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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1271764
審判番号 不服2010-24912  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-05 
確定日 2013-03-21 
事件の表示 特願2005-213266「風味改良剤」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月 8日出願公開、特開2007- 28930〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年7月22日の出願であって、平成22年8月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成24年10月19日付けで当審の拒絶理由通知と平成22年11月5日付けの手続補正の補正却下がなされ、平成24年12月20日に意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし請求項6に係る発明は、平成24年12月20日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1は、以下のとおりのものである。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

「【請求項1】乳酸、酢酸およびアセトインを含有し、かつ酢酸の含有量が乳酸100重量部に対して30?60重量部であり、アセトインの含有量が乳酸100重量部に対して0.03?0.30重量部である、漬物風味増強剤または調味料。」

第3 引用刊行物とその記載事項
当審の拒絶理由で引用された、本願出願前に頒布された刊行物1?刊行物6には、以下の事項がそれぞれ記載されている。以下、下線は当審で付加した。

(1)刊行物1:特開2005-95018号公報の記載事項

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜の抽出液を固定化乳酸菌で処理して得られる漬物用発酵液。
【請求項2】
固定化乳酸菌が寒天固定化乳酸菌である請求項1の漬物用発酵液。
【請求項3】
野菜又は塩漬けした野菜を請求項1又は2の発酵液を使用してなる調味液で処理することを特徴とする漬物の製造法。」

(1b)「【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
固定化乳酸菌は、乳酸菌を固定化したものである。
乳酸菌は嫌気性発酵細菌の一種で、発酵様式から、ホモ発酵型とヘテロ発酵型に分けられる。ホモ型乳酸菌は糖類の90%以上を乳酸に変換する菌であり、ヘテロ型乳酸菌は、乳酸以外に酢酸、エタノール、炭酸ガス等を生産する菌である。本発明においてはホモ型乳酸菌が好ましく、ラクトバチルス(Lactobacillus)属がより好ましく、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)が特に好ましい。乳酸菌は、漬物等から分離したものでよく、また市販のものでよい。乳酸菌は予め適当な培養液で培養しておく。培養液としては、乳酸菌の培養液として公知のものを食品用に改変したものでよい。好ましくは、植物由来の乳酸菌に利用されているGYP培地(改変)、具体的には、例えば改変GYP白亜培地(グルコース10g、酵母エキス10g、ペプトン10g、肉エキス2g、酢酸Na2g、塩類溶液5mlを1Lにメスアップ)や、オリジナルの培地(果糖ぶどう糖液糖 20g、酵母エキス 5g、精製アミノ酸液 10g、酢酸Na 1gを野菜下漬液で1Lにメスアップ)のように、食品由来の栄養培地を培養液とするのが好ましい。
【0008】
固定化の方法としては公知の方法でよく、例えば包括法、担体結合法等により固定化可能である。好ましくは包括法である。包括法としては高分子ゲルを使用した方法が好ましく、アルギン酸Na、寒天等の天然高分子ゲルを使用した方法がより好ましい。例えば、寒天を用いた固定化の場合は、上記のようにして得られる乳酸菌培養液を寒天溶液と混合し、冷却して固定化することができる。必要により、適宜粉砕して使用に供する。また、アルギン酸の場合は同様に乳酸菌培養液をアルギン酸Na水溶液に混合し、カルシウム溶解液に滴下することにより粒状に固定化することができる。
【0009】
本発明における野菜の抽出液とは、野菜を塩漬けして得られる抽出液で、例えば、浅漬の製造工程の下漬の段階で生成する抽出液である。下漬は、通常、野菜に食塩又は適当な濃度の食塩水を加えて重石で加圧することにより行われる。野菜は、大根、胡瓜、白菜、きゃべつ、人参、茄子、その他漬物とすることができる全ての野菜である。これらの野菜は、先ず、虫食い部分、キャベツの場合の外葉、胡瓜の場合の両端、茄子の場合のヘタ等の使用できない部分をカットして除去する等の調整を行う。このようにして調整した野菜を、所望のサイズに裁断し、洗浄し、下漬に供する。野菜の種類にもよるが、凡そ10?96時間で抽出液が抽出される。抽出液には多くのアミノ酸や無機分が含まれている。下漬が終了したら、抽出液と野菜を分離する。抽出液は60?90℃に加熱して殺菌するのが好ましい。殺菌後、好ましくは30?40℃に冷却する。
【0010】
このようにして得られた野菜の抽出液を前記の固定化乳酸菌で処理する。乳酸菌は野菜エキスや添加したアミノ酸を栄養源として糖類を消化し、乳酸と発酵風味を生成する。抽出液には乳酸菌を活性化させるために、糖類、アミノ酸、酵母エキス等の栄養源を添加するのが好ましい。処理の方法は特に制限はない。例えば、単に抽出液に固定化乳酸菌を加えて、必要により攪拌し、常法で固定化乳酸菌を取り除くだけでよい。或いは、固定化乳酸菌を充填したカラムに抽出液を通して連続的に処理してもよい。処理温度は乳酸菌の至適温度に合わせればよい。通常30?40℃に維持し、乳酸菌発酵を行う。処理時間は、酸度、pH、糖度、味等を勘案して適宜定めればよい。通常、漬物用発酵液としては、pH3.5?3.8、酸度0.3?0.4%である。なお、酸度とは酢酸に換算した酸濃度である。
このようにして、漬物用発酵液を製造することができる。この発酵液には、野菜の栄養分が豊富に含まれている。
【0011】
浅漬を製造するには、野菜または前記のようにして下漬した野菜を、本発明により得られる発酵液を使用した調味液に漬ければよい。好ましくは下漬した野菜を使用する。発酵液はそのまま調味液として使用してもよいが、グルタミン酸等の化学調味料、アミノ酸、糖類等を少量添加するとより味がよくなる。ただし、これらの添加剤は従来の浅漬における本漬けの場合よりも、種類も量もはるかに少なくてよく、従来と同等以上のよい味の浅漬を得ることができる。漬ける条件等は従来の調味液を使用した場合と同様である。」

(1c)「【0012】
以下に、本発明を実施例で説明するが、本発明はこれ等により何ら限定されるものではない。以下、%は特記する以外は質量%である。
【0013】
実施例1
白菜を刻み、殺菌し、白菜の6割の水を入れ、その総量に対して食塩2%、果糖ぶどう糖液2%、酵母エキス1%、酢酸ソーダ0.1%、海洋深層水5%、乳酸菌菌体を0.1%添加し、室温で2日間培養し、菌体培養液を得た。
水に寒天を6%となるように加え、煮沸して溶解し60℃まで冷却した。この寒天液100mlを菌体培養液100mlと混合し、さらに冷却して固めた。これを適当な大きさに粉砕して、固定化乳酸菌を得た。
白菜の下漬液に、液糖2%、酵母エキス0.5%、アミノ酸混液1%、酢酸ソーダ0.1%を添加したものを煮沸したものを試料とした。この試料500mlに前記固定化寒天を全量加え、室温で5日間放置し、酸度とpHを経時的に測定した。コントロールとして、固定化寒天に代えて菌体培養液100mlを加え、同様に測定した。また、5日後の外観を観察するとともに成分分析を行った。なお、測定は固定化乳酸菌をメッシュで除いた後行った。
【0014】
結果を表1?4に示す。
表1に示すように、酸度は、4日目で固定化乳酸菌の方がコントロールより0.1%低く、5日目も0.6%低かった。コントロールでは日ごとに液の濁りが濃くなり、ろ過をしないと調味液としての商品価値はなかった。固定化乳酸菌を使用したものは、全く濁りがなく、調味液として利用可能であった。また表2?4に示すように両者の成分に大きな差異は見られなかった。
以上のことから、固定化乳酸菌を使用しても、発酵速度は若干遅い以外は、通常の発酵とほぼ変わらない結果が得られた。
【0015】


【0016】
【表2】
(略)
【0017】

【0018】
【表4】
(略)
【0019】
実施例2
塩漬白菜刻み220gに下記の調味液150mlを加え、調味漬にした。
調味液
グルタミン酸Na 10g
酢酸Na 2.5g
果糖ぶどう糖液糖 30g
乳酸発酵液(酸度0.35%)800ml
加水し1Lとする
コントロールとして、塩漬白菜刻み220gに下記の調味液150mlを加え、調味漬にした。
調味液
グルタミン酸Na 10g
酢酸Na 2.5g
果糖ぶどう糖液糖 30g
醸造酢 30g
加水し1Lとする。
得られた漬物を分析・評価し、結果を表5に示した。発酵液を用いると、コントロールに比べ、発酵の風味があり、旨みを補強することができた。また、酸味も大変まるくなっていて、食べやすくおいしいものができた。
【0020】

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の漬物用発酵液は漬物を製造するための調味液として、極めて適したものである。」

(1d)「【0002】
日本の伝統食品である漬物は、保存食として発展してきた。伝統的漬物のおいしさは、高塩分に耐性を持つ乳酸菌などによるところが大きく、例えば乳酸菌を漬物用スターターとして添加する技術が公知である(特許文献1)。しかし、現在は低塩化がすすみ、その保存性が低くなり、乳酸菌などの漬物に必要な菌以外の雑菌が増殖してしまう傾向にあり、健全な発酵が進まない場合が増えてきている。従って、浅漬といわれる漬物の場合はほとんど乳酸発酵をさせない。
・・・略・・・
【0004】
本出願人は、このような漬物工場で廃液として捨てられてしまう白菜等の下漬液を、乳酸菌を用いて乳酸発酵させることにより、風味豊かな乳酸発酵液の製造に成功し、それを漬物の調味液として利用することで、伝統的な発酵風味豊かな漬物をつくることに成功した。
しかし、乳酸菌を下漬液に接種し発酵させると、液に菌体による濁りが生じ、調味液としての商品価値が低下するばかりでなく、調味液を加えた漬物が経時的に発酵が進み、味が低下するというような不都合が生じる。そのため、菌体をろ過して除去することが必要であった。
本発明の目的は、ろ過等の工程を経なくても、菌体による濁りが少ない漬物用発酵液を提供することである。本発明の他の目的は、この様な発酵液を使用する漬物の製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、乳酸菌を固定化することで、ろ過工程を経ることなく乳酸発酵液を得ることに想到し、本発明に到達した。
即ち、本発明は、野菜の抽出液を固定化乳酸菌で処理して得られる漬物用発酵液、及び野菜又は塩漬けした野菜を前記の発酵液を使用してなる調味液で処理することを特徴とする漬物の製造法である。固定化乳酸菌としては寒天固定化乳酸菌が好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の漬物用発酵液は、乳酸菌のろ過をすることなく製造でき、菌体による濁りが極めて少ない。本発明の発酵液を用いた浅漬の調味液は、従来の調味液と比較して、例えば化学調味料を50%以上、酸味料をほぼ100%減ずることができる。しかも、得られる浅漬には野菜にもともと含まれるアミノ酸やミネラル等の栄養分を豊富に含み、かつ味もよい。また、従来必要であった野菜エキスの廃棄物処理設備も不要である。固定化乳酸菌は繰り返し使用可能である。」

(2)刊行物2:特開平2-242677号公報の記載事項

(2a)「【特許請求の範囲】
1.補酵素NADHと一緒でジアセチルをアセトインまで還元する能力のある,微生物学的に生産された,>0.5U/mgの活性を有するジアセチル-還元酵素。
2.ジアセチル-還元酵素を生産するラクトバチルス(Lactobacillus)属の菌株から単離された,ジアセチルを(+)-アセトインに選択的に還元する能力のある請求項1記載のジアセチル-還元酵素。
・・・(略)・・・
4.ラクトバチルス・ケフィール(Lactobacillus kefir),ラクトバチルス・プランタルム(L.plantarum),ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis),ラクトバチルス・ブチネリ(L.buchneri)より;ロイコノストック・クレモリス(Leuconostoc cremoris),カンジダ・ボイジニー(Candida boidinii),ハンセヌラ・ポリモルフア(Hansenula polymorpha,クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)およびトルロプシス・カンジダ(Torulopsis candida)より単離された請求項1記載のジアセチル-還元酵素。」(第1頁左欄5行?第2頁左上欄最終行)

(2b)「下記の表に,特に好ましいジアセチル-還元酵素を生産するラクトバチルス属および酵母の菌株ならびに粗抽出物(湿式粉砕および遠心分離した後の湿潤した上澄み)の活性が記載されている。
これらのうちで酵母は,立体特異的に反応しないジアセチル-還元酵素をもたらし,一方ラクトバチルスから単離された酵素は,(+)-アセトインを生成する能力を有する。」(第3頁左下欄1行?8行)

(2c)「

」(第4頁)

(3)刊行物3:北村英三、加藤司郎、”乳酸菌利用による発酵漬物の製造(第3報)-低温感受性菌の取得について-”、埼玉県食品工業試験場業務報告、発行 埼玉県食品工業試験場、平成8年8月発行、pp.33-38

(3a)「次に、乳酸菌は乳酸や酢酸などの他にアセトインやジアセチルなどの副生成物を生成するが、これらは野菜発酵製品にとってはオフフレーバーの原因となることが知られている^(5))。」(第35頁8行?9行)

(4)刊行物4:金津亨、”糠絞りを使った新しい漬物開発”、月刊フードケミカル、株式会社 食品化学新聞社、平成14年9月1日発行、2002年9月号、pp.46-50

(4a)「3.1 酸味
糠漬けは発酵漬物であるため,まず,微生物が作り出す酸が重要であると考え,酸味の検討を行った。当社では,開発当初に有機酸の種類を検討して,りんご酢の酢酸で酸味を付与する糠漬け風調味液の処方を開発した。「糠絞り」は,添加物を使用していない製品であるため,調味液にした場合にも添加物表示を不要にしたいという目的もあって,「糠絞り」を使用した際の処方組みには,酸度10%のりんご酢の使用を推奨してきた。しかし,これだけでは糠漬けらしい自然な酸味を再現することができないことが判ってきたので,当社ではさらに有機酸の種類と酸味の味質に関する検討を行った。詳しい検討結果は省略するが,その結果,糠漬けには乳酸と酢酸のバランスが重要であることが明らかになった。このことは,糠床中に乳酸菌がたくさんいることと関係していると思われる。このように,糠漬けに最適な乳酸と酢酸の配合バランスを検討して,糠漬けらしい自然な酸味を再現することができた。」(48頁左欄下から11行?右欄9行)

(4b)「4.まとめ
最後に,「糠絞り」を使用した伝統糠漬け風浅漬けを作る際の4つのポイントを示す。
(1)酸味を控えめにする
(2)酸味付けには,酢酸だけでなく,乳酸を活用する
(3)強いうま味を抑えて,複雑なアミノ酸の調味料を活用する
(4)ペプチドを含む調味料を活用する
これらのポイントを考慮した「伝統糠漬け風味浅漬け」の処方を表3に示した。」(※原文は○の中に数字)(第50頁左欄下から7行?右欄3行)」

(4c)「


」(第50頁表3)

(5)刊行物5:特開昭61-282049号公報の記載事項

(5a)「2.特許請求の範囲
酢酸、乳酸及び有機酸のナトリウム塩を主成分とする酸性調味料。」(第1頁左欄4行?6行)

(5b)「3.発明の詳細な説明
〔産業上の利用分野〕
本発明は新規な酸性調味料、特に漬物の製造に好適な酸性調味料に係るものである。
〔従来の技術〕
市販の野菜漬物は通常塩蔵されたきゅうり、大根等の漬物素材を脱塩、圧搾したのち調味液に漬け込み、これを必要により袋詰、殺菌して製品としている。そして、漬物素材を漬け込む調味液には醤油、砂糖、グルタミン酸ソーダ等の調味料、香辛料の他に各種有機酸が使用されている。
この有機酸は製品に漬物特有の香味を付与するためのほか、漬込中の異常発酵、腐敗等を防止する目的で使用されるものであり、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酢酸、コハク酸等が単独で、あるいは組合せて使用されている。」(第1頁左欄7行?右欄3行)

(5c)「〔発明が解決しようとする問題点〕
漬物に漬物特有の香味を付与するには、調味液のPHが4.0?5.0になる様に有機酸を添加すればよいのであるが、その程度の有機酸の添加量では漬込中の異常発酵や腐敗等を防止することは困難であり、反面腐敗等の防止を計るための有機酸の大量使用は漬物製品の香味に悪影響を及ぼすのである。
この様な現状に鑑み、本発明者等は強い抗菌性を有しながら、漬物特有の香味を付与できる酸性調味料について検討を重ねたところ、酢酸、乳酸及び有機酸のナトリウム塩の3者の組合わせが、目的とする酸性調味料になり得るという知見を得て本発明を完成した。
〔問題点を解決するための手段〕
以下本発明を具体的に説明する。
本発明における酢酸、乳酸及び有機酸のナトリウム塩は食品衛生上無害であればどの様なものでもよいが、特に食品添加物として市販されているものが好適に用いられ、そして有機酸のナトリウム塩としては酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム等が挙げられる。
また3者の混合比は酢酸:乳酸:有機酸のナトリウム塩が重量比で1:0.2?7:1?10である。そしてこれらは直接混合するか、あるいは予め有機酸のナトリウム塩を少量の水に溶解し、これに酢酸及び乳酸を混合してもよい。
なお、酢酸の一部に代えて、乳酸菌に対し強い抗菌性を示すコハク酸を使用してもよい。またこれらの酸性調味料にグリシン、あるいはアラニンを少量添加混合することにより、抗菌性を更に増強させることができる。」(第1頁右欄4行?第2頁左上欄15行)

(5d)「〔効 果〕
こうして得られた酸性調味料は、漬物用調味液に添加した場合、含有する有機酸のナトリウム塩の緩衝作用により調味液のPHを急激に低下させることはなく、漬物特有の香味を付与するためのPHまで調整するには有機酸単独使用の場合に比し有機酸量として大量に使用することができ、結果的に漬込中の異常発酵や腐敗等を効果的に防止することができる。」(第2頁左上欄16行?第2頁右上欄4行)

(6)刊行物6:石井健一、加藤丈雄、小宮孝志、”低食塩漬物用の乳酸菌スターターカルチャーの開発”、日本食品科学工学会誌、第46巻、第5号、1999年5月、pp.311-318

(6a)「乳酸菌を接種して培養した大根にはさまざまな香気が生じ、D-133株とL-14株接種大根でも明らかに異なった。そこで、発酵乳やワインなど乳酸菌が関与する食品の主要な香気成分であるアセトアルデヒド、アセトイン、ジアセチル,2,3-ブタンジオール量の測定を行った(Fig.2)。なお、一般に2,3-ブタンジオールは好ましい香気であるといわれ、アセトアルデヒド、アセトイン、ジアセチルはごく微量の存在は好ましいが、一定量以上存在すると好ましくない香気といわれている^(9))。」(第315頁左欄7行?15行)」

第4 対比・判断
1 刊行物1を主引用例とした進歩性について(本願発明の「漬物風味増強剤または調味料」が、微生物を培養した培養物を調整し、これを用いたものである場合)
刊行物1には、「野菜の抽出液を固定化乳酸菌で処理して得られる漬物用発酵液」であって(1a)、実施例において得られたものを成分分析を行った結果、有機酸については乳酸と酢酸を含有することが記載されている(1c,表3)。
そうすると、刊行物1の上記記載事項(特に上記(1a,1c))から、刊行物1には、
「野菜の抽出液を固定化乳酸菌で処理して得られた、乳酸、酢酸を含有した、漬物用発酵液」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。

(ア)刊行物1発明の「固定化乳酸菌」について、刊行物1には、乳酸菌を固定化したものであること、乳酸菌としてはラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)が特に好ましいこと、固定化の方法としては公知の方法でよく、例えば乳酸菌培養液を寒天溶液と混合し冷却して固定化したものが記載されている(1b)。そして、「野菜の抽出液を固定化乳酸菌で処理」することについては、乳酸菌は野菜エキスや添加したアミノ酸を栄養源として糖類を消化し、乳酸と発酵風味を生成するものであり、乳酸菌を活性化させ、乳酸菌発酵を行うことである旨、記載されている(1b)。ここで、「発酵」とは「微生物が繁殖する過程で、その微生物の酵素によって、培地中の成分を別の有用な物質に変換させる操作をいう。」(丸善食品総合辞典,発行所 丸善株式会社,平成10年3月25日発行,850頁)ものであることから、乳酸菌発酵して得られたものとは、乳酸菌を培養して繁殖する過程で、その微生物の酵素によって、培地中の成分を別の有用な物質に変換させる操作によって得られたものであって、乳酸菌を培養した培養物から得られたものといえる。そして、実施例1において、白菜の下漬液を含んだものを煮沸した試料に固定化乳酸菌を加えて放置したものを成分分析した結果、有機酸については乳酸と酢酸を含有している旨の結果が得られたものである(1c)。
一方、本願の明細書の段落【0013】を参照すると、「また、微生物を培地に培養して乳酸、酢酸またはアセトインを含有する培養物を調製し、これを本発明の風味改良剤または調味料の製造に用いてもよい。」と記載され、また微生物としては段落【0014】に例示されており、段落【0015】には「特にラクトバチルス・プランタラムに属する微生物が好ましく用いられる。」と記載されていることから、ラクトバチルス・プランタラムに属する微生物を培地に培養して乳酸、酢酸またはアセトインを含有する培養物を調整したものを含むものである。
そうすると、刊行物1発明の「野菜の抽出液を固定化乳酸菌で処理して得られた、乳酸、酢酸を含有した」ものと、本願発明の「乳酸、酢酸およびアセトインを含有し」たものとは、「ラクトバチルス・プランタラムの培養物から調製され、乳酸、酢酸を含有し」たものである点で共通する。

(イ)刊行物1発明の「漬物用発酵液」は、漬物用であって、刊行物1を参照すると、当該発酵液を使用してなる調味液で野菜又は塩漬けした野菜を処理することによって漬物の製造に用いられること(1a)、及び「野菜の抽出液を固定化乳酸菌で処理」して得られたもの、つまり、乳酸菌で野菜エキスを栄養源として糖類を消化して乳酸と発酵風味を生成したものである旨(1b)、記載されていることから、漬物を製造する際に野菜を処理する調味液に使用されるものであって、発酵風味を有したものといえる。
一方、本願発明の「漬物風味増強剤または調味料」について、本願の特許請求の範囲及び明細書を参照すると、本願の特許請求の範囲の請求項2には「請求項1記載の漬物風味増強剤または調味料を飲食品に添加することを特徴とする、飲食品の製造方法。」と記載され、この「飲食品」について本願明細書の段落【0021】には「本発明の風味改良方法の対象となる飲食品としては、いずれの飲食品であってもよいが、例えば、漬物等の野菜加工品、いわゆる浅漬けの素等の漬物製造用調味料」と記載されていることから、漬物製造用調味料に添加して使用されるものであること、そして、「漬物風味」については本願明細書の段落【0003】に「漬物の風味として好まれる、野菜を乳酸菌で発酵させた場合に得られる好ましい風味(以下、単に漬物風味ということもある)」と記載されている。
そうすると、刊行物1発明の「漬物用発酵液」は、漬物製造用調味料に使用されるものであって、野菜を乳酸菌で発酵させた場合に得られる風味を有するものであり、本願発明の「漬物風味増強剤または調味料」に相当するものである。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
ラクトバチルス・プランタラムの培養物から調製され、乳酸、酢酸を含有した、漬物風味増強剤または調味料。

(相違点1)
乳酸、酢酸の他に、本願発明では、アセトインを含有し、アセトインの含有量が乳酸100重量部に対して0.03?0.30重量部であるのに対し、刊行物1発明ではアセトインを含有することについては特に規定していない点。

(相違点2)
酢酸の含有量が、本願発明では、乳酸100重量部に対して30?60重量部であるのに対し、刊行物1発明では乳酸と酢酸の含有量比については特に規定していない点。

そこで、上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
乳酸菌は乳酸や酢酸などの他にアセトインやジアセチルなどの副生成物を生成することは、刊行物3に記載されているように本願出願前の周知の事項であるし(3a)、また、刊行物2にはラクトバチルス属の菌株であるラクトバチルス・プランタラムが、アセトインを生産する能力を有するジアセチル-還元酵素を生産することが記載されている(2a,2b,2c)。そうすると、刊行物1発明の漬物用発酵液は、野菜の抽出液を固定化乳酸菌で処理すること、すなわち、乳酸菌を活性化させ、乳酸菌発酵を行うことにより得られたものであるので、乳酸菌であるラクトバチルス・プランタラムが活性化されて生産する酵素によってアセトインが生産されて含有するものといえる。
そして、刊行物1の実施例2では、塩漬白菜刻みに、刊行物1発明の漬物用発酵液を用いた調味液を加え調味漬にすると、発酵の風味があり、食べやすくおいしいものができたと記載されており(1c)、また、刊行物6には、アセトインは乳酸菌が関与する食品の主要な香気成分の一つであり、ごく微量の存在は好ましいが一定量以上存在すると好ましくない香気となる旨が記載されている(6a)。
そうすると、刊行物1発明の漬物用発酵液を用いた調味液で作った漬物が食べやすくおいしいと感じる程度に発酵の風味があるものであることから、好ましい香気と感じる程度のアセトインが含まれているものといえるし、また、好ましくない香気が発生しないように、発酵の程度などを調整することで、含有するアセトインの量を適切な範囲となるようにし、乳酸100重量部に対して0.03?0.30重量部程度とすることも、嗜好に応じて、当業者が適宜になし得たことである。

(相違点2について)
本願発明の漬物風味増強剤または調味料の酢酸の含有量が、乳酸100重量部に対して30?60重量部であることの技術的意義について、本願の明細書中の記載を参照すると、段落【0022】に「飲食品の風味を改良する際には、飲食品における酢酸の含有量が乳酸100重量部に対して30?60重量部、好ましくは40?60重量部、より好ましくは45?55重量部となるように、例えば、本発明の風味改良剤または調味料を添加することが望ましい。」と記載しているが、30?60重量部との数値範囲の上限及び下限の臨界的意義については特に説明されていないし、また、対象とする飲食品によって、あるいは、嗜好によって、好ましい風味も異なることを考えれば、当該数値限定については格別の臨界的意義を有するとすることはできない。
そして、刊行物1発明の漬物用発酵液の、乳酸と酢酸の含有量について、刊行物1の表3(1c)を参照すると、固定化乳酸菌を用いたものは乳酸が0.85質量%であるのに対し酢酸は0.31質量%であって、これは乳酸100重量部に対して酢酸は36.4重量部であるので、本願発明の乳酸に対する酢酸の含有量の数値範囲に含まれるものである。
さらに、刊行物4には、発酵漬物の一種である糠漬けにおいては乳酸と酢酸のバランスが重要であることが記載され(4a)、糠漬け風味浅漬けを作る際にも酸味付けには酢酸だけでなく乳酸を活用し、酸度を調整した処方が記載されている(4a?4c)。
また、刊行物5には、製品に漬物特有の香味を付与するために、乳酸や酢酸などの有機酸を組み合わせて使用することが記載されている(5b)。
そうすると、刊行物1発明の漬物用発酵液の乳酸に対する酢酸の含有量は本願発明の数値範囲に含まれるものであるし、また、刊行物1発明の漬物用発酵液を用いて得られた漬物の酸味バランスを好ましいものとすることを考えて、必要であれば酢酸を添加するなどして、乳酸と酢酸の混合比を調製し、好ましい混合比に設定することは、刊行物4や刊行物5を参照して、当業者が容易になし得たことである。

(本願発明の効果について)
本願発明の発酵風味、好ましくは乳酸菌を用いて得られる発酵風味の調味料が得られるとの効果は、刊行物1ないし6に記載された事項及び周知技術から予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本願発明は、刊行物1ないし6に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 刊行物5を主引用例とした進歩性について(本願発明の「漬物風味増強剤または調味料」が、乳酸、酢酸およびアセトインを配合したものである場合)
刊行物5には、酢酸、乳酸及び有機酸のナトリウム塩を主成分とする酸性調味料であって、漬物の製造に好適な調味料が記載されている(5a,5b)。
そうすると、刊行物5には、「酢酸、乳酸及び有機酸のナトリウム塩を主成分とし、漬物の製造に好適な酸性調味料」の発明が記載されている。(以下、「刊行物5発明」という。)

そこで、本願発明と刊行物5発明とを比較する。

(ア)刊行物5発明の「酸性調味料」について、刊行物5には「特に漬物の製造に好適な酸性調味料に係るもの」であって(5b)、漬物特有の香味を付与できる酸性調味料であり(5c)、漬物用調味液に添加して使用する旨(5d)、記載されている。
一方、本願発明の「漬物風味増強剤または調味料」について、本願の特許請求の範囲及び明細書を参照すると、「漬物風味」については段落【0003】に「漬物の風味として好まれる、野菜を乳酸菌で発酵させた場合に得られる好ましい風味(以下、単に漬物風味ということもある)」と記載され、さらに、本願の特許請求の範囲の請求項2に「請求項1記載の漬物風味増強剤または調味料を飲食品に添加することを特徴とする、飲食品の製造方法。」と記載され、この「飲食品」について本願明細書の段落【0021】には「本発明の風味改良方法の対象となる飲食品としては、いずれの飲食品であってもよいが、例えば、漬物等の野菜加工品、いわゆる浅漬けの素等の漬物製造用調味料」と記載されていることから、漬物製造用調味料に添加して使用されるものである。
そうすると、刊行物5発明の「酸性調味料」は、漬物風味を付与する調味料であって、漬物製造用調味料に使用されるものであり、本願発明の「漬物風味増強剤または調味料」に相当するものである。

(イ)本願発明について、本願明細書段落【0009】などを参照すると、必要に応じて飲食品に使用可能な各種添加物を含有していてもよいことが記載されていることから、有機酸のナトリウム塩をさらに含むことを排除するものではない。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
乳酸、酢酸を含有した、漬物風味増強剤または調味料。

(相違点1)酢酸の含有量が、本願発明では、乳酸100重量部に対して30?60重量部であるのに対し、刊行物5発明では特に規定していない点。

(相違点2)乳酸、酢酸の他に、本願発明ではアセトインを含有し、アセトインの含有量が乳酸100重量部に対して0.03?0.30重量部であるのに対し、刊行物5発明ではアセトインを含有することについては特に規定していない点。

そこで、上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
本願発明の数値限定については格別の臨界的意義を有するとすることはできないことは上記「1 刊行物1を主引用例とした進歩性について (相違点2について)」で記載したとおりである。
そして、刊行物5発明の「乳酸、酢酸を含有した」ことについて、刊行物5の記載を参照すると、漬物に漬物特有の香味を付与することを検討し、そのために、酢酸、乳酸及び有機酸のナトリウム塩の3者の組合わせによる酸性調味料とし、これら3者の混合比は酢酸:乳酸:有機酸のナトリウム塩が重量比で1:0.2?7:1?10として、これらを直接混合することが記載されている(5c)。
刊行物5発明の酢酸:乳酸の重量比1:0.2?7は、本願発明の「酢酸の含有量が乳酸100重量部に対して30?60重量部」と一部一致するものである。
そして、刊行物4を参照すると、発酵漬物の一種である糠漬けにおいては乳酸と酢酸のバランスが重要であることが記載され(4a)、糠漬け風味浅漬けを作る際にも酸味付けには酢酸だけでなく乳酸を活用し、酸度を調整した処方が記載されている(4a?4c)。
そうすると、刊行物5発明の漬物用発酵液の乳酸に対する酢酸の含有量は本願発明の数値範囲と一部一致するものであるし、また、漬物特有の香味を付与するために、漬ける野菜の種類や、所望の漬物を得ることを考えて、乳酸と酢酸のバランスを調整し、適切な割合にすることも、刊行物5や刊行物4に記載された事項を参照して当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
刊行物1に記載されているように、伝統的な漬物風味として、乳酸発酵による発酵風味は本願出願前によく知られており(1d)、また、刊行物6には、乳酸菌が関与する主要な香気成分としてアセトインが記載され、アセトインは一定以上存在すると好ましくないが、ごく微量の存在は好ましい香気であることが記載されている(6a)。
そうすると、漬物特有の香味を付与する調味料を得ることを目的とした刊行物5発明において、香味のうち特に香りについて、乳酸菌由来の香気をより感じる漬物の製造に好適な調味料とすることを考えて、好ましい香気と感じる程度の量のアセトインを香気成分としてさらに添加することは、刊行物6に記載された発明を参照して当業者が容易に想到し得たことであり、またその含有量を乳酸100重量部に対して0.03?0.30重量部程度とすることも、嗜好に応じて、当業者が適宜になし得たことである。

(本願発明の効果について)
本願発明の発酵風味、好ましくは乳酸菌を用いて得られる発酵風味の調味料が得られるとの効果は、刊行物5及び刊行物4,6に記載された事項及び周知技術から予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本願発明は、刊行物5及び刊行物4,6に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本件出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-21 
結審通知日 2013-01-22 
審決日 2013-02-05 
出願番号 特願2005-213266(P2005-213266)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 滝口 尚良  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 関 美祝
菅野 智子
発明の名称 風味改良剤  
代理人 深見 伸子  
代理人 藤田 節  
代理人 平木 祐輔  

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