ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06T |
---|---|
管理番号 | 1273546 |
審判番号 | 不服2011-1358 |
総通号数 | 162 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-01-20 |
確定日 | 2013-04-26 |
事件の表示 | 特願2004-556489「画像信号処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月17日国際公開、WO2004/051569、平成18年 3月 9日国内公表、特表2006-508460〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2003年(平成15年)12月1日の国際出願(パリ条約による優先権主張2002年(平成14年)11月29日、英国)であって、平成22年3月4日付けの拒絶理由通知に対し、平成22年6月15日付けで手続補正がなされたが、平成22年9月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年1月20日に審判請求がなされたものである。 第2 本願発明について 1.本願発明の認定 本願の発明は、平成22年6月15日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1から請求項11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1には、次のとおりのものが記載されている。 「入力画像信号の処理方法であって、各ピクセルに対して (a)前記入力画像信号の測定値を得るステップ、 ここで、前記測定値は、少なくとも前記信号の輝度i(x、y)を表す測定値を含み、更に (b)前記測定値を逆対数応答空間に変換して、変換された座標を得るステップ、 (c)前記変換された座標から前記測定値の局所平均値μ(x、y)及び局所標準偏差σ(x、y)、又は局所極大値M(x、y)及び局所極小値m(x、y)、又は局所極小値m(x、y)及び局所平均値μ(x、y)の何れかを計算するステップ、 (d)前記の計算結果に基づき、前記入力画像信号の輝度及びコントラストに無関係な局所色空間標準座標を定義する前記測定値の一次変換を計算するステップ、 (e)前記一次変換を前記逆対数応答空間から逆変換して、逆変換標準座標を得るステップ、及び (f)前記逆変換標準座標から出力画像信号を形成するステップ、 を実行することを特徴とする入力画像信号の処理方法。」 ここで、請求項1の上記記載について、本願明細書の記載に照らして、以下のように解釈する。 (1)本願明細書の段落【0051】の「画像を撮って、対数-反対(逆対数(log-opponent))座標に変換し、その後、輝度信号をZスコアに取って代えた後、出力画像を形成する。」という処理は、「この特定の実施形態のステップの詳細は以下の通りである。」と記載されていることから、段落【0052】?【0055】に記載の1)?8)のステップに対応する。つまり、3)のステップにおいて、入力画像信号R(x,y)、G(x,y)、B(x,y)の対数がとられ、5)のステップにおいて、平均の局所的な概算値および輝度チャンネルの標準偏差を計算し、8)のステップにおいて、対数の逆数(逆対数)をとって、画面表示に備えるもの、すなわち、入力画像信号はいったん対数に変換され、値が補正された後に対数から逆変換されるものである。それゆえ、請求項1に記載のステップ(b)における「逆対数応答空間」への変換は、画像の信号の対数をとること、ステップ(e)における「逆対数応答空間から逆変換」は、「対数応答空間から逆変換」であると解される。 したがって、請求項1に記載の「逆対数応答空間」は「対数応答空間」の誤記と認められる。 (2)本願明細書の段落【0042】?【0044】には、「局所的平均値の計算」について記載されており、画像内の位置x,yにおける局所的平均値μ(x,y)を、 という数式で算出している。ここで、μ(x,y)は画像を表す2次元信号s(x,y)と平均化フィルタa(x,y)の積を重畳積分した式で表されており、当該積分演算は位置x,yと同じ次元のu,vについて行われているから、段落【0043】の局所的平均値μ(x,y)は、画像内の位置x,yの近傍領域を対象とした演算であって、「局所的」な画像空間領域における平均値を表すものと解される。 同様に、段落【0048】?【0049】には、「局所標準偏差」であるσ(x,y)を、 という数式により算出しており、σ(x,y)についても、位置x,yと同じ次元のu,vについて積分演算を行っていることから、「局所的」な画像空間領域における標準偏差を表すものと解される。 したがって、請求項1に記載の「局所平均値μ(x、y)及び局所標準偏差σ(x、y)」は、「画像の局所空間領域における平均値μ(x、y)及び標準偏差σ(x、y)」を意味するものと認められる。 そこで、当審では、請求項1に記載の「逆対数応答空間」を「対数応答空間」と読み替え、「局所平均値μ(x、y)及び局所標準偏差σ(x、y)」を「画像の局所空間領域における平均値μ(x、y)及び標準偏差σ(x、y)」と読み替えた上で、本願発明を以下のとおり認定する。 (本願発明) 「入力画像信号の処理方法であって、各ピクセルに対して (a)前記入力画像信号の測定値を得るステップ、 ここで、前記測定値は、少なくとも前記信号の輝度i(x、y)を表す測定値を含み、更に (b)前記測定値を対数応答空間に変換して、変換された座標を得るステップ、 (c)前記変換された座標から前記測定値の画像の局所空間領域における平均値μ(x、y)及び標準偏差σ(x、y)、又は局所極大値M(x、y)及び局所極小値m(x、y)、又は局所極小値m(x、y)及び局所平均値μ(x、y)の何れかを計算するステップ、 (d)前記の計算結果に基づき、前記入力画像信号の輝度及びコントラストに無関係な局所色空間標準座標を定義する前記測定値の一次変換を計算するステップ、 (e)前記一次変換を前記対数応答空間から逆変換して、逆変換標準座標を得るステップ、及び (f)前記逆変換標準座標から出力画像信号を形成するステップ、 を実行することを特徴とする入力画像信号の処理方法。」 2.引用刊行物 これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された特開平2-120985号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに次のア?エの事項が記載されている。 ア 「本発明は、デジタル映像処理方式の分野におけるものである。より具体的には、コンピューター補助診断システムの分野における映像を高揚さる目的で使用される、デジタル映像処理方法に関する。 放射線学における一般的な問題は、特にその密度が、周辺領域のそれとほとんど類似の場合、詳細の識別の可能性である。 映像処理方式は、それによって、詳細の識別の可能性が高められ、映像から観察者への情報の移転が、最大限にできる手段により開発された。当該映像処理方式により、例えば、エッジの高揚、及び、コントラストの高揚は達成できる。 放射線学における映像処理は、身体のデジタル映像が、直接得られる、コンピュータ化トモグラフィーの様な放射線学上の方式、或いは、銀-ハロゲン感光乳剤フィルム、或いは、光興進隣光体などの様な、中間記憶装置に記憶された映像を走査することにより、デジタル映像が、間接的に得られる、放射線学上の方式を通して得られる放射線学的映像をデジタル表示する事で行なわれる。 先行の映像処理方式においては、例えば、不明暗なマスク方式、処理後の結果として生じる映像は、平均ピクセル値の函数である。 このピクセル値は、密度値、明暗度値、或いは、明瞭度値の対数であってもよい。以下において、ピクセル密度値と言う言葉が使われる場合には、明暗度値、或いは、明暗度値と言い換える事ができる。 しかしながら、上記の平均ピクセル値では、局部映像情報の表示が十分でない。より良いインディケーターは、対照となるピクセルをかこむ領域における、ピクセル密度分配を、その要素が表示する、ピクセル密度のスタンダード偏向である。スタンダード偏向を利用することにより、映像高揚要素は、映像内のノイズのことを考慮できる様に、局部的に制御できる。」(第2頁右下欄第2行目?第3頁左上欄第18行目) 上記アにおいて、「映像を高揚さる」は「映像を高揚させる」の誤記であって、より具体的には「エッジの高揚、及び、コントラストの高揚」を表すものであり、エッジの鮮鋭度を高めることやコントラストを高めることを意味するものと解される。 また、「明暗度値」はピクセルの明るさを表す値であるから「輝度値」と同義の用語であり、「スタンダード偏向」は一般的には「標準偏差」という用語で呼ばれるものであると認められる。 更に、「ピクセル密度分配」のように「分配」なる用語を用いたものは、統計の分野では「分布」という用語で用いられることが一般的であり、「ピクセル密度分配」についても、一般的には「ピクセル密度分布」と呼ばれるものであると認められる。 イ 「ヒストグラム均等化は、それにより、使用可能なグレーの分度全体を通して、映像内にピクセル密度を、均等に分配することにより、全体的なコントラストを向上させる、映像処理技術である。 この技術によれば、映像のヒストグラム、及び、再分度された累積ヒストグラムは、計算され、元来の映像の各々のピクセルは、当該再分度された累積ヒストグラムにおける、その対応値にマップされる。 ある画像については、より良い結果は、(より小さな領域におけるコントラストの向上)、それに従えば、映像が、スライド窓手段により走査される(対照となるピクセルをかこむ。映像全体上にスライドするN掛けるMピクセルの領域)、連続適応ヒストグラム均等化を適用することにより得られる。再び、ヒストグラム、及び、再分度化累積ヒストグラムは、スライド窓によりカバーされる各々の領域について計算される。窓の中の中央ピクセルは、再分度化累積ヒストグラム内のその対応する値にマップされる。この行程が、各々のピクセルについて繰り返される。 変数となるのは、映像が、領域、或いは、窓に、更に分割される、適応ヒストグラム均等化技術である。」(第3頁右上欄第15行目?同頁左下欄第18行目) 上記イにおいて、「グレーの分度」は一般的に「グレースケール」と呼ばれる用語であるものと認められ、「再分度」についても「再スケール」を意味するものと解される。 また、上記アと同様に、「分配」という用語は一般的に「分布」を表すものであると解される。 ウ 「本発明によれば、デジタル・ピクセル値Xの形の映像の表示が、ピクセル値Xの函数としての結果として生じる、デジタル・ピクセル値y、当該ピクセルXをかこむ窓におけるピクセル値の平均値m、及び、こうした窓における、ピクセル値のスタンダード偏向を得るために処理され、当該スタンダード偏向が、S_(1)、が、ピクセル値X、及び、当該ピクセルXをかこむ、N_(1)掛けるM_(1)同一エレメント中心の展開の結果として得られ、又、S_(2)が、当該平方値がルックアップ・テーブルを使用することにより得られる、当該ピクセル値Xの平方、及び、当該ピクセルXをかこむN_(2)掛けるM_(2)同一エレメントの中心の展開の結果として得られ、更に平方根値がルックアップ・テーブルの使用により得られる(S_(2)/(N_(2)・M_(2))-(S_(1)/(N_(1)・M1))^(2))^(l/2)として得られる事を特徴とする映像処理方式が供される。 望ましくは、値N_(1)・M_(1)、及び/或いは、N_(2)・M_(2)は2の累乗。 上記方式の平均値mは、望ましくは、S_(1)、N_(1)及び、M_(1)が上記に定義されたものである、S_(1)/(N_(1)・M_(1))として得られる。 特別の応用例においては、この方式は、当該ピクセルXが、写真フィルム材質、或いは、光興振燐に記憶された放射線映像を走査、及び、デジタル化する事により得られる、デジタル化密度、或いは、明暗度値(或いは、その様な明暗度値の対数)である、診断映像方式において使用される。」(第4頁右下欄第5行目?第5頁左上欄第12行目) 上記ウについても、上記ア、イと同様に「スタンダード偏向」は一般的な用語として「標準偏差」を表すものであり、「明暗度値」は「輝度値」と同義の用語であると認められる。 エ 「研究、及び、調査により、特定の量の照明剤により、特定の平均ピクセル値を与え、映像の局部の窓(窓の寸法は、指定されている)に属するヒストグラム手段により計算される平均ヒストグラムは、変数X、中間値m、及び、スタンダード偏向SのGauss配分(或いは、変数(X-m)/sの平準化通常配分)により、近似値化する事ができる。 前部に説明した様に、適用ヒストグラム均等化は、各々のピクセルについて、局部ヒストグラム(ピクセル窓内の)、及び、再分度累積ヒストグラムを打算することにより行われる。次に、対照となるピクセルは、再分度累積ヒストグラムにおける、その対応値にマップされる。平均ピクセル値mの所定の値に対応する、映像エリアの平均局部ヒストグラムは、通常の配分により近似値化(できると言う、上記の調査結果を考慮し、この累積ヒストグラムは、当業者には公知であるが、適用ヒストグラム均等化は、映像エリアの正確なヒストグラムを計算する必要なく、実行できる。 スタンダード偏向のことを考慮する、適用ヒストグラム均等化プロセス後の結果として生じる映像は、以下の様な式に表せる:y=A.G((x-m)/s)。 ここでは、yは、映像処理が行われた後の結果として生じるピクセル値で、xは、元来のピクセル値、Aは、分度ファクター、Gは、平準化累積通常分配、mは平均値で、Sは、スタンダード偏向である。」(第6頁右上欄第5行目?同頁左下欄第12行目) 上記エについても、上記ア?ウと同様に「スタンダード偏向」は一般的な用語として「標準偏差」を表すものであり、「分度ファクター」は一般的な用語として「スケールファクター」を表すものであると認められる。 また、上記エには「中間値m」という記載があるが、刊行物のその他の箇所では、一貫してmがピクセル値の「平均値」として用いられているから、この「中間値m」についても「平均値m」の誤記であると解される。 また、上記エには「Gは、平準化累積通常分配」と定義されているが、この「平準化累積通常分配」は一般に「標準正規累積分布」と呼ばれるものを意味するものと解される。 更に、上記エには、適用ヒストグラム均等化プロセス後の結果として生じる映像のピクセル値yを、 y=A.G((x-m)/s) という式で表せることが記載されているが、先に説示したようにAは「スケールファクター」を表すものであるから、該式は関数G((x-m)/s)をスケールファクターAで乗算したものであって、 y=A・G((x-m)/s) の誤記であると解される。なお、刊行物の特許請求の範囲(特に請求項5)には、「A・G((x-m)/s)」と正しく記載されている。 以上の記載から、刊行物には、一般的な用語に置き換えると、以下の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されている。 「コンピューター補助診断システムの分野において映像のエッジの鮮鋭度、及び、コントラストを高めるためのデジタル映像処理方法であり、 平均ピクセル値の函数だけでは十分でない局部映像情報の表示を、対照となるピクセルをかこむ領域における、ピクセル密度分布を、その要素が表示する、ピクセル密度の標準偏差を利用することにより、より良く表示するデジタル映像処理方法であって、 当該映像処理方法は、使用可能なグレースケール全体を通して、映像内にピクセル密度を、均等に分布することにより、全体的なコントラストを向上させるヒストグラム均等化に対して適用可能であり、 ピクセル値は輝度値の対数であってもよく、 写真フィルム材質を走査、及び、デジタル化する事により得られる、デジタル化密度、或いは、輝度値(或いは、その様な輝度値の対数)として得られるデジタル・ピクセル値Xの形の映像の表示が、ピクセル値Xの函数としての結果として生じる、デジタル・ピクセル値y、当該ピクセルXをかこむ窓におけるピクセル値の平均値m、及び、こうした窓における、ピクセル値の標準偏差を得るために処理され、 標準偏差を考慮する適用ヒストグラム均等化プロセスにおいて、映像処理が行われた後の結果として生じるピクセル値yを、元来のピクセル値x、スケールファクターA、標準正規累積分布G、平均値m、標準偏差sを用いた数式: y=A・G((x-m)/s) により算出する ことを特徴とするデジタル映像処理方法。」 3.対比 本願発明と刊行物発明とを対比する。 ここで、本願発明のステップ(c)は、「局所平均値μ(x、y)及び局所標準偏差σ(x、y)」、「局所極大値M(x、y)及び局所極小値m(x、y)」、「局所極小値m(x、y)及び局所平均値μ(x、y)」の3通りのいずれかを計算するものであるから、3通りの発明が択一的に記載されたものと捉えることができるので、以下、本願発明のステップ(c)については、「局所平均値μ(x、y)及び局所標準偏差σ(x、y)」を計算するものとして対比する。 刊行物発明の「映像のエッジ、及び、コントラストを高めるためのデジタル映像処理方法」は、「写真フィルム材質を走査、及び、デジタル化する事」により得られる画像の「デジタル・ピクセル値」を対象に処理を行うものであるから、本願発明と刊行物発明とは、「入力画像信号の測定値を得るステップ」を有する「入力画像信号の処理方法」である点で本願発明と一致する。 刊行物発明において、「デジタル・ピクセル値」は、デジタル化する事により得られる「デジタル化密度」や「輝度値」だけでなく、「輝度値の対数」も「デジタル・ピクセル値」として使用されるものである。 そのため、刊行物発明は、「輝度値」を含む測定値を測定し、当該「輝度値」の対数変換を行うことにより、「変換された座標」の値である「輝度値の対数」を得るものであるといえる。 それゆえ、本願発明と刊行物発明とは、「測定値を対数応答空間に変換して、変換された座標を得る」ものである点で一致する。 また、刊行物発明は、処理対象となるピクセルXをかこむ窓における「ピクセル値の平均値m」や「標準偏差」を算出するものであり、この「ピクセルXをかこむ窓」の内部に含まれる領域が入力画像に対して局所的な領域であることは明らかである。 そのため、「変換された座標」の値である「輝度値の対数」から「画像の局所空間領域における平均値μ(x、y)及び標準偏差σ(x、y)」を計算する点で、本願発明と刊行物発明とは一致する。 刊行物発明は、局所的な領域を対象に算出された「平均(ピクセル)値m」と「標準偏差s」を用いて、元来のピクセル値xから映像処理後のピクセル値yを、数式「y=A・G((x-m)/s)」により算出するものである。つまり、この数式は、ピクセル値xから平均値mを減算した後に標準偏差sで除算した値を用いた関数により表されるものである。 ここで、本願明細書には、本願発明の「局所色空間標準座標」に直接的に対応する記載がないものの、段落【0042】において、“標準的な座標”の例示としてZスコアに関する式(15)、すなわち S_(i)=(x_(i)-μ(X))/σ(X) が記載されており、この式(15)によると、“標準的な座標”への変換は、測定値x_(i)から局所平均値μ(X)を減算し、局所標準偏差σ(X)で除算することにより行っているといえる。また、本願明細書の段落【0041】には、「多数の標準的な座標(標準的な座標は、輝度およびコントラストとは無関係なデータを与える一次変換である)を以下のように計算することができる。」と記載されており、その計算式の例として上記の式(15)が記載されていることから、上記のZスコアに関する式は「輝度およびコントラストとは無関係なデータを与える一次変換」であるといえる。 してみると、刊行物発明の上記数式を用いた映像処理に関しても、本願明細書に記載のZスコアと同様の値を、映像処理後のピクセル値を算出するために用いるものであるから、刊行物発明は、「局所的」な「標準座標」で定義された空間へ「元来のピクセル値x」の一次変換を計算しているといえるとともに、その一次変換は「輝度およびコントラストとは無関係な」データを与える一次変換であるといえる。 それゆえ、本願発明と刊行物発明とは「入力画像信号の輝度及びコントラストに無関係」な「局所的」な「標準座標を定義する前記測定値の一次変換を計算する」点で共通する。 更に、刊行物発明の数式「y=A・G((x-m)/s)」は、上記の一次変換による値を用いた関数によって映像処理後のピクセル値yを算出することを表すものであるから、刊行物発明においても、一次変換の値から最終的に画像信号を算出する点で、本願発明と一致する。 したがって、本願発明と刊行物発明は、以下の点で一致し、相違する。 [一致点] 入力画像信号の処理方法であって、各ピクセルに対して (a)前記入力画像信号の測定値を得るステップ、 ここで、前記測定値は、少なくとも前記信号の輝度i(x、y)を表す測定値を含み、更に (b)前記測定値を対数応答空間に変換して、変換された座標を得るステップ、 (c)前記変換された座標から前記測定値の画像の局所空間領域における平均値μ(x、y)及び標準偏差σ(x、y)、又は局所極大値M(x、y)及び局所極小値m(x、y)、又は局所極小値m(x、y)及び局所平均値μ(x、y)の何れかを計算するステップ、 (d)前記の計算結果に基づき、前記入力画像信号の輝度及びコントラストに無関係な局所標準座標を定義する前記測定値の一次変換を計算するステップ、 (e)前記一次変換から出力画像信号を形成するステップ、 を実行することを特徴とする入力画像信号の処理方法。 [相違点1] 本願発明のステップ(d)が「局所色空間標準座標を定義する前記測定値の一次変換」を計算するものであるのに対し、刊行物発明は、「局所的」な「標準座標」を定義する「前記測定値の一次変換」であるとはいえるものの、「色空間」の標準座標については示されていない点。 [相違点2] 本願発明は、計算された「一次変換」に対して、「(e)前記一次変換を前記逆対数応答空間から逆変換して、逆変換標準座標を得る」後に「(f)前記逆変換標準座標から出力画像信号を形成する」のに対し、刊行物発明は、計算された「一次変換」から「出力画像信号」を形成するまでの処理に関しては明らかではない点。 4.相違点に対する判断 [相違点1について] 一般に、画像処理の技術分野において、入力画像をRGB座標空間のカラー画像信号として入力し、当該RGB座標空間から輝度と2つのクロミナンスによる色空間に座標変換することにより、輝度値を算出し、画像の輝度を補正する技術は慣用技術にすぎない(例えば、原査定の拒絶の理由で引用された特開2002-133409号公報の段落【0021】?【0022】を参照)。 本願発明における「局所色空間標準座標を定義する前記測定値の一次変換を計算する」点は、入力画像がカラー画像であることを前提としている一方、刊行物発明はカラー画像を対象としていないが、刊行物発明は、画像の輝度値を補正する技術であって、入力画像がカラー画像であっても上記カラー画像信号の輝度について、同様に補正ができることは明らかであるから、刊行物発明に用いられた技術を慣用技術であるカラー画像の輝度値の補正に採用することに格別困難な点はない。 [相違点2について] 刊行物発明は、線形座標によって測定された入力画像信号の「輝度値」について対数をとり、当該対数を「デジタル・ピクセル値」として画像処理により一次変換を行うものであるから、当該画像処理後の結果として生じるピクセル値yも対数座標の値をとることとなる。 そして、画像処理の技術分野において、画像処理結果の画像を表示することは、ごく一般的に行われていることであり、通常、画像表示は線形座標による画像信号で出力を行うものであるから、刊行物発明において、対数のピクセル値yのままで画像を表示するのではなく、対数のピクセル値yに対して逆対数をとることにより、線形座標による画像信号を出力して画像を表示するようにすることが、むしろ自然である。それゆえ、刊行物発明において、本願発明の相違点2に係る構成とすることも、当業者が容易に想到し得ることである。 そして、これらの相違点1及び2は相互に関連した事項ではなく、また、上記各相違点を総合的に考慮しても当業者が推考し難い格別のものであるとすることはできず、また本願発明の効果についてみても、刊行物発明から予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものがあるともいえない。 したがって、本願発明は、刊行物発明及び慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第3 まとめ 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-01-24 |
結審通知日 | 2012-01-31 |
審決日 | 2012-02-13 |
出願番号 | 特願2004-556489(P2004-556489) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G06T)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 板垣 有紀、松野 広一 |
特許庁審判長 |
吉村 博之 |
特許庁審判官 |
古川 哲也 板橋 通孝 |
発明の名称 | 画像信号処理方法 |
代理人 | 森川 泰司 |
代理人 | 毛受 隆典 |
代理人 | 畑 泰之 |
代理人 | 斉藤 武彦 |
代理人 | 木村 満 |