を連結するリング部材と,該リング部材の下端部に連結される皿状部材とを有し,
前記リング部材は,前記出力軸の軸方向と直交する方向にとった肉厚に対して前記大径羽根の上端面と接する点の肉厚が薄く形成されている薄肉部を上端部に備えるとともに該薄肉部の上端面が前記大径羽根の上端面とほぼ面一であり,前記薄肉部よりも下方の部分が内側に肉厚が増加する凸状の湾曲部とされていることを特徴とする排水ポンプ。
【請求項3】
モータと,該モータの出力軸に連結される回転羽根と,該回転羽根を収容するハウジングとを有し,前記ハウジングは下部に設けられる吸込口及び側部に設けられる吐出口を備える排水ポンプであって,
前記回転羽根は,前記モータの出力軸に連結される軸部と,該軸部から放射方向に延びる板状の大径羽根と,該大径羽根と連結される板状の小径羽根と,前記大径羽根の外周部を連結するリング部材と,該リング部材の下端部に連結される皿状部材とを有し,
前記リング部材は,前記出力軸の軸方向と直交する方向にとった肉厚に対して前記大径羽根の上端面と接する点の肉厚が薄く形成されている薄肉部を上端部に備えるとともに該薄肉部の上端面が前記大径羽根の上端面とほぼ面一であり,前記薄肉部よりも下方の部分が下方に向かうに従って肉厚が内側に増加する凹状の湾曲部とされていることを特徴とする排水ポンプ。
【請求項4】
前記リング部材の上端部の外周側が肉厚方向に肉盗みされていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の排水ポンプ。」

3.平成24年8月7日付けの当審の拒絶理由通知の概要
「本件出願は,明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。

3.同請求項1ないし3において,「該薄肉部の上端面が前記大径羽根の上端面とほぼ面一であり」と記載されているが,その一方で,明細書の段落【0013】には,「図4の(b)は,リング部材200の上端部を大径羽根より低い薄肉部212に形成し,凸状の湾曲部212aを介して皿状部材160に連結する例を示す。」と記載されている。
段落【0013】の上記の記載によれば,薄肉部の上端面が大径羽根の上端面とほぼ面一ではない例であっても,水かき音を低減する効果が得られるとされる本願発明の実施例として成立し得ると解される。
そうすると,請求項1ないし3における「薄肉部の上端面が大径羽根の上端面とほぼ面一」との条件が,如何なる技術的意義を有するのか,あるいは,格別の発明特定事項といえるのか不明である。
4.明細書の段落【0002】に「空調機の室内ユニットは,冷房運転時に熱交換器に空気中の水分が凝縮して付着し,熱交換器の下方に設けられるドレンパン内に滴下する。このドレンパン内に溜ったドレン水を排水するために排水ポンプが用いられる。この排水ポンプは,下部に吸込口を形成し,上部を開口すると共に,側方に吐出口を設けたポンプ本体であるハウジング内に羽根を回転自在に設け,この羽根をハウジングの開口の上部にカバーを介して固定したモータにより回転させている。そのモータの駆動軸は,カバーに形成された貫通穴を回転自在に貫通して羽根のシャフト部に連結され,モータを駆動して,羽根が回転すると,ドレンパン内に貯溜したドレン水は,吸込口の羽根の下端から吸込まれ,遠心力により,ハウジング内面に沿って揚水され,ケーシングの吐出口から外部に吐出される。
この種の排水ポンプは,例えば,本出願人に係る特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2000-213770号公報」と記載されているが,従来の排水ポンプにおいて,何が問題であったのか,また,その問題の原因は如何なる構成にあったのかが何等説明されておらず,本願発明の解決課題を正確に把握することができない。
5.明細書の段落【0005】に「本発明は,以上の構成を備えることにより,水かき音を低減させることができる。」と記載され,同段落【0011】,【0013】及び【0017】に「リング部材の断面形状を以上のように形成することにより,水かき音を低減することができる。」と記載され,同段落【0018】に「回転羽根のリング部材を上述した形状に形成することにより,排水ポンプの水かき音を低減することができる。」と記載されているが,構成と効果の関係については全く説明がなされておらず,何故,水かき音を低減する効果が得られることになるのか,その作用・原理が不明である。

補正に際しては,新規事項の追加とならないように留意されたい。

6.(注;説明の便宜上,審決で番号を付した。) なお,審判請求書において,6頁4?9行では「『リング部材』は,『薄肉部の上端面が大径羽根の上端面とほぼ面一』であるとされています。添付の参考図に示しますように,薄肉部の上端面が大径羽根の上端面とほぼ面一になるように形成されることで,気液境界層に多数存在する気泡がリング部材の上端部を乗り越えにくくなり,気泡が回転羽根に出入りしにくくなるため,リング部材の上端部周辺の水面が乱れにくくなり,気泡が破裂しにくくなります。」と説明され,6頁10?17行では「薄肉部よりも下方の部分は,上記(d)では『少なくとも一部が下方に向かうに従って肉厚が内側に増加するテーパ部』とされ,上記(e)では『内側に肉厚が増加する凸状の湾曲部』とされ,上記(f)では『下方に向かうに従って肉厚が内側に増加する凹状の湾曲部』とされています。これにより,上記(d)?(f)の構成要素は,いずれも,上端部の薄肉部より下方の部分が厚肉となるように形成されています。このように構成することで,リング部材と皿状部材の連結部の内側の角部に気泡が滞留しにくくなるので,大径羽根が攪拌する気泡の量が少なくなります。よって,気泡破裂に伴う騒音が低減します。」と説明されている。
しかしながら,「気泡がリング部材の上端部を乗り越えにくくなる」ことは,気泡がリング部材の何れかの部位に滞留することと等価であるから,「気泡が滞留しにくくなる」ことと矛盾していると解される。
したがって,審判請求書の上記説明は理解し難いところであり,本願発明について全体的に整合性のある説明がさらに必要である。」

4.意見書における請求人の主張の概要
上記の当審の拒絶理由に対し,請求人は,平成24年10月17日付けの意見書で,概略以下のように主張している。
(4-1)拒絶理由の指摘事項3について
「(4-3)参考図4は,本願発明と従来技術による気液境界面を示す図です。排水ポンプについてポンプ運転すると気液境界面(内側に空気層,外側に水層)が発生し,低揚程域においてはリング部材に対して図示の点を通り形成されます。本願発明のように薄肉部が存在することによって,気液境界面を内側に押し戻す方向に反力が作用し,気液境界面の幅(径方向の厚さ)を小さくすることが可能となります。気液境界面を大径羽根が攪拌し,気泡が発生するため,本願発明の形状の効果として気泡発生量が抑制され静音となります。
従って,大径羽根端面まで薄肉部が延びていることが望ましいですが,それより低い場合でも薄肉部の上述した効果を得ることができます。」

(4-2)拒絶理由の指摘事項4について
「(4-4)上記,(4-3)で説明した通り,本願発明の解決課題は,低揚程域(リング部材付近に気液境界面が形成する揚程)での気泡発生抑制による騒音の低減にあります。
本願明細書段落【0003】に記載されていますように,室内ユニットは,運転時の静粛性が要求されます。本願発明は,排水ポンプにおいて,リング部材の形状を改善することにより,騒音を低減する排水ポンプを提供するものであります。」

(4-3)拒絶理由の指摘事項5について
「(4-5)この点については,上記(4-3)及び下記(4-6)で説明しています。」

(4-4)拒絶理由の指摘事項6について
「(4-6)上記(4-3)で説明した通り,気液境界面の径方向の厚さに気泡発生量が比例し,従来例より本願発明の方が気泡発生量が少となります。気泡はずっと滞留していることはなく,流体の流れの中で消滅(破裂)します。このとき気泡の破裂が騒音となります。
従来例はリング部材を乗り越える形で気液境界面が形成されますので,気泡発生量が多くなり,気泡が流れの中で消滅する他,ポンプ内壁に衝突し,破裂することが多くなるため,騒音が大きくなります。
従って,本願発明の薄肉部の構成により騒音の低減効果が得られます。」

5.当審の判断
(5-1)拒絶理由の指摘事項3について
「薄肉部の上端面が大径羽根の上端面とほぼ面一」である構成の技術的意義について,請求人は,参考図4を用い,気液境界面の態様と気泡の発生との関係を根拠に,気泡発生量が抑制され静音となることを説明している。
しかし,参考図4はもとより,「気液境界面」について,出願当初の明細書には全く記載されておらず,当初明細書及び図面に示唆されている事項とも認められないし,自明な事項であるとも認められない。したがって,このような意見書の主張を参酌して本願明細書の記載を解釈することはできない。
そして,ここで説明されている事項は,本願明細書には全く記載されていない。
したがって,依然として,本願の補正後の請求項1?3における「薄肉部の上端面が大径羽根の上端面とほぼ面一」である構成の技術的意義を理解することができないから,本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(5-2)拒絶理由の指摘事項4について
請求人は,意見書で,本願発明の解決課題は,低揚程域(リング部材付近に気液境界面が形成する揚程)での気泡発生抑制による騒音の低減にある旨主張する。
しかし,本願の当初明細書には,発明が解決しようとする課題として,段落【0003】に「室内ユニットは,運転時の静粛性が要求される。本発明は,運転音を低減する排水ポンプを提供するものである。」と記載されるのみであり,低揚程域での気泡発生抑制に関しては何等記載も示唆もない。また,低揚程域でなぜ気泡が発生するのか,その原因は如何なる構成にあったのかも何等説明されていない。
そして,ここで説明されている事項は,本願明細書には全く記載されていない。
したがって,依然として,本願発明の解決課題を正確に把握することができず,本願発明の技術的意義を理解することができないから,本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(5-3)拒絶理由の指摘事項5,6について
請求人は,意見書で,指摘事項5及び6について,指摘事項3と同様,参考図4を用い,気液境界面の態様と気泡の発生との関係を根拠に,気泡の発生を抑制したり,気泡の滞留を抑制し得ることを説明しているが,このような説明を採用できないことは,上記の指摘事項3についての判断で述べたとおりである。
したがって,明細書の段落【0005】に「本発明は,以上の構成を備えることにより,水かき音を低減させることができる。」と記載され,段落【0011】,【0013】及び【0017】に「リング部材の断面形状を以上のように形成することにより,水かき音を低減することができる。」と記載され,段落【0018】に「回転羽根のリング部材を上述した形状に形成することにより,排水ポンプの水かき音を低減することができる。」と記載されているが,構成と効果の関係が依然として全く不明である。
よって,本願明細書の記載は,発明の作用・原理が不明であり,発明の構成と作用効果との関係が理解できるように記載されていないから,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

6.本願発明の進歩性について
(6-1)平成23年1月19日付けの拒絶理由通知の概要は,次のとおりである。
「3.この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記(引用文献等については引用文献等一覧参照)
《理由2,3について》
・請求項2
・引用文献等1
・備考
引用文献1の特に図11には,リング部材(30)の上端が薄肉部(図3における符号25A部の上方の部分に相当する部位)とされ,薄肉部よりも下方の部分が,内側に軸方向に水平に張り出す段付部(図3における符号25Aの部分に相当する部位)とされている構成が示されている。
なお,請求項2に係る発明は≪理由1について≫に示したように必ずしも明確ではないが,「水平に張り出す」とは,回転羽根の中心軸を通る平面での断面において段付部が軸方向に水平に張り出すことを示すものとして,上記のとおり判断した。
・・・(略)
引用文献等一覧
1.特開2002-5083号公報」

(6-2)平成23年9月26日付けの拒絶査定の概要は,以下のとおりである。
「この出願については,平成23年1月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由2,3によって,拒絶をすべきものです。
なお,意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
出願人は意見書において「引用文献1には,リング部材30の内周部にドレン水ガイド部25が形成された排水ポンプが開示されていますが,このドレン水ガイド部25は,その上面に傾斜したガイド面28を備えていて,大径羽根22による水流がリング部材30に衝突して乱流となるのを抑制して円滑な排水を可能にするものであり(段落【0020】参照),本願発明の段付部とは,構成及び作用効果が全く異なります。」と主張している。
しかし,請求項2の記載では,例えば段部が円周方向においても水平である構成が既定されておらず,引用文献1に示されたような段部が円周方向に傾斜した構成も含むものである。なお,引用文献1に示されたポンプは,請求項2に係る発明と同一であるので,請求項2に係る発明と同様の効果を有するものと解釈できる。」

(6-3)本願発明2についての当審の判断
(6-3-1)本願発明2
本願発明2は,平成24年10月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(再掲する)。
「モータと,該モータの出力軸に連結される回転羽根と,該回転羽根を収容するハウジングとを有し,前記ハウジングは下部に設けられる吸込口及び側部に設けられる吐出口を備える排水ポンプであって,
前記回転羽根は,前記モータの出力軸に連結される軸部と,該軸部から放射方向に延びる板状の大径羽根と,該大径羽根と連結される板状の小径羽根と,前記大径羽根の外周部を連結するリング部材と,該リング部材の下端部に連結される皿状部材とを有し,
前記リング部材は,前記出力軸の軸方向と直交する方向にとった肉厚に対して前記大径羽根の上端面と接する点の肉厚が薄く形成されている薄肉部を上端部に備えるとともに該薄肉部の上端面が前記大径羽根の上端面とほぼ面一であり,前記薄肉部よりも下方の部分が内側に肉厚が増加する凸状の湾曲部とされていることを特徴とする排水ポンプ。」

(6-3-2)引用例
これに対し,平成23年1月19日付けの拒絶の理由に引用された特開2002-5083号公報(以下「引用例」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,排水ポンプ,特に空調機の室内ユニットの熱交換器表面等で結露するドレンを機外に排水するのに好適なドレン排水ポンプに関する。」

・「【0011】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。図1乃至図4は,本発明の第一実施形態を示すもので,図1はその全体を一部断面で示す側面図,図2はインペラの上面図,図3はインペラの斜視図,図4はインペラの正面図である。この第一実施形態のドレン排水ポンプも,前記従来のドレン排水ポンプとほぼ同一の構成のポンプ本体2を備えている。すなわち,内面が中空の円筒形のポンプ室1を備えるポンプ本体2は,下端に吸入口3を有し,上方の側部に排出口4を備え,排出口4には排出管(図示せず)が連結されている。ポンプ本体2の上方開口部には,Oリング6を介してスナップフィット(図示せず)により蓋体8が固定されている。蓋体8の中央には水切り部9が形成されており,水切り部9の上方中心部には開口10が形成され,この開口10の下端部には,内面が下方に曲げられた水切り面部11が形成されている。
【0012】蓋体8の上面に支柱12が突設され,この支柱12にはモータ13が固定されている。モータ13の回転軸14は下方に突出して蓋体8の開口10を貫通し,後に詳述するインペラ20に固定されていて,モータ13の駆動時には,回転軸14を介してインペラ20がポンプ室1内で回転するようになっている。回転軸14の開口10の上方には水切り板15が取り付けられており,ポンプ停止時のドレンホース内の戻り水がインペラ20の上方から回転軸14の外周を伝わって上昇し,モータ内にドレン水が入ることを防止する構成となっている。
【0013】インペラ20は,図2乃至図4に示すように,インペラ20に,モータ13の回転軸14に連結されるシャフト部21が設けられており,このシャフト部21の軸線方向に向かって延びるとともに,内端部がシャフト部21から離れて位置するように8枚の羽根(主翼)22が配設されている。更に,シャフト部21の下方に軸方向に沿って,略長方形の2枚の板体を互いに十字状に結合して形成した補助羽根29が取り付けられるとともに各羽根22の下端部と連結されて,補助羽根29との間に中空部23を有するドレンガイド面24が設けられている。シャフト部21の頂端部に回転軸14の下端部を嵌入可能な孔21aが形成されている。符号30は羽根部材の外周に前記モ-タの回転軸から一定半径を隔てて配設されたリング状のドレン水整流環を示しており,このドレン水整流環30は羽根の外周にシャフト部21から一定半径を隔ててドレンガイド面24の外周縁に立設されている。そして,ドレン水整流環30の内側に,ドレン水ガイド部25が設けられている。このドレン水整流環30は後述の垂直面27と同じ高さの環状周壁で構成されており,その内側に,ドレン水ガイド部25が一体的に設けられている。
【0014】ドレン水ガイド部25は,上述のように,リング状のドレン水整流環30の内面に形成されており,このドレン水ガイド部25は,その上面に形成されたガイド面28を備えていて,このガイド面28は羽根22におけるインペラ20の回転方向とは反対側の垂直面26から隣接する羽根22におけるインペラの回転方向の垂直面27に至るまで連続的に上方に傾斜する形状に形成されている。つまり,ドレン水ガイド部25は,垂直面26,27と,インペラ20の回転方向とは反対側の垂直面26から,隣接する羽根22におけるインペラの回転方向の垂直面27に至るまで連続的に上方に傾斜するガイド面(傾斜面)28とによって構成されている。そして,この実施形態のものではガイド面28を8個備えている。」

・「【0016】そして,8枚の羽根22の各下端部が,全体をほぼ逆円錐状に形成されたドーナツ状のドレンガイド板により連結されて,前記ドレンガイド面24を構成しており,補助羽根29との間に中空部23が形成されている。そして,ドレンガイド面24の内端縁は,補助羽根29で支持される構成となっている。ポンプ室1の底面1a(図1)も,ドレンガイド面24とほぼ類似の逆円錐状に形成されている。
【0017】このようにして,リング状のドレン水整流環30の内側にリング状のドレン水ガイド部が設けられている。換言すれば,シャフト部21から一定半径を隔ててリング状のドレン水整流環30が設けられ,このドレン水整流環30の内側にリング状のドレン水ガイド部25が設けられ,このドレン水ガイド部25にインペラ20の回転方向とは反対側の垂直面26から隣接する羽根部材22におけるインペラの回転方向の垂直面27に至るまで連続的に上方に傾斜するガイド面28が設けられた構成となっていて,ドレンガイド面24,ドレン水ガイド部25,ドレン水整流環30,羽根22,補助羽根29及びシャフト部21は,合成樹脂材の一体成形により形成されてインペラ20を構成している。
【0018】上記構成をなすインペラ20がポンプ室1内で回転するとき,ポンプ室1の下端の吸入口3よりドレンパンのドレン水が上方まで溜まっていると,そのドレン水はインペラ20の補助羽根29の回転によって撹拌され,遠心力を付与されてポンプ室1の逆円錐形底面1aに沿って上昇する。この時,ポンプ室1内には,蓋8の中心部上方の開口10から大気圧が導入されるので,ポンプ室内のドレン水はその中心が略放物面をなす自由表面が形成される。この点は前記の従来のものと同様である。
【0019】この補助羽根29によって掻き回されポンプ室1の内面に沿って上昇するドレン水は,補助羽根29の上方に形成されたドレン水ガイド部25の下面のドレンガイド面24に案内されつつ更にポンプ室1の内面に沿って上昇し,ドレン水ガイド部25とポンプ室1の内壁との間を上昇するが,この行程時,羽根22の外周にドレン水ガイド部25が形成されているドレン水整流環30の作用により,遠心力によって半径方向外側に広げられた自由表面を羽根外周が撹拌されることが無くなり,気泡の発生を抑制することができ,その結果,騒音,振動の低減が可能となる。また,ドレン水ガイド部25が,羽根22によるドレン水の水流がドレン水整流環30にぶつかり,流れが乱れるのを抑制するよう作用して,円滑な排水を行うことが可能となる。
【0020】このように,この第一実施形態のドレン排水ポンプによれば,ドレン水整流環30と該ドレン水整流環30の内側に設けたドレン水ガイド部25とが協働して,ドレン水に気泡が発生するのを抑制して騒音,振動の低減を可能とするとともに,羽根22によりドレン水の水流がドレン水整流環30に衝突して乱流となるのを抑制して円滑な排水を可能とするなどの効果を得ることができる。」

・「【0023】つぎに,図7(a)?(c)により,第二実施形態について説明する。この第二実施形態のものでは,インペラ20が,8枚の羽根22を備えている点で前記の第一実施形態のものと同様であるが,各羽根22の内端部がシャフト部21まで延びる構成となっている点で相違する。なお,ドレンガイド面24,ドレン水ガイド部25,ドレン水整流環30及び補助羽根29などの構成は第一実施形態のものと同じである。また,作用効果も第一実施形態のものと同じである。」

・「【0029】
【発明の効果】以上詳述したように,本発明によれば,次のような効果が得られる。
(1)ドレン水整流環30と該ドレン水整流環30の内側に設けたドレン水ガイド部25とが協働して,ドレン水に気泡が発生するのを抑制することができる。
(2)上記(1)により,騒音,振動の低減が可能となる。」

・図1には,インペラ20をハウジングに収容した態様,及び該ハウジングが下部に吸入口3を,側部に排出口4を備えた態様が示されている。

・図7(a)?(c)には,インペラ20のシャフト21から板状の8枚の羽根22が放射方向に延びる態様,及びドレン水整流環30の下端部にドレンガイド面24を構成するドレンガイド板が連結された態様が示されている。

・図7(a)(b)には,ドレン整流環30が,回転軸の軸方向と直交する方向にとった根元部の肉厚に対して羽根22の上端面と接する点の肉厚が薄く形成された薄肉部を上端部に備えた態様,及び薄肉部の上端面が羽根22の上端面とほぼ面一である態様が示されている。

上記記載事項及び図示内容を総合すると,引用例には,以下の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「モータ13と,該モータ13の回転軸14に固定されたインペラ20と,該インペラ20を収容するハウジングとを有し,前記ハウジングは下部に設けられる吸入口3及び側部に設けられる排出口4を備えるドレン排水ポンプであって,
前記インペラ20は,前記モータ13の回転軸14に連結されるシャフト部21と,該シャフト部21から放射方向に延びる板状の羽根22と,該羽根22の下端部と連結される板体の補助羽根29と,前記羽根22の外周に立設されるドレン水整流環30と,該ドレン水整流環30の下端部に連結されるドレンガイド板とを有し,
前記ドレン整流環30は,前記回転軸の軸方向と直交する方向にとった根元部の肉厚に対して前記羽根22の上端面と接する点の肉厚が薄く形成された薄肉部を上端部に備えるとともに該薄肉部の上端面が前記羽根22の上端面とほぼ面一であり,前記薄肉部よりも下方の部分が内側に肉厚が増加するドレン水ガイド部25が形成されているドレン排水ポンプ。」

(6-3-3)対比
本願発明2と引用発明とを対比すると,機能・作用からみて,後者の「回転軸14」は前者の「出力軸」に相当し,以下同様に,「固定された」態様は「連結される」態様に,「インペラ20」は「回転羽根」に,「吸入口3」は「吸込口」に,「排出口4」は「吐出口」に,「ドレン排水ポンプ」は「排水ポンプ」に,「シャフト部21」は「軸部」に,「羽根22」は「大径羽根」に,「下端部と連結される」態様は「連結される」態様に,「板体」は「板状」に,「補助羽根29」は「小径羽根」に,「ドレン水整流環30」は「リング部材」に,「羽根22の外周に立設されるドレン水整流環30」は「大径羽根の外周部を連結するリング部材」に,「ドレンガイド板」は「皿状部材」に,「回転軸の軸方向と直交する方向にとった根元部の肉厚に対して羽根22の上端面と接する点の肉厚が薄く形成された薄肉部」は「出力軸の軸方向と直交する方向にとった肉厚に対して大径羽根の上端面と接する点の肉厚が薄く形成されている薄肉部」に,それぞれ相当する。
また,後者の「薄肉部よりも下方の部分が内側に肉厚が増加するドレン水ガイド部25が形成されている」態様と,前者の「薄肉部よりも下方の部分が内側に肉厚が増加する凸状の湾曲部とされている」態様とは,「薄肉部よりも下方の部分が内側に肉厚が増加する所定の形状とされている」との概念で共通する。

したがって,両者は,
「モータと,該モータの出力軸に連結される回転羽根と,該回転羽根を収容するハウジングとを有し,前記ハウジングは下部に設けられる吸込口及び側部に設けられる吐出口を備える排水ポンプであって,
前記回転羽根は,前記モータの出力軸に連結される軸部と,該軸部から放射方向に延びる板状の大径羽根と,該大径羽根と連結される板状の小径羽根と,前記大径羽根の外周部を連結するリング部材と,該リング部材の下端部に連結される皿状部材とを有し,
前記リング部材は,前記出力軸の軸方向と直交する方向にとった肉厚に対して前記大径羽根の上端面と接する点の肉厚が薄く形成されている薄肉部を上端部に備えるとともに該薄肉部の上端面が前記大径羽根の上端面とほぼ面一であり,前記薄肉部よりも下方の部分が内側に肉厚が増加する所定の形状とされている排水ポンプ。」の点で一致し,次の点で相違する。

[相違点]
リング部材の薄肉部よりも下方の部分が内側に肉厚が増加する「所定の形状」に関して,本願発明は「凸状の湾曲部」とされているのに対し,引用発明はそのような特定はなされていない点。

(6-3-4)判断
上記相違点について検討する。
本願明細書には,リング部材の薄肉部よりも下方の部分が内側に肉厚が増加する凸状の湾曲部とすることについて,段落【0011】に「図3以下に,本発明の回転羽根リング部材200を図2のA-A断面にした構造の種々の例を図3に示す。図3の(a)は,リング部材200の上端部を薄肉部201に形成し,凸状の湾曲部201aを介して皿状部材160に連結する例を示す。リング部材の断面形状を以上のように形成することにより,水かき音を低減することができる。」と記載されているが,「リング部材の断面形状を以上のように形成すること」が,何故水かき音を低減することになるのか,この記載からでは理解できないし,自明であるということもできない。
また,段落【0013】には,「図4の(a)は,リング部材200の上端部を薄肉部211に形成し,テーパー部201a(審決注;211aの誤記)を介して皿状部材160に連結する例を示す。リング部材の断面形状を以上のように形成することにより,水かき音を低減することができる。」と記載され,段落【0015】には,「図5の(a)は,リング部材200の上端部を薄肉部221に形成し,テーパー部221aを介して皿状部材160に連結する例を示す。リング部材の断面形状を以上のように形成することにより,水かき音を低減することができる。」と記載されるように,リング部材の断面形状は,凸状の湾曲部に限らず,種々の形状でも同様の作用効果を奏することが記載されている。
これらの記載から,リング部材の薄肉部よりも下方の部分が内側に肉厚が増加する形状として,「凸状の湾曲部」とすることに,格別の技術的意義を認めることはできない。
そうすると,引用発明において,リング部材(ドレン整流環)の薄肉部よりも下方の部分が内側に肉厚が増加する形状として,ドレン水ガイド部の機能を奏し得る範囲内で凸状の湾曲部とすることは,適宜採用し得る設計事項というべきである。
したがって,本願発明2は,引用発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

7.むすび
以上のとおり,本願明細書の記載は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないので,本願は,特許法第49条第4号の規定に該当し拒絶をされるべきものである。
また,本願発明2は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるため,本願は,特許法第49条第2号の規定に該当し拒絶をされるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-09 
結審通知日 2013-01-15 
審決日 2013-01-29 
出願番号 特願2004-209377(P2004-209377)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (F04D)
P 1 8・ 121- WZ (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田谷 宗隆  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 川口 真一
槙原 進
発明の名称 排水ポンプ  
代理人 特許業務法人第一国際特許事務所  

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