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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1271948 |
審判番号 | 不服2009-17666 |
総通号数 | 161 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-05-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-09-18 |
確定日 | 2013-04-04 |
事件の表示 | 特願2006-167465「耐熱性リボヌクレアーゼH」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月26日出願公開、特開2006-288400〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続きの経緯 本願は,2001(平成13)年9月13日(優先権主張 平成12年9月14日 特願2000-280785号,平成13年3月7日 特願2001-064074号)を国際出願日とする出願である特願2002-527273号の一部を,特許法第44条第1項の規定に基づき分割して平成18年6月16日に新たな特許出願としたものであって,平成21年5月28日に特許請求の範囲について手続補正がなされたが,同年6月19日付で拒絶査定(発送6月23日)がなされ,これに対して同年9月18日に審判請求がなされるとともに,同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。 第2 平成21年9月18日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成21年9月18日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正により,請求項1は, 「【請求項1】 下記の群より選択され,かつ,耐熱性リボヌクレアーゼH活性を有し,一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうち,RNA鎖を含む鎖を切断することができることを特徴とするポリペプチド: (a)配列表の配列番号47又は57に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド; (b)配列表の配列番号47又は57に示されるアミノ酸配列において,少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失,付加,挿入又は置換を有するポリペプチド; (c)配列表の配列番号46又は56に示される塩基配列を有する核酸,当該核酸又はその相補鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸にコードされるポリペプチド。」 から, 「【請求項1】 下記の群より選択され,かつ,耐熱性リボヌクレアーゼH活性を有することを特徴とするポリペプチド: (a)配列表の配列番号47に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド; (c)配列表の配列番号46に示される塩基配列を有する核酸にコードされるポリペプチド。」に補正された。 2.当審の判断 本件補正は,補正前の請求項1の選択肢(b)を削除すると共に,それが包含する範囲から,配列番号57及び56に関するものを削除し,選択肢(c)については,「配列表の配列番号46に示される塩基配列を有する核酸にコードされるポリペプチド」のみに限定したものであり,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかどうか)について,以下に検討する。 3.引用文献 原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され,本願出願前に頒布された刊行物であるJ. Bacteriol. (1998) vol.180, no.23, p.6207-6214(以下,「引用文献3」という。)には, 「我々は,大腸菌のrnh突然変異菌株の温度感受性成長の表現型を抑制したクローンのライブラリーをスクリーニングすることにより,超好熱性の古細菌Pyrococcus kodakaraensis KOD1から,RNase HII(RNase HIIPk)をコードする遺伝子をクローニングした。この遺伝子は大腸菌のrnh突然変異菌株の中で発現され,組み換え酵素が精製され,その生化学的特性が大腸菌のRNases HI及びHIIのものと比較された。RNase HIIPkは228のアミノ酸残基からなり(分子量,25,799),モノマーとして作用する。そのアミノ酸配列は,タンパク質のRNase HIファミリーのメンバーの酵素のそれとは,類似性をほとんど示さなかったが,Methanococcus jannaschii,Saccharomyces cerevisiae及び大腸菌のRNase HIIタンパク質のものに,それぞれ40,31および25%の同一性を示した。酵素活性は,基質としてM13 DNA-RNAハイブリッドの使用によって30℃及びpH 8.0で決定された。これらの条件下では,最も好ましい金属イオンは,RNase HIIPkにはCo2+,大腸菌RNase HIIにはMn2+及び大腸菌RNase HIにはMg2+であった。最も好ましい金属イオンがある状態で決定されたRNase HIIPkの比活性は大腸菌RNase HIIより6.8倍高く,大腸菌RNase HIより4.5倍低かった。大腸菌RNase HIのように,RNase HIIPk及び大腸菌RNase HIIは,P-O3′結合でRNA-DNAハイブリッドのRNA鎖をヌクレオチド鎖切断により開裂する。さらに,これらの酵素は同様のやり方でオリゴマーの基質を開裂する。これらの結果は,RNase HIIPk及び大腸菌RNases HI及びHIIが互いに構造上及び機能的に関係があることを示唆する。」(要約)と記載され, 「このペーパーに報告されたヌクレオチド配列は,DDBJデータベースに,アクセッション番号AB012613として寄託された。」(6208ページ右欄53?55行)と記載され, 図1に,P.kodakaraensis KOD1のものも含め,細菌,古細菌,真核生物のRNase HII配列のアライメントが記載され,RNase HII配列によく保存される4つの配列モチーフ(Motif I?IV)がその配列上に示され, 図4Bには,RNase HIIPkと大腸菌RNases HIによる開裂の部位と程度が記載され,その「c.」には,29塩基対のDNA-RNA-DNA-DNA基質のRNase HIIPkによるものが記載され, 「・・・RNase HIIPkはDNA-RNA接合点もRNA-DNA接合点も開裂できないことは明らかである。しかし,大腸菌RNases HIがそのような場所を開裂できないにもかかわらず,RNase HIIPk及び大腸菌RNases HIIは,RNA-DNA接合部の最後のリボヌクレオチドの5’端で,29塩基対のDNA-RNA-DNA-DNA基質を開裂できる。」(6213ページ左欄20?25行)と記載されている。 4.対比 本願補正発明の選択肢(a)の態様について,引用文献3に記載されたRNase HIIPkの発明を比較すると,両者は,耐熱性リボヌクレアーゼH活性を有するポリペプチドである点で一致しているが,本願補正発明のポリペプチドが,配列表の配列番号47に示されるアミノ酸配列を有するものであるのに対し,引用文献3の図1に記載されるRNase HIIPkのアミノ酸配列の70%弱は,本願補正発明のものと一致しているものの,その余の配列は相違している点で両者は相違している。 なお,この配列の相違は,引用文献3に記載のRNase HIIPkがP.kodakaraensis KOD1由来のものであるのに対し,本願補正発明のポリペプチドが,サーモコッカス リトラリス DSM5473由来のものである(本願明細書の特に【0201】及び【0210】の記載を参照)ことに起因するものと認められる。 5.判断 ある遺伝子が取得されたときに,近い生物種から対応する遺伝子(オルソログ)を取得することは,よく行われている周知慣用の技術であり,引用文献3に記載された耐熱性RNase HIIPkのオルソログを,Pyrococcus kodakaraensisと同じThermococcaceaeに属する古細菌であり,市販もされ周知であるサーモコッカス リトラリス DSM5473(本願明細書の【0201】の記載を参照)から得てみようとする程度のことは,当業者が容易に想到できることである。 そして,引用文献3には,各種生物由来のRNase HII配列においてよく保存されているモチーフも示されているのであるから,その部分のRNase HIIPkの配列を基にプローブやプライマーを設計して,周知慣用の遺伝子工学的手法により,サーモコッカス リトラリス DSM5473のRNase HIIの遺伝子を取得し,そこにコードされるポリペプチドの配列を明らかにし,あるいは該遺伝子を発現させて,本願補正発明のごとくすることは当業者が容易になしえることである。 そして,本願明細書の記載をみても,本願補正発明のポリペプチドが,引用文献3に記載されたRNase HIIPkと比較して,格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 なお,この点について請求人は,本願補正発明のポリペプチドは一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうちRNAを含む鎖を切断することができるのに対し,引用文献3には,好熱細菌Pyrococcus kodakaraensis KOD1株由来のリボヌクレアーゼHがDNA-RNA,RNA-DNAの接合部を切断しないことが記載されており,一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうち,RNAを含む鎖を切断することができるポリペプチドについて開示も示唆もないことを,意見書や審判請求の理由において主張している。 ところが,本願明細書の実施例11の記載をみると,Pfu(パイロコッカス フリオサス),Pho(パイロコッカス ホリコシイ)などのRNaseHIIは3’側のRNAの5’側を切断するものであり(段落0251),2本鎖の一方の鎖にRNAを3つ,あるいは,2つ含むDNA断片であるVFN3やVFN2においては,DNA-RNA,RNA-DNAの接合部を切断しないものであって,引用文献3に記載される「RNase HIIPk及び大腸菌RNases HIIは,RNA-DNA接合部の最後のリボヌクレオチドの5’端で,29-bpのDNA-RNA-DNA-DNA基質を開裂できる」ものと何ら違いがないものである。また,本願明細書の実施例11には,引用文献3に記載されるPyrococcus kodakaraensis KOD1株と同じパイロコッカス属に属する,Pfu(パイロコッカス フリオサス),Pho(パイロコッカス ホリコシイ)のRNaseHIIが,一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうちRNAを含む鎖を切断することが記載されているのであるから,引用文献3に記載されるRNase HIIPkも同様に,一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうちRNAを含む鎖を切断することができると推認することができ,請求人の主張する点で,本願補正発明のポリペプチドが,引用文献3に記載されるRNase HIIPkと,格別な違いがあることにはならないし,本願の出願後の文献FEBS Letters,531(2002)p.204-208のFig.1には,引用文献3に記載されるRNase HIIPkが,一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうちRNAを含む鎖を切断することが示されていることからも,本願補正発明のポリペプチドが,引用文献3に記載されるRNase HIIPkと比べて,格別な違いはないのである。 また,請求人は審判請求の理由において,本願補正発明のポリペプチドは非常に低いマグネシウム濃度条件下にてそのリボヌクレアーゼH活性を示すことを主張している。 ところが,本願明細書の段落0219には,実施例3-(5)に記載の方法により酵素活性を測定した結果,酵素活性が認められたことが記載され,実施例3-(5)においては,4mM酢酸マグネシウムを含む反応液が記載されてはいるものの,その活性がどの程度のものであるのかについての記載はない。ここで引用文献3の図3には,RNase HIIPkについて金属イオン濃度と活性の関係が示されており,塩化マグネシウムが4mM程度でも酵素活性自体はあることが示されているから,この点において本願補正発明が顕著な効果を奏するとはいえない。請求人は,この点について,審判請求の理由において,実験データを提出しているが,そのようなデータに基づく効果は明細書に記載されているとはいえないから,請求人の主張は明細書の記載に基づかない主張である。 また,引用文献3には,各種のRNaseの活性に対する各種金属イオンの影響は様々であることが記載されており,本願補正発明のポリペプチドが,4mM酢酸マグネシウムの反応液でリボヌクレアーゼH活性があることを,単に見出したからといって,それが従来技術からは予想できない顕著な効果であるということはできない。 さらに,酵素反応をするにあたって,イオン濃度を含め,様々な条件を最適化することは周知の技術であって,本願補正発明のポリペプチドが4mM酢酸マグネシウムの反応液でリボヌクレアーゼH活性があったというだけでは,引用文献3に記載されるRNase HIIPkを,最適化して用いる場合と比較して,格別顕著な効果が奏されているものと認めることはできない。 以上のことから,本願補正発明は,引用文献3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。 6.小括 以上,本件補正は,平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 平成21年9月18日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成21年5月28日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のものである。 「【請求項1】 下記の群より選択され,かつ,耐熱性リボヌクレアーゼH活性を有し,一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうち,RNA鎖を含む鎖を切断することができることを特徴とするポリペプチド: (a)配列表の配列番号47又は57に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド; (b)配列表の配列番号47又は57に示されるアミノ酸配列において,少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失,付加,挿入又は置換を有するポリペプチド; (c)配列表の配列番号46又は56に示される塩基配列を有する核酸,当該核酸又はその相補鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸にコードされるポリペプチド。」 第4 当審の判断 本願発明は,本願補正発明を含むものである。そうすると,上記「第2」で述べたと同様の理由により,本願発明は,引用文献3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものである。 第5 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 したがって,本願に係るその他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-05-09 |
結審通知日 | 2012-05-15 |
審決日 | 2012-05-28 |
出願番号 | 特願2006-167465(P2006-167465) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 池上 文緒 |
特許庁審判長 |
鵜飼 健 |
特許庁審判官 |
六笠 紀子 冨永 みどり |
発明の名称 | 耐熱性リボヌクレアーゼH |
代理人 | 冨田 憲史 |
代理人 | 山崎 宏 |
代理人 | 田中 光雄 |