• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B65D
管理番号 1273069
審判番号 不服2012-9262  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-18 
確定日 2013-04-18 
事件の表示 特願2006- 71207「紙容器」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月27日出願公開、特開2007-246120〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成18年3月15日の出願であって、平成24年2月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成24年5月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「外面側から、熱可塑性樹脂層/紙層/ガスバリア層/酸素吸収剤を含む接着性樹脂層/熱可塑性樹脂層、もしくは、熱可塑性樹脂層/紙層/熱可塑性樹脂層/酸素吸収剤を含む接着性樹脂層/ガスバリア層/酸素吸収剤を含む接着性樹脂層/熱可塑性樹脂層の順で積層してなる積層材を製造し、該積層材を使用し製函してなる紙容器において、
上記の酸素吸収剤を含む接着性樹脂層が、上記のガスバリア層と上記の熱可塑性樹脂層とを密接着させるものであり、熱によって溶融し相互に融着し得るヒートシール性を有する接着性ポリオレフィン系樹脂をビヒクルの主成分として含み、更に、上記の接着性ポリオレフィン系樹脂中に分散され、酸素吸収反応を生じる、金属粉、亜硫酸塩、亜二チオン酸塩、カテコール、没食子酸、多価アルコール、アスまたはコルビン酸エステルの1種もしくは2種以上からなる酸素吸収剤を主剤として含み、更にまた、上記の主剤の酸素吸収反応を促進する、ハロゲン化金属またはアルカリ剤の1種もしくは2種からなる助剤を含む接着性樹脂組成物による接着性樹脂層からなり、
かつ、上記のガスバリア層が、結晶性芳香族ポリアミド系樹脂層からなり、かつ、上記の酸素吸収剤を含む接着性樹脂層と上記のガスバリア層と上記の熱可塑性樹脂層とが、3層共押出で積層されていること
を特徴とする紙容器。」(当審注:上記記載中の「アスまたはコルビン酸」は「またはアスコルビン酸」の誤記と認める。)
と補正された。

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ガスバリア層」について、「結晶性芳香族ポリアミド系樹脂層からなり」との限定を付加し、同じく「積層材」について「上記の酸素吸収剤を含む接着性樹脂層と上記のガスバリア層と上記の熱可塑性樹脂層とが、3層共押出で積層されている」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-62102号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】 外面側から、紙基材層、ガスバリア層、脱酸素剤を熱可塑性樹脂中に分散してなる酸素吸収性樹脂層、酸素透過性樹脂層がこれらの順に積層されてなる紙基材脱酸素性多層体。
【請求項2】 紙基材層の外面側に、熱可塑性樹脂からなる最外層が積層されてなる請求項1記載の紙基材脱酸素性多層体。
【請求項3】 包装容器の少なくとも一部に請求項1記載の紙基材脱酸素性多層体を使用してなる脱酸素性紙容器。」

「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の従来技術の問題点に鑑み、従来以上に収納物品の保存性に優れた紙を基材とした包装材料について鋭意検討を重ねた結果、紙基材上にガスバリア層を積層し、さらに該ガスバリア層上に脱酸素剤を分散してなる熱可塑性樹脂層を積層した紙基材多層体から形成される紙容器を適用することで、容器外部から侵入する酸素を遮断し、かつ容器内空間部及び物品中の溶存酸素を除去することが可能となり、容器内収納物品の品質を長期間に渡り保持することが可能となることを見い出した。」

「【0007】本発明の紙容器形成用脱酸素性多層体における酸素透過性樹脂層は内容物と酸素吸収性樹脂層を隔離する隔離層としての役割、容器を形成する際のヒートシール層としての役割、また酸素吸収性樹脂層中の脱酸素剤が酸素を吸収するために効率良く酸素透過を行う役割を有している。本発明の紙基材脱酸素性多層体における酸素透過性樹脂層を構成する材料としては、特に制限はなく、各種熱可塑性樹脂が使用可能であるが、食品等の内容物と直接接触する層であることから、衛生性や汎用性に優れるポリオレフィン類が単独で或いは二種類以上の混合物として好ましく用いられる。」

「【0010】本発明の紙基材脱酸素性多層体における酸素吸収性樹脂層は、脱酸素剤が熱可塑性樹脂中に分散されてなるものであり、…(以下略)…」

「【0011】本発明に用いられる脱酸素剤としては、酸素吸収反応を生起することができるものであって、熱可塑性樹脂中に分散させることが可能なものであれば制限することなく使用できるが、好ましくは、被酸化性の主剤と助剤の組み合わせからなる脱酸素剤が用いられる。主剤には、金属粉、亜硫酸塩、亜二チオン酸塩、カテコール、没食子酸、多価アルコール、アスコルビン酸エステル等が使用されるが、中でも金属粉が好ましく、特に鉄粉が好ましく用いられる。また助剤には、主剤の酸素吸収反応を促進する化学物質、例えば、ハロゲン化金属やアルカリ剤が用いられる。」

「【0016】本発明の紙基材脱酸素性多層体における酸素吸収性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂としては、特に制限なく各種熱可塑性樹脂を使用することが可能であるが、酸素透過性や汎用性、酸素透過性樹脂層との接着性に優れたポリオレフィン類や接着性樹脂が単独で或いは混合物として好ましく用いられる。…(中略)…
【0017】また、接着性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン類等が挙げられる。」

「【0021】本発明の紙容器形成用脱酸素性多層体におけるガスバリア層は、本発明の多層体を容器とした場合に、容器外部から侵入する酸素を遮断する役割を有する。ガスバリア層を構成する材料としては、アルミ箔等の金属箔、ポリ塩化ビニリデン、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物、ナイロン6、ナイロン66、MXナイロン、非晶性ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、アルミ蒸着フィルムやシリカ蒸着フィルム等の無機酸化物蒸着フィルム等を単独で又は組み合わせて用いることができ、…(以下略)…」

「【0024】本発明における紙基材脱酸素性多層体の製造方法としては、通常の積層方法、例えば、ウエットラミネーション法、ドライラミネーション法、無溶剤型ドライラミネーション法、押し出しラミネーション法、共押し出しラミネーション法、その他公知の方法で行うことができる。」

「【0028】
【実施例】以下に、本発明の実施例を示す。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。はじめに、本実施例での使用材料を示す。
実施例1
平均粒径30μmの還元鉄粉100重量部に対して塩化カルシウム3重量部をコーティングした粒状の脱酸素剤40重量部と低密度ポリエチレン(東ソー(株)製、商品名:ペトロセン204、以下LDPEと略す)60重量部をドライブレンドし、35mm二軸押し出し機にて押し出しを行い、ブロワ付きネットベルトで冷却後ペレタイザーを経て、脱酸素性コンパウンドを得た。
【0029】次に、押し出し機、Tダイ、冷却ロール、コロナ処理機及び引き取り機からなる押し出しラミネーターを用い、坪量400g/m^(2)の紙の片面にコロナ処理を施した後、該コロナ面にLDPE(最外層、30μm)を押し出しラミネートし、さらに上記紙の他方の面にコロナ処理を施して、最外層/紙の構成を有する積層体を製造した。
【0030】次に、第1?第5押し出し機、フィードブロック、Tダイ、冷却ロール及び巻き取り機からなる共押し出し装置を用い、第1の押し出し機から白色顔料添加LDPE(酸素透過性樹脂層)、第2の押し出し機から前記脱酸素性コンパウンド(酸素吸収性樹脂層)、第3の押し出し機から接着性ポリエチレン(三菱化学(株)製、商品名:モディックM503、接着性樹脂層A)を、第4の押し出し機からガスバリア性ポリアミド(三菱ガス化学(株)製、商品名:MXナイロン6007、ガスバリア層)を、第5の押し出し機からLDPE(接着性樹脂層B)を押し出し、層構成が容器の内側となる面から酸素透過性樹脂層/酸素吸収性樹脂層/接着性樹脂層A/ガスバリア層/接着性樹脂層A/接着性樹脂層Bの順となるようにフィードブロックを介して多層溶融状態を形成させ、予めLDPEを押し出しラミネートした紙のコロナ面に接着性樹脂層Bが積層されるように共押し出しラミネートして、紙基材脱酸素性多層体を得た。得られた紙基材脱酸素性多層体の構成は、容器の内側となる面から酸素透過性樹脂層(50μm)/酸素吸収性樹脂層(50μm)/接着性樹脂層A(10μm)/ガスバリア層(15μm)/接着性樹脂層A(10μm)/接着性樹脂層B(20μ)/坪量400g/m^(2)の紙/最外層(30μm)であった。」

これらの記載によれば、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「外面側から、熱可塑性樹脂からなる最外層、紙基材層、ガスバリア層、脱酸素剤を熱可塑性樹脂中に分散してなる酸素吸収性樹脂層、熱可塑性樹脂からなる酸素透過性樹脂層がこれらの順に積層されてなる紙基材脱酸素性多層体を使用してなる脱酸素性紙容器において、
上記酸素吸収性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂として、酸変性ポリオレフィン類等の接着性樹脂を用い、
上記脱酸素剤は、酸素吸収反応を生起することができるものであって、主剤に、金属粉、亜硫酸塩、亜二チオン酸塩、カテコール、没食子酸、多価アルコール、アスコルビン酸エステルが使用され、助剤に、主剤の酸素吸収反応を促進する化学物質、例えば、ハロゲン化金属やアルカリ剤が用いられ、
上記ガスバリア層は、MXナイロンであり、
前記紙基材脱酸素性多層体の製造方法として共押し出しラミネーション法を用いた
脱酸素性紙容器。」

2.対比
引用発明の「脱酸素剤を熱可塑性樹脂中に分散してなる酸素吸収性樹脂層」は、熱可塑性樹脂として接着性樹脂を用い、脱酸素剤は酸素吸収反応を生起することを考慮すると、本願補正発明の「酸素吸収剤を含む接着性樹脂層」に相当する。
よって、引用発明の「外面側から、熱可塑性樹脂からなる最外層、紙基材層、ガスバリア層、脱酸素剤を熱可塑性樹脂中に分散してなる酸素吸収性樹脂層、熱可塑性樹脂からなる酸素透過性樹脂層がこれらの順に積層されてなる紙基材脱酸素性多層体」は、本願補正発明の「外面側から、熱可塑性樹脂層/紙層/ガスバリア層/酸素吸収剤を含む接着性樹脂層/熱可塑性樹脂層の順で積層してなる積層材」に相当し、引用発明の「紙基材脱酸素性多層体を使用してなる脱酸素性紙容器」は、本願補正発明の「該積層材を使用し製函してなる紙容器」に相当する。

引用発明の「酸素吸収性樹脂層」は、接着性を備えることから、本願補正発明の「上記のガスバリア層と上記の熱可塑性樹脂層とを密接着させるものであり」を満たすことは明らかである。
引用発明の「酸変性ポリオレフィン類等の接着性樹脂」は、本願補正発明の「熱によって溶融し相互に融着し得るヒートシール性を有する接着性ポリオレフィン系樹脂」に相当し、引用発明が、「熱可塑性樹脂として、酸変性ポリオレフィン類等の接着性樹脂を用い」ることは、本願補正発明の接着性樹脂組成物が「熱によって溶融し相互に融着し得るヒートシール性を有する接着性ポリオレフィン系樹脂をビヒクルの主成分として含」むことに相当する。
引用発明の「脱酸素剤は、酸素吸収反応を生起することができるものであって、主剤に、金属粉、亜硫酸塩、亜二チオン酸塩、カテコール、没食子酸、多価アルコール、アスコルビン酸エステルが使用され、助剤に、主剤の酸素吸収反応を促進する化学物質、例えば、ハロゲン化金属やアルカリ剤が用いられ」ることは、本願補正発明の接着性樹脂組成物が「酸素吸収反応を生じる、金属粉、亜硫酸塩、亜二チオン酸塩、カテコール、没食子酸、多価アルコール、またはアスコルビン酸エステルの1種もしくは2種以上からなる酸素吸収剤を主剤として含み、更にまた、上記の主剤の酸素吸収反応を促進する、ハロゲン化金属またはアルカリ剤の1種もしくは2種からなる助剤を含む」ことに相当する。
引用発明の「MXナイロン」は、本願補正発明の「結晶性芳香族ポリアミド系樹脂」に相当する。

よって、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「外面側から、熱可塑性樹脂層/紙層/ガスバリア層/酸素吸収剤を含む接着性樹脂層/熱可塑性樹脂層、もしくは、熱可塑性樹脂層/紙層/熱可塑性樹脂層/酸素吸収剤を含む接着性樹脂層/ガスバリア層/酸素吸収剤を含む接着性樹脂層/熱可塑性樹脂層の順で積層してなる積層材を製造し、該積層材を使用し製函してなる紙容器において、
上記の酸素吸収剤を含む接着性樹脂層が、上記のガスバリア層と上記の熱可塑性樹脂層とを密接着させるものであり、熱によって溶融し相互に融着し得るヒートシール性を有する接着性ポリオレフィン系樹脂をビヒクルの主成分として含み、更に、上記の接着性ポリオレフィン系樹脂中に分散され、酸素吸収反応を生じる、金属粉、亜硫酸塩、亜二チオン酸塩、カテコール、没食子酸、多価アルコール、またはアスコルビン酸エステルの1種もしくは2種以上からなる酸素吸収剤を主剤として含み、更にまた、上記の主剤の酸素吸収反応を促進する、ハロゲン化金属またはアルカリ剤の1種もしくは2種からなる助剤を含む接着性樹脂組成物による接着性樹脂層からなり、
かつ、上記のガスバリア層が、結晶性芳香族ポリアミド系樹脂層からなる
紙容器。」

[相違点]
本願補正発明は、「酸素吸収剤を含む接着性樹脂層とのガスバリア層と熱可塑性樹脂層とが、3層共押出で積層されている」のに対し、引用発明はそのように特定されていない点。

3.判断
引用発明は、製造方法として共押し出しラミネーション法を用いたものである。そして、共押し出しラミネーション法を用いる際に、共押出の層数は、当業者が適宜に選択できる設計事項である。更に、引用発明の、ガスバリア層を構成するMXナイロン、酸素吸収性樹脂層を構成する酸変性ポリオレフィン類等の接着性樹脂、酸素透過性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂を3層共押出で積層できることは、当業者にとって技術常識である(例えば、特開2004-74785号公報【0028】参照。)。
よって、引用発明において、製造方法として共押し出しラミネーション法を用いるに際し、ガスバリア層、酸素吸収性樹脂層、酸素透過性樹脂層を3層共押出で積層すること、すなわち、相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願補正発明が、引用発明に比べて格別顕著な効果を奏するとも認められない。
したがって、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

請求人は、引用文献には、「ガスバリア層」と「酸素吸収剤を含む接着性樹脂層」と「熱可塑性樹脂層」の3層が、それぞれ密接着して、共押出し積層できるようにするという技術思想が示唆されていない旨主張する。
しかし、前述のとおり、引用文献には、ガスバリア層、酸素吸収性樹脂層、酸素透過性樹脂層がこれらの順に積層されることが記載され(【請求項1】)、酸素吸収性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂として接着性樹脂を用いることが記載され(【0016】)、共押し出しラミネーション法により製造できることが記載されている(【0024】)から、ガスバリア層、酸素吸収性樹脂層、酸素透過性樹脂層の3層が密接着して、共押出し積層できるという技術思想が示唆されているといえる。よって、上記請求人の主張は理由が無い。

また、請求人は、引用文献の実施例の記載に基いて、引用発明は、「ガスバリア層」と「酸素吸収性樹脂層」が「接着性樹脂層」を介して積層されるものであると主張する。
しかし、引用文献の【請求項1】?【請求項3】、【0004】の記載からみて、ガスバリア層と酸素吸収性樹脂層を接着する接着剤としての接着性樹脂は必須のものではないから、上記「1.」に示すとおりの引用発明を認定できる。よって、上記請求人の主張は失当である。

なお、上記請求人の主張を考慮して、引用文献の実施例1に記載された発明を前提とした場合についても、以下、予備的に判断を示しておく。
引用文献1の実施例1には、「最外層(LDPE)/紙層/接着性樹脂層B/接着性樹脂層A/ガスバリア層(MXナイロン)/接着性樹脂層A/酸素吸収性樹脂層(還元鉄粉と塩化カルシウムを含むLDPE)/酸素透過性樹脂層(LDPE)の順に積層されてなる紙基材脱酸素性多層体を使用してなる脱酸素性紙容器」の発明(以下、「実施例1発明」という。)が記載されている。
本願補正発明と実施例1発明とは、(1)実施例1発明は、接着性樹脂層A、及び接着性樹脂層Bが介在しており、本願補正発明のように、酸素吸収剤を含む接着性樹脂層とガスバリア層と熱可塑性樹脂層とが3層共押出で積層されていない点、(2)実施例1発明の酸素吸収性樹脂層は、本願補正発明の酸素吸収剤を含む接着性樹脂層のような、接着性ポリオレフィン系樹脂をビヒクルの主成分として含む接着性樹脂層とはされていない点、で相違する。
しかし、樹脂層を積層するに際し、接着剤を介在せずに多層共押出で積層することは周知である(例えば、前述の特開2004-74785号公報【0028】参照。)。また、引用文献の【請求項1】?【請求項3】、【0004】の記載からみて、紙基材層、ガスバリア層、酸素吸収性樹脂層、酸素透過性樹脂層の各層を接着する接着剤としての接着性樹脂は必須のものではなく、むしろ、酸素吸収性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂を接着性樹脂、具体的には酸変性ポリオレフィン類等とすることが記載され(【0016】)、共押し出しラミネーション法を採用できることも記載されている(【0024】)から、接着剤を介在させずに共押出で積層することが示唆されているといえる。更に、実施例1発明のガスバリア層は、本願補正発明の実施例のガスバリア層と同じ三菱ガス化学(株)製、商品名:MXナイロン6007であるから、紙層に直接積層することができるものである。
よって、実施例1発明において、酸素吸収性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂を接着性ポリオレフィン系樹脂とするとともに、接着性樹脂層A、接着性樹脂層Bを省いて、ガスバリア層、酸素吸収性樹脂層、酸素透過性樹脂層を3層共押出で積層すること、すなわち、上記(1)、(2)の相違点に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
以上のとおり、実施例1発明を前提としても、本願補正発明の進歩性は否定される。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年8月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「外面側から、熱可塑性樹脂層/紙層/ガスバリア層/酸素吸収剤を含む接着性樹脂層/熱可塑性樹脂層、もしくは、熱可塑性樹脂層/紙層/熱可塑性樹脂層/酸素吸収剤を含む接着性樹脂層/ガスバリア層/酸素吸収剤を含む接着性樹脂層/熱可塑性樹脂層の順で積層してなる積層材を製造し、該積層材を使用し製函してなる紙容器において、
上記の酸素吸収剤を含む接着性樹脂層が、上記のガスバリア層と上記の熱可塑性樹脂層とを密接着させるものであり、熱によって溶融し相互に融着し得るヒートシール性を有する接着性ポリオレフィン系樹脂をビヒクルの主成分として含み、更に、上記の接着性ポリオレフィン系樹脂中に分散され、酸素吸収反応を生じる、金属粉、亜硫酸塩、亜二チオン酸塩、カテコール、没食子酸、多価アルコール、アスまたはコルビン酸エステルの1種もしくは2種以上からなる酸素吸収剤を主剤として含み、更にまた、上記の主剤の酸素吸収反応を促進する、ハロゲン化金属またはアルカリ剤の1種もしくは2種からなる助剤を含む接着性樹脂組成物による接着性樹脂層からなることを特徴とする紙容器。」(当審注:上記記載中の「アスまたはコルビン酸」は「またはアスコルビン酸」の誤記と認める。)

第4 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は、前記「第2[理由]1.引用文献」に記載したとおりである。

第5 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から「ガスバリア層が、結晶性芳香族ポリアミド系樹脂層からなり」との限定事項を省き、「上記の酸素吸収剤を含む接着性樹脂層と上記のガスバリア層と上記の熱可塑性樹脂層とが、3層共押出で積層されている」との限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3.」に記載したとおり、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、実施例1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、実施例1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、実施例1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-13 
結審通知日 2013-02-19 
審決日 2013-03-04 
出願番号 特願2006-71207(P2006-71207)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B65D)
P 1 8・ 121- Z (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 楠永 吉孝  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 河原 英雄
紀本 孝
発明の名称 紙容器  
代理人 金山 聡  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ