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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1272761
審判番号 不服2010-8386  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-20 
確定日 2013-04-12 
事件の表示 特願2007-109924「ペプチド構造物およびそれらの単純ヘルペスウイルス2型の診断における使用」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月 6日出願公開、特開2007-224043〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年(1998年)2月2日を国際出願日とする特願2000-529352号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成19年4月18日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1に係る発明は、平成22年4月20日付手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
一般式:
(X^(1))-16アミノ酸配列-(X^(2))-(Sp)_(r)のペプチドおよびその誘導体であって、
「16アミノ酸配列」は、配列(配列番号68):
Glu Glu Phe Glu Gly Ala Gly Asp Gly
1 5

Glu Pro Pro Glu Asp Asp Asp;
10 15
を示し、
X^(1)は、Proであり、X^(2)は、Serであり;
Spは、スペーサー基を示し、rは、0または1であり、
該誘導体は、t-ブチルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)、およびペンタフルオロフェニルエステルからなる群より選択される基を含む、
ペプチド。」(以下、「本願発明」という。)

第2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願優先日前である1998年1月29日に頒布された、国際公開第98/3543号(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付加した。

(1)「HSV-2糖タンパク質G(gG)分子は、HSV-1(15)の対応物と比較して大きなインサート(500アミノ酸以上)を有しているので、型特異的抗原の可能性が高いソースとして注目を集めている。確かに、イムノブロットおよびELISA法における抗原として、Helix pomatia精製したgG2を使用したHSV-2抗体の検出のためのgG2に基づくアッセイが記載されている(6、7、13)。しかし、十分な純度のgG2の大規模生産の難しさは、そのようなアッセイの普及を妨げてきた。・・・
gG2分子全体の使用に代わるアプローチは、抗原として重要なgG2エピトープを表す合成ペプチドを用いたアッセイを構築することであろう。我々は3つのモノクローナル抗gG2抗体によって認識されるペプチド配列の多様性を識別するために、ランダムな15-merのペプチドを発現するファージライブラリの使用方法について述べる。これらのペプチドの少なくともいくつかは、抗HSV-2抗体を含むことが知られているヒト血清とも結合するので、ヒト抗gG2抗体の検出のための安価で広く適用できるアッセイの開発に向けて、このアプローチを検証することの証拠を提供する。」(2頁下10行?3頁17行)

(2)「また、本発明は、1又はそれ以上のポリペプチドを液体に接触させ、抗体がポリペプチドに結合するかどうかをテストすることを含む、液体中の型特異的HSV-2 gG2抗体の存在をテストする方法を提供する。」(5頁3行?7行)

(3)「図5は、膜上に合成された、表に記載された配列のペプチドを染色するために10の陽性血清及び5の陰性血清を使用した実験の結果を示している。ここで、陽性血清とは、ELISAによりgG2と反応し、血清サンプルを採取した時点で、HSV-2に培養陽性である患者から採取した血清として定義され、陰性血清は、ELISAによりgG2と反応せず、血清サンプルを採取した時点で、HSV-1に培養陽性であった患者から採取した血清として定義される。」(10頁11行?20行)

(4)「

」(図5a)

(5)「

」(図5b)

(6)「ELISAなどの固相アッセイのために、例えば、ロックフェラー大学のジェームズ・タム氏によって述べられた方法に従って、分岐したへリジンコアに結合することにより、抗原性ペプチドの結合価を高めることは有利であるかもしれない。これはまた、ペプチドに、ピアース(イリノイ州ロックフォード)ケミカル・カンパニーカタログで述べられた方法に従って、グルタルアルデヒドやカルボジイミドなどのホモからヘテロの二機能性架橋剤を使用して、ポリ-L又はポリ-Dリジン(又はポリ-L又はポリ-Dグルタミン酸、又はグルタミン酸の代わりにアスパラギン酸によるこれらのポリマー)を付加することを介して達成することができる。Asp、Glu、Lysの3残基のいずれかを豊富に含むか、又は、Asp、Glu、Lysまたはこれらの残基のカルボン酸またはアミノ酸側鎖を含む類縁体(例えば、リジンの代わりにオルニチン)を組み合わせたアミノ酸コポリマーもまた使用されるかもしれない。このようなポリマーは、ランダムまたは順番に並べた配列かもしれないし、構築物に誤った追加のエピトープをもたらす要因となることなく、ペプチドの置換の最適度を促進するためのスペーサとして、例えばアラニン、β-アラニン、ε-アミノカプロン酸又はグリシンのような他のアミノ酸が役立つように含まれていてもよい。特にアミノ酸コポリマーコアの配列のランダム性は、ランダムコポリマー中で生成された任意の個々のモチーフの存在量が効果的に他の多数のランダム配列中で希釈されるだろうから、ヒト血清との誤った抗原反応の発生を回避するための工夫である。抗原的に無関係なキャリアタンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)も同様の架橋剤を用いて、抗原ペプチドの価数を増加させる目的で使用することができる。」(26頁下2行?27頁下6行)

第3 対比
本願発明において、スペーサー基「(Sp)_(r)」のrは0または1と選択肢で記載されているが、このうち、rが1の場合、すなわち、スペーサー基が存在する態様の発明について検討する。

上記記載事項(1)?(6)によると、引用例1には、配列番号44に示すアミノ酸配列からなるペプチドが記載されている。
本願発明と引用例1に記載されたペプチドを対比すると、両者は、「Pro-配列番号68のアミノ酸配列-Ser」、すなわち、本願の配列番号55に示すアミノ酸配列を含むペプチドである点で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:本願発明は、配列番号55のC末端側にスペーサー基「Sp」が付加されているのに対し、引用例1では、特にスペーサー基を付加することは記載されていない点。
相違点2:スペーサー基以外のアミノ酸配列は、本願発明では、配列番号55のみからなるのに対し、引用例1では、さらに、配列番号55のC末端側に「AT」の2残基のアミノ酸配列が付加されている点。

第4 判断
1.相違点1について
引用例1には、抗原性ペプチドを用いたアッセイにおいて、抗原性ペプチドの価数を増加させるために、スペーサーを介して抗原性ペプチドをキャリアに結合することが記載されていることを考慮すると(上記記載事項(6)参照)、引用例1に記載されたペプチドにおいて、そのC末端にスペーサー基を付加することは、当業者が適宜なし得ることである。

2.相違点2について
引用例1の図5aには、gG2の20アミノ酸からなる部分断片であって、2残基ずつ位置をずらしたペプチドが配列番号2、40?28として記載されている(上記記載事項(4)参照)。そして、その血清試験の結果を示した図5bをみると、配列番号44からなるペプチドは、わずかにずれた位置の他のペプチド(例えば、配列番号43)と比べて、偽陽性数がHSV-1陽性血清5サンプル中1つと少ないものであることが示されている(上記記載事項(5)参照)。
そして、なるべく必要最小限のアミノ酸で特異的抗原を得ようとすることは周知の課題であるから、引用例1に記載された配列番号44に示すアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、末端部分のアミノ酸を欠失させて、HSV-1抗体とは結合せずに、HSV-2抗体とは結合するペプチドを取得しようとすることは、当業者が容易に想起することである。本願の配列番号55は、引用例1の配列番号44のC末端のアミノ酸を2残基欠失したものであり、上記欠失が行われたペプチドに相当し、引用例1の有望なペプチドのアミノ酸欠失体の1つにすぎない。

3.効果について
本願明細書では、「ペプチド構造物55」、すなわち、分岐したリジンコアに4残基のグリシンからなるスペーサー(段落【0030】の式(5))を介して配列番号55からなるペプチドを結合したものは、偽陽性が少ないとしている(表2?4参照)。
ここで、本願発明において、スペーサー基である「Sp」の構造について特定しておらず、本願明細書の段落【0017】の「最も好ましくは、スペーサーアーム分子はアミノ酸残基を含む。」という記載を考慮すると、本願発明の「Sp」は、任意のアミノ酸残基からなるスペーサー基を含むものである。
そして、引用例1の図5a及び図5bをみると、本願の配列番号55のN末端に2アミノ酸残基「GG」が付加した配列番号43や、C末端に2アミノ酸残基「AT」が付加した配列番号44からなるペプチドには偽陽性が現れることから、結局、リジンコアに4残基のグリシンスペーサー以外のリンカーを用いた場合まで、格別な効果があるとはいえない。
そうすると、ペプチド構造物55の効果を直ちに、スペーサー基として任意のアミノ酸をC末端に付加した本願発明のペプチドにまで拡張することはできず、本願発明の範囲全体についてまで、偽陽性も偽陰性も生じないという格別顕著な効果があるとはいえない。

よって、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.請求人の主張
請求人は、平成21年3月3日付意見書において、下記の点を主張する。
ア.引用例1に記載のペプチドは、偽陽性反応を示すことから、HSV-2抗体の精度の高い検出のためには有効ではなく、当業者は、配列番号44に示すアミノ酸配列からなるペプチドにおいてアミノ酸を欠失させて本願発明のペプチドを取得しようとは動機付けされないものである(意見書4頁6行?32行)。

イ.本願発明に係るペプチドは、HSV-2抗体について試験した場合に、偽陽性も偽陰性もほとんど生じないという顕著な効果を奏するものである(意見書3頁下2行?4頁5行)。

主張アについて
引用例1に記載された配列番号44に示すアミノ酸配列からなるペプチドは、偽陽性数がHSV-1陽性血清5サンプル中1つであり(上記記載事項(5)参照)、HSV-2抗体の検出のためのペプチドの候補として選択することを断念するほどのものではない。
よって、当該請求人の主張は採用できない。

主張イについて
本願明細書において、請求人が主張する偽陽性も偽陰性も生じないという効果を確認しているのは、「ペプチド構造物55」、すなわち、分岐したリジンコアに4残基のグリシンからなるスペーサーを介して配列番号55からなるペプチドが結合したもののみであると認められる(表2?4参照)。
そして、上記3.で述べたとおり、ペプチド構造物55の効果を直ちに、スペーサー基として任意のアミノ酸をC末端に付加した本願発明のペプチドにまで拡張することはできず、本願発明の範囲全体についてまで、偽陽性も偽陰性も生じないという格別顕著な効果があるとはいえない。
よって、当該請求人の主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-19 
結審通知日 2012-11-20 
審決日 2012-12-03 
出願番号 特願2007-109924(P2007-109924)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱田 光浩今村 玲英子山中 隆幸  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 新留 豊
冨永 みどり
発明の名称 ペプチド構造物およびそれらの単純ヘルペスウイルス2型の診断における使用  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 安村 高明  

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