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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G03B
管理番号 1271399
審判番号 不服2012-3896  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-29 
確定日 2013-03-14 
事件の表示 特願2006-233122「像振れ補正装置およびそれを具備する撮像装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月13日出願公開、特開2008- 58445〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年8月30日の出願であって、平成23年6月30日付けで拒絶理由が通知され、同年9月1日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、同年11月21日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成24年2月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、平成24年8月1日付けで、審判請求人に前置報告の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年10月5日付けで回答書が提出された。

第2 本願発明について
1.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年2月29日付けの手続補正により補正された、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「像振れ補正用の補正レンズを保持する保持部材と、
前記保持部材を光軸に直交する方向に移動可能に支持する固定部材と、
前記保持部材の前記固定部材に対する相対的な位置を変化させる駆動手段と、
前記保持部材又は前記固定部材の何れか一方に前記光軸に平行な方向に突出した軸部材が設けられ、前記保持部材又は前記固定部材の他方に穴部が設けられ、前記軸部材は前記保持部材または前記固定部材の他方と係合することなく前記穴部に延在され、前記軸部材と前記穴部の間隙に配設される減衰剤とを有することを特徴とする像振れ補正装置。」

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2005-338298号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付した。)

(a)「【実施例】
【0011】
以下、本発明にかかる実施例を図1ないし図9を参照して説明する。
図1ないし図6は本発明の一実施例を示す図で、図1は、振れ補正光学装置が搭載されたカメラの一部を示す斜視図、図2は図1のII線矢視図、図3は、振れ補正光学装置の分解斜視図、図4ないし図6は、それぞれ振れ補正光学装置の斜視図である。
図7ないし図9は変形例を示す図で、図7(A),(B)は、それぞれ振れ補正光学装置の正面図,底面図、図8,図9は、それぞれ図7に示す振れ補正光学装置の斜視図である。
【0012】
図1ないし図6に示す振れ補正光学装置1と、図7ないし図9に示す振れ補正光学装置1aは、光学機器としてのカメラ2に搭載されて、カメラ2に加わる手振れなどの振れによる像振れを補正する機能を有している。
振れ補正光学装置1,1aでは、レンズホルダ3に取付けられた光学レンズ4を有する可動部5,5aが、複数(ここでは、4本)のレンズ支持部材としての支持ワイヤ6により、振れ補正光学装置本体(以下、装置本体という)7に支持されている。
4本の支持ワイヤ6は、可撓性を有して、光学レンズ4の光軸Bとほぼ平行な方向に延びて配置されている。なお、レンズ支持部材として、線材からなり可撓性を有するワイヤの場合を示したが、可撓性を有する細長い板ばねを使用し、この板ばねを光軸Bとほぼ平行な方向に延びて配置した場合であってもよい。また、4本の支持ワイヤ6は、光学レンズ4の光軸Bと平行な方向に延びている場合を示したが、光軸Bに対して若干角度がある場合でもよい。
【0013】
各支持ワイヤ6の一方側10を装置本体7に保持し、支持ワイヤ6の他方側11をレンズホルダ3に取付け、支持ワイヤ6が撓むことにより、可動部5,5aを駆動手段8,8aで光軸Bと直交する方向に平行移動可能にしている。なお、「光軸Bと直交する方向」とは、第1の方向としての縦方向(X方向)と、この第1の方向(縦方向)と直交する第2の方向としての横方向(Y方向)と、この縦方向と横方向を含む平面内(X,Y平面内)にある斜め方向のことである。
これにより、光学レンズ4が、摩擦抵抗などがなく初動時から安定した初動電圧でスムーズに装置本体7に対して移動動作を開始し、その後も駆動手段8,8aの駆動力に対してリニアに且つ高精度に平行移動することになり、像振れを補正することができる。
また、可動部5,5aが平行移動するのに摩擦抵抗がないので、省電力で光学レンズ4を駆動することができる。
【0014】
図1ないし図6に示す本実施例の振れ補正光学装置1は、駆動手段8の永久磁石が固定側に配置され、可動部5に駆動コイルが取付けられており、駆動コイルが移動するので、「コイル移動(moving coil)タイプ(いわゆる、MCタイプ)」と呼ばれている。
すなわち、振れ補正光学装置1において、可動部5を移動させるための駆動手段8の磁気回路を構成する永久磁石(ここでは、第1の永久磁石53と第2の永久磁石57)が装置本体7側に設けられている。
また、駆動コイルが可動部5に設けられている。すなわち、駆動手段8の磁気回路を構成する駆動コイル(ここでは、第1の駆動コイル15と第2の駆動コイル16)が、可動部5に設けられている。
【0015】
可動部5側の駆動コイル15,16に装置本体7側から電流を供給するために、レンズ支持体(支持ワイヤ6)は、導電性のワイヤにより構成されている。支持ワイヤ6を導電性のワイヤにより構成すれば、可動部5側の駆動コイル15,16まで電流を供給するための配線を別途設ける必要がなくなり、電流供給の構成が簡略化し、また、配線による不要なテンションをなくすることができる。
この振れ補正光学装置1では、支持ワイヤ6は光学レンズ4の周囲に4本配置されている。これにより、二つの駆動コイル15,16に電流を供給するための必要最小限の本数が確保されている。
【0016】
一方、図7ないし図10に示す変形例にかかる振れ補正光学装置1aは、駆動手段8aの駆動コイル(ここでは、第1の駆動コイル15と第2の駆動コイル16)が固定側に配置され、永久磁石(ここでは、第1の永久磁石53と第2の永久磁石57)が可動部5aに取付けられており、永久磁石53,57が移動するので、「永久磁石移動(moving magnet)タイプ(いわゆる、MMタイプ)」と呼ばれている。
すなわち、可動部5aを移動させるための駆動手段8aの磁気回路を構成する第1の永久磁石53と第2の永久磁石57が可動部5aに設けられ、この磁気回路を構成する第1の駆動コイル15と第2の駆動コイル16が装置本体7側に設けられている。
この場合には、駆動コイルが可動部5aにないので、可動部5aに電流を供給する必要がなく、電気回路を簡略化することができ、配線による不要なテンションをなくすることができる。
【0017】
本実施例と変形例にかかる振れ補正光学装置1,1aにおいて、レンズ支持部材としての複数(ここでは、4本)の支持ワイヤ6は、光学レンズ4の周囲に周方向にほぼ等間隔に配置されている。したがって、可動部5,5aを常に安定した状態で均等に保持することができる。
可動部5,5aは、4本の支持ワイヤ6を介して空間に浮いている格好で取付けられている。したがって、可動部5,5aは、縦方向,横方向,斜め方向など任意の方向に移動動作を行なって、光学レンズ4を自在に平行移動させることができる。
可動部5,5aは、第1の駆動コイル15と第2の駆動コイル16に電流が供給されていないときの基本位置から、第1の駆動コイル15と第2の駆動コイル16の一方または
両方に電流を供給することにより、縦方向(X方向),横方向(Y方向),斜め方向にシフト(移動動作)することができる。
【0018】
振れ補正光学装置1,1aにおいて、複数(ここでは、4本)の支持ワイヤ6の一方側(すなわち、支持ワイヤ6の根元部)10は、ゲル剤17を介して装置本体7に保持されている。ここで、「ゲル」は、固体と液体からなる2相のコロイド系であり、ゾルが流動性を失ったものである。
支持ワイヤ6の根元部をゲル剤17で保持することにより、可動部5,5aを移動させるときに、共振量(Q値)を抑制して光学レンズ4が共振するのを防止することができる。その結果、振れ補正光学装置1,1aは、低周波数から高周波数まで広い範囲で像振れを補正することができる。
ゲル剤17を支持ワイヤ6の根元部に配置したので、共振周波数帯域での共振が起こらなくなる。したがって、高次周波数帯域(具体的には数KHz)まで光学レンズ4を追従させることが可能になり、手振れよりさらに微小な振動に対する補正も可能になる。
なお、ゲル剤17に代えて、ゴム,弾性を有する合成樹脂(たとえば、シリコン樹脂,シリコンゴム)などの弾性部材を用いて、この弾性部材を介して支持ワイヤ6の一方側10を装置本体7に保持した場合であっても、ゲル剤17で支持ワイヤ6の根元部を保持したと同じ作用効果を奏する。
【0019】
次に、振れ補正光学装置1についてさらに詳述する。
図1ないし図6に示すように、カメラ2は円筒状のレンズ鏡筒20を有しており、このレンズ鏡筒20には、レンズ群21が位置決め保持されている。振れ補正光学装置1は、レンズ群21に対向してレンズ鏡筒20の内方に取付けられている。
振れ補正光学装置1は、手振れなどの振れによりカメラ2が振動したとき、このカメラ振れによる光軸の変化を、光学レンズ4を変位させて補正することにより、手振れが生じても像振れを生じない鮮明な写真を撮影可能にしている。
【0020】
振れ補正光学装置1の装置本体7は、レンズ鏡筒20に装着されて位置決め保持されている。装置本体7は、円環状部30と、円環状部30から外方に扇状に延びた扇状部31とを有し、全体が一体的に形成されている。
円環状部30には、中央部に円形の開口32が同心に形成され、この開口32の周囲に複数(ここでは、4つ)の貫通孔33が周方向にほぼ等間隔に形成されている。貫通孔33は円形をなしており、この貫通孔33には円筒状のゲル剤17が装着されている。
円環状部30の一方の面には、導電パターンを有してフレキシブルな円環状の第1の回路基板34が固着されている。第1の回路基板34には、複数(ここでは、4つ)の貫通孔39が周方向にほぼ等間隔に位置して形成されている。
ゲル剤17が取付けられた装置本体7と、第1の回路基板34とにより、可動部5を移動可能に支持する固定部9が構成されている。
扇状部31の外周面38は、部分円筒状に形成されて、レンズ鏡筒20の内周面に密着して位置決め保持されるようになっている。扇状部31には、縦方向(X方向)に第1の凹部35が形成され、横方向(Y方向)に第2の凹部36が形成されている。第1の凹部35と第2の凹部36は、駆動手段8を取付け可能に装置本体7の他方の面37に形成されている。
【0021】
光学レンズ4が装着された円環状のレンズホルダ3の外周部には、第1の保持部40が縦方向(X方向)に一体的に突出形成され、第2の保持部41が横方向(Y方向)に一体的に突出形成されている。
レンズホルダ3には、複数(ここでは、4つ)の貫通孔42が、光学レンズ4の周囲に周方向にほぼ等間隔に位置して穿設されている。レンズホルダ3には、導電パターンを有してフレキシブルな円環状の第2の回路基板43が固着されている。第2の回路基板43
にも、レンズホルダ3の貫通孔42と同じ位置に、同じ数(ここでは、4つ)の貫通孔44が形成されている。
【0022】
支持ワイヤ6は、第1の回路基板34の貫通孔39,装置本体7に装着されたゲル剤17の内部,レンズホルダ3の貫通孔42,第2の回路基板43の貫通孔44を挿通して取付けられている。
支持ワイヤ6の一方側10は、第1の回路基板34に半田付けされその導電パターンと電気的に接続されている。支持ワイヤ6の他方側11は、第2の回路基板43に半田付けされその導電パターンと電気的に接続されている。
こうして、可動部5は、4本の支持ワイヤ6により平行移動可能に装置本体7側に支持されている。なお、支持ワイヤ6が4本の場合を示したが、3本,5本,6本などの複数本であってもよい。
【0023】
駆動手段8は、カメラ縦振れ(ピッチング方向)による像振れを補正するための第1の駆動部50と、カメラ横振れ(ヨーイング方向)による像振れを補正するための第2の駆動部51とを有している。
【0024】
第1の駆動部50は、第1の駆動コイル15,第1のヨーク52および第1の永久磁石53を有している。第1の駆動コイル15は、レンズホルダ3の第1の保持部40に装着されて位置決め保持されている。第1の駆動コイル15は、巻線が環状に巻回された空心コイルである。
第1のヨーク52は、互いに対向して平行な一方のヨーク部54と他方のヨーク部55とを有してU字状をなしており、装置本体7の第1の凹部35に固定されている。第1の永久磁石53は、第1の駆動コイル15に対向して配置され、第1のヨーク52の所定位置に取付けられている。
第1のヨーク52の他方のヨーク部55の外面が、第1の凹部35に固着されており、他方のヨーク部55の内面に、第1の永久磁石53が固着されている。一方のヨーク部54は、第1の駆動コイル15の中空部に非接触状態で挿入されている。
【0025】
第1の駆動コイル15,第1のヨーク52および第1の永久磁石53により、第1の駆動部50の磁気回路が構成されている。すなわち、第1の駆動コイル15は、この第1の駆動コイル15に対向する第1の永久磁石53と第1のヨーク52とが形成する磁界中に配置されて、磁気回路を構成している。第1の駆動コイル15は、第1の永久磁石53の磁束が鎖交するように配置されている。
可動部5に設けられた第1の駆動コイル15に、支持ワイヤ6を介して電流が供給されると、第1の駆動コイル15に電磁力が生じ、この電磁力により可動部5が縦方向(X方向)に移動することができる。
【0026】
第2の駆動部51は、第2の駆動コイル16,第2のヨーク56および第2の永久磁石57を有している。第2の駆動コイル16は、レンズホルダ3の第2の保持部41に装着されて位置決め保持されている。第2の駆動コイル16は、巻線が環状に巻回された空心コイルである。
第2のヨーク56は、互いに対向して平行な一方のヨーク部58と他方のヨーク部59とを有してU字状をなしており、装置本体7の第2の凹部36に固定されている。第2の永久磁石57は、第2の駆動コイル16に対向して配置され、第2のヨーク56の所定位置に取付けられている。
第2のヨーク56の他方のヨーク部59の外面が、第2の凹部36に固着されており、他方のヨーク部59の内面に、第2の永久磁石57が固着されている。一方のヨーク部58は、第2の駆動コイル16の中空部に非接触状態で挿入されている。
【0027】
第2の駆動コイル16,第2のヨーク56および第2の永久磁石57により、第2の駆動部51の磁気回路が構成されている。すなわち、第2の駆動コイル16は、この第2の駆動コイル16に対向する第2の永久磁石57と第2のヨーク56とが形成する磁界中に配置されて、磁気回路を構成している。第2の駆動コイル16は、第2の永久磁石57の磁束が鎖交するように配置されている。
可動部5に設けられた第2の駆動コイル16に、支持ワイヤ6を介して電流が供給されると、第2の駆動コイル16に電磁力が生じ、この電磁力により可動部5が横方向(Y方向)に移動することができる。
なお、第1の駆動コイル15と第2の駆動コイル16は、空心コイルである場合を示しているが、これに代えて、レンズホルダ3に巻枠(ボビン)を一体的に突出形成し、この巻枠に巻線を巻回したコイルであってもよい。
【0028】
固定部9における第1の回路基板34の導電パターンは、カメラ2の電気回路に電気的に接続されている。また、第2の回路基板43の導電パターンは、第1の駆動コイル15と第2の駆動コイル16にそれぞれ電気的に接続されている。
したがって、カメラ2の電気回路から、第1の回路基板34の導電パターン,支持ワイヤ6,第2の回路基板43の導電パターンを介して、第1の駆動コイル15と第2の駆動コイル16にそれぞれ電流を供給することができる。
【0029】
次に、振れ補正光学装置1の動作について説明する。
カメラ2で撮影するときの手振れでカメラ振れが生じると、カメラ2に搭載された振動検出装置が、加速度,速度などを検出するとともに適宜演算を行なって検出情報を出力する。この検出情報に基づく電気信号は振れ補正光学装置1に出力されて、第1の駆動コイル15と第2の駆動コイル16にそれぞれ流す電流が制御される。
駆動手段8で光学レンズ4を縦方向(X方向)に移動させる場合には、移動すべき方向および移動量に応じた制御電流が、振動検出装置から支持ワイヤ6を介して第1の駆動コイル15に供給される。
すると、第1の永久磁石53の磁界中に配置されている第1の駆動コイル15により生じる電磁力により、可動部5が装置本体7に対して縦方向(X方向)にシフトして、光学レンズ4の位置を調整する。
【0030】
同様に、駆動手段8で光学レンズ4を横方向(Y方向)に移動させる場合には、移動すべき方向および移動量に応じた制御電流が、振動検出装置から支持ワイヤ6を介して第2の駆動コイル16に供給される。
こうして、第2の駆動コイル16に供給する電流を制御すれば、第2の永久磁石57の磁界中に配置されている第2の駆動コイル16により生じる電磁力により、可動部5が装置本体7に対して横方向(Y方向)にシフトして、光学レンズ4の位置を調整する。
【0031】
さらに、駆動手段8で光学レンズ4を斜め方向に移動させる場合には、移動すべき方向および移動量に応じた制御電流が、振動検出装置から支持ワイヤ6を介して第1の駆動コイル15と第2の駆動コイル16に供給される。
こうして、二つの駆動コイル15,16に供給する電流を制御すれば、二つの駆動コイル15,16により生じる電磁力により、可動部5が装置本体7に対して斜め方向にシフトして、光学レンズ4の位置を調整する。
【0032】
このようにして、可動部5とともに光学レンズ4は、縦方向,横方向,斜め方向にそれぞれ平行移動するようにその位置が制御される。
このとき、支持ワイヤ6は可撓性を有して光学レンズ4の光軸Bとほぼ平行な方向に延びて配置されているので、4つの支持ワイヤ6が撓むことにより、光学レンズ4は、摩擦抵抗などがなく初動時から安定した初動電圧でスムーズに装置本体7に対して移動動作を
開始することができる。その後も、光学レンズ4は、第1の駆動部50と第2の駆動部51の駆動力に対してリニアに且つ高精度に平行移動して、像振れを補正することができる。
【0033】
図7ないし図9に示す変形例にかかる振れ補正光学装置1aでは、駆動手段8aの永久磁石と駆動コイルの取付け位置が上述の振れ補正光学装置1とは逆になっているが、これ以外の構成はほぼ同じである。したがって、振れ補正光学装置1aは、上述の実施例にかかる振れ補正光学装置1と同じ作用効果を奏する。
【0034】
振れ補正光学装置1aにおいて、駆動手段8aは、可動部5aを縦方向(X方向)に移動させるための第1の駆動部50aと、可動部5aを横方向(Y方向)に移動させるための第2の駆動部51aとを有している。
第1の駆動部50aにおいて、レンズホルダ3の第1の保持部40には第1の永久磁石53が保持されている。第1の駆動コイル15は、第1の巻枠65に巻線が巻回されて構成されており、第1の永久磁石53に対向して配置されている。第1の巻枠65は、装置本体7の所定位置(たとえば、第1の凹部35(図3))に嵌め込んで位置決め保持されている。
第2の駆動部51aにおいて、第2の永久磁石57は、レンズホルダ3の第2の保持部41に装着して保持されている。第2の駆動コイル16は、第2の巻枠66に巻線が巻回されて構成されており、第2の巻枠66は、装置本体7の所定位置(たとえば、第2の凹部36(図3))に嵌め込んで位置決め保持されている。第2の駆動コイル16は、第2の永久磁石57に対向して配置されている。
【0035】
この振れ補正光学装置1aでは、第1の駆動コイル15と第2の駆動コイル16は、装置本体7側に取付けられているので、これらコイル15,16の各巻線は、装置本体7に固着された第1の回路基板の導電パターンに、半田付けなどで直接電気的に接続されている。
このように、振れ補正光学装置1aでは支持ワイヤ6で駆動コイル15,16に電流を供給する必要がないので、支持ワイヤ6を導電性の素材以外の素材で構成してもよい。また、支持ワイヤ6を電気的に接続する作業が不要になり、組立作業が簡略化する。
【0036】
このように、上述の本実施例および変形例では、装置本体7と可動部5,5aが、複数(ここでは、4本)の支持ワイヤ6で連結されたリンク機構を構成している。そして、4つの支持ワイヤ6が撓むことにより可動部5,5aが移動しても、この4つの支持ワイヤ6は、常に同じ長さで且つ同じ力で可動部5,5aを支持している。
したがって、可動部5,5aは、捻じれ動作や回転動作などを起こすことがなく、駆動手段8,8aの駆動力に対して常にリニアに高精度に且つスムーズに平行移動することができる。また、この平行移動時に摩擦抵抗などが発生しないので省電力化ができ、少ない電力で光学レンズ4を滑らかに移動動作させることができる。
ゲル剤17を支持ワイヤ6の根元部に配置して共振周波数帯域での共振が起こらないようにしたので、高次周波数帯域まで光学レンズ4を追従させて、手振れよりさらに微小な振動に対する補正を行うこともできる。」

(b)「


(c)「


(d)「


(e)「


(f)「


(g)「



(h)「


(i)「


(j)「


(k)上記記載事項(a)(特に、段落【0014】?【0016】、【0022】、【0035】等)から、MCタイプの振れ補正光学装置1では、可動部5側の駆動コイル15,16に電流を供給するために、支持ワイヤ6を導電性のワイヤにより構成し、その一方側10及び他方側11をそれぞれ振れ補正光学装置本体7側の第1の回路基板34及び可動部5側の第2の回路基板43に半田付けする構成を採用しているのに対して、MMタイプの振れ補正光学装置1aでは、駆動コイル15,16が装置本体7側に取り付けられているので、支持ワイヤ6で駆動コイル15,16に電流を供給する必要がないから、「振れ補正光学装置1」のような支持ワイヤ6の一方側10及び他方側11をそれぞれ振れ補正光学装置本体7側の第1の回路基板34及び可動部5側の第2の回路基板43に半田付けする構成は不要であることは明らかである。
また、上記記載事項(a)?(j)及び引用文献1の他の記載のすべてを参照しても、「振れ補正光学装置1a」では、支持ワイヤ6の一方側10をゲル剤17を介して振れ補正光学装置本体7に保持する手段の他に支持ワイヤ6の一方側10を振れ補正光学装置本体7に固定する手段がないことは明らかである。
これらの事項から、振れ補正光学装置1aでは、支持ワイヤ6の一方側10は振れ補正光学装置本体7と係合することなく、ゲル剤17を介して振れ補正光学装置本体7に保持されている構成であるといえる。

すると、上記引用文献1の記載事項(a)?(j)及び該記載事項から考察される事項(k)を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「レンズホルダ3に取付けられた光学レンズ4を有する可動部5aが、複数のレンズ支持部材としての支持ワイヤ6により、振れ補正光学装置本体7に支持され、各支持ワイヤ6の一方側10を装置本体7に保持し、支持ワイヤ6の他方側11をレンズホルダ3に取付け、支持ワイヤ6が撓むことにより、可動部5aを駆動手段8aで光軸Bと直交する方向に平行移動可能にしており、
支持ワイヤ6は、可撓性を有して、光学レンズ4の光軸Bとほぼ平行な方向に延びて配置されており、
振れ補正光学装置本体7は円環状部30を有し、円環状部30には複数の貫通孔33が周方向にほぼ等間隔に形成され、貫通孔33には円筒状のゲル剤17が装着され、
支持ワイヤ6の一方側10は振れ補正光学装置本体7と係合することなく、ゲル剤17を介して振れ補正光学装置本体7に保持されており、
可動部5aを移動させるための駆動手段8aの磁気回路を構成する第1の永久磁石53と第2の永久磁石57が可動部5aに設けられ、この磁気回路を構成する第1の駆動コイル15と第2の駆動コイル16が装置本体7側に設けられた振れ補正光学装置1a。」

3.対比
(1)本願発明と引用発明との対比
(a)引用発明の「可動部5a」、「振れ補正光学装置本体7」、「駆動手段8a」、「支持ワイヤ6」、「貫通孔33」、「ゲル剤17」及び「振れ補正光学装置1a」は、それぞれ、本願発明の「保持部材」、「固定部材」、「駆動手段」、「軸部材」、「穴部」、「減衰剤」及び「像振れ補正装置」に相当する。
(b)引用発明の「レンズホルダ3に取付けられた光学レンズ4」が像振れを補正するためのものであることは明らかであるから、引用発明の「レンズホルダ3に取付けられた光学レンズ4を有する可動部5a」は、本願発明の「像振れ補正用の補正レンズを保持する保持部材」に相当する。
(c)引用発明の「複数のレンズ支持部材としての支持ワイヤ6により、振れ補正光学装置本体7に支持され、」「支持ワイヤ6が撓むことにより、可動部5aを駆動手段8aで光軸Bと直交する方向に平行移動可能にして」いる構成は、本願発明の「前記保持部材を光軸に直交する方向に移動可能に支持する固定部材と」「を有する」構成に相当する。
(d)引用発明の「可動部5aを移動させるための駆動手段8aの磁気回路を構成する第1の永久磁石53と第2の永久磁石57が可動部5aに設けられ、この磁気回路を構成する第1の駆動コイル15と第2の駆動コイル16が装置本体7側に設けられた」構成は、本願発明の「前記保持部材の前記固定部材に対する相対的な位置を変化させる駆動手段と」「を有する」構成に相当する。
(e)引用発明の「各支持ワイヤ6の一方側10を装置本体7に保持し、支持ワイヤ6の他方側11をレンズホルダ3に取付け、」「支持ワイヤ6は、可撓性を有して、光学レンズ4の光軸Bとほぼ平行な方向に延びて配置されており、振れ補正光学装置本体7は円環状部30を有し、円環状部30には複数の貫通孔33が周方向にほぼ等間隔に形成され、貫通孔33には円筒状のゲル剤17が装着され、支持ワイヤ6の一方側10は振れ補正光学装置本体7と係合することなく、ゲル剤17を介して振れ補正光学装置本体7に保持されて」いる構成は、「前記保持部材又は前記固定部材の何れか一方に前記光軸に平行な方向に突出した軸部材が設けられ、前記保持部材又は前記固定部材の他方に穴部が設けられ、前記軸部材は前記保持部材または前記固定部材の他方と係合することなく前記穴部に延在され、前記軸部材と前記穴部の間隙に配設される減衰剤とを有する」構成に相当する。

(2)一致点
してみると、両者は、
「像振れ補正用の補正レンズを保持する保持部材と、
前記保持部材を光軸に直交する方向に移動可能に支持する固定部材と、
前記保持部材の前記固定部材に対する相対的な位置を変化させる駆動手段と、
前記保持部材又は前記固定部材の何れか一方に前記光軸に平行な方向に突出した軸部材が設けられ、前記保持部材又は前記固定部材の他方に穴部が設けられ、前記軸部材は前記保持部材または前記固定部材の他方と係合することなく前記穴部に延在され、前記軸部材と前記穴部の間隙に配設される減衰剤とを有する像振れ補正装置。」
で一致し、相違点はない。

(3)判断
したがって、本願発明は引用発明である。

なお、審判請求人は、平成24年10月5日付けの回答書で、特許請求の範囲の請求項1を、
「像振れ補正用の補正レンズを保持する保持部材と、
前記保持部材を光軸に直交する方向に移動可能に支持する固定部材と、
前記保持部材の前記固定部材に対する相対的な位置を変化させる駆動手段と、
前記保持部材又は前記固定部材の何れか一方に前記光軸に平行な方向に突出した軸部材が設けられ、前記保持部材又は前記固定部材の他方に穴部が設けられ、前記軸部材の突部が他の部材と係合することなく前記穴部に延在され、前記軸部材と前記穴部の間隙に配設される減衰剤とを有することを特徴とする像振れ補正装置。」
と補正する補正案を提示しているが、「前記軸部材の突部が他の部材と係合することなく前記穴部に延在され」(特に、下線部)という構成は、本願の出願当初の明細書又は図面に記載した事項ではないことは明らかであり、当該補正案の請求項1に係る発明はいわゆる新規事項を含むものであるから、新規性進歩性等の特許性の判断は行っていない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって結論のとおり審決する。

なお、原審において通知された拒絶の理由は、本願発明が引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とするものであったが、本願発明が引用発明に基いて容易に発明をすることができたか否かを検討する際には、両者を対比して一致点・相違点についての検討がなされ、両者が同一であるか否かについても当然に検討がなされるものであり、請求人もそれを踏まえて上で意見を述べているものと考えられるから、当審において改めて拒絶理由を通知することなく上記のとおり審決した。
 
審理終結日 2013-01-11 
結審通知日 2013-01-15 
審決日 2013-01-28 
出願番号 特願2006-233122(P2006-233122)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鉄 豊郎  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 神 悦彦
森林 克郎
発明の名称 像振れ補正装置およびそれを具備する撮像装置  
代理人 阿部 琢磨  
代理人 黒岩 創吾  

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