• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07D
管理番号 1273388
審判番号 不服2011-6136  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-22 
確定日 2013-05-02 
事件の表示 特願2005-516369「3-(4-テトラヒドロピラニル)-3-オキソプロパン酸アルキル化合物及び4-アシルテトラヒドロピランの製法」拒絶査定不服審判事件〔2005年6月30日国際公開、WO2005/058859〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2004年12月17日(優先権主張2003年12月19日、同月22日、2004年11月12日、日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成22年 4月27日付け 拒絶理由通知
同年 7月16日 意見書・手続補正書
同年12月16日付け 拒絶査定
平成23年 3月22日 審判請求
平成24年12月 7日付け 拒絶理由通知
平成25年 2月12日 意見書・手続補正書

第2 平成24年12月7日付け拒絶理由通知について
当審は、平成24年12月7日付けで拒絶理由を通知したが、その拒絶理由通知の内容の概略は以下のとおりのものである。

『・・
第3 拒絶理由2
この出願の請求項1・・に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1:特開2001-172274号公報(原査定で引用した引用文献2)
・・
刊行物3:化学大辞典編集委員会編,「化学大辞典3 縮刷版」,1989年8月15日,縮刷版第32刷,p.390,「ケトンぶんかい」欄(当審で新たに引用する文献)
刊行物4:「ヘンドリックソン・クラム・ハモンド 有機化学(第3版)[I]」,廣川書店,昭和55年9月15日,第10刷,p.194, p.529(当審で新たに引用する文献)
刊行物5:化学大辞典編集委員会編,「化学大辞典2 縮刷版」,1989年8月15日,縮刷版第32刷,p.636,「かんじょうエーテル」欄(当審で新たに引用する文献)
刊行物6:JAMES. A.S. et al., Spiroaminobarbituric Acids. I, J. Am. Chem. Soc., 1959, Vol.81, p.5167-5171(当審で新たに引用する文献)
刊行物7:佐々木裕,計算化学による環状エーテル類のカチオン開環重合性の検討,東亞合成研究年報,2004, 7号, p.8-14(当審で新たに引用する文献)
・・
1 本願発明の認定
・・この出願の発明は・・次のとおりのものであると認める(以下、請求項1・・に係る発明を・・「本願発明1」・・といい、区別せずに「本願発明」ということがある。)。

「【請求項1】
酸の存在下、式(4):

式中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ、水素原子
;炭素原子数1?20の直鎖又は分岐アルキル基;炭素原子数1?6のア
シルオキシ基;及びハロゲン原子からなる群より選択された1種を表し、
R^(4)は、炭素原子数1?6の直鎖又は分岐アルキル基を表す、
で示される4-アシル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを脱炭酸反応させることを特徴とする、式(2):

式中、R^(1)及びR^(2)は、前記と同義である、
で示される4-アシルテトラヒドロピランの製法。
・・」
・・
2 刊行物に記載された発明
(1)刊行物1に記載された発明
・・刊行物1には、
「4-アセチル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを脱炭酸して4-アセチルテトラヒドロピランを製造する方法であって、塩基の存在下、4-アセチル-4-メチルオキシカルボニルテトラヒドロピランと過酸化水素とを反応させる方法」
の発明(以下、「引用発明1」という。)・・が記載されていると認められる。

3 本願発明1について
(1)対比
・・本願発明1と引用発明1は・・以下の点で相違する。

相違点1
4-アシル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロピランの脱炭酸反応を、本願発明1においては、「酸の存在下」で行うのに対し、引用発明1においては、「塩基の存在下、過酸化水素を作用させる」ことで行う点

(2)相違点1についての検討
・・引用発明1では、β-ケトエステルに相当する4-アシル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロピランの脱炭酸反応を、塩基の存在下、過酸化水素を作用させることで行っているものの、当業者の技術常識からみて・・β-ケトエステルを脱炭酸してケトンを生成する方法は、塩基の存在下だけでなく、加熱した硫酸等の酸の存在下で行うことができ・・6員環の環状エーテルであるテトラヒドロピランの誘導体は、硫酸存在下でも比較的安定に存在できるといえることを勘案すれば、引用発明1における脱炭酸反応を、加熱した硫酸等の「酸の存在下」で行うものとすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(3)効果について
・・引用発明1が、温和な条件下、繁雑な操作を必要とすることなく、4-アシルテトラヒドロピランを高収率で製造することができるものであることは当業者に明らかであって、さらに・・引用発明1における脱炭酸反応を、加熱した硫酸等の「酸の存在下」で行うものとしても、同様に、温和な条件下、繁雑な操作を必要とすることなく、4-アシルテトラヒドロピランを高収率で製造するできることは、当業者が予測できた範囲内のことであるといえる。

(4)小括
したがって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明(引用発明1)及び刊行物3?7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。
・・』

第3 当審の判断
当審の上記拒絶理由通知に対して、指定期間内に意見書及び手続補正書が提出されたので、その補正された後のこの出願の発明につき上記「第3 拒絶の理由2」と同様の理由が成立するか否か再度検討を行う。

1 本願発明
この出願の請求項1?4に係る発明は、平成25年2月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものであると認める。

「酸の存在下、式(4):

式中、R^(1)及びR^(2)は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ、水素原子
;炭素原子数1?20の直鎖又は分岐アルキル基;炭素原子数1?6のア
シルオキシ基;及びハロゲン原子からなる群より選択された1種を表し、
R^(4)は、炭素原子数1?6の直鎖又は分岐アルキル基を表す、
で示される4-アシル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを脱炭酸反応させることを特徴とする、式(2):

式中、R^(1)及びR^(2)は、前記と同義である、
で示される4-アシルテトラヒドロピランの製法。」

2 刊行物に記載された事項
(1)上記拒絶理由通知で引用した本願最先優先日(2003年12月19日)前に頒布された上記刊行物1(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1-ア)「【請求項1】塩基の存在下、一般式(1)

(Rは、アルキル基を示す。)で示される4-アセチル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロピランと過酸化水素とを反応させることを特徴とする、4-アセチルテトラヒドロピランの製法。」
(1-イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、4-アセチル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを脱炭酸して4-アセチルテトラヒドロピランを製造する方法に関する。・・」
(1-ウ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、4-アセチル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロピランから、温和な条件で繁雑な操作を必要とすることなく、4-アセチルテトラヒドロピランを高収率で製造することが出来る、4-アセチルテトラヒドロピランの製法を提供するものである。」
(1-エ)「【0008】前記アルキル基としては、特に炭素数1?5のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基(及びその異性体)、ブチル基(及びその異性体)、ペンチル基(及びその異性体)が挙げられる。」

(2)本願最先優先日前の技術常識を示すために上記拒絶理由通知で引用した、本願最先優先日前に頒布された上記刊行物3(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2-ア)「β-ケトエステルを酸または弱アルカリで加水分解するとケトン分解によってケトンが得られ,アセト酢酸合成法に応用されている.・・
CH_(3)COCRR’COOC_(2)H_(5)
H^(+)
??→ CH_(3)COCHRR’+CO_(2)+C_(2)H_(5)OH
・・通常用いられる酸としては硫酸,リン酸および酢酸-硫酸がある.」(第390頁「ケトンぶんかい」の項)

(3)本願最先優先日前の技術常識を示すために上記拒絶理由通知で引用した、本願最先優先日前に頒布された上記刊行物4(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(3-ア)「・・環系列全体のひずみの順は,3>4>5>6<7<8<9<10>11>12となり,シクロヘキサンではひずみはなくそれよりも大きな環の中ではシクロデカンが最もひずんでいる.・・」(194頁「中位の環」の項第1?3行)
(3-イ)「・・β位のカルボニル基は切れていくCOOHとの結合から電子を受けとる・・生成したエノールが直ちにより安定なケトン互変異性体へもどる.

」(第529頁「脱炭酸」の項第14?16行、中図)
(3-ウ)「温めた酸性の媒質中で・・エステル基は,まずうすい酸で加水分解され,その結果生じたβ-ケト酸がつづいて脱炭酸する.・・

」(第529頁「脱炭酸」の項第17?19行、下図)

(4)本願最先優先日前の技術常識を示すために上記拒絶理由通知で引用した、本願最先優先日前に頒布された上記刊行物5(以下「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。

(4-ア)「・・環状エーテルは鎖状エーテルとよく似た性質の安定な化合物である・・」(第636頁「かんじょうエーテル」の項)

(5)本願最先優先日前の技術常識を示すために新たに引用する、本願最先優先日前に頒布された刊行物:ROBERT L. BURWELL JR., The Cleavage of Ethers., Chem. Rev., 1954, Vol.54, No.4, p.615-685(以下「引用文献5」という。)には、当審による和訳にして、以下の事項が記載されている。

(5-ア)「テトラヒドロフランと濃塩酸が、加圧下のフロー反応器中で180℃の温度にさらされる場合には、再循環式により、テトラメチレンクロライド(当審注:1,4-ジクロロブタン)の定量的な収率を得ることもできる。テトラヒドロピランでは、対応する反応はずっと困難である。」(第635頁第9?12行)

(6)本願最先優先日前の技術常識を示すために新たに引用する、本願最先優先日前に頒布された刊行物:OLIVER W. C., Chemical Intermediates from Furfural, Ind. Eng. Chem., 1948, Vol.40, No.2, p.216-219(以下「引用文献6」という。)には、当審による和訳にして、以下の事項が記載されている。

(6-ア)「テトラヒドロフランの開環反応は多くある。これらの反応で最も重要なのは塩酸を使用したもので、激しい反応条件下で開環し、1,4-ジクロロブタンを唯一の生成物として与える。この反応を実施する最も簡単な方法は、テトラヒドロフランと塩酸の混合物を15?20気圧下、180℃に保持された反応器に通過させることである。・・塩酸によるテトラヒドロピランの6員環の開環は、テトラヒドロフランの5員環のそれよりもずっと難しい・・」(第217頁右欄第31行?第218頁左欄第5行、第219頁右欄第25?27行)

(7)本願最先優先日前の技術常識を示すために新たに引用する、本願最先優先日前に頒布された刊行物:PAUL R. S. et al., Syntheses from 4-Chlorotetrahydropyran, J. Org. Chem., 1971, Vol.36, No.4, p.522-525(以下「引用文献7」という。)には、当審による和訳にして、以下の事項が記載されている。

(7-ア)「・・4-クロロテトラヒドロピラン(1)
・・
48%の臭化水素酸と濃硫酸の混合物を添加し、2.5時間、還流式で化合物1の反応を行ったところ、1,5-ジブロモ-3-クロロペンタンの収率は72%であった。共沸臭化水素酸を単独で使用したところ、同じ条件でも低転化率であった。塩酸又は塩化亜鉛-塩酸で類似の開裂をしたところ、反応時間を延長しても生成した1,3,5-トリクロロペンタンは非常に少量だけであった。」(第522行左欄第8行、第523頁左欄下から第7行?右欄第2行)

3 本願発明についての検討
(1)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、「4-アセチル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを脱炭酸して4-アセチルテトラヒドロピランを製造する方法」(摘示(1-イ))において、「塩基の存在下、一般式(1)

(Rは、アルキル基を示す。)で示される4-アセチル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロピランと過酸化水素とを反応させること」(摘示(1-ア))が記載されている。
また、「前記アルキル基としては、特に炭素数1?5のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基・・が挙げられる」(摘示(1-エ))ことが記載されている。
したがって、引用文献1には、
「4-アセチル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを脱炭酸して4-アセチルテトラヒドロピランを製造する方法であって、塩基の存在下、4-アセチル-4-メチルオキシカルボニルテトラヒドロピランと過酸化水素とを反応させる方法」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(2)本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比すると、
ア 引用発明における「4-アセチル-4-メチルオキシカルボニルテトラヒドロピラン」は、テトラヒドロキシピラン4位に、アセチル基とメチルオキシカルボニル基を配位した構造であるから、本願発明における「式(4):

で示される4-アシル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロプラン」において、テトラヒドロキシピラン4位のアシル基がアセチル基、アルコキシカルボニル基がメチルオキシカルボニル基、すなわち、「R^(1)」及び「R^(2)」が「水素」で、「R^(4)」が「メチル基(炭素原子数1の直鎖アルキル基)」である場合に相当し、
イ そうすると、引用発明における「4-アセチル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを脱炭酸」することは、本願発明における「式(4):

で示される4-アシル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロプランを脱炭酸反応」させることに相当し、
ウ また、引用発明における「4-アセチルテトラヒドロピラン」は、本願発明における「式(2):

で示される4-アシルテトラヒドロピラン」において、テトラヒドロピラン4位のアシル基がアセチル基、すなわち、「R^(1)」及び「R^(2)」が「水素」である場合に相当し、
エ そうであれば、引用発明における「4-アセチルテトラヒドロピランを製造する方法」は、本願発明における「式(2):

で示される4-アシルテトラヒドロピランの製法」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明は、
「式(4):

式中、R^(1)及びR^(2)は、水素原子を表し、
R^(4)は、炭素原子数1の直鎖アルキル基を表す、
で示される4-アシル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを脱炭酸反応させることを特徴とする、式(2):

式中、R^(1)及びR^(2)は、前記と同義である、
で示される4-アシルテトラヒドロピランの製法。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

相違点
4-アシル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロピランの脱炭酸反応を、本願発明においては、「酸の存在下」で行うのに対し、引用発明においては、「塩基の存在下、過酸化水素を作用させる」ことで行う点

(3)相違点についての検討
ア β-ケトエステルの脱炭酸反応について
引用文献2において、「β-ケトエステルを酸または弱アルカリで加水分解するとケトン分解によってケトンが得られ・・る」(摘示(2-ア))と記載されているように、β-ケトエステルを酸または弱アルカリで分解してケトンを生成する方法は当業者の技術常識である。
また、引用文献3において、「温めた酸性の媒質中で・・エステル基は,まずうすい酸で加水分解され,その結果生じたβ-ケト酸がつづいて脱炭酸する」(摘示(3-ウ))、「β位のカルボニル基は切れていくCOOHとの結合から電子を受けとる・・生成したエノールが直ちにより安定なケトン互変異性体へもどる」(摘示(3-イ))と記載されているように、上記酸でケトンを生成する方法が、加熱した酸の存在下、β-ケトエステルが加水分解、脱炭酸される機構に基づくことも当業者の技術常識である。

イ 酸の存在下でのテトラヒドロピランの誘導体の安定性について
引用文献4において、「環状エーテルは鎖状エーテルとよく似た性質の安定な化合物である」(摘示(4-ア))と記載され、引用文献3において、「環系列全体のひずみの順は,3>4>5>6<7<8<9<10>11>12となり,シクロヘキサンではひずみはなく」(摘示(3-ア))と記載されているように、6員環の環状エーテル、すなわち、テトラヒドロピランについて、ひずみエネルギーが極めて低く、鎖状エーテルと類似の安定性を有することは、当業者の技術常識である。
さらに、引用文献5において、「テトラヒドロフランと濃塩酸が、加圧下のフロー反応器中で180℃の温度にさらされる場合には、再循環式により、テトラメチレンクロライド(当審注:1,4-ジクロロブタン)の定量的な収率を得ることもできる・・テトラヒドロピランでは、対応する反応はずっと困難である」(摘示(5-ア))と記載され、引用文献6において、「テトラヒドロフランの開環反応・・を実施する最も簡単な方法は、テトラヒドロフランと塩酸の混合物を15?20気圧下、180℃に保持された反応器に通過させることである・・塩酸によるテトラヒドロピランの6員環の開環は、テトラヒドロフランの5員環のそれよりもずっと難しい・・」(摘示(6-ア))と記載され、引用文献7において、「・・4-クロロテトラヒドロピラン(1)・・48%の臭化水素酸と濃硫酸の混合物を添加し、2.5時間、還流式で化合物1の反応を行ったところ、1,5-ジブロモ-3-クロロペンタンの収率は72%であった・・塩酸・・で類似の開裂をしたところ、反応時間を延長しても生成した1,3,5-トリクロロペンタンは非常に少量だけであった」(摘示(7-ア))と記載されているように、テトラヒドロピランの誘導体の開環について、テトラヒドロフランの開環反応が生じるような加熱した酸の存在下でも、塩酸を単独使用する程度の酸を使用する限り困難であることは、当業者の技術常識である。
以上から、テトラヒドロピランの誘導体について、環ひずみエネルギーが極めて低く、加熱した酸の存在下でも、塩酸程度の酸を使用する限り、開環しがたく比較的安定に存在できることは、当業者の技術常識であるといえる。

ウ 検討
そうすると、引用発明では、β-ケトエステルに相当する4-アシル-4-アルコキシカルボニルテトラヒドロピランの脱炭酸反応を、塩基の存在下、過酸化水素を作用させることで行っているものの、別の反応条件の適用を試みることは当業者の通常の創作能力の発揮であり、当業者の技術常識からみて、上記アで示したとおり、β-ケトエステルを脱炭酸してケトンを生成する方法は、塩基の存在下だけでなく、加熱した酸の存在下で行うことができ、上記イで示したとおり、テトラヒドロピランの誘導体は、加熱した酸の存在下でも、塩酸程度の酸を使用する限り、開環しがたく比較的安定に存在することを勘案すれば、引用発明における脱炭酸反応を、テトラヒドロピランの誘導体が比較的安定に存在できる塩酸程度の酸を使用して、加熱した「酸の存在下」に行うことは、当業者が容易に想到できたことである。

(4)効果について
本願明細書の段落【0022】には、発明の効果として、「本発明により、温和な条件下、繁雑な操作を必要とすることなく、4-アシルテトラヒドロピランを高収率で製造することが出来る、工業的に好適な4-アシルテトラヒドロピランの製法を提供することが出来る」と記載されている。
一方、引用文献1には、「温和な条件下、繁雑な操作を必要とすることなく、4-アシルテトラヒドロピランを高収率で製造することが出来る、4-アシルテトラヒドロピランの製法を提供するものである」(摘示(1-ウ))と記載されており、引用発明が、温和な条件下、繁雑な操作を必要とすることなく、4-アシルテトラヒドロピランを高収率で製造することができるものであることは当業者に明らかである。
上記(3)ウで示したとおり、引用発明における脱炭酸反応を、テトラヒドロピランの誘導体が比較的安定に存在できる塩酸程度の酸を使用して、加熱した酸の存在下に行うとしても、温和な条件下、繁雑な操作を必要としないことに変更はなく、同様に4-アシルテトラヒドロピランを高収率で製造するできることも容易に推認できる。
そうすると、本願発明の効果は、当業者が予測できた範囲内のものである。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成25年2月12日に提出した意見書の【意見の内容】2-2.(2)において、「刊行物4?7の記載を参酌しても、テトラヒドロピランが鎖状エーテルと同等の安定性を有するものであるとはいえず、むしろ出願人が従前から主張するように、テトラヒドロピラン環は、鎖状エーテルよりも安定性に欠くことから、このような技術常識を認識する当業者は、これを酸の存在下での反応に付すことは容易に想到し得なかったことである」と主張する。
しかしながら、テトラヒドロピランの誘導体について、環ひずみエネルギーが極めて低く、加熱した酸の存在下でも、塩酸程度の酸を使用する限り、開環しがたく比較的安定に存在できることは、当業者の技術常識であるといえるのは、上記(3)イで示したとおりであり、そうであれば、上記(3)ウで示したとおり、引用発明における脱炭酸反応を、テトラヒドロピランの誘導体が比較的安定に存在できる塩酸程度の酸を使用して、加熱した酸の存在下に行うことは、当業者が容易に想到できたことである。
審判請求人が主張するように、テトラヒドロピラン環は鎖状エーテルよりも安定性に欠くとしても、テトラヒドロピランの誘導体が開環しがたく比較的安定に存在できる程度に酸や加熱温度を調整してみることは可能であり、それは、上記(3)イで示した技術常識からすれば、当業者が通常の創作能力の範囲内でなしうる程度のことに過ぎない。
してみると、上記審判請求人の主張は採用できない。

(6)本願発明についての検討のまとめ
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明(引用発明)及び引用文献2?7に記載された発明(技術常識)に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

4 当審の判断のまとめ
上記3で示したとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明(引用発明)及び引用文献2?7に記載された発明(技術常識)に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2条の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に記載された事項で特定される発明(本願発明)は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、その余につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-01 
結審通知日 2013-03-05 
審決日 2013-03-18 
出願番号 特願2005-516369(P2005-516369)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渕野 留香  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 村守 宏文
齋藤 恵
発明の名称 3-(4-テトラヒドロピラニル)-3-オキソプロパン酸アルキル化合物及び4-アシルテトラヒドロピランの製法  
代理人 津国 肇  
復代理人 伊藤 佐保子  
復代理人 齋藤 房幸  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ