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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1274158
審判番号 不服2010-25312  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-10 
確定日 2013-05-16 
事件の表示 特願2004-97302「樹脂ビーズ含有塗料及びその製造方法、並びに、防眩材料及び偏光フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月13日出願公開、特開2005-281476〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成16年3月30日の出願であって,平成22年3月5日付けの拒絶理由通知書が通知され,その指定期間内の同年5月7日に意見書及び手続補正書が提出され,さらに平成22年6月3日付けの拒絶理由通知書が通知され,その指定期間内の同年8月4日に意見書が提出されところ,平成22年8月18日付けで拒絶査定がなされ,これに対し同年11月10日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。

2.平成22年11月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年11月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正
本件補正は,特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正するものである。
「少なくともバインダ樹脂と,粒径が0.5?6.0μmの架橋アクリルビーズと,トルエン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,メタノール及びイソプロピルアルコールからなる群より選択される一種又は二種以上を含む溶剤とを含有した防眩材料用塗料であって,
前記架橋アクリルビーズが前記溶剤で70%以上膨潤していることを特徴とする架橋アクリルビーズ含有塗料。」
ところで,本件補正前の請求項1(平成22年5月7日付け手続補正書の請求項1)の記載は次のとおりである。
「少なくともバインダ樹脂と樹脂ビーズと溶剤とを含有した塗料において,
樹脂ビーズが溶剤で70%以上膨潤していることを特徴とする樹脂ビーズ含有塗料。」
したがって,本件補正は,次の内容からなるものである。
(i)補正前請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「樹脂ビーズ」を,「架橋アクリルビーズ」であると限定するとともに,
(ii)該『架橋アクリルビーズ』を「粒径が0.5?6.0μm」であると限定して,さらに,
(iii)同発明を特定するために必要な事項である「溶剤」を「トルエン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,メタノール及びイソプロピルアルコールからなる群より選択される一種又は二種以上を含む溶剤」に限定し,そして,
(iv)「塗料」を「防眩材料用塗料」と限定するものである。
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされている特許法(以下,単に「旧特許法」という)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

(2)引用刊行物
原審で引用された,本件出願前に頒布されたことが明らかな特開平9-290490号公報(以下,「刊行物A」という。),特開2001-264516号公報(以下,「刊行物B」という。)には,それぞれ以下のことが記載されている。

・刊行物Aの記載事項
(A-1)「【請求項1】透明基体の片面または両面に粗面化層を設けてなる防眩材料において,少なくとも片面の粗面化層は,アクリル系紫外線硬化型樹脂および粒径が0.5?6.0μmの範囲にある架橋アクリルビーズを含有することを特徴とする防眩材料。」
(A-2)「【0028】
【実施例】本発明を実施例によって具体的に説明する。なお,「部」は,すべて「重量部」を意味するものとする。
実施例1
下記成分からなる混合物をサンドミルにより30分間分散させて得られた塗料を,膜厚80μm,透過率92%のトリアセチルセルロースからなる透明基体の片面上に,リバースコーティング方式にて塗布し,100℃で2分間乾燥した後,120W/cm集光型高圧水銀灯1灯を用いて紫外線照射(照射距離10cm,照射時間30秒)することにより,塗工膜を硬化させた。このようにして,厚さ3.2μm,HAZE値が16.5の粗面化層を有する防眩材料を得た。
エポキシアクリレート系紫外線硬化型樹脂 95部
(商品名:KR-566,固形95%溶液,旭電化社製)
架橋アクリルビーズ顔料 10部
(商品名:MX150,粒径1.5±0.5μm,綜研化学社製)
イソプロピルアルコール 230部」

・刊行物Bの記載事項
(B-1)「【0012】本発明の防眩シートにおいて,基材の表面に凹凸構造を形成させるフィラーとなる微細粒子としては,粒子を分散させたバインダーの硬化被膜中で透明性を示すものであればよく,例えば,アクリル,ポリスチレン,ビニルベンゼン等の有機粒子をはじめ,シリカ,アルミナ,チタニア,ジルコニアなどからなる無機微粒子や,酸化錫,酸化インジウム,酸化カドミウム,酸化アンチモンなどの導電性透明微粒子なども用いることができるが,必ずしもこれらに限定されるものではない。なかでも,好ましいものはアクリル樹脂の粒子である。」
(B-2)「【0013】高分子からなる微細粒子の調製方法としては,乳化重合法,懸濁重合法,分散重合法などが挙げられる。なかでも乳化重合法が最も一般的であるが,近年,分散重合も盛んに行われている。どの重合法においても,生成する高分子は分散媒に難溶であり,分散媒と高分子間の表面張力により粒子化する。高分子粒子は,粒子表面に結合又は吸着している保護コロイドによって安定化され,さらに粒子内架橋によっても安定化される。これらの方法の中でも特に,分散重合法を用いた場合,サブミクロンから数十ミクロンまでの広い範囲の粒子が得られる特徴がある。」
(B-3)「【0018】本発明の防眩シートの製造に際して,高分子からなる微細粒子を,バインダー中に溶剤を用いて分散させた溶液を塗工する際は,分散溶液を調合後,4時間,好ましくは12時間,さらに好ましくは24時間おいた後に塗工することが好ましい。高分子からなる微細粒子は溶剤の影響を受け,数時間の間,経時で膨潤するため,分散溶液調合後,すぐに塗工を行うと,微細粒子の粒径が経時で変化するため,凹凸構造が不均一になると共に,分散溶液の粘度も経時で変化するため,塗工条件の調整が困難になることがある。」
(B-4)「【0022】また,本発明の防眩シートは,液晶表示装置に使用されることを想定したものであり,その性質上,該防眩シートのヘイズ値は10?30%であることが好ましい。ヘイズ値が10%より小さい場合,十分な防眩性を発揮しているとは言い難く,まぶしさを伴う画面表示になりやすい。ヘイズ値が30%より大きい場合には,防眩性が強すぎるため,本来の表示像の視認性が著しく低下することがある。」
(B-5)「【0035】
【実施例】以下,実施例により本発明を具体的に説明するが,本発明はこれらにより,なんら限定されるものではない。
実施例1
平均粒径が5μmであるアクリル系樹脂粒子〔根上工業(株)製,アートパール,密度1.2g/cm^(3)〕と,バインダーとしてアクリル系ラテックス〔三井化学(株)製,アルマテックスE269,密度1.2g/cm^(3)〕を,トルエンとエチルメチルケトンからなる溶剤を用いて,固形分比35%,固形分中の粒子の割合を8.3体積%とした溶液を調合した。粘度は約40cpであった。これらの物性値を式(1),(2)に代入して,塗布重量範囲を計算した結果,ドライ塗布重量は,
4.5(g/m^(2))≦塗布量(g/m^(2))≦10.8(g/m^(2))
の範囲であった。そこで,ドライ塗布量が8.5g/m^(2)となるように,ポンプ圧力とラインスピードを調整し,厚さ50μmのポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムの上に,リップコート法にて塗布を行った。この際,ブツ(ゲル化した塗工液の固まり)による筋は観察されず,良好な塗布面が得られた。できたシートを日立自記分光光度計(型式U-3400)に150φの積分球を設置して,全光線透過率,及び,平行光線透過率を測定し,下記式によりヘイズ値を算出した。
・ヘイズ値=(全光線透過率?平行光線透過率)/全光線透過率×100
その結果,ヘイズ値22%の光拡散性を示した。また,このシートを偏光板に接着した後,解像度UXGAクラスの液晶表示装置に接着したところ,十分な防眩性が得られると同時に,表示像の解像性も非常に優れたものであった。
【0036】実施例2
固形分中の粒子の割合を6.0体積%としたこと以外は、実施例1に準じて溶液を調合した。

【0037】実施例3
固形分中の粒子の割合を20体積%としたこと以外は、実施例1に準じて溶液を調合した。

【0038】実施例4
固形分中の粒子の割合を40体積%としたこと以外は、実施例1に準じて溶液を調合した。」
(B-6)「【0044】
【表1】



(3) 刊行物Aに記載された発明
刊行物Aの実施例1には,その実施例1において,
「下記成分からなる混合物を…分散させて得られた塗料を,…基体の片面上に,…塗布し,…乾燥した後,…塗工膜を硬化させた。このようにして,…防眩材料を得た。」(A-2)
と記載されていて,ここでいう混合物として,以下の組成が記載されている。(A-2)
「エポキシアクリレート系紫外線硬化型樹脂 95部
(商品名:KR-566,固形95%溶液,旭電化社製)
架橋アクリルビーズ顔料 10部
(商品名:MX150,粒径1.5±0.5μm,綜研化学社製)
イソプロピルアルコール 230部」
ここで示されている混合物から得た『塗料』を基体に塗布して,塗工膜を硬化させて防眩材料を得た,というのであるから,ここでいう『塗料』は防眩材料用塗料であるといえ,また,該塗料には「混合物」として示された成分を含むものである。
したがって,刊行物Aには,次の塗料が記載されているものといえる。
「次の3成分を含む防眩材料用塗料
(a)エポキシアクリレート系紫外線硬化型樹脂
(b)架橋アクリルビーズ顔料(粒径1.5±0.5μm)
(c)イソプロピルアルコール」(以下,「引用発明」という。)

(4)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると,引用発明の(a)成分は,技術的に見て「バインダー樹脂」であることは明らかであることから,本件補正発明のバインダー樹脂に相当し,また,(b)成分は,その粒径が「1.5±0.5μm」とされていることから,本件補正発明の「粒径が0.5?6.0μmの架橋アクリルビーズ」に相当する。さらに,(c)成分は,本件補正発明において,溶剤の選択肢として記載されている一つであるイソプロピルアルコールであるから,結局両発明は次の点で一致するものである。
「バインダ樹脂と,
粒径が0.5?6.0μmの架橋アクリルビーズと,
イソプロピルアルコールを含む溶剤
とを含有した防眩材料用塗料であって,
架橋アクリルビーズ含有塗料。」
そして,以下の点で相違している。
[相違点]本件補正発明では,架橋アクリルビーズが「溶剤で70%以上膨潤している」と特定しているのに対して,引用発明では,そのような特定がない点。

(5)判断
以下,相違点について検討する。
刊行物Bには,防眩シートの製造に際して,高分子からなる微細粒子を,バインダー中に溶剤を用いて分散させた溶液を塗工する際は,該微細粒子は溶剤の影響を受けて経時で膨潤するため,分散溶液調合後,すぐに塗工を行うと,微細粒子の粒径が経時で変化し,凹凸構造が不均一になることがあることが記載されている(B-3)。そして,このため,高分子からなる微細粒子を,バインダー中に溶剤を用いて分散させた溶液を塗工する際は,分散溶液を調合後,4時間?24時間程度おいた後に塗工することが好ましいことも記載されている(B-3)。
すなわち,防眩シート製造に際し,高分子微細粒子を分散させた塗工液をシート表面に塗布する場合,該微細粒子が膨潤し粒径が経時で変化して凹凸構造が不均一になるという課題が既に知られており,そのために溶液中に一定時間おいた後塗工するといった手法が行われていたと解されるものである。
ここで,刊行物Bにおける高分子微細粒子について検討すると,
「本発明の防眩シートにおいて,基材の表面に凹凸構造を形成させるフィラーとなる微細粒子としては,粒子を分散させたバインダーの硬化被膜中で透明性を示すものであればよく,例えば,アクリル,ポリスチレン,ビニルベンゼン等の有機粒子…なども用いることができるが,…なかでも,好ましいものはアクリル樹脂の粒子である。」(B-1)
と記載され,さらに,
「高分子粒子は,…粒子内架橋によっても安定化される。」(B-2)
とも記載されている。
そして,刊行物Bの実施例1で使用されている「平均粒径が5μmであるアクリル系樹脂粒子〔根上工業(株)製,アートパール,…〕」(B-5)
は架橋されたアクリル樹脂と解されるものである(例えば,特開2000-255010号公報【0043】及び特開平9-157545号公報【0028】など参照)。
このような記載からすると,刊行物Bで使用される高分子微細粒子としては,ポリスチレンやビニルベンゼンよりも,むしろ第一にアクリル樹脂を対象として認識していたと解され,また架橋粒子も当然に含まれるものと解すべきものである。
さらに,防眩シートに配合される高分子粒子は程度の差こそあれ,膨潤性の物質であることは技術常識であることをも考慮すると,刊行物Bに記載された,「高分子微細粒子が経時で変化することにより防眩シート表面の凹凸構造が不均一になる」という課題は,該刊行物Bにおいては,高分子微細粒子の材質や性状との直接的な関連付けの記載まではないものの,少なくとも該刊行物Bの記載の発明において第一に認識されているといえるアクリル樹脂についても,その課題の対象となる高分子粒子であると理解されるものであり,また架橋されたアクリル樹脂も当然に含まれると解されるものである。
このような刊行物Bの記載を踏まえると,当業者ならば,引用発明における架橋アクリルビーズにおいても,同様な課題があることは容易に理解するところであるから,防眩シートへの塗工に先立ち,予め溶剤で膨潤させることについて十分な動機づけが生ずるものといえる。
さらに,高分子粒子の架橋の有無やその程度及び高分子粒子の材料の種類などに応じて,膨潤の程度やその進行状況に差があることは,当業者が当然に理解するところである上,膨潤現象は,いずれ飽和するものであること,及び,それゆえ膨潤の程度が進めばその後の変形割合は当然に小さくなることも,いずれも当業者にとって周知の事項である。したがって,「配合する高分子微細粒子の膨潤によりシート表面の凹凸構造が不均一になる」という課題を解決するためには,使用する各高分子微細粒子に応じた十分な程度の膨潤を行えばいいとすることは,当業者ならば,刊行物Bの記載に基づいて技術常識を考慮しつつ容易に理解するところである。
そうすると,引用発明の架橋アクリルビーズに対して,「該ビーズの膨潤によるシート表面の凹凸構造の不均一化」という問題を解決するために,事前に溶剤で十分な程度の膨潤を行い,その結果,例えば,80%や90%といった100%に近い,70%を越える膨潤状態とすることは,当業者が容易になし得たものといえる。

一方,本願明細書の記載をみても,本件補正発明により格別予想外の効果が奏されたものとすることができない。

よって,本件補正発明は,刊行物A及びBに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)請求人の主張について
請求人は,回答書において,以下の点を主張している。
(ア)刊行物Bでは,「高分子からなる微細粒子」という上位概念の粒子を対象としているのに対して,本願は,その材料を限定した「架橋アクリルビーズ」としていて,刊行物Bでは,「架橋アクリルビーズ」を使用した場合に,塗膜がヘイズ値が大きく異なる問題を認識していたとはいえず,本願はいわゆる選択発明に該当する旨。
(イ)本願と刊行物Bとでは,樹脂ビーズを膨潤させる際,溶剤中にバインダーが存在するか否かの点で相違する旨。
(ウ)「70%以上膨潤」とすることで,ヘイズ値がほぼ一定となること,及び,膨潤度「70%」を臨界として塗膜の透明性(ヘイズ値)が顕著に高くなること,は本発明者がはじめて見出した知見である旨。
しかしながら,これらの主張はいずれも採用できない。
・(ア)について
刊行物Bの高分子微細粒子には,上記したように,架橋アクリル微細粒子をも含めたものが念頭におかれているものと解され,しかもその実施例1で使用されている粒子も架橋アクリル樹脂であることから,刊行物Bにおいて,既に「架橋アクリル樹脂」に関しても「塗工後の膨潤による防眩シート表面の凹凸構造の不均一化」という問題は認識されていたといえるし,そして,その問題に対する解決手法としても,塗工前の溶剤による膨潤という方法が示されているものである。
ところで,本件補正発明は,そもそも,膨潤の時間を特定しているものではなく,膨潤時間とは無関係に,膨潤の程度を単に「70%以上」と特定するものである。したがって,膨潤時間の長短のみの容易性を検討することは適切ではなく,膨潤の程度を「70%以上」とすることが当業者にとって容易であるか否かを検討すべきである。
また,当業者ならば,膨潤の進行やそれに要する時間は,高分子粒子の材料の種類や架橋の有無及びその程度に応じて変動すると理解するから,「高分子微細粒子の膨潤による防眩シート表面の凹凸構造の不均一化」という課題を解決するために重要なことは,膨潤の時間ではなく膨潤の程度であると認識するといえる。
さらに,膨潤を十分な程度にまで進行させれば,その後の変形度合いも小さくなることは,上記したように技術常識である上,そもそも溶剤での膨潤が「高分子微細粒子の膨潤による防眩シート表面の凹凸構造の不均一化」という課題を解決するための手段なのであるから,当業者ならば,刊行物Bに示された時間にかかわらず,それ以後の変形が問題とならなくなるように,膨潤の程度をより飽和に近づけて,例えば,70%を越える膨潤状態としようとすることは,容易に想到することといえる。
なお,仮に,「架橋アクリルビーズ」という基本的な素材が一致する高分子材料について,刊行物Bの記載を超えて長期間の膨潤とすることによって,本件補正発明に係る「70%膨潤のビーズ」を得たというものであったとしても,上記したように,課題自体も認識されていた上,塗工前の溶剤による膨潤という解決手段の方向性も示されていて,さらに,膨潤の程度が進行し飽和に近づいた状態ほどそれ以降の変形が小さいということは技術常識であって,以後の変形をより小さくしたいならば,長期間の膨潤をすればいいことは,当業者にとって明らかなことであったから,たとえ時間の差異が比較的大きなものであったとしても,そのことをもって,当業者にとって格別の困難が伴うものであるとすることができない。
したがって,(ア)の主張は採用できない。
・(イ)について
そもそも,本願発明は,膨潤方法を特定するものではなく(すなわち,溶剤の他にバインダーが共存しているか否かなどにかかわらず),膨潤後の膨潤の程度を単に「70%以上」と特定するものである。
そして,そのように膨潤の程度を,単に「70%以上」とすることは,当業者にとって容易に想到するものであることは,上記「(ア)について」において記載したとおりである。
よって,上記(イ)の主張も採用できない。
・(ウ)について
高分子粒子の膨潤は通常飽和するものであり,また,膨潤度が高まればその後の変形が小さくなることは技術常識であるから,その境界値が具体的にどれくらいかは別として,膨潤の程度が進化すれば,さらなる膨潤の影響が無視できる程度に小さくなる境界にいずれ達することは技術的に明らかである。したがって,膨潤度が一定程度以上の高分子粒子を使用することにより,品質にバラツキのない一定の製品が得られたとしても,そのことをもって,当業者が予期し得ない格別の効果であるとすることもできない。
したがって,「『70%以上膨潤』とすることで,ヘイズ値がほぼ一定となる」ということを見出したとしても,当業者にとって格別予想外のこととはいえない。
また,「膨潤度『70%』を臨界として塗膜の透明性(ヘイズ値)が顕著に高くなる」という主張は,その意図するところは,必ずしも明らかではないが,「70%」に満たない低い膨潤度の場合には,その後の変動が大きいということならば,上記したように,その境界はともかく低い膨潤度の場合に,その後の膨潤による変動が大きいことは技術常識であるから,やはり,当業者にとって格別予想外のこととはいえない。
(なお,請求人の「膨潤度『70%』を臨界として塗膜の透明性(ヘイズ値)が顕著に高くなる」という主張が,仮に,ヘイズ値が高ければ高いほど,単純に防眩シートとしてより優れたものであることを前提とするものであるならば,そのような前提について,技術的な妥当性に疑問があるし,また,少なくとも,実施例1?6のヘイズ値が比較例1,2のヘイズ値と比較して望ましいものであることについて,請求人は説明をすべきものと思料する。
すなわち,本願明細書において「ヘイズ値…が,3?30の範囲あることが好ましい。…30を越えて大きいと…好ましくない。」(【0013】)とされていることから,ヘイズ値の数値自体が大きければ大きいほど常に望ましいものとも解されない(「ヘイズ値」は曇りの度合いを示す指標であるから,この値が大きいことは透明度が低下することを意味する。)し,また,比較例1,2のヘイズ値である「4.5」や「4.9」は上記『好ましい』とされる範囲内の数値であって,この数値自体に問題があるとも解されないから,実施例1?6のヘイズ値が単純に比較例1,2と比べて高いことのみをもって優れた効果であるが如き主張は適切ではない。仮に,好ましい範囲が「3?30」であって,その中でも「さらに好ましい範囲」があり,その範囲に,比較例の値は入らないが,実施例1?6の値は入るというのであればともかく,そのような説明は請求人からなされていない。一方,単なるヘイズ値の大小のみが効果に直結するのであれば,(試験方法の違いがあって単純比較することは妥当ではないかも知れないが)刊行物Bの架橋アクリル樹脂を使用した実施例1?4(B-5)のヘイズ値は,「13.4?25.3」(B-6)であって,これらの数値と該刊行物Bにおいて好ましいとされている「10?30%」(B-4)との関係は,本願明細書の「好ましい」とされる範囲と実施例1?6の数値との関係よりも,より上限に近い数値も含まれるものとなっている。)
以上,要するに,上記(ウ)の主張も採用できるものではない。

(7)むすび
以上のとおり,本件補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成22年11月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という)は,同年5月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「少なくともバインダ樹脂と樹脂ビーズと溶剤とを含有した塗料において,
樹脂ビーズが溶剤で70%以上膨潤していることを特徴とする樹脂ビーズ含有塗料。」

(2)引用刊行物
原審で引用された刊行物A及びB並びにその記載事項は,上記2.(2)で記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は,前記2.(1)で検討したように,
本件補正発明における「架橋アクリルビーズ」を「樹脂ビーズ」とするとともに,該ビーズに関する「粒径が0.5?6.0μmの架橋アクリルビーズ」なる事項を削除し,
さらに,本件補正発明における「トルエン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,メタノール及びイソプロピルアルコールからなる群より選択される一種又は二種以上を含む溶剤」なる記載を,何の限定のない「溶剤」とし,
そして,「防眩材料用塗料」を,単に「塗料」とするものに対応する。
これらの変更は,いずれも,本件補正発明における発明特定事項の削除又はより広範な意味を表す用語への変更に相当する。
そうすると,本願発明の特定事項を全て含み,さらなる特定事項の付加又は限定したものに相当する本件補正発明が,前記「2.(5)」に記載したとおり,刊行物A及びBに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものといえるのであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物A及びBに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,刊行物A及びBに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-12 
結審通知日 2013-03-19 
審決日 2013-04-02 
出願番号 特願2004-97302(P2004-97302)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
P 1 8・ 575- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門前 浩一千葉 桃子  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 磯貝 香苗
松浦 新司
発明の名称 樹脂ビーズ含有塗料及びその製造方法、並びに、防眩材料及び偏光フィルム  
代理人 鈴木 三義  
代理人 村山 靖彦  
代理人 高橋 詔男  
代理人 西 和哉  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  

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