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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L |
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管理番号 | 1271974 |
審判番号 | 不服2010-27813 |
総通号数 | 161 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-05-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-12-08 |
確定日 | 2013-03-28 |
事件の表示 | 特願2004-211288「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年2月2日出願公開、特開2006-28390〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、平成16年7月20日の出願であって、平成22年7月5日付けで拒絶理由が通知され、同年9月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年同月27日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、当審において平成24年10月15日付けで拒絶理由が通知され、同年12月3日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?4に係る発明は、平成24年12月3日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、まとめて「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。) は以下のとおりである。 「芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部、含フッ素有機金属塩化合物(B成分)0.005?0.6重量部、および繊維状ガラス充填材、繊維状炭素充填材、および板状ガラス充填材から選択される少なくとも1種の充填材(C成分)1?200重量部からなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、該B成分はイオンクロマトグラフィー法により測定した弗化物イオンの含有量が、B成分の全重量を基準として重量割合で0.2?1ppmであることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。」 第3 当審における拒絶理由の概要 当審が平成24年10月15日付けで通知した拒絶の理由の概要は、「本願発明1?4は、引用例(国際公開第2003/078130号)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」である。 第4 当審の判断 1.刊行物:国際公開第2003/078130号(以下、「引用例」という。) 2.引用例の記載事項 ア 「溶融状態の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、該樹脂組成物供給用の少なくとも1つのゲートを有する金型を用いて、射出成形することにより得られる成形体であって、 該難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、 重量平均分子量が17,000?35,000である芳香族ポリカーボネート(A)100重量部、 平均粒子径が10nm?10μmである無機化合物粒子(B)0.01?3重量部、 有機スルホン酸アルカリ金属塩(C)0.001?0.5重量部、及び フルオロポリマー(D)0.01?0.5重量部 を含む組成物であり、 該金型内における該樹脂組成物の流動長(FL)の該成形体の厚み(t)に対する比(FL/t)の最大値が50以上であり、但し、該FL/t比は、 射出成形時の該金型内における該溶融状態の樹脂組成物の、該ゲートから複数の流動終点までの複数の流動経路(L)に対応する箇所の成形体の厚みを測定し、 各流動経路(L)に沿って(dL/t’)の積分値を計算し、但し、dLは流動経路(L)の断片の長さを表し、t’は該断片に対応する箇所での成形体の厚みを表し、 該流動経路(L)のそれぞれに関して得られた積分値を該成形体のFL/t比と定義する、 ことによって得られる、 ことを特徴とする難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物成形体。」(64?65頁、請求の範囲第1項) イ 「本発明で用いる成分(C)は、有機スルホン酸アルカリ金属塩であり、脂肪族スルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホン酸アルカリ金属塩等を好ましく使用することができ、これらは、単独、もしくは混合物として使用することができる。 ・・・ 前記脂肪族スルホン酸アルカリ金属塩としては、炭素数1?8のアルカンスルホン酸アルカリ金属塩、・・・さらには炭素数1?8のパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩を好ましく使用することができ、特に好ましい具体例として、パーフルオロエタンスルホン酸ナトリウム塩、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩を挙げることができる。」(25頁21行?26頁13行) ウ 「このような耐熱安定性に優れた有機スルホン酸アルカリ金属塩は、不純物として存在する、カルシウム化合物、鉄化合物、遊離ハロゲン等を、製品である有機スルホン酸アルカリ金属塩から極力排除することにより得ることができ、具体的には、有機スルホン酸アルカリ金属塩の製造に際して、精製された原料を使用すること、及び/または、最終生成物をアルコール不溶分濾過、再結晶等により精製し製品純度を高める後処理を行うこと、により達成することができる。 ・・・ さらに、本発明で使用される成分(C)は、ハロゲン原子含有量10ppm以下が好ましく、5ppm以下がより好ましく、3ppm以下が更に好ましく、1ppm以下が特に好ましい。」(27頁3?20行) エ 「更に、本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、繊維状の強化材を含むことができ、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、炭化珪素繊維、アラミド繊維、液晶ポリエステル等を挙げることができ、これらの中から選べれる1種または2種以上を使用することができる。 上記繊維状の強化材を含む場合その配合量は組成物全量に対して1?30重量%が好ましく、より好ましくは5?25重量%、さらに好ましくは10?20重量%である。」(32頁15?23行) オ 「発明を実施するための最良の形態 以下、実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明する。 実施例あるいは比較例においては以下に示す成分を使用して芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造した。 1.成分(A):芳香族ポリカーボネート ・・・ 3.成分(C)有機スルホン酸アルカリ金属塩 (C-1) パーフルオロブタンスルホン酸カリウム 市販のパーフルオロブタンスルホン酸カリウム(日本国大日本インキ工業(株)製 商品名「メガファックF114」)100gをガラスフラスコ中で蒸留水500mlにより80℃で完全に溶解させ、その後室温まで冷却して再結晶化させ、再結晶化物を濾過して取り出し、80℃で24時間乾燥させた。次に、乾燥させたパウダー状の再結晶化物をガラスフラスコ中で精製エタノール1,000mlに溶解させ、エタノール不溶分を濾過して取り除いた後、ロータリエバポレーターで濾液を除去した後、80℃で24時間乾燥させて、パーフルオロブタンスルホン酸カリウムの精製物を得た。 ・・・ 精製物のCa、Fe濃度を原子吸光分析法により測定したところ、それぞれ0.3ppm、1.0ppmであり、フッ素含有量をイオン電極法により測定した結果、2ppmであった。 ・・・ 5.その他の成分 ・・・ (GF) チョップドストランド(日本国日本電気ガラス(株)製 商品名「T-571」)」(42頁1行?46頁13行) 3.引用例に記載された発明 引用例には、摘示アから、難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、「重量平均分子量が17,000?35,000である芳香族ポリカーボネート(A)100重量部、平均粒子径が10nm?10μmである無機化合物粒子(B)0.01?3重量部、有機スルホン酸アルカリ金属塩(C)0.001?0.5重量部、及びフルオロポリマー(D)0.001?0.5重量部を含む組成物」が記載されている。 ここで、引用例には、成分(c)である有機スルホン酸アルカリ金属塩としては、「炭素数1?8のパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩を好ましく使用することができ」(摘示イ)と記載され、さらに、成分(c)については、「ハロゲン原子含有量10ppm以下が好ましく、5ppm以下がより好ましく、3ppm以下が更に好ましく、1ppm以下が特に好ましい。」(摘示ウ)と記載されている。 してみると、引用例には次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「重量平均分子量が17,000?35,000である芳香族ポリカーボネート(A)100重量部、平均粒子径が10nm?10μmである無機化合物粒子(B)0.01?3重量部、ハロゲン原子含有量が1ppm以下の炭素数1?8のパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩(C)0.001?0.5重量部、及びフルオロポリマー(D)0.001?0.5重量部を含む難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」 4.対比・判断 (1)対比 引用発明の「芳香族ポリカーボネート(A)」、「炭素数1?8のパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩(C)」及び「難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」は、それぞれ、本願発明の「芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)」、「含フッ素有機金属塩化合物(B成分)」及び「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」にそれぞれ相当することは明らかである。 また、引用発明の「炭素数1?8のパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩(C)」の配合量は、本願発明の「含フッ素有機金属塩化合物(B成分)」の配合量と重複一致している。 してみると、本願発明と引用発明とは、「芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部及び含フッ素有機金属塩化合物(B成分)0.005?0.6重量部を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。」の点で一致し、以下の点で相違している。 相違点1:本願発明では、繊維状ガラス充填材、繊維状炭素充填材、および板状ガラス充填材から選択される少なくとも1種の充填材(C成分)1?200重量部を配合することを特定しているのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。 相違点2:本願発明では、含フッ素有機金属塩化合物の弗化物イオンの含有量を0.2?1ppmと特定しているのに対し、引用発明では、ハロゲン原子含有量を1ppm以下と特定している点。 相違点3:本願発明では、フッ化物イオンの含有量をイオンクロマトグラフィー法により測定したと特定するが、引用発明ではそのような特定がない点。 (2)判断 ア 相違点1について 引用例には、「更に、本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、繊維状の強化材を含むことができ、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、・・・これらの中から選ばれる1種または2種以上を使用することができる。上記繊維状の強化材を含む場合その配合量は組成物全量に対して1?30重量%が好ましく、・・・である。」(摘示エ)と記載されていることから、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば、繊維状ガラス充填材、繊維状炭素充填材、および板状ガラス充填材から選択される少なくとも1種の充填材1?200重量部を配合することは、必要に応じて適宜なし得ることに過ぎない。 また、充填材の配合量を1?200重量部と特定している点に関しては、高分子への充填材の配合による効果は、かかる充填材の配合によって効果が奏されるものであるから、一般に配合量によって効果の度合いが変化し、配合量が少な過ぎれば期待される効果が不十分となり、また、充填材の配合量が多くなるにつれ組成物における高分子自体の割合が減少するから、組成物の物性への高分子の物性の寄与も減少し、高分子の割合が少なすぎる、すなわち充填材の配合量が多すぎれば、組成物における靱性等の高分子に起因する物性が損なわれることは、当業者にとって技術常識であって、通常、かかる技術常識に基づいて当業者は充填材の配合量を適宜決定しているのであるから、かかる配合量の特定により格別予期しがたい効果が奏されるとも認められない。 イ 相違点2について 引用例には、摘示ウより、「不純物として存在する、カルシウム化合物、鉄化合物、遊離ハロゲン等を・・・極力排除すること」で、耐熱安定性に優れた含フッ素有機金属塩化合物を得ることができる旨記載されていることからして、引用発明は、含フッ素有機金属塩化合物から、ハロゲン原子を含むもの、カルシウム化合物等の不純物を極力排除しようとするものであり、具体的にハロゲン原子に関しては1ppm以下が特に好ましいとしており、これは、フッ素はハロゲンであるから、ハロゲン原子含有量の合計をフッ素原子も含め1ppm以下とすることが特に好ましいと解される。 一方、本願発明の弗化物イオンは、「含フッ素有機金属塩化合物中に微量に含有される」(段落【0008】)ものであり、「フッ化物イオンを特定量以下に減少させた含フッ素有機金属塩化合物を使用することにより、疲労特性の改善される理由は次のように推測される。フッ化物イオンは芳香族ポリカーボネートを熱分解させると考えられる。かかる熱分解はポリマー分子鎖間の絡み合いを減少させる。かかる減少は応力を担う分子鎖の数を減少させ、応力集中を生じさせやすい。結果として応力に対してクラックが生じやすくなる。」(段落【0010】)ことからすると、本願発明の弗化物イオンは少なければ少ないほど良いと解され、また、本願明細書の記載を検討しても、本願発明の0.2ppmという下限値に特段の意味があるとは認められない。 したがって、本願発明も引用発明も含フッ素有機金属塩化合物の不純物であるハロゲン原子または弗化物イオンをppmのオーダーで極力排除しようとするものであるから、引用発明において、不純物を弗化物(フッ素原子を含むもの)に特定し、その含量を極力少なくすることは当業者であれば容易になし得ることと認められる。また、このことにより格別予期しがたい効果が奏されるとも認められない(以下、第5 3.の記載参照)。 ウ 相違点3について 引用例には、「フッ素原子をイオン電極法により測定した」(摘示オ)と記載されているから、フッ素も含めたハロゲン原子の測定をイオン電極法により行っているといえ、そして、フッ素イオン分析の方法として、イオンクロマトグラフィー法もイオン電極法も周知の測定方法であり、両者で同じ弗化物イオン含有量のものを測定した場合、同等の値が得られると認められるから、相違点3は実質的な相違点とはいえない。 エ 以上から、本願発明は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものと認められる。 第5 請求人の主張について 1.請求人は、平成24年12月3日提出の意見書において、以下のとおり主張している。 主張1:「引用例に記載の「ハロゲン原子」はフッ素には限定されず、『引用発明の「有機スルホン酸アルカリ金属塩(C)」のハロゲン(フッ化物イオン)含有量は、本願発明1の弗化物イオンの含有量と重複一致している』とはいえない。」 主張2:「本願発明はB成分である含フッ素有機金属塩化合物のフッ化物イオン含有量が特定範囲にある場合に、疲労特性が向上するとを見出したものである。このことについては引用例には記載も示唆もない。」 2.主張1について 引用例に記載のハロゲン原子に関しては、請求人主張のとおりフッ素に限定されないものとしても、上記第4 において検討したとおり、本願発明も引用発明も含フッ素有機金属塩化合物の不純物であるハロゲン原子または弗化物イオンをppmのオーダーで極力排除しようとするものであるから、引用発明において、不純物を弗化物(フッ素原子を含むもの)に特定し、その含量を極力少なくすることは当業者であれば容易になし得ることであるから、進歩性についての結論に変わりはない。 3.主張2について 疲労特性について本願明細書の【表1】の具体的な記載を検討すると、弗化物イオンが1ppmの場合(実施例3及び4)は破断回数が14000回及び29000回であるが、126ppmの場合(比較例1及び2)は破断回数がそれぞれ12000回及び25000回と1ppmの場合に比べて減少している。 しかしながら、フッ化物イオン含有量が特定範囲にある場合に、疲労特性が向上する場合があるとしても、一般的な繊維状ガラス充填材を有するポリカーボネート樹脂の疲労特性に比べて格別優れた効果が奏されているとまではいえない。 4.まとめ したがって、請求人の主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、当審が通知した拒絶の理由により拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-01-24 |
結審通知日 | 2013-01-29 |
審決日 | 2013-02-12 |
出願番号 | 特願2004-211288(P2004-211288) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C08L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤井 勲 |
特許庁審判長 |
田口 昌浩 |
特許庁審判官 |
近藤 政克 須藤 康洋 |
発明の名称 | 芳香族ポリカーボネート樹脂組成物 |
代理人 | 為山 太郎 |