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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23H
管理番号 1271414
審判番号 不服2012-15780  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-13 
確定日 2013-03-14 
事件の表示 特願2007-111265「電解研磨装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月 6日出願公開、特開2008-264929〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年4月20日の出願であって、平成23年7月25日付けで拒絶の理由が通知され、同年9月16日に手続補正がなされ、平成24年5月18日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年8月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成23年9月16日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「支持軸と、
前記支持軸周りに放射方向に配置された砥石と、
前記支持軸に対して放射方向に露呈し、前記砥石の研磨面よりも前記支持軸側に退いた第1電極とを備えた研磨ヘッド、
前記研磨ヘッドが挿入される金属管に接続される第2電極、
前記研磨ヘッドが前記金属管内で、前記金属管に対して前記支持軸回りに相対的に回転するように、前記研磨ヘッドと前記金属管とのうち少なくともどちらか一方を回転させる駆動手段、および、
前記金属管の一端から前記金属管内に電解液を送り込み、前記金属管内に送り込まれた前記電解液を前記金属管の他端側から外部に送り出す液流通手段、を有する電解研磨装置であって、
前記砥石が、前記砥石の前記支持軸側に設けられたコイルバネによって前記放射方向に付勢されている電解研磨装置。」

3.刊行物記載の発明
これに対し、本願出願前に頒布され、拒絶理由で引用された刊行物である特開平11-138350号公報(以下「刊行物1」という。)には、次のように記載されている。

ア.段落0010?0015
「【0010】
【発明の実施の形態】以下、図1?図5を参照して本発明に係る電解複合研磨装置を具体的に説明する。この電解複合研磨装置は図1及び図2に示すように、基台1とその上に設置されたフレーム2、鉛直方向に配置された外周管3、外周管3の中に図示しない複数個の軸受を介して鉛直方向にかつ回転自在に配置された回転軸4、外周管3の下方において回転軸4の先端に取り付けられた工具電極5、外周管3の周囲に螺旋状に巻き回され、図示しない機構により内部を加圧できるようにしたプラスチック管(シリコンチューブ)6、フレーム2に取り付けられたガイド7に沿って鉛直方向に摺動自在の摺動部材8、外周管3の上端部を支持し摺動部材8に固定された支持部材9、回転軸4の上端部近傍を支持し同じく摺動部材8に固定された軸受部材10、摺動部材8をガイド7に沿って上下摺動させる(つまり外周管3及び回転軸4を上下移動させる)移動モーター11、摺動部材8に取り付けられ回転軸4を回転させるモーター12、アルミ中空押出形材Wを固定する固定チャック13(陽極通電チャック)等を備える。
【0011】この電解複合研磨装置において、回転軸4は中空軸(図3参照)であり、回転軸4の頂部にはロータリージョイント15を介して中空穴4aにエアを導入できるようになっている。また、固定チャック13の上方に位置しガイド7に沿って摺動自在で適宜位置に固定自在とされたフリーリング機構16と、その上に配置された規制スリーブ17、規制スリーブ17の開口から流出する電解液を受ける液受け18、固定チャック13の下方位置に固定されたフリーリング機構19、回転軸4に接触する陰極通電ブラシ20を備えている。
【0012】フリーリング機構16及び19はそれぞれほぼ同じ構造を持ち、固定されたスリーブ21、22内に2段にフリーリング23、24、25、26がメカニカルシールを介してそれぞれ独立して回転自在に保持され、固定チャック13に取り付けられたアルミ中空押出形材Wの円筒部の上下開口にシールパッキン27、28を介して当接される。このフリーリング23?26は、アルミ中空押出形材Wの円筒部の仕上がり内径と同じか又はわずかに大きい内径と、工具電極5の弾性砥石(後述)とほぼ同じ長さを持ち、その弾性砥石の押圧力によりフリーに同期回転し、アルミ中空押出形材Wの円筒部端面がベルマウス形状に変形(研磨)されるのを防止する。また、規制スリーブ17はフリーリング機構16の上に連設されており、フリーリング23、24の内径とほぼ同じ内径をもつ。
【0013】図3に示すように、回転軸4は軸受30により外周管3の中で回転自在に支持されている。また、外周管4の下端に螺合したシール押え31と回転軸4に固定されたシール押え32の間にフェルト状のシール33が介在し、電解液が相対回転する外周管3と回転軸4の間に浸入するのを防止している。
【0014】外周管3の下端から突出した回転軸4の先端には、取付部材34を介して工具電極5が取り付けられている。図4にも示すように、工具電極5には中空の電極部35、36が所定間隔を置いて上下に配設され、それぞれの電極部35、36には開口が放射状に180゜間隔に設けられ(各電極部35、36の開口の向きは90゜ずれている)、各開口内に研磨材としての弾性砥石37、38(粗研磨用と仕上げ研磨用)がホルダー39とともに放射方向に摺動自在に保持されている。工具電極5の中空部には、一端が回転軸4の中空穴4aに連通し他端がプラグ40により閉塞された押圧用チューブ(シリコンチューブ)41が配設され、ロータリージョイント15を介して中空穴4aに導入されたエアにより膨張して弾性砥石37、38を放射方向に押し出し、アルミ中空押出形材Wの円筒部内面に一定圧力で押し付ける作用をなす。電極部35、36の開口部側壁には硬質ガラス42が貼り付けられて砥石ホルダー39との間の摩擦力を軽減し、押圧用チューブ41内のエアー圧に応じた押圧力で弾性砥石37、38が外向きに押し出され、アルミ押出形材Wの円筒部内面に押し付けられるようになっている。
【0015】漏洩電流を防止するため、支持部材9と外周管3、軸受部材10と回転軸4は絶縁され、外周管4の外周は絶縁被覆されている。また、工具電極5の金属部分も、その電極部35(電極部36も同じ)の外周面のうち弾性砥石37を挟んで両側の部分が露出面となっている(弾性砥石37の回転方向の前方側が不働体化皮膜生成露出面35a、後方側が集中溶出露出面35b)ほかは、絶縁被覆されている。」

イ.段落0019
「【0019】次に、プラスチック管6及び押圧用チューブ41にエアを導入して加圧し、フリーリング機構19の下部の電解液注入口から電解液を導入する。続いてモーター12を駆動して回転軸4(及び工具電極5)を高速回転させ、回転軸4及び固定チャック13に通電して電極部35、36側を陰極、アルミ中空押出形材W側を陽極とし、移動モーター11を駆動して工具電極5を一定速度で引き上げる。なお、電解液はフリーリング26、25の内周面と工具電極部5の間を通って上昇し、アルミ中空押出形材Wの円筒部内周面と外周管3の外周面の間、フリーリング24、23の内周面と外周管3の外周面の間、規制スリーブ17の内周面と外周管3の外周面の間を通って液受け18に排出され、回収されて研磨スラッジを沈澱分離し濾過された後、再び電解液注入口に圧送される。」

上記記載を、技術常識を踏まえ、本願発明に照らして整理すると、上記刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「鉛直方向に配置された回転軸4、
前記回転軸4周りに放射方向に保持された弾性砥石37、38と、
外周面のうち弾性砥石37を挟んで両側の部分が露出面であり、前記弾性砥石37、38の研磨面よりも前記回転軸4側に退いた電極部35、36とを備え、回転軸4の先端に取り付けられる工具電極5、
前記工具電極5が挿入されるアルミ中空押出形材Wに接続される陽極通電チャック13、
前記工具電極5が前記アルミ中空押出形材W内で、前記アルミ中空押出形材Wに対して前記回転軸4回りに回転するように、前記工具電極5を回転させるモーター12、および、
前記アルミ中空押出形材Wの下部から前記アルミ中空押出形材W内に電解液を導入し、前記アルミ中空押出形材W内に導入された前記電解液を前記アルミ中空押出形材Wの上部側から液受け18に送り出す手段、を有する電解複合研磨装置であって、
前記弾性砥石37、38が、前記弾性砥石37、38の前記回転軸4側に設けられた押圧用チューブ41によって前記放射方向に付勢されている電解複合研磨装置。」

4.対比・判断
本願発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明における「回転軸4」は本願発明における「支持軸」に相当し、同様に「保持された」は「配置された」に、「弾性砥石37、38」は「砥石」に、「電極部35、36」は「第1電極」に、「アルミ中空押出形材W」は「金属管」に、「陽極通電チャック13」は「第2電極」に、「モーター12」は「駆動手段」に、「下部」は「一端」に、「導入」は「送り込み」に、「上部」は「他端」に、「液受け18」は「外部」に、「電解複合研磨装置」は「電解研磨装置」に、相当する。
刊行物1発明の「回転軸4」と「弾性砥石37、38と電極部35、36とを備える工具電極5」は、全体として本願発明の「研磨ヘッド」に相当する。
刊行物1発明の電解液を「送り出す手段」は「送り出す液流通手段」と言うことができる。
刊行物1発明の「押圧用チューブ41」と、本願発明の「コイルバネ」とは、「付勢手段」である限りにおいて、一致する。

そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致する。
「支持軸と、
前記支持軸周りに放射方向に配置された砥石と、
前記砥石の研磨面よりも前記支持軸側に退いた第1電極とを備えた研磨ヘッド、
前記研磨ヘッドが挿入される金属管に接続される第2電極、
前記研磨ヘッドが前記金属管内で、前記金属管に対して前記支持軸回りに回転するように、前記研磨ヘッドを回転させる駆動手段、および、
前記金属管の一端から前記金属管内に電解液を送り込み、前記金属管内に送り込まれた前記電解液を前記金属管の他端側から外部に送り出す液流通手段、を有する電解研磨装置であって、
前記砥石が、前記砥石の前記支持軸側に設けられた付勢手段によって前記放射方向に付勢されている電解研磨装置。」

そして、以下の点で相違する。
相違点1:支持軸について、刊行物1発明は「鉛直方向に配置された」ものであるが、本願発明は明らかでない点。
相違点2:第1電極について、本願発明は「支持軸に対して放射方向に露呈」するものであるが、刊行物1発明は「外周面のうち弾性砥石37を挟んで両側の部分が露出面」である点。
相違点3:付勢手段について、本願発明は「コイルバネ」であるが、刊行物1発明は「押圧用チューブ」である点。

相違点1について検討する。
本願発明は、請求項1の記載、さらに、発明の詳細な説明の記載、特に段落0005の「上記の状況の下、金属管の内面の酸洗肌、微小表面欠陥層、溶接変形部等の研磨を低コストで、高速に行うことが求められている」なる課題、段落0008の「本発明の好ましい態様に係る電解研磨装置は、たとえば、電極と砥石を有する研磨ヘッドが金属の内面の凹部も凸部も擦過し、当該擦過された表面を電解研磨することによって、内面全体を効率よく、滑らかに研磨することが可能になった」なる効果の記載からみて、支持軸が「鉛直方向に配置された」ものを排除しているとは認められない。
よって、相違点1は、実質的相違点ではない。

相違点2について検討する。
刊行物1発明における「外周面のうち弾性砥石37を挟んで両側の部分が露出面」は、図4を参照すると、「支持軸に対して放射方向に露呈」していると解される。よって、相違点2は、実質的相違点ではない。
仮に、相違点であるとしても、電解研磨において、電極を「支持軸に対して放射方向に露呈」するものは、原審で引用した特開平10-263932号公報の段落0015、図6、同じく実願平4-47139号(実開平6-617号)のCD-ROMの段落0016、図2、新たに示す実願平3-46901号(実開平4-130120号)のマイクロフイルムの段落0006?0007、図2にみられるごとく周知である。
そして、電極の配置、数は、電解研磨の研磨精度、効率等を考慮して定められるから、かかる周知技術を刊行物1発明に適用し、相違点2に係るものとすることは、必要に応じてなしうるに設計的事項にすぎない。

相違点3について検討する。
管内面を研磨する砥石を「コイルバネ」により付勢するものは、拒絶査定で引用された実願昭47-117792号(実開昭49-73891号)のマイクロフイルムのバネ4、実願昭47-108118号(実開昭49-64890号)のマイクロフイルムの弾性体5にみられるごとく周知である。
刊行物1発明における付勢手段は「押圧用チューブ」であるが、コイルバネと比較すると、耐久性に劣る。
よって、刊行物1発明において、耐久性が問題となる場合に、周知の付勢手段であるコイルバネを採用することは、必要に応じてなしうる設計的事項にすぎない。

また、これら相違点を総合勘案しても、格別の技術的意義が生じるとも認められない。

請求人は、審判請求理由で、コイルバネが周知であったとしても、刊行物1発明に組み合わせることができる理由・動機付けについて何ら説明がない、刊行物1発明のシリコンチューブをコイルバネに置き換えようとする動機がない、旨主張する。
しかし、装置の選択においては、種々の検討要素があり、製造コストが高いものであっても、耐久性が長いものを選択することは、十分にありうるから、請求人の主張は採用できない。
なお、相違点3に係る事項は、平成23年9月16日の手続補正により付加されたものであり、本願発明の課題、効果からみて、本願発明の特徴的構成であるとは認められないから、改めて意見を述べる機会を与える必要はない(参考裁判例として、平成21年(行ケ)10150号、平成21年(行ケ)10342号)。

5.むすび
本願発明は、刊行物1発明、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-09 
結審通知日 2013-01-15 
審決日 2013-01-28 
出願番号 特願2007-111265(P2007-111265)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 孔徳  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 千葉 成就
長屋 陽二郎
発明の名称 電解研磨装置  
代理人 小林 浩  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 古橋 伸茂  

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