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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E04B
管理番号 1273080
審判番号 無効2012-800096  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-06-08 
確定日 2013-04-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第4583311号発明「建築用下地建材」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4583311号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の手続の経緯は以下のとおりである。

平成18年 1月25日 本件出願(特願2006-16902)
平成22年 9月10日 設定登録(特許第4583311号)
平成24年 6月 8日 本件無効審判請求
平成24年 9月27日 審判事件答弁書提出
平成24年10月26日 審理事項通知
平成24年11月 6日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成24年11月 7日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成24年11月21日 口頭審理
平成24年12月 6日 審決の予告


第2 当事者の主張
1 請求人の主張の概要
請求人は,特許第4583311号発明の特許請求の範囲の請求項第1項及び第2項に記載された発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,甲第1?6号証を提出して,次の無効理由を主張した。

[無効理由の概要]
無効理由1:
「甲第1号証に記載された発明に甲第3号証に記載された発明を適用することにより請求項1に係る本件発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
したがって,請求項1に係る本件発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,請求項1に係る本件特許は無効とすべきである。」

無効理由2:
「甲第2号証に記載された発明に甲第3号証に記載された発明を適用することにより請求項1に係る本件発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
したがって,請求項1に係る本件発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,請求項1に係る本件特許は無効とすべきである。」

無効理由3:
「甲第1号証に記載された発明に甲第3,4号証に記載された発明を適用することにより請求項2に係る本件第2発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
したがって,請求項2に係る本件第2発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,請求項2に係る本件特許は無効とすべきである。」

無効理由4:
「甲第2号証に記載された発明に甲第3,4号証に記載された発明を適用することにより請求項2に係る本件第2発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
したがって,請求項2に係る本件第2発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,請求項2に係る本件特許は無効とすべきである。」

[証拠方法 ]
甲第1号証:特開2004-52540号公報
甲第1号証の2:甲第1号証の出願図面(図1?図8)
甲第2号証:特開2005-126977号公報
甲第2号証の2:甲第2号証の出願図面(図1?図3)
甲第3号証:特開2002-364101号公報
甲第4号証:特開2003-49497号公報
甲第5号証の1:特許第4583311号(本件特許の特許公報)
甲第5号証の2:特開2007-197981号公報(本件特許の出願公開公報)
甲第5号証の3:平成22(2006)年4月26日付提出の手続補正書(本件特許の第2回手続補正書)
甲第5号証の4:平成22(2010)年6月2日付起案の拒絶理由通知書(本件特許の拒絶理由通知)
甲第5号証の5:平成22(2010)年7月13日付提出の意見書(本件特許の意見書)
甲第5号証の6:平成22(2010)年7月13日付提出の手続補正書(本件特許の第3回手続補正書)
甲第6号証:甲第1号証の特許公報(特許請求の範囲の部分のみ)

2 被請求人の主張の概要
本件無効審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。


第3 本件特許発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明は以下のとおりのものである。なお,括弧による記号は構成ではないので削除した。また,【請求項1】に記載された「細長く形成されおり」と「一対に脚部とよりなり」は誤記と認め,それぞれ「細長く形成されており」,「一対の脚部とよりなり」と認定する。

「【請求項1】
断熱パネルの一面に固定され,所定のスペースをあけて内装材などの壁材を取り付けるための,建築用下地建材であって,
全長にわたり同一の横断面形状を有して細長く形成されており,横断面が中空閉断面で幅方向に長い長方形状をなし,かつ内外面が平坦に形成される本体部分と,その本体部分の内面側の幅方向の両端より略直角に外方に向かって延びる一対の脚部とよりなり,
前記一対の脚部は,前記断熱パネルに形成した溝内に差し込まれると共に前記本体部分の平坦な内面は,断熱パネルの一面に密に衝合されて,断熱パネルに固定されるようにされていることを特徴とする,建築用下地建材。
【請求項2】
前記一対の脚部には,抜止め用の凹凸が形成されていることを特徴とする,前記請求項1記載の建築用下地建材。」(以下,「本件発明1」等という。)


第4 無効理由についての判断
1 証拠方法の記載内容
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証?甲第4号証には,次の事項が記載されている。(下線は,当審にて付与。)

(1)甲第1号証(特開2004-52540号公報)
(1a)「【請求項1】
建築物の躯体に取付けられた断熱パネルの前面に,両側に相対向する脚条を有するチャンネル部材による下地組が施され,該チャンネル部材に内装下地材若しくは内装材又は外装下地材若しくは外装材が固定された構造を有する断熱構造体であって,
前記断熱パネルは前面に下地組に対応する案内溝を有し,該案内溝に前記チャンネル部材の脚条部分が挿入され,該チャンネル部材を介して固定部材によって該断熱パネルが躯体に取り付けられていることを特徴とする断熱構造体。
【請求項2】
前記断熱パネルは,複数の異なるピッチの案内溝を有することを特徴とする請求項1に記載の断熱構造体。
【請求項3】
前記断熱パネルと前記チャンネル部材との間に不陸調整用緩衝材を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の断熱構造体。」
(1b)「【0010】
本発明第1は,建築物の躯体に取付けられた断熱パネルの前面に,両側に相対向する脚条を有するチャンネル部材による下地組が施され,該チャンネル部材に内装下地材若しくは内装材又は外装下地材若しくは外装材が固定された構造を有する断熱構造体であって,前記断熱パネルは前面に下地組に対応する案内溝を有し,該案内溝に前記チャンネル部材の脚条部分が挿入され,該チャンネル部材を介して固定部材によって該断熱パネルが躯体に取り付けられていることを特徴とする。」
(1c)「【0024】
先ず,本発明第1及び第3の断熱構造体及びその施工方法の一例を図1乃至図3を用いて説明する。図1はRC壁の室内側に断熱パネルを取り付けた状態を示す斜視図,図2は図1中のA-A’面での断面図,図3は断熱パネルの前面に面材を固定した状態を示す断面図である。これらの図において,11はRC壁の躯体,12は断熱パネル,13は案内溝,14はチャンネル部材,15はチャンネル部材の脚条部分,16は不陸調整用緩衝材,17はアンカー(固定部材),18は面材,19はビスである。
【0025】
断熱パネル12にはチャンネル部材14の2つの脚条部分15の間隔と同じ間隔で案内溝13が縦方向に形成されており,この案内溝13はチャンネル部材14による下地組の位置に対応している。また,案内溝13の深さは,チャンネル部材14の脚条部分15の高さと概ね等しい。
【0026】
施工に際しては,先ず図1の斜視図及び図2の断面図に示すように,チャンネル部材14の脚条部分15を断熱パネル12の案内溝13に挿入し,このチャンネル部材14を介してアンカー17によって断熱パネル12を躯体11に取り付け固定する。この時,断熱パネル12とチャンネル部材14との間に不陸調整用緩衝材16を挟み込むのが良い。」
(1d)「【0028】
上記のように断熱パネル12とチャンネル部材14との間に不陸調整用緩衝材16を挟み込むことにより,RC壁の躯体11にある程度の不陸が生じていても,アンカー17の打ち込み深さを調整することによって,チャンネル部材表面のレベルを調節することができる。」
(1e)「【0030】
また,断熱パネル間の隙間対策として,断熱パネルの側面に相欠き,本実加工等を施すことが好ましい。このような形態とすることにより,相隣接するパネル同士を隙間無く結合することができると共に,多少の不陸があってもレベル調整をすることもできる。」
(1f)「【0036】
図8(a),(b)は,図7の断熱パネルを2枚用いてそれぞれ異なるピッチでチャンネル部材を取り付けた状態を示しており,(a)は303mmピッチ,(b)は455mmピッチで取り付けた例である。なお,2枚の断熱パネル同士の連結部分ではチャンネル部材14の2本の脚条部分を互いの案内溝13-3に挿入して連結し,隅み部等の端部ではチャンネル部材14の2本の脚条部分を案内溝13-3と案内溝13-4に挿入して取り付けることにより,全てのチャンネル部材を所定のピッチで取り付けることができる。
【0037】
チャンネル部材14には一般に鋼材が用いられるが,所定の強度を有していれば例えば硬質プラスチック等を用いることもできる。断熱パネル12に形成される案内溝13の部分は断熱欠損となるが,チャンネル部材14として熱伝導率の比較的小さいプラスチック材料を用いることにより,この部分の断熱欠損を小さく抑えることができる。
【0038】
前述のとおり断熱パネル12に設けられている案内溝13は,チャンネル部材14による下地組の位置に対応しているため,予め設計されたパネル割り付けに従って断熱パネル12を順次取り付けていくだけで,自動的に下地組の墨出しが成され,内装下地材等の面材を固定するための下地組が完成する。したがって,下地組の墨出しの必要がなく,下地組の施工を断熱パネルの取り付けと同時に簡単に行うことができる。」
(1g)「【0039】
図1及び図2のように施工した後は,図3に示すように,先に施工された下地組に面材18(内装下地材若しくは内装材,又は外装下地材若しくは外装材)をビス(釘・ビス等を含む概念である。)19を用いて固定することにより断熱構造体を構築することができる。」
(1h)「【0041】
このように,本例の断熱構造体及び施工方法によれば,断熱パネル12に設けられた案内溝13にチャンネル部材14の脚条部分15を挿入することによって,自動的に下地組の墨出しが成されるため,下地組の施工が簡略化され,断熱構造体の施工性を高めることができる。また,断熱パネル12とチャンネル部材14との間に不陸調整用緩衝材16を挟み込むことにより,コンクリート躯体面に若干不陸が生じている場合であっても,下地組のチャンネル部材表面のレベルを簡単に調整することができる。」
(1i)記載事項(1c)の【0026】には,「チャンネル部材14を介してアンカー17によって断熱パネル12を躯体11に取り付け固定する」と記載されており,図1,2もあわせみると,チャンネル部材14はアンカー17により躯体11に取り付け固定することにより断熱パネル12の一面である場所に動かないように固定されていると認められる。また,記載事項(1g)及び図3からみて,チャンネル部材14は断熱パネル12に隙間をあけてビス19により面材18を取り付けていると認められ,記載事項(1f)の【0038】,記載事項(1g)等からみて,面材18は内装下地材等であると認められる。
さらに図1からみて,チャンネル部材14は細長く形成されており,図1?3等からみて横断面が幅方向に長い長方形状の内外面が平坦な本体部分と,本体部分の幅方向両端より略直角に延びる一対の脚状部分15とよりなるものであると認められる。

したがって,記載事項(1a)?(1i)からみて,甲第1号証には以下の発明が記載されている。
「断熱パネル12の一面に固定され,断熱パネル12に隙間をあけてビス19により内装下地材等である面材18を取り付ける鋼材のチャンネル部材14であって,
細長く形成されており,横断面が幅方向に長い長方形状の内外面が平坦な本体部分と,本体部分の幅方向両端より略直角に延びる一対の脚状部分15とよりなり,
一対の脚状部分15は,断熱パネル12の案内溝13に挿入され,断熱パネル12の一面に固定されるチャンネル部材14」(以下,「甲1発明」という。)

(2)甲第2号証(特開2005-126977号公報)
(2a)「【請求項1】
建物の外壁の断熱構造において,
外装材もしくは内装材を取り付けるための胴縁材が,固定部材によって板状断熱材を外壁躯体に押さえつけて密着させるように取り付けられており,
前記板状断熱材は,前記胴縁材によって所定の圧縮応力を得て,前記胴縁材と一体となって外装材もしくは内装材を支持する下地を形成していることを特徴とする断熱構造体。
【請求項2】
(省略)
【請求項3】
(省略)
【請求項4】
(省略)
【請求項5】
(省略)
【請求項6】
前記胴縁材は,両側に相対向する脚条を有するチャンネル部材であり,前記板状断熱材は複数の案内溝を有し,該案内溝に前記チャンネル部材の脚条部分が挿入されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の断熱構造体。」
(2b)「【0003】
鉄筋コンクリート造等の外壁躯体に行う従来の断熱材の施工方法について示すと,一般に,押出法ポリスチレンフォームなどの板状の発泡プラスチック断熱材を鉄筋コンクリート等の外壁に施工する場合,打ち込み工法と後張り工法がある。
【0004】
打ち込み工法においては,コンクリートの型枠内に断熱材を設置して,若しくは,断熱材を接着した複合パネルを型枠として,コンクリートを打設し,コンクリートの付着力を利用してコンクリート躯体に取り付けられる(例えば,特許文献1及び特許文献2参照。)。
【0005】
後張り工法においては,コンクリート躯体が出来上がった後に接着剤等を用いてコンクリート躯体に取り付けられる。」
(2c)「【0012】
本発明の断熱構造体は,建物の外壁の断熱構造において,
外装材もしくは内装材を取り付けるための胴縁材が,固定部材によって板状断熱材を外壁躯体に押さえつけて密着させるように取り付けられており,
前記板状断熱材は,前記胴縁材によって所定の圧縮応力を得て,前記胴縁材と一体となって外装材もしくは内装材を支持する下地を形成していることを特徴とする。
【0013】
上記本発明の断熱構造体は,更なる特徴として,
「前記板状断熱材は,圧縮強さが14.7N(1.5kgf)/cm^(2)以上,圧縮弾性率が490N(50kgf)/cm^(2)以上の合成樹脂発泡体からなること」,
「前記板状断熱材は,前記胴縁材によって4.9N(0.5kgf)/cm^(2)以上,且つ,前記圧縮強さ以下の圧縮応力を得て,前記外壁躯体に取付けられていること」,
「前記胴縁材は,平板もしくは補強リブが設けられた平板であること」,
「前記胴縁材は山型鋼であり,前記板状断熱材は案内溝を有し,該案内溝に前記山型鋼の一辺が挿入されていること」,
「前記胴縁材は,両側に相対向する脚条を有するチャンネル部材であり,前記板状断熱材は複数の案内溝を有し,該案内溝に前記チャンネル部材の脚条部分が挿入されていること」,
を含む。」
(2d)「【0022】
本発明においては,胴縁材が板状断熱材を外壁躯体に押さえつけて密着させるように取り付けられる。このとき,胴縁材を取り付けるためのビス等の締め付け力によって板状断熱材に所定の圧縮応力を発生せしめ,かかる圧縮応力を利用して胴縁材のがたつきや振れを防止し,外装材もしくは内装材(あるいは外装下地材もしくは内装下地材)を安定して支持するように断熱構造体を構築する。即ち,板状断熱材は,胴縁材の下地材である共に,その胴縁材と一体となって外装材等を支持する下地を形成するように構築される。
【0023】
このため,上記圧縮応力によって板状断熱材が潰れたり,大きく圧縮変形して破壊されることがなく,長期に亘って外装材等を安定して支持できるようにするために,板状断熱材は所定の圧縮強さ及び圧縮弾性率(詳しくは後述する。)を有する硬質な合成樹脂発泡体を用いるのが好ましい。
【0024】
(省略)
【0025】
胴縁材には,ビス等の取り外し可能な固定部材によって外装材等が固定される。胴縁材は,板状断熱材を躯体に押し付けて密着させる働きと,外装材等を直接取り付けるための下地としての機能を有する。このため,胴縁材には,外装材等を支持するため,かつ板状断熱材の圧縮応力に耐えて直線性を維持するために,所定の強度が必要とされる。
【0026】
同じ断面積であれば,平板状のものよりもC字状もしくはL字状等のほうが曲げ強度に優れ,より荷重のある外装材等を支持することができると共に,外装等の仕上げ面の高い平坦性を容易に実現することができる。この胴縁材としては特にチャンネル部材(溝形鋼)もしくはアングル部材(山型鋼)が好適である。チャンネル部材もしくはアングル部材を用いた場合,その厚さは2.3mm以下(例えば厚さ1.6mm)のものであっても使用可能である。
【0027】
ただし,チャンネル部材は両側に相対向する脚条(フランジ部分)を有するため,板状断熱材に複数の案内溝を設け,この案内溝にチャンネル部材の脚条部分を挿入するのが良い。また,アングル部材を用いる場合には,板状断熱材の案内溝に一辺を挿入するのが良い。かかる構成によれば,外装材等を取り付ける面に大きな凹凸が発生せず,外装材等の取り付け作業性が損なわれることがない。」
(2e)「【0034】
そして,4.9N(0.5kgf)/cm^(2)以上の圧縮応力を板状断熱材に発生せしめる場合において,板状断熱材が潰れたり,大きく圧縮変形したりすることがないよう,板状断熱材の圧縮強さは14.7N(1.5kgf)/cm^(2)以上,圧縮弾性率が490N(50kgf)/cm^(2)以上であることが好ましいとの結論に達した。
【0035】
(省略)
【0036】
板状断熱材が上記の圧縮強さと圧縮弾性率を有することにより,4.9N(0.5kgf)/cm^(2)以上の圧縮応力を生じせしめても板状断熱材の潰れや問題となるような大きな圧縮変形を招くことがなく,且つ,胴縁材のがたつきや振れを防止することができる。尚,板状断熱材は,圧縮強さを超えると,ひずみは増加しても応力は微増するだけであるため,板状断熱材に発生せしめる圧縮応力は,長期に亘って外装材等を安定して支持できるようにするために,外装材等の面重量も考慮して,4.9N(0.5kgf)/cm^(2)以上で,且つ,前記圧縮強さ以下の範囲とするのが好ましい。」
(2f)「【0040】
図1乃至図3は本例の断熱構造体の施工方法の説明図であり,図1は板状断熱材を外壁躯体に仮止めした状態,図2は胴縁材を取り付けた状態,図3は胴縁材に外装材を取り付けた状態を示している(尚,(a)は正面図,(b)は断面図である。)。これらの図において,11はRC壁の外壁躯体,12は板状断熱材,13は案内溝,14aは平板鋼からなる胴縁材,14bは溝型鋼(チャンネル材)からなる胴縁材,15は外装材,21,22,23はビスである。
【0041】
(省略)
【0042】
また本例では,胴縁材14bとして,両側に相対向する脚条を有するチャンネル部材を用いるため,上記板状断熱材12にはチャンネル部材の脚条部分を挿入するための複数の案内溝13を形成してある。」
(2g)「【0046】
次に,胴縁材14a,14bの取り付けを行う(図2参照)。板状断熱材の端部には平板鋼からなる胴縁材14aを用いる。チャンネル材からなる胴縁材14bは,その脚状部分が,板状断熱材に設けた案内溝部分に納まるようにはめ込む。そして,ハンマードリルを用いて下穴をあけ,それを清掃した後に取り外し可能なビス22を用いて胴縁材14の留め付けを行う。この時,ビス22の締め付け力によって板状断熱材12を外壁躯体11に押さえつけて密着させるように取り付ける。より具体的には,板状断熱材12に4.9N(0.5kgf)/cm^(2)以上の圧縮応力が生じるようにビス22の締め付けを行う。なお,胴縁材14a,14bには,あらかじめビス留め付け用の穴を設けておくことが望ましい。
【0047】
最後に、胴縁材14a,14bに取り外し可能なビス23により角波鋼板(面重量20kg/m^(2)以下)からなる外装材15を取り付けることにより,本例の外断熱構造が構築される。」
(2h)図2,3からみて,胴縁材14bは隙間をつくって外装材15を取り付けるものであると認められる。
また,溝型鋼(チャンネル材)からなる胴縁材14bは,記載事項(2f),(2g)及び図2,3からみて細長く形成されており,両側に相対向する脚条(フランジ部分)とその間の内外面が平坦に形成される横断面が幅方向に長い長方形状の本体部分とを有し,脚条は本体部分から略直角に延びていると認められる。
さらに,記載事項(2g)の【0046】に「次に,胴縁材14a,14bの取り付けを行う(図2参照)。・・・チャンネル材からなる胴縁材14bは,その脚状部分が,板状断熱材に設けた案内溝部分に納まるようにはめ込む。・・・取り外し可能なビス22を用いて胴縁材14の留め付けを行う。この時,ビス22の締め付け力によって板状断熱材12を外壁躯体11に押さえつけて密着させるように取り付ける。より具体的には,板状断熱材12に4.9N(0.5kgf)/cm^(2)以上の圧縮応力が生じるようにビス22の締め付けを行う。」と記載され,胴縁材14bの止め付けはビス22を用いて行われ,板状断熱材12に4.9N(0.5kgf)/cm^(2)以上の圧縮応力が生じるようにビス22の締め付けを行うから,図2もあわせみると,胴縁材14bはビス22により外壁躯体11に留め付けられることにより,板状断熱材12の一面に密着して固定されるものと認められる。

したがって,記載事項(2a)?(2h)からみて,甲第2号証には以下の発明が記載されている。
「板状断熱材12の一面に固定され,隙間をつくって外装材15を取り付けるための溝型鋼(チャンネル材)からなる胴縁材14bであって,
細長く形成されており,両側に相対向する脚条とその間の内外面が平坦に形成される横断面が幅方向に長い長方形状の本体部分とを有し,脚条は本体部分から略直角に延びており,
両側に相対向する脚条は板状断熱材12の案内溝13に挿入されると共に,本体部分の平坦な内面は,板状断熱材12に密着して固定される胴縁材14a」(以下,「甲2発明」という。)

(3)甲第3号証(特開2002-364101号公報)
(3a)「【請求項1】構造躯体にファスナーを用いて固定する外壁仕上げ材の下地材であって,当該下地材は,金属薄板にて断面中空角形状に構成されると共に,当該中空角形状の前面板には作業孔が所定ピッチで複数開設されていることを特徴とする外壁仕上げ材用金属製下地材。」
(3b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,鉄骨造や木造の低層建築物における外壁仕上げ材用金属製下地材および金属製スペーサに関するものである。なお,以下の説明では,下地材,通気胴縁の用語を用いるが,ここで下地材とは,外壁仕上げ材の内側に配設する胴縁を総称する意味で用いる。また,通気胴縁とは,内部を空気が流通可能な鋼製中空角断面の胴縁をいい,下地材の代表的具体例として用いる。さらに,胴縁とは一般的には,壁を羽目板やボードなどを取付けるための水平材をいうが,本発明では,水平に配置するものに限らず,図示のような垂直的に配置したものも胴縁と称する。」
(3c)「【0009】ところで外張断熱方式では,ビスまたは釘などのファスナーを用いて外壁仕上げ材を構造躯体に接合する際に,下地材が断熱材を上から押えることになる。この場合断熱材は,一般に無機繊維系または発砲プラスチック系等の強度を有しない材料であるので,断熱材は下地材で押されて圧縮変形し,断面積が減少することにより断熱性能が低下するとともに,下地材の直立性が確保できずに,外壁仕上げ材の美観をそこなう。このため,下地材が断熱材を変形させないような構造上または施工上の工夫をする必要がある。」
(3d)「【0011】
【発明が解決しようとする課題】前述のように,鉄骨造や木造の低層建築物において,外壁仕上げ材用下地材を構造躯体に取付ける場合において,下地材の木材製から金属製への材料面での改良と,当該下地材を金属製とする場合のネックとなる施工性向上のための構造面での改良の必要性および,前記下地材を外張断熱材に取付け施工する場合において,当該断熱材の変形防止や断熱性能の低下を招かない外壁仕上げ材用下地材の取付け構造の改良が本発明の課題である。」
(3e)「【0013】第1の発明は,構造躯体にファスナーを用いて固定する外壁仕上げ材の下地材であって,当該下地材は,金属薄板にて断面中空角形状に構成されると共に,当該中空角形状の前面板には作業孔が所定ピッチで複数開設されていることを特徴とする。」
(3f)「【0027】図1?図4は,実施形態1として,スチールハウスにおける構造躯体と外壁仕上げ材の取付け構造を示す破断斜視図である。各図において,薄鋼板形鋼製のスタッド(間柱)などの柱材2の両フランジ3,または木製柱材2aに,石膏ボード等の内壁材4と合板等の構造用面材5を釘またはドリルねじ等のファスナー(図示省略)で固着して構造躯体1が構築される。構造用面材5の外側には,防湿気密フイルム(図示省略する)を介して,板厚約1.6mm以下の薄板メッキ鋼板にて構成された断面中空角形状の角形鋼製の下地材(以下通気胴縁という)7を垂直または水平に配設し,この通気胴縁7をファスナー6にて構造用面材5および柱材2または木製柱材2aに固定されている。本発明では,特に,中空角形状の通気胴縁7の前面板10aには作業孔8が所定ピッチで複数開設されている。そして,通気胴縁7を構造用面材5の外側に当てがい,前記の作業孔8を通してファスナー6を打設する。このときファスナー6は通気胴縁7の後面板10を貫通して形鋼製の柱材2のフランジ3または木製柱材2aに打設されることで,当該通気胴縁7が柱材2または木製柱材2aに固定される。」
(3g)「【0031】図5?図7は実施形態2を示し,図5は,外張断熱方式のスチールハウスにおける構造躯体と外壁仕上げ材の取付け構造を示す破断斜視図,図6は要部の拡大断面図,図7は金属スペーサの図である。実施形態2では,柱材2の両フランジ3に内壁材4と構造用面材5を固着してなる構造躯体1において,構造用面材5の外側に防湿気密フイルム13を介して断熱材14を配設し,さらに断熱材14の表面に配設した保護シート15の上から,実施形態1で示したと同じ通気胴縁7を当てがい,ファスナー6を打設して通気胴縁7を構造躯体1に固着する。
【0032】前記断熱材14の材料は一般に無機繊維系(石綿等)または発砲プラスチック系(スチレンフォーム)等の強度を有しない断熱材が用いられるが,通気胴縁7を構造躯体1にビスまたは釘等のファスナー6で接合するとき,前記断熱材14が変形しないようにスペーサが必要であり,この観点から実施形態2では,金属製スペーサ16を予め断熱材14に打設しておき,通気胴縁7は,この金属製スペーサ16の位置に配置することにより,通気胴縁7に押されて断熱材14が変形しないように構成されている。」
(3h)「【0034】実施形態2では,金属製スペーサ16を断熱材14に打設したとき,脚片17の先端が構造用面材5(つまり防湿気密フイルム13)に当たると共に,ファスナー貫通面18と断熱材14の表面が同じ高さに揃い,このファスナー貫通面18に通気胴縁7の後面板10を当てがう。そして,実施形態1と同様に,通気胴縁7の作業孔8を通してファスナー6を打設する。このときファスナー6は,通気胴縁7の後面板10と金属製スペーサ16のファスナー貫通面18を貫通して形鋼製の柱材2のフランジ3または木製柱材2aに打設することで,通気胴縁7の押圧力で断熱材14を変形させることなく,それ故に,断熱材14の変形による断熱性能の低下や,外壁仕上げ材11の美観をそこなうことなく,当該通気胴縁7が柱材2または木製柱材2aに固定される。」
(3i)図1,2,5,6からみて,下地材(通気胴縁)7は全長にわたりほぼ中空平断面で幅方向に長い長方形状の同一の横断面形状であると認められる。

(4)甲第4号証(特開2003-49497号公報)
(4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 建築物の内外装材取付け下地兼用の断熱パネルであって,断熱板の表面に面木を嵌着させるための周縁部に開放する面木用溝が設けられていることを特徴とする断熱パネル。
【請求項2】 (省略)
【請求項3】 (省略)
【請求項4】 前記面木が,前記断熱板の厚み方向の表面より突出していることを特徴とする請求項3に記載の断熱パネル。
【請求項5】 (省略)
【請求項6】 請求項3乃至5のいずれかに記載の断熱パネルの前記面木に,内装下地材若しくは内装材,又は外装下地材若しくは外装材がビス止めされてなることを特徴とする表面材付き断熱パネル。
【請求項7】 建築物の躯体フレームに請求項1又は2に記載の断熱パネルが固定され,該断熱パネルの前記面木用溝に面木が嵌着され,さらに該面木若しくは該面木に固定された胴縁に内装下地材若しくは内装材,又は外装下地材若しくは外装材が固定されていることを特徴とする断熱構造体。」
(4b)「【0025】この断熱パネル10は,建築物の内外装材取付け下地兼用の断熱パネルであり,断熱板11に設けられている面木用溝に予め面木12を嵌着させ,断熱板11に面木12を一体化したものである。」
(4c)「【0027】面木12は,内装下地材若しくは内装材,又は外装下地材若しくは外装材,又は胴縁(桟木)を取り付けるためのものである。」
(4d)「【0030】面木12は,断熱板11に十分な強度で嵌着させるために所望の断面形状とすることができる。本例の面木は,図1(b)に示すように,両側面に係止用の複数の突起を有する。このような形態を有する面木によれば,断熱板11への嵌着をより確実なものとし,脱落防止上,優れた効果を発揮する。尚,特に面木の嵌着強度を要求される場合は,接着剤を用いて面木を嵌着することもできる。
【0031】面木12は,本例のように断熱板11の表面とほぼフラットに埋めこんでも良いし,図2に例示するように断熱板11の表面より突出していても良い。更に,間仕切り壁用の断熱パネルについては,図3に例示するように断熱板11の両面に面木12を埋めこむこともできる。断熱板11への面木12の埋めこみ深さは特に限定されないが,断熱板の厚みの約半分程度にすることが好ましい。」
(4e)「【0033】また,図2に示したような面木12が断熱板11の厚み方向の表面より突出している断熱パネルを用いた場合には,面木12が通気胴縁を兼用することができるので,特に室外側壁・屋根断熱において手間が省けて好ましい。」
(4f)「【0056】(実施例3)本実施例は,図2に示したように面木12が断熱板11の表面より突出している本発明の面木付き断熱パネルを用いて,図6に示すような木造住宅の壁部分の外張り断熱構造体を施工する例である。
【0057】本実施例で用いた断熱パネル10は,厚さ75mmの押出発泡ポリスチレン板(商品名「スタイロエース」:ダウ化工(株)製)に,幅40mmのポリスチレン系硬質発泡体(発泡倍率2倍)からなる面木を455mmピッチで一体化したものである。尚,断熱板11(押出発泡ポリスチレン板)の裏面には防湿フィルム(不図示)が張り付けられており,面木12は断熱板11の表面より24mm突出している。
【0058】断熱パネル10の取付けは,面木部分で柱62及び間柱63にビス止めした。
【0059】続いて,面木12に外装材(不図示)をビス止めする。本実施例の断熱パネル10は,面木12が断熱板11の表面より突出しているため,面木12が通気胴縁を兼用することができ,実施例2のように通気胴縁を設けることなく,簡単に外装材を固定することができた。」


2 無効理由1についての判断
本件発明1と甲1発明を比較すると,
甲1発明の「断熱パネル12」は,本件発明1の「断熱パネル」に相当し,
以下同様に,
「内装下地材等である面材18」は,「内装材などの壁材」に,
「チャンネル部材14」は,「建築用下地建材」に,
「脚状部分15」は,「脚部」に,
「案内溝13」は,「溝」に,
それぞれ相当する。
また,甲1発明の「隙間」と本件発明1の「所定のスペース」は「スペース」である点で共通する。

したがって,本件発明1と甲1発明は,
「断熱パネルの一面に固定され,スペースをあけて内装材などの壁材を取り付けるための,建築用下地建材であって,
細長く形成されおり,横断面が中空平断面で幅方向に長い長方形状をなし,かつ内外面が平坦に形成される本体部分と,その本体部分の内面側の幅方向の両端より略直角に外方に向かって延びる一対の脚部とよりなり,
前記一対の脚部は,前記断熱パネルに形成した溝内に差し込まれ,断熱パネルに固定されるようにされていることを特徴とする,建築用下地建材。」で一致し,以下の点で相違している。

<相違点1>
「スペース」が,本件発明1では「所定の」スペースであるのに対して,甲1発明には「所定の」との限定がない点。
<相違点2>
本体部分が,本件発明1では「横断面が中空閉断面で幅方向に長い長方形状をなし」て,「全長にわたり同一の横断面形状を有して」いるのに対して,甲1発明では横断面が幅方向に長い長方形状であるものの,中空閉断面で全長にわたり同一の横断面形状を有しているものではない点。
<相違点3>
本件発明1では「本体部分の平坦な内面は,断熱パネルの一面に密に衝合されて」いるのに対して,甲1発明ではそのようなものか明らかでない点。

上記,相違点1?3について検討する。
<相違点1について>
本件明細書において,「所定の」と記載されているのは【請求項1】,技術分野が記載された【0001】,発明が解決しようとする課題が記載された【0003】,課題を解決するための手段が記載された【0005】であって,【0003】では所定のスペースをあけて固定した場合にスペース高さを高精度に確定するのが困難であるものとして「所定の」が記載されており,「所定の」が「断熱パネルと壁材間に全面にわたって一定となる」ことを意味するとは認められないから,「所定の」の有無は実質的に相違点ではない。
仮に「所定のスペース」が「断熱パネルと壁材間に全面にわたって一定となるスペース」を意味しているとしても,下記<相違点3について>に説明するとおり,甲第1号証には記載事項(1a),(1d),(1h)からみて,不陸調整用緩衝材を用いなくても良い不陸がないものが記載されており,刊行物1において図1?3のように図示されるチャンネル部材は,特段の事情がない限り横断面は長手方向で同じであると考えるのが通常であって,長手方向に同一形状のチャンネル部材で,かつ不陸調整用緩衝材を用いることなくチャンネル部材のみで支持されている二部材が一定の位置関係をなすことは自明であるから,依然として相違点とは認められない。さらに,仮に甲第1号証のスペースが「断熱パネルと壁材間に全面にわたって一定となるスペース」であるか否かが不明であるなどとして「所定の」との限定が実質的に相違点であるとしても,不陸調整用緩衝材がない場合の施工では断熱パネルに不陸があると壁材が安定しないから,不陸のないようにする方が一般的であると認められるので,断熱パネルを不陸のないものとして建築用下地建材であけるスペースを「断熱パネルと壁材間に全面にわたって一定となるスペース」とすることは当業者が容易になし得たこことである。

<相違点2について>
胴縁に厚みを持たせて隣り合う胴縁間の空間を通気空間として利用することは,請求人が平成24年11月6日付け口頭審理陳述要領書5ページで示した以下の先行技術文献からみて当業者に周知な技術事項と認められる。

特開平8-218505号公報,特開2003-232094号公報,特開2003-253781号公報,特開2003-301538号公報,特開2003-321885号公報,特開2003-336329号公報,特開2004-257097号公報,特開2004-270391号公報,特開2005-054433号公報,特開2005-307640号公報,特開2005-320681号公報,特開2005-336823号公報,特開2005-188039号公報,特開2005-307640号公報,特開2003-020743号公報,特開2002-004464号公報,特開平11-172886号公報,特開平11-022307号公報,特開平10-159200号公報

そうすると,甲1発明においても,胴縁に相当するチャンネル部材14の本体部分に厚さを持たせて胴縁間の空間を通気空間とすることは当業者が必要に応じて適宜行うことであって,チャンネル部材14に厚さを持たせる際に甲第3号証に記載された中空の胴縁を用いることは,当業者が容易になし得たことである。
ここで,中空の胴縁は,本件発明1では「全長にわたり同一の横断面形状」であり,「横断面が中空閉断面」であるのに対して,甲第3号証に記載された発明は作業孔8を有するため「全長にわたり同一の横断面形状」ではなく,「横断面が中空閉断面」でもないが,作業孔8の有無は胴縁に厚みを持たせることには直接関係が無く,胴縁に厚みを持たせるための構成として作業孔8のないものとすることは当業者の設計的事項と認められる。

<相違点3について>
記載事項(1a)の【請求項1】には不陸調整用緩衝材が記載されておらず,【請求項1】を限定した構成である【請求項3】に不陸調整用緩衝材が記載されていることからみて,甲第1号証には実質的に不陸調整用緩衝材を用いないものが記載されていると認められる。また,記載事項(1d)の「RC壁の躯体11にある程度の不陸が生じていても」,記載事項(1h)の「コンクリート躯体面に若干不陸が生じている場合であっても」という記載からみて,不陸調整用緩衝材16はコンクリート躯体11の表面に不陸が生じている場合に必要となる構成であり,コンクリート躯体11の表面に不陸が生じていなければ不要であると認められる。
そして,不陸調整用緩衝材を用いないものにおいても,チャンネル部材14が安定して取り付けられるべきものであることは当然であるから,チャンネル部材14の脚状部分15の間にある本体部分の内面を,断熱パネル12の一面に密に衝合させることは,当業者が容易に想到し得たことである。

また,上記の「1 証拠方法の記載内容 (1)甲第1号証」では,甲1発明をチャンネル部材14が断熱パネル12の一面に固定されるものとして認定したが,仮に甲第1号証に記載されたものが,チャンネル部材14が断熱パネル12の一面に固定されるものでないとしても,部材を固定する際に隣接する部材に固定することはごく一般的に行われていることであるから,建築用下地建材が断熱パネルに固定されるようにすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本件発明1の作用効果は,甲第1,3号証に記載された発明から当業者が予測できる範囲内のものであるから,甲第1号証に記載された発明に甲第3号証に記載された発明を適用することにより請求項1に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

3 無効理由2についての判断
本件発明1と甲2発明を比較すると,
甲2発明の「板状断熱材12」は,本件発明1の「断熱パネル」に相当し,
以下同様に,
「溝形鋼(チャンネル材)からなる胴縁材14b」は,「建築用下地建材」に,
「脚条」は,「脚部」に,
「案内溝13」は,「溝」に,
「本体部分の平坦な内面は,板状断熱材12に密着して固定される」点は,「本体部分の平坦な内面は,断熱パネルの一面に密に衝合され」る点に,
それぞれ相当する。
また,本件明細書の【背景技術】,【発明が解決しようとする課題】,【発明の効果】等には内装材と共に外装材が挙げられており,本件発明1の「内装材などの壁材」は外装材等も含むものと認められるから,甲2発明の「外装材15」は,本件発明1の「内装材などの壁材」に相当する。
また,甲2発明の「隙間」と本件発明1の「所定のスペース」は「スペース」である点で共通する。

したがって,本件発明1と甲2発明は,
「断熱パネルの一面に固定され,スペースをあけて内装材などの壁材を取り付けるための,建築用下地建材であって,
細長く形成されおり,横断面が中空平断面で幅方向に長い長方形状をなし,かつ内外面が平坦に形成される本体部分と,その本体部分の内面側の幅方向の両端より略直角に外方に向かって延びる一対の脚部とよりなり,
前記一対の脚部は,前記断熱パネルに形成した溝内に差し込まれると共に前記本体部分の平坦な内面は,断熱パネルの一面に密に衝合されて,断熱パネルに固定されるようにされていることを特徴とする,建築用下地建材。」で一致し,以下の点で相違している。

<相違点4>
「スペース」が,本件発明1では「所定の」スペースであるのに対して,甲2発明には「所定の」との限定がない点。
<相違点5>
本体部分が,本件発明1では「全長にわたり同一の横断面形状を有して」,「横断面が中空閉断面で幅方向に長い長方形状をなし」ているのに対して,甲2発明では横断面が中空平断面で幅方向に長い長方形状であるものの,中空閉断面ではない点。

上記相違点4,5について検討する。
<相違点4について>
本件明細書において,「所定の」と記載されているのは【請求項1】,技術分野が記載された【0001】,発明が解決しようとする課題が記載された【0003】,課題を解決するための手段が記載された【0005】であって,【0003】では所定のスペースをあけて固定した場合にスペース高さを高精度に確定するのが困難であるものとして「所定の」が記載されており,「所定の」が「断熱パネルと壁材間に全面にわたって一定となる」ことを意味するとは認められないから,「所定の」の有無は実質的に相違点ではない。
また,仮に「所定のスペース」が「断熱パネルと壁材間に全面にわたって一定となるスペース」を意味するとしても,被請求人は同口頭審理陳述要領書の4ページにおいて,甲2発明で板状断熱材は所定の圧縮応力を受けて圧縮変形するとの主張をしているものの,甲第2号証の記載事項(2d)における【0023】,記載事項(2e)の【0034】,【0036】の記載からみて,甲第2号証の板状断熱材12は,用いられる際には実質的に圧縮変形しないように用いられるものと認められ,図1,2で板状断熱材12が平面で記載されていると認められることや,技術常識からみて,胴縁材14bは板状断熱材12に全面にわたって一定のスペースをあけて外装材15を取り付けていると認められ,外装材を平面材とすることは当業者の設計的事項と認められるから,スペースを「断熱パネルと壁材間に全面にわたって一定となるスペース」とすることは当業者が容易になし得たこことである。さらに,仮に甲第2号証のスペースが「断熱パネルと壁材間に全面にわたって一定となるスペース」であるか否かが不明であるなどとして「所定の」との限定が実質的に相違点であるとしても,胴縁により壁材等の下に全面にわたって一定となるスペースを設けることは前記「<相違点2について>」で示した先行技術文献からみても明らかなように普通に行われていることであるから,スペースを「断熱パネルと壁材間に全面にわたって一定となるスペース」とすることは当業者が容易になし得たこことである。

<相違点5について>
胴縁に厚みを持たせて隣り合う胴縁間の空間を通気空間として利用することは,請求人が平成24年11月6日付け口頭審理陳述要領書5ページで示した複数の先行技術文献からみて当業者に周知な技術事項と認められる。そうすると,甲2発明においても,胴縁材14bに厚さを持たせて通気空間とすることは当業者が容易に想到することであって,胴縁材14bに厚さを持たせる際に甲第3号証に記載された中空の胴縁を用いることは,当業者が容易になし得たことである。
ここで,本件発明1では「全長にわたり同一の横断面形状」であり,「横断面が中空閉断面」であるのに対して,甲第3号証に記載された発明は作業孔8を有するため「全長にわたり同一の横断面形状」ではなく,「横断面が中空閉断面」でもないが,作業孔8の有無は胴縁に厚みを持たせる構成には関係が無いから,胴縁に厚みを持たせるための構成として作業孔8のないものとすることは当業者の設計的事項と認められる。

そして,本件発明1の作用効果は,甲第2,3号証に記載された発明から当業者が予測できる範囲内のものであるから,甲第2号証に記載された発明に甲第3号証に記載された発明を適用することにより請求項1に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

4 無効理由3についての判断
本件発明2と甲1発明を比較すると,「2 無効理由1についての判断」における一致点相違点の他に,以下の相違点が認められる。

<相違点6>
一対の脚部に,本件発明2には「抜け止め用の凹凸が形成されている」のに対して,甲1発明にはそのような構成は認められない点。

相違点について検討すると,「2 無効理由1についての判断」における相違点は既に検討したとおりであり,相違点6については以下のとおりである。
<相違点6について>
甲第4号証には,記載事項(4d)に「面木12は,断熱板11に十分な強度で嵌着させるために所望の断面形状とすることができる。本例の面木は,図1(b)に示すように,両側面に係止用の複数の突起を有する。このような形態を有する面木によれば,断熱板11への嵌着をより確実なものとし,脱落防止上,優れた効果を発揮する」と記載され,面木が両側面に係止用の複数の突起を有し,断熱板11への嵌着を確実なものとし,脱落防止上において優れた効果を発揮するものが記載されている。そして,甲1発明においても,チャンネル部材14の嵌着が確実である方が良いことは当然の事項であるから,当該面木の構成を甲1発明に適用して本件発明2の相違点4に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
この点については,平成24年10月26日付け審理事項通知書の「第1 合議体の暫定的見解」における「6」で,「請求項2の「一対の脚部には,抜け止め用の凹凸が形成されている」との構成については,甲第4号証から容易であると考えられる。」としたところ,被請求人は平成24年11月7日付け口頭審理陳述要領書の3ページ「6 に関して」で「合議体の見解に異論はありません。」と述べており,請求人も平成24年11月6日付け口頭審理陳述要領書11ページの「(5-3-6)「第2 合議体の暫定的見解」の6について」で「同意見である。」と述べていることから,請求人,被請求人とも認めているものである。

以上のことから,甲第1号証に記載された発明に甲第3,4号証に記載された発明を適用することにより請求項2に係る本件発明2の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

5 無効理由4についての判断
甲第2号証を主引例とする無効理由4についても「4 無効理由3についての判断 」と同様である。
したがって,甲第2号証に記載された発明に甲第3,4号証に記載された発明を適用することにより請求項2に係る本件発明2の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。


第5 むすび
以上のとおり,本件発明1,2は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,請求項1,2に係る本件特許は無効とすべきである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人の負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-19 
結審通知日 2013-02-21 
審決日 2013-03-06 
出願番号 特願2006-16902(P2006-16902)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (E04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小野 忠悦  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 高橋 三成
中川 真一
登録日 2010-09-10 
登録番号 特許第4583311号(P4583311)
発明の名称 建築用下地建材  
代理人 河合 典子  
代理人 仁木 一明  
代理人 安本 真珠美  
代理人 落合 健  
代理人 南 俊宏  
代理人 ▲ぬで▼島 愼二  
代理人 小島 高城郎  

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