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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B81C
管理番号 1273730
審判番号 不服2011-26177  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-02 
確定日 2013-05-08 
事件の表示 特願2006-538251「リリースされていない薄膜部分を有するMEMS装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月19日国際公開、WO2005/044721、平成19年 4月26日国内公表、特表2007-510554〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成16年10月28日(パリ条約による優先権主張2003年11月3日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、同23年7月27日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成23年12月2日に本件審判の請求がされ、同24年4月25日付けで当審から拒絶の理由が通知され、同24年11月8日に意見書とともに特許請求の範囲について手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし21に係る発明は、平成24年11月8日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項1の記載は以下のとおりである。
「 【請求項1】
可動部分を備えたマイクロエレクトロメカニカルシステム装置の前記可動部分への損傷のリスクが軽減されて前記マイクロエレクトロメカニカルシステム装置が運送されることが出来るように、前記可動部分が動くことができるエアギャップに犠牲的材料を堆積することにより、犠牲的材料で前記可動部分のある動きを抑制することと;
前記マイクロエレクトロメカニカルシステム装置を運送することと;
前記マイクロエレクトロメカニカルシステム装置が運送された後に前記犠牲的材料を除去することと;
前記犠牲的材料が除去されてから前記マイクロエレクトロメカニカルシステム装置をパッケージングすることと;
を備える方法。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)
第3 引用刊行物記載の発明
これに対して、当審での平成24年4月25日付けの拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された下記刊行物には、以下の発明、あるいは事項が記載されていると認められる。
刊行物1:国際公開第01/14248号
刊行物3:特開2002-246307号公報

1 刊行物1
(1)刊行物1記載の事項
刊行物1には、「ASSEMBLY PROCESS FOR DELICATE SILICON STRUCTURES」(微細シリコン構造体の組立工程)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。(なお、括弧内の日本語は、当審による英和仮訳である。)

ア 第1ページ第6?14行
「The utilization of micro machining technology makes possible the fabrication of micrometer sized structures. The term silicon micro machining is typically used to describe the formation of mechanical structures on silicon wafers using a combination of deposition and etching of thin films and potentially etching of the silicon wafer. In the formation of many structures, one or more of the thin film layers are used as sacrificial layers, upon removal of which the final structure is realized. The sacrificial layers help maintain sufficient robustness of the structure during the wafer fabrication process. Traditionally, the final wafer processing procedure is to remove the sacrificial layers and dry the structures to prevent stiction. 」

(マイクロ機械加工技術の利用は、マイクロメートルサイズの構造体の製造を可能にしている。シリコンマイクロ機械加工という用語は、一般的に、薄膜の蒸着およびエッチング(潜在的にシリコン・ウェハーのエッチング)の組み合わせを利用するシリコン・ウェハー上の機械的構造体の形成を記述するために用いられる。多数の構造体の形成において、1つ以上の薄膜層が犠牲層として使用される。すなわち、その除去により最終的構造が実現される。犠牲層は、ウェハー製造工程中における構造体の十分な頑健性の維持に役立つ。伝統的に、ウェハーの最終加工工程は、犠牲層の除去および吸着防止のための構造体の乾燥である。)

イ 第1ページ第15行?第2ページ第2行
「The major problem with this process is, in order to package the sensor structures, they must first be separated from the wafer. The most common method for separation is dicing of the wafer using a high speed diamond blade or a laser. Alternatively, the wafer can be scribed and cleaved along the crystal orientation. Scribing is generally very damaging to mechanical structures on the wafer due to the extremely high stress levels during the cleaving process and debris left from breaking. The dicing process presents other problems. The laser dicing tends to heat up the wafer and produces a significant amount of residue which gets in the tiny gaps of an unprotected sensor structure and potentially render it useless. Furthermore, the heat generated may lead to excessive temperature strain on the sensor structure.」

(この工程における大きな問題は、センサー構造体をパッケージするために、先ずそれをウェハーから分離しなければならないことである。この分離のための最も一般的な方法は、高速ダイヤモンド・ブレードまたはレーザーの使用によるウェハーのダイシングである。別の方法として、ウェハーを結晶方向に沿ってスクライビングおよびクリービングすることもできる。スクライビングは、一般的に、クリービング工程中の極度に高い応力レベルおよび切削屑のためにウェハー上の機械的構造体に激しい損傷を与える。ダイシングは、別の問題も引き起こす。レーザー・ダイシングは、ウェハーを加熱する傾向をもち、また、かなりの量の残留物を作り出す。これらの残留物、未保護センサー構造体の小さな隙間に入り込み、それを無用にしてしまう可能性がある。さらに、発生した熱によりセンサー構造体に過度の熱ひずみが生ずる可能性もある。)

ウ 第2ページ第9?13行
「Another issue involves the handling of the structures when separated. Transferring the delicate structures to a package becomes quite cumbersome, since conventional vacuum/contact pick and place methods cannot be applied without potential damage to the structure. This leads to complications and customization of the assembly equipment, which otherwise could be standard IC die attach equipment.」

(もう1つの問題は、分離するときの構造体の取り扱いに関係する。繊細な構造体をパッケージに送り込むことは、きわめてやっかいな作業である。在来の真空/接触ピック・プレース方法を用いると構造体に対する損傷を避けられないからである。これは、組立装置の複雑化およびカスタマイズに通ずる。このような問題がなければ標準ICダイ・アタッチ装置で間に合うはずである。)

エ 第3ページ第24行?第4ページ第2行
「The invention results from the realization that the inherent sacrificial layer in the sensor structure can be utilized to provide adequate mechanical robustness during the dicing and pick-and-place process. If the sacrificial layer is not removed from the structure until the structure has been placed in the package, the issues of mechanical protection during dicing and placing can be eliminated. Furthermore, if a chemically resistant package is selected, standard sacrificial layers, such as silicon oxide, and etching chemicals, such as hydrofluoric acid, can be used.」

(本発明は、センサー構造体の固有の犠牲層を利用してダイシングおよびピック・プレース工程中の適切な機械的頑健性を与えることができるという認識に由来する。構造体がパッケージ中に置かれるまで犠牲層が構造体から除去されない場合、ダイシングおよびプレーシング中の機械的保護の問題を排除できる。さらに、化学的抵抗力をもつパッケージが選択された場合、酸化ケイ素のような標準犠牲層およびフッ化水素酸のようなエッチング剤が使用できる。)

オ 第5ページ第3?12行
「There is shown in FIG. 1 a typical silicon structure 10 as used in the procedure according to this invention. The structure consists of one or more mechanical layers 11, which have been formed on a substrate 13, and the separation between which has been set by the thickness of one or more sacrificial layers 12. During fabrication, many sensor structures 10 are formed simultaneously on a silicon wafer, and upon completion the wafer is diced and each structure is picked and placed on a lead frame carrier 22 shown in FIG. 2 forming the assembly 20. In an embodiment, the sensor structures can be acoustic transducers or the like such as disclosed in U.S. Patent No.
5,452,268 to Bernstein, incorporated herein by reference. The transducer includes a perforated member, separated from a diaphragm, with a sacrificial layer therebetween.」

(本発明による工程において使用される典型的なシリコン構造体10を図1に示す。この構造体は、基板13の上に形成されている1つ以上の機械層11から構成され、それらの層は1つ以上の犠牲層12の厚さにより分離されている。製造中、多数のセンサー構造体10がシリコン・ウェハー上に同時に形成される。完成後、ウェハーをダイスカットし、各構造体をピックし、図2に示すリードフレームキャリア22上にプレースして、アセンブリ20を形成する。ある実施態様では、センサー構造体は、Bernsteinに与えられた米国特許第5,452,268において開示され、参照によりこの出願に包含されている音響トランスデューサー等である。このトランスデューサーは、ダイアフラムから分離され、それらの間に犠牲層をもつ穿孔部材を含んでいる。)

カ 第5ページ第13?20行
「The silicon structure is attached to the carrier 22 using an adhesive 21, or can be attached using other methods such as eutectic bonding. The adhesive 21 and lead frame carrier 22 are made from materials that withstand exposure to etchants for the removal of the sacrificial layers 12 and the subsequent drying process of the silicon structure 10. The assembly 20 is entirely exposed to the sacrificial layer etchant, which upon drying forms the final silicon structure 30 in FIG. 4. From this point onwards, a standard integrated circuit assembly procedure can used to electrically connect the silicon structure using bond wires 23 and to encapsulate the structure.」

(シリコン構造体は、接着剤21を使用してキャリア22に取り付けるか、または共晶接合のようなその他の方法を使用して取り付けることができる。接着剤21およびリードフレームキャリア22は、犠牲層12の除去のためのエッチャントおよびシリコン構造体10のその後の乾燥工程への曝露に耐える材料から製造する。アセンブリ20は、犠牲層エッチャントに全面的にさらされ、乾燥後に図4に示す最終シリコン構造体30を形成する。この時点以降、標準的な集積回路組立工程を使用してシリコン構造体をボンド・ワイヤ23により電気的に接続し、構造体をカプセルに包む。)

キ 特許請求の範囲の1
「1. A method comprising the steps of:
providing a wafer;
dicing from the wafer a silicon structure having at least one internal sacrificial layer;
picking and placing the silicon structure onto a substrate carrier;
attaching the silicon structure onto the substrate carrier;
removing the sacrificial layer by subjecting the substrate carrier and silicon structure to a chemical dissolution process; and,
subjecting the substrate carrier and silicon structure to a drying process.」

(1. 以下のステップから構成される方法:
ウェハーを供給すること、
ウェハーから少なくとも1つの内部犠牲層をもつシリコン構造体をダイスカットすること、
シリコン構造体を基板キャリア上にピック・プレースすること、
シリコン構造体を基板キャリアに取り付けること、
基板キャリアおよびシリコン構造体を化学的溶解工程にかけることにより犠牲層を除去すること、および
基板キャリアおよびシリコン構造体を乾燥工程にかけること。)

ク 図1及び図4
図1及び図4を対比すれば、1つ以上の機械層11は、それらの間の動くことができるエアギャップに犠牲層12が堆積されていることが理解される。

(2)刊行物1記載の発明
まず、摘記事項オ等に記載されている「シリコン構造体10」については、摘記事項アに「マイクロメートルサイズの構造体の製造」とあることから、マイクロメートルサイズのシリコン構造体10、ということができる。
また、摘記事項オの「1つ以上の」「機械層11」に関し、摘記事項エに「センサー構造体は、」「音響トランスデューサー等である」とあることから、技術常識を踏まえれば、当該「機械層11」は、可動部分を含む機械層11、ということができる。

そこで、刊行物1の上記摘記事項アないしキ及び認定事項クを、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて本願発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。
「可動部分を含む機械層11を備えたマイクロメートルサイズのシリコン構造体10の前記可動部分を含む機械層11のダイシングおよびピック・プレース工程中の損傷を避けることが出来るように、前記可動部分を含む機械層11が動くことができるエアギャップに犠牲層12を堆積することにより、犠牲層12で可動部分を含む機械層11に適切な機械的頑健性を与えることと;
前記マイクロメートルサイズのシリコン構造体10をダイシングし、ピック・プレースし、リードフレームキャリア22に取り付けることと;
その後に前記犠牲層12を除去することと;
前記犠牲層12が除去されてから前記マイクロメートルサイズのシリコン構造体10を乾燥し、ボンド・ワイヤ23により接続し、カプセルに包むことと;
を備える方法。」(以下、「刊行物1発明」という。)

2 刊行物3
刊行物3には、「露光装置」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 段落【0043】
「【0043】次に、上記説明した生産システムを利用した半導体デバイスの製造プロセスを説明する。図11は、半導体デバイスの全体的な製造プロセスのフローを示す。ステップ1(回路設計)では半導体デバイスの回路設計を行う。ステップ2(マスク製作)では設計した回路パターンを形成したマスクを製作する。一方、ステップ3(ウエハ製造)ではシリコン等の材料を用いてウエハを製造する。ステップ4(ウエハプロセス)は前工程と呼ばれ、上記用意したマスクとウエハを用いて、リソグラフィ技術によってウエハ上に実際の回路を形成する。次のステップ5(組み立て)は後工程と呼ばれ、ステップ4によって作製されたウエハを用いて半導体チップ化する工程であり、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)、パッケージング工程(チップ封入)等の組立て工程を含む。ステップ6(検査)ではステップ5で作製された半導体デバイスの動作確認テスト、耐久性テスト等の検査を行う。こうした工程を経て半導体デバイスが完成し、これを出荷(ステップ7)する。前工程と後工程はそれぞれ専用の別の工場で行い、これらの工場毎に上記説明した遠隔保守システムによって保守がなされる。また、前工程工場と後工程工場との間でも、インターネットまたは専用線ネットワークを介して生産管理や装置保守のための情報等がデータ通信される。」

上記摘記事項ア.を技術常識を踏まえ整理すると、刊行物3には以下の事項が記載されていると認める。
「半導体デバイスの製造プロセスにおいて、用意したマスクとウエハを用いて、リソグラフィ技術によってウエハ上に実際の回路を形成する前工程と、回路を形成されたウエハを用いてダイシング、ボンディング及びチップ封入等の組立てを行う後工程とを、それぞれ専用の別の工場で行うこと」(以下、「刊行物3事項」という。)

第4 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。
まず、刊行物1発明の「可動部分を含む機械層11」が本願発明の「可動部分」に相当することは、技術常識に照らして明らかであり、以下同様に、「損傷を避けることが出来るように」は「損傷のリスクが軽減されることが出来るように」に、「犠牲層12」は「犠牲的材料」に、「適切な機械的頑健性を与えること」は「ある動きを抑制すること」にそれぞれ相当することも明らかである。
次に、刊行物1発明の「マイクロメートルサイズのシリコン構造体10」については、可動部分を含む機械層11を備えるものであり、また、ボンド・ワイヤ23により(電気的に)接続するものであることから、本願発明の「マイクロエレクトロメカニカルシステム装置」に相当するということができる。
また、刊行物1発明の「乾燥し、ボンド・ワイヤ23により接続し、カプセルに包むこと」は、技術常識を踏まえれば、本願発明の「パッケージングすること」に相当するということができる。

したがって、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「可動部分を備えたマイクロエレクトロメカニカルシステム装置の前記可動部分への損傷のリスクが軽減されることが出来るように、前記可動部分が動くことができるエアギャップに犠牲的材料を堆積することにより、犠牲的材料で前記可動部分のある動きを抑制することと;
後に前記犠牲的材料を除去することと;
前記犠牲的材料が除去されてから前記マイクロエレクトロメカニカルシステム装置をパッケージングすることと;
を備える方法。」

そして、本願発明と刊行物1発明とは、以下の2点で相違している。
1 <相違点1>
犠牲的材料を堆積する目的として、本願発明は、可動部分への損傷のリスクが軽減されてマイクロエレクトロメカニカルシステム装置が運送されることが出来るようにしているのに対し、刊行物1発明は、可動部分のダイシングおよびピック・プレース工程中の損傷を避けることが出来るようにするものである点。

2 <相違点2>
本願発明は、マイクロエレクトロメカニカルシステム装置を運送することと、前記マイクロエレクトロメカニカルシステム装置が運送された後に前記犠牲的材料を除去することとを有しているのに対し、
刊行物1発明は、マイクロメートルサイズのシリコン構造体10(マイクロエレクトロメカニカルシステム装置)をダイシングし、ピック・プレースし、リードフレームキャリア22に取り付けた後に犠牲層12(犠牲的材料)を除去するものである点。

第5 相違点の検討
1 <相違点1>及び<相違点2>について
ア まず、本願発明が「マイクロエレクトロメカニカルシステム装置」を「運送」することの技術的意義について検討する。本願明細書段落【0012】?【0013】に、「【0012】・・・図2において、統合された工場200は、プリカーサ処理(precursor processing)のためのセクション202、構造体処理のためのセクション204、及び後処理(backend processing)のためのセクション206、を含む。後処理は、一般的に、MEMS構成部分(a MEMS component )を外部の世界にインタフェースするプロセスを指し、装置パッケージング、外部エレクトロニクス及びインタフェースとの相互接続・・・その他を含むことが出来る。これらのプロセスは、・・・他のアクテビティを行わない専用設備の中でしばしば行なわれる。・・・【0013】 図3は、この考えとその利点を概念的に例示する。図3において、参照数字300は、別の設備からそれに供給されたプリカーサ膜上で構造体処理だけを行なう工場を示す。・・・その結果として生じる構成部分は、そのあと、完成されたMEMS製品の更なる完成の為に、1以上の後処理設備、304、に供給されることができる。」とあること等を踏まえれば、本願発明の「マイクロエレクトロメカニカルシステム装置」の「運送」は、プリカーサ処理及び構造体処理終了後、「後処理」のために別の工場へ運送するためのものであると認められる。

イ 次に、上記指摘した本願明細書段落【0012】?【0013】の記載及び技術常識に鑑みれば、刊行物1発明の「マイクロメートルサイズのシリコン構造体10をダイシングし、ピック・プレースし、リードフレームキャリア22に取り付ける」工程が、上記本願明細書段落【0012】?【0013】でいうところの「後処理」に該当しないことは明らかであり、プリカーサ処理及び構造体処理のいずれか、すなわち前処理に該当するものと認められる。
他方、刊行物1発明の「マイクロメートルサイズのシリコン構造体10を乾燥し、ボンド・ワイヤ23により接続し、カプセルに包む」工程は、(上記第4で指摘したように)本願発明の「パッケージングすること」に相当するものであるところ、これは、本願明細書でいうところの「後処理」に該当するものであると認められる。

ウ ところで、上記第3の2にて指摘したように、刊行物3事項は、
「半導体デバイスの製造プロセスにおいて、用意したマスクとウエハを用いて、リソグラフィ技術によってウエハ上に実際の回路を形成する前工程と、回路を形成されたウエハを用いてダイシング、ボンディング及びチップ封入等の組立てを行う後工程とを、それぞれ専用の別の工場で行うこと」であるところ、これを本願発明及び本願明細書の用語に倣って表現すれば、刊行物3事項の「用意したマスクとウエハを用いて、リソグラフィ技術によってウエハ上に実際の回路を形成する前工程」及び「回路を形成されたウエハを用いてダイシング、ボンディング及びチップ封入等の組立てを行う後工程」はそれぞれ「前処理」及び「後処理」と表現できる。また、刊行物3事項の「半導体デバイス」と本願発明の「マイクロエレクトロメカニカルシステム装置」とは、マイクロエレクトロデバイス、である限りにおいて共通する。 したがって、刊行物3事項は、
「マイクロエレクトロデバイスの製造プロセスにおいて、前処理と後処理とを、それぞれ専用の別の工場で行うこと」、
と言い換えることができる。
ここで、刊行物1発明と刊行物3事項は、いずれも、マイクロエレクトロデバイスの製造方法に関するものである点で共通しており、刊行物1発明に刊行物3事項を適用することを試みることは当業者にとって容易である。したがって、刊行物1発明において、(上記イにて指摘したように)「後処理」たる「乾燥し、ボンド・ワイヤ23により接続し、カプセルに包むこと」(パッケージングすること)を専用の別の工場で行うことも想到容易ということができる。そして、その場合は必然的に「後処理」のために専用の工場へ「運送」することとなる。

エ そして、「後処理」のために専用の工場へ「運送」するに際しては、高い応力レベルのために構造体10の可動部分が損傷を被る可能性があることは、当業者が容易に予測し得ることといえるところ、刊行物1発明は、高い応力レベルのために損傷を被る可能性があるダイシング工程(上記摘記事項第3の1(1)イ参照)において、可動部分への損傷のリスクを低減するために犠牲的材料を堆積するものであるから、上記「後処理」のための「運送」においても、犠牲層12(犠牲的材料)を除去せずにおいて「運送」し、「運送」された後に除去するようにすることは、当業者であればごく自然に採用し得ることである。

オ さらに、可動部に設けられた犠牲部材によって、輸送工程における損傷が防止できることは、例えば、当審の拒絶理由通知にて示した特開平8-18069号公報(段落【0019】等を参照)に記載されているように従来周知の事項でもある。

カ これらを併せ考えると、刊行物1発明に、刊行物3事項及び上記従来周知の事項を適用して、「後工程」への運送を行い、運送された後に犠牲層12を除去することとして、相違点1及び2に係る本願発明の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ること、というのが相当である。

キ 請求人は、本願発明における「運送は」、「乗り物を使い、遠くへ移す」と解釈されるべきものであると主張する(審判請求書第6ページ第23?24行)。しかしながら、かかる主張のように請求項の「運送」という用語を解釈しなければならないものではなく、また、仮にそのように解釈するにしても、刊行物3事項のような「前工程と後工程とを、それぞれ専用の別の工場で行うこと」において、「乗り物を使い、遠くへ移す」ことによって「運送」することは、ごく普通に行われることである。したがって、請求人の上記主張の点は格別なものではない。

2 本願発明の効果について
上記相違点1及び相違点2を総合勘案しても、刊行物1発明、刊行物3事項及び上記従来周知の事項から当業者であれば予測できない格別な効果が生じるとは考えられない。

3 したがって、本願発明は、刊行物1発明、刊行物3事項及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明、刊行物3事項及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その余の請求項2ないし21に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-28 
結審通知日 2012-12-04 
審決日 2012-12-17 
出願番号 特願2006-538251(P2006-538251)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B81C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩瀬 昌治  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 菅澤 洋二
長屋 陽二郎
発明の名称 リリースされていない薄膜部分を有するMEMS装置  
代理人 峰 隆司  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 河野 哲  
代理人 福原 淑弘  
代理人 中村 誠  
代理人 村松 貞男  
代理人 白根 俊郎  
代理人 野河 信久  

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