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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1273425
審判番号 不服2012-15465  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-09 
確定日 2013-05-02 
事件の表示 特願2007- 15887「バリア性フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月 7日出願公開、特開2008-179104〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成19年1月26日の出願であって、平成23年6月29日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対して平成23年9月1日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、平成24年5月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成24年8月9日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし24に係る発明は、平成23年9月1日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし24に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
ナイロン樹脂とナイロンMXD6樹脂との混合樹脂からなるナイロンフィルムであって、更に、縦及び横方向に延伸してなる二軸延伸ポリアミドフィルムと、
該二軸延伸ポリアミドフィルムの一方の面に設けたバリア性層と、
該バリア性層の上に設けたガスバリア性塗布膜とからなり、
更に、上記のバリア性層は、少なくとも3室以上の製膜室を使用し、かつ、各室毎に、少なくとも、有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマ-ガス、酸素ガス、および、不活性ガスを含有する製膜用混合ガス組成物の各ガス成分の混合比を変えて調製した3以上の製膜用混合ガス組成物を使用し、その各製膜用混合ガス組成物を使用して製膜した3層以上のプラズマ化学気相成長法による炭素含有酸化珪素膜からなり、更に、該各炭素含有酸化珪素膜は、その膜中に炭素原子を含有し、かつ、各酸化珪素膜毎に炭素含有量が異なる炭素含有酸化珪素膜からなり、
また、上記のガスバリア性塗布膜は、一般式R^(1) n M(OR^(2) )m (ただし、式中、R^(1) 、R^(2) は、炭素数1?8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコ-ル系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコ-ル共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜からなること
を特徴とする直線カット性を有するバリア性フィルム。」
(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

3.刊行物の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である国際公開第2006/019083号(以下「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。

ア 「[0001] 本発明は、ガスバリア性を有する積層フィルムおよびその製造方法に関し、より詳細には、優れたガスバリア性を有しつつ透明性を備え、耐衝撃性にも優れる、ガスバリア性積層フィルムおよびその製造方法に関する。」

イ 「[0012] 上記課題を解決するため、本発明のガスバリア性積層フィルムは、基材上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるガスバリア性積層フィルムであって、
基材の、蒸着膜が形成される面側には、前処理またはプライマーコート処理が施されてなり、
前記ガスバリア性塗布膜は、前記無機酸化物膜上にガスバリア性塗工液を塗布した後、加熱することにより形成されたものである、ことを特徴とするものである。」

ウ 「[0020] 基材
本発明のガスバリア性積層フィルムを構成する基材としては、化学的ないし物理的強度に優れ、無機酸化物の蒸着膜を形成する条件等に耐え、それら無機酸化物の蒸着膜等の特性を損なうことなく良好に保持し得ることができる樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。
[0021] このような樹脂のフィルムないしシートとしては、具体的には、例えば、ポリエチレン系樹脂あるいはポリプロピレン系樹脂等のポリオレフイン系樹脂、環状ポリオレフイン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリルル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂、その他等の各種の樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。
[0022] 本発明においては、上記の樹脂のフィルムないしシートの中でも、特に、ポリエステル系樹脂、ポリオレフイン系樹脂、または、ポリアミド系樹脂のフィルムないしシートを使用することが好ましい。
[0023] 本発明において、上記の各種の樹脂フィルムないしシートとしては、例えば、上記の各種の樹脂1種ないしそれ以上を使用し、押し出し法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法、その他等の製膜化法を用いて、上記の各種の樹脂を単独で製膜化する方法、あるいは、2種以上の各種の樹脂を使用して多層共押し出し製膜化する方法、さらには、2種以上の樹脂を使用し、製膜化する前に混合して製膜化する方法等により、各種の樹脂のフィルムないしシートを製造し、さらに、所望により、例えば、テンター方式、あるいは、チューブラマ方式等を利用して1軸ないし2軸方向に延伸した各種の樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。」

エ 「[0031] 蒸着膜
次に、本発明のガスバリア性積層フィルムを構成する蒸着膜について説明する。本発明においては、蒸着膜は、化学気相成長法または物理気相成長法により形成することができる。
[0032] 化学気相成長法による蒸着膜の形成
化学気相成長法として、具体的には、例えば、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(chemical Vapor Deposition法、CVD法)を用いて形成することができる。
[0033] さらに具体的には上記の樹脂のフィルムないしシートの一方の面に、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスを原料とし、キヤリヤーガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、さらに酸素を供給ガスとして使用し、かつ低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いて酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を形成することができる。」

オ 「[0046] また、上記のプラズマ化学気相成長装置において、酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜の形成は、樹脂のフィルムないしシートの上に、プラズマ化した原料ガスを酸素ガスで酸化しながらSiOxの形で薄膜状に形成されるので、形成される酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜は、緻密で、隙間の少ない、可撓性に富む連続層となる。従って、酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜のガスバリア性は、従来の真空蒸着法等によって形成される酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜と比較してはるかに高いものとなり、薄い膜厚で十分なガスバリア性を得ることができる。」

カ 「[0065] 本発明においては、化学気相成長法により蒸着膜を形成する場合において、2層以上の珪素酸化物層を形成することが好ましい。このように、2層以上の蒸着層を設けることにより、より一層ガスバリア性を向上させることができる。」

キ 「[0067] 図4に示すように、プラズマ化学気相成長装置40は、基本的に、基材フィルム供給室41、第1の製膜室42、第2の製膜室43、第3の製膜室44、および、基材フィルムの上に珪素酸化物層を製膜化し重層したフィルムを巻き取る巻取り室45から構成される。
[0068] まず、巻き出しロール46に巻き取られている基材フィルム1を、第1の製膜室42に繰り出し、さらにこの基材フィルム1を、補助ロール47を介して所定の速度で冷却・電極ドラム48周面上に搬送する。
[0069] 次に、原料揮発供給装置49およびガス供給装置50から有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマーガス、酸素ガス、不活性ガス、その他等を供給し、それらからなる製膜用混合ガス組成物を調整しながら、原料供給ノズル51を通して第1の製膜室42内に製膜用混合ガス組成物を導入し、そして、冷却・電極ドラム48周面上に搬送された基材フィルム1の上に、グロー放電プラズマ52によってプラズマを発生させ、これを照射して、珪素酸化物等からなる第1層の珪素酸化物層を製膜化する。
[0070] 次に、上記の第1の製膜室42で第1層の珪素酸化物層を製膜化した基材フィルムを、補助ロール53,54を介して第2の製膜室43に繰り出し、次いで、上記と同様に、第1層の珪素酸化物層を製膜化した基材フィルムを所定の速度で冷却・電極ドラム55周面上に搬送する。
[0071] その後、上記と同様に、原料揮発供給装置56およびガス供給装置57から有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマーガス、酸素ガス、不活性ガス、その他等を供給し、それらからなる製膜用混合ガス組成物を調整しながら、原料供給ノズル58を通して第2の製膜室43内に上記の製膜用混合ガス組成物を導入し、そして、上記の冷却・電極ドラム55周面上に搬送された第1層の珪素酸化物層を製膜化した基材フィルムの第1層の珪素酸化物層の上に、グロー放電プラズマ59によってプラズマを発生させ、これを照射して、珪素酸化物等からなる第2層の珪素酸化物層を製膜化する。
[0072] さらに、上記と同様にして、第2の製膜室で第1層と第2層の珪素酸化物層を製膜化した基材フィルムを、補助ロール60,61を介して第3の製膜室44に繰り出し、次いで、上記と同様に、第1層と第2層の珪素酸化物層を製膜化した基材フィルムを所定の速度で冷却・電極ドラム62周面上に搬送する。
[0073] その後、上記と同様にして、原料揮発供給装置63およびガス供給装置64から有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマーガス、酸素ガス、不活性ガス、その他等を供給し、それらからなる製膜用混合ガス組成物を調整しながら、原料供給ノズル65を通して、第3の製膜室44内に上記の製膜用混合ガス組成物を導入し、そして、冷却・電極ドラム周面上に搬送された第1層と第2層の珪素酸化物層を製膜化した基材フィルムの第2層の珪素酸化物層の上に、グロー放電プラズマ66によってプラズマを発生させ、これを照射して、珪素酸化物等からなる第3層の珪素酸化物層を製膜化する。
[0074] 次いで、上記で第1層、第2層、および第3層の珪素酸化物層を製膜化し、それらを重層した基材フィルムを、補助ロール67を介して、巻取り室45に繰り出し、次いで、巻取りロール68に巻き取って、第1層、第2層、および第3層の珪素酸化物層が重層した蒸着層を有するガスバリア性積層フィルムを製造することができる。」

ク 「[0084] 本発明においては、各製膜室毎に、各製膜室に導入される製膜用混合ガス組成物の各ガス成分のガス混合比を変えて調製した製膜用混合ガス組成物を使用し、各製膜室毎に製膜化して、珪素酸化物等からなる珪素酸化物層を重層することが好ましい。
[0085] すなわち、本発明においては、少なくとも、有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマーガス、酸素ガス、および、不活性ガスを含有する製膜用混合ガス組成物の各ガスを含有する製膜用混合ガス組成物を調製し、その製膜用混合ガス組成物を各製膜室毎に変えて使用し、それらの各製膜用混合ガス組成物を使用した2層以上のプラズマ化学気相成長法による珪素酸化物層を製膜化することができるものである。」

ケ 「[0103] ガスバリア性塗布膜
次に、本発明のガスバリア性積層フィルムを構成するガスバリア性塗布膜について説明する。
[0104] ガスバリア性塗布膜としては、一般式:R^(1)_(n)M(OR^(2))_(m)で表される少なくとも1種以上のアルコキシド、ポリビニルアルコールおよび/またはエチレン・ビニルアルコールを含有する組成物をゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を使用することができる。
[0105] 本発明に好適に使用できるアルコキシドは、一般式:R^(1)_(n)M(OR^(2))_(m)(式中、Mは金属原子、R^(1)、R^(2)が炭素数1?8の有機基、nは0以上、mは1以上の整数、n+mはMの原子価を表す)で表されるものであり、このアルコキシドの部分加水分解物またはアルコキシドの加水分解縮合物の少なくとも1種以上を使用することができる。」

コ 「[0137] 本発明においては、無機酸化物の蒸着膜とガスバリア性塗布膜とが、例えば、加水分解・共縮合反応による化学結合、水素結合、あるいは、配位結合などを形成し、無機酸化物の蒸着膜とガスバリア性塗布膜との密着性が向上し、その2層の相乗効果により、より良好なガスバリア性の効果を発揮し得る。」

サ [0168] 本発明は、以上において説明したように、基材フィルムの一方の面に、無機酸化物の蒸着膜を設け、次いで、該無機酸化物の蒸着膜の上にガスバリア性塗布膜を設けたガスバリア性積層体を用いて、種々のコーティング法もしくは印刷法、あるいは、ドライラミネート法、その他等の方法を用いて、プライマー剤層、印刷模様層、および、ラミネート用接着剤層を順次に設け、さらに、該ラミネート用接着剤層の上に、ヒートシール性樹脂層を設け、さらには上記のラミネート用接着剤層とヒートシール性樹脂層との間に、強度を有し、耐突き刺し性に優れた樹脂のフィルムを積層することにより、包装袋用の積層材を製造することができる。
[0169] 包装袋
上記の積層材を用いた包装袋について説明する。装用袋からなる袋状容器本体は、上記したガスバリア性積層フィルムからなる積層材を使用して、この積層材を二つ折にし、そのヒートシール性樹脂層の面を対向させて重ね合わせ、その端部をヒートシールして筒状の包装体を形成し、次いで底部をシールして内容物を充填し、さらに天部をシールすることにより、包装体を製造することができる。
[0170] その製袋方法としては、上記のような積層材を、折り曲げるかあるいは重ね合わせて、その内層の面を対向させ、さらにその周辺端部を、例えば、側面シール型、二方シール型、三方シール型、四方シール型、封筒貼りシール型、合掌貼りシール型(ピローシール型)、ひだ付シール型、平底シール型、角底シール型、ガゼット型、その他等のヒートシール形態によりヒートシールして、種々の形態の装用袋を製造することができる。その他、例えば、自立性包装用袋(スタンデイングパウチ)等も可能である。」

シ 「請求の範囲
[1] 基材上に無機酸化物の蒸着膜が設けられ、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜が設けられてなるガスバリア性積層フィルムであって、
基材の、蒸着膜が形成される面側には、前処理またはプライマーコート処理が施されてなり、
前記ガスバリア性塗布膜は、前記無機酸化物膜上にガスバリア性塗工液を塗布した後、加熱することにより形成されたものである、ことを特徴とする、ガスバリア性積層フィルム。
[2] 前記蒸着膜が、化学気相成長法により形成されたものである、請求項1に記載のガスバリア性積層フィルム。
・・・(中略)・・・
[4] 前記基材が、2軸延伸ポリエステル系樹脂フィルム、2軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム、または、2軸延伸ポリオレフィン系樹脂フィルムからなる、請求項1?3のいずれか一項に記載のガスバリア性積層フィルム。
・・・(中略)・・・
[8] 前記化学気相成長法による蒸着膜が、少なくとも2室以上の製膜室を使用し、かつ、各室毎に、少なくとも、有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマーガス、酸素ガス、および不活性ガスを含有する製膜用混合ガス組成物の各ガス成分の混合比を変えて調製した2以上の製膜用混合ガス組成物を使用し、その各製膜用混合ガス組成物を使用して製膜した2層以上のプラズマ化学気相成長法による珪素酸化物層からなり、さらに、該各珪素酸化物層は、その膜中に炭素原子を含有し、かつ、各珪素酸化物層毎に炭素含有量が異なるものである、請求項2に記載のガスバリア性積層フィルム。
・・・(中略)・・・
[10] 前記ガスバリア性塗布膜が、一般式R^(1)_(n)M(OR^(2))_(m)(式中、Mは金属原子を表し、R^(1)、R^(2)は炭素数1?8の有機基を表し、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価を表す)で表される少なくとも1種以上のアルコキシド、ポリビニルアルコール、および/またはエチレン・ビニルアルコールを含んでなる組成物を、ゾルゲル法によって重縮合して得られるアルコキシドの加水分解物またはアルコキシドの加水分解縮合物からなる、請求項1?9のいずれか一項に記載のガスバリア性積層フィルム。」

上記ア?シから、刊行物1には次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

「樹脂のフィルムからなる基材と、
該基材の一方の面に設けた無機酸化物の蒸着膜と、
該無機酸化物の蒸着膜の上に設けたガスバリア性塗布膜とからなり、
更に、上記の無機酸化物の蒸着膜は、3室の製膜室を使用し、かつ、各室毎に、少なくとも、有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマ-ガス、酸素ガス、および、不活性ガスを含有する製膜用混合ガス組成物の各ガス成分の混合比を変えて調製した3の製膜用混合ガス組成物を使用し、その各製膜用混合ガス組成物を使用して製膜した3層のプラズマ化学気相成長法による珪素酸化物層からなり、更に、該各珪素酸化物層は、その膜中に炭素原子を含有し、かつ、各珪素酸化物層毎に炭素含有量が異なる珪素酸化物層からなり、
また、上記のガスバリア性塗布膜は、一般式R^(1)_(n)M(OR^(2))_(m)(式中、Mは金属原子を表し、R^(1)、R^(2)は炭素数1?8の有機基を表し、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価を表す)で表される少なくとも1種以上のアルコキシド、ポリビニルアルコ-ル及び/又はエチレン・ビニルアルコ-ルを含有する組成物を、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜からなる
バリア性積層フィルム。」

(2)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平6-305068号公報(以下「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】 ポリアミド(PA)を40?85重量部及びメタキシリレンアジパミド(MXD6)を15?60重量部含有するフィルム(但し、PA+MXD6=100 重量部)の少なくとも一面に、珪素及び珪素酸化物より選ばれた1種以上の成分を含有する層が、100 ?4000Åの厚さで形成されていることを特徴とする包装材料。
【請求項2】 前記ポリアミド(PA)がナイロン6及びナイロン66のうちの1種以上であることを特徴とする請求項1記載の包装材料。
・・・(中略)・・・
【請求項4】前記フィルムがMD方向及びTD方向にそれぞれ 2.8倍以上の延伸倍率で延伸されたものであることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の包装材料。」

イ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、特に易開封性、ガスバリヤー性、耐衝撃性等に優れた包装材料に関し、例えば食品、薬品、工業製品等の分野で使用できる。
【0002】
【背景技術及び発明が解決しようとする課題】近年、食品等の包装材料に開封時の直線カット性(易開封性)を付与するための提案が種々なされている。例えば、(a) 一軸延伸フィルムを中間層として有するラミネートフィルムとした構成、(b) 表基材フィルムの表面に微細な傷を付けて開封し易くした構成、(c) フィルムの開封部に開封用テープを装着するようにした構成、等である。しかし、いずれの場合も易開封性や衝撃強度が不十分であったり、経済性に乏しかったりしていた。」

ウ 「【0006】
【課題を解決するための手段及び作用】本発明に係る包装材料は、ポリアミド(PA)を40?85重量部及びメタキシリレンアジパミド(MXD6)を15?60重量部含有するフィルム(但し、PA+MXD6=100 重量部)の少なくとも一面に、珪素及び珪素酸化物より選ばれた1種以上の成分を含有する層(以下、珪素酸化物層と略す)が、100 ?4000Åの厚さで形成されていることを特徴とする。
・・・(中略)・・・
【0008】前記フィルム中のMXD6が15重量部より少ない場合には、易裂性と直線カット性が劣るようになる。また、MXD6が60重量部より多い場合には、衝撃強度が大幅に低下して実用性に乏しくなる。前記フィルム中のポリアミド(PA)は、ナイロン6及びナイロン66のうちの1種以上である。具体的には、ナイロン6とナイロン66のいずれかの単体でも、両者の共重合体でも、又はこれら単体と共重合体の混合物でもよい。
【0009】前記フィルムは、MD方向(フィルムの移動方向)及びTD方向(フィルムの幅方向)の少なくとも1方向に延伸されたものであることが好ましい。より好ましくは、前記フィルムがMD方向及びTD方向にそれぞれ 2.8倍以上、好ましくは3.5 倍以上の延伸倍率で延伸されたものである。延伸倍率が 2.8倍より小さい場合には、易裂性と直線カット性が劣るようになり、また衝撃強度が低下して実用性に問題が生ずる。このような延伸フィルムは、例えばチューブラー法等により同時二軸延伸を施すことにより得られる。」

エ 「【0025】
【発明の効果】本発明に係る包装材料によれば、引裂き強度、易裂性、直線カット性及び衝撃強度について優れた特性を備え、加えてガスバリヤー性についても優れた特性を有する。」

上記ア?エから、刊行物2には次の発明(以下「刊行物2発明」という。)が記載されていると認められる。
「包装材料であって、ナイロン6及びナイロン66のうちの1種以上とナイロンMXD6を含有するフィルムに、フィルムの移動方向及びフィルムの幅方向に同時二軸延伸を行った延伸フィルムの少なくとも一面に、珪素及び珪素酸化物より選ばれた1種以上の成分を含有する層が形成されている包装材料。」

4.対比・判断
本願発明と刊行物1発明とを対比する。

刊行物1発明における「樹脂のフィルムからなる基材」は、樹脂フィルムである点で、本願発明における「ナイロン樹脂とナイロンMXD6樹脂との混合樹脂からなるナイロンフィルムであって、更に、縦及び横方向に延伸してなる二軸延伸ポリアミドフィルム」と共通する。
刊行物1発明における「無機酸化物の蒸着膜」は、バリア性を有している点で(前記3.(1)オ及びカ)、本願発明における「バリア性層」と共通する。
刊行物1発明における「珪素酸化物層」は、その膜中に炭素原子を含有している点で、本願発明における「炭素含有酸化珪素膜」及び「酸化珪素膜」と共通する。
本願発明における「少なくとも3室以上」、「3以上」及び「3層以上」という事項は、それぞれ「3室」、「3」及び「3層」という事項を包含することを考慮すると、刊行物1発明における「無機酸化物の蒸着膜は、3室の製膜室を使用し、かつ、各室毎に、少なくとも、有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマ-ガス、酸素ガス、および、不活性ガスを含有する製膜用混合ガス組成物の各ガス成分の混合比を変えて調製した3の製膜用混合ガス組成物を使用し、その各製膜用混合ガス組成物を使用して製膜した3層のプラズマ化学気相成長法による珪素酸化物層からなり、更に、該各珪素酸化物層は、その膜中に炭素原子を含有し、かつ、各珪素酸化物層毎に炭素含有量が異なる珪素酸化物層からなり」という事項は、本願発明における「バリア性層は、少なくとも3室以上の製膜室を使用し、かつ、各室毎に、少なくとも、有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマ-ガス、酸素ガス、および、不活性ガスを含有する製膜用混合ガス組成物の各ガス成分の混合比を変えて調製した3以上の製膜用混合ガス組成物を使用し、その各製膜用混合ガス組成物を使用して製膜した3層以上のプラズマ化学気相成長法による炭素含有酸化珪素膜からなり、更に、該各炭素含有酸化珪素膜は、その膜中に炭素原子を含有し、かつ、各酸化珪素膜毎に炭素含有量が異なる炭素含有酸化珪素膜からなり」という事項に相当する。
刊行物1発明における「ガスバリア性塗布膜は、一般式R^(1)_(n)M(OR^(2))_(m)(式中、Mは金属原子を表し、R^(1)、R^(2)は炭素数1?8の有機基を表し、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価を表す)で表される少なくとも1種以上のアルコキシド、ポリビニルアルコ-ル及び/又はエチレン・ビニルアルコ-ルを含有する組成物を、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜からなる」という事項は、本願発明における「ガスバリア性塗布膜は、一般式R^(1) n M(OR^(2) )m (ただし、式中、R^(1)、R^(2) は、炭素数1?8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコ-ル系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコ-ル共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜からなる」という事項に相当する。
刊行物1発明における「バリア性積層フィルム」と、本願発明における「バリア性フィルム」とは、「バリア性フィルム」という概念で共通する。

したがって、本願発明と刊行物1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「樹脂フィルムと、
該樹脂フィルムの一方の面に設けたバリア性層と、
該バリア性層の上に設けたガスバリア性塗布膜とからなり、
更に、上記のバリア性層は、少なくとも3室以上の製膜室を使用し、かつ、各室毎に、少なくとも、有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマ-ガス、酸素ガス、および、不活性ガスを含有する製膜用混合ガス組成物の各ガス成分の混合比を変えて調製した3以上の製膜用混合ガス組成物を使用し、その各製膜用混合ガス組成物を使用して製膜した3層以上のプラズマ化学気相成長法による炭素含有酸化珪素膜からなり、更に、該各炭素含有酸化珪素膜は、その膜中に炭素原子を含有し、かつ、各酸化珪素膜毎に炭素含有量が異なる炭素含有酸化珪素膜からなり、
また、上記のガスバリア性塗布膜は、一般式R^(1) n M(OR^(2) )m (ただし、式中、R^(1) 、R^(2) は、炭素数1?8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコ-ル系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコ-ル共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜からなる
バリア性フィルム。」

[相違点]
本願発明においては、樹脂フィルムについて「ナイロン樹脂とナイロンMXD6樹脂との混合樹脂からなるナイロンフィルムであって、更に、縦及び横方向に延伸してなる二軸延伸ポリアミドフィルム」という限定がされているとともに、バリア性フィルムについて「直線カット性を有する」という限定がされているのに対し、刊行物1発明においては、これらの限定はされていない点。

上記相違点について検討する。

刊行物1発明のバリア性積層フィルムは、包装袋という包装材料の用途に使用されるものである(前記3.(1)サ)。
一般に、包装材料において、利便性の観点から、開封時の直線カット性を付与することは、周知の課題である(例えば、刊行物2(前記3.(2)イ))。
したがって、刊行物1発明のバリア性積層フィルムにおいて、直線カット性を付与することは、当業者が普通に想起し得る課題である。
一方、刊行物2には、バリア性の包装材料において、直線カット性を向上させるという課題のもと(前記3.(2)イ)、前記した刊行物2発明が記載されている。
刊行物2発明における「ナイロン6及びナイロン66のうちの1種以上とナイロンMXD6を含有するフィルムに、フィルムの移動方向及びフィルムの幅方向に同時二軸延伸を行った延伸フィルム」は、本願発明における「ナイロン樹脂とナイロンMXD6樹脂との混合樹脂からなるナイロンフィルムであって、更に、縦及び横方向に延伸してなる二軸延伸ポリアミドフィルム」に相当する。
そして、刊行物2発明は、基材フィルムとして、上記の二軸延伸ポリアミドフィルムを用いることにより、直線カット性について優れた特性を備えるという効果を奏するものである(前記3.(2)ウ、エ)。
上記したとおり、刊行物1発明において、直線カット性を付与することは、当業者が普通に想起し得る課題であるから、当該課題を解決するために、刊行物1発明において、基材として、刊行物2に記載された基材フィルムを採用するとともに、バリア性フィルムについて「直線カット性を有する」という限定を付して、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
なお、刊行物1発明において、基材の材料としては、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂を含め、種々の樹脂を用いることが可能であり、また、延伸したフィルムも使用することができるのであり(前記3.(1)ウ)、基材として、刊行物2発明において用いられた二軸延伸ポリアミドフィルムを採用することに、何ら阻害要因は認められない。
そして、本願発明によって、当業者が予期し得ない格別顕著な効果が奏されるとは認められない。

請求人は、請求の理由において、次の旨を主張している。
「引用文献1(刊行物1)に記載された発明と引用文献2(刊行物2)に記載された発明とは、『包装材料』という技術的観点、技術的分野等においては、同じくするものであるかもしれないが、その発明を構成する技術的課題、構成要件および作用効果等においては、全く、別異に係るものであり、その一方の技術事項に、その他方の技術事項を組み合わせること、あるいは、代替えすること等の技術的思想は、全く、何ら介在しないものである。仮に、その一方の技術事項を、その他方の技術事項に代替え、あるいは、組み合わせること等によって、一定の技術的作用効果等を生じるものであるならば、これは、新規性進歩性等を有し、十分に特許を受けるに値するものである。」
しかしながら、次に述べるとおり、請求人の上記主張は採用できない。
前述したとおり、一般に、包装材料において、利便性の観点から、開封時の直線カット性を付与することは、周知の課題であるから、刊行物1発明のバリア性積層フィルムにおいて、直線カット性を付与することは、当業者が普通に想起し得る課題である。そして、刊行物2には、まさに当該課題を解決する手段として、「基材フィルムとして、ナイロン樹脂とナイロンMXD6樹脂との混合樹脂からなるナイロンフィルムであって、更に、縦及び横方向に延伸してなる二軸延伸ポリアミドフィルム」を用いることが記載されているのであるから、刊行物1発明において、刊行物2発明と同様の基材フィルムを採用することは、当業者が容易に想到し得ることというべきである。
そして、本願発明の効果は、刊行物1発明及び刊行物2発明から予期し得る範囲内のものに過ぎない。
したがって、請求人の上記主張は失当であり採用できない。

以上のことから、本願発明は、刊行物1発明及び刊行物2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明及び刊行物2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-27 
結審通知日 2013-03-05 
審決日 2013-03-18 
出願番号 特願2007-15887(P2007-15887)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 政志菊地 則義  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 紀本 孝
▲高▼辻 将人
発明の名称 バリア性フィルム  
代理人 金山 聡  

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