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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A61B
管理番号 1272496
判定請求番号 判定2013-600001  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2013-05-31 
種別 判定 
判定請求日 2012-12-28 
確定日 2013-04-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第4792540号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号物件であるパルスオキシメータ及びそのプロテクトカバー(製造販売元:日本精密測器株式会社,モデル:BO-800及びBO-800用プロテクトカバー)は,特許第4792540号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
イ号写真に示すパルスオキシメータ及びそのプロテクトカバー(製造販売元:日本精密測器株式会社,モデル:BO-800及びBO-800用プロテクトカバー)は,特許第4792540号発明(以下,「本件特許発明」という。)のうち請求項1または請求項2に係る発明の技術的範囲に属する,との判定を求める。

第2 本件特許発明
1 本件特許発明の構成
本件特許第4792540号は,平成22年2月24日を国際出願日とする特許出願に係り,平成23年7月29日に設定登録されたものであって,本件特許発明は,特許明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりものであると認められ,そのうち請求項1及び2に係る発明は,便宜のため分説すると,次のとおりである(以下,「構成要件A」などという。)。

「【請求項1】
A 上下に分離された第1の筐体部分と第2の筐体部分を含む筐体と、
B 前記第1の筐体部分と前記第2の筐体部分の上下方向の相対距離を変形可能とする可動機構と、
C 前記第1の筐体部分と前記第2の筐体部分にそれぞれ組み込まれ、対向し合う発光部と受光部を備えた測定機構と、
D 対向し合う前記第1の筐体部分と前記第2の筐体部分の隙間に形成され、被験者の被験部位を受け入れる際に上下方向に内部空間を拡げ、前記被験者の被験部位を受け入れた後に上下方向に内部空間を狭める測定キャビティと
E を備えたクリップ式の挟持型パルスオキシメータにおいて、
F 前記測定機構での測定に利用する光線を透過する弾力性素材により形成された湾曲形状の板状体であり、
G 横断面において凹面状で外面側の曲面の曲率に比べて内面側の曲面の曲率の方が大きくかつ中央部の厚みよりも左右周辺部の厚みの方が厚く調整された充填部材を備え、
H 前記測定キャビティの内部空間における前記被験者の被験部位の左右の隙間を埋めることを可能としたパルスオキシメータ。
【請求項2】
前記充填部材が前記測定キャビティに対して取り替え可能な構造を備え、前記被験者の被験部位の大きさに応じた厚みおよび曲率のものを選択して前記充填部材を取り替え可能としたことを特徴とする請求項1に記載のパルスオキシメータ。」

2 本件特許発明の目的及び効果
本件特許明細書の記載によれば,本件特許発明は従来技術の以下の課題を解決することを目的とするものであると認められる。

「従来のパルスオキシメータの第1の問題点は、実際にはユニバーサル設計とはなっておらず、大人用に設計されたパルスオキシメータであれば、実は、小児用、新生児用には適していないという問題点が指摘されている。特に従来の透過型のパルスオキシメータではその問題点が顕著である。パルスオキシメータを用いた酸素飽和率(SpO2)測定に際しては、測定キャビティ内で被験部位が静止状態を維持することが必要であるため、発光ダイオードと受光センサを隔てて設けられた測定キャビティ内に被験者の被験部位の組織が軽く挟み込まれる状態となるよう設計されている。パルスオキシメータを用いた酸素飽和率(SpO2)測定の際には、本来好ましい被験部位は指先であり、事実指先を被験部位とした測定キャビティを持つパルスオキシメータは主流であるが、大人の指に合わせて設計された測定キャビティのサイズは、小児の指のサイズや新生児の指のサイズには合わないものである。上記したように、発光ダイオードから照射され受光センサで受け取った光はすべて被験部位の生体組織を通過したものであり、被験部位の生体組織を通過することにより減衰されることなく、発光ダイオードから照射された光線が直接受光センサに受光されることがないようにする必要がある。しかし、指先は元来細い上に非常によく動く部位であり、特に、小児や新生児であれば、意識的に指を静止させることが期待できず、また、検査を嫌がって積極的に手指を動かしてしまう場合が多い。そのため、酸素飽和率(SpO2)の測定値に誤差が多くなったり、測定自体を何度もやり直さねばならない事態となったりすることも医療従事者の間では問題として報告されている。」(【0008】?【0011】)

そして,本件特許明細書の記載によれば,本件特許発明は以下の効果を奏するものであると認められる。

「大人から小児や新生児まであらゆる大きさの被験者の被験部位のサイズに対してユニバーサルに対応することができ、手指が動いてしまう小児、新生児であっても手指を静止状態として精度良い良好な測定が可能となる。」(【0022】)

第3 イ号物件
請求人の判定請求書におけるイ号物件の説明,甲1?2号証(以下,単に「甲1」,「甲2」という。)におけるイ号物件の写真及び説明(甲1【図E】?【図G】,甲2),並びに請求人及び被請求人双方より提出されたイ号物件そのものから,イ号物件は,次のとおりの構成を具備するものであると認められる(以下,「構成a」などという。)。
なお,以下の構成gにおける曲率及び厚みについては,当審において,請求人から提出されたイ号物件の現物を切断した上で,視認による確認及びノギスによる測定を行ったものである。

「指先クリップ型パルスオキシメータと前記パルスオキシメータに被せる保護カバーとからなる保護カバー付き指先クリップ型パルスオキシメータであって,
前記指先クリップ型パルスオキシメータは,
a 上下に分離された表示部側クリップ部及び電池蓋側クリップ部と,
b 前記表示部側クリップ部と前記電池蓋側クリップ部の上下方向の相対距離を変形可能とする可動機構と,
c 前記表示部側クリップ部に組み込まれた受光部と前記電池蓋側クリップ部に組み込まれた発光部とを両者が対向し合うように備えた測定機構と,
d 対向し合う前記表示部側クリップ部と前記電池蓋側クリップ部の間に形成され,被験者の指先を受け入れる際に上下方向に内部空間を拡げ,前記被験者の指先を受け入れた後に上下方向に内部空間を狭める指挿入部と,
e を備えた指先クリップ型パルスオキシメータであり,
前記保護カバーは,
前記表示部側クリップ部の上面にかぶせて取り付ける保護カバー(A)と,
f 乳白色のシリコンゴムからなり,全体としてみて薄手(厚さ約1?2mm)の袋状の形状を有する,前記電池蓋側クリップ部の上下面ほぼ全体に覆いかぶせて取り付ける保護カバー(B)であって,前記指挿入部において断面凹面状に形成されるとともに前記発光部の位置に対応する部分に孔部が形成された,保護カバー(B)とからなり,
g 当該保護カバー(B)は,被験者の指先を受け入れる方向と垂直な断面で見たときに,前記指挿入部に形成された前記孔部近傍において,凹面状で外面側の曲面の曲率に比べて内面側の曲面の曲率の方が大きくかつ中央部の厚み(最小約0.95mm)よりも左右周辺部の厚み(最大約1.65mm)の方が厚くなっている,保護カバー付き指先クリップ型パルスオキシメータ。」

第4 当事者の主張
本件特許発明の構成が上記「第2の1 本件特許発明の構成」のとおりのものであることについて,当事者間に争いはない。そして,イ号物件の構成,及びイ号物件の構成が本件特許発明の構成要件を満足するか否かに関し,当事者の主張は次のとおりである。

1 請求人の主張
判定請求書によれば,請求人は,甲1?2を提出し,要するに以下のように主張している。

(1)構成要件A?Eについて(請求書3頁下から9行?4頁18行)
イ号物件は,現物および甲2によれば,「パルスオキシメータの機器部分」と「パルスオキシメータの機器部分に被せるカバー部分」の2つの構成からなり,このうち「パルスオキシメータの機器部分」は,本件特許発明の「上下に分離された第1の筐体部分と第2の筐体部分を含む筐体と、前記第1の筐体部分と前記第2の筐体部分の上下方向の相対距離を変形可能とする可動機構と、前記第1の筐体部分と前記第2の筐体部分にそれぞれ組み込まれ、対向し合う発光部と受光部を備えた測定機構と、対向し合う前記第1の筐体部分と前記第2の筐体部分の隙間に形成され、被験者の被験部位を受け入れる際に上下方向に内部空間を拡げ、前記被験者の被験部位を受け入れた後に上下方向に内部空間を狭める測定キャビティとを備えたクリップ式の挟持型パルスオキシメータ」という構成(構成要件A?E)を備えるものである。

(2)構成要件F?Hについて(請求書5頁下から14行?6頁下から7行)
イ号物件の「パルスオキシメータの機器部分に被せるカバー部分」は,甲1の図Eに示されるように,「パルスオキシメータの第1の筐体部分に被せるカバー部分」と「パルスオキシメータの第2の筐体部分に被せるカバー部分」とからなり,「パルスオキシメータの第2の筐体部分に被せるカバー部分」は,甲1の図F,図Gの赤枠で示すように,パルスオキシメータの内部空間に入り込む形で装着され,中央部に被験者の指が入る窪みが形成された「注目部分140’」がある。
ここで,イ号物件の「パルスオキシメータの第2の筐体部分に被せるカバー部分」における「注目部分140’」はその側縁部分において外側の「非注目部分」とつながっているが,パルスオキシメータの内部空間での測定においては「注目部分140’」と「非注目部分」とのつながりは一切影響せず,機能的,構造的に見て,一体渾然というものではなく,この「注目部分140’」は本件特許発明の「充填部材」に相当する部材といえる。
そして,イ号物件の「注目部分140’」は,「測定機構での測定に利用する光線を透過する弾力性素材により形成された」ものであって,指が入る窪みおよびその周辺にかけて「湾曲した形状」であって,全体は「板状」のように薄手である(構成要件F)。
また,イ号物件の「注目部分140’」は,「横断面において凹面状」になっているとともに,現物を実際につまんで確かめれば明らかなように,中央は肉薄で山状の部分は肉厚,すなわち,“物理的に”断面は「中央部の厚みよりも左右周辺部の厚みの方が厚く」つまり「外面側の曲面の曲率に比べて内面側の曲面の曲率の方が大きく」調整された形になっている(構成要件G)。
そして,イ号物件の「注目部分140’」は本件特許発明の「充填部材」に相当する上記構成(構成要件F?G)を含んでいることから,「注目部分140’」は測定キャビティの内部空間における「被験者の被験部位(指)の左右の隙間を埋める」効果があり,全体として,イ号物件は本件特許の構成要件をすべて満たしていると結論付けることができる(構成要件H)。

2 被請求人の主張
答弁書によれば,被請求人は,乙1?4号証(以下,単に「乙1」?「乙4」という。)を提出し,要するに以下のように主張している。

(1)構成要件Fについて(答弁書5頁6行?7頁6行)
ア 「充填部材」が「前記測定機構での測定に利用する光線を透過する弾力性素材により形成された」の点について
イ号物件の「ボトムカバー」(上記1(2)における「パルスオキシメータの第2の筐体部分に被せるカバー部分」に相当する。)は,測定に利用する光線(本件特許明細書【0031】によれば,630nm(赤色光)と900nm(赤外光)の2波長)の透過を阻害する素材(具体的には乳白色のシリコーンゴム)により形成されているものであるから,本件特許発明の「前記測定機構での測定に利用する光線を透過する弾力性素材により形成された…充填部材を備え」るという要件を充足しない。

イ 「充填部材」が「…湾曲形状の板状体」の点について
また,イ号物件と本件特許発明1との対比は,特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないとした特許法第70条1項の規定に照らし,イ号物件のボトムカバーの一部の態様のみを抽出するのではなく,ボトムカバー全体の態様を対象に本件特許発明の「充填部材」との異同を判断すべきところ,イ号物件の「ボトムカバー」は,甲1の図E?図Gに示されるように,内側に空間を有する「袋状体」と呼ぶべき部材であるから,本件特許発明の「板状体」という要件を満足しない。

(2)構成要件G?Hについて(答弁書7頁7行?17行)
本件特許発明の構成要件Hは,構成要件G及び本件特許明細書の記載に照らし,「充填部材を備え」たことにより「測定キャビティの内部空間における前記被験者の被験部位の左右の隙間を埋めることを可能とした」ものであると解釈される。すなわち,「充填部材」は,「測定キャビティの内部空間に指を挿入したときに,この指の左右の隙間を埋めることを可能にする程度」の「厚み」に「調整された」,「測定キャビティの内部空間における被験者の被験部位(指)の左右の隙間を埋める部材」であると理解することができと解釈すべきである。この点,出願経過(乙2)及び出願時の技術水準(乙4)からも裏付けられる。
しかしながら,イ号物件のボトムカバーは,その装着の有無や被験者が大人か小児かにかかわらず,被験部位(指)を測定空間に挿入して測定するときに指の左右に大きな隙間が形成され,この左右の隙間がボトムカバーによって埋まる状態にはならないものであるから,「指の左右の隙間を埋めることを可能」とする部材には該当しない。

第5 当審の判断
1 本件特許発明の構成要件の技術的意義について
本件特許発明の主な構成要件の技術的意義を把握するために,本件特許明細書(乙1)を参照すると,次の記述がある(下線は当審で付与したもの)。

(1)構成要件Fについて
ア 「充填部材」が「前記測定機構での測定に利用する光線を透過する弾力性素材により形成された」点について

「【0017】
また、上記構成において、前記充填部材の素材を部位によって異なる構成とすることが好ましい。例えば、前記充填部材のうち、前記発光部と前記受光部に対応する位置の部分のみを前記測定機構での測定に利用する光線を透過する素材で形成し、他の部分を前記測定機構での測定に利用する光線を吸収する素材で形成する。
【0018】
なお、充填部材の基材の素材を測定機構での測定に利用する光線を透過する素材とし、前記充填部材のうち、前記発光部と前記受光部に対応する位置の部分は当該基材の素材のままとし、他の部分には当該基材の素材に対して測定機構での測定に利用する光線を吸収する素材を練り込んだものとしても良い。」

「【0050】
充填部材140の素材は測定に利用する波長λ1と波長λ2の光線を透過する素材が選択される。また、小児や新生児の指を優しく挟むために弾力性のある素材であることが好ましい。例えば、シリコーンなどがある。
…(略)…
【0054】
次に、充填部材140の窓部141について述べる。図4(a)に示すように、この構成例では、充填部材140は、窓部141が設けられている。窓部141は、充填部材140のうち、発光部121と受光部122に対応する位置に対応する位置に設けられている。つまり、窓部141は、測定機構120において、発光部121から受光部122への光線が透過する箇所に設けられている。
【0055】
ここで、窓部141の素材は、充填部材140の基材の素材のまま、つまり、測定に利用する波長λ1と波長λ2の光線を透過する素材(例えばシリコーン)で形成する一方、窓部141以外の部分を波長λ1と波長λ2の光線を吸収する素材を練り込んで形成し、または、窓部141以外の部分に波長λ1と波長λ2の光線を吸収する素材を塗布して形成する。
【0056】
このように、窓部141以外の部分を波長λ1と波長λ2の光線を吸収するものとしておくことにより、小児や新生児の指の隙間において測定キャビティ110内で反射して斜め方向などから光線が受光部に入射しないようにする一種のスリットとして、充填部材を機能させることができる。
【0057】
図5は、受光部122の受光フィルタ124と窓部141のスリット機能との組み合わせの効果を説明する図である。図5(a)は受光部122の受光フィルタ124のみの場合、図5(b)は受光部122の受光フィルタ124に加え、窓部141のスリット機能が発揮される場合を示している。
【0058】
図5(a)と図5(b)共通して受光部122に受光フィルタ124が設けられているので、波長λ1と波長λ2の光線は遮断され、受光素子に受光されることはなくなる。しかし、図5(a)に示すように窓部141のスリット機能がない場合、受光フィルタ124は波長λ1と波長λ2の光線は透過するため、発光部121から指を透過して受光部への直接入射する光線以外に、測定キャビティ110内で反射した外乱光線も通過して受光素子で受光されてしまう。一方、図5(b)に示すように、窓部141のスリット機能があれば、測定キャビティ110内で反射した外乱光線は、窓部141以外の部分において波長λ1と波長λ2の光線は吸収されるので、結局、図5(b)の場合は、発光部121から指を透過して受光部への直接入射する光線のみが受光部122の受光素子で検出されることとなる。このように、窓部141がスリット機能を備えることによりパルスオキシメータの酸素飽和率検出精度が向上する。」

以上の記載からみて,本件特許発明の構成要件Fにおける「前記測定機構での測定に利用する光線を透過する弾力性素材により形成された」の点は,発光部から指を透過して受光部へ直接入射する光線が受光部で検出されるように,充填部材の発光部と受光部に対応する位置の部分を測定機構での測定に利用する光線を透過するものとすることを技術的意義として有するものであって,充填部材の発光部と受光部に対応する位置の部分以外の部分については,外乱光線の遮蔽のために,測定機構での測定に利用する光線を吸収する素材とすることがより好ましいものであることも理解される。

イ 「充填部材」が「…湾曲形状の板状体」の点について
「【0020】
ここで、充填部材の一例として、弾力性素材により形成された湾曲形状の板材がある。湾曲形状が小児や新生児の指の形状に沿いやすい形状であり、その厚みが大人向けの測定キャビティの内部空間の隙間を埋めて小児や新生児の指の大きさに対応する隙間となるように調整するものであれば、測定キャビティの内部空間を、大人から小児や新生児までユニバーサルに対応する適度の大きさに調整することが容易となる。」

「【0050】
…(略)…
充填部材140の形状は、例えば、小児や新生児の指の形状に沿いやすい湾曲形状の板材とする。」

以上の記載からみて,本件特許発明の構成要件Fにおける「…湾曲形状の板状体」の点は,測定キャビティにおいて,湾曲形状が小児や新生児の指の形状に沿いやすいような形状であり,その厚みが大人向けの測定キャビティの内部空間の隙間を埋めて小児や新生児の指の大きさに対応する隙間となるように調整することを技術的意義として有するものであって,測定キャビティ外の部分においては,その形状・厚み等の構造を特段限定するものではないことが理解される。

(2)構成要件G?Hについて
「【0020】
ここで、充填部材の一例として、弾力性素材により形成された湾曲形状の板材がある。湾曲形状が小児や新生児の指の形状に沿いやすい形状であり、その厚みが大人向けの測定キャビティの内部空間の隙間を埋めて小児や新生児の指の大きさに対応する隙間となるように調整するものであれば、測定キャビティの内部空間を、大人から小児や新生児までユニバーサルに対応する適度の大きさに調整することが容易となる。」

「【0049】
次に、充填部材140について説明する。
充填部材140は、被験者の被験部位(指)と測定キャビティ110の内部空間との隙間を埋めるものであり、被験者の被験部位(指)が測定キャビティ内部空間で遊ばないように挟持せしめるものである。小児用や新生児用の専用のパルスオキシメータでない限り、測定キャビティ110のサイズは大人の指に合わせて設計されており、小児の指のサイズや新生児の指のサイズには合わないものである。その上、小児や新生児の指先は細い上に非常によく動き、意識的に指を静止させることが期待できない。そこで、充填部材140により小児や新生児の指と測定キャビティ110の内部空間との隙間を埋めて軽く挟んで固定する。
…(略)…
【0051】
図4は、充填部材140の概略形状を示す図である。図1に示したパルスオキシメータ100の大きさに対して拡大された大きさで示されている。
図4(a)は正面図、図4(b)は背面図、図4(c)は横断面図である。
まず、充填部材140の曲面について説明する。
【0052】
充填部材140は、図4(c)に示すように、湾曲している外面側の曲面の曲率に比べて内面側の曲面の曲率の方が大きい形状となっている。充填部材140の外面側の曲面は測定キャビティ110の内壁面の曲面に沿う曲率となっているが、内面側の曲面の曲率が大きくなっている。図4の例では、外面側の曲面の曲率がR=10であり、内面側の曲面の曲率がR=13.4となっている。また厚さは最薄の部分で1mmとなっている。このように、充填部材140は測定キャビティ110の内部空間の曲率変換用および高さ変換用の部材と言える。
【0053】
このように、充填部材140は、測定キャビティ110の内部空間を低くかつ曲面の曲率を大きく変換することにより、測定キャビティ110の内部空間の自由度を小さくし、小児や新生児の指を優しく挟む程度の空間を形成する。
…(略)…
【0059】
次に、充填部材140の取り替えについて述べる。充填部材140は、被験者の被験部位(指)が測定キャビティ内部空間で遊ばないように挟持せしめるものであるが、小児、新生児などは指の大きさが異なるので、1つの充填部材140ではすべての小児、新生児への対応ができない場合がある。そこで、小児、新生児など被験者の被験部位の指の大きさに応じた厚みのものを選択して充填部材140を取り替え可能とする。なお、図4の構成例では、充填部材140自体が測定キャビティ110の中に収まりやすいように、充填部材140の側面には測定キャビティ110の側面形状に合致する切れ込みが設けられており、測定キャビティ110に対して取り替えやすい構造となっている。
【0060】
図6は充填部材140を取り替えることにより測定キャビティ110の内部空間を調整する様子を正面図において簡単に説明する図である。図6(a)は充填部材140を挿入していない場合の測定キャビティ110の開口部を見た図、図6(b)は小児用の充填部材140を挿入している状態の測定キャビティ110の開口部を見た図、図6(c)は新生児用の充填部材140を挿入している状態の測定キャビティ110の開口部を見た図を示している。図6(a)に示すように、充填部材140を挿入する前には測定キャビティ110の内部空間はデフォルトの大きさで大人の指に対応しているが、図6(b)に示すように、小児の指に対応する充填部材140bを挿入すれば測定キャビティ110の内部空間は狭くなり小児の指に対応する大きさに変換されている。また、図6(c)に示すように、新生児の指に対応する充填部材140cを挿入すれば測定キャビティ110の内部空間は狭くなり新生児の指に対応する大きさに変換されている。
【0061】
次に、本発明のパルスオキシメータ100の使用手順の概略を示す。
…(略)…
【0062】
まず、医療従事者は、医療行為の過程や検診において患者の酸素飽和率(SpO2)の測定が必要となった場合、小児、新生児など、通常の大人向けに設計されている測定キャビティ110では被験者の被験部位である指の大きさに合わないと思えば、適切な充填部材140を選択する(ステップS1)。なお、小児用(大)、小児用(小)新生児用など、数種類あるだけでも被験者の被験部位である指の大きさに合わせることができる。
【0063】
次に、医療従事者は、本発明のパルスオキシメータ100の可動機構133を操作して測定キャビティ110の開口部を拡げ、選択した充填部材140を測定キャビティ110内に挿入して取り付ける(ステップS2)。これにより、測定キャビティ110の内部空間の高さと内面の曲率が小児、新生児など被験者の被験部位に応じて変換される。」

以上の記載からみて,本件特許発明の「横断面において凹面状で外面側の曲面の曲率に比べて内面側の曲面の曲率の方が大きくかつ中央部の厚みよりも左右周辺部の厚みの方が厚く調整された充填部材を備え、前記測定キャビティの内部空間における前記被験者の被験部位の左右の隙間を埋めることを可能とした」の点は,小児や新生児などの被験者の被験部位(指)に応じて適切に調整された曲率及び厚みを有する充填部材によって,通常大人向けに設計されている測定キャビティの内部空間の曲率及び高さを変換し,小児や新生児の指と測定キャビティの内部空間との隙間を上下方向及び左右方向の双方向から埋めて軽く挟んで固定するを技術的意義として有するものであると理解される。
なお,この点,平成23年6月1日付け拒絶理由通知書に対する同年6月17日付け意見書(乙2,特に,2頁7?11行,図B参照。)における本件特許権者の「一方、本願は下図Bに示すように、上部筐体と下部筐体が水平となりやすいように充填部材全体として薄く、その中央部分を最薄としつつ周辺部分を肉厚とすることで、充填部材の左右周辺の厚みにより指の横にある空間を埋めることを目的・構成とするものであり、引用例1の指保持パッドのように充填部材の中央部分の厚みで指を押さえ付けて動かなくするものとは目的や構成や効果が異なるものです。」(下線は当審で付与したもの)という主張からも裏付けられる。

2 対比・判断
(1)構成要件A?Eについて
本件特許発明の構成要件A?Eとイ号物件の構成a?eとを対比すると,次のとおりである。
イ号物件の「上下に分離された表示部側クリップ部」,「上下に分離された…電池蓋側クリップ部」,「b 前記表示部側クリップ部と前記電池蓋側クリップ部の上下方向の相対距離を変形可能とする可動機構」,「c 前記表示部側クリップ部に組み込まれた受光部と前記電池蓋側クリップ部に組み込まれた発光部とを両者が対向し合うように備えた測定機構」及び「対向し合う前記表示部側クリップ部と前記電池蓋側クリップ部の間に形成され,被験者の指先を受け入れる際に上下方向に内部空間を拡げ,前記被験者の指先を受け入れた後に上下方向に内部空間を狭める指挿入部」は,それぞれ,本件特許発明の「上下に分離された第1の筐体部分」,「上下に分離された…第2の筐体部分」,「前記第1の筐体部分と前記第2の筐体部分の上下方向の相対距離を変形可能とする可動機構」(構成要件B),「前記第1の筐体部分と前記第2の筐体部分にそれぞれ組み込まれ、対向し合う発光部と受光部を備えた測定機構」(構成要件C)及び「対向し合う前記第1の筐体部分と前記第2の筐体部分の隙間に形成され、被験者の被験部位を受け入れる際に上下方向に内部空間を拡げ、前記被験者の被験部位を受け入れた後に上下方向に内部空間を狭める測定キャビティ」(構成要件D)に相当することは明らかである。
したがって,イ号物件は本件特許発明の構成要件A?Eを充足する。

(2)構成要件Fについて
本件特許発明の構成要件Fの技術的意義については,上記1(1)のとおりであると認められるところ,これを踏まえつつ,本件特許発明の構成要件Fとイ号物件の構成fとを対比すると,次のとおりである。
イ号物件の構成fの「シリコンゴム」は,本件特許発明の構成要件Fの「弾力性素材」に相当する。
また,イ号物件の構成fの「前記発光部の位置に対応する部分に孔部が形成された」点から明らかなように,孔部以外においては不透明な部材(乳白色のシリコンゴム)であるとしても,「発光部から指を透過して受光部へ直接入射する光線が受光部で検出されるように,充填部材の発光部と受光部に対応する位置の部分を測定機構での測定に利用する光線を透過する」ものであるから,本件特許発明の構成要件Fの「測定機構での測定に利用する光線を透過する」ものであるといえる。
そして,イ号物件の構成fのうちの「全体としてみて薄手(厚さ約1?2mm)の袋状の形状を有する,…前記指挿入部において断面凹面状に形成される」点に着目すると,「保護カバー(B)」は,全体としてみれば「袋状の形状」であるとしても,「全体としてみて薄手(厚さ約1?2mm)の」ものであって「指挿入部において断面凹面状に形成される」ものであるから,その部分(請求人主張の「注目部分140’」に相当)においては本件特許発明の構成要件Fの「湾曲形状の板状体」に該当するといえる。
そうしてみると,イ号物件は構成要件Fを充足するといえる。

(3)構成要件G?Hについて
本件特許発明の構成要件G?Hの技術的意義については,上記1(2)のとおりであると認められるところ,これを踏まえつつ,本件特許発明の構成要件G及びHとイ号物件の構成g及びhとを対比すると,次のとおりである。
イ号物件の「保護カバー(B)」は,これを指先クリップ型パルスオキシメータに装着することによって,指挿入部における内部空間をその厚み(最小約0.95mm?1.65mm)の分だけ狭めるものであるから,本件特許発明の構成要件Gの「充填部材」に相当するといえる。
そして,イ号物件の「保護カバー(B)」は,「被験者の指先を受け入れる方向と垂直な断面で見たときに,前記指挿入部に形成された前記孔部近傍において,凹面状で外面側の曲面の曲率に比べて内面側の曲面の曲率の方が大きくかつ中央部の厚み(最小約0.95mm)よりも左右周辺部の厚み(最大約1.65mm)の方が厚くなっている」ものであるから,本件特許発明の構成要件Gの「横断面において凹面状で外面側の曲面の曲率に比べて内面側の曲面の曲率の方が大きくかつ中央部の厚みよりも左右周辺部の厚みの方が厚く」の点に一応該当する構成を備えるものであるといえる。
しかしながら,イ号物件の「保護カバー(B)」は,「全体としてみて薄手(厚さ約1?2mm)の…形状」であって,指挿入部におけるの厚みの差も高々0.7mm程度のものであるから,「通常大人向けに設計されている測定キャビティの内部空間の曲率及び高さを変換し,小児や新生児の指と測定キャビティの内部空間との隙間を上下方向及び左右方向の双方向から埋めて軽く挟んで固定する」ものである,すなわち「横断面において凹面状で外面側の曲面の曲率に比べて内面側の曲面の曲率の方が大きくかつ中央部の厚みよりも左右周辺部の厚みの方が厚く調整された充填部材を備え、前記測定キャビティの内部空間における前記被験者の被験部位の左右の隙間を埋めることを可能とした」ものに相当するとは到底いえない。
そうしてみると,イ号物件は,本件特許発明の構成要件G?Hを充足しない。

(4)まとめ
したがって,イ号物件は,本件特許発明の構成要件A?Fを充足するものの,本件特許発明の構成要件G?Hを充足しないものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから,イ号物件は,本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2013-03-29 
出願番号 特願2010-540344(P2010-540344)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門田 宏早川 貴之  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 福田 聡
三崎 仁
登録日 2011-07-29 
登録番号 特許第4792540号(P4792540)
発明の名称 パルスオキシメータ  
代理人 奥山 知洋  
代理人 永井 道彰  
代理人 阿仁屋 節雄  

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