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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01M
管理番号 1272915
審判番号 不服2012-493  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-11 
確定日 2013-04-11 
事件の表示 特願2001- 80456「展示物の害虫駆除方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月24日出願公開、特開2002-272341〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成13年3月21日の出願であって,平成23年10月3日付けで拒絶査定がされ,これを不服として平成24年1月11日に審判が請求されるとともに,同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成24年1月11日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年1月11日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲の請求項について次のように補正しようとする事項を含むものである。

(補正前:平成23年2月14日付け手続補正書)
「【請求項1】
気密性の容器内に展示物を収容し,次いで100℃に加熱された窒素ガスに加湿してこの加湿された窒素ガスで容器内の空気を置換して酸素濃度1%以下の雰囲気になるように調整し,この雰囲気下で展示物に付着している害虫を窒息させて駆除することからなる展示物の害虫駆除方法。
【請求項2】
加湿された窒素ガスが,窒素ガス入りのボンベから供給され,加熱後に湿度50?60重量%に加湿された窒素ガスである請求項1記載の展示物の害虫駆除方法。
【請求項3】
容器内雰囲気が,2気圧以下の加圧雰囲気である請求項1または2に記載の展示物の害虫駆除方法。」

(補正後)
「【請求項1】
気密性の容器内に展示物を収容し,次いで100℃に加熱された窒素ガスに加湿してこの加湿された窒素ガスで容器内の空気を置換すると共に酸素濃度0.01?0.03%の雰囲気になるように脱酸素調整し,この雰囲気下で展示物に付着している害虫を窒息させて駆除することからなる展示物の害虫駆除方法。
【請求項2】
加湿された窒素ガスが,窒素ガス入りのボンベから供給され,加熱後に湿度50?60重量%に加湿された窒素ガスである請求項1記載の展示物の害虫駆除方法。
【請求項3】
容器内雰囲気が,2気圧以下の加圧雰囲気である請求項1または2に記載の展示物の害虫駆除方法。」

2 補正の目的について
本件補正は,補正前には「窒素ガスで容器内の空気を置換して」酸素濃度を調整していたのを,補正後においては上記に加えて「脱酸素調整」を行うという事項を加えるものである。そして,脱酸素調整とは,段落【0023】に「窒素ガス入りのボンベから加熱装置を経由して100℃に加熱された窒素ガスに超音波加湿器で加湿して湿度50?55%の加湿窒素ガスを供給しながら容器内を吸引ポンプで排気し,さらに市販の脱酸素剤(菱江化学社製:RP-20K)を400袋を投入して酸素濃度0.01?0.03%の雰囲気になるように調整した。」と記載されるように,窒素ガスで容器内の空気の置換するのに加えて,別途,脱酸素剤を投入して酸素濃度を調整するものであり,このような脱酸素調整については,補正前の請求項には何ら記載されていないのであるから,請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものとはいえない。
よって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とするものに該当しない。
また,本件補正が,誤記の訂正,請求項の削除,明りょうでない記載の釈明の何れにも該当しないことは明らかである。

したがって,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号のいずれにも該当しないものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 独立特許要件について
仮に,本件補正が平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の要件に適合するとしたとしても,次に示すように本件補正後の請求項3に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。

(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1を引用する請求項3に係る発明は,以下のとおりである。
「気密性の容器内に展示物を収容し,次いで100℃に加熱された窒素ガスに加湿してこの加湿された窒素ガスで容器内の空気を置換すると共に酸素濃度0.01?0.03%の雰囲気になるように脱酸素調整し,この雰囲気下で展示物に付着している害虫を窒息させて駆除することからなる展示物の害虫駆除方法であって,容器内雰囲気が,2気圧以下の加圧雰囲気である展示物の害虫駆除方法。」(以下,「本願補正発明」という。)

(2)引用刊行物
ア 刊行物1
現査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-206479号公報(以下「刊行物1」という)には,図面とともに以下の記載がある。
(1a)「【請求項4】 展示品が入れられた実質的に密閉状態にある収納室内に,加湿した窒素ガスを導入することを特徴とする,加湿窒素ガスを用いた防虫方法。」
(1b)「【0003】又,博物館や美術館等では,これまで,絵画,刀,布などの文化財(展示品)を展示した後,次回の展示までに収蔵することが行われており,通常は展示終了後,展示ケースから展示品を取り出し,防虫処理専用のケース内で臭化メチルを用いて処理を行った後,これを収蔵庫に入れて,温度と湿度を管理して収蔵している。このように,従来の展示ケースは,展示品をそのまま取り出すことなく長期間にわたって保存できるものではなく,展示ケースと収蔵ケースとが別々であるために,展示品の出し入れが必要となり,保管管理上非常に煩雑となる。
【0004】更に,最近では,地球環境保護の立場から,環境を破壊するといわれているハロゲン化物質の使用が規制されつつあり,臭化メチルを用いる展示品の防虫方法には問題がある。従って,臭化メチルを用いる防虫方法に代わる安全で,しかも有効な防虫方法の開発が望まれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】・・・又,本発明は,前述の,展示ケースにおける問題点を解決し,環境破壊の原因となるハロゲン化物質の使用が規制されても安全かつ有効に防虫処理を実施することができ,展示品を展示ケースから出し入れすることなく,長期間展示・収蔵することのできる構造を有した展示ケースを提供することを課題とする。更に,本発明は,環境破壊の原因となるハロゲン化物質の使用が規制されても実施することができて,しかも,安全で,有効である防虫方法を提供することを課題とするものでもある。」
(1c)「【0017】実施例2:PSA式窒素発生器が内蔵された本発明の展示ケース
図4に示される内部構造の展示ケース(幅1400mm×奥行650mm×高さ1250mm)において,PSA式窒素発生器(モータ容量:350W,AC100V,発生窒素量:1L/min(5kg/cm^(2) G),純度:99.9%)より発生させた窒素ガスを,外径4mmのテフロンチューブにて気体加湿装置に導入し,所定の湿度に加湿後,加湿窒素ガスホルダーを通して,上方部分の展示ケース部((幅1400mm×奥行650mm×高さ500mm)に導入した(配管径:6mm)。図4に示される展示ケース部を,小物の展示物を入れる小物用展示ケースが5つ直列に配置された状態に分け,その一端から100CC/minの加湿窒素ガスを導入し,他端より外気(屋内)へ放出した。その結果,室温:16℃,不純物の酸素濃度:0.1%,湿度:60%に約1週間保持することができた。
【0018】実施例3:膜式窒素発生器が内蔵された本発明の展示ケース
図4に示される内部構造の展示ケースにおいて,膜式窒素発生器(モータ容量:450W,AC 100V,発生窒素量:1L/min(5kg/cm^(2)G),純度:99.9%)より発生させた窒素ガスを,・・・その結果,室温:16℃,不純物の酸素濃度:0.1%,湿度:60%に約1週間保持することができた。」
(1d)「【0019】実施例4:本発明の気体加湿装置を用いた防虫効果の確認実験
試験対象体として,孵化して1週間以内のアズキゾウムシを準備し,この試験対象体(約30?50匹)を試験槽(内容積約3リットル)内に入れ,この試験槽を更に恒温槽内(設定温度30℃)に入れた。この試験槽には,実施例1記載の本発明の気体加湿装置を用いて加湿した窒素ガスを湿度調整して導入するための導入管と,オバーフローした気体を試験槽の外へ排気するための排気管を設けると共に,試験槽内の温度及び湿度を測定するための温湿度計を取り付けた。そして,気体加湿装置を作動させて加湿窒素ガス(酸素濃度0.15ppm)を試験槽に導入し,アズキゾウムシに対する加湿窒素ガスの防虫性を測定した。
【0020】
(測定結果)
a)湿度62%の加湿窒素ガスの防虫性
処理時間 (生存数/処理数) 生存割合(%)
6時間 32/32 100
12時間 19/31 61
40時間 0/48 0
b)湿度70%の加湿窒素ガスの防虫性
処理時間 (生存数/処理数) 生存割合(%)
18時間 15/37 41
28時間 0/43 0

(1e)「【0021】
実施例5:殺虫性評価実験実施例4と同様にして,アズキゾウムシに対する,導入される加湿窒素ガス中の酸素濃度の影響を調査した。
実験条件
温度:25±1℃,RH:55±3%,試験体数:50
生存数
実験No. 酸素濃度 1% 3% 5% 7%
----------------------------
1 1日後 21 35 41 50
2 2日後 0 26 29 34
3 3日後 0 0 18 25
4 4日後 0 0 6 11
5 5日後 0 0 0 4
6 6日後 0 0 0 0


上記(1a)?(1e)から,刊行物1には,
「展示品が入れられた実質的に密閉状態にある収納室内に,一端から加湿した窒素ガスを導入し,他端から外気(屋内)へ放出し,酸素濃度:0.1%とした,加湿窒素ガスを用いた防虫方法。」
の発明(以下,「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 刊行物2
現査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-258113号公報(以下「刊行物2」という)には,図面とともに以下の記載がある。
(2a)「【0006】
【発明の実施の形態】この発明は,滅菌容器内に被滅菌物を収容し,この滅菌容器内に滅菌ガスを導入して滅菌するガス滅菌器に適用して実施される。この発明は,そのような装置の滅菌容器に滅菌ガスとしてオゾンを供給し,前記滅菌容器を大気圧以上の圧力まで加圧してから減圧する操作を行う。このようにオゾンを滅菌容器内に供給した後,滅菌容器内の圧力を大気圧以上の圧力まで加圧することにより,被滅菌物の内部までオゾンが押し込まれるようにして浸透する。そして,オゾンは,被滅菌物の表面やその内部で分解して酸素となるが,この際に発生する活性酸素が滅菌効果を発揮する。ついで,滅菌容器内を減圧することにより,被滅菌物内で生成した酸素(オゾンが分解したもの),残留するオゾンおよび汚染された空気は,被滅菌物から吸い出される。」
(2b)「【0017】さらに,この発明においては,前記滅菌容器内に供給されたオゾンが加温されているようにしている。オゾンを加温すると,前述の活性酸素の発生がさらに促進される。また,オゾンを加温することにより,飽和水蒸気量が増加するため,前述の加湿の効果が促進される。そのため,オゾンの加温により,滅菌効果が一層高まる。このオゾンの加温は,適宜の加熱手段によって行うが,この加温は,オゾンを滅菌容器に供給するまでに行うほか,滅菌容器内で行うこともできる。滅菌容器内で行う場合には,滅菌容器内に加熱手段を配置するほか,滅菌容器の外に加熱手段を設け,滅菌容器ごと加温する。ここで,オゾンの加湿も行う場合には,前述の飽和蒸気量を高める点からすれば,この加湿の前に加温するのが好ましい。さらに,オゾンの加温は,20?60℃程度が好ましく,より好ましくは,45?55℃程度である。このオゾンの加温は,高温とするほど滅菌効果が向上するが,オゾンによる滅菌処理を低温ガス滅菌方法としてとらえると,耐熱性の低い被滅菌物を対象とするものであるため,あまり高温とすることはできない。通常,上限は60℃程度である。」

ウ 刊行物3
本願出願前に頒布された刊行物である「木川りか,“窒素等不活性ガスによる文化財殺虫処理装置の試作と処理例”,保存科学,1999年,No.38,p.1-8」(以下「刊行物3」という)には,図面とともに以下の記載がある。
(3a)「いくつかの代替法のなかで,低酸素濃度による殺虫法は,文化財材質にも影響が少なく,また人体や環境に安全であるため,今後の文化財の殺虫法として期待される。大別して窒素やアルゴンなどの不活性ガスを用いる方法と,脱酸素剤を用いる方法,またこれらを組み合わせる場合もあるが,いずれも密閉空間内の酸素濃度を0.1%程度に長期間保って害虫を酸欠死させる方法である。」(第1ページ第6?10行)

(3)対比
本願補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明における「実質的に密閉状態にある」,「収納室」及び「展示品」は,本願補正発明における「気密性の」,「容器」及び「展示物」にそれぞれ相当する。
また,刊行物1記載の発明における「一端から加湿した窒素ガスを導入し,他端から外気(屋内)へ放出し,」は,こうすることで酸素濃度を空気よりも低い0.1%とするのであるから,収容室内の空気を窒素ガスで置換されたものといえ,本願補正発明の「窒素ガスで容器内の空気を置換する」に相当する。
上記記載事項(1d)及び(1e)では,虫の生存割合や生存数等を測定していることからみて,刊行物1記載の発明における「防虫」とは,本願補正発明の「害虫駆除」に相当し,さらに,上記記載事項(1e)によれば,酸素濃度が低いほど虫の生存数が少なくなることからみて,本願補正発明のように害虫を「窒息」させるものであることは明らかである。
また,刊行物1には,「展示品に付着している害虫」を駆除することは明記されていないものの,刊行物1記載の発明は収容室内に「展示品が入れられ」ているのであるから,「展示品に付着している害虫」を駆除することは明らかであるし,上記記載事項(1b)における従来技術の「臭化メチルを用いる展示品の防虫方法」との記載からは展示品自体の防虫を意図していることが把握でき,この従来技術を受けて,「ハロゲン化物質の使用が規制されても安全且つ有効に防虫処理を実施することができ」る防虫方法を提供するものであることからも,刊行物1記載の発明は,展示品それ自体の防虫であるといえ,本願補正発明のように「展示品に付着している害虫」を駆除することは明らかである。
また,刊行物1発明における「酸素濃度:0.1%」は,通常の空気よりも低酸素濃度であるから,本願補正発明の「酸素濃度0.01?0.03%」と,「低酸素濃度」という点で共通する。

してみれば,本願補正発明と刊行物1記載の発明とでは,
「気密性の容器内に展示物を収容し,加湿された窒素ガスで容器内の空気を置換し低酸素濃度の雰囲気になるように調整し,この雰囲気下で展示物に付着している害虫を窒息させて駆除することからなる展示物の害虫駆除方法。」
で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)本願補正発明では,「100℃に加熱された窒素ガスに加湿」するのに対して,刊行物1記載の発明では,加湿を行うにあたり窒素ガスを100℃に加熱するものではない点。
(相違点2)本願補正発明では,容器内の空気を置換する「と共に」「脱酸素」調整するのに対して,刊行物1記載の発明では容器内の空気を置換すること以外の調整は行なっていない点。
(相違点3)本願補正発明では,酸素濃度を「酸素濃度0.01?0.03%」としているのに対し,刊行物1記載の発明では「酸素濃度:0.1%」である点。
(相違点4)本願補正発明では,「容器室内雰囲気が,2気圧以下の加圧雰囲気である」のに対して,刊行物1記載の発明では特に加圧雰囲気であることについて特定されていない点。

(4)相違点についての判断
ア 相違点1について
刊行物2の上記記載事項(2b)には「また,オゾンを加温することにより,飽和水蒸気量が増加するため,前述の加湿の効果が促進される。」,「ここで,オゾンの加湿も行う場合には,前述の飽和蒸気量を高める点からすれば,この加湿の前に加温するのが好ましい。」との記載があり,加湿の前に加温を行なうことで飽和水蒸気量が増加して,加湿が促進されるという技術的事項が記載されている。その際の加温の温度については,最適な加湿状態が得られるよう,実験等を通じて当業者が適宜定めるべき事項に過ぎない。
そして,処理を効率的に行うことは一般的な技術課題に過ぎないから,刊行物1発明において窒素ガスへの加湿処理を行なう際に,刊行物2に記載された技術的事項を適用して,本願補正発明の相違点1に係る構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。
そして,このような構成を採用することによる効果は,当業者の予測の範囲内のものである。

イ 相違点2について
刊行物3には,文化財の殺虫法として「窒素やアルゴンなどの不活性ガスを用いる方法と,脱酸素剤を用いる方法,またこれらを組み合わせる場合もある」と記載されており,刊行物1記載の発明も上記記載事項(1b)にあるように,文化財における殺虫方法に関するものであるから,刊行物3に接した当業者が,刊行物1記載の発明にさらに脱酸素剤を組み合わせ,本願補正発明の相違点2に係る構成とすることは容易になし得たことである。
そして,このような構成を採用することによる作用効果についても格別のものは見いだせない。

ウ 相違点3について
刊行物1の上記記載事項(1e)によれば,酸素濃度が低いほど虫の生存数が減少していることから,酸素濃度を低くすることにより害虫駆除の効果が高まることは,当業者が予測できることである。
そして,本願明細書では,酸素濃度とその作用効果については「【0008】上記した展示物の害虫駆除方法では,気密性の容器内に展示物を収容し,この容器内の雰囲気を空気から窒素に置換することにより,展示物の表面に付着するか,または内部に侵入して棲息している害虫の生存に必用な酸素濃度未満になるように酸素濃度1%以下の雰囲気にする。【0009】この窒素ガス濃度の雰囲気下では,害虫(その幼虫または卵を含む。)が所要時間後に窒息して死滅する。」との記載されており,要するに酸素濃度1%以下で害虫(その幼虫または卵を含む。)が死滅するというのであり,実施例(【0023】)では,0.01?0.03%としているが,こうすることで酸素濃度の低下分に見合う(酸素濃度の低下に比例した)害虫駆除促進の効果を期待することはできるとしても,異質なあるいは格別優れた効果を奏することは本願明細書からは読み取れない。
してみれば,刊行物1記載の発明において,本願補正発明の相違点3に係る構成とすることは当業者が適宜なし得たことであり,その効果も予測の範囲のものであるから,この点に進歩性を見いだすこともできない。

エ 相違点4について
刊行物1記載の発明は,一端から窒素ガスを導入し他端から外気に放出するものであり,これによって収納室内を酸素濃度0.1%の窒素雰囲気状態に置換しているものである。その際の収容室内部の圧力については特定されていないものの,刊行物1には排出に吸引ポンプ等を設ける等の記載はないから自然排気となっていると考えられること,収容室等の内部空気を所定のガスに置換し,さらには外部の空気の侵入を防止するために,収納室等の内部気圧を大気圧よりも若干高い状態,すなわち2気圧以下の加圧雰囲気とすることは周知の技術(特開2001-61676号公報【0031】,特開平11-245076号公報【0014】,【0060】,【0063】)であることからみて,刊行物1記載の発明においても収容室内部は2気圧以下の加圧雰囲気となっているものであるか,少なくとも刊行物1記載の発明において当該周知の技術を採用して,本願補正発明の相違点4に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。
また,刊行物2の記載事項(2b)には,「滅菌容器内の圧力を大気圧以上の圧力まで加圧することにより,被滅菌物の内部までオゾンが押し込まれるようにして浸透する。」と記載されており,容器内を加圧雰囲気とすることでガスが対象物の内部に浸透するという技術的事項が開示されている。その際の具体的な圧力は,押し込みの効果と加圧装置のコスト等を勘案して当業者が適宜定めるべきものに過ぎない。そして,刊行物2の上記技術的事項はオゾンを用いた滅菌技術に関するものではあるが,対象物から生物を死滅させるためのものであること,そのためにガスを導入することという点で刊行物1記載の発明と技術分野が関連しており,また,刊行物1記載の発明も,窒素ガスを導入することで害虫を駆除するものである以上,窒素ガスを行き渡らせることが害虫の駆除効果を高めるのに適切であることは当然であるから,刊行物1記載の発明において,上記刊行物2の技術的事項を採用して,本願補正発明の相違点4に係る構成とすることも当業者が容易になし得たことである。
そして,このような構成を採用することによる作用効果についても格別のものは見いだせない。

(5)小括
よって,本願補正発明は,刊行物1記載の発明及び刊行物2,3に記載された技術的事項あるいは周知の技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。

3 補正の却下の決定のむすび
したがって,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号のいずれにも該当しないものであるから,あるいは同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明
1 本願発明
上記のように平成24年1月11日付けの手続補正は却下されたので,本願の請求項1?3に係る発明は,平成23年2月14日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3により特定されるものと認められるところ,請求項1を引用する請求項3に係る発明は,以下のとおりである。

「気密性の容器内に展示物を収容し,次いで100℃に加熱された窒素ガスに加湿してこの加湿された窒素ガスで容器内の空気を置換して酸素濃度1%以下の雰囲気になるように調整し,この雰囲気下で展示物に付着している害虫を窒息させて駆除することからなる展示物の害虫駆除方法であって,容器内雰囲気が,2気圧以下の加圧雰囲気である展示物の害虫駆除方法。」(以下,「本願発明」という。)

2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?2とその記載事項及び刊行物1記載の発明は,上記「第2 3 (2)」に記載したとおりである。

3 対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明における「実質的に密閉状態にある」,「収納室」及び「展示品」は,本願発明における「気密性の」,「容器」及び「展示物」にそれぞれ相当する。
また,刊行物1記載の発明における「一端から加湿した窒素ガスを導入し,他端から外気(屋内)へ放出し,」は,こうすることで酸素濃度を空気よりも低い0.1%とするのであるから,収容室内の空気を窒素ガスで置換されたものといえ,本願発明の「窒素ガスで容器内の空気を置換する」に相当する。
上記記載事項(1d)及び(1e)では,虫の生存割合や生存数等を測定していることからみて,刊行物1記載の発明における「防虫」とは,本願発明の「害虫駆除」に相当し,さらに,上記記載事項(1e)によれば,酸素濃度が低いほど虫の生存数が少なくなることからみて,本願発明のように害虫を「窒息」させるものであることは明らかである。
また,刊行物1には,「展示品に付着している害虫」を駆除することは明記されていないものの,刊行物1記載の発明は収容室内に「展示品が入れられ」ているのであるから,「展示品に付着している害虫」を駆除することは明らかであるし,上記記載事項(1b)における従来技術の「臭化メチルを用いる展示品の防虫方法」との記載からは展示品自体の防虫を意図していることが把握でき,この従来技術を受けて,「ハロゲン化物質の使用が規制されても安全且つ有効に防虫処理を実施することができ」る防虫方法を提供するものであることからも,刊行物1記載の発明は,展示品それ自体の防虫であるといえ,本願発明のように「展示品に付着している害虫」を駆除することは明らかである。
また,刊行物1発明における「酸素濃度:0.1%」は,本願発明の「酸素濃度1%以下」に相当する。

してみれば,本願発明と刊行物1記載の発明とでは,
「気密性の容器内に展示物を収容し,加湿された窒素ガスで容器内の空気を置換して酸素濃度1%以下の雰囲気になるように調整し,この雰囲気下で展示物に付着している害虫を窒息させて駆除することからなる展示物の害虫駆除方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1’)本願発明では,「100℃に加熱された窒素ガスに加湿」するのに対して,刊行物1記載の発明では,加湿を行うにあたり窒素ガスを100℃に加熱するものではない点。
(相違点4’)本願発明では,「容器室内雰囲気が,2気圧以下の加圧雰囲気である」のに対して,刊行物1記載の発明では特に加圧雰囲気であることについて特定されていない点。

4 判断
上記相違点1’及び相違点4’は,相違点1及び相違点4と同じであるから,上記「第2 3 (4)」で検討したとおり,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術的事項あるいは周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
したがって,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると,このような特許を受けることができない発明を包含する本願は,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-06 
結審通知日 2013-02-12 
審決日 2013-02-27 
出願番号 特願2001-80456(P2001-80456)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A01M)
P 1 8・ 575- Z (A01M)
P 1 8・ 121- Z (A01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 隆一  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 筑波 茂樹
中川 真一
発明の名称 展示物の害虫駆除方法  
代理人 東尾 正博  
代理人 鎌田 文二  
代理人 鎌田 文二  
代理人 東尾 正博  

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