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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1272436
審判番号 不服2011-23019  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-26 
確定日 2013-04-03 
事件の表示 特願2007-537340「少なくとも3つの次元を有する空間においてナビゲートするための独立型のデバイス、システム、および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月 4日国際公開、WO2006/045934、平成20年 5月22日国内公表、特表2008-517392〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年10月21日(優先権主張2004年10月22日、フランス)を国際出願日とする出願であり、平成22年11月2日付けで拒絶理由が通知され、平成23年5月9日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年6月23日付けで拒絶査定がなされ、それに対して同年10月26日に拒絶査定不服の審判請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 平成23年10月26日付けの手続補正の補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年10月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正により、少なくとも特許請求の範囲の請求項1は、
「少なくとも3つの次元を有する空間においてナビゲートするためのシステムであって、ユーザによって操作されるように構成されたケーシング(10)を含む独立型のデバイスと、前記ケーシング(10)が、ケーシング(10)のピッチ軸、ロール軸、およびヨー軸に関するケーシング(10)の傾きを表す信号を生成するためのアイソトニックセンサ(20)を組み込む、システムであって、前記ケーシングが、ケーシングを片手に把持しているユーザの指によって操作されるように構成された少なくとも1つのアイソメトリックデバイス(30)を組み込み、前記アイソメトリックデバイス(30)が、前記アイソメトリックデバイス(30)の少なくとも2つの軸に沿ってユーザの指によってかけられた力に敏感であり、前記アイソメトリックデバイスが、前記空間の少なくとも1つの軸に関する少なくとも1つの双方向の並進を制御するための制御信号を生成するように構成され、少なくとも1つの双方向の並進を制御するための前記制御信号が、前記アイソメトリックデバイス(30)の前記少なくとも2つの軸の1つの軸に沿ってユーザの指によってかけられた力を表す信号を含み、ケーシングの傾きを表す信号から空間における少なくとも1つの双方向の回転を制御するための信号、および前記アイソメトリックデバイスによって生成された制御信号から空間における少なくとも1つの双方向の並進を制御するための信号を生成するためのプロセッサ手段(130、203)とを備え、アイソトニックセンサおよびアイソメトリックデバイスが互いから切り離され、これにより空間においてナビゲートするときに回転の動きと並進の動きが切り離されることを特徴とするデバイス。」
と補正された。

上記補正は、本件補正前の請求項1を引用する請求項7を独立記載形式とし、さらに「ケーシングの傾きを表す信号、および少なくとも3つの次元を有する前記空間において少なくとも1つの双方向の回転および1つの双方向の並進を生じさせる制御信号を考慮に入れるように構成されたプロセッサ手段(130、203)とを含む」について「ケーシングの傾きを表す信号から空間における少なくとも1つの双方向の回転を制御するための信号、および前記アイソメトリックデバイスによって生成された制御信号から空間における少なくとも1つの双方向の並進を制御するための信号を生成するためのプロセッサ手段(130、203)とを備え」とし、「アイソメトリックデバイス(30)」について、「ユーザの指によってかけられた力に敏感であり」とし、「生成された制御信号」について「ユーザの指によってかけられた力を表す信号」とし、また、「アイソトニックセンサ(20)」及び「アイソメトリックデバイス(30)」に関し「アイソトニックセンサおよびアイソメトリックデバイスが互いから切り離され、これにより空間においてナビゲートするときに回転の動きと並進の動きが切り離される」とするものであり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかどうかについて以下に検討する。

(2)引用文献
(a)原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-161103号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、現在の空間方向と空間位置をコンピューターに入力する3次元情報入力装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、コンピューターの能力が高まるにつれて、3次元画像を容易に扱うことが可能になってきた。このような背景のもと、3次元画像を容易に指示したり、移動したり、3次元画像を様々な角度から眺めることを可能とするために、様々な3次元位置移動装置や視点変更装置が工夫されている。」(段落【0001】、【0002】)

(イ)「【0007】本発明は上記従来の問題点を解決するもので、座標軸の原点の位置の3次元空間内での移動と座標軸の原点を中心とする回転の指示が、簡単な構造で、容易に操作でき、かつ、使用場所が限定されずに操作できる3次元情報入力装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するために本発明の3次元情報入力装置は、両手もしくは片手で把持される基部と、座標軸の原点の位置をx軸とy軸からなる平面内で移動するための第1指示手段と、原点の位置をz軸に沿って移動するための第2指示手段と、x軸とy軸をz軸を中心として回転させるための第3指示手段と、y軸とz軸をx軸を中心として回転させるための第4指示手段と、z軸とx軸をy軸を中心として回転させるための第5指示手段を備えたものである。
【0009】
【作用】この構成において、第1指示手段と第2指示手段とによって、座標軸の原点の位置を3次元空間内で移動することができ、また、第3指示手段と第4指示手段と第5指示手段とによって、座標軸の原点を中心にして回転することができる。」(段落【0007】?【0009】)

(ウ)「【0010】
【実施例】
(実施例1)以下本発明の一実施例について図面を参照しながら説明する。
【0011】図1において、1は基部、2はコード、3,4,5,6は座標軸の原点のx軸とy軸からなる平面内での移動を指示する第1指示手段(2次元位置指示装置)を構成するスイッチ、7,8は座標軸の原点の位置のz軸に沿っての移動を指示する第2指示手段を構成するスイッチ、9,10は座標軸のx軸とy軸をz軸を中心とする回転を指示する第3指示手段を構成するスイッチ、11,12は互いに直交して配設された第1,第2傾斜センサーで第4,第5指示手段を構成する。13,14,15はボタン、16は計算機、矢印e,w,s,nは基部1の傾く方向を示す。
【0012】上記各構成要素よりなる3次元情報入力装置について各構成要素の関係と動作を説明する。本実施例の3次元情報入力装置は、従来例のように机等の上面に当接させて置く必要がなく両手で把持される。第1指示手段は、左手親指によって操作され、座標軸の原点は、スイッチ3を閉じるとy軸正方向に、スイッチ4を閉じるとy軸負方向に、スイッチ5を閉じるとx軸正方向に、スイッチ6を閉じるとx軸負方向に、それぞれ移動するようにコード2を通して計算機16に指示伝達される。第2指示手段は、左手人差し指によって操作され、スイッチ7を閉じるとz軸正方向に、スイッチ8を閉じるとz軸負方向に、それぞれ移動するようにコード2を通して計算機16に指示伝達される。基部1を矢印nの方向に傾けると、第1傾斜センサー11が傾きを検出し、座標軸のy軸とz軸が、x軸を中心として図2(a)のp方向に回転するように、かつ、基部1を矢印sの方向に傾けると図2(a)のm方向に回転するように計算機16に指示伝達される。また、基部1を矢印eの方向に傾けると、第2傾斜センサー12が傾きを検出し、座標軸のx軸とz軸が、y軸を中心として図2(b)のp方向に回転するように、かつ、基部1を矢印wの方向に傾けると、図2(b)のm方向に回転するように計算機16に指示伝達される。第3指示手段は、右手人差し指によって操作され、スイッチ9を閉じると座標軸のx軸とy軸が、z軸を中心として図2(c)のp方向に回転するように、また、スイッチ10を閉じると座標軸のx軸とy軸が、z軸を中心として図2(c)のm方向に回転するように計算機16に指示伝達される。また、ボタン13,14,15により、必要に応じて計算機16に信号を送ることができる。
【0013】以上のように本実施例によれば、座標軸の原点の位置の3次元空間内での移動及び座標軸の原点を中心とする回転が、容易な操作で、簡単な構造で、使用場所が限定されずに、実現できる。」(段落【0010】?【0013】)

(エ)「【0017】(実施例3)以下本発明の第3の実施例について説明する。
【0018】図4に示すように、本実施例は、前述実施例1の構成に第1指示手段をジョイステック18とした構成である。一般にジョイステックは、4つないしそれ以上のスイッチに操作部を付加したもので、斜め方向に操作したときに2つのスイッチを閉じたり、斜め方向のスイッチを閉じたりして、斜め方向への移動が指示できるものであり、特開昭56-35320号公報等ですでによく知られている。また感圧抵抗を用いたもの等、様々な原理を用いたものが知られている。」(段落【0017】、【0018】)

(オ)「【0038】(実施例10)以下本発明の第10の実施例について説明する。
【0039】図11に示すように、本実施例は、前述実施例1の構成に第3指示手段を回転エンコーダー25とした構成である。
【0040】本実施例によれば、実施例1に記載の効果に加えて、座標軸のx軸とy軸をz軸を中心として回転させるときに、右手人差し指を移動させて2つのスイッチ9,10を押さなくても、操作部から手を離さずに指示操作でき、また、第3指示手段の回転速度により移動の速度も指示できる効果が得られる。回転エンコーダー25は、単に回転量が計測されるものとしても、回転位置が直続できるものとしてもよいことはいうまでもない。」(段落【0038】?【0040】)

以上の記載からみて、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「座標軸の原点の位置の3次元空間内での移動と座標軸の原点を中心とする回転の指示が、簡単な構造で、容易に操作でき、かつ、使用場所が限定されずに操作できる3次元情報入力装置であって、
基部1と、
座標軸の原点のx軸とy軸からなる平面内での移動を指示する第1指示手段(2次元位置指示装置)を構成するスイッチ3,4,5,6と、
座標軸の原点の位置のz軸に沿っての移動を指示する第2指示手段を構成するスイッチ7,8と、
座標軸のx軸とy軸をz軸を中心とする回転を指示する第3指示手段を構成するスイッチ9,10と、
互いに直交して配設された第1,第2傾斜センサー11,12とで構成した第4,第5指示手段を含み、
前記第1指示手段は、左手親指によって操作され、座標軸の原点は、スイッチ3を閉じるとy軸正方向に、スイッチ4を閉じるとy軸負方向に、スイッチ5を閉じるとx軸正方向に、スイッチ6を閉じるとx軸負方向に、それぞれ移動するように計算機16に指示伝達され、
前記第2指示手段は、左手人差し指によって操作され、スイッチ7を閉じるとz軸正方向に、スイッチ8を閉じるとz軸負方向に、それぞれ移動するように計算機16に指示伝達され、
基部1を(図1のn方向、s方向に)傾けると、第1傾斜センサー11が傾きを検出し、座標軸のy軸とz軸が、x軸を中心として回転するように計算機16に指示伝達され、基部1を(図1のe方向、w方向に)傾けると、第2傾斜センサー12が傾きを検出し、座標軸のx軸とz軸が、y軸を中心として回転するように計算機16に指示伝達され、
前記第3指示手段は、右手人差し指によって操作され、スイッチ9,10を閉じると座標軸のx軸とy軸が、z軸を中心として回転するように計算機16に指示伝達することができ、
第1指示手段をジョイステック18としても、第3指示手段を回転エンコーダー25としてもよい3次元情報入力装置。」

(b)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-211474号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、移動体の姿勢検出や姿勢制御・バーチャルリアリティー等に使用されるヘッドマウントディスプレーのうち、頭の姿勢角度を検出するトラッカー、3Dゲームパッド等、3次元空間中で被測定対象物の姿勢角度(3軸の回転角度)を検出するのに特に適した姿勢角検出装置に関する。」(段落【0001】)

(イ)「【0025】図3は、本発明の一実施の形態における姿勢角検出装置の全体構成を示す図である。図3に示すように、本発明の姿勢角度検出装置は、図1に示すように、直交配置された3個のジャイロスコープと、そのジャイロスコープそれぞれに接続されるハイパスフィルタと、ハイパスフィルタを介したジャイロスコープの出力から単位時間あたりの移動角度(運動角)を演算する運動角演算装置31と、図1に示すように配置された2個の加速度センサと、2個の地磁気センサと、前記2個の加速度センサから仮のロール角R、仮のピッチ角Pを求め、さらにその仮のロール角R、仮のピッチ角Pから仮のヨー角Φを求める静止角演算装置32と、静止角演算装置32の演算結果の真偽を判定するための判別装置33と、運動角演算装置31、静止角演算装置32及び判別装置33からの信号を処理する姿勢角演算装置30とで構成されている。」(段落【0025】)

(ウ)「【0062】図5は、姿勢角検出装置を適用したHMDの一例示す。このHMDは、目前にあるディスプレイに表示に表示された映像が頭の動きに連動して変化し、仮想空間を体験できるように設けられているもので、このHMDを装着したまま右を向くと、姿勢角検出装置で計測した頭の姿勢角を映像発生装置に送信し、映像発生装置はその姿勢角にあった映像をHMDに送信するので右に展開する映像が映し出され、頭の動きによって全空間の360度の映像を実感できるように設けられているものである。
【0063】図5に示すように、符号1は、HMD本体を示し、このHMD本体1には、本発明である姿勢角検出装置(被測定物)2が信号ケーブル3で映像発生装置4に接続されている。」(段落【0062】、【0063】)

(エ)「【0066】さらに、従来、姿勢角検出装置としては、加速度センサが3個ないと姿勢角の誤差が判断できず、そのため、複雑な構造になっていたが、本発明によれば、2個の加速度センサと、2個の地磁気センサと、簡単な計算だけで、誤差成分有無の判別・補正処理を行うことができ、高速応答で、高精度な姿勢角検出装置を提供できる。」(段落【0066】)

(3)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「基部1」は、本願補正発明の「ケーシング(10)」に相当する。

(イ)引用発明の「互いに直交して配設された第1,第2傾斜センサー11,12」は、「基部1を(図1のn方向、s方向に)傾けると、第1傾斜センサー11が傾きを検出し、座標軸のy軸とz軸が、x軸を中心として回転するように計算機16に指示伝達され、基部1を(図1のe方向、w方向に)傾けると、第2傾斜センサー12が傾きを検出し、座標軸のx軸とz軸が、y軸を中心として回転するように計算機16に指示伝達され」るから、本願補正発明の「ケーシング(10)のピッチ軸、ロール軸、およびヨー軸に関するケーシング(10)の傾きを表す信号を生成するためのアイソトニックセンサ(20)」と「ケーシングのピッチ軸、ロール軸に関するケーシングの傾きを表す信号を生成するためのアイソトニックセンサ」である点で共通するといえ、引用発明は「ケーシング(10)が、」「アイソトニックセンサを組み込む」点も、本願補正発明と共通するといえる。

(ウ)引用発明の「3次元情報入力装置」は、ユーザによって操作され他の装置に依存するものではないから、本願補正発明の「ユーザによって操作されるように構成されたケーシング(10)を含む独立型のデバイス」に相当するといえる。

(エ)引用発明は、「前記第1指示手段は、左手親指によって操作され、座標軸の原点は、スイッチ3を閉じるとy軸正方向に、スイッチ4を閉じるとy軸負方向に、スイッチ5を閉じるとx軸正方向に、スイッチ6を閉じるとx軸負方向に、それぞれ移動するように計算機16に指示伝達され」るものであって「第1指示手段をジョイステック18」とし、ジョイステック18が感圧抵抗を用いたものとする構成は、本願補正発明の「アイソメトリックデバイス(30)」と「少なくとも2つの軸に沿ってユーザの指によってかけられた力に敏感であり」、「前記空間の少なくとも1つの軸に関する少なくとも1つの双方向の並進を制御するための制御信号を生成するように構成され」た「操作デバイス」である点で共通し、引用発明は「前記ケーシングが、」「少なくとも1つの操作デバイスを組み込み」の点でも本願補正発明と共通するといえる。
そして、引用発明の「前記第1指示手段」が「計算機16」へ行う「指示伝達」は、制御信号で行われることは明らかであり、その制御信号は、本願補正発明の「前記アイソメトリックデバイス」が生成する「制御信号」と「前記操作デバイス」が生成する「前記操作デバイスの前記少なくとも2つの軸の1つの軸に沿ってユーザの指によってかけられた力を表す信号を含む」、「前記空間の少なくとも1つの軸に関する少なくとも1つの双方向の並進を制御するための制御信号」である点で共通するといえる。

(オ)引用発明は、「前記第1指示手段は、左手親指によって操作され、座標軸の原点は、スイッチ3を閉じるとy軸正方向に、スイッチ4を閉じるとy軸負方向に、スイッチ5を閉じるとx軸正方向に、スイッチ6を閉じるとx軸負方向に、それぞれ移動するように計算機16に指示伝達され、前記第2指示手段は、左手人差し指によって操作され、スイッチ7を閉じるとz軸正方向に、スイッチ8を閉じるとz軸負方向に、それぞれ移動するように計算機16に指示伝達され」、「基部1を(図1のn方向、s方向に)傾けると、第1傾斜センサー11が傾きを検出し、座標軸のy軸とz軸が、x軸を中心として回転するように計算機16に指示伝達され、基部1を(図1のe方向、w方向に)傾けると、第2傾斜センサー12が傾きを検出し、座標軸のx軸とz軸が、y軸を中心として回転するように計算機16に指示伝達され」るから、引用発明の「計算機16」は、本願補正発明の「プロセッサ手段(130,203)」と「ケーシングの傾きを表す信号から空間における少なくとも1つの双方向の回転を制御するための信号、および前記操作デバイスによって生成された制御信号から空間における少なくとも1つの双方向の並進を制御するための信号を生成するためのプロセッサ手段」である点で共通するといえる。

(カ)引用発明の「3次元情報入力装置」と「計算機16」からなる構成は、「座標軸の原点の位置の3次元空間内での移動と座標軸の原点を中心とする回転の指示」が、「容易に操作」できるものであるから、本願補正発明の「少なくとも3つの次元を有する空間においてナビゲートするためのシステム」に相当するといえる。

そうすると、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
「少なくとも3つの次元を有する空間においてナビゲートするためのシステムであって、ユーザによって操作されるように構成されたケーシング(10)を含む独立型のデバイスと、前記ケーシング(10)が、ケーシング(10)のピッチ軸、ロール軸に関するケーシング(10)の傾きを表す信号を生成するためのアイソトニックセンサを組み込む、システムであって、前記ケーシングが、ケーシングを把持しているユーザの指によって操作されるように構成された少なくとも1つの操作デバイスを組み込み、前記操作デバイスが、前記操作デバイスの少なくとも2つの軸に沿ってユーザの指によってかけられた力に敏感であり、前記操作デバイスが、前記空間の少なくとも1つの軸に関する少なくとも1つの双方向の並進を制御するための制御信号を生成するように構成され、少なくとも1つの双方向の並進を制御するための前記制御信号が、前記操作デバイスの前記少なくとも2つの軸の1つの軸に沿ってユーザの指によってかけられた力を表す信号を含み、ケーシングの傾きを表す信号から空間における少なくとも1つの双方向の回転を制御するための信号、および前記操作デバイスによって生成された制御信号から空間における少なくとも1つの双方向の並進を制御するための信号を生成するためのプロセッサ手段とを備えることを特徴とするデバイス。」

そして、両者は次の(1)?(3)の点で相違する。
(1)本願補正発明では、「ケーシング(10)のピッチ軸、ロール軸、およびヨー軸に関するケーシング(10)の傾きを表す信号を生成するためのアイソトニックセンサ(20)」であるのに対し、引用発明では、第1傾斜センサー11が基部1のピッチ軸に関する傾きを検出し、第2傾斜センサー12が基部1のロール軸に関する傾きを検出するが、基部1のヨー軸に関する傾きを検出するセンサーはない点。

(2)本願補正発明では、「ケーシングを片手に把持しているユーザの指によって操作されるように構成された少なくとも1つのアイソメトリックデバイス(30)」であるのに対し、引用発明は、「ジョイステック18」がアイソメトリックデバイスであること、及び基部1を片手に把持しているユーザの指によって操作されることは明記されていない点。

(3)本願補正発明は、「アイソトニックセンサおよびアイソメトリックデバイスが互いから切り離され、これにより空間においてナビゲートするときに回転の動きと並進の動きが切り離される」のに対し、引用発明はそのようなことは明記されていない点。

(4)判断
・相違点(1)について
引用文献2には、HMDを装着したまま右を向くと、姿勢角検出装置で計測した頭の姿勢角を映像発生装置に送信し、映像発生装置はその姿勢角にあった映像をHMDに送信するので右に展開する映像が映し出され、目前にあるディスプレイに表示された映像が頭の動きに連動して変化し、仮想空間を体験できるHMD装置において、2個の加速度センサと、2個の地磁気センサと、前記2個の加速度センサから仮のロール角R、仮のピッチ角Pを求め、さらにその仮のロール角R、仮のピッチ角Pから仮のヨー角Φを求める静止角演算装置32を姿勢角検出装置に備えることが記載され、従来、姿勢角検出装置としては、加速度センサが3個であることが記載されている。
また、ユーザが把持して操作する独立型のコントロール装置において、3軸傾斜センサを備えることは、本願の優先権主張の日前周知技術(例えば、特開平6-190144号公報段落【0010】、【0011】「図1において、1はテレビゲーム機のコントロールキー装置であり、コントロールキー装置1は、移動可能、すなわちゲーム中に遊戯者が手に持って三次元的に移動させることができるようになっている。また、3軸傾斜センサ(移動検出手段)2を内蔵しており、例えばシリコンウェハ上に生成されICパッケージ化されたものであり、地球の重力に対し、どの軸方向にどれだけの力を受けているかを出力するものである。なお、コントロールキー装置1の操作面上には、従来のコントロールキー装置と同様に、キャラクター等の上下、左右の4方向の移動を指示する方向キー3、スタートボタン等の2つの操作ボタン4,5が配置されており、・・・中略・・・したがって、3軸傾斜センサ2の各L_(1)?L_(3)軸方向の出力に基づいて、傾斜方向および傾斜角度を算出することができる。」の記載、特開平11-99284号公報段落【0023】?【0027】「そして、この連結部63の内部にはコントローラ自身の動きを検出する検出部66を設けた構造となっている。・・・中略・・・即ち、角速度センサーの場合は、1つのセンサーで検出できる回転は1軸のみなので、図1に示すように、X軸、Y軸、Z軸を中心にした回転方向の速度を検出するようにすれば空間のコントローラ50のあらゆる方向に対する動きを検出することができるのである。・・・中略・・・コントローラのヨーイングの動きに対応させる場合には、X軸を中心にした回転方向(YZ平面)を検出するようにする(矢印方向は正回転方向)。」、段落【0063】「尚、実施例においては、角速度センサー7を利用したが加速度センサーでもよい。加速度センサーは、3軸傾斜センサーの傾斜方向及び傾斜角度に従った軸方向の速度を検出するものである。」の記載、特開平6-19618号公報段落【0015】「入力装置1は、手で把握できる形状を有すると共に、3次元空間内での回転、または変位量を検出する回転センサ12と、条件を選択するボタン入力手段であるボタン13a、13bとで構成されている。」、段落【0020】「また、上記センサ部20は、X軸、Y軸、Z軸の各次元の回転変位情報を検出する回転センサ20d、20e、20fを有してそれぞれの検出した軸方向成分の回転変位情報をセンサアンプ部21のセンサアンプ21d、21e、21fに供給している。」の記載参照。)でもある。
そして、引用発明は、「右手人差し指によって操作され、スイッチ9,10を閉じると座標軸のx軸とy軸が、z軸を中心として回転するように計算機16に指示伝達する」「第3指示手段」を基部1に備えており、これはケーシングのヨー軸に関する傾きを表す信号を生成するものである。
引用発明も引用文献2記載の技術も3次元画像を様々な角度から眺めることを可能する3次元位置移動、視点変更に関する技術であることで共通している。
したがって、上記周知技術を考慮すれば、引用発明において、上記引用文献2記載の姿勢角検出装置を採用し、基部1のピッチ軸に関する傾き、ロール軸に関する傾きに加え、ヨー軸に関する傾きを検出する3軸傾斜センサを備えるようにすることは当業者が容易なし得ることである。

・相違点(2)について
引用発明の「ジョイステック18」に関し、感圧抵抗を用いたものは力操作型のデバイスであるといえ、また、アイソメトリックデバイスは、本願優先権主張の日前周知(例えば、米国特許明細書第5,541,622号、特開昭62-26532号公報、特開平9-244798号公報段落【0005】等参照。)である。
そして、引用文献1には、「両手もしくは片手で把持される基部」と記載されており、引用発明の「ジョイステック18」は、左手親指で操作されるから、引用発明において、「第1指示手段」である「ジョイステック18」を「ケーシングを片手に把持しているユーザの指によって操作されるように構成された少なくとも1つのアイソメトリックデバイス」とすることは、当業者が容易になし得る設計事項にすぎない。
なお、携帯電子機器等を片手に持って操作可能な大きさや形状、キー配置にすることは、本願優先権主張の日前周知技術(上記特開平6-190144号公報段落【0017】「図5、図6は、本発明に係るコントロールキー装置の第2の実施例を示す図である。図5において、11はスロットル形状(握り棒形状)のコントロールキー装置であり、コントロールキー装置11は、加速度センサ12を内蔵している。」の記載、上記特開平6-19618号公報段落【0028】「さらに、入力装置の形状は、円筒形や卵形、自由曲面を組み合わせたエルゴデザインでも可能である。・・・中略・・・手の保持感覚が良好なテニスボール大の大きさにすればよい。円筒型の入力装置は缶ジュース程度の大きさにする。」の記載及び図3、特開2003-345492号公報段落【0046】、【0047】「ここで、携帯電子機器を片手で把持する場合、確実な把持を可能にする大きさは、その把持の仕方の相違及び個人差はあるが、一般に、把持する方向の大きさが100mm以下とされている。・・・中略・・・また、持った手hの親指f_(1)で携帯電子機器の操作をしようとする場合には、・・・中略・・・携帯電子機器の把持方向の大きさは70mm以下が良いとされている(図6、図7参照)。」の記載参照。)である。

・相違点(3)について
引用発明において、第1指示手段を構成する「ジョイステック18」と、第4,第5指示手段を構成する互いに直交して配設された第1,第2傾斜センサー11,12は、別々に操作できる独立した指示手段であり、第1指示手段を構成する「ジョイステック18」で行う座標軸の原点の位置の3次元空間内での移動の指示と、第1,第2傾斜センサー11,12により行う座標軸の原点を中心とする回転の指示は別々に行えるものである。
したがって、本願補正発明において、「アイソトニックセンサおよびアイソメトリックデバイスが互いから切り離され、これにより空間においてナビゲートするときに回転の動きと並進の動きが切り離される」ようにした点に格別の困難性は認められない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

そして、本願補正発明の奏する効果は、引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術から予測される範囲内のものにすぎない。

(5)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、したがって、平成23年10月26日付けの本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成23年10月26日付けの手続補正は前記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年5月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「ユーザによって操作されるように構成されたケーシング(10)を含む、少なくとも3つの次元を有する空間においてナビゲートするための独立型のデバイスであって、前記ケーシング(10)が、ケーシング(10)のピッチ軸、ロール軸、およびヨー軸に関するケーシング(10)の傾きを表す信号、および空間において少なくとも1つの双方向の回転を制御するための制御信号を生成するための手段(20)を組み込む、デバイスであって、前記ケーシングが、ケーシングを片手に把持しているユーザの指によって操作されるように構成された少なくとも1つのアイソメトリックデバイス(30)を組み込み、前記アイソメトリックデバイス(30)が、前記アイソメトリックデバイス(30)の少なくとも2つの軸に沿ってかけられた力に敏感であり、前記アイソメトリックデバイスが、前記空間の少なくとも1つの軸に関する少なくとも1つの双方向の並進を制御するための制御信号を生成するように構成されること、および、少なくとも1つの双方向の並進を制御するための前記制御信号が、前記アイソメトリックデバイス(30)の前記少なくとも2つの軸の1つの軸に沿ってかけられた力を表す信号を含むことを特徴とするデバイス。」

第4 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は、前記「第2 (2)」に記載したとおりである。

第5 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明の「ケーシングの傾きを表す信号から空間における少なくとも1つの双方向の回転を制御するための信号、および前記アイソメトリックデバイスによって生成された制御信号から空間における少なくとも1つの双方向の並進を制御するための信号を生成するためのプロセッサ手段(130、203)」及び「アイソトニックセンサおよびアイソメトリックデバイスが互いから切り離され、これにより空間においてナビゲートするときに回転の動きと並進の動きが切り離される」を省き、「アイソメトリックデバイス(30)」及び「生成された制御信号」に関連する、「ユーザの指によって」を省いたものでる。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに限定したものに相当する本願補正発明が前記「第2」に記載したとおり、引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 結論
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2記載の技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-29 
結審通知日 2012-10-30 
審決日 2012-11-15 
出願番号 特願2007-537340(P2007-537340)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 篠塚 隆  
特許庁審判長 和田 志郎
特許庁審判官 稲葉 和生
衣川 裕史
発明の名称 少なくとも3つの次元を有する空間においてナビゲートするための独立型のデバイス、システム、および方法  
代理人 大崎 勝真  
代理人 渡邉 千尋  
代理人 川口 義雄  

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