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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1271429
審判番号 不服2011-14816  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-08 
確定日 2013-03-12 
事件の表示 特願2003-354730「ポリ-3,3”-ジアルキル-2,2’:5’,2”-テルチオフェンの電荷運搬材料としての使用」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月13日出願公開、特開2004-140364〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成15年10月15日(パリ条約による優先権主張 2002年10月15日、欧州特許庁)を出願日とする特許出願であって、平成22年4月27日付けの拒絶理由通知に対して同年8月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年2月28日付けで拒絶査定がなされた。
それに対して、同年7月8日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、平成24年2月24日付けで審尋がなされ、それに対する回答書は提出されなかった。

第2.補正の却下の決定
【結論】
平成23年7月8日に提出された手続補正書による補正を却下する。

【理由】
1.補正の内容
平成23年7月8日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?8を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?8と補正するものであり、補正前後の請求項1は各々以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
式I
【化1】

式中、
R1およびR2は、それぞれ相互に独立して、直鎖状または分枝状の1?20の炭素原子を有するアルキルであり、
nは、1よりも大きい整数である、
で表される、3,3"-二置換ポリ-2,2':5',2''-テルチオフェンの、電界効果トランジスタ(FET)、集積回路(IC)の部品、薄膜トランジスタ(TFT)の部品または高周波識別(RFID)タグの部品における半導体または電荷運搬材料としての使用。」

(補正後)
「【請求項1】
式I
【化1】

式中、
R1およびR2は、それぞれ相互に独立して、直鎖状または分枝状の1?20の炭素原子を有するアルキルであり、
nは、1よりも大きい整数である、
で表される、3,3"-二置換ポリ-2,2':5',2''-テルチオフェンの、電界効果トランジスタ(FET)における半導体または電荷運搬材料としての使用。」

2.補正事項の整理
本件補正による補正事項を整理すると、次のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項1の「3,3"-二置換ポリ-2,2':5',2''-テルチオフェンの、電界効果トランジスタ(FET)、集積回路(IC)の部品、薄膜トランジスタ(TFT)の部品または高周波識別(RFID)タグの部品における半導体または電荷運搬材料としての使用」を、「3,3"-二置換ポリ-2,2':5',2''-テルチオフェンの、電界効果トランジスタ(FET)における半導体または電荷運搬材料としての使用」と補正して、補正後の請求項1とすること。

(2)補正事項2
補正前の請求項4の「3,3"-二置換ポリ-2,2':5',2''-テルチオフェンを含む、電界効果トランジスタ(FET)、集積回路(IC)の部品、薄膜トランジスタ(TFT)の部品または高周波識別(RFID)タグの部品における半導体または電荷運搬材料」を、「3,3"-二置換ポリ-2,2':5',2''-テルチオフェンを含む、電界効果トランジスタ(FET)における半導体または電荷運搬材料」と補正して、補正後の請求項4とすること。

(3)補正事項3
補正前の請求項6の「請求項1または2に記載の半導体または電荷運搬材料」を、「請求項4または5に記載の半導体または電荷運搬材料」と補正して、補正後の請求項6とすること。

(4)補正事項4
補正前の請求項7の「電界効果トランジスタ(FET)、集積回路(IC)の部品、薄膜トランジスタ(TFT)の部品または高周波識別(RFID)タグの部品」を、「電界効果トランジスタ(FET)」と補正して、補正後の請求項7とすること。

(5)補正事項5
補正前の請求項8の「FETまたはRFIDタグを含む」を、「FETを含む」と補正して、補正後の請求項8とすること。

3.新規事項追加の有無及び補正の目的についての検討
(1)補正事項1?2,4?5について
補正事項1?2,4?5は、各々補正前の請求項1,4,7,8において択一的に記載されていた発明特定事項の一部を削除するものであるから、特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項1は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。
また、補正事項1?2,4?5が特許法第17条の2第3項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たすことは明らかである。

(2)補正事項3について
補正事項3は、補正前の請求項6に含まれていた明白な誤記を訂正するものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項3は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。
また、補正事項3が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすことは明らかである。

(3)補正の目的の適否、及び新規事項の追加の有無についてのまとめ
以上検討したとおりであるから、本件補正は特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たす。
そして、本件補正は特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かにつき、以下において更に検討する。

4.独立特許要件について
(1)補正後の発明
本願の本件補正による補正後の請求項1?8に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、上記1.の「(補正後)」の箇所に記載したとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。

「【請求項1】
式I
【化1】

式中、
R1およびR2は、それぞれ相互に独立して、直鎖状または分枝状の1?20の炭素原子を有するアルキルであり、
nは、1よりも大きい整数である、
で表される、3,3"-二置換ポリ-2,2':5',2''-テルチオフェンの、電界効果トランジスタ(FET)における半導体または電荷運搬材料としての使用。」

(2)引用例に記載された発明
(2-1)原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された「Luigi Angiolini et al., "Photoluminescence and electroluminescence of mono- and dialkyl-substituted soluble polythiophenes", e-Polymers 2002, no. 041, pp. 1-7, [online], 2002年9月19日, インターネット」(以下「引用例」という。)には、図1と共に次の記載がある(ここにおいて、下線は当合議体が付加したものである。)。

a.「Abstract: We report a comparison between optical properties (photoluminescence and UV-Vis absorption) and electroluminescence in a series of soluble polyalkylthiophenes with the aim of better understanding the role of different structural parameters, viz. length of side chains and introduction of unsubstituted thiophenes and their position in the backbone, on the electro-optical properties. The potential of these polymers as material for an active film in a single layer light emitting diode is evaluated.」(1ページ10行?16行)
(「要約:光電子工学の特性における構造パラメータ(すなわち、側鎖の長さやバックボーン中の非置換チオフェンの存在及び配置)の違いの役割のより良い理解を目的として、可溶のポリアルキルチオフェン類における光学的性質(フォトルミネセンス及び紫外線吸収)とエレクトロルミネセンスの比較を報告する。単層発光ダイオードにおける活性層のための材料として、これらのポリマーの可能性が評価される。」(審決注:合議体にて翻訳。以下同じ。))

b.「Introduction
Substituted polythiophenes are interesting materials because of their optoelectronic properties. Structural modifications in this class of polymers, such as the length of side chains or the degree of regioregularity, are extremely important because they influence the packing in the solid state which is related, through band gap modulation, to the fine tuning of the electro-optical properties of these materials. E.g., the degree of order, which can be reached in the solid state through both a proper control of film preparation conditions and of the degree of regioregularity, has allowed to achieve a mobility as high as 0.1 cm^(2)・V^(-1)・s^(-1) with a poly(3-hexylthiophene) [1]. Many works [2-4] have shown how the kind of substituent on the thiophene ring can influence the band gap and the optical properties of these materials.
In the present paper we report a comparison between the optical properties (photoluminescence and UV-Vis absorption) and the electroluminescence in a series of soluble polyalkylthiophenes with the aim of better understanding the role of different structural parameters on the electro-optical properties and the potential of their use as an active film in a single layer light emitting diode.」(1ページ17行?32行)
(「はじめに
置換ポリチオフェン類は、それらの光電子工学特性のために興味深い材料である。この類のポリマーにおいて、側鎖の長さや部位規則度のような構造の調節は、非常に重要である。なぜなら、それらは、バンドギャップ変調によって、材料の光電子工学特性の微調整に関係する固体中のパッキングに影響を及ぼすためである。例えば、適切な塗膜の前処理と位置規則性の程度の制御により達成された固体中での配列の規則度によって、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)で、0.1cm^(2)・V^(-1)・s^(-1)もの高移動度の達成を可能にした[1]。多くの研究[2-4]が、チオフェン環における置換基の種類が、これらの材料のバンドギャップと光学的性質にどのように影響を及ぼすかを示している。
本論文では、光電子工学の特性における構造パラメータの違いの役割と、単層の発光ダイオードにおける活性層としての利用の可能性のより良い理解を目的として、可溶のポリアルキルチオフェン類における光学的性質(フォトルミネセンス及び紫外線吸収)とエレクトロルミネセンスの比較を報告する。」 )

c.「Results and discussion
The structures of the polymers here investigated are reported in Fig. 1. These derivatives are characterized by inherent regioregularity coupled with minimum steric interactions between the side chain alkyl groups. The polymethylene side chain, n-hexyl or n-dodecyl, affects the interchain distance, while the presence of one or two unsubstituted thiophene rings in adjacent positions in the backbone has an influence on the band gap. These polymers have been already described in the literature: polymer P1E was fully characterized as far as spectroscopic, thermal, electrical, optical properties and crystallinity are concerned [5], the thermochromism of polymer P2E was assessed both in the solid state [6] and in solution [7] as well as its electronic absorption and fluorescence spectra in solution [8]. Chemical synthesis and molecular characterization of polymers P1D and P2D have also been reported [9] along with their electrochemical synthesis and characterization [10-13].」(1ページ33行?2ページ7行)
(「結果及び考察
調査したポリマーの構造は、図1に示すとおりである。これらの誘導体は、側鎖アルキル基間の最小の立体的相互作用に加えて固有の位置規則性により特徴づけられる。バックボーン内で隣接する一つ又は二つの非置換チオフェン環の存在はバンドギャップに影響を与える一方、n-ヘキシル又はn-ドデシルのポリメチレン側鎖は、鎖間距離に影響を与える。これらのポリマーはすでに文献に記述されている。ポリマーP1Eは、分光的、熱的、電気的、光学的性質と結晶性に関する限り、完全に記述されている[5]。ポリマーP2Eのサーモクロミズムは、その溶液における電子的吸収及び蛍光スペクトル[8]と同様に、固体[6]及び溶液[7]において評価されている。ポリマーP1DとP2Dの化学合成と分子的特性評価も、その電気化学合成と特性評価[10-13]とともに報告されている[9]。」)

d.「


(「図1.調査したポリマーの繰り返し単位」)

(2-2)以上を総合すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「式A

ただし、式中のRは、n-ヘキシル又はn-ドデシルである、
で表される繰り返し単位からなるポリマーP1E又はP1Dの発光ダイオードにおける活性層材料としての使用。」

(3)補正発明と引用発明との対比
(3-1)引用発明の「n-ヘキシル」は直鎖状の6個の炭素原子を有するアルキルであり、「n-ドデシル」は直鎖状の12個の炭素原子を有するアルキルであるから、いずれも、補正発明の「直鎖状」「の1?20の炭素原子を有するアルキル」に相当する。
また、引用発明の「式A

ただし、式中のRは、n-ヘキシル又はn-ドデシルである、
で表される繰り返し単位からなるポリマーP1E又はP1D」(以下、単に「ポリマーP1E又はP1D」という。)は、ポリマー、すなわち重合体であるから、式Aで表される繰り返し単位が複数繰り返された重合体である。したがって、引用発明の「ポリマーP1E又はP1D」は、式A中の「n」が1よりも大きい整数であることは明らかである。
よって、引用発明の「ポリマーP1E又はP1D」は、補正発明の「式I
【化1】

式中、
R1およびR2は、それぞれ相互に独立して、直鎖状または分枝状の1?20の炭素原子を有するアルキルであり、
nは、1よりも大きい整数である、
で表される、3,3"-二置換ポリ-2,2':5',2''-テルチオフェン」に相当する。

(3-2)引用発明の「発光ダイオード」と補正発明の「電界効果トランジスタ(FET)」とは、ともに固体電子素子である点で一致する。

(3-3)したがって、補正発明と引用発明とは、
「式I
【化1】

式中、
R1およびR2は、それぞれ相互に独立して、直鎖状または分枝状の1?20の炭素原子を有するアルキルであり、
nは、1よりも大きい整数である、
で表される、3,3"-二置換ポリ-2,2':5',2''-テルチオフェンの固体電子素子材料としての使用。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
「式Iに示される材料」の用途が、補正発明では「電界効果トランジスタ(FET)における半導体または電荷運搬材料としての使用」であるのに対し、引用発明では「発光ダイオードにおける活性層材料としての使用」である点。

(4)相違点についての当審の判断
一般に、ポリ(3-アルキル)チオフェンを電界効果トランジスタの半導体材料として用いることは、本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記周知例1及び周知例2に記載されているように当業者において周知である。
ここで、ポリ(3-アルキル)チオフェンと引用発明の「ポリマーP1E又はP1D」とは、チオフェン環の一箇所がアルキルで置換されたチオフェンを含んでいる点で共通する極めて類似した構造のポリマーといえる。
また、ポリマーを用いた「電界効果トランジスタ(FET)」の技術分野と、ポリマーを用いた「発光ダイオード」の技術分野は、ポリマーを用いた固体電子素子、すなわち有機固体電子素子という共通する技術分野に属するものであって、相互に極めて近接する技術分野であり、ポリマー材料を電界効果トランジスタと発光ダイオードとの間で転用を試みることは、当業者において通常行われていることである。
そうすると、電界効果トランジスタの半導体材料として用いられるポリ(3-アルキル)チオフェンと極めて類似した構造のポリマーである引用発明の「ポリマーP1E又はP1D」を、電界効果トランジスタの半導体材料として使用すること、すなわち、補正発明のように、「電界効果トランジスタ(FET)における半導体」「材料としての使用」とすることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、上記相違点は、周知の事項を勘案することにより、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。
よって、補正発明は、周知の事項を勘案することにより、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

a.周知例1:特表2002-512451号公報
上記周知例1には、図1?3と共に次の記載がある。

「【0001】
本発明は、例えば、半導電性ポリマー材料からなるトランジスタ等のポリマー製素子に関する。
【0002】
有機物材料を使用してトランジスタを作製することに関する研究が盛んになされている。ポリマー自体、または最終的なポリマー層を形成するための前駆物質が溶液から成膜されたポリマー半導体を備える絶縁ゲート電界効果トランジスタが作製されている。そのような素子の一般的な構造を図1に示す。半導体ポリマー層1の下部には、2つの互いに離間した金属製電極、すなわち、トランジスタのドレイン電極2およびソース電極3が配置されている。その下部には、Si/SiO_(2)の層4と金属製ゲート電極5が配置されている。ゲート電極に対してバイアスが印加された際には、ソース電極とドレイン電極との間に流れる電流が著しく増加するので、素子はスイッチとして機能する。このような素子における半導体ポリマーの一例は位置規則性ポリ-ヘキシルチオフェン(P3HT)であり、これについては、アプライドフィジックスレター(Appl.Phys.Lett.)1996年第69巻第4108頁でバオ(Z.Bao)らにより詳細に説明されている。」
「【0029】
図2に、集積トランジスタ(参照符号10で概略的に示される)と発光素子(参照符号11で概略的に示される)多層構造素子を示す。発光素子においては、発光層として共役ポリマー材料であるMEH-PPVが使用されている(ブラウ(D.Braun)とヒーガー(A.J.Heeger)、アプライドフィジックスレター(Appl.Phys.Lett.)1991年第58巻第1982頁参照)。発光素子(LED)に電流を供給するスイッチとして機能するトランジスタには、別の共役ポリマーであるP3HTが使用されている。トランジスタのソース電極12とLEDの陰極13とに電圧が印加され、かつトランジスタのゲート電極14にバイアスが印加されたときには、ソース電極12からトランジスタの半導体層15を通過してドレイン電極16へと電流が流れる。ドレイン電極16はLEDの陽極としても機能し、したがって、電流がドレイン電極16からLEDの発光層17を通過してLEDの陰極へと流れ、これにより、矢印hνで示されるように発光層17から発光が生じる。半導体層15とゲート電極14との間には酸化ケイ素の絶縁層18およびn+型シリコン20が配置されており、酸化ケイ素の絶縁層19は、発光層17からソース電極12を分け隔てている。(以降、省略)
【0030】(省略)
【0031】
半導体層15であるP3HTは、リエケ(Rieke)の経路により合成される(チェン(T.A.Chen)ら、ジャーナルオブアメリカンケミカルソサイアティ(J.Am.Chem.Soc.)1995年第117巻第233頁参照)。このようなP3HTは、アルドリッヒ(Aldrich)社から市販されている。P3HTの化学構造を図3に示す。ポリマー鎖は、共役チオフェン(25)骨格(参照符号26で概略的に示される)と、C_(6)H_(13)アルキル側鎖27とを有する。ポリマーは、チオフェン環の3-位のヘキシル側鎖同士の頭-尾結合HTが95%以上であり、高度に位置規則的であることが好ましい(位置規則性がそれよりも低いポリマーであってもよい)。」
「【0017】
半導電性ポリマーの好ましい一実施形態は、C3?C12の範囲の長さのアルキル側鎖を有するチオフェン群からなる骨格である。ポリ-ヘキシルチオフェンが特に好適である。」

したがって、上記周知例1には、ポリ-ヘキシルチオフェン(P3HT)に代表されるC3?C12の範囲の長さのアルキル側鎖を有するポリ(3-アルキル)チオフェンを電界効果トランジスタの半導体材料として用いることが記載されているものと認められる。

b.周知例2:国際公開第00/036666号
上記周知例2には、図1aと共に次の記載がある。

「Referring to Figure 1a, an organic-based field effect transistor 10 includes a substrate 12, a gate electrode 14 provided on the substrate 12, a dielectric layer 16 provided on the gate electrode 14, an organic semiconductor 18 provided on the dielectric layer 16, and a source electrode 20 and a drain electrode 22 provided on the organic semiconductor 18.
(中略)
The semiconductor layer 18 can be an organic polymer. In one embodiment, the organic semiconductor comprises a polymeric or oligomeric semiconductor. Examples of suitable polymeric semiconductors include, but are not limited to, polythiophene, poly(3-alkyl)thiophenes, alkyl-substituted oligothiophene, polythienylenevinylene, poly(para-phenylenevinylene) and doped versions of these polymers.」(明細書6ページ10行?7ページ19行)
(「図1aを参照して、有機系電界効果トランジスタ10は、基板12と、基板12上に設けられたゲート電極14と、ゲート電極14上に設けられた誘電体層16と、誘電体層16上に設けられた有機半導体18と、有機半導体18上に設けられたソース電極20およびドレイン電極22と、を含む。
(中略)
半導体層18は、有機ポリマーであり得る。1つの実施形態では、有機半導体は、ポリマーまたはオリゴマー半導体を含む。適切なポリマー半導体の例は、ポリチオフェン、ポリ(3-アルキル)チオフェン、アルキル置換オリゴチオフェン(alkyl-substituted oligothiophene)、ポリチエニレンビニレン、ポリ(パラフェニレンビニレン)、およびこれらのポリマーのドープされたものを含むが、これらに限定されない。」)

したがって、上記周知例2には、ポリ(3-アルキル)チオフェンを電界効果トランジスタの半導体材料として用いることが記載されているものと認められる。

(5)独立特許要件についてのまとめ
以上検討したとおり、補正発明は、引用発明に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項をいう。以下同じ。)の規定に適合しない。

5.補正の却下の決定のむすび
以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
平成23年7月8日に提出された手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成22年8月11日に提出された手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、上記第2.1.の「(補正前)」の箇所に記載したとおりのものである。
一方、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された「Luigi Angiolini et al., "Photoluminescence and electroluminescence of mono- and dialkyl-substituted soluble polythiophenes", e-Polymers 2002, no. 041, pp. 1-7, [online], 2002年9月19日, インターネット」(引用例)には、上記第2.4.(2)に記載したとおりの事項、及び発明(引用発明)が記載されているものと認められる。
そして、本願発明に対して技術的限定を加えた発明である補正発明は、上記第2.4.において検討したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も当然に、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-28 
結審通知日 2012-10-09 
審決日 2012-10-22 
出願番号 特願2003-354730(P2003-354730)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小出 輝池渕 立  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 恩田 春香
早川 朋一
発明の名称 ポリ-3,3”-ジアルキル-2,2’:5’,2”-テルチオフェンの電荷運搬材料としての使用  
代理人 葛和 清司  
代理人 葛和 清司  

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