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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1271515
審判番号 不服2009-7346  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-06 
確定日 2013-03-13 
事件の表示 特願2002-569119「部分的ドーパミン-D2作用薬の投与用の経皮治療吸収システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月12日国際公開、WO02/69941、平成16年 9月30日国内公表、特表2004-529891〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2002年2月26日(パリ条約による優先権主張2001年3月7日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成21年4月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年5月1日付けで手続補正書が提出されたものである。
上記手続補正書により補正された本願に係る発明に対し、当審が平成23年9月6日付けで拒絶理由を通知したところ、同年12月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、この手続補正書により更に補正された本願に係る発明に対し、当審が平成24年3月8日付けで更に拒絶理由を通知したところ、同年6月13日付けで意見書及び手続補正書が提出された。

第2 本願発明
本願請求項1?16に係る発明は、平成24年6月13日付け手続補正書の特許請求の範囲1?16に記載された事項により特定されたものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
部分的なドーパミンD2作用薬アリピプラゾールを投与するための経皮吸収治療システム(TTS)であって、
前記経皮吸収治療システムは、作用物質に不浸透性の裏当て層、作用物質のリザーバ、及び取り外し式の保護層を含むと共に、
前記作用物質のリザーバは、シリコーンの感圧性の接着剤のマトリックスであると共に、
前記作用物質のリザーバは、マトリックスシステムとして構成されるTTSにおいて、
前記作用物質のリザーバは、1,2-プロパンジオールに溶解させられた前記部分的なドーパミンD2作用薬アリピプラゾールを含有することを特徴とするTTS。」

第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が補正前の請求項1に関して平成24年3月8日付けで通知した拒絶の理由のうち、拒絶理由3は、補正前の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

第4 当審の判断
上記拒絶理由通知に対し、請求人は平成24年6月13日付け手続補正書を提出して、請求項1の記載を上記「第2」で示したとおり補正した。
本願発明に関し、上記拒絶理由3が解消したか否かを、以下検討する。

1 刊行物の記載
本願優先日前に頒布された刊行物である、以下の引用例1?4には、それぞれ次の事項が記載されている。
なお、下線を当審で付すとともに、一部の引用例は英文であるため、訳文を示した。

(1) 引用例1(特開平5-202349号公報)
ア 「【請求項1】(1)シリケート樹脂、(2)シリコーン流体および(3)200℃以下の温度において接着剤組成物の動的粘度を下げるアルキルメチルシロキサン・ワックスの混合物から成ることを特徴とするホットメルト・シリコーン感圧接着剤組成物。
……<略>……
【請求項3】(a)支持基材;
(b)前記支持基材の少なくとも1部分の上にあるマトリックスであって、該マトリックスが50℃?200℃の範囲内の温度における動的粘度を下げるアルキルメチルシロキサン・ワックスを含有するホットメルト・シリコーン感圧接着剤組成物を含有し、該接着剤が薬剤、賦形剤、補助溶剤、促進剤およびそれらの混合物からなる群から選択された組成物であると共に、該薬剤、賦形剤、補助溶剤および促進剤と融和性であり、前記ホットメルト・シリコーン感圧接着剤が該マトリックス内に配置される構成のマトリックス;および
(c)該マトリックスに接触したはく離ライナー、から成ることを特徴とする生物活性剤用マトリックス型経皮的薬剤放出デバイス。
……<略>……」(特許請求の範囲)
イ 「【0002】
【従来の技術】感圧接着剤は、一般にわずかの圧力で表面に接着し、その表面にごく少量移行するだけで表面から剥離する材料である。技術的に既知のシリコーン感圧接着剤は典型的に溶液型接着剤である。その溶媒は、主にシリコーン感圧接着剤の動的粘度を所定の基材上に容易に塗布できる動的粘度に下げるために使用される、そしてその溶媒は塗布後除去される。いずれの溶液型感圧接着剤(PSA)の場合にも、溶媒の環境暴露の回避、溶媒の多くが引火性であるから引火性および爆発性の条件を回避するために特別の注意が必要である。
【0003】ホットメルト感圧接着剤は、加熱するとコーテイングに適当な粘度に融解するが、冷却すると一般に無流動状態になる接着剤である。ホットメルト感圧接着剤は溶液型感圧接着剤よりも優れた次の利点を示す。ホットメルト感圧接着剤は:(1)溶媒の除去及び封じ込めの必要がない;(2)引火性溶媒が存在しないために、火災を回避する特別の注意を要しない;(3))溶液型感圧接着剤で一般に使用されている塗工法よりも役立つ;および(4)厚い部分に容易に塗布され、泡立が最少である。さらに、ホットメルトPSAは他の成分のPSAへの添加を妨げる溶媒を含有しない利点がある。」
ウ 「【0032】ホットメルト・シリコーン感圧接着剤組成物は、従来の手段、例えばローラー塗り、浸し塗り、押出し、ナイフ塗り又は吹付け塗りを用いて基材や他の裏材(支持材)に塗布することができる。本発明のホットメルト・シリコーン感圧接着剤組成物は医療用の包帯や絆創膏に付着さすのが望ましい。それらは多くの基材、例えば、紙、布、ガラス布、シリコーンゴム、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ガラス、木材、金属、皮膚にも付着できる。コーテイング後、PSAは非流動状態になるまで冷却する。この方法に使用されるアルキルメチルシロキサン・ワックスは上記のもので在る。諸成分の望ましい重量%も前記の通りである。」
エ 「【0034】本発明によって教示されたアルキルメチルシロキサン・ワックスを含有するホットメルト・シリコーン感圧接着剤組成物は、薬剤のような生物活性剤を患者の皮膚のような生物活性剤受入れ基質へ放出するのを助けるのに特に適する。本発明のホットメルト・シリコーン感圧接着剤組成物は3つの型の生物活性剤放出モードで使用することができる。
【0035】第1のモードは、マトリックス型の生物活性剤又は薬剤の放出デバイスである。図1に示すように、デバイス10は少なくとも3層から成り、皮膚からの水蒸気を透過又は閉塞する支持基材12;支持基材12の少なくとも1部の上に約1?15ミル(0.025?0.381mm)厚さを有しアルキルメチルシロキサン・ワックスおよび任意に薬剤、賦形剤、促進剤、補助溶剤16又はそれらの混合体を含み薬剤、賦形剤、促進剤および補助溶媒と融和性であるシリコーン感圧接着剤を含有するマトリックス14;および感圧接着剤はく離ライナー18を含む。 図1の示した心血管剤、抗不整脈剤、抗狭心剤、抗生物質、抗真菌剤、抗菌剤、抗高血剤、鎮痛剤、局部麻酔剤、避妊薬、ホルモン補足剤、抗喫煙剤、食欲抑制剤、催眠剤、精神安定剤、およびそれらの混合物からなる群から選択した種々の薬剤を含む。【0036】マトリツクス型経皮的薬剤放出デバイスは前述のように補助溶剤、促進剤及び賦形剤も含むことができる。これらの化合物は脂肪酸、ポリオール、界面活性剤、テルペン、グリセロールエステル、ポリエチレングリコールエステル、アミド、スルホキシド、ラクタム、非イオン界面活性剤、ソルビタンエステルおよびそれらの混合物からなる群から選ぶことができる。」
オ 「【図面の簡単な説明】
【図1】マトリックス型経皮的薬剤放出デバイスである。
……(略)……
【符号の説明】
10……マトリックス型薬剤放出デバイス
12……支持基材
14……マトリックス
16……補助溶媒
18……はく離ライナー
……(略)……」
カ 「【図1】


(2) 引用例2(MALLIKAARJUN, S., et al., European Neuropsychopharmacol., 2000, Vol.10, Suppl.3, pp.S306-S307)
ア 「目的:アリピプラゾールは、精神分裂病の処置のために開発された新しい種類の薬理作用を有する物質である。アリピプラゾールの薬物動態、安全性、及び認容性を検討するため、健常人のボランティアによる、2つに無作為化された、プラセボ対照をとった、二重盲検式の研究が実施された。」(S306頁右欄下から15行?下から11行)
イ 「結論:アリピプラゾールの薬物動態は5から30mgの間で用量に比例した。アリピプラゾールに伴う副作用は、ほとんどの場合抑えられるくらいの穏やかなものであり、継続的な投与で頻度が低減した。」(S307頁右欄32?35行)
(3) 引用例3(INOUE, T., et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 1996, Vol.277, No.1, pp.137-143)
ア 「要旨
単離されたラットの前頭葉切片からのプロラクチン放出と血清中プロラクチンレベルにおける、新しい種類の抗精神病薬、7-……(略)……(OPC-14597、一般名アリピプラゾール)の作用が雄ラットで検討された。……(略)……これらの結果は、OPC-14597がプロラクチン産生細胞上のD2受容体において作用薬及び拮抗薬が入り交じった分析結果を有し、それゆえ、ドーパミン性神経の活動における事前の傾向に依存して、作用薬又は拮抗薬として行動することを示唆する。」(137頁 要旨の項)
イ 「我々の結果により、OPC-14597が、ドーパミンD2受容体における低い内在性の活性で部分的な作用薬であり、そして、ドーパミン性機能が過活動であるときは、拮抗薬活性を発揮させることが示される。」(142頁左欄下から4行?最下行)
(4) 引用例4(日本医薬品添加剤協会編,医薬品添加物事典 2000,株式会社薬事日報社,2000年,pp.229-230、当審拒絶理由通知の引用文献9にあたる。)
ア 「【英名】 Propylene Glycol
【化学名】 1,2-Propane diol……(略)……
【用途】 安定(化)剤,可塑剤,可溶(化)剤,基剤,……(略)……,賦形剤,分散剤,保存剤,無痛化剤,溶剤,溶解剤,溶解補助剤……(略)……」(229頁右欄?230頁左欄 プロピレングリコールの項)

2 引用例1発明の認定、対比
引用例1には、上記1(1)、特に摘示事項アの記載からみて、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「(a)支持基材;
(b)前記支持基材の少なくとも1部分の上にあるマトリックスであって、該マトリックスが50℃?200℃の範囲内の温度における動的粘度を下げるアルキルメチルシロキサン・ワックスを含有するホットメルト・シリコーン感圧接着剤組成物を含有し、該接着剤が薬剤、賦形剤、補助溶剤、促進剤およびそれらの混合物からなる群から選択された組成物であると共に、該薬剤、賦形剤、補助溶剤および促進剤と融和性であり、前記ホットメルト・シリコーン感圧接着剤が該マトリックス内に配置される構成のマトリックス;および
(c)該マトリックスに接触したはく離ライナー、から成ることを特徴とする生物活性剤用マトリックス型経皮的薬剤放出デバイス。」

引用例1発明において、「支持基材」は、少なくともその一部分の上にマトリックスがあるとされ、また、引用例1の図1(1(1)の摘示事項カ)からも明らかなように、マトリックスを介して支持基材と反対側に「はく離ライナー」、すなわちマトリックスからはく離される層が別に存在しているから、引用例1発明の「支持基材」及び「はく離ライナー」は、それぞれ、本願発明の「裏当て層」及び「取り外し式の保護層」に相当する。
また、引用例1では「支持基材」に関して、ホットメルト・シリコーン感圧接着剤が塗布される具体的な支持基材として、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる(1(1)の摘示事項ウ)。この点に関し本願明細書をみると、「作用物質に不浸透性の裏当て層」に相当するものとして「作用物質に不浸透性の後部層」が挙げられ(この点は、平成20年3月11日付け拒絶理由通知に対する応答時に提出された同年7月18日付け手続補正書において、「作用物質に不浸透性の後部層」が「作用物質に不浸透性の裏当て層」に補正されていることから明らかである。)、具体的なものとして「特定の強さによって特徴付けられるポリエステル、例えばポリエチレンテレフタラート及びポリブチレンテレフタラート」のあることが記載されているから(段落【0025】)、引用例1に記載される、ポリエチレンやポリエチレンテレフタラートによる支持基材は、本願発明の「作用物質に不浸透性の裏当て層」にあたるといえる。
引用例1発明の「マトリックス」は、ホットメルト・シリコーン感圧接着剤組成物を含有し、「該接着剤が薬剤、賦形剤、補助溶剤、促進剤およびそれらの混合物からなる群から選択された組成物である」とされ、ホットメルト・シリコーン感圧接着剤組成物が上記薬剤等からなる群から選択された成分を含む組成物であり、ホットメルト・シリコーン感圧接着剤がマトリックス内に配置されるところ、このような組成物が「薬剤のような生物活性剤を患者の皮膚のような生物活性剤受入れ基質へ放出するのを助けるのに特に適する。」ものであり、かつ、マトリックス型経皮的薬剤放出デバイスは種々の薬剤を含むとされている(1(1)の摘示事項エ)。
また、引用例1では「マトリックス」に関して、含むことができる成分として「補助溶剤、促進剤及び賦形剤」が挙げられ、段落【0035】及び図1をみると、符号「16」として示される補助溶剤、補助溶媒がマトリックスに含まれているといえるが、図1では補助溶媒がマトリックス内に分散した状態で記載される(1(1)の摘示事項エ?カ)とともに、発明の詳細な説明では、ホットメルト・シリコーン感圧接着剤は「加熱するとコーテイングに適当な粘度に融解するが、冷却すると一般に無流動状態になる接着剤」であって、「ホットメルトPSAは他の成分のPSAへの添加を妨げる溶媒を含有しない利点がある」(1(1)の摘示事項イ)といった利点を有することが記載されている。そうすると、上記補助溶剤、補助溶媒は、ホットメルト・シリコーン感圧接着剤を溶解するために用いられるものではなく、ホットメルト・シリコーン感圧接着剤組成物に含有される薬剤等の成分を溶解するのに用いられるというべきである。
したがって、引用例1発明の「マトリックス」は、本願発明の「作用物質のリザーバ」に相当し、該「マトリックス」には、ホットメルト・シリコーン感圧接着剤に加えて薬剤及び補助溶媒を含み、薬剤は補助溶媒に溶解させられたものといえる。
引用例1発明の「生物活性剤用マトリックス型経皮的薬剤放出デバイス」は、上記のとおり「薬剤のような生物活性剤を患者の皮膚のような生物活性剤受入れ基質へ放出するのを助けるのに特に適する。」ホットメルト・シリコーン感圧接着剤組成物を含有するものであって、薬剤を経皮吸収させるためのものであることが明らかであるから、本願発明の「経皮吸収治療システム」に相当する。

そこで、本願発明と引用例1発明とを対比すると、両発明は
「薬剤を投与するための経皮吸収治療システム(TTS)であって、
前記経皮吸収治療システムは、作用物質に不浸透性の裏当て層、作用物質のリザーバ、及び取り外し式の保護層を含むと共に、
前記作用物質のリザーバは、シリコーンの感圧性の接着剤のマトリックスであると共に、
前記作用物質のリザーバは、マトリックスシステムとして構成されるTTSにおいて、
前記作用物質のリザーバは、補助溶媒に溶解させられた前記薬剤を含有することを特徴とするTTS。」
で一致するが、以下の点で相違する。
<相違点>
本願発明では、作用物質のリザーバが含有する「薬剤」及び「補助溶媒」として、アリピプラゾール及び1,2-プロパンジオールが挙げられているのに対し、引用例1発明では、具体的にアリピプラゾールや1,2-プロパンジオールを含有することが記載されていない点。

3 相違点についての判断
上記相違点について、以下、検討する。
引用例1には、ホットメルト・シリコーン感圧接着剤組成物に含有される薬剤として「精神安定剤」、すなわち、精神安定薬を含む薬剤が挙げられているところ(1(1)の摘示事項エ)、精神安定剤には精神分裂病に代表される精神病を鎮める抗精神病作用を示す薬剤が含まれることが当業者に周知であるとともに(例えば、金戸洋ら編,薬理学,株式会社廣川書店,1992年(第7刷),94?116頁、特に94?95頁参照。)、アリピプラゾールが抗精神病薬であり、精神分裂病の治療に用いられることも当業者に広く知られた事項であり(例えば、引用例2及び3参照。)、また、アリピプラゾールが部分的なドーパミンD2作用薬であることも引用例3に記載されている。
また、種々の部分的なドーパミンD2作用薬や精神分裂病等に対する抗精神病薬において、持続的な薬物送達、投与量の正確な管理、患者におけるコンプライアンスの向上、副作用の低減、初回通過効果の回避等の利点があることを挙げ、経皮吸収による薬物送達が採用されていることが、当業者に周知の事項といえる(例えば、H.K. Vaddi, et al., International Journal of Pharmaceutics, 2001, Vol.212, pp.247-255、特開平1-299228号公報、特開昭63-313723号公報、国際公開第00/64419号、米国特許第5891461号明細書、DAAS, I. et al., Naunyn-Schimieadeberg's Arch Pharmacol, 1990, Vol.342, pp.655-659参照。)。
一方、1,2-プロパンジオールの点について、引用例1には補助溶剤、促進剤及び賦形剤の一つとしてポリオール、すなわち多価アルコールが挙げられているところ、多価アルコールの一種である1,2-プロパンジオールが、可溶化剤、溶剤、溶解剤、又は溶解補助剤として種々の製剤において添加剤として使用されることが当業者に周知の事項といえる(例えば、引用例4参照。)。
そうすると、引用例1発明の「生物活性剤用マトリックス型経皮的薬剤放出デバイス」において、具体的な薬剤としてアリピプラゾールを、補助溶媒として1,2-プロパンジオールをそれぞれ選択してみることは、当業者にとり格別困難な事項とはいえない。
そして、多価アルコールの一種である1,2-プロパンジオールが、可溶化剤、溶剤、溶解剤、又は溶解補助剤として種々の製剤に対して添加剤として使用されることが当業者に周知の事項といえる(例えば、引用例4参照。)。
そうすると、引用例1発明の「生物活性剤用マトリックス型経皮的薬剤放出デバイス」において、具体的な薬剤としてアリピプラゾールを、溶解助剤等として1,2-プロパンジオールをそれぞれ選択し、アリピプラゾールを1,2-プロパンジオールに溶解させて用いてみることは、当業者にとり格別困難な事項とはいえない。
そして、発明の詳細な説明の記載をみても、上記相違点を有することにより、本願発明が引用例1発明からみて格別優れた作用を奏することが示されているわけではない。

4 請求人の主張について
請求人は、当審が示した拒絶理由通知に対応して提出された平成24年6月13日付け意見書において、上記当審拒絶理由について、本願発明は「前記作用物質のリザーバは、1,2-プロパンジオールに溶解させられた前記部分的なドーパミンD2作用薬アリピプラゾールを含有する」の構成を有することによって、例えば段落【0018】の記載等に開示又は示唆されるように、“浸透を向上させる物質なしにより高い浸透性でアリピプラゾールを投与することが可能な経皮吸収治療システムを提供することが可能になる”という有利な効果を奏する旨を主張する。
この点について明細書の記載をみると、段落【0018】には、1,2-プロパンジオールについて、可溶化剤に関する好適な例として挙げられるとともに、「浸透を高める物質として同時に作用し得ることを考慮に入れなければならない。」と記載され、段落【0028】?【0029】では「本発明に従うTTS」を調製することができる旨が記載されている。しかし、1,2-プロパンジオールが可溶化剤として周知のものであることは上記3で指摘した事項であるし、これが浸透を高める物質として具体的にどの程度の作用を示すのかが明細書に示されている訳でもなく、例として挙げられたTTSが引用例1発明からみて格別優れた作用を示すことが明らかにされているわけでもない。
したがって、上記請求人の主張は採用することができない。

5 小括
したがって、本願発明は、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用例1?4に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-09 
結審通知日 2012-10-16 
審決日 2012-10-31 
出願番号 特願2002-569119(P2002-569119)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 恵  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 渕野 留香
荒木 英則
発明の名称 部分的ドーパミン-D2作用薬の投与用の経皮治療吸収システム  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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