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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1273280
審判番号 不服2010-6165  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-23 
確定日 2013-04-24 
事件の表示 特願2003-552386「眼の障害および疾患の治療用スーパーオキシドジスムターゼ模擬体」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月26日国際公開、WO03/51458、平成17年 5月12日国内公表、特表2005-513063〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2002年12月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2001年12月14日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年7月21日付けで拒絶理由が通知され、同年10月28日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年11月19日付けで拒絶査定された後、平成22年3月23日に拒絶査定不服審判請求がされたところ、平成24年7月30日付けで拒絶理由が通知され、同年10月23日付けで意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成21年10月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
式Iで表される化合物の薬理学的な有効量を含むことを特徴とする、加齢性黄斑変性症(AMD)、前増殖糖尿病網膜症を含む糖尿病網膜症(DR)および/または網膜浮腫の治療剤。


式中、R^(1)?R^(20)は独立して水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロシクロアルキル基またはヘテロシクロアルケニル基を表し、これら各基はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロシクロアルケニル基、ハロゲン、トリハロメチル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基またはアリールスルホニル基で、または遊離のあるいは機能的に修飾されている、水酸基、アミノ基またはチオール基で置換されていてもよく;
または、同じ位置(例えばR^(1)とR^(2)、またはR^(3)とR^(4)、またはR^(5)とR^(6)、など)あるいは隣接した位置(例えば、R^(1)とR^(3)、またはR^(3)とR^(5)、またはR^(6)とR^(7)、など)にあるR群の二つはそれらが結合する炭素原子と一緒になって、不飽和のまたは芳香族の炭素数3?20の炭素環を形成してもよく、該炭素環はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロシクロアルケニル基、ハロゲン、トリハロメチル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基またはアリールスルホニル基で、または遊離のあるいは機能的に修飾された、水酸基、アミノ基またはチオール基で置換されていてもよく;
または、同じ位置(例えばR^(1)とR^(2)、またはR^(3)とR^(4)、またはR^(5)とR^(6)、など)あるいは隣接した位置(例えば、R^(1)とR^(3)、またはR^(3)とR^(5)、またはR^(6)とR^(7)、など)にあるR群の二つはそれらが結合する炭素原子と一緒になって、不飽和のまたは芳香族の炭素数2?20の窒素含有複素環を形成してもよく、該複素環はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロシクロアルケニル基、ハロゲン、トリハロメチル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基またはアリールスルホニル基で、または遊離のあるいは機能的に修飾された、水酸基、アミノ基またはチオール基で置換されていてもよく;
式Iにおいて中心のマンガンに結合している窒素は、該窒素がすでに三置換されているとき(例えば、当該窒素がピリジン環の一部であるとき)は、いずれの場合も水素を含まないと解釈され;
X,YおよびZは薬理学的に許容されるアニオンであり;および
nは0?3である。
【請求項2】
該式Iの化合物において、
R^(7)R^(8)C-N-CR^(9)R^(10)は、5?8員の飽和または不飽和(芳香族を含む)の環を形成し、該環はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロシクロアルケニル基、ハロゲン、トリハロメチル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基またはアリールスルホニル基で、または遊離のあるいは機能的に修飾されている、水酸基、アミノ基またはチオール基で置換されていてもよく;
R^(5)、R^(6)、R^(11)、R^(12)、R^(17)、R^(18)、R^(19)およびR^(20)は、同一または異なって水素原子またはアルキル基であり;
R^(1)R^(2)C-CR^(3)R^(4)およびR^(13)R^(14)C-CR^(15)R^(16)は同一または異なって、5?8員の飽和または不飽和(芳香族を含む)の環を形成し、該環はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロシクロアルケニル基、ハロゲン、トリハロメチル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基またはアリールスルホニル基で、または遊離のあるいは機能的に修飾されている、水酸基、アミノ基またはチオール基で置換されていてもよく;
XおよびYは、塩素であり;および
nは0である、
ことを特徴とする請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
化合物が下記グループから選ばれることを特徴とする請求項2に記載の治療剤。



3.平成24年7月30日付け拒絶理由通知で引用された引用例A?Cの記載
(1)本件優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である国際公開01/019823号(引用例A)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、以下、日本語で記載する。また、下線は当審による)。
[A-1](特許請求の範囲)
「1. 以下の式を有するスーパーオキシドを不均化する触媒:


{式中、大環の窒素およびそれが結合する2の隣接する炭素原子は、独立して、2ないし20の炭素原子を有する置換型不飽和含窒複素環Wを形成し、それは、複素環および大環の両方の一部分である窒素に結合した水素ならびに複素環および大環の両方の一部分である炭素原子に結合したR基が存在しない場合には、芳香族複素環となり得;
R、R_(1)、R_(2)、R'_(2)、R_(3)、R'_(3)、R_(4)、R'_(4)、R_(5)、R'_(5)、R_(6)、R'_(6)、R_(7)、R'_(7)、R_(8)、R'_(8)、R_(9)およびR'_(9)は、独立して、水素、または置換型もしくは非置換型のアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキルアルキル、シクロアルキルシクロアルキル、シクロアルケニルアルキル、アルキルシクロアルキル、アルキルシクロアルケニル、アルケニルシクロアルキル、アルケニルシクロアルケニル、複素環、アリールおよびアラルキル基を表し;
所望により、R_(2)もしくはR'_(2)とR_(3)もしくはR'_(3)、R_(4)もしくはR'_(4)とR_(5)もしくはR'_(5)、R_(6)もしくはR'_(6)とR_(7)もしくはR'_(7)、またはR_(8)もしくはR'_(8)とR_(9)もしくはR'_(9)の1またはそれを超えるものは、それらが結合する炭素原子と一緒になって、独立して、2ないし20の炭素原子を有する置換型または非置換型の含窒複素環を形成し、それは、複素環および大環の両方の一部分である窒素に結合した水素ならびに複素環および大環の両方の一部分である炭素原子に結合したR基が存在しない場合には、芳香族複素環となり得;
所望により、R_(2)およびR'_(2)、R_(3)およびR'_(3)、R_(4)およびR'_(4)、R_(5)およびR'_(5)、R_(6)およびR'_(6)、R_(7)およびR'_(7)、R_(8)およびR'_(8)、ならびにR_(9)およびR'_(9)の1またはそれを超えるものは、それらが結合する炭素原子と一緒になって、独立して、3ないし20の炭素原子を有する飽和、部分飽和または不飽和の環式または複素環を形成し;
所望により、R、R_(1)、R_(2)、R'_(2)、R_(3)、R'_(3)、R_(4)、R'_(4)、R_(5)、R'_(5)、R_(6)、R'_(6)、R_(7)、R'_(7)、R_(8)、R'_(8)、R_(9)およびR'_(9)の1は、大環配位子中の異なる炭素原子に結合したR、R_(1)、R_(2)、R'_(2)、R_(3)、R'_(3)、R_(4)、R'_(4)、R_(5)、R'_(5)、R_(6)、R'_(6)、R_(7)、R'_(7)、R_(8)、R'_(8)、R_(9)およびR'_(9)の異なる1と一緒になって結合して、式:
-(CH_(2))_(x)-M-(CH_(2))_(w)-L-(CH_(2))_(z)-J-(CH_(2))_(y)-
[ここに、w、x、yおよびzは、独立して、0ないし10の整数であって、M、LおよびJは、独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール、アルカリル、アルクヘテロアリール、アザ、アミド、アンモニウム、オキサ、チア、スルホニル、スルフィニル、スルホンアミド、ホスホリル、ホスフィニル、ホスフィノ、ホスホニウム、ケト、エステル、アルコール、カルバマート、尿素、チオカルボニル、ボラート、ボラン、ボラザ、シリル、シロキシ、シラザおよびそれらの組合せよりなる群から選択される]によって表されるストラップを形成し得;
ならびに前記いずれかの組合せであり;
Mはマンガンおよび鉄よりなる群から選択される遷移金属のカチオンであり;ならびに
X、YおよびZは、いずれかの単座または多座配位子または配位子系由来の好適な配位子または荷電中和アニオンあるいはそれらの対応するアニオンを表す}。
・・・
29.当該予防または治療を必要とする対象に治療、予防、病理または回復有効量の請求項1記載の少なくとも1の化合物を投与することを含む、スーパーオキシドアニオンが関係する疾患または障害を予防または治療する方法。」

[A-2](2頁16行?3頁2行)
「スーパーオキシドジスムターゼ酵素に関連する問題点を克服するために、スーパーオキシドを不均化する非タンパク質触媒の設計および種々のスーパーオキシドに関連する病気におけるそれらの使用についての幾つかの研究が行われている。天然スーパーオキシドジスムターゼ酵素とほぼ同様に有効な触媒であることが示されている一群の触媒は、米国特許第5,610,293号、第5,637,578号および第5,874,421号に記載されているペンタアザシクロペンタデカン配位子のマンガンおよび鉄錯体である。これらの配位子は、大環の炭素上に種々の置換基を、または大環の炭素に結合した環式または複素環構造を有するペンタアザシクロペンタデカン大環として記載されている。これらの化合物は、触媒的スーパーオキシド不均化活性のみならず抗炎症活性を有すること、及び酸化的損傷を予防することが示されている。さらに、これらの化合物はラット前足カラギーナン痛覚過敏症モデルにおいて鎮痛活性を有することが示されている(米国特許出願番号第09/057,831号)。二つのかかる既述の鎮痛SOD模倣化合物は、化合物Aおよび化合物Bである:




[A-3](3頁4行?8行)
「発明の概要
驚くべきことに、本出願人らは、前記錯体のペンタアザシクロペンタデカン大環上の不飽和含窒複素環基への置換基の付加が、両方ともスーパーオキシドジスムターゼ触媒活性を劇的に変化させ、かつ、薬剤としてのこれらの錯体の効力を上昇させ得ることを見出した。」

そして、「化合物の表」(14?26頁)には、上記化合物Aのピリジン環(不飽和含窒素複素環)に置換基を付加した複数の化合物が記載されている。

(2)本件優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である特表平5-507916号公報(引用例B)には、以下の事項が記載されている(下線は当審による)。
[B-1](3頁右下欄11?14行)
「酸素の還元は、順にスーパーオキシド・アニオン、ヒドロペルオキシド(過酸化水素)、ヒドロキシラジカル、そして最後に水を含むいくつかの段階を経て起こる。各種の生物学的過程が、酸素または酸素由来物質からこれらのラジカル種を発生させる。」

[B-2](3頁右下欄下から8?6行)
「酸素由来ラジカル種による障害の標的の1つは細胞膜である。細胞膜での酸化による障害は、膜リン脂質のポリ不飽和脂肪酸を変化させ、或いは破壊する連鎖反応である脂質過酸化反応により増強される。」

[B-3](4頁右上欄9?18行)
「このように、酸化過程が、老人性(年齢関与型)白内障、光誘発型網膜障害、糖尿病性網膜症および老人性黄斑変性などの他の網膜障害、炎症性障害(例、ブドウ膜炎で認められるもの)、脈管漏出および浮腫(例、嚢様黄斑浮腫<cystoid macular edema>)、事故もしくは手術による外傷、脈管形成、角膜混濁、後水晶体繊維増殖症、および緑内障のある種の症状に関与していることが現在では知られている。
フリーラジカルが媒介する脂質過酸化などの上述した酸化過程の有害な作用を阻止するために、α-トコフェロール(抗酸化剤のビタミンE)、アスコルビン酸、グルタチオン、カタラーゼ、およびスーパーオキシドジスムターゼなどの多数の防御用化合物が体内で自然に産生される。」

(3)本件優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物であるThe Journal of Biological Chemistry, Vol.274, No.34, 1999, p.23828-23832(引用例C)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、以下、日本語で記載する。また、下線は当審による)。
[C-1](要約)
「・・・我々及び他者は、網膜脂褐素が活性酸素種の光誘導発生源であることを明らかにしたが、これがどのように細胞障害に転換するかは明らかでない。リソソーム中の脂褐素の位置は、照射された脂褐素がリソソームの膜又はリソソーム酵素の酸化障害を起こすことを暗示する。我々は、可視光線による脂褐素の照射が顆粒外脂質の過酸化、酵素の不活性化及びタンパク質の酸化の能力があることを発見した。これらの効果は、pH依存的であって、抗酸化剤であるスーパーオキシドジスムターゼ及び1,4-ジアゾビシクロ(2,2,2)-オクタンの添加によって顕著に減少した。このことは、スーパーオキシドアニオン及び一重項酸素の役割を裏付けている。我々は、脂褐素が、リソソームの完全性の欠損を引き起こすことにより網膜細胞の機能を危険にさらすかもしれないこと、及び、これが網膜光障害に関連する病状及び加齢性黄斑変性のような病気に対する主要な寄与因子であるかもしれないと仮定する。」

(4)引用発明
引用例Aには、治療有効量の請求項1記載の式で表される化合物を、スーパーオキシドアニオンが関係する疾患または障害の治療に用いることが記載され([A-1])、SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)模倣化合物として、化合物A及び化合物Bも記載されている([A-2])。ここで、引用例Aにおける上記「請求項1記載の式で表される化合物」は、[A-3]の記載及び「化合物の表」の記載から、具体的には、[A-2]に示される化合物Aのピリジン環(不飽和含窒素複素環)に置換基を付加した化合物であることが認められ、[A-3]の記載から、ピリジン環に置換基がある化合物もない化合物も、効力に差はあるものの、いずれもスーパーオキシドジスムターゼ活性を有する薬剤であることが認められる。
以上のことから、引用例Aには、「スーパーオキシドジスムターゼ活性を有する、化合物A、化合物B、又は化合物Aのピリジン環に置換基を付加した化合物の、治療有効量を含む、スーパーオキシドアニオンが関係する疾患または障害の治療剤」の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているといえる。

4.対比
本願請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」という)は、「請求項2の定義に従う式Iで表される化合物の薬理学的な有効量を含むことを特徴とする、加齢性黄斑変性症(AMD)、前増殖糖尿病網膜症を含む糖尿病網膜症(DR)および/または網膜浮腫の治療剤」と言い換えることができる。
そして、引用発明における「化合物A、化合物B、又は化合物Aのピリジン環に置換基を付加した化合物」は、「請求項2の定義に従う式Iで表される化合物」に相当する。
したがって、本願発明2と引用発明とを対比すると、両者は、「請求項2の定義に従う式Iで表される化合物の薬理学的な有効量を含むことを特徴とする治療剤」の点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
治療剤の対象疾患が、本願発明2では「加齢性黄斑変性症(AMD)、前増殖糖尿病網膜症を含む糖尿病網膜症(DR)および/または網膜浮腫」であるのに対し、引用発明では「スーパーオキシドアニオンが関係する疾患または障害」である点

5.判断
引用例Bには、酸素由来ラジカル種が細胞膜において酸化による障害を引き起こすこと([B-2])、酸化過程が糖尿病性網膜症、老人性黄斑変性、嚢様黄斑浮腫に関係し、フリーラジカルが媒介する脂質過酸化などの酸化過程の有害な作用を阻止するためにスーパーオキシドジスムターゼなどの防御用化合物が体内で産生されること([B-3])が記載されている。引用例Cには、加齢性黄斑変性症の寄与因子と考えられる脂褐素を可視光線照射することにより引き起こされる脂質過酸化が、スーパーオキシドジスムターゼの添加により顕著に減少したことが記載されている([C-1])。
ところで、酸素由来ラジカルにはフリーラジカルであるスーパーオキシドアニオンやヒドロキシラジカルが包含されること、酸素は1電子還元を受けてまずスーパーオキシドアニオンになり、これがさらに電子還元を受けてヒドロキシラジカル等を発生させること、スーパーオキシドジスムターゼがスーパーオキシドアニオンを消去する酵素であることは、いずれも本願優先日前に技術常識であった(必要なら、生化学辞典(第3版)、1998年、東京化学同人、597頁「酸素ラジカル」の項目参照)。
このような技術常識に照らせば、引用例Bに酸化による障害を引き起こすものとして記載された「酸素由来ラジカル」には、フリーラジカルであるスーパーオキシドアニオンが包含され、引用例Bに記載の「フリーラジカルが媒介する脂質過酸化などの酸化過程」や引用例Cに記載の「加齢性黄斑変性症の寄与因子と考えられる脂褐素」における「脂質過酸化」がスーパーオキシドジスムターゼにより阻止又は減少されたのは、スーパーオキシドジスムターゼがスーパーオキシドアニオンを消去したことによるものと理解できる。そして、酸素の還元によるラジカル種発生段階において、フリーラジカルであるスーパーオキシドアニオンが原料となって他のラジカルが発生すること([B-1]及び技術常識)も考慮すれば、引用例Bにおいて酸化過程が関係するとされる「糖尿病性網膜症、老人性黄斑変性、嚢様黄斑浮腫」は、酸素由来ラジカル種に包含されるスーパーオキシドアニオンが直接的又は間接的に関係する疾患であると解するのが相当である。なお、ここで、「老人性黄斑変性」は「加齢性黄斑変性」と同義であり、「嚢様黄斑浮腫」は「網膜浮腫」の一種と認められる。

してみれば、スーパーオキシドジスムターゼ活性を有する化合物を含有する治療剤に係る引用発明において、対象疾患である「スーパーオキシドアニオンが関係する疾患または障害」として、引用例Bに記載された「加齢性黄斑変性症(AMD)、前増殖糖尿病網膜症を含む糖尿病網膜症(DR)および/または網膜浮腫」を採用して、本願発明2に係る治療剤としてみることは、当業者が容易に想到することである。
そして、本願明細書には、式Iで表される化合物を加齢性黄斑変性症(AMD)、前増殖糖尿病網膜症を含む糖尿病網膜症(DR)および/または網膜浮腫の治療剤としたことによる効果は、何ら具体的に記載されておらず、本願発明2が、引用例A?Cから当業者が予想できる効果を超える顕著な効果を奏するとも認められない。

審判請求人は、平成24年10月23日付け意見書において、(ア)引用例A?Cには、本願発明の解決課題は記載も示唆もされておらず、各引用例から、本願発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆もない、(イ)引用例Bには、引用例Bに用いられるアミノ置換ステロイドを、引用例Aに記載の化合物に置換することの動機づけとなる示唆は存在せず、引用例Cには、スーパーオキシドジスムターゼを、引用例Aに記載の化合物に置換することの動機づけとなる示唆は存在しない旨主張している。
しかしながら、本願発明2、引用例A及び引用例Bは、スーパーオキシドアニオンが関係する疾患又は障害の治療という点で共通の課題を有するものであるし、本願発明2に到達することが当業者にとって容易であることは、すでに説示したとおりであるから、(ア)の主張は理由がない。
また、平成24年7月30日付けで通知した拒絶の理由では、引用例Bに記載のアミノ置換ステロイドやスーパーオキシドジスムターゼを引用例Aに記載の化合物に置換することが容易であるなどという判断をしているわけではないから、(イ)の主張は、拒絶の理由を正解しないものであり失当である。

6.むすび
以上のとおり、請求項2に係る発明は、引用例A、B及びCに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-26 
結審通知日 2012-11-27 
審決日 2012-12-10 
出願番号 特願2003-552386(P2003-552386)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 關 政立  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 前田 佳与子
荒木 英則
発明の名称 眼の障害および疾患の治療用スーパーオキシドジスムターゼ模擬体  
代理人 岩谷 龍  

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