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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04B
管理番号 1273595
審判番号 不服2010-26285  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-22 
確定日 2013-05-10 
事件の表示 特願2004-557942「ピストンポンピングシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月24日国際公開、WO2004/053362、平成18年 3月16日国内公表,特表2006-509153〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は,2003年(平成15年)11月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2002年(平成14年)12月 6日,欧州)を国際出願日とする特許出願であって,平成22年 7月 9日付けで拒絶査定がなされ,この査定を不服として,同年11月22日に本件審判請求とともに手続補正がなされた。
一方,当審において平成23年10月11日付けで拒絶理由を通知し,応答期間内である平成24年 4月17日に意見書及び手続補正書が提出され,再度当審において,同年 5月10日付けで拒絶理由を通知し,応答期間内である同年11月12日に意見書及び手続補正書が提出されたところである。
そして,この出願の請求項1?16に係る発明は,平成24年11月12日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるものと認められるところ,そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。
「【請求項1】
1マイクロリットルから1ミリリットルの体積の薬液を供給する医療機械用のピストンポンピングシステムであって,
前記ピストンポンピングシステムは,ピストンを有しており,
前記ピストンは,ガイドチューブ内で案内され,かつ,前記ピストンの長手方向軸線に沿ってストローク移動を行うことができるように構成されており,
前記ピストンは,ポンピングチャンバ内に突出して移動するように構成され,
前記ポンピングチャンバは,弁を備えた液体搬送連結部を介して貯蔵容器に連結されており,
前記ポンピングチャンバから,液体搬送連結部が液体供給装置に導かれている構成のピストンポンピングシステムにおいて,
前記ガイドチューブ内には,溝により保持され,かつ,前記ピストンをシールするОリングシールが設けられ,
前記Оリングシールは,シリコーンからなり,
前記Оリングシールは,窒素(N_(2))に対する100[N*cm^(3)*mm/(m^(2)*h*bar)]から500[N*cm^(3)*mm/(m^(2)*h*bar)]のガス透過係数を有し,
前記Оリングシールは,30%より小さい半径方向圧縮及び軸線方向圧縮を有し,
圧縮された前記Оリングシールは,90%を超える溝充填レベルで前記溝を充填するように構成されており,
前記ピストンは,0.25mmから4mmの断面を有する,
ことを特徴とするピストンポンピングシステム。」

2.引用例とその記載事項
当審における平成24年 5月10日付けの拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2001-153065号公報(以下,「引用例1」という。)には,「マイクロポンプ」に関し,図面とともに次の事項が記載又は示されている。

・「【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は,プランジャの移動量に対応した量の試料を吸入して吐出するマイクロポンプに関する。
【0002】
【従来の技術】従来から,例えば,一般の計量ポンプ装置等に採用されているマイクロポンプには,シリンダと,このシリンダ内を往復動するプランジャと,を備え,シリンダ内のプランジャを後退させることで,その後退量(ストローク)に対応した量の液体を吸入し,プランジャを前進させることでその前進ストロークに対応した量の液体を吐出するものがある。」

・「【0023】
【発明の実施の形態】次に,本発明の実施の形態に係るマイクロポンプについて図面を参照して説明する。
【0024】図1は,本発明の実施の形態に係るマイクロポンプ装置の概略図,図2は,図1に示すマイクロポンプ装置のシール部付近の拡大図である。
【0025】図1及び図2に示すように,本実施の形態に係るマイクロポンプ装置1は,ポンプ部2と,位置決め駆動部3と,モータ部4と,を備えて構成されている。
【0026】ポンプ部2は,シリンダ11と,シリンダ11内を往復動するプランジャ12と,シリンダ11内を密封すると共に,プランジャ12の外周部13が摺動可能なシール部14と,シリンダ11の先端部に連通した吸入口15及び吐出口16と,を備えて構成されている。この吸入口15には,図示しない吸入ポートが接続され,吐出口16には,図示しない吐出ポートが接続されている。
【0027】なお,本実施の形態では,プランジャ12の外周面13の平均表面粗さ(Ra)が,0.01μm以上,0.1μm以下になるように設定した。表面粗さをこのように設定することで,プランジャ12の外周部13の摩擦係数を低くすることができ,摩擦や摩耗による摩耗塵の発生を抑制することができる。
【0028】シール部14は,シリンダ11を画定するハウジング17のプランジャ挿入口端面18(ハウジング17の図1でいう右端面)と,プランジャ12の外周部(外周面)13との間に配置されている。このシール部14は,プランジャ12の外周部13に対し摺動する摺動面19を備えると共に,プランジャ12の摺動によって生じる摩耗塵を捕集して貯蔵する集塵機構20と,集塵機構20のプランジャ12先端側(図1及び図2に示す左側)に配設され,プランジャ12の外周部13に対し摺動可能なOリング23と,を備えて構成されている。
【0029】集塵機構20は,特に図2に示すように,摺動面19に沿って環状に形成された2本の溝部21及び22を備えて構成されている。この集塵機構20は,例えば,熱可塑性樹脂と,摩擦係数を低減させることができる改質剤と,を含む材料から構成されている。なお,本実施の形態では,この改質剤として,カーボンを用いたが,例えば,シリコン,エコノール等の液晶ポリマ,セラミック,ポリイミド,ガラスファイバ,その他低重合物ポリマ等を用いることもできる。この改質剤は,熱可塑性樹脂に対し,0.1重量%?30重量%程度の割合で添加することが好ましい。集塵機構20をこのような材料から構成することで,シール部14の摩擦係数が低くなるため,摩擦や摩耗による摩耗塵の発生を抑制することができる。このため,シール性が向上するとともに,耐久性のバラツキを低減させ,シール部の寿命を向上することができる。
【0030】さらにまた,本実施の形態では,前記熱可塑性樹脂として,吸水率が5%以上,30%以下の樹脂,例えば,ポリアミドを使用した。このような吸水率を備えた熱可塑性樹脂を選択することで,シール部14の摺動面19に保湿水分が常に最適な量で存在していることになるため,摩耗が低減されると共に,摩擦係数を低くすることができる。このため,さらに摩擦や摩耗による摩耗塵の発生を抑制することができる。
【0031】また,本実施の形態では,集塵機構20の摺動面19の表面平均粗さ(Ra)を,0.1μm以上,5μm以下に設定した。このように表面粗さを設定することで,シール部14の摩擦係数を低くすることができ,摩擦や摩耗による摩耗塵の発生を一層抑制することができる。
【0032】このポンプ部2は,プランジャ12が,図1における右方向に移動すると,シリンダ11内の空間容積が拡大されて,吸入口15からシリンダ11内に試料(例えば,液体)が吸入される。また,プランジャ12が図1に示す左方向に移動すると,シリンダ11内の空間容積が縮小されて,シリンダ11内の試料が吐出口16から吐出される。この試料の吸入量及び吐出量は,プランジャ12の移動量(移動ストローク)によって決まる。」

・【0038】この試料の吸入及び吐出の際に生じる摩擦によって,シール部14が徐々に摩耗するが,この時,シール部14(集塵機構20)は,前述した摩擦係数が低く,最適な吸水率を備えた材料で構成されているため,前記摩耗によって生じる摩耗塵の量を低減させることができる。さらにまた,シール性が向上するとともに,耐久性のバラツキを低減させ,シール部の寿命を向上することができる。また,それでも生じてしまった摩耗塵は,プランジャ12の移動に伴って,集塵機構20の溝部21及び22に集塵され,ここに貯蔵される。したがって,摩耗塵がシリンダ11内に混入することを防止することができる。
【0039】なお,本実施の形態に係るマイクロポンプ装置1を使用して試薬の吸引及び吐出に関する耐久性試験を行ったところ,メンテナンスを行うことなく500万回以上の耐久性を示した。
【0040】なお,本発明に係るマイクロポンプのシール部は,前述した実施の形態で説明した形状に限定されるものではなく,例えば図3及び図4に示すような形状等,プランジャの摺動によって生じる摩耗塵を捕集して貯蔵する集塵機構を備えていれば他の形状であってもよい。
【0041】図3(1)に示すシール部14Aは,プランジャ12との摺動面19に沿って環状に形成された3本の溝部51を備えた集塵機構20Aと,集塵機構20Aの左側(プランジャ12の先端側)に配置されたOリング23と,を備えて構成されている。
【0042】図3(2)に示すシール部14Bは,図3(1)に示す集塵機構20Aと,この集塵機構20Aの右側に配置されたOリング23と,を備えて構成されている。
【0043】図3(3)に示すシール部14Cは,図3(1)に示す集塵機構20Aと,この集塵機構20Aの両側に配置されたOリング23と,を備えて構成されている。
【0044】図3(4)に示すシール部14Dは,内径がプランジャ12の直径にほぼ等しく,プランジャ12の外周部13に摺動可能な環状部材61と,環状部材61より内径が大きい環状部材62とを,両端が環状部材61となるように,交互に環状部材61を4つ,環状部材62を3つ組み合わせた構造を備えた集塵機構20Bと,この集塵機構20Bの左側に配置されたOリング23と,を備えて構成されている。この集塵機構20Bは,環状部材61と62の内径の差によって,プランジャ12と対向する面に凹凸を形成し,その結果として図3(1)と実質的に同様の溝部51を形成している。
【0045】図3(5)に示すシール部14Eは,図3(4)に示す集塵機構20Bと,この集塵機構20Bの右側に配置されたOリング23と,を備えて構成されている。
【0046】図3(6)に示すシール部14Fは,図3(4)に示す集塵機構20Bと,この集塵機構20Bの両側に配置されたOリング23と,を備えて構成されている。
【0047】図4に示すシール部14Gは,集塵機構20CとOリング23とを一体に形成したものである。具体的には,集塵機構20Cは,プランジャ12との摺動面19に沿って環状に形成された3本の溝部51を備え,かつOリング23を収容するOリング収容部70を備えている。」

・図1には,プランジャ12がハウジング17内で案内されることが示されている。
・また,図1からみて,プランジャ12がシリンダ11内の空間内に突出していることは明らかである。
・段落【0026】,【0032】の記載からみて,シリンダ11内の空間が吸入口15の吸入ポートに接続され,シリンダ11内の空間から吐出口16の吐出ポートに導かれていることは明らかである。
・段落【0028】の記載及び図1,図2からみて,ハウジング17内には,溝により保持され,かつプランジャ12をシールするOリング23が設けられていることは明らかである。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「液体の試料,試薬を吸入して吐出するマイクロポンプ装置1であって,
前記マイクロポンプ装置1は,プランジャ12を備えており,
前記プランジャ12は,シリンダ11を確定するハウジング17内で案内され,かつ,シリンダ11内を往復動するように構成されており,
前記プランジャ12は,シリンダ11内の空間内に突出して移動するように構成され,
前記シリンダ11内の空間は,吸入口15の吸入ポートに接続されており,
前記シリンダ11内の空間から吐出口16の吐出ポートに導かれているマイクロポンプ装置1において,
前記ハウジング17内には,溝により保持され,かつ,前記プランジャ12をシールするOリング23が設けられたマイクロポンプ装置1。」

同じく当審における平成24年 5月10日付けの拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平10-227288号公報(以下,「引用例2」という。)には,「両方向緊密シールを備えた容積ポンプ」に関し,図面とともに次の事項が記載又は示されている。

・「【0002】
【発明の属する技術分野】本発明は軽量で安価な,したがって静脈内投与治療装置などの医療装置を含む各種の使用法に好適な使い捨て可能の容積ポンプに関する。」

・「【0019】
【発明の実施の形態】図1を参照すれば,内部に細長い空所8が形成された全体的に細長いハウジング4を含む本発明による容積ポンプの斜視図が示されている。このハウジング4は金属またはプラスチックで作られた外殻12と,この外殻12に対して配置されている内部中央に空所8の形成された内側フィルタ16とを備えて形成されていることが図解されている。フィルタは同様に金属またはプラスチックとし得る。ハウジング4の横断面形状は四角,丸などにすることができる。
【0020】ハウジング4の一端部には,例えばラテックスゴム,シリコンゴム,ニトリルゴム,ポリテトラフルオロエチレン,ポリウレタン,EPDMなどで作られる弾発性シート材20が配置されている。シート材20はハウジング4の一端部に充填され,空所8と一直線状に位置付けられた開口24を貫通する以外はハウジング外部と空所8との間の連通を防止する。
【0021】入口導管36がシート材20にほぼ隣接してハウジング4内に形成され,空所8と連通するようになされており,また出口導管40が同様にハウジング内に形成されて空所とその端部において連通する。(勿論,入口および出口は他の位置に配置したり,または流れの方向を制御するために使用されるチェックバルブと組合せることもできる。)導管36,40は空所をそれぞれ流体供給源44および流体シンク48に接続する。バルブ110,114はそれぞれ導管36,40に配置され,制御ユニット118からの制御信号に応答して作動(開成または閉成)して,流体が流体供給源44から空所8の内部へ流入できるようにするが逆流は防止し,また流体が空所8から流体シンク48へ流動できるようにするが逆流は防止する。流体供給源44は,患者に対して投与される流体の瓶を含む,流体供給源44が瓶で流体シンク48がその流体を受入れる患者である静脈内投与セットのような流体シンク48へ向けてポンピングされるのが好ましいいずれの流体供給源とすることもできる。勿論,さらなる説明から明白となるように,図1の流体ポンプは様々な状況の中で使用できる。
【0022】ポンプを流体供給源44および流体シンクへ接続する代替構造は空所8にアクセスする一つの導管を使用するものであり,一つの(チェック)バルブが流体供給源をその一つの導管に接続し,他の(チェック)バルブがその一つの導管を流体シンクへ接続する。ポンプの吸入ストロークで流体が流体供給源から(チェック)バルブおよび一つの導管を通して空所8へ流れ,ポンプのポンピングストロークで流体が空所から他の(チェック)バルブを通して流体シンクへ流れることは,ポンプのポンピング作用を説明する後述により明白となろう。
【0023】細長いシャフトすなわちプランジャー60が少なくとも部分的にハウジング4の空所8内へ延在するようにしてシート材20の開口24内に配置されている。このシャフト60は円形横断面を有し,また空所8の円形横断面よりは多少小さい円周を有しており,これによりシャフトは空所を形成する材料との摩接または抵抗がほとんどまたは全くない状態で開口24および空所8の内部を往復するように前後方向に移動し得る。
【0024】弾発性シート材20開口24はそのシート材20の二つのブランチすなわちフランジ20a,20bにより規定されている。このブランチすなわち分岐縁は,好ましい実施例ではシート材20と一体形成され。分岐縁20aはハウジング4の外向き且つシャフト60へ全体的に向かって延在している。分岐縁20bは空所8へ全体的に向かって延在している。分岐縁20a,20bは組合わされて開口24を包囲しており,したがってシャフト60が開口24内に位置される。開口24はシャフト60の横断面形状に類似の形状をしていることが好ましく,またシャフトを完全に包囲して把持することで緊縮シールを形成して,空所8から流体が漏出するのを防止するために,シャフト60の横断面形状と同じか僅かに小さい寸法であるのが好ましい。
【0025】形状の相違が大きくなればなるほどシールの有効性がますます損なわれることは当業者には明白となるであろうが,開口形状は同一でなくても弾発性シート材20に開口が形成されるとき,開口はシャフト60の形状に適合される。
【0026】分岐縁20a,20bはシャフト60が開口の内側に配置されたときにその開口をシール(密封)するに十分な弾発性を有する。分岐縁が短すぎるとシャフトとの緊密な嵌合状態において分岐縁が互いに適当な膨らみを発生せず,またそれらの分岐縁が長すぎると各分岐縁の中間部分がシャフトに接触して先端が望まれるように堅固に接触できないほどに膨らんでしまう。分岐縁のシャフトに対するこの接触は,シャフトが往復移動するときにそのシャフトから異物および液体を掻落とすための分岐縁の能力を最大限にするために重要である。シート本体とシャフトとの間の距離を最小限にすること,シャフトに対して約5゜?50゜の角度で配置されるような長さに分岐縁を作ることが最適であると見出されている。」

・「【0029】作動において,制御ユニット118はモーター122を作動して回転させ,駆動シャフト126の角度位置は制御ユニットにフィードバックされる。駆動シャフト126の,したがって駆動ホイール130のこの角度位置に基づいて,制御ユニットはバルブ110,114を交互に開成および閉成して,シャフト60の引込みストロークすなわち移動においては流体が流体供給源44から空所8内に流入できるように,またシャフト60のポンピングストロークにおいては流体が空所8から流体シンク48へ流れることができるようにさせる。実際には,バルブ110,114の開成および閉成の直接的な制御が行われて,両バルブが同時に開かれる(例えば流体供給源が静脈内投与バッグで,静脈内投与バッグが緊締されるときに生じ得る)ときに生じる自由流れを防止することで,流体供給源44から流体シンクへの流体の有効なポンピングを保証している。制御ユニット118は説明として電気機器の作動を制御するのに使用されるいずれの通常のマイクロプロセッサとし得る。 」

・「【0031】シャフト60が空所8の内部を往復移動して説明したポンピング作用を行うとき,付随的な力が開口24の形成するシールおよび往復移動するシャフト60によって発生される。これらの付随的な力は変化する圧力差であり,これは空所8の内部での高圧および低圧の状況として説明される。シャフト60が外向に移動するとき,空所8の内部圧力は低下する。しかしシールに関しては,大気が空所の内部へ向かって付勢される。シート20の分岐縁20aはこの圧力差によってシャフト60の方向へ押圧され,これによりシールを一層緊密に保証する。シート20の分岐縁20bはシャフトが空所を出るときにそのシャフトから液体を掻落す。空所8へシャフト60が侵入するとき,高圧が空所内に発生する。この高圧は分岐縁20bをシャフト60の方向へ付勢し,これによりシールを一層緊密に保証して,流体の損失を防止する。分岐縁20aはまた,シャフト60が空所の中へ侵入するときにそのシャフトからあらゆる粒子や他の異物を掻落す。シート20の分岐縁20a,20bは,説明した他方の機能を,その取り残しに関して,すなわちバックアップするように遂行する。しかしながらそれらの主機能は,内向きに動くシャフトの方向と大気(分岐縁20a),および外向きに動くシャフトの方向と空所(分岐縁20b)にそれぞれ関係して向上される。分岐縁20a,20bおよびシャフト60はシート20が大きく膨らまされるのを防止する複合体を形成する。
【0032】図2はシャフト60,および前後のシール支持部90,92を備えた弾発性シート材20の開口24の部分的な側部の横断面図を示している。これらの支持部90,92は,開口24にてシート20を支持することで空所8内に非常に高い正または負の流体圧が発生するのを可能にし,したがってシャフト60が空所に侵入する移動でシートは膨らまず(したがって弾発性材料を引き伸ばして劣化させ,またシールを損傷することはなく),また空所8から離れる方向へシャフト60が移動することで圧潰されることはない。分岐縁20a,20bおよびシャフト60の間に一層堅固な複合体をこの目的で使用することもできるが,しかしながら説明した支持部はさらに弾発性の大きいシート材を使用できるようにする。空所内の一層高い流体圧力はシート20の膨らみおよび圧潰の問題を悪化させるが,支持部90,92はこれを防止するように作用する。
【0033】後部支持部92は開口92aの形成された非可撓性の平坦プレートで構成されるのが好ましい。開口92aは分岐縁20bと類似の形状で,それよりも僅かに寸法が大きくされて,その内部でシャフトが自由に移動できるように,またシート20に接近して配置できるようになされるのが好ましい。シャフト60が空所8へ侵入する移動時に,分岐縁20a,20bに対するシャフト60の摩擦はシート20を空所8へ向けて膨らませる傾向を示す。しかしながらシート20はその材料が損傷されたり密封性を損なうほどに膨らむ前に,支持部92に接触する。支持部92と同様に,支持部90は開口90aの形成されたプレートを有する。開口90a,92aは分岐縁20a,20bの自由状態での機能を可能にするが,支持部90,92はシート20に対する所望の支持を与える。」

これらの記載事項と図1,図2の図示内容を総合すると,引用例2には,以下の事項が記載されていると認められる。
「静脈内投与溶液(薬液)を供給する医療装置(医療機械)用の容積ポンプ(ピストンポンピングシステム)であって,
前記容積ポンプ(ピストンポンピングシステム)は,プランジャー60(ピストン)を有しており,
前記プランジャー60(ピストン)は,内側フィルタ16(ガイドチューブ)内の空所8の内部と弾発性シート材20(リングシール)の開口24の内部を往復するように移動(案内され,かつ,前記プランジャー60(ピストン)の長手方向軸線に沿ってストローク移動)を行うことができるように構成されており,
前記プランジャー60(ピストン)は,空所8(ポンピングチャンバ)内に突出して移動するように構成され,
前記空所8(ポンピングチャンバ)は,チェックバルブ(弁)を備えた入口導管36(液体搬送連結部)を介して流体供給源44(貯蔵容器)に連結されており,
前記空所8(ポンピングチャンバ)から,出口導管40(液体搬送連結部)が流体シンク48(液体供給装置)に導かれている構成の容積ポンプ(ピストンポンピングシステム)において,
前記内側フィルタ16(ガイドチューブ)内には,溝により保持され,かつ,前記プランジャー60(ピストン)をシールする弾発性シート材20(リングシール)が設けられ, 前記弾発性シート材20(リングシール)は,シリコーンゴム(シリコーン)からなるように構成されている容積ポンプ(ピストンポンピングシステム)。」

同じく当審における平成24年 5月10日付けの拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2002-81548号公報(以下,「引用例3」という。)には,「シール構造」に関し,図面とともに次の事項が記載又は示されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,2つの部材間のシール構造に関し,例えばシリンダヘッドに取り付けられた燃料噴射弁を有する内燃機関において,燃料噴射弁とシリンダヘッドとの間のシール構造に関する。」

・「【0005】本発明は,このような事情に鑑みてなされたものであって,シールリングの装着性が良好で,しかもシールリングの弾性力のみで高いシール性が確保できるシール構造を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段および発明の効果】本願の請求項1記載の発明は,第1部材と第2部材との間の密封が,前記第1部材に設けられた環状溝に装着された弾性材からなるシールリングの弾性力によりなされるシール構造において,前記環状溝への装着前の前記シールリングの体積は,装着空間の容積よりも大きくされ,前記シールリングの中心軸線を含む任意の仮想平面での装着後の前記シールリングの前記環状溝内での断面形状は,前記仮想平面での前記環状溝の断面形状に合致するシール構造である。
【0007】この請求項1記載の発明によれば,弾性材からなるシールリングの装着前の体積は,装着空間の容積よりも大きくされていて,シールリングが環状溝へ装着されて第1,第2部材間に位置したとき,環状溝は,圧縮変形されたシールリングにより,同一仮想平面でのシールリングの断面形状と環状溝の断面形状とが合致するように隙間なく充填される。そのため,第1部材および第2部材に対しては,シールリングの圧縮変形に伴って発生する弾性力のみに基づく面圧が作用して,両部材間での密封がなされる。特に,第1部材については,環状溝の全壁面でシールリングが接触しているので,この間でのシール性が著しく向上する。
【0008】さらに,高圧流体が第1,第2部材間に侵入してシールリングに作用したとしても,環状溝はシールリングにより隙間なく充填されているので,シールリングが環状溝内で大きく変形する余地はない。これによって,シールリングと高圧流体との接触面積も小さくなり,シールリングに作用する流体圧によりシールリングに作用する力も小さいものとなって,シールリングの流体圧による変形が抑制され,さらにはクリープによる変形も抑制される。
【0009】その結果,第1,第2部材間の密封が,弾性材からなるシールリングの弾性力のみによりなされるため,シールリングがコンパクトとなって,その配置の自由度が大きくなる。しかも,密封するための弾性力をそれ自体が発生するシールリングは環状溝に装着されるだけでよいので,装着性も良好である。そのうえ,両部材間に侵入した高圧流体の流体圧がシールリングに作用したとしても,環状溝はシールリングにより隙間なく充填されているので,該流体圧によるシールリングの変形,さらにはクリープによる変形が抑制されて,それらに起因するシール性の低下が防止され,必要な高いシール性を確保できる。
【0010】なお,この明細書において,装着空間の容積とは,環状溝の容積と,環状溝の開口部と第1,第2部材間の隙間とで規定される間隙の容積との和である。」

・「【0035】C.その結果,部分的により高いシール性を付与することにより,第1実施例のシールリング7よりも径方向の厚みが部分的に小さいシールリング7を使用しても,第1実施例と略同等の高いシール性が確保できる。そして,このように部分的に薄いシールリング7を使用することで,挿入孔5への先端部2の挿入時におけるシールリング7の面圧が低下し,挿入が容易となって,燃料噴射弁1の組付け性が向上する。
【0036】次に,本発明の第4実施例を,図8および図9を参照して説明する。この第4実施例は,第1実施例とは環状溝6およびシールリング7の形状が相違し,その他は基本的に同一の構成を有するものである。そのため,同一の部分についての説明は省略または簡略にし,異なる点を中心に説明する。なお,第1実施例の部材と同一の部材または対応する部材については,同一の符号を使用した。
【0037】円環状の環状溝6は,第1,第2側壁面6a,6bと底壁面6cとの接続部分6d,6eが湾曲されてR状とされている点,および径方向の深さに対する軸方向の長さの比が小さくされて,その断面形状が正方形により近い長方形となっている点を除き,第1実施例の環状溝6と同じである。また,シールリング7は,断面形状が円形とされる。
【0038】この第4実施例においても,充填率Fは100%を越えるため,そのため,シリンダヘッド3への燃料噴射弁1の取付けが完了した状態では,シールリング7は,環状溝6の各壁面6a,6b,6cと挿入孔5の周壁面5aとの間でつぶされて,径方向に圧縮変形される一方,軸方向に伸長することにより,シールリング7の寸法および環状溝6の寸法により決まる前述の圧縮および伸長による変形に伴って発生する弾性力のみに基づく面圧で,環状溝6の全壁面6a,6b,6cおよび挿入孔5の周壁面5aと接触している。そして,円形の断面を有するシールリング7は,環状溝6の底壁面6cの中央部,および周壁面5aの接触部分の中央部に対して,それら中央部に近づくほど大きく圧縮されて,それら中央部で最も大きく圧縮される。
【0039】しかも,シールリング7の中心軸線L2を含む任意の仮想平面で,環状溝6に装着されたシールリング7が環状溝6内で呈する断面形状は,少なくとも,燃焼ガスが発生する前の段階では,図8に図示されるように,環状溝6の該任意の仮想平面での断面形状と合致するようにされており,環状溝6は,シールリング7との間に隙間が生じないように,シールリング7により充填されている。
【0040】この第4実施例によれば,第1実施例の前記Aの点の作用と同じ作用および前記Bの点の効果と同じ効果が奏されるほか,次の作用および効果が奏される。すなわち,円形の断面を有するシールリング7は,環状溝6の底壁面6cの中央部,および周壁面5aの接触部分の中央部に対して,それら中央部に近づくほど大きく圧縮されて,それら中央部で最も大きく圧縮されるため,他の接触部分に比べて,それら中央部の近傍では大きな面圧を作用させることができる。その結果,第3実施例の前記Cの点の効果と同じ効果が奏される。」

これらの記載事項からみて,引用例3には,以下の事項が記載されていると認められる。
「2つの部材間のシール構造に関し,
断面形状を円形としたシールリング7(Oリングシール)は,径方向に圧縮され(半径方向圧縮を有し),環状溝6(溝)の軸線方向の壁面6a,6bでもつぶされて,
前記断面形状を円形としたシールリング7(Oリングシール)は,環状溝6の任意の仮想平面での断面形状と合致するように,環状溝6(溝)がシ-ルリング7(Oリングシール)との間に隙間が生じないように(90%を超える溝充填レベルで)環状溝6(溝)を充填するように構成されているシール構造。」
及び,
「2つの部材間のシール構造に関し,
シリンダヘッド3(ガイドチューブ側)に設けられた環状溝6(溝)により保持され,かつ,燃料噴射弁1(摺動部材側)をシールする断面形状を円形としたシールリング7(Oリングシール)が設けられ,
前記断面形状を円形としたシールリング7(Oリングシール)は,シリコンゴムからなる,シール構造。」

3.発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると,後者の「液体の試料,試薬」は前者の「薬液」に相当し,以下同様に,「吸入して吐出する」態様は「供給する」態様に,「マイクロポンプ装置1」は「ピストンポンピングシステム」に,「プランジャ12」は「ピストン」に,「備えて」いる態様は「有して」いる態様に,「シリンダ11を確定するハウジング17」及び「ハウジング17」は「ガイドチューブ」に,「シリンダ11内の空間」は「ポンピングチャンバ」に,「Oリング23」は「Oリングシール」にそれぞれ相当する。
また,後者の「液体の試料,試薬を吸入して吐出するマイクロポンプ装置1」と,前者の「1マイクロリットルから1ミリリットルの体積の薬液を供給する医療機械用のピストンポンピングシステム」とは,「薬液を供給するピストンポンピングシステム」において共通する。
次に,後者の「プランジャ12は,シリンダ11を確定するハウジング17内で案内され,かつ,シリンダ11内を往復動するように構成されて」いる態様は,プランジャ12が往復動する方向はプランジャ12の長手方向軸線に沿う方向であるから,前者の「ピストンは,ガイドチューブ内で案内され,かつ,前記ピストンの長手方向軸線に沿ってストローク移動を行うことができるように構成されて」いる態様に相当している。
そして,後者の「シリンダ11内の空間は,吸入口15の吸入ポートに接続されており,前記シリンダ11内の空間から吐出口16の吐出ポートに導かれているマイクロポンプ装置1」と,前者の「ポンピングチャンバは,弁を備えた液体搬送連結部を介して貯蔵容器に連結されており,前記ポンピングチャンバから,液体搬送連結部が液体供給装置に導かれている構成のピストンポンピングシステム」とは,「ポンピングチャンバは,吸入側に連結されており,前記ポンピングチャンバから,吐出側に導かれている構成のピストンポンピングシステム」において共通する。
そうすると,両者は,
「薬液を供給するピストンポンピングシステムであって,
前記ピストンポンピングシステムは,ピストンを有しており,
前記ピストンは,ガイドチューブ内で案内され,かつ,前記ピストンの長手方向軸線に沿ってストローク移動を行うことができるように構成されており,
前記ピストンは,ポンピングチャンバ内に突出して移動するように構成され,
前記ポンピングチャンバは,吸入側に連結されており,前記ポンピングチャンバから,吐出側に導かれている構成のピストンポンピングシステムにおいて,
前記ガイドチューブ内には,溝により保持され,かつ,前記ピストンをシールするOリングシールが設けられた,
ピストンポンピングシステム。」
の点で一致し,以下の各点で相違すると認められる。

<相違点1>
薬液を供給するピストンポンピングシステムに関し,本願発明1では,薬液の体積が「1マイクロリットルから1ミリリットルの体積」であって,ピストンポンピングシステムが「医療機械用」であるのに対して,引用発明では,そのような特定がなされていない点。

<相違点2>
本願発明1では,「ポンピングチャンバは,弁を備えた液体搬送連結部を介して貯蔵容器に連結されており,前記ポンピングチャンバから,液体搬送連結部が液体供給装置に導かれている構成」であるのに対して,引用発明では,シリンダ11内の空間(ポンピングチャンバ)は,吸入口15の吸入ポートに接続されており,前記シリンダ11内の空間(ポンピングチャンバ)から吐出口16の吐出ポートに導かれている構成であるものの,それ以上の特定がなされていない点。

<相違点3>
Оリングシールに関し,本願発明では,「シリコーンからなり」,「窒素(N_(2))に対する100[N*cm^(3)*mm/(m^(2)*h*bar)]から500[N*cm^(3)*mm/(m^(2)*h*bar)]のガス透過係数を有し」,「30%より小さい半径方向圧縮及び軸線方向圧縮を有し」,「圧縮されたOリングシールは,90%を超える溝充填レベルで溝を充填するように構成されている」のに対し,引用発明では,そのような特定がなされていない点。

<相違点4>
本願発明では,「ピストンは,0.25mmから4mmの断面を有する」のに対して,引用発明では,そのような特定がなされていない点。

4.相違点の検討・当審の判断
<相違点1について>
引用発明も「試薬」つまり「薬液」を供給するマイクロポンプ装置に関するものであり,このマイクロポンプを「医療機械用」とすることに,何ら困難性は認められない。
また,薬液の体積を数値限定した点についても,引用発明もマイクロポンプ装置であるからそのような数値範囲は通常採用されるものであって格別のものとは認められない(必要があれば,国際公開第2002/055136号(翻訳文として,特表2005-501573号公報の段落【0063】に必要な薬物を送達し得る薬物伝達デバイスのレザーバの内部体積として約50μL?約2mLという旨の記載がある。)を参照のこと。)。

<相違点2について>
引用例2には,「静脈内投与溶液(薬液)を供給する医療装置(医療機械)用の容積ポンプ(ピストンポンピングシステム)であって,前記容積ポンプ(ポンプピストンポンピングシステム)は,プランジャー60(ピストン)を有しており,前記プランジャー60(ピストン)は,内側フィルタ16(ガイドチューブ)内の空所8の内部と弾発性シート材20(リングシール)の開口24の内部を往復するように移動(案内され,かつ,前記プランジャー60(ピストン)の長手方向軸線に沿ってストローク移動)を行うことができるように構成されており,前記プランジャー60(ピストン)は,空所8(ポンピングチャンバ)内に突出して移動するように構成され,
前記空所8(ポンピングチャンバ)は,チェックバルブ(弁)を備えた入口導管36(液体搬送連結部)を介して流体供給源44(貯蔵容器)に連結されており,
前記空所8(ポンピングチャンバ)から,出口導管40(液体搬送連結部)が流体シンク48(液体供給装置)に導かれている構成の容積ポンプ(ピストンポンピングシステム)」が開示されている。
そして,引用発明,引用例2に開示された事項がいずれも薬液を供給するポンプに関するものであることから,引用発明のシリンダ11内の空間(ポンピングチャンバ),供給口15,及び吐出口16の構成に,引用例2に開示された事項を適用して,上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点3について>
引用例3には,
「2つの部材間のシール構造に関し,
シリンダヘッド3(ガイドチューブ側)に設けられた環状溝6(溝)により保持され,かつ,燃料噴射弁1(摺動部材側)をシールする断面形状を円形としたシールリング7(Oリングシール)が設けられ,
前記断面形状を円形としたシールリング7(Oリングシール)は,シリコンゴム(シリコーン)からなり,
前記断面形状を円形としたシールリング7(Oリングシール)は,径方向に圧縮され(半径方向圧縮を有し),環状溝6(溝)の軸線方向の壁面6a,6bでもつぶされて,
前記断面形状を円形としたシールリング7(Oリングシール)は,環状溝6の任意の仮想平面での断面形状と合致するように,環状溝6(溝)がシ-ルリング7(Oリングシール)との間に隙間が生じないように(90%を超える溝充填レベルで)環状溝6(溝)を充填するように構成されているシール構造。」
が開示されていると認められる。
そこで,シールリング7は径方向に圧縮され(半径方向圧縮を有し),軸方向(軸線方向)に伸張するものの,環状溝6(溝)の軸線方向の壁面6a,6bでもつぶされるから,環状溝6(溝)から軸線方向の圧縮も受けることになるものと解される。
なお,この点については,2部材間のシールを行うシール構造であって,シールリングにより装着空間を隙間なく充填する際に,半径方向と軸線方向の両方に圧縮が起こることが明記されたものとして,特開2002-81549号公報の段落【0030】?【0035】を参考のために挙げておく。
次に,Oリングシールが,窒素(N_(2))に対する100[N*cm^(3)*mm/(m^(2)*h*bar)]から500[N*cm^(3)*mm/(m^(2)*h*bar)]のガス透過係数を有していることは,本願明細書の段落【0026】に記載されているように,単なるシリコーンゴムの一般的な特性にすぎない(例えば,特開2001-9249号公報の,特に段落【0068】?【0073】にも,シリコーン膜の窒素(N_(2))に対するガス透過係数が18[10^(-10)cm^(3)(STP)・cm/cm^(2)・sec・cmHg]と記載されており,当該数値は単位を換算すると476[N*cm^(3)*mm/(m^(2)*h*bar)]となる。)。
よって,引用例3のシリコンゴムからなるシールリング7(Oリングシール)も,窒素(N_(2))に対する100[N*cm^(3)*mm/(m^(2)*h*bar)]から500[N*cm^(3)*mm/(m^(2)*h*bar)]のガス透過係数を有していると認められる。
また,Оリングシールにおいて,耐久性等の向上のために,圧縮率を抑制することは慣用手段である(必要ならば,特開平7-260000号公報(特に,段落【0008】,【0013】)参照。)。
そして,半径方向圧縮及び軸線方向圧縮を30%より小さくすることの臨界的意義は,本願の明細書,特許請求の範囲及び図面のいずれにも記載や示唆がなく,当該数値は,当業者が適宜選択し得る事項であり,30%より小さくすることによる格別な効果を奏するものとは認められない。
してみれば,引用発明及び引用例3に開示された事項がいずれも,シール性能の向上を課題として,Oリングシールのシール構造を有するものである点で共通していることから,引用発明において,上記慣用手段に鑑みて,引用例3に開示された事項を適用することにより,相違点3に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点4について>
引用発明もマイクロポンプ装置に関するものであって,マイクロポンプ装置の大きさを考慮すれば(一例として,特開平5-272457号公報の段落【0040】には,マイクロポンプの大きさの例として,全体で幅1?4mm,長さ(ピストンの移動方向)2?4mm,高さ(厚み)0.5?1mm程度と記載されている。),ピストンの断面の大きさを,0.25mmから4mmとすることに格別の困難性はなく,当業者が必要に応じて採用可能な設計的事項に過ぎないものである。

そして,本願発明の作用効果について検討しても,引用発明,引用例2,3に開示された事項,及び上記慣用手段から予測されるものであって,格別のものとはいえない。

したがって,本願発明は,引用発明,引用例2,3に開示された事項,及び上記慣用手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおりであるから,本願発明(請求項1に係る発明)は,引用発明,引用例2,3に記載された事項,及び,上記慣用手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると,このような特許を受けることができない発明を包含する本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-12 
結審通知日 2012-12-17 
審決日 2012-12-25 
出願番号 特願2004-557942(P2004-557942)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 一彦  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 藤井 昇
槙原 進
発明の名称 ピストンポンピングシステム  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 井野 砂里  
代理人 大塚 文昭  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 弟子丸 健  

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