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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B30B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B30B |
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管理番号 | 1274198 |
審判番号 | 不服2012-12588 |
総通号数 | 163 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-07-03 |
確定日 | 2013-05-16 |
事件の表示 | 特願2010- 67322「プレス機」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月 6日出願公開、特開2011-194466〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、平成22年3月24日の特許出願であって、同23年11月25日付けで自発の手続補正書が提出された後、同24年1月12日付けで拒絶の理由が通知され、同24年3月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同24年3月28日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、これに対し、同24年7月3日に本件審判の請求がされ、同時に特許請求の範囲及び明細書を補正対象書類とする手続補正(以下「本件補正」という。)がされ、その後、当審の同24年11月9日付け審尋に対して応答はなされなかった。 第2 本件補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容の概要 本件補正は、特許請求の範囲を含む明細書について補正をするものであって、補正前後の請求項1の記載を、補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。 (1) 補正前の請求項1 「 【請求項1】 スライドをボルスターに対して相対的に昇降動作させる偏心機構と、該昇降動作に際し昇降動作する部材の重力をゼロ又は低減するためのバランサーとを備えて、前記スライドが、部分球体を具備した球面継手部を介して、偏心機構の連接部材側に接続され、前記スライドに取着された上金型と、前記ボルスターに取着された下金型との間で、スプリングバックを生じる被加工物を絞り加工するプレス機において、 前記連接部材とスライドとの間に、油圧シリンダ機構を配置し、駆動装置により駆動される前記偏心機構の連接部材が最も下がった状態から、前記油圧シリンダ機構がさらにスライドを該油圧シリンダ機構の下死点まで押し下げるよう構成されており、 本プレス機の全ストローク量のうちの殆どの部分が前記偏心機構によりおこなわれ、残りの僅かなストローク部分が前記油圧シリンダ機構によりおこなわれるよう構成されている、ことを特徴とするプレス機。」 (2) 補正後の請求項1 「 【請求項1】 スライドをボルスターに対して相対的に昇降動作させる偏心機構と、該昇降動作に際し昇降動作する部材の重力をゼロ又は低減するためのバランサーとを備えて、前記スライドが、部分球体を具備した球面継手部を介して、偏心機構の連接部材側に接続され、前記スライドに取着された上金型と、前記ボルスターに取着された下金型との間で、スプリングバックを生じる被加工物を絞り加工するプレス機において、 前記連接部材とスライドとの間に、油圧シリンダ機構を配置し、駆動装置により駆動される前記偏心機構の連接部材が最も下がった状態から、前記油圧シリンダ機構がさらにスライドを該油圧シリンダ機構の下死点まで押し下げるよう構成されており、 本プレス機の全ストローク量のうちの殆どの部分が前記偏心機構によりおこなわれ、残りの僅かなストローク部分が前記油圧シリンダ機構によりおこなわれるよう構成されており、 前期油圧シリンダ機構の作動が、前期連接部材の下端が最下端位置になる手前で開始されるように、かつ、前記連接部材の下端が最下端位置まで下降するのと、前記スライドが最も下方まで下降するのと、同時あるいは一部重複するような時間的タイミングでおこなわれるように、前記駆動装置と前記油圧シリンダ機構を制御装置が制御することを特徴とするハイブリッド型プレス機。」 2 補正の適否 請求項1における補正は、プレス機を「油圧シリンダ機構の作動が、前期連接部材の下端が最下端位置になる手前で開始されるように、かつ、前記連接部材の下端が最下端位置まで下降するのと、前記スライドが最も下方まで下降するのと、同時あるいは一部重複するような時間的タイミングでおこなわれるように、前記駆動装置と前記油圧シリンダ機構を制御装置が制御する」「ハイブリッド型」のものであると特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。なお、補正によって追加された事項のうち、「前期油圧シリンダ機構」及び「前期連接部材」とあるが、これらは、「前記油圧シリンダ機構」及び「前記連接部材」の誤記であることは明らかである。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。 (1) 補正発明 補正発明は、本件補正により補正がされた明細書の記載からみて、上記1の(2)の補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。 (2) 刊行物記載事項 この出願の出願前に頒布された刊行物であって、当審の平成24年11月9日付けの審尋において示された特開2000-33494号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下のとおり記載されている。 ア 段落【0001】 「【発明の属する技術分野】本発明は、回転駆動されるクランク軸とコネクチングロッドで連結してスライドを昇降させる下死点停留機構内蔵プレスに関し、コイニング加工の精度を向上したい場合、及び複動プレスが下死点で複合加工を行う場合に有効である。」 イ 段落【0009】?【0010】 「【発明の実施の形態】図1から図5に、本発明における下死点停留機構内蔵プレスの実施例を示す。図1から図3は、本発明の第1実施例を示し、図2に示すプレス機械1は、クラウン2、コラム3及びベッド4を図示していない上下方向のタイロッドで一体に締結したフレーム構造を有し、クラウン2には水平方向のクランク軸5を回転自在に設け、図示していない駆動装置でクランク軸5を回転/停止させるようになっている。コラム3で上下動自在に案内したスライド6は、クランク軸5の偏心部に回転自在に連結したコネクチングロッド7の下端と油圧シリンダ8を介して連結され、クランク軸5の回転により昇降駆動される。スライド6とベッド4上面に据え付けたボルスタ9との間に図示していない金型を設置してプレス加工を行う。 図1は、クランク軸5の偏心部に連結したコネクチングロッド7とスライド6との連結部に設けた油圧シリンダ8と、油圧シリンダ8の動作を制御するために設けた制御装置10の構成を示す。油圧シリンダ8は、コネクチングロッド7下端を首振り自在に連結したピストン11と、このピストン11を上下動自在に収納し、スライド6に固設したシリンダ12からなる。ピストン11は、大径部11Aの下方に小径部11Bを設け、大径部11A上面とシリンダ12とで上シリンダ室13を形成し、小径部11B下面とシリンダ12とで下シリンダ室14を形成している。」 ウ 段落【0013】 「以上の構成により、スライド6が下降し、下死点、すなわちクランク角度180度少し前で、圧力演算器24は圧力指令発生器23の圧力指令値と圧力検出機22の圧力とを比較し、圧力偏差値を出力し、これをサーボ増幅器25で増幅してサーボ弁20に供給し、サーボ弁20が切り換わり、下シリンダ室14の圧力を上げる。下シリンダ室14の圧力によるピストン11の上向き付勢力が上シリンダ室13の下向き付勢力よりも大となって下死点に達し、下死点を越えてクランク軸5の回転でコネクチングロッド7が上昇を始めると、コネクチングロッド7とともにピストン11が上昇し、ピストン11のストローク長さだけコネクチングロッド7が上昇するまでは、スライド6を下死点に停留させる。下死点後、スライド6がピストン11のストローク長さを越える高さ位置で圧力指令値を元の低い値に戻し、復帰させる。」 エ 段落【0015】 「図3は、本発明による油圧シリンダ8を設けたプレス機械1のスライドモーションPと、一般のプレレス機械のスライドモーションQとの比較線図である。油圧シリンダ8のストローク長さの間、スライド6が下死点に停留する。」 オ 段落【0020】 「【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、スライドを下死点に停留させることが出来るので、コイニング加工の精度を向上し、製品の仕上がりが綺麗で、均一になる。また、スライドの左右の傾きを補正してプレス加工が出来るので、加工精度をさらに向上させることが出来る。」 カ ここで、図面の第1図を参照すると、コネクチングロッド7の下端には、部分球体を具備した球面継手部が設けられているのが見て取れる。 また、摘記事項イの「スライド6とベッド4上面に据え付けたボルスタ9との間に図示していない金型を設置してプレス加工を行う。」の記載から、スライド6とボルスタ9の間には金型が設けられていることは明らかである。そして、プレスにおいて、スライドに上金型が取着され、ボルスタに下金型が取着されることは技術常識である。 さらに、図面の図1を参照することにより、油圧シリンダ8がコネクチングロッド7とスライド6との間に配置されているのが見て取れる。また、図面の図3を参照すると、Qのラインが一般のプレス機械のスライドモーションであるところ、Pのラインが油圧シリンダ8を備えたプレス機械のスライドモーションであり、PとQのラインの差から、プレスの全ストローク量のうちの殆どの部分がクランク軸5の回転によりおこなわれ、残りの僅かなストローク部分が油圧シリンダ8によりおこなわれていることは明らかである。 キ 刊行物1記載の発明 上記アないしオの摘記事項、及びカの認定事項より、刊行物1には、次の発明が記載されていると認める。 「スライド6をボルスタ9との間にある金型によりプレス加工を行うよう昇降駆動させるクランク軸5及びコネクチングロッド7を備えて、前記スライド6が、部分球体を具備した球面継手部を介して、クランク軸5の偏心部に連結したコネクチングロッド7に接続され、前記スライド6に取着された上金型と、前記ボルスタ9に取着された下金型との間で、製品を精度よくコイニング加工する下死点停留機構内蔵プレスにおいて、 前記コネクチングロッド7とスライド6との間に、油圧シリンダ8を配置し、 プレスの全ストローク量のうちの殆どの部分が前記クランク軸5の回転によりおこなわれ、残りの僅かなストローク部分が前記油圧シリンダ8によりおこなわれるよう構成されており、 前記油圧シリンダ8が、前記クランク軸5のクランク角度180度少し前で、下シリンダ室14の圧力を上げ、かつ、コネクチングロッド7が下死点を超えて上昇すると、ピストン11のストローク長さだけスライド6を下死点に停留させる下死点停留機構内蔵プレス。」(以下「刊行物1記載の発明」という。) (3) 対比 補正発明と刊行物1記載の発明とを対比する。 刊行物1記載の発明の「スライド6」、「ボルスタ9」、「クランク軸5及びコネクチングロッド7」は、それぞれ、補正発明の「スライド」、「ボルスター」、「偏心機構」にそれぞれ相当する。 刊行物1記載の発明の「昇降駆動」は、補正発明の「昇降動作」に相当する。したがって、刊行物1記載の発明の「スライド6をボルスタ9との間にある金型によりプレス加工を行うよう昇降駆動させる」ことは、補正発明の「スライドをボルスターに対して相対的に昇降動作させる」ことに相当する。 刊行物1記載の発明の「コネクチングロッド7」は、補正発明の「連接部材」に相当する。したがって、刊行物1記載の発明の「クランク軸5の偏心部に連結したコネクチングロッド7」は、補正発明の「偏心機構の連接部材側」に相当する。 刊行物1記載の発明の「製品を精度よくコイニング加工する」ことは、「被加工物をプレス加工する」という限りで、補正発明の「スプリングバックを生じる被加工物を絞り加工する」ことと共通する。 刊行物1記載の発明の「下死点停留機構内蔵プレス」は、油圧シリンダ8とクランク軸5とを含んでスライド6を駆動するものであるから、補正発明の「ハイブリッド型プレス機」に相当する。 刊行物1記載の発明の「油圧シリンダ8」は、補正発明の「油圧シリンダ機構」に相当する。 刊行物1記載の発明の「油圧シリンダ8が、クランク軸5のクランク角度180度少し前で、下シリンダ室14の圧力を上げ」ることは、補正発明の「油圧シリンダ機構の作動が、連接部材の下端が最下端位置になる手前で開始される」ことに相当する。また、刊行物1記載の発明は、「下死点停留機構内蔵プレス」であるから、刊行物1記載の発明の「コネクチングロッド7が下死点を超えて上昇すると、ピストン11のストローク長さだけスライド6を下死点に停留させる」ことは、「連接部材の下端が最下端位置まで下降するのと、スライドが最も下方まで下降するのと、同時あるいは一部重複するような時間的タイミングでおこなわれるように、駆動装置と油圧シリンダ機構を制御装置が制御する」と言えるものであることは明らかである。 以上の点を考慮すると、両者は、次の「ハイブリッド型プレス機」で一致している。 「スライドをボルスターに対して相対的に昇降動作させる偏心機構を備えて、前記スライドが、部分球体を具備した球面継手部を介して、偏心機構の連接部材側に接続され、前記スライドに取着された上金型と、前記ボルスターに取着された下金型との間で、被加工物をプレス加工するプレス機において、 前記連接部材とスライドとの間に、油圧シリンダ機構を配置し、 本プレス機の全ストローク量のうちの殆どの部分が前記偏心機構によりおこなわれ、残りの僅かなストローク部分が前記油圧シリンダ機構によりおこなわれるよう構成されており、 前期油圧シリンダ機構の作動が、前期連接部材の下端が最下端位置になる手前で開始されるように、かつ、前記連接部材の下端が最下端位置まで下降するのと、前記スライドが最も下方まで下降するのと、同時あるいは一部重複するような時間的タイミングでおこなわれるように、前記駆動装置と前記油圧シリンダ機構を制御装置が制御するハイブリッド型プレス機。」 そして、両者は、次の点で相違している。 ア <相違点1> プレス機の構造に関して、補正発明では、「昇降動作に際し昇降動作する部材の重力をゼロ又は低減するためのバランサー」を備えると特定しているのに対し、刊行物1記載の発明では、バランサーの存在について不明な点。 イ <相違点2> 加工される被加工物に関して、補正発明では、「スプリングバックを生じる被加工物を絞り加工する」ものであると特定しているのに対し、刊行物1記載の発明では、製品を精度よくコイニング加工するものである点。 ウ <相違点3> プレス機の駆動に関して、補正発明では、「駆動装置により駆動される偏心機構の連接部材が最も下がった状態から、油圧シリンダ機構がさらにスライドを該油圧シリンダ機構の下死点まで押し下げるよう構成されて」いるものであると特定しているのに対して、刊行物1記載の発明では、下死点停留するものである点。 (4) 相違点の検討 上記各相違点について、以下検討する。 ア <相違点1>について 昇降動作を有する部材に対してその重力をゼロ又は低減するようにバランサーを設けることは例示するまでもなく技術常識であって、プレス機においても、バランサーは通常設けられるものである。 したがって、刊行物1記載の発明においても、昇降動作に際し昇降動作する部材の重力をゼロ又は低減するためのバランサーを備えるようにすることは、当業者にとって格別困難なことではない。 イ <相違点2>について 被加工物を絞り加工するプレスは従来周知であり、また、絞り加工の際にスプリングバックが問題になることも、例えば、特許第2747650号公報(段落【0029】参照。)、特許第3420798号公報(段落【0003】、【0004】、【0007】参照。)、特開平7-155853号公報(段落【0002】?【0003】参照。)にそれぞれ示されているように従来周知の事項である。そして、刊行物1記載の発明における下死点停留機構内蔵プレスを、絞り加工に適用できないとする阻害要因も見当たらないことからすれば、刊行物1記載の発明において、スプリングバックを生じる被加工物を絞り加工するのに用いることは、当業者にとって格別困難なことではない。 ウ <相違点3>について 刊行物1記載の発明は、下死点停留機構内蔵プレス、すなわち、駆動装置により駆動される偏心機構の連接部材が最も下がった状態にスライドが停留するものであって、駆動装置により駆動される偏心機構の連接部材が最も下がった状態から、油圧シリンダ機構がさらにスライドを該油圧シリンダ機構の下死点まで押し下げるよう構成されているものではない。しかしながら、駆動装置により駆動される偏心機構の連接部材が最も下がった状態から、油圧シリンダ機構がさらにスライドを該油圧シリンダ機構の下死点まで押し下げるよう構成することは、平成24年1月12日付け拒絶理由で引用した刊行物である特開2002-219600号公報に記載されているように従来知られていた事項であるし、また、ボルスターの高さを調整することにより、偏心機構の連接部材が最も下がった状態を、被加工物を絞り加工してもスプリングバックを減少させる程度に調整することにより、絞り加工によりスプリングバックを減少させることは可能であることから、絞り加工により被加工物を加工する際に、スライドのもっとも下がった状態を、油圧シリンダ機構がさらにスライドを該油圧シリンダ機構の下死点まで押し下げるよう構成しても、そのことによる特別な作用ないし効果が格別見当たらず、結局、上記相違点は、単なる設計的事項に過ぎないと考えざるをえない。 エ 補正発明の作用効果について スプリングバック量を減少させるという効果については、上記「<相違点3>について」で言及したとおりであり、その他に、補正発明が奏する作用効果は、刊行物1記載の発明及び上記従来周知の事項から当業者が予測できる程度のものであって格別のものではない。 (5)まとめ したがって、補正発明は、刊行物1記載の発明及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 むすび 以上のとおりであるので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1ないし6に係る発明は、平成24年3月14日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び平成23年11月25日付け手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認めるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1の(1)の補正前の請求項1に示したとおりである。 2 刊行物記載事項 これに対して、原査定の平成24年1月12日付けの拒絶の理由に引用された特開2002-219600号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。 ア 段落【0001】 「【発明の属する技術分野】本発明は、粉末成形等に使用するプレス装置に関するもので、特にその工程をプログラム駆動制御するコンピュータ数値制御(以下「CNC」と称す)プレス装置に関するものである。」 イ 段落【0007】?【0008】 「【発明の実施の形態】本発明は、予め製造加工する工程順序や、加工製作して得るべき物質の加工寸法等を数値的にコンピュータに記憶させておいたプログラムに従って駆動するプレス装置である。その一例を図1の断面概略図を参照して説明する。本発明のCNCプレス装置1は、上・下方向にサーボモ-タの駆動で所定位置の間を上昇せしめられたり、下降せしめられるとともに、所定の位置に所定時間停止させられるよう、下方ガイド2内を滑動する下方スライダー3の上面に配した下方ラム4を介してその上部にダイス5が装着されてなり、又、これと同軸に相対向して上方に配されて、上・下方に向けて昇降駆動される上方スライダー6の下面に配した上方ラム7を介してその下部に上パンチ8が装着されて設けられている。なお、下パンチ9は、前記ダイス5の下方でダイス5の空間部Sに出入可能で、かつ緊密に係合し得るよう位置して固定板13に固定されている。 そして、前記上方ラム7は上方ガイド10内を上下に滑動する上方スライダー6の下部に配設され、該上方スライダー6の上端はリンク機構11を介してクランク軸12に連結され、そして該クランク軸12は駆動モータMに連設されている。そしてこの駆動モータMは、コンピュータCに記憶されているプログラムに沿って駆動、停止制御するサーボモータよりなっている。」 ウ 段落【0009】 「かくして、コンピュータCのプログラムにより、下方ラム4を上方に向け上昇せしめて、ダイス5と下パンチ9との間に空間部Sが形成されるよう所定位置に停止保持せしめる。続いて固定板13に配設した下パンチ9とダイス5で囲繞された前記空間部Sに所望の成形用の粉末材料Zを投与するとともに、上方より下方に向けて駆動される上方ラム7の下部に取り付けた上パンチ8が、前記所定位置に停止して保持せしめられているダイス5の空間部Sに向け上方より係合せしめ、そして更に、ダイス5に投与された所望の成形用の粉末材料Zを加圧成形するよう、上・下のラム7、4を下方に向け駆動せしめるようになっているクランク式プレス装置である。・・・」 エ 段落【0010】 「そして、本発明のCNCプレス装置1は、前記上方ラム7の下部に配する上パンチ8を、前記上方ラム7の内部に油圧シリンダー21を設けて、該油圧シリンダー21に油圧によって作動する油圧ピストン22を配し、該油圧ピストン22の外方に延びる先端に、上パンチプレート23を介して装着せしめたものである。そして、前記油圧シリンダー21には油圧供給口21aと連結して、油圧サーボ弁24が配された油圧供給管25が油圧ユニット26に連通して設けられている。」 オ 段落【0013】?【0016】 「【実施例】上記した如き構造よりなる本発明のコンピュータ数値制御プレス装置1は以下の如き態様で運転される。これを、クランク軸12の角度と、●上パンチ8(上方ラム7)の昇降位置との関係(直線表示)、●ダイス5(下方ラム4)の昇降位置との関係(一点鎖線表示)、及び●下パンチ9の状態位置(点線表示)等をを図示した図2の運転作動線図を参照して説明する。なお、図2の線図で横軸はクランク軸12のクランク部が天頂に位置した点を0度し、それを基準にした角度(度)を示し、縦軸は上方ラム7の下死点での上パンチ8の位置を基準0として、相対的ストローク値を示したものである。 先ず、下パンチ9を固定板13に所定位置にして固定配置した状態のもとで、下方ラム2を上昇駆動せしめて、所定の位置に停止し、これに装着したダイス5を所定位置(イ)に固定保持する。一方、コンピュータCに記憶されたプログラムに従ってサーボモータよりなる駆動モータMを回転駆動せしめ、これによりクランク軸12が回転しリンク機構11を介して上方ガイド10内で上方スライダー6が下方に向け下降し、そして上方スライダー6の下端に配設された上方ラム7(上パンチ8)は図2の線(い)に従って下降する。 上記した上パンチ8(上方ラム7)の下降運転中、プログラムに従い、前記した所定位置に固定保持されたダイス5には下パンチ9とによって形成されている空間部Sに、成形せしめる加工設計に応じて、所定の量の例えば粉末材料Zが投与される。そして、前記上パンチ8(上方ラム7)の線(い)に沿った更なる下降により、その先端に配した上パンチ8は、点(ろ)でダイス5の空間部Sに投与して余盛り状態にある粉末状材料Zに当接し、これを加圧し圧縮せしめる。そして、上パンチ8(上方ラム7)の線(い)に沿った更なる下降により、クランク軸12のクランク部の位置が最下点に達した位置で、コンピュータCに設定記憶せしめたプログラムにより上方ラム7を駆動するサーボモータよりなる駆動モータMを停止する。 かくして、前記上方ラム7の下方への移動で下死点Dに達して、サーボモータよりなる駆動モータMの駆動停止で上方スライダー6の滑動を停止せしめ、上方ラム7を下死点Dで停止保持せしめる。これと同時にコンピュータCは、下死点Dの到達の信号を油圧サーボ弁24に送信する。そして油圧サーボ弁24をプログラムに沿って作動せしめて、油圧ユニット26より油圧供給配管25を介して、上方ラム7に配した油圧シリンダー21内に油圧を供給する。その結果油圧シリンダー21に配した油圧ピストン22に油圧が負荷されて、油圧ピストン22の先端に配した上パンチ8は線(は)に沿ってが下方に駆動する。その結果、上パンチ8はダイス5に充填した粉末状材料Zを更なる押圧力で加圧圧縮して稠密状態にして所望形状に成形する。なお、加圧位置はリニアスケール14よりフィードバック制御される。一方この間ダイス5は、上パンチ8の下方への押圧とともに幾分下方の位置(ロ)へと下降移動せしめて、上パンチ8の押接を高める。」 カ 段落【0020】 「【発明の効果】本発明のCNCプレス装置は、上記した形態で実施され、以下に記載する如き効果を奏する。上方ラム内に油圧シリンダーを配設して、最終プレスを強固な油圧プレスで行うようにしたので、プレスのずれや斑がなく均一に行うことが出来る。しかも油圧シリンダーが上方ラム内部に配されていて、全行程が油圧式であるCNCプレスと比較して、ストロークが短く限定され、かつスピードが低く抑えられているので(早い移動行程はサーボモータが受け持っている)、油圧ユニットの容量を低減することが可能となり、設備費、ランニングコストが安価となる。」 キ ここで、図面の図1を参照すると、固定板13上には下パンチ9が取着され、上パンチプレート23には上パンチ8が取着されているのが見て取れる。クランク軸12が上パンチプレート23を固定板13に対して相対的に昇降動作させているのは明らかである。 上方スライダー6の上端部を見ると、両端を支持された軸が取り付けられているのが見て取れる。この軸とリンク機構11との関係から、リンク機構11の下端と上方スライダー6とは継手部を介して連結されていることは明らかである。したがって、リンク機構11と上パンチプレート23とは、継手部を介して間接的に接続されている。 図面の図2を参照すると、コンピュータ数値制御プレス装置1の運転作動線図が示されている。同図において、上パンチ8の作動が(い)(ろ)(は)(に)で示されており、図の左に「上方ラムストローク125」、「上パンチストロ-ク20」と記載されていることから、コンピュータ数値制御プレス装置1の全ストローク量のうちの殆どの部分がクランク軸12によりおこなわれ、残りの僅かなストローク部分が油圧シリンダー21と油圧ピストン22の間でおこなわれているように構成されていることは明らかである。 ク 刊行物2記載の発明 上記アないしカの摘記事項、及びキの認定事項より、刊行物2には、次の発明が記載されていると認める。 「上パンチプレート23を固定板13に対して相対的に昇降動作させるクランク軸12及びリンク機構11を備え、前記上パンチプレート23が、継手部を介して、クランク軸12に連結されたリンク機構11に間接的に接続され、上パンチプレート23に取着された上パンチ8により、前記固定板13に取着された下パンチ9とダイス5で囲繞された空間部Sに投与された所望の成形用の粉末材料Zを加圧成形するコンピュータ数値制御プレス装置1において、 前記リンク機構11と上パンチプレート23との間の上方ラム7内に、油圧シリンダー21及び油圧ピストン22を配置し、駆動モータMにより駆動されるクランク軸12に連結されたリンク機構11が下死点Dで停止保持せしめられ、油圧シリンダ-21に油圧を供給することにより、上パンチ8をさらに下方に駆動するよう構成されており、 本プレス装置1の全ストローク量のうちの殆どの部分が前記クランク軸12によりおこなわれ、残りの僅かなストローク部分が前記油圧シリンダー21と油圧ピストン22との間によりおこなわれるよう構成されている、コンピュータ数値制御プレス装置1。」(以下、「刊行物2記載の発明」という。) 3 対比 本願発明と刊行物2記載の発明とを対比すると、刊行物2記載の発明における「上パンチプレート23」、「固定板13」、「クランク軸12及びリンク機構11」は、それぞれ、本願発明の「スライド」、「ボルスター」、「偏心機構」に相当する。 刊行物2記載の発明における「リンク機構11」は、本願発明の「連接部材」に相当する。したがって、刊行物2記載の発明の「クランク軸12に連結されたリンク機構11に間接的に接続され」ることは、本願発明の「偏心機構の連接部材側に接続され」ることに相当する。 刊行物2記載の発明の「上パンチ8」は、本願発明の「上金型」に相当する。また、刊行物2記載の発明の「固定板13に取着された下パンチ9とダイス5」は、合わせて、本願発明の「下金型」に相当する。さらに、刊行物2記載の発明の「所望の成形用の粉末材料Zを加圧成形する」ことは、「被加工物をプレス成形する」という限りで、本願発明の「スプリングバックを生じる被加工物を絞り加工する」ことと共通する。したがって、刊行物2記載の発明の「上パンチプレート23に取着された上パンチ8により、前記固定板13に取着された下パンチ9とダイス5で囲繞された空間部Sに投与された所望の成形用の粉末材料Zを加圧成形する」ことは、「スライドに取着された上金型と、ボルスター側に設けられた下金型との間で、被加工物をプレス成形する」という限りで、本願発明の「スライドに取着された上金型と、ボルスターに取着された下金型との間で、スプリングバックを生じる被加工物を絞り加工する」と共通する。 刊行物2記載の発明の「油圧シリンダー21及び油圧ピストン22」は、合わせて、本願発明の「油圧シリンダー機構」に相当する。したがって、刊行物2記載の発明の「リンク機構11と上パンチプレート23との間の上方ラム7内に、油圧シリンダー21及び油圧ピストン22を配置」することは、本願発明の「連接部材とスライドとの間に、油圧シリンダ機構を配置」することに相当する。また、刊行物2記載の発明の「駆動モータM」は、本願発明の「駆動装置」に相当する。したがって、刊行物2記載の発明の「駆動モータMにより駆動されるクランク軸12に連結されたリンク機構11が下死点Dで停止保持せしめられ、油圧シリンダ-21に油圧を供給することにより、上パンチ8をさらに下方に駆動するよう構成」されることは、本願発明の「駆動装置により駆動される偏心機構の連接部材が最も下がった状態から、油圧シリンダ機構がさらにスライドを該油圧シリンダ機構の下死点まで押し下げるよう構成」されることに相当する。 刊行物2記載の発明の「コンピュータ数値制御プレス装置1」は、「プレス機」と言えるものである。したがって、刊行物2記載の発明の「本プレス装置1の全ストローク量のうちの殆どの部分が前記クランク軸12によりおこなわれ、残りの僅かなストローク部分が前記油圧シリンダー21と油圧ピストン22との間によりおこなわれるよう構成」されることは、本願発明の「本プレス機の全ストローク量のうちの殆どの部分が偏心機構によりおこなわれ、残りの僅かなストローク部分が油圧シリンダ機構によりおこなわれるよう構成」されることに相当する。 以上の点を考慮すると、両者は、次の「ハイブリッド型プレス機」で一致している。 <一致点> 「スライドをボルスターに対して相対的に昇降動作させる偏心機構を備えて、前記スライドが、継手部を介して、偏心機構の連接部材側に接続され、前記スライドに取着された上金型と、前記ボルスター側に設けられた下金型との間で、被加工物をプレス成形するプレス機において、 前記連接部材とスライドとの間に、油圧シリンダ機構を配置し、駆動装置により駆動される前記偏心機構の連接部材が最も下がった状態から、前記油圧シリンダ機構がさらにスライドを該油圧シリンダ機構の下死点まで押し下げるよう構成されており、 本プレス機の全ストローク量のうちの殆どの部分が前記偏心機構によりおこなわれ、残りの僅かなストローク部分が前記油圧シリンダ機構によりおこなわれるよう構成されている、プレス機。」 そして、両者は、次の点で相違している。 ア <相違点4> プレス機の構造に関して、本願発明では、「昇降動作に際し昇降動作する部材の重力をゼロ又は低減するためのバランサー」を備えると特定しているのに対し、刊行物2記載の発明では、バランサーの存在について不明な点。 イ <相違点5> 継手部の構造に関して、本願発明では、「部分球体を具備した球面継手部」であるのに対して、刊行物2記載の発明では、球面継手部ではない点。 ウ <相違点6> 下金型に関して、本願発明では、「ボルスターに取着された」ものであるのに対して、刊行物2記載の発明では、下金型の一部を構成する下パンチ9はボルスターに相当する固定板13に取着されているものの、下金型の残りの一部を構成するダイス5は固定板13に取着されたものではない点。 エ <相違点7> 加工される被加工物に関して、本願発明では、「スプリングバックを生じる被加工物を絞り加工する」ものであると特定しているのに対し、刊行物2記載の発明では、所望の成形用の粉末材料Zを加圧成形するものである点。 4 相違点の検討 ア <相違点4>について <相違点4>の判断については、第2、2(4)アに示す<相違点1>についての判断と同様である。 イ <相違点5>について スライドと偏心機構の連接部材側とを接続する継手部を部分球面を具備した球面継手部とすることは、平成24年1月12日付けの拒絶理由において引用した特開2004-243377号公報(図面の図3参照。)や拒絶査定において引用した特開昭63-97400号公報(図面の第1図参照。)に記載されているように従来周知の事項であり、刊行物2記載の発明において継手部として従来周知の部分球体を具備した球面継手部を適用できないとする阻害要因も見当たらないことからすれば、刊行物2記載の発明において、継手部を部分球体を具備した球面継手部とすることは、当業者が容易になし得たものである。 ウ <相違点6>について 金型として一体のものは例示するまでもなく従来周知の事項であることからすれば、刊行物2記載の発明において、下金型の一部を構成するダイス5も、下パンチ9と一体の部材とし、その結果、ダイス5もボルスターに相当する固定板13に取着する構造とすることは、当業者にとって格別困難なことではない。 エ <相違点7>について 被加工物を絞り加工するプレスは従来周知であり、また、絞り加工の際にスプリングバックが問題になることも、例えば、特許第2747650号公報(段落【0029】参照。)、特許第3420798号公報(段落【0003】、【0004】、【0007】参照。)、特開平7-155853号公報(段落【0002】?【0003】参照。)にそれぞれ示されているように従来周知の事項である。そして、刊行物2記載の発明におけるコンピュータ数値制御プレス装置1を、絞り加工に適用できないとする阻害要因も見当たらないことからすれば、刊行物2記載の発明において、スプリングバックを生じる被加工物を絞り加工するのに用いることは、当業者にとって格別困難なことではない。 オ 作用ないし効果について スプリングバック量を減少させるという効果については、刊行物2記載の発明が、駆動モータMにより駆動されるクランク軸12に連結されたリンク機構11が下死点Dで停止保持せしめられ、油圧シリンダ-21に油圧を供給することにより、上パンチ8をさらに下方に駆動するよう構成されているコンピュータ数値制御プレス装置であるから、当該プレス装置をスプリングバックを生じる被加工物の絞り加工に適用すれば、スプリングバック量も当然減少させることになるものである。そして、その他に、本願発明が奏する作用効果は、刊行物2記載の発明及び上記従来周知の事項から当業者が予測できる程度のものであって格別のものではない。 5 むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物2記載の発明及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、この出願の請求項2ないし6に係る発明について判断するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-03-12 |
結審通知日 | 2013-03-19 |
審決日 | 2013-04-03 |
出願番号 | 特願2010-67322(P2010-67322) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B30B)
P 1 8・ 575- Z (B30B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 村山 睦 |
特許庁審判長 |
野村 亨 |
特許庁審判官 |
長屋 陽二郎 刈間 宏信 |
発明の名称 | ハイブリッド型プレス機 |
代理人 | 特許業務法人 有古特許事務所 |