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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1272255
審判番号 不服2010-24433  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-29 
確定日 2013-04-03 
事件の表示 特願2008-503573「N-アルキルカルボニル-アミノ酸エステルおよびN-アルキルカルボニル-アミノラクトン化合物およびそれらの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月5日国際公開、WO2006/103401、平成20年10月9日国内公表、特表2008-538115〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2006年3月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2005年3月29日、同年5月20日、同年7月25日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成21年3月19日に補正書が提出され、同年11月18日付けの拒絶理由に対し、平成22年5月24日に意見書が提出されたが、同年6月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月29日に審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、平成24年2月14日付けで審尋がなされたが、指定された期間内に回答書が提出されなかったものである。

第2 平成22年10月29日付けの手続補正の適否について
1 補正の内容
平成22年10月29日付けの手続補正(以下、「本願補正」という。)は、特許請求の範囲について、補正前の請求項1?8、10?16、18、19、25、26、31?35、40?43を削除し、補正前の請求項9、17、20?24、27?30、36?39の項番をそれぞれ請求項1?15に改める補正(以下、「補正事項1」という。)、及び、補正前の請求項8、10、12及び14における「咳」、補正前の請求項9、11、13及び15における「喘息」を、それぞれ「ヒトの咳」、「ヒトの喘息」に改める補正(以下、「補正事項2」という。)からなる。

2 補正の適否
補正事項1について、平成18年法律第55号に係る改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号に掲げる「請求項の削除」を目的とすることは明らかである。
また、補正事項2について、「咳」、「喘息」という記載を、本来の意味内容を明瞭にした「ヒトの咳」、「ヒトの喘息」という記載に改めるものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第4号に掲げる「明りょうでない記載の釈明」を目的とすることは明らかである。
さらに、補正事項1、2について、この出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることも明らかであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第3項に適合するといえる。

3 まとめ
したがって、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第3項に適合し、かつ同条第4項第1及び4号に掲げる事項を目的としているといえるから、本件補正は適法になされたものである。

第3 本願発明について
1 本願発明の認定
この出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年10月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。

「次の化合物:
(R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸エチルエステル
ならびにその塩および溶媒和物。」

2 原査定の理由
原査定は「この出願については、平成21年11月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由・・2によって、拒絶をすべきものです」という理由によるものであって、平成21年11月18日付け拒絶理由通知書からみて次の理由を含むものである。

「・・
2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

《 理由・・2について 》
引用例1の第4頁第2表には、R’が-Hであり、R”が-CH(CH_(3))COOC_(2)H_(5)であるものが記載され、その第2欄第31?32行には「メントールはハッカ油の主成分である」との記載が・・されているところ、ハッカ油に含まれる「L-メントール」の別名は「(1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサノール」であることから、引用例1・・に記載された発明のメンタン類の光学異性は・・少なくとも本願発明の光学異性体を包含する点において化合物として相違するものではなく、そのアルキル基の炭素数や不斉炭素の位置を最適化することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内である。
よって、本願請求項1?43に係る発明は・・引用例1・・に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

《 引用文献等一覧 》
1.特公昭51-015098号公報
・・」

3 刊行物1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において「引用文献1」として引用されたこの出願の優先日前に頒布された刊行物である「.特公昭51-015098号公報」(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「本発明の方法に使用されるN-置換-P-メンタン-3-カルボクサミドは、相当するアシドクロライド(P-メンタン-3-カルボン酸に、チオニルクロライドを作用させて得られる)に適当量のモノ-またはジ-置換アミノを反応させる、通常の方法によつて得られる。」(第3頁第5欄第11?16行)
イ 「P-メンタン構造の3-位置におけるカルボクサミドの置換によつて光学異性を生じ・・大ていの場合、d体よりもl体の方が生理学的冷感効果が大き・・い・・したがつて、P-メンタン-3-カルボン酸のl体から誘導された化合物が選ばれる。」(第3頁第6欄第9?16行)
ウ 「本発明の化合物による、皮膚および粘膜、たとえば口の粘膜に対する冷涼感は、その化合物ごとに強さも、持続性も異なる。
一般的に、モノ置換化合物、つまりR’が水素であるものは・・明白な冷涼感を示す。」(第3頁第6欄第17?22行)
エ 「本発明による冷却効果を有するものを第2表に示す。

第2表
R’ R’’ ・・ ・・
・・
-H ・・ ・・
〃 -CH(CH_(3))COOC_(2)H_(5) ・・
・・
」(第7頁第7欄第1行?第8欄第1行、第2表)
オ 「化粧品類
N-置換-P-メンタン-3-カルボクサミドは皮膚に対して清涼感を与える効果があるので、その主要な用途として化粧調整品および化粧品に広汎に使われる。」(第6頁第12欄第30?34行)

4 当審の判断
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「冷却効果を有する」(摘示エ)化合物として、「本発明の方法に使用されるN-置換-P-メンタン-3-カルボクサミド」(摘示ア)であって、N-置換が「-CH(CH_(3))COOC_(2)H_(5))」(摘示エ)によるものが記載されている。
また、「P-メンタン-3-カルボクサミド」は、「(2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ」に相当し、「-CH(CH_(3))COOC_(2)H_(5))」は、「プロピオン酸エチルエステル-2-イル」に相当するから、上記の冷却効果を有する化合物は、2-[(2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸エチルエステルであるといえる。
さらに、刊行物1における「P-メンタン構造の3-位置におけるカルボクサミドの置換によつて光学異性を生じ・・大ていの場合、d体よりもl体の方が生理学的冷感効果が大き・・い・・したがつて、P-メンタン-3-カルボン酸のl体から誘導された化合物が選ばれる。」(摘示イ)という記載からみて、上記P-メンタン-3-カルボクサミドはl体であること、すなわち、l-メントール((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサノール)と同じの立体配置であることが示されているといえる。
そうすると、「2-[(2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸エチルエステル」における「2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル」は、「(1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル」であるといえる。
してみると、刊行物1には、
「2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸エチルエステル」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比
本願発明と引用発明を対比すると、両者は、
「次の化合物:
2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸エチルエステル」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点
2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸エチルエステルのプロピオン酸構造の2-位置における立体配置について、本願発明では、R体を形成するのに対し、引用発明では、何ら特定されていない点

(3)相違点についての検討
刊行物1における「N-置換-P-メンタン-3-カルボクサミドは、相当するアシドクロライド(P-メンタン-3-カルボン酸に、チオニルクロライドを作用させて得られる)に適当量のモノ-またはジ-置換アミノを反応させる、通常の方法によつて得られる」(摘示ア)という記載からみて、引用発明の製造方法として、P-メンタン-3-アシドクロライドに2-アミノプロピオン酸エチルエステル、すなわち、アラニンエチルエステルを反応させることが示されているといえる。
また、アラニンエチルエステルにおいて、プロピオン酸構造の2-位置における立体配置によって、異性体が存在することは出願時の技術常識であって、刊行物1に示された上記製造方法における原料としてのアラニンエチルエステルの立体配置の選択によって、生成物としての引用発明のプロピオン酸構造の2-位置における立体配置を、R体、S体又はラセミ体とできることも当業者に明らかであるといえる。
さらに、異なる立体配置を有する化合物を生体に適用する場合に、立体配置によって生体に対する作用効果の程度が異なることは一般的に知られており、より作用効果に優れた立体配置を確認し、選択することが当業者の常套手段とされている。
そうすると、上記のとおり、引用発明のプロピオン酸構造の2-位置における立体配置を、R体、S体又はラセミ体とできること、それら立体配置は、原料としてのアラニンエチルエステルの立体配置の選択によって実現できることが当業者に明らかである以上、引用発明のプロピオン酸構造の2-位置における立体配置がR体、S体及びラセミ体のものを製造してみることは、当業者が容易に想到できたことである。
してみると、引用発明におけるプロピオン酸構造の2-位置における立体配置がR体のもの、すなわち、「(R)-2-[((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル)アミノ]プロピオン酸エチルエステル」は当業者が容易に想到できたものである。

(4)効果について
ア 本願発明の効果
この出願の明細書(以下、「本願明細書」という。)の段落【0198】?【0226】には、研究1?10として、本願発明に相当する「2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル-D-Alaエチルエステル」(以下、「D-Alaエチルエステルを有する化合物」という。)について、皮膚の冷却作用の優れた持続時間を有し、また、目に対する最小限の刺激作用で爽快、鎮静及び冷却作用を発揮するという効果(以下、「効果1」という。)が示されている。
さらに、本願明細書の段落【0201】の【表10】には、上唇の上の皮膚における冷却効果の持続時間について、以下のとおり具体的な数値が示されており、引用発明のプロピオン酸構造の2-位置における立体配置をS体としたものに相当する「2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボニル-L-Alaエチルエステル」(以下、「L-Alaエチルエステルを有する化合物」という。)と対比しても、D-Alaエチルエステルを有する化合物は、皮膚に対する冷却作用の持続時間について有利であること(以下、「効果2」という。)が示されているといえる。

「【0201】
【表10】
・・
化合物 ・・ 作用の持続時間
発現から消失(分)
・・
L-Alaエチルエステル ・・ 8?52 = 44
・・
D-Alaエチルエステル ・・ 1?143 = 142」

イ 効果についての検討
(ア)効果1について
刊行物1における「本発明の化合物による、皮膚および粘膜、たとえば口の粘膜に対する冷涼感は、その化合物ごとに強さも、持続性も異なる」ものの、「一般的に、モノ置換化合物、つまりR’が水素であるものは・・明白な冷涼感を示す」(摘示ウ)という記載からみて、引用発明は、皮膚に対する冷涼感の強さ、持続性において顕著であるものといえる。
そして、「冷涼」とは、一般的に心地好い程度の冷却状態を意味すること、さらに、刊行物1における「N-置換-P-メンタン-3-カルボクサミドは皮膚に対して清涼感を与える効果があるので、その主要な用途として化粧調整品および化粧品に広汎に使われる」(摘示オ)という記載を考慮すると、引用発明は、皮膚に対する冷却作用の持続性に優れ、化粧調整品および化粧品として使用できる程度の心地好い冷却作用を発揮するものであるといえる。
してみると、効果1は、引用発明が有する効果と比較しても異質なものでなく、当業者が予測できた範囲内のものであるといえる。

(イ)効果2について
上記(3)で示したとおり、異なる立体配置を有する化合物を生体に適用する場合に、立体配置によって生体に対する作用効果の程度が異なることは一般的に知られているのであるから、引用発明のプロピオン酸構造の2-位置における立体配置によって、すなわち、R体、S体又はラセミ体であるかによって、皮膚に対する冷却作用の持続性に差異が生じることは当業者が当然に認識できたことであるといえる。
そして、立体配置の選択肢としてR体、S体又はラセミ体という選択肢しかないということをも考慮すれば、皮膚に対する冷却作用の持続時間について、上記立体配置がR体のものがS体又はラセミ体のものよりも有利となることも、当業者が予測できた範囲内のことであるといえる。
さらに、上記(ア)で示したとおり、本願明細書の段落【0201】の【表10】には、立体配置としてR体を選択したものに相当する「D-Alaエチルエステルを有する化合物」とS体を選択したものに相当する「L-Alaエチルエステルを有する化合物」について、その皮膚に対する冷却作用の持続時間について具体的なデータが示されているものの、その差異が技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであるとまではいえない。
してみると、効果2は、引用発明が有する効果と比較しても顕著なものでなく、当業者が予測できた範囲内のものであるといえる。

ウ 小括
したがって、本願発明の効果は、当業者が容易に予測できた範囲内のものである。

(5)まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成22年10月29日付けの審判請求書の【請求の理由】<3>(4)において、「D-ALaエチルエステルを有する化合物が対応するL-Ala類似体よりも作用持続時間が長いこと、さらには両者が作用持続時間および爽快感等の薬理活性に関して顕著に異なることを予測することは不可能である」こと、さらに、その顕著性について、「本願新請求項1に係るD-ALaエチルエステルを有する化合物の作用持続時間は142分であり、対応するL-Ala化合物の作用持続時間は44分であることに留意されたい(表2参照)。つまり、D-ALaエチルエステルを有する化合物は、対応するL-Ala化合物の2倍以上の作用持続時間を有する。さらには、D-ALaエチルエステルを有する化合物と対応するL-Ala化合物の作用持続時間の違いは、D-ALaメチルエステルを有する化合物(114分)と対応するL-Ala化合物(79分)の作用持続時間の違いよりもはるかに大きい。このように、D-ALaエチルエステルを有する化合物と対応するL-Ala化合物の作用持続時間の違いは顕著である」ことを主張する。
そして、審判請求人が主張するとおり、D-ALaエチルエステルを有する化合物が、対応するL-Ala化合物の2倍以上の作用持続時間を有し、D-ALaメチルエステルを有する化合物(114分)と対応するL-Ala化合物(79分)の作用持続時間の違いよりもはるかに大きい。
しかしながら、D-ALaメチルエステルを有する化合物(114分)と対応するL-Ala化合物(79分)の作用持続時間の違いのみをもって、立体配置によって生じる生体に対する作用効果の違いの程度についての技術水準を示したものとは認められないし、D-ALaエチルエステルを有する化合物が、対応するL-Ala化合物の2倍以上の作用持続時間を有することも、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであるとはいえない。
してみると、上記審判請求人の主張は採用できない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余の点について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-31 
結審通知日 2012-11-06 
審決日 2012-11-19 
出願番号 特願2008-503573(P2008-503573)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 敏康藤原 浩子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 村守 宏文
齋藤 恵
発明の名称 N-アルキルカルボニル-アミノ酸エステルおよびN-アルキルカルボニル-アミノラクトン化合物およびそれらの使用  
代理人 藤田 節  
代理人 平木 祐輔  
代理人 石井 貞次  

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