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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C30B
管理番号 1272281
審判番号 不服2011-25167  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-22 
確定日 2013-04-04 
事件の表示 特願2007-261128「炭化珪素単結晶の製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月30日出願公開、特開2009- 91173〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成19年10月4日の特許出願であって、平成23年5月11日付けで拒絶理由の通知がなされ、同年7月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月2日付けで拒絶査定がなされ、同年11月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正が行われ、平成24年4月20日付けで特許法第164条第3項に基づく報告書を引用した審尋がなされ、同年6月22日に回答書が提出されたものである。

第2.本願発明
平成23年11月22日付けの手続は適法なものと扱うと、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年11月22日付けの手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。
なお、仮に、上記手続補正が特許法第17条の2第3項または第5項の規定に違反するため、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきもの、あるいは、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項に準用される準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであるとしても、上記手続補正によって、請求項1は補正されていないから、本願発明の特許性の判断は、上記手続補正が適法と判断した場合と変わらない。

「 【請求項1】
有底円筒状の容器本体(10)と当該容器本体(10)を蓋閉めするための蓋体(20)とを有した中空状の円柱形状をなす坩堝(1)を有し、前記蓋体(20)に炭化珪素基板からなる種結晶(40)を配置すると共に前記容器本体(10)に炭化珪素原料(50)を配置し、前記炭化珪素原料(50)の昇華ガスを供給することにより、前記種結晶(40)上に炭化珪素単結晶(70)を成長させる炭化珪素単結晶の製造装置において、
前記蓋体(20)は、
中空筒状の側壁部(21)と、
一面側に前記種結晶(40)が配置されると共に、前記種結晶(40)が前記側壁部(21)の中空部分に収納されるように前記側壁部(21)の開口端の一方に取り付けられる蓋材(22)と、
円盤状部材にて構成され、前記種結晶(40)が差し込まれる貫通した窓部(23c)を有しており、前記円盤状部材の側面が前記側壁部(21)の内壁に一体化される支持板(23a)と、
前記側壁部(21)の内側に配置され、中空部を有する円筒状をなしており、前記中空部内が成長空間領域(60)とされて前記昇華ガスが供給されるようになっており、前記支持板(23a)のうち前記蓋材(22)に対向する面とは反対側の面と結合された円筒部(23b)と、
前記支持板(23a)のうち前記円筒部(23b)が結合される側と反対側となる裏面に、前記窓部(23c)を囲むように形成された炭化タンタルコーティング(26)と、
を備えていることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造装置。」

第3.引用例
1.引用例1
本願出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶理由に引用された特開2001-114598号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載され、視認される。
(ア)「【発明の実施の形態】(第1実施形態)以下、図に示す実施形態について説明する。図1に、本実施形態で用いる結晶成長装置としての黒鉛製るつぼ1を示す。この図は、黒鉛製るつぼ1内に備えられた炭化珪素原料2を熱処理によって昇華させ、炭化珪素単結晶層で構成された種結晶3の上に炭化珪素単結晶4を結晶成長させたときの黒鉛製るつぼ1の断面構成を示している。
黒鉛製るつぼ1は、上面が開口したるつぼ本体10と、るつぼ本体10の開口部を塞ぐ蓋材11とから構成されている。るつぼ本体10の開口部側には段付き部10aが設けられている。
るつぼ本体10は、断面円形のコップ形状を成しており、コップ形状の底には炭化珪素原料2が備えられている。
蓋材11は、るつぼ本体10の開口部の形状に対応した円形状を成している。蓋材11は、種結晶貼付部材12と多結晶成長部材13とによって構成されている。種結晶貼付部材12は円盤形状の中央部を円柱状に突出させて構成しており、この突出した部分(以下、突出部という)12aの先端面12bに種結晶3が貼り付けられるようになっている。なお、ここで示した突出部12aが種結晶貼付部を構成し、種結晶貼付部材12のうちの突出部12a以外の部分(突出部12aの周囲の部分)12c及び多結晶成長部材13が周縁部を構成している。
多結晶成長部材13は、るつぼ本体10の開口部から挿入され、開口部近傍において、るつぼ本体10に形成された段付き部10aによって所定位置に保持されるようになっている。
この多結晶成長部材13は、中央に断面円形状の空洞部13aが形成されており、この空洞部13a内に種結晶貼付部材12の突出部12aが挿入されて、突出部12aの外周壁を空洞部13aの内壁面で囲むようにしている。多結晶成長部材13の空洞部13aの内径が、種結晶貼付部材12の突出部12aの外径より若干大きくされており、空洞部13aの内周壁と突出部12aの外周壁との間の隙間dが所定間隔となるようにしている。具体的には、隙間dの大きさが1mm程度となるようにしている。これは、隙間dが小さくなり過ぎると実質的に隙間が空けられていないのと同様になってしまい、逆に、大きくなり過ぎると黒鉛製るつぼ1内の成長空間と同様に作用してしまうからである。また、多結晶製造部材13には、空洞部13aから等間隔離れ、空洞部13aを囲うように形成された円筒形状のガイド13bが設けられている。このガイド13bは、多結晶成長部材13のうち突出部12aの先端面12bの成長表面に対して平行又は同一平面を成す表面13cから炭化珪素原料2の方向に向かって延設されている。」(【0022】?【0027】)
(イ)「図2に、黒鉛製るつぼ1の蓋材11の近傍を拡大した図を示す。この図に示されるように、種結晶貼付部材12のうち突出部12aの周囲の部分12cの厚みをAとし、多結晶成長部材13のうち突出部12aの周囲を囲む部分(多結晶成長部材13のうちガイド13bよりも内側の部分)の厚みをBとし、種結晶貼付部材12の突出部12aの厚みをCとすると、厚みAと厚みBとの和が厚みCよりも大きくなる(A+B>C)ようにしている。
また、種結晶3を貼り付けたときに、種結晶3の成長表面が多結晶成長部材13の表面13cに対してほぼフラットとなるように、若しくは若干突出するように厚みA?Cを設定している。」(【0028】?【0029】)
(ウ)「本発明の第1実施形態における黒鉛製るつぼ1の断面構成を示す図である」と説明される図1、及び「図1に示す黒鉛製るつぼ1の蓋材11の各部位の厚みを説明するための図である」と説明される図2をみると、それぞれ、上記(ア)、(イ)の記載を窺うことができる。
さらに、図1?2のいずれもから、種結晶貼付部材12と多結晶成長部材13とは対向しており、種結晶貼付部材12の周囲の部分が、るつぼ本体10の上面の開口に載置され、該開口を覆っていること、及び、多結晶成長部材13の外周面がるつぼ本体10の側部にある段付き部(10a)に接していることが、それぞれ、見て取れる。
2.引用例2
本願出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶理由に引用された特開2001-226197号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(カ)「【請求項1】 容器(1)内に、炭化珪素単結晶基板で構成された種結晶(3)を配置し、前記種結晶表面にSi含有ガス及びC含有ガスを含む原料ガスを供給して前記種結晶上に炭化珪素単結晶(5)を成長させる炭化珪素単結晶の製造方法において・・・・・・炭化珪素単結晶の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(キ)「・・・・・・結晶引き上げ室1bは、SiC単結晶5を汚染しないように高純度グラファイトで形成されるが、導入したSiガスと反応して結晶引き上げ室1b内でSiC多結晶が成長しないように、結晶引き上げ室1bの内壁をTaC等の材料でコートしても良い。」(【0056】)

第4.対比・判断
1.引用例1に記載された発明
ア 引用例1の(ア)の記載を検討する。
イ 「結晶製造装置としての黒鉛製るつぼ」は、「内に備えられた炭化珪素原料2を熱処理によって昇華させ、炭化珪素単結晶層で構成された種結晶3の上に炭化珪素単結晶4を結晶成長させ」るものであり、「上面が開口したるつぼ本体10と、るつぼ本体10の開口部を塞ぐ蓋材11とから構成されている」といえ、
該「るつぼ本体10」は、「上面が開口し、断面円形のコップ形状を成しており、コップ形状の底には炭化珪素原料2が備えられている」といえる。
また、該「蓋材11」は、「るつぼ本体10の開口部を塞」ぎ、「種結晶貼付部材12と多結晶成長部材13とによって構成されている」と記載されている。
ウ ここで、「多結晶成長部材13」についてみてみる。
ウ-1 「蓋材11は、るつぼ本体10の開口部の形状に対応した円形状を成している。蓋材11は、種結晶貼付部材12と多結晶成長部材13とによって構成されている。」との記載をみると、「多結晶成長部材13」は円形であることは明らかである。
ウ-2 そして、「この多結晶成長部材13は、中央に断面円形状の空洞部13aが形成されており」との記載をみると、多結晶成長部材13は厚みがあり、その形状は円形で厚みのあるもの、すなわち「円盤状」であるといえ、「その中央に断面円形状の空洞部13aが形成されて」いる。
ウ-3 また、「この空洞部13a内に種結晶貼付部材12の突出部12aが挿入され」との記載をみると、種結晶貼付部材12とは多結晶成長部材13とは対向し、多結晶成長部材13は種結晶貼付部材12よりもるつぼ本体10の内側にあるといえる。
ウ-4 ところで、「るつぼ本体10の開口部を塞ぐ蓋材11」に関し、上記イで検討したように、「蓋材11は、種結晶貼付部材12と多結晶成長部材13とによって構成されている」し、また、「多結晶成長部材13は、るつぼ本体10の開口部から挿入され、開口部近傍において、るつぼ本体10に形成された段付き部10aによって所定位置に保持されるようになっている。」との記載がなされているから、多結晶成長部材13は、その円盤状の外周面、すなわち、側面がるつぼ本体10に形成された段付き部10aによって所定位置に保持されているといえ、このことは、視認事項である(ウ)とも整合する。
ウ-5 そうすると、「円盤状である多結晶成長部材13は、種結晶貼付部材12の突出部12aが挿入される空洞部13aが形成されて、その側面がるつぼ本体10に形成された段付き部10aによって所定位置に保持され」ているということができる。
エ 次に、「種結晶貼付部材12」についてみてみる。
エ-1 「種結晶貼付部材12は円盤形状の中央部を円柱状に突出させて構成しており、この突出した部分(以下、突出部という)12aの先端面12bに種結晶3が貼り付けられるようになっている。」と記載されているから、「種結晶貼付部材12」の「中央の突出部」に「種結晶は貼り付けられている」といえる。
エ-2 一方、「るつぼ本体10の開口部を塞ぐ蓋材11」との記載、及び上記ウ-3において検討したように、多結晶成長部材13は種結晶貼付部材12よりもるつぼ本体10の内側にあるといえるから、「種結晶貼付部材12」が、「るつぼ本体10の開口部を塞」いでいるといえ、このことは、視認事項である(ウ)とも整合する。
エ-3 そうすると、種結晶貼付部材12の中央の突出部は、るつぼ本体の中央部となり、種結晶はるつぼ本体の中央部にあるから、コップ形状のるつぼ本体の中空部分に収納されているとみることができ、このことを言い換えると、「種結晶貼付部材12」は「種結晶がコップ形状のるつぼ本体の中空部分に収納されるように中央の突出部に貼り付けられ、るつぼ本体10の開口部を塞いでいる」ということができる。
オ 次に、「円筒形状のガイド13b」に関する記載をみてみると、「多結晶製造部材13には、空洞部13aから等間隔離れ、空洞部13aを囲うように形成された円筒形状のガイド13bが設けられている。このガイド13bは、多結晶成長部材13のうち突出部12aの先端面12bの成長表面に対して平行又は同一平面を成す表面13cから炭化珪素原料2の方向に向かって延設されている。」と記載されており、上記ウ-3で検討したように、種結晶貼付部材12と多結晶成長部材13とは「対向」しているから、「円筒形状のガイド13b」は、「種結晶貼付部材12とは対向する多結晶製造部材13に、空洞部13aから等間隔離れ、空洞部13aを囲うように形成され、多結晶成長部材13のうち突出部12aの先端面12bの成長表面に対して平行又は同一平面を成す表面13cから炭化珪素原料2の方向に向かって延設されている」といえる。
カ 上記イにおいて、「蓋材11」は「種結晶貼付部材12と多結晶成長部材13とによって構成されている」と記載されていることを取り上げた。一方、上記オでみたように、「円筒形状のガイド13b」は、「多結晶成長部材13」に設けられているから、「蓋材11」は、「種結晶貼付部材12」と「多結晶成長部材13」と「円筒形状のガイド13b」により構成されていると以後扱う。
キ そうすると、引用例1には、
「上面が開口し、断面円形のコップ形状を成しており、コップ形状の底には炭化珪素原料(2)が備えられているるつぼ本体(10)と、
該るつぼ本体(10)の開口部を塞ぐ蓋材(11)とから構成され、内に備えられた炭化珪素原料(2)を熱処理によって昇華させ、炭化珪素単結晶層で構成された種結晶(3)の上に炭化珪素単結晶4を結晶成長させる結晶製造装置としての黒鉛製るつぼにおいて、
前記蓋材(11)は、種結晶貼付部材(12)と多結晶成長部材(13)と円筒形状のガイド(13b)によって構成されており、
前記種結晶貼付部材(12)は前記種結晶(3)がコップ形状の前記るつぼ本体(10)の中空部分に収納されるように中央の突出部に貼り付けられ、前記るつぼ本体(10)の開口部を塞いでおり、
円盤状である前記多結晶成長部材(13)は、前記種結晶貼付部材(12)の前記突出部(12a)が挿入される空洞部(13a)が形成されて、その側面が前記るつぼ本体(10)に形成された段付き部(10a)によって所定位置に保持され、
円筒形状のガイド(13b)は、前記種結晶貼付部材(12)とは対向する前記多結晶製造部材(13)に、前記空洞部(13a)から等間隔離れ、前記空洞部(13a)を囲うように形成され、前記多結晶成長部材(13)のうち前記突出部(12a)の先端面(12b)の成長表面に対して平行又は同一平面を成す表面(13c)から前記炭化珪素原料(2)の方向に向かって延設されている、
黒鉛製るつぼ。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
2.本願発明と引用発明との対比・判断
ア 本願発明と引用発明とを対比する。
イ 「上面が開口し、断面円形のコップ形状」とは、「有底円筒状」であるから、引用発明の「るつぼ本体(10)」は、本願発明の「有底円筒状の容器本体(10)」に相当し、引用発明の「該るつぼ本体(10)の開口部を塞ぐ蓋材(11)」は、本願発明の「当該容器本体(10)を蓋閉めするための蓋体(20)」と「当該容器本体(10)を蓋閉めするための蓋部材」である点で一致する。
なお、引用発明の「蓋材(11)」と本願発明の「蓋体(20)」について、後述のケにおいて、さらに検討する。
ウ 引用発明の「該るつぼ本体(10)の開口部を塞ぐ蓋材(11)とから構成され・・・・・・る黒鉛製るつぼ」は、上記イの検討結果を踏まえると、るつぼ本体が断面円形のコップ形状であるから、「中空状の円柱形状をなす」ものといえる。
エ また、引用発明において、種結晶は炭化珪素単結晶層で構成されており、「蓋材は、種結晶貼付部材(12)と多結晶成長部材(13)とによって構成されており」、「前記種結晶貼付部材(12)は前記種結晶がコップ形状の前記るつぼ本体の中空部分に収納されるように中央の突出部に貼り付けられ」ているから、「蓋部材に炭化珪素からなる種結晶」が配置されているといえる。
オ 引用発明は「黒鉛製るつぼ」に係るものであるが、「炭化珪素原料(2)を熱処理によって昇華させ・・・・・・炭化珪素単結晶4を結晶成長させ」ていることからみて、熱処理を行う手段等の炭化珪素単結晶を成長させるための装置が記載されているに等しいといえ、引用発明は、実質的に、黒鉛製るつぼとこれら装置を有する「炭化珪素単結晶の製造装置」であるとみることが自然である。
なお、本願明細書の【0015】の「黒鉛製の坩堝」なる記載をみると、本願発明の坩堝も黒鉛製であって、引用発明の「黒鉛製るつぼ」と材質において差違はない。
カ 引用発明の「種結晶貼付部材(12)」は、「前記種結晶がコップ形状の前記るつぼ本体の中空部分に収納されるように中央の突出部に貼り付けられ、前記るつぼ本体(10)の開口部を塞いで」おり、種結晶は一面側に貼りつけられていることは明らかであるから、本願発明の「一面側に前記種結晶(40)が配置されると共に、前記種結晶(40)が前記側壁部(21)の中空部分に収納されるように前記側壁部(21)の開口端の一方に取り付けられる蓋材(22)」と、「一面側に前記種結晶が配置される部材」である点で共通している。
キ-1 引用発明の「多結晶成長部材(13)」は、「円盤状である前記多結晶成長部材(13)は、前記種結晶貼付部材(12)の前記突出部(12a)が挿入される空洞部(13a)が形成されて、その側面が前記るつぼ本体(10)に形成された段付き部(10a)によって所定位置に保持され」るものである。
キ-2 「種結晶貼付部材(12)の前記突出部(12a)」に種結晶を貼り付けたとき、引用例1の(ウ)に「種結晶3の成長表面が多結晶成長部材13の表面13cに対して・・・・・・若しくは若干突出するように」との記載をみると、種結晶は多結晶成長部材(13)の空洞部(13a)を貫通しているといえる。
キ-3 そうすると、引用発明の「多結晶成長部材(13)」は、本願発明の「円盤状部材にて構成され、前記種結晶(40)が差し込まれる貫通した窓部(23c)を有しており、前記円盤状部材の側面が前記側壁部(21)の内壁に一体化される支持板(23a)」と「円盤状部材にて構成され、前記種結晶が差し込まれる貫通した窓部を有している部材」である点で共通している。
ク-1 引用発明の「円筒形状のガイド(13b)」は、「前記種結晶貼付部材12とは対向する前記多結晶製造部材(13)に、前記空洞部(13a)から等間隔離れ、前記空洞部(13a)を囲うように形成され、前記多結晶成長部材(13)のうち前記突出部(12a)の先端面(12b)の成長表面に対して平行又は同一平面を成す表面(13c)から前記炭化珪素原料(2)の方向に向かって延設されている」ものである。
ク-2 この「円筒形状のガイド(13b)」は、中空部を有する円筒状をなしているといえ、
空洞部(13a)には「種結晶貼付部材(12)の前記突出部(12a)が挿入される」から、空洞部(13a)、すなわち、中空部において、単結晶が成長すること、言い換えると、成長空間とされて昇華した炭化珪素が供給されていること、
そして、「円筒形状のガイド(13b)」が「延設されている」、つまり、多結晶製造部材(13)に結合されている方向は「前記多結晶成長部材(13)のうち前記突出部(12a)の先端面(12b)の成長表面に対して平行又は同一平面を成す表面(13c)から前記炭化珪素原料(2)の方向」であるから、「円筒形状のガイド(13b)」は「多結晶製造部材(13)」の「前記種結晶貼付部材12に対向」する面とは反対の面に結合されていることは、
それぞれ、明らかである。
ク-3 そうすると、上記キ-2の検討結果を併せみると、引用発明の上記「円筒形状のガイド(13b)」は、本願発明の「前記側壁部(21)の内側に配置され、中空部を有する円筒状をなしており、前記中空部内が成長空間領域(60)とされて前記昇華ガスが供給されるようになっており、前記支持板(23a)のうち前記蓋材(22)に対向する面とは反対側の面と結合された円筒部(23b)」と「中空部を有する円筒状をなしており、前記中空部内が成長空間領域とされて前記昇華ガスが供給されるようになっており、円盤状部材にて構成され、前記種結晶が差し込まれる貫通した窓部を有している部材のうち一面側に前記種結晶が配置される部材に対向する面とは反対側の面と結合された円筒状部」である点で共通している。
ケ 引用発明の「種結晶貼付部材(12)と多結晶成長部材(13)と円筒形状のガイド(13b)によって構成されて」いる「蓋材(11)」は、上記カ?ク-3の検討結果を踏まえると、「一面側に前記種結晶が配置される部材」と「円盤状部材にて構成され、前記種結晶が差し込まれる貫通した窓部を有している部材」と「中空部を有する円筒状をなしており、前記中空部内が成長空間領域とされて前記昇華ガスが供給されるようになっており、円盤状部材にて構成され、前記種結晶が差し込まれる貫通した窓部を有している部材のうち一面側に前記種結晶が配置される部材に対向する面とは反対側の面と結合された円筒状部」を含む点で、本願発明の「蓋体(20)」と共通している。
コ 以上を踏まえると、両者は、
「有底円筒状の容器本体と当該容器本体を蓋閉めするための蓋部材とを有した中空状の円柱形状をなす坩堝を有し、前記蓋部材に炭化珪素からなる種結晶を配置すると共に前記容器本体に炭化珪素原料を配置し、前記炭化珪素原料の昇華ガスを供給することにより、前記種結晶上に炭化珪素単結晶を成長させる炭化珪素単結晶の製造装置において、
前記蓋部材は、
一面側に前記種結晶が配置される部材と、
円盤状部材にて構成され、前記種結晶が差し込まれる貫通した窓部を有している部材と、
中空部を有する円筒状をなしており、前記中空部内が成長空間領域とされて前記昇華ガスが供給されるようになっており、円盤状部材にて構成され、前記種結晶が差し込まれる貫通した窓部を有している部材のうち一面側に前記種結晶が配置される部材に対向する面とは反対側の面と結合された円筒状部と、
を含む炭化珪素単結晶の製造装置」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点1:種結晶に関し、本願発明は「基板からなる」ものであるのに対し、引用発明は「炭化珪素単結晶層で構成された」ものである点
相違点2:蓋部材につき、本願発明は、「中空筒状の側壁部(21)」、「蓋材(22)」、「支持板(23a)」、「円筒部(23b)」及び「炭化タンタルコーティング(26)」を備えているのに対し、引用発明は、該「蓋材(22)」に対応する「種結晶貼付部材(12)」、該「支持板(23a)」に対応する「多結晶成長部材(13)」、該「円筒部(23b)」に対応する「円筒形状のガイド(13b)」から構成される点
サ これら相違点について検討する。
シ 相違点1について
引用例1の(イ)に「種結晶3を貼り付けたときに、種結晶3の成長表面が多結晶成長部材13の表面13cに対してほぼフラットとなるように」と記載され、種結晶が貼り付けられる突出部は平面であることは明らかであるから、引用発明の「炭化珪素単結晶で構成された種結晶」は板状であるといえ、このことは、炭化珪素単結晶が「層」であることとも整合する。
一方、引用例2の(カ)に記載されているように、「基板」形状の炭化珪素単結晶を種結晶として用いることは知られているから、引用例1の板状の炭化珪素種結晶として基板を用いることは当業者であれば困難なくなし得ることである。
ス 相違点2について
ス-1 「中空筒状の側壁部(21)」について
(1)本願発明の発明特定事項をみると、「中空筒状の側壁部(21)」も「有底円筒状の容器本体(10)を蓋閉めする」ものであり、中空筒状なる形状からみて「有底円筒状の容器本体(10)」の側壁に接していることは明らかであり、このことは本願の図面である「本発明の第1実施形態にかかるSiC単結晶製造装置の断面構成図である」図1から視認される事項と整合する。
(2)また、本願発明において、蓋材(22)は前記側壁部(21)の開口端の一方に取り付けられ、支持板(23a)は側面が前記側壁部(21)の内壁に一体化されている。
(3)一方、引用発明において、該「蓋材」に対応する「種結晶貼付部材(12)」は、るつぼ本体(10)の開口部を塞いでおり、該「支持板」に対応する「多結晶成長部材(13)」は、側面が前記るつぼ本体(10)に形成された段付き部(10a)によって所定位置に保持されている。
(4)そうすると、引用発明の黒鉛製るつぼ本体(10)において、種結晶貼付部材(12)によって塞がれた開口部から、多結晶成長部材(13)の側面が所定位置に保持された段付き部(10a)までの箇所(以下「黒鉛製るつぼ本体上部箇所」という。)が、本願発明の「中空筒状の側壁部(21)」に相当する箇所とみることができ、本願発明が「中空筒状の側壁部(21)」を備えることは、引用発明において、「黒鉛製るつぼ本体上部箇所」を「中空筒状の側壁部」という別部材として設け、それを蓋体を構成するものと呼んでいることと言い換えることができる。
(5)そこで、引用発明の黒鉛製るつぼ本体上部箇所を別部材として設けることについて検討すると、引用発明において、炭化珪素単結晶を製造するに当たり、種結晶貼付部材(12)や多結晶成長部材(13)の着脱が複数回行われると予想され、それによってこれら部材が接する部分、すなわち「黒鉛製るつぼ本体上部箇所」が損傷したり、昇華した炭化珪素の付着する等の可能性があることは明らかである。一方、コスト削減等の理由で黒鉛製るつぼの交換を頻度を少なくする要請は当然あり得ることであるから、黒鉛製るつぼ全体の交換に代えて損傷する可能性がある部分のみを交換することは当業者ならば当然に行うことである。
そうすると、引用発明において、損傷する可能性がある「黒鉛製るつぼ本体上部箇所」のみを交換可能にすること、本願発明に則して言い換えると、「黒鉛製るつぼ本体上部箇所」を「中空筒状の側壁部(21)」とすることは、当業者ならば適宜行うことといえる。
ス-2 「蓋材(22)」について
(1)上述のとおり、引用発明の「種結晶貼付部材(12)」は、本願発明の「蓋材(22)」と「一面側に前記種結晶が配置される部材」である点で一致し、「蓋材(22)」が「種結晶(40)が前記側壁部(21)の中空部分に収納されるように前記側壁部(21)の開口端の一方に取り付けられ」ているのに対し、「種結晶貼付部材(12)」は、「種結晶がコップ形状の前記るつぼ本体の中空部分に収納されるように中央の突出部に貼り付けられ、前記るつぼ本体(10)の開口部を塞いで」いる点で相違している。
(2)そこで、この相違点について検討すると、「種結晶貼付部材(12)」が、「種結晶がコップ形状の前記るつぼ本体の中空部分に収納されるように中央の突出部に貼り付けられ、前記るつぼ本体(10)の開口部を塞いで」いることは、種結晶が黒鉛製るつぼ本体の側面(側壁)の本体の中空部分に収納されるように、黒鉛製るつぼの開口部、すなわち、開口端に取り付けらていることであるから、この相違点は、「蓋材(22)」が「側壁部(21)の開口端の一方に取り付けられ」ているのに対し、「種結晶貼付部材(12)」が「黒鉛製のるつぼの開口端、すなわち、黒鉛製るつぼ本体上部箇の開口端に取り付けられている」点と言い換えることができる。
(3)そうすると、上記ス-1において検討したように、「黒鉛製るつぼ本体上部箇所」を「中空筒状の側壁部(21)」とすることは、当業者ならば適宜行うことであるから、「種結晶貼付部材(12)」を「種結晶が中空状の側壁部の中空部分に収納されるように前記側壁部の開口端の一方に取り付け」るようにすることは困難なくなし得ることである。
ス-3 「支持板(23a)」について
(1)上述のとおり、引用発明の「多結晶成長部材(13)」は、本願発明の「支持板(23a)」と「円盤状部材にて構成され、前記種結晶が差し込まれる貫通した窓部を有している部材」である点で一致し、「支持板(23a)」が「側面が中空筒状の側壁部(21)の内壁に一体化される」のに対し、「多結晶成長部材(13)」が「その側面が前記るつぼ本体(10)に形成された段付き部(10a)によって所定位置に保持され」ている点で相違している。
(2)そこで、この相違点について検討すると、「段付き部(10a)によって所定位置に保持され」ることは、「るつぼ本体(10)の内壁に一体化される」ことみることができるから、この相違点は、「支持板(23a)」が、「中空筒状の側壁部(21)の内壁に一体化される」のに対し、「多結晶成長部材(13)」が、「るつぼ本体(10)の内壁に一体化される」点と言い換えることができる。
(3)そうすると、上記ス-1において検討したように、「黒鉛製るつぼ本体上部箇所」を「中空筒状の側壁部(21)」とすることは、当業者ならば適宜行うことであるから、「多結晶成長部材(13)」を「中空状の側壁部の内壁に一体化」させることは困難なくなし得ることである。
ス-4 「円筒部(23b)」について
(1)上述のとおり、引用発明の「円筒形状のガイド(13b)」は、本願発明の「円筒部(23b)」と「中空部を有する円筒状をなしており、前記中空部内が成長空間領域とされて前記昇華ガスが供給されるようになっており、円盤状部材にて構成され、前記種結晶が差し込まれる貫通した窓部を有している部材のうち一面側に前記種結晶が配置される部材に対向する面とは反対側の面と結合された円筒状部」である点で一致しており、また、円筒状ガイド(13b)は、黒鉛製るつぼの側壁内にあることは明らかである。
そうすると、「円筒部(23b)」は、「中空筒状の側壁部(21)の内側に配置され、前記支持板(23a)のうち前記蓋材(22)に対向する面とは反対側の面と結合され」ているのに対し、「円筒形状のガイド(13b)」は、黒鉛製るつぼの側壁内にあり、「前記種結晶貼付部材(12)とは対向する前記多結晶製造部材(13)に延設されている 」点で相違している。
(2)そこで、この相違点について検討すると、上記ス-2及びス-3において検討したように、種結晶貼付部材(12)及び多結晶製造部材(13)を、それぞれ、蓋材、支持板とすることは困難なくなし得ることであるから、同様の理由により「円筒形状のガイド(13b)」を「中空筒状の側壁部(21)の内側に配置され、前記支持板(23a)のうち前記蓋材(22)に対向する面とは反対側の面と結合され」るようにすることも困難なくなし得ることである。
ス-5 「炭化タンタルコーティング(26)」について
(1)まず、炭化珪素の昇華ガスに関する技術常識についてみてみると、この昇華ガスとしてはSiCの他にSiCの分解、複反応等によりSi、Si_(2)C、SiC_(2)等のガスが含まれていることが技術常識である(要すれば、特開平10-291899号公報の【0003】、特開平7-10697の【0004】等を参照。)。
(2)次に、引用例2の記載をみてみると、その(キ)にグラファイト、すなわち黒鉛とSiガスが反応して、SiCが生成されるため、このSiCの生成を防止するためにTaC(炭化タンタル)でコーティングをすることが教示されているといえる。
(3)そこで、引用例1の記載をみてみると、その(ア)に「この多結晶成長部材13は、中央に断面円形状の空洞部13aが形成されており・・・・・・空洞部13aの内周壁と突出部12aの外周壁との間の隙間dが所定間隔となるようにしている。具体的には、隙間dの大きさが1mm程度となるようにしている。これは、隙間dが小さくなり過ぎると実質的に隙間が空けられていないのと同様になってしまい、逆に、大きくなり過ぎると黒鉛製るつぼ1内の成長空間と同様に作用してしまうからである。」との記載がなされており、この記載は、空洞部13aの内周壁と突出部12aの外周壁との間の隙間dを通じ、種結晶貼付部材に対向する多結晶成長部材に炭化珪素の昇華ガスが侵入し、これによって生じる不都合を避けることが開示されているといえる。
(4)ここで、上記(1)で述べた炭化珪素の昇華ガスに関する技術常識を知っている当業者が、上記引用例2の教示に接したとき、上記引用例1の「種結晶貼付部材に対向する多結晶成長部材に炭化珪素の昇華ガスが侵入し、これによって生じる不都合を避けること」との開示は、炭化珪素の昇華ガスが侵入して多結晶成長部材の表面において、黒鉛とSiが反応しSiCが生成することを避けるとの認識をし、それを確実に防止するためにTaC(炭化タンタル)でコーティングをするとの動機付けを得るといえる。
そうすると、引用例1の上記不都合をより確実に避けるために、本願発明の表現に則していえば、前記支持板(23a)のうち前記円筒部(23b)が結合される側と反対側となる裏面に、前記窓部(23c)を囲むように炭化珪素のコーティングを形成することは、困難なくなし得ることである。
ス-6 よって、相違点2に係る本願発明のいずれの発明特定事項も当業者であれば容易になし得ることである。

第5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1?2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-31 
結審通知日 2013-02-05 
審決日 2013-02-19 
出願番号 特願2007-261128(P2007-261128)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 要  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 國方 恭子
中澤 登
発明の名称 炭化珪素単結晶の製造装置  
代理人 井口 亮祉  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 伊藤 高順  

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